ワールドワイドで考えると“携帯ゲーム機”とは売り出せない?
西川:
でもね、そのキーワードはね。ドリキンさんならわかると思うけど、使えないんですよね。だって、ワールドワイドで携帯ゲーム機ってキーワードは使っちゃいけないんですよ。
ドリキン:
もうNGワードですよね。
西川:
そう。もう放送コードに引っかかるんじゃないかってぐらいのNGワードで。ゲーム業界ではね。
ドリキン:
「おまえ携帯ゲーム機作ってるの!?」みたいな(笑)。
西川:
そうそう。「だっせー! もうお前とクチきかねー!」みたいな。翌日から机に花瓶がおいてある。そのぐらいのいじめにあうくらい、携帯ゲーム機っていうキーワードは海外では出せないので。
ドリキン:
ちょっと、「おまえどうかしてるぜ!」ってぐらいですよね。日本だと「PS Vita」とか「3DS」が売れているから、むしろ「据え置き機?」って。そこだけ逆転しているんですよね。
西川:
そう。あのねぇ、日本はすごいですよ、「PS Vita」と「3DS」が、週刊ゲームソフト売上ランキングのトップ10に入ってくるので、それはアメリカとかヨーロッパから見ると、「日本はどうかしてるぜ!」っていう感じになるんですよ。
ドリキン:
ベストバイにポータブルゲーム機の売り場はもうないもんね。
西川:
で、世界の人口比率から考えれば日本はたかだか1億人で──まぁ、世界的に見れば1億人は多いんですけど──とはいえ、アメリカやヨーロッパ全体の方が市場規模としては大きいので、自動車業界とかもそうですけど、どうしてもあっちに向けたキーメッセージを打たざるを得ないんですよ。
ドリキン:
これは良い悪いの問題ではないんですよね。
西川:
文化の違いですよね。
ドリキン:
単にワールドワイドに、できるだけパイのデカいところでビジネスをしたいと思った限りは、そこに合わせるしかないから。
西川:
で、メッセージ変えられないですからね。日本では、「これが任天堂が考える次世代携帯ゲーム機です」って、「Nintendo Switch」を出しておいて、アメリカの発表会では「これは据え置きゲーム機です」っていう、ダブルスタンダードは打てないわけですから。
ドリキン:
“スイッチ”だからいいんじゃないかっていう(笑)。
西川:
まぁね。それはいいアイデアだな(笑)。「各国で言い方を変えているのは、マーケティングキーワードの“スイッチ”だからです!」みたいなね。
ドリキン:
そうそう。
3DS学園、PS Vita学園の卒業生の進学先が「スイッチ学園」?
西川:
とあるゲームスタジオの偉い人と会場で雑談しているときに、お互い「そうそう!」って言い合って笑いあった話題があって。
いま日本には「3DS」と「PS Vita」ていう仮想の学園があって、そこの在校生が、いま3年生を迎えているわけですよ。つまり成熟期に入っているわけですね。「3DS」も「PS Vita」も2011年とか2012年ぐらいに出ているので、もういま5年生、6年生っていうか、卒業時期なわけですよ。「俺たちもうすぐ卒業だな。部活もやめたし」みたいな。そんな状況で。「お前ら進路どうする?」って話し合うわけですよ。そうなったときに「いやぁ、いまPS4大学とXbox One大学しかなくて、俺たちはどっちかと言えば、携帯系大学に行きたいんだよなぁ」みたいな。「いい大学ないかなぁ」って言ったときに、任天堂が“スイッチ学園”を出してきて、「これって、俺たちが大好きな携帯系ができるんじゃね?」みたいな。
そんな感じで日本では、意外と「Nintendo Switch」って、「3DS」と「PS Vita」ユーザー層の卒業生がバンバン入学するんじゃないかなっていう。そんな気がするんですよね。
ドリキン:
マーケティングとして表立って謳わなくても、結果としてユーザーが、これはポータブルゲーム機としての次世代機として受け入れて。
西川:
そうそうそう。
ドリキン:
それはあり得ると思いますね。
西川:
