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殺人鬼と探偵の視点から殺人事件を描くゲーム『プロジェクトコード “M”』はゴリゴリに裏社会を描く“サグすぎる”作品だった。体験版のプレイレポートをお届け

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 国内のゲーム開発レーベルNOVECT(ノベクト)は推理ゲーム『プロジェクトコード“M”』を開発中だ。

 ゲームの発売時期は未定となっており、対応プラットフォームはPC(Steam)、Nintendo Switch、PS4を予定している。

 この度、2022年8月に開催された国内最大級のインディーゲームイベント「BitSummit X-Roads」向けに制作された本作のデモ版をプレイする機会を得た。体験版では本作の特徴である「殺人鬼と探偵」“ふたつの視点”を同時に扱う持ち味は体験できなかったものの、体験版からは本作の「徹底して“裏社会”を舞台とする」作風を確認することができた。

 本記事では、ドラッグやプッシャー(売人)、カフェ型の風俗店、裏家業の具体的なエピソードを大気として纏い、無骨な冒頭を収録した体験版の内容をお伝えする。

 まず、本作の概要をおさらいしておこう。

 『プロジェクトコード “M”』は殺人鬼と探偵の視点から殺人事件を描く「殺し、解く 推理アドベンチャー」ゲームだ。

 プレイヤーは警察の許可なしで死体清掃を行う掃除屋の青年「都見人」と何故か姿を消していた名の知れた殺人鬼“鬼蛇”のふたりの視点から殺人事件を体験することとなる。

 青年「都見人」として事件を調査する「探偵パート」では伝統的なポイント&クリック型のアドベンチャーとなっている。体験版では「探偵パート」とドラッグアビューザーの登場人物マリアンヌと共に探索で本作の基本システムや世界観を味わえる「日常パート」が収録されていた。

 ふたつのモードに加えて、正品版では殺人鬼“鬼蛇”とし完全犯罪を遂行する「殺人パート」が実装されるという。トレーラーを参照すると「殺人パート」ではポイント&クリック型ではない、独自のゲームシステムを採用しているようだ。

 体験版の「探偵パート」は殺人鬼“鬼蛇”による殺人シーンで幕を開ける。これにより複数の視点から物語を描くゲームシステムは、ほんの僅かながら味わうことができた。このシーンでは殺人鬼の「悪人を暴力で成敗する」という思想、殺人鬼が抱える「希少性の高いドラッグ“M”」との因縁が描かれた。

 本企画の見どころのひとつである「殺人パート」の詳細は今後の続報に期待したいところだが、血みどろの殺人シーンはシナリオの無骨なテンションを露わにし、享楽的ではないかたちで裏社会を描く本作の態度表明となっていた。

 そうして殺人シーンを終えれば、探偵パートが正式に開始する。ここでは主人公の青年「都見人」が上司である全身防護服の人物「流雲」と共にあらゆる仕事を全うする死体清掃業者として殺人鬼“鬼蛇”が冒頭で殺した死体を調査しながら掃除していく。

 「都見人」は非合法の死体清掃業者であるものの「探偵」として調査を行う。体験版の時点では殺人鬼と対立するそぶりは見えないものの、対立し得るふたりをプレイヤーが同時に操作する設定は今後の展開を煙に巻き、その不確かさによって期待をそそられる。

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 ゲームシステムは前述のとおりに伝統的なポイント&クリックアドベンチャーだが、場面に応じてキャラ絵が細々と動く演出と動的なグラフィックUIのテクノ系デザインにより視覚的な心地よさとスタイリッシュな作品のムード、手触りを演出している。また、主人公の「都見人」の明るい人柄と淡々と辛辣な発言をする「流雲」による掛け合いは現代のアニメやゲームらしいボケとツッコミ、ノリツッコミを随所に交えており、コミカルな軽快さも持ち合わせていた。

 同時に会話の内容は、リアルな死体清掃の小話裏家業にまつわるエピソードトークで彩られ、ダークな設定の緊張感とコミカルな会話のシームレスな反復が会話やキャラクターの癖になる魅力を描いている。シリアスな殺人シーンで幕を開け、一定の緊張感を携えつつ「クスっと笑える」コメディーもチラ見せするふり幅も本作の魅力のひとつと言える。

 このほかに、グリッチ風のシンセを使用したBGMやワンポイントのお洒落が光る凛としたキャラクターデザインも、本作の独自の世界観に貢献しているだろう。

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防護服を脱いだ「流雲」

 探索パートにより「殺人鬼と探偵の視点から殺人事件を描く」本作の骨子は理解したつもりであった。しかし、日常パートは「日常」という穏健な言葉に隠された牙を露わにし、本作のスタンスを強烈に知らしめるものであった。

 日常パートはトレーラーにも登場する女性キャラクター「マリアンヌ」と共に5つのマップを探索し、6つの「BitSummitくん」をみつけるミニゲームであり、形式としてはポイント&クリックアドベンチャーとしての本作のゲームシステムを補足的に説明するものである。

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 プレイヤーが目覚めたアパートの一室は、一見こじんまりとしているもののお洒落な一室だ。しかし、棚の上には日本ではあまり見ないボング(主に大麻を吸引する際に用いる水パイプ)や陳列された咳止めシロップの瓶、不自然に室内で育てられた植物、錠剤が視界に入る。各アイテムをチェックすると「ハッパ」や「ケミカル」といったワードが咲き乱れた。

 さらには他のマップに繰り出すと吉原近辺のロケーションが用意されており、チェックすると今後本編に関わるであろう「コロナ禍以降に吉原に参入した危険な新勢力」やカフェで行われる“自由恋愛”に纏わる小話が展開する。それらの単語は小話としてのディテールを持ち出し、王道かつステレオタイプな裏社会以上に、ハラハラしたリアリティをゲームプレイに充満させる。さながらドラッグをディールする様を歌う「ハスラーラップ」をアドベンチャーゲームに変換した様なプレイフィールだ。

 探偵パートでも「M」と呼ばれるドラッグやそれに纏わるプッシャー(売人)という単語が登場した。かさねて日常パートで過剰に登場する「畳みかけるようなダークな単語」の連続は、本作が「裏社会」やクリミナルな要素を当然の出来事として描く鮮明な意思表示と解釈できるだろう。

 いっぽうで着目したいのは、連発されるダークな単語たちが浅草での「雷門」舞台設定に纏わる小話と共に提供され、ゲームプレイはあくまでも淡々とした作風を維持している点だ。

 ドラッグや裏社会といったモチーフのみでは、享楽的にそれらを描く90年代のバッドテイスト(悪趣味)文化を想起させる。ゲームにおいてもドラッグを携えてキッチュかつポップに「どうしようもなさ」を提示する作品は少なくないが、本作を散々やりつくされたカテゴリーに区分することは早計だろう。

 本作ではあくまでも作品の世界観を補強するガジェットであり、描き出す世界の背景として用いているこれにより、裏社会に纏わるモチーフの数々は悪趣味の快楽ではなく、社会の暗部という本作の前提を屈強なものとし、作品の“なまなましさ”を実直に高めている。

 こうして立ち上がる重厚な世界を背に、本作はキャラクターたちのドラマを核として成立する作品となっているのだ。正品版ではこの「高解像度のダークさ」を踏み台に「殺人鬼と探偵」のふたつの視点を活用したテクニカルなシナリオに期待して止まない。

 興味がある読者は、NOVECTの公式Twitterをチェックして『プロジェクトコード “M”』の続報を待とう。

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編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。

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