『ゼルダ』の衝撃
──そして、もう皆さん堪えきれず『ゼルダ』の話が漏れ出していますが(笑)、皆さん大絶賛ですよね。
岩崎氏:
いやね、『PONG』【※1】に始まり、45年間ずっとゲームで遊んできた僕にとってのオールタイムベストは、PCでルーカス・アーツが出した『Star Wars: X-Wing』【※2】だったんです。それを超えるものはもうないと信じていたのに……。
※1 PONG
1972年にATARIから発売されたアーケード用タイトル。内容は卓球をビデオゲーム化したものであり、世界ではじめて商業的に成功したビデオゲームとも言われる。
※2 Star Wars: X-Wing
1993年にルーカス・アーツから発売された、PC用タイトル。プレイヤーは『スター・ウォーズ』の反乱同盟軍のパイロットなり、戦闘機X-Wingに乗り込み戦う。当時はコクピットからの視点を含むリアルさが評価された。
一同:
(笑)。
岩崎氏:
発売前日に公開された電ファミのインタビューで「自由度が高いんですよ」ということを青沼英二【※1】さんがずっとしゃべっていますが、「祠【※2】を見つけるのが楽しいんですか?」というスタッフの質問に対して「ひたすら説得をしていた」というのを読んで、「この人は何を言っているのか?」と最初は思ったわけです。
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島国氏:
64の『マリオ』は当時衝撃的でした。あのとき、任天堂さんとライバル関係にあるところの下のほうで働いていたんですけど、「うわあ、負けた。任天堂に負けた」って思ったんです。
とくに具体的に何かが負けたということもなかったんですが、
「3Dのゲームはこうやって作るんですよ」というものが全部入っていたのに衝撃を受けたわけで。
なんというか64というハードウェアの性能が、そもそもあのタイトルを作るためのもの。だから、ほかのゲームが作りにくいったらありゃしない(笑)。でも、そのぶん64の『マリオ』は異常にデキがいいわけです。
岩崎氏:
64の『マリオ』で苦労してるのは視点だけ。欠点はカメラだけだよね。当時はカメラをコントロールする技術がぜんぜん確立されてないからしかたないけど。
TAITAI:
とはいえ、あの当時の水準からしたら文句なくスゴいですよ。
島国氏:
まともなTPSアクションはあれが初めてですからね。いまだにタイムトライアルをやっている人たちがいっぱいいるくらい、相当よくできたゲームだと思います。
岩崎氏:
『オデッセイ』は、言われてみれば確かに昔の「ゼルダ」に近い。「アクションに問題がある」と言われることもあるようだけど、そんなの百も承知でやっていると思うんですよ。その証拠に、アクションゲームとして見ると異常に緩いじゃないですか。自分の当たり判定もじつはすごく小さくて、たとえ敵に当たっても減るのはほとんどHP1だし。
島国氏:
「マリオ」以外でも、任天堂さんはわりとそっちに振り切っていますね。『ゼルダ』には予想外に難しいモードがたくさんあったので驚きましたが、『マリオカート』【※】を買ってきて子どもにやらせたら、簡単に1位2位を獲っていくので「なんだこれは」と(笑)。お客さんの層を狭めないようにしていると感じます。
※マリオカート
ここでは2017年に発売されたNintendo Switch用の『マリオカート8 デラックス』を指している。
hamatsu氏:
64のときも、「あ、このくらいでスターは取れるんだ」というのはありましたよ。そのぶん、ガッツリ遊ばせたうえで取らせるスターもあるし。比重がバラバラだったのがよかったと思います。
『オデッセイ』もそういうところへ戻している。キューブの『サンシャイン』【※】のときは、1回ごとにそれなりのタスクをこなしてやっと1個取れるような、けっこう均一な重さがあって、だんだん「重いなあ」と感じていたんですが、『オデッセイ』はその軽重の落差がハンパじゃなくて、「こ、これだけやって1個?」というものもあるんですよ(笑)。
島国氏:
『サンシャイン』はタスクリストがザーっと残っている気分がして、ちょっとツラいんですよね。
hamatsu氏:
『オデッセイ』はムーンがふつうにそのへんの木の上にあったりもする雑な感じもいいなあと。
TAITAI:
しかもあれ、余るのにびっくりしたんです。全部集めなきゃいけないと思っていたら、余るんですよ。
岩崎氏:
あれは、スキルが足りずに行けない問題を解決するためでしょうね。
島国氏:
ストレスがないので、本当に巧い作りだと思います。アクションには納得いってませんけどね。アクションじゃないからしかたがないか(笑)。
岩崎氏:
うん。あれはアクションのフリをしているだけでしょう。
hamatsu氏:
3DSの『マリオ』から“つかまり”がなくなったんですが、それはかなりガチめな3Dアクションを作ろうとしたからだと思うんです。ところが今回それが復活していたということは、「おおらかにステージを楽しんでね」ということだったんだと思います。つかまりを入れちゃうと、一瞬ゲームが止まるので、絶対にゲームのリズムは崩れるんですよ。
岩崎氏:
それはすごい納得がいきますね。
hamatsu氏:
あと、自分は背景のデザインをやっているので、やっぱり『オデッセイ』の背景のデザインが気になりました。じつは『オデッセイ』って相当キてて。
──どういうところがですか?
