人気ゲームブログ「島国大和のド畜生」管理人の、島国大和さんによるコラム「島国大和のゲームほげほげ」。第4回となる今回は、先日公開された“VR世界”を舞台にした映画『レディ・プレイヤー1』(監督:スティーブン・スピルバーグ)について、ゲーム開発者の視点で語っていただきました。
映画に登場しているVRワールド「オアシス」は、今から27年後の2045年には実現されるという設定なのですが、それを現時点の技術で実現しようとすると、ぶっちゃけどのくらいタイヘンなのか……?
ゲーム開発者の視点で、ハードウェア面、ソフトウェア面、通信面など、さまざまな角度から「オアシス」を見ると、そのスゴさが改めてわかるハズです!?
かつてのゲームキッズとポップカルチャーキッズに『レディ・プレイヤー1』!!(挨拶)
お久しぶりの島国大和です。ご覧になりましたか? 映画『レディ・プレイヤー1』。「ゲームを題材にしたハリウッド映画」ということで自分も観てきましたが、面白かったです。
ハリウッド映画でゲームネタといえば、『ピクセル』と『シュガーラッシュ』が、すぐに思い浮かびますが、『レディ・プレイヤー1』は「VRゲームの中でのアクションと、現実でのアクションが並走してお話が進んでいく」、また「ゲーム開発者の人生の総決算でもある」、まさにゲームの映画でした。
これはあれですね『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』【※】ですね。(違う)
※GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦
トッププレイヤーとして名を馳せた、高橋、毛利、両名人がファミコンソフト「スターソルジャー」で激突する映画。むしろ激突前の特訓シーンが重要。1986年公開。
特に泣かせたり勇気を与えたりするような映画でもないのですが、ゲーム開発者が観ると、いろいろと記憶の扉を小突き回されるでしょう。
「くっ……こんな風に遊ばれるゲームを作りたい」
と思わせるパワーがあります。
そんなわけで、映画はきっちり面白いですからまだ観てない皆さんにはオススメしつつ(原作で活躍するウルトラマンやレオパルドンが出ない不満はありますが)、今回は、作品中のVR空間「オアシス」を再現できるか、できる範囲で真似したいと思います。「オアシス」で遊びたい!
「オアシス」システム一式:ハードウェア編
さて、現在あるモノで「オアシス」を再現するには、何が必要でしょうか? まずユーザーが揃えるべきは、あの「VRゴーグル」と「VRグローブ」、そして「全身モーションキャプチャー」が必要です。
「VRゴーグル」については、今似たものを探すと、「PS VR」とか「Oculus Rift」とかがありますが、「VRグローブ」はまだまだ民生品では良いものがないようです……。
全身をキャプチャするとなると、広い場所が必要になるのが難儀ですよね。その問題を解消するために、「対象者を宙吊りにしてトレッドミル(ルームランナーのようなもの)に固定し、よく滑る凹レンズ型の床の上を走らせて、足の加速度センサーで移動量を拾うシステム」が開発されているとのこと。
…ググってみたところ「Virtuix Omni」ですね! 106万円だそうです。わぉ! 仕組みの割にはお安い!
