「戦争は、時間と空間のジレンマである」現代ウォーゲームが発見した“真実”——ゲームはいかに戦争の「本質」を捉えてきたか【徳岡正肇氏インタビュー】

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  去る9月1日、パシフィコ横浜にて開催された、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2017」。取材に当たって筆者は、弊誌編集部からの指令を受けていた。

 「4Gamer.netなどで活躍するライター、徳岡正肇氏にインタビューを依頼してほしい」

 関西に住んでいた筆者は、この時点まで徳岡氏と会ったことは一度もない。だが、さっそく講演会場に入室すると、そこには怒濤の勢いでウォーゲームのマップデザインについて語る男がいた。

 彼が指さして語るスライドに投影されていたのは、美しい3Dグラフィックでも、ピクセルアートでもない――三角形、四角形、六角形が正確に敷き詰められた、方眼紙のようなイメージだけ。彼はこのシンプルな図表を用い、マップデザインの真理について、いともたやすく朗々と語った。この講演の内容は、すでに弊誌で掲載済みだ。

ポケGO、大戦略、信長の野望…古今東西のゲームマップを7分類して徹底分析。なぜ四角形や六角形のマップを、私たちは好むのか?【徳岡正肇氏:講演レポ】

 この徳岡正肇氏(@goodhuntstalker)は、シミュレーション、ウォーゲーム、ボードゲーム界隈で精力的に取材・執筆を続けているライターである。4Gamer.netに積み上げられた膨大な氏の仕事を辿ればただちに了解されるが、そこには徹底したジャーナリズムの精神が通っており、それゆえに彼自身の意見や声は注意深く潜められている。
 しかし彼ほどの経験と実績をもつライターであれば、ゲームの根本のメカニズムについても一家言あるに違いないと、筆者は確信した。ぜひとも、この男から話を聞かなければならない。

 そこで講演後、筆者は徳岡氏にお願いしてインタビューを敢行した。すると、やはり彼の自由な知性ははるかな高みにあった。なにせ氏が繰り出す議論の方向性は、まさに天衣無縫――ウォーゲームのゲームデザイン、戦争論、確率と偶然についての議論を経て、「ゲームは人生のシミュレーションである」という驚異的な結論までが導かれてしまったのだから。

 以下に記すのは、ウォーゲームを出発点とした、もはや一見してゲームについて語っているとは思えないほど濃密なインタビューの全容である。

取材・文/藤田祥平


当日の講演は立ち見も出るほどの人気を博した

ウォーゲーム――戦争原理のシミュレーション

――本日お時間をいただいたのは、「ウォーゲーム」を得意とする徳岡さんと、ずばりゲームなるものの「本質」についてお話ししたいと考えてのことです。
 というのも講演を聴講して、徳岡さんはもう、ゲームを通じて世界の真理を見ているかのように感じてしまったんです(笑)。そこで思ったのが、ふだんの原稿では抑えられている徳岡さんの声で、ゲームについて語っていただくことでした。
 ……ただ、いきなり本題に入るのもなんですので、ご専門のウォーゲームから始めたいと思います。まずは読者のために、ウォーゲームというジャンルについて、ご紹介いただけますか。

徳岡正肇氏(以下、徳岡氏):
 そうですね。ウォーゲームとは、プレイヤーがマップの上で部隊などのユニットを動かし、擬似的な戦闘を行うものです。

徳岡正肇氏

 ゲームによってこまかくルールは異なりますが、ひとつ大きな原則があります。これは鈴木銀一郎先生【※】の言葉なのですが、「ウォーゲームとは、戦場における原理原則が一定レベルでルールとして反映されている」ものです。たとえば、「一人の呂布と二万人の兵士が戦って、呂布が勝つゲーム」は、間違いなく面白くて素晴らしいゲームですが、「ウォーゲームではない」と言うしかないでしょう。

※鈴木銀一郎先生
1934年生まれのゲームデザイナー、作家。日本のカードゲームブームの火付け役となった「モンスターメーカー」シリーズ(1988年~)のデザイナーとして知られるほか、数多くのボードゲームやTPRGの制作を手がける。