hamatsu氏:
リアリティーライン【※】が変動しすぎているんですよ(笑)。リアルだと思うとファンタジーになって、ファンタジーだと思うとリアルになって。意図的でしょうけど、あれはちょっと常軌を逸したデザインですね。雲の国はファンタジーでほわほわなんですが、つぎはニュードンクシティでグッとリアルになる。そしてなんと言っても料理の国。
料理の国とニュードンクが並立する世界! だけど「マリオ」だとふつうにアリになれるんです。そういうリアリティーラインを変動させることで発生するリズムは意識的に作っていたんでしょう。
※リアリティーライン
フィクション作品でリアリティーの水準を決める閾値を指す。具体的な数値などがあるわけではないが、どこまで現実的な描写をすべきかを制作者たちが考えた結果として現れる。フィクションラインとも呼ばれるが、ともに造語。
島国氏:
リズムのため? それはいい。スゴいなあ。いま若いスタッフたちに絵を作らせると、みんながスゴいリアル寄りにしてしまうんで、そうじゃないことをどう説明すればいいかと思っているんですが、それはいいですね。今度から『オデッセイ』を例に説明しよう!
岩崎氏:
すごく腑に落ちました。僕は国ごとに意図的に環境の状態を振り分けているなと思っていたんですが、環境じゃなくて、ファンタジーとリアルか。
島国氏:
その方法だと、チームを分けてうまく作れますね。
hamatsu氏:
「マリオ」って2Dのころだと、「とりあえず通常ステージに水のステージ、それにツルツル滑る雪のステージに、マグマが滾るクッパ城を」みたいな感じで大雑把に特徴をつけて作っているわけですが、グラフィックの表現力が上がると、『サンシャイン』のように「同じ夏の中でいろいろなバリエーションを作ろう」みたいなものになる。
今回はそれを逆の方向、超リアルな国とリアルじゃない国みたいなバリエーションを極大化する方向に振っているわけです。
TAITAI:
それはプレイヤーの感じるハードルを下げる効果があるということですか?