で、あれじゃない? 任天堂のプレゼンテーションでもあった通り、「Nintendo Switch」が8台ローカルでつながってみたいな。あれなんて『モンハン』だとか、ああいうタイトルに打ってつけなわけでしょ。ローカルで集まってマルチプレイをやるっていうのは。
それを考えると、いまは「3DS」で『モンハン』が動いてますけど、これはもうね、絶対。カプコンの人は何も言いませんけど、『モンハン』はきっと「Nintendo Switch」で出るでしょうから、『モンハン』層もとりこめるし。みたいな。
ドリキン:
ボクとか善司さんとかは、「大画面がいいです」とか、「テレビにこだわってます」とかも、日本のマーケットで話していると、完全に変態じゃないですか(笑)。
西川:
マニアだよね。
ドリキン:
そうそう。松尾さんとかにしてみたらもう。お前ら変人だよと(笑)。
@mazzo:
キモイ人たちですよ(笑)。
ドリキン:
でもやっぱり、ワールドワイドのマーケットで見ると、そこが逆転しているっていうのは面白いですよね。
西川:
そうですね。なので、携帯ゲーム機として日本では受けるだろうけど、世界としては、世界に向けて任天堂が、これは据え置きゲーム機ですって言っちゃってて、その言葉を欧州・北米の人たちはその言葉を聞いたときに、「え、据え置きゲーム機なのになんなのこれ?」って映っちゃったのが、今回の株価急落の要因の1つではあるかなって気はしますよね。
“やりたいゲームが出れば、ハードは売れる”議論について
ドリキン:
コンテンツについて語らずに、あくまでもハードウェアのスペックで良し悪しを語っているんだけど、もちろん最終的にはゲームで。ましてや任天堂の最大の強みは結局どんなことを言っても、やりたいゲームが出れば──『Splatoon』が1本あればハードを牽引できるっていう意味では、そんな議論なんて、キラーコンテンツがあれば関係ないじゃん。っていうのはその通りなんだけど。
西川:
その通りなんだけど。っていうやつだよね。
ドリキン:
だったらむしろ、コンテンツだけ。
西川:
そうだよね。そこは読めた(笑)。
ドリキン:
結局ハードウェアを作ることが、Appleみたいにハードとソフトが一体化していることによって相乗効果を生み出していればいいんだけど、もうここに関しては、言い過ぎかもしれないけど、逆にその足かせになっているよね。
西川:
そうなんですよ。まず『ゼルダ』がキラーコンテンツっていうのはわかります。じゃあ『ゼルダ』って(ハードスペック的に)「Nintendo Switch」と「Wii U」じゃないと遊べないですか? っていうと、全然そうじゃないじゃないですか。あれってもう、いわゆるオープンワールドのアクションRPGなので。これは「PS4」じゃできないゲームかと言ったら、「できない!」と言い張る人はたぶんいないんじゃないかなと思いますよね。モーションコントローラーに相当するものは「PS4」にもあるし、ジャイロでどうこうとなったら、デュアルショック4もジャイロに対応してますから。で、『Splatoon2』も同じですよね。
ドリキン:
少なくとも、まったく同じ画質の、同じクオリティのものは出せて。
西川:
むしろ「PS4」の方が、それ以上のものが出せるかも知れないしね。
ドリキン:
そうそう。画質がいらないっていうならば、まったく同じものが出せて、ハードウェアを買わなくても、ソフトウェアだけ買えば5,000円ぐらいで遊べるのに、そのハードウェアの主張をしますかと言っちゃうと、なんか……。それはわかっているよ! っていうところになっちゃうので。
西川:
「Wii」のときはね。モーションコントローラーがライバルにはなかったので、「Wii」を買わなきゃと。『Wiiフィット』でボードの上に乗らなきゃ、とかいろいろ思ったわけですけど。今回のコンテンツはね。
ドリキン:
さっき言った通り、Appleと同じで、そのときはハードとソフトの融合で、他社にはない相乗効果を生み出していたから、もちろんハードにもすごく意味があったんだけど、今回はそこが、ハード側にあまり出せていない。結局いろいろミックスして、全部盛りにはしているけど……「Nintendo Switch」でしかできないことはほぼ見当たらない中で、全部盛りするけど、スペックは全部微妙ですっていうのは……。
西川:
それはあるね。
ドリキン:
ちょっと、メッセージとしては弱かったんじゃないかなと、厳しい意見を言わざるを得ないかなと。
西川:
そうなんですよ。ボクの記事なんかもそうだし、我々がこういう会話をするとみんな「ゲーム機はゲームが面白ければグラフィックスは関係ないし」とか「性能は関係ないし」とか「良いゲームが出ればそのハードを買うし」って言うんだけど、「そのゲームができるハードはもうありますけど」とかそういうところまで考えが及ぶと、いま任天堂がこのハードウェアを出さないといけない理由ってのが、今回のプレゼンではよくわからなかった、というのはありますね。
新しい『マリオ』はスゴイ楽しそうなんだけど、たぶん「PS4」でもあの『マリオ』はできるな、とか。モーションコントローラーに関しては「PS Move」や「Kinect」だったりもあるので、『ARMS』も、「PS Move」で同じものを作れってソニーのエンジニアに言ったら、たぶん作るよね。JAPANスタジオで作れるよね。なので、それを考えると、よっぽどうまいことやらないと大変だと思うし、優秀な投資家だからこそ、その辺も見てあの株価になったんだと思うんだよね。たぶんね。
ドリキン:
さらに、ここまで言ったらゼッタイ任天堂ファンの人に怒られそうというか、ボクも任天堂ファンですけど……。
西川:
ボクもですよ、全部持ってますし、『Splatoon』のゲーム大会も2回開いたし(笑)。
ドリキン:
今回“引っ越し”てわかったけど、「ニンテンドー3DS」の全種類持ってたから。「LL」の一番デカいやつとかも持ってましたから。Zボタンとかが付いただけのやつ。その前提で話すと、じゃあそのコンテンツですら、正直昔から比べると力は落ちていると思うんですよね。
だって、ボクは『ゼルダ』をやりたいがために、結局買わなかったですから、「Wii U」すら。『マリオ』もやりたいがために買わなかったですし。昔だったら『ゼルダ』のためだけでいいよと。それだけのためだけに買ってたんですけど、自分の中では超えられなかったから、そういう人たちも出てきているんじゃないかなと思う。
逆に言えば、この間『スーパーマリオ ラン』がスマホで出たじゃないですか。あれは、ボクは最初の印象がスゴく悪くて、ちょっと「これ本当に『マリオ』なの?」みたいなことを思ったんだけど、そのあと1,200円払ってやりこんだら、めっちゃよくできているんですよ。
西川:
そうですね。
ドリキン:
で、めっちゃ楽しいやりこみ要素もあって。「これはさすがに宮本茂だ!」と。どれくらい関わってるかは知らないですけど。でも「スゲーこだわり感じる!」と思って。ちゃんとした『マリオ』だと思ったんです。『マリオ』が本来持っている面白さがちゃんと生きて、いまの時代に合わせて進化しているよ、と。そこまで思ったけど、あんまりもうやってないんですよね。
西川:
さっき言った「面白いゲームが出たら、俺はハード買うし」っていうことを誰が言ってるかというと、我々ほど歳を取っているかはともかく、少なくとも20代後半以上みたいな。ある程度3~4万くらいのお金で、好きなものが買える層が言ってるんだよね。
で、もともと任天堂のゲームって、低年齢層から遊んでほしいゲームなわけで、その人たちのことを考えると、3万円プラス、ゲームは5,000円~1万円というのを、もう一度仕切り直しで買わせるっていうのはけっこう大変なことなんだよね。今回、互換性も全部なくなりますからね。「3DS」との互換も「Wii U」との互換もないですから。ユーザー数0からの再出発ですよ。
ドリキン:
やりたいゲームが出たら買うんです。って言ってる人の中でも、いざ“やりたいゲームが出たら買うのか?” っていうのがボクの中ではすごく懐疑的。