――なるほど。でも、だとすれば「現実にありそうな戦闘」について語ることが、そのまま「ウォーゲーム」を語ることになりませんか。

徳岡氏:
 概ね、そうです。
 ただ、ウォーゲームは「戦場のロマン」というよりは、「現実の戦闘自体を優先してシミュレーションし、ゲームに落とし込んだジャンル」だと言えます。

 たとえば戦闘には、勝利と敗北がありますよね。そして一般的なゲームにおける勝利とは、敵をなぎ倒して皆殺しにすることだ、と多くの人は思うでしょう。しかし現実においては、敵軍が目の前から逃げていくことも、勝利と言えます。それどころか、史実における戦闘の勝利はほぼすべて、敵の逃亡なんです。

――言われてみれば、両軍が全力でぶつかりあうような戦闘って、ちょっと想像しにくいですよね。一般的なゲームにおいては、ストーリーテリングの都合上、どうしても全力の戦いの描写が優先されてしまうのだと思いますが。

徳岡氏:
 ですから、一般的なイメージと戦場の現実には、ずれがあるんです。

 そもそも戦闘において、なぜ軍は攻撃するのでしょうか。それは目標となった土地を、ある時間までに確保したいからです。すると攻撃側は、全滅させずとも、敵を追い払えば目標は達成できる。

 一方で、守る側が反撃するのは、その土地をある時刻まで守りたいからです。したがって防御側は、ある時刻まで守りきることさえできれば、撤退したとしても目標達成となる。こうなると、それぞれの軍隊の計画や視点に則れば、”両軍とも勝ち”なんて状況が生まれてきたりもする。

――なかなか現実の戦争には、複雑な力が働いているんですね。あえて言いますと、まさに“ゲームのように”わかりやすい勝敗なんて、現実あるいはウォーゲームの戦闘には、ほとんど生まれないということですね。

徳岡氏:
 ええ。しかし私たちは、それでも全滅のロマン、戦いのロマンに引きずられちゃう。いわゆる「ゲーム」に引きずられて考えがちなんですね。ウォーゲームに関しては、そこは切り分けて考えたほうが良いでしょう。

ゲームからみえる現実の戦争の悩み

――いまのお話から思い出したのですが、個人的な体験があります。私は『Eve Online』【※】というゲームで、企業連合長と艦隊総指揮官を兼任していました。

※EVE Online
2003年にアイスランドのCCP Gamesがリリースした、広大な宇宙が舞台のMMORPG。世界中のプレイヤーが同一のユニバース(サーバー)でプレイできるシステムも特徴の一つで、6万人ものプレイヤーが同時にプレイしたことも。戦闘、生産、採掘、商売、領有権争いなど、広大なワールドの中で、プレイヤーは自由度の高いプレイを楽しめる。日本語版は2012年にリリース。

 その生活のなかで体験したのが、「軍事目標を達成したい」という連合長としての欲求と、「指揮官としてこの戦いの場に参加したい」というゲーマーとしての欲求との板挟みでした。つまり、軍事目標を達成するためには、戦闘をしないほうがあきらかに良い。
 けれども、私自身、ロマンチックに戦いたかったし、兵隊たちもそう思っていました。そのコントロールが私はどうもうまくできなくて、燃え尽きてしまった、ということがありました。

徳岡氏:
 戦場のロマンと、指揮官心理の板挟みですね。それは珍しいことじゃありません。中世ぐらいの指揮官はみんな、あなたとおなじ悩みを抱えていたと思いますよ。

――どういうことでしょう?

徳岡氏:
 たとえ話をしましょう。
 あなたは指揮官で、軍を率いて進んでいるところです。あなたの軍は、村人がみんな逃げだしたあとの村を見つけました。あなたの兵士達は大喜びで放棄された村に走ってゆき、略奪をはじめます。放っておけば、彼らはそこで何時間でも家捜しをしているでしょう――さて、質問です。この兵士たちの動きを、あなたは指揮官として止められますか?