島国氏:
同じ味付けの料理を食べ続けなくても済む仕組みですかね。
hamatsu氏:
『サンシャイン』の夏のバリエーションというのも真っ当かつ正当進化な作りかただと思うんですが、でも『サンシャイン』を遊んでいると、「やっぱり氷のステージもほしくない?」となる。そこで今回はふつうに氷の国を作るのではなく、砂漠の国にしていて。
2Dで記号的に表現していたものを、より繊細に表現したのが『サンシャイン』だとすると、2D的な表現を取り入れつつ、より抽象性を高めたり、「マリオ」とは思えないほどリアルな表現に挑んでいたりするのが『オデッセイ』。
とにかく表現の振り幅がありえないほど広い。かなり面白いことに挑戦していると思います。
『スパロボ』【※】に、リアルロボットとスーパーロボットという区分けがありますよね。
あれもスゴい区分けですが、『スパロボ』ではマジンガーZとガンダムが同時に戦うというあり得ない世界をずっとやっていた。それの背景版を『オデッセイ』はやっている感じです。
ふつうは並列しない世界を、「マリオ」という枠で強引にまとめたと。「マリオ」だったらまとまっちゃうんです。
島国氏:
ニュードンクを走ってるときに、めちゃくちゃ「ソニック」【※】を思い出しましたけどね(笑)。なるほど、おもしろいですね。そのステージ設計の振り幅は。
※ソニック
ハリネズミの主人公ソニックがステージを縦横無尽に駆け回る、セガのアクションゲーム「ソニック」シリーズを指す。
岩崎氏:
『マリオ』は、『ゼルダ』と違って発想の方法の想像がつくので、「ディレクションして」と言われればできなくはないと思うんです。
でも、どうかしている。お金もかかりすぎだろうと。勝たないといけないゲームだからしかたがないんだけど、ふたり協力プレイも、コストがハンパないですよ。ここまでやっちゃうのか……こんなゲーム作っちゃって……。
一同:
(笑)。
島国氏:
後がたいへんですよね(笑)。でも、こういう勝たなきゃいけないタイトルに浴びせるほどお金を注ぎ込んで勝ってくれるところがあるというのは、たいへんありがたいことです。冒険してナンボのエンターテイメントを引っ張ってくれるわけですから。
宮本さんの形
TAITAI:
なんと言うか……言いかたが難しいんですが、たとえば『FFXV』もお金をかけて勝たなきゃいけないゲームですよね? でも、『XV』と、『オデッセイ』や『ゼルダ』から受けるあの感じは別物だと思うんですよ。その差を考えているんですが……。
岩崎氏:
僕の知り合いで面白い表現をした人がいて、任天堂の本当の意味でびっくりするゲームというのはみんな同じ形をしていると言っていて。とにかくあらゆるテストをして、徹底的に削って、キレイなツルツルの形にして出すから、みんなが面白がれるんだと。
その人いわく、昔の任天堂にはそのツルツルの形がひとつしかなかったそうなんですよ。それは何の形かというと、宮本さんの形だと。
【飯田和敏連載】あの日、宮本茂の講評が美大生だった僕に与えた衝撃…『アクアノートの休日』を形成したクリエイター達。「若ゲ」前日譚を語ろう
イビツなものは、先が見たくなるんですよ。丸いものは触る前から手触りがわかってしまうので。
※NieR
2017年2月23日発売のプレイステーション4用アクションRPG、NieR:Automata(ニーア:オートマタ)のこと。2010年にスクウェア・エニックスより発売された主人公違いの双子の作品『NieR: RepliCant』/『NieR: Gestalt』の続編にあたり、出荷と配信を合わせて全世界で200万本以上のヒットとなった。
岩崎氏:
宮本さんくらいに完璧にツルツルだと触りたくなっちゃうよね(笑)。触るとスゴく気持ちいいので。
島国氏:
それは超わかります(笑)。
hamatsu氏:
「ゼルダ」と「マリオ」を同じ年に出すという相当なハードルの高さを、Switchはよくもまあクリアしたなと思います。
島国氏:
Switchは、それでハードの価値が一気に上がりましたよね。
hamatsu氏:
その2タイトルが同時に出た年を調べたんですが、ディスクシステム【※】のときの『スーパーマリオブラザーズ2』と『ゼルダの伝説』1作目のときと、『サンシャイン』と『風のタクト』のときくらいしかないんです。
1作目はどちらもディレクターが宮本さん。『サンシャイン』と『風のタクト』で初めてディレクターが分かれて、そこから基本的に「マリオ」は小泉歓晃さんがやられて、「ゼルダ」は青沼さんがやられて、そのとき賛否が相当あったというか酷評もされていたんですけど、ここまでツルツルになるほどずっと続けられたのは、やはり任天堂という会社の凄みだと思います。
※ディスクシステム
1986年に任天堂から発売された、ファミリーコンピュータ用周辺機器。専用のディスクメディアからゲームを読み出してプレイしたり、プレイ内容の一部を書き込んで記録させたりすることができた。
──ほかの会社であれば10