あとは「フォースフィードバック」が、ちょっと難儀でしょうか。
「フォースフィードバック」は、どうしても単価が上がってしまいます。
多少の圧力ならば振動を圧力と勘違いさせてしまえばよいのですが(iPhoneのホームボタンとかですね)、もう少し「ちゃんとしたものを」となると、モーターで負荷をかけたり、エアーで圧をかけたりすることが必要で、そうするとパーツの精度やメンテナンス頻度、安全性など考慮すべき点が格段に増えて、価格が跳ね上がってしまうのです。
というわけで、ひとつ1万円ぐらいの「フォースフィードバックジョイスティック」(ジョイスティックがゲームの状況に応じて力を返す、重くなる、振動する)と同様の仕組みを、全身の要所要所に付ければいいかなとは思いますが、諦めるとしましょう。
わりと、お金の力があればハードウェアはどうにかなりますね! メンテナンスや装着、キャリブレーションが面倒くさいとは思いますが、その他もろもろコミコミで800万円ぐらいあれば揃うんじゃないでしょうか(ざっくり)。
というかフォースフィードバックを諦めたら200万で足りそうです(ざっくり)。
廉価版とはいえ、何となく一式揃うってだけで夢が広がりングです。テンション上がりますね。
「オアシス」システム一式:ソフトウェア編
私、けっこうな数のポリゴンゲームの開発に携わっておりますが、みんな最初の要件定義で念を押したときは「髪の毛なんて体にめり込んでもいいですよ」、「スカートから太もも突き破っても平気ですよ」、「脚が地面を滑っても気にしませんよ」って言うんですけど、実際の画面で見たときスゲーいろいろ文句言うんですよ。「ハイヒールなのにモーションがハイヒールじゃない」とか。
そういう現状を踏まえて『レディ・プレイヤー1』を観ると、ひと目で「無理!」とわかるものは、たとえば……劇中、ほぼゲームプレイヤー全員が一ヵ所に集まったりするわけですが……、
「こんなもんがリアルタイムでレンダリングできるかー!!」
「こんな情報量を双方向通信でリアルタイムにやり取りできるかー!!」
これ、難問ですねぇ。クリアしたいなぁ。とにかくマシンパワーが必要です。あと、工数が莫大です。今の技術力では、まだまだ無理な部分も多いでしょう。
グラフィックについて考えてみた
背景や、数人の表示だけならバカみたいなパワーのグラフィックボードを複数刺せば、ちょっと映画クオリティは無理でも、想像力で補える程度のいい絵は出せるかもしれません。
でも人数を出せない。
最近のハイポリゴンゲーム環境だと、1シーンあたり300万〜500万ポリゴンぐらいは出せるそうです。
では、キャラクター1体を2万ポリゴンで表現するとしたら、100体ぐらいは出せるんじゃない? と思いがちですが、そうは問屋が卸さず、“描画以外の計算”で、けっこう手こずるモノでして……。まともにライティングしたり、ボーンアニメしたりしようとすると、計算が跳ね上がってしまうんです。
ちなみに「ハリウッドのCGが、どれぐらいのポリゴン数なのか」をちょっと知らべたのですが、『アメイジング・スパイダーマン』に出てきた「サイ型ロボ」が、“3兆ポリゴン超”だそうな(え、あれで!?)。
『シン・ゴジラ』が“1億ポリゴン”と聞いたことがありますが、なんだ3兆って……。
さらに、VRだと右目と左目で別の映像をレンダリングしないといけないので、ポリゴンが2倍食っちゃうという……。
……ということで、かなりの表現を諦めないといけません。最初からわかっていた通り、ハリウッド画質をリアルタイム計算することはムリ。
当たり判定、物理シミュレーションについて考えてみた
「オアシス」は、アバターの形状も制限が少なく、プレイヤーが思い思いの大きさ、スタイルで闊歩しており、それぞれもゲーム的に異なる当たり判定が付いています。これは処理量が大変過ぎる。
グラフィック表示は、ポリゴン数とテクスチャ量の勝負なのでGPUパワーに拠るところですが、当たり判定や物理シミュレーションは、CPUで処理する場合が多いです。
当たり判定や物理シミュレーションは目に見えないので、比較的雑にやってしまうという手があります。人間の当たり判定を「カプセル1個で良し!」としちゃうとか、ですね。
じつは格闘ゲームだって、そんなに細かく当たり判定を取っていません。
ヘッドショットがあるようなFPSは、そこそこ細かく当たり判定を取りますが、それは銃弾と人体のヒットを丁寧に取っているだけで、人体どうしのあたり判定を細かく取ったりはしません。
しかし、その方法では、フォースフィードバックスーツを着て、握手したら“手のひらにムニュっと感じる”ようなレベルは諦めざるを得ません。
うん、諦めましょう。CPUパワーがどれだけあっても足りない……(泣)。
通信量について考えてみた
そして最大の難関、通信量。
MMORPGの開発に関わったことがある私が思うに、あんな何百人もが一堂に会するリアルタイムゲームは、もうハンパない帯域を消費します。
最近は格闘ゲームもネット対戦できる時代ですから、体感として「どれぐらいラグがあるか」はわかると思います。
格闘ゲームって、極論を言えば「1/60秒に2キャラの位置とモーションの状態を送受信できれば、ほぼリアルタイム通信を再現できる」わけですが、これがけっこうなラグなしには成立しない。
「オカシイ! 光の速度は1秒間で地球7周だというのに、なぜ国内の光回線での対戦でこんなにラグるのだ!」
それは、光で都度都度送っているのではなくて、パケットにまとめて送ってるし、送信先をスイッチするところで時間を食うからですね。
ネットワークって、アクションゲームみたいなのを1/60秒でリアルタイムにやり取りする用途じゃなくて、データをまとめてダウンロードしたりアップロードしたりする用途が主ですから、そういう設計なんです。
格闘ゲームのように情報が少ないにしても、リアルタイムというだけで、莫大な通信量になるわけです(というか、格闘ゲームはリアルタイム性が重要なので、数ある通信ゲームの中で、通信量が多いほうに分類されます)。
ほか、大量のプレイヤーが遊ぶようなネットゲームは、通信量を絞ってもゲームを成立させるようなゲームデザインになっています。
たとえばMMORPGは、最初から1秒や2秒のラグを気にしないでいいようなゲームデザインにしてありますよね。
ソシャゲなどは、ステージの最初と最後だけ通信して、あとはクライアントのみで処理、というものも見かけます。
一方「オアシス」は、同一インターフェイスで複数ルールですね。ある地域ではFPS、ある地域ではレース。しかし物理法則は全ワールド共通。さすが、理想のVRゲーム。開発めっちゃツライわー!
とはいえ、一番大変なのQA(Quality Assurance=品質保証)な気がします。
この規模のゲームをどうデバッグして致命的なバグなしにリリースできるのか。たぶん、デバッグ環境を整えるだけでも、地獄のような面倒くささですよ。
“心の目”でプレイすれば、今のゲームでも「オアシス」に?
あのVR空間「オアシス」は、現在のコンピュータ環境では実現が大変難しいということがわかりましたが、『レディ・プレイヤー1』は、“映画としてよくできている”と感じました。
私自身もゲームのシナリオを書いたりしますが、物語を作るときに重要なポイントとして「人の記憶の扉を叩く」というのがあります。
物語は、作った人の脳内だけでこねくり回すのではなく、受け手の想像の余地を残すのが重要──みたいなヤツです。
歌謡曲の作詞で重要なのは、誰の心にもあるシーンを書くことで、聞く人がそれを思い浮かべられるようにすることだといいます。
これまでの人生であった、ああいうシーン、こういうシーン、実際は体験していなくても何となく体験していそうなシチュエーション……そういうものを散りばめていくことが、物語への没入を誘います。
『レディ・プレイヤー1』は、開発者の人生の総括の話でもあるので、ゲーム開発者がこれを見ると、記憶の扉を小突き回されるでしょう。
冒頭で述べたように、特に感動する映画でもないのに、グッときます。「こんな愛されるゲーム作りてぇ」とジーンときました。
このように「受け手の中にある記憶を刺激する」ことで感情を動かせるわけですが、この手法はVRゲームを作るときにもいろいろ応用が効くのではないか、と思います。
ハードウェアの進歩と、開発技術の進歩。そして「どうすればどう感じるか」の蓄積。数々の要素がシンクロすれば、わりと早い時期に“ちょっとした”「オアシス」ぐらいは完成させることができるかもしれません。
ただそれには、平和な世の中のまま、技術開発が続き、娯楽に大枚はたくのが当たり前、でないといけませんね。
『レディ・プレイヤー1』は荒廃した未来のお話ですが、本当に荒廃しちゃったら VRゲームを遊んでいるどころではないですしね。
最後に。
アバター型のゲームやチャット、『ハビタット』や『ウルティマオンライン』、『メビウスオンライン』、『コンチェルトゲート』、『ファンタシースターオンライン』、『リネージュII』や『ブレイドアンドソウル』など、自分がよくプレイしたゲームはいろいろありますが、それらは決して「オアシス」みたいな計算量ではないですけれど、自分の脳内ではもう「オアシス」だったかもしれません。
大ダメージを受ければ「いてぇ」と口走りますしね。
そう、じつは今プレイできるタイトルでも、“心の目”で遊べば「オアシス」だったりするんですね。
いい映画を観ると、妄想がはかどります。
それではこの辺で。アディオスアミーゴ!
【あわせて読みたい】
話題のVRを開発者が見ると……キビシー現実!?【 「島国大和のゲームほげほげ」第二回】今最もホットな話題である“VR”についてゲーム開発者の視点で語っていただきました。「買ってもいいんじゃないですかね」とVRを推している島国さん。でもそんなVRの開発には、色々とキツイ話もあるそうで……?