――簡単には止められないですね。止めたいとは思うけれど、どうやって理由を説明すればいいのかわからない。司令官としては、ここで何時間も立ち止まっていたら、つぎの目標が達成できなくなる。しかし、いかにして兵士たちにそのことを納得してもらえばいいのか。

徳岡氏:
 指揮官が陥るのは、まさにそのジレンマなんです。軍事的な、マクロな観点からすれば、われわれは村で略奪をしている場合じゃない。前進しなきゃいけない。でも人間の欲望を素直に考えれば、いやいや盗れるものは全部盗って、焼ける物はぜんぶ焼こう、となる。
 そういった板挟みが当然発生するし、するものだと私は思っています――だって、誰だって死にたくなんかないでしょう。

 じゃあ次に今度は、あなたが一兵卒だとします。こっちは塹壕のなかにいて機関銃もある、絶対に心配ないと聞かされている。しかし目の前の丘陵から、自分たちの二十倍の規模の敵軍が、それこそ波のように押し寄せてきた。そんな状況に立たされたとき、あなたはどうしますか? 

――逃げ出すかもしれません。

徳岡氏:
 ですよね。そりゃ当然、逃げたいですし、実際に逃げ出すかもしれません。いくら上官が戦い方を解説したとしても、心情的に耐えられないでしょう。でも指揮官は、撃て、踏みとどまれと言う。つまり戦争とは、運動体の激突であると同時に、人間の心理の激突でもあるんです。

――ただ、そうすると、ウォーゲームがシミュレーションしていることって、ちょっと現実からずれたもののように思えてきます。机上で考えられた作戦が、人間の心理のせいでうまくいかないことなんて、大いにあり得るんじゃないでしょうか?

徳岡氏:
 いやいや、ウォーゲームは、人間心理もしっかりシミュレーションしているんですよ。そして、ここにこそウォーゲームの重大なスタート地点が見えてくるんです。

 少しルーツを辿りましょうか。チャールズ・S・ロバーツという、ボードウォーゲームの始祖についての話です。彼が作ったのは、The Combat Results Table――戦闘結果表というシートでした。

ボードウォーゲームの始祖――チャールズ・S・ロバーツの「戦闘結果表」

徳岡氏:
 このシートが画期的だったのは、彼我の戦力差を比率で考えたことと、戦闘結果のランダム性を内包したことでした。3万対1万も、6万対2万も「3:1」と見なす。戦場の広さなどで制限は起こりうるが、マクロで見て同等であるとする。そして、例えばですが彼我の戦力比が「3:1」のとき、約60%の確率で敵は後退する、としたんです。

「ドイツ戦車軍団」(国際通信社)の戦闘結果表
1982 REC Co.
2002,2013,2014 kokusaitsushin Co. Ltd

 さらにチャールズは、ここに戦場の不確定要素を象徴するランダム性――六面ダイスを加えました。そして、16%刻みで結果が変動する計算を採用した。簡単に言えば、1の目が出ればこちらの攻撃が失敗する。2から5の目が出れば敵は後退する。6の目が出れば敵は全滅する、と設定したんです。

――すごく興味深いですね。戦場のシミュレーションにサイコロが含まれていることは、とても不思議なことに思えます。いままでのお話から、ウォーゲームはできるだけ正確に戦場をシミュレーションしようとするものだと感じていたのですが、そこにまったくのランダム性を加えた理由は何なのでしょうか?

徳岡氏:
 サイコロという「ランダム性」が加えられたのは、シミュレーションを厳密にするルールの容量には限界がある、という思想からです。

 たとえば現実では、前線でものすごいパニックが起こり、兵隊がみんな逃げ出してしまうかもしれません。可能性はとても低いが、起こりうることでしょう。
 しかし、そんなところまで細かくシミュレーションしていると、作業が煩雑になってしまう。そこで、いま挙げたような瑣末な可能性は、まるっきりオミットしてサイコロのランダム性に含めてしまうことにしたんです。

――なるほど、人間心理などを含めた不確定要素が、ひとまとめにサイコロの目で表現されるわけですね。偶然によって起こる良い結果は良い目に、悪い結果は悪い目に含められると。

徳岡氏:
 そうですね。不測の事象で現実の戦闘の結果は揺らいできた。なかでも非常に大きな「揺らぎ」として、ヒューマンファクターがあります。そこで、個々の揺らぎの原因や、ヒューマンファクターによる影響を細かく拾い上げるのではなく、ランダム性で揺らぎ自体を再現したんです。そして、チャールズが作ったこのテーブルが、ウォーゲームにおけるひとつの大きなスタンダードになった――これが最初期の話ですね。

 ここで、一つ挿話があります。当時、現実の戦争をシミュレーションする目的で、とある会社に米軍が「戦闘結果のシミュレーターを作れないか」と依頼をしたといいます。

 すると依頼された会社は、チャールズのシートときわめて酷似した研究成果を提出してきました。あとになってチャールズの仕事を見つけたその会社は大慌てですよ。「スパイがいるんじゃないか?! チャールズ、おまえはそれをどこから手に入れた!」と大騒ぎになったそうです。

――(笑)。独自に開発したんですけど、としか答えられなかったでしょうね。

徳岡氏:
 そんなことがあったくらい、ウォーゲームの基礎となっている計算の精度は高いんです。政府予算で動くような規模のプロジェクトと同程度に優れたものを、ウォーゲームの始祖が作ってしまったのですから。

 戦闘結果表の功績は、戦場における「摩擦」をよく再現したことでした。敵が見えない、士気が崩れるかもしれない、物資が届かないかもしれない。これらすべての予測はできないが、しかし一定の傾向はある。このランダム性の傾向をミクロなシミュレーションに落とし込み、ゲームに落とし込んでいった結果、実際の戦場のようなマクロな実践と、同等の結果が起こってくるようになったのです。

ウォーゲームからみる戦争のジレンマ

――それでは、現代のウォーゲームは、どんなゲームシステムで現実の戦場をシミュレーションしているのでしょうか?

徳岡氏:
 これには、ウォーゲームが打ち出した明確な答えがあります――「戦争は、時間と空間のジレンマである」。つまり、時間リソースと空間リソースを両軍が持っていて、これを等価に交換できるものとしたんです。
 これは一見分かりにくいかもしれないですが、簡単な話です――時間をたくさん使えば、攻撃側はたくさん空間を確保できる。一方で守るほうは、空間を差し出せば時間を稼げるというわけです。

 では、それをゲームに落とし込んで考えてみると、どうなるか。A地点からB地点まで20マスあって、敵の移動力が毎ターン5だとすれば、移動には絶対に4ターンかかる。これは、絶対に動かしようのない「真実」です。そして、この「真実」をしっかりシミュレーションすると、小さな盤上で現実のそれと遜色ない撤退戦が再現できるんです。

――またしても『EVE Online』の話なのですが、2014年ごろ、宇宙を二分するふたつの巨大勢力がぶつかった大戦争【※】がありました。
 片方が優勢になり、片方が劣勢に立たされました。そこで形勢の悪い方、守り側がなにをやったかというと、まったくいまおっしゃったとおりの守り方をした。
 空間リソースを差し出す、撤退戦でした――ひとつずつ自軍の太陽系を差し出しながら、相手の進軍を妨げるような反撃を行って、敵軍に徹底的に時間リソースを使わせたんです。そのあいだに後方の太陽系を強固なものにして、充分に力を蓄えたあと、こんどは攻めに転じた。

※通称、Halloween War。2013年末から2014年春にかけて行われた、CFC/RUS連合とN3/PL連合による大戦争。戦争を終結させる原因となった、ゲーム内外に聞こえ高い戦闘「B-R5RBの大虐殺」においては、現実の通貨価値に換算して、総計3,000万円相当の宇宙船が撃墜された。(筆者注)
(画像はCFC Halloween War 2013-2014より)

徳岡氏:
 攻めるほうは、向こうに防御を固めさせたくないから、できるだけ早く攻めたい。でも無理をして攻めまくると一部の部隊だけが突出したり、側面が脆くなったり、後方が安定しなくて補給効率が極端に落ちたりして、逆撃が突き刺さったときの被害も拡大してしまう。だからといって時間を使って、地盤を固めながら攻めるとなると、空間を得られる速度が遅くなってしまって、最悪、防御側にイニシアティブを渡してしまうことになりかねない。

――いま僕がすごく感動しているのは、ウォーゲームの場合、戦争の各要素が駒や司令官といった構成単位に落とし込まれた状態で、シミュレーションされていますよね。ただ『EVE Online』は、何万人という人間たちが駒や司令官となって、筋書きなしにライブでプレイする。にもかかわらず、まったくおなじ戦争の過程が起こる。

徳岡氏:
 ええ、それだけウォーゲームの基礎のシミュレーションの正確性が高いということなんです。空間リソースと時間リソースの等価性と、そこに加えられた人間心理のランダム性が、とてもうまく組み合わさっているんです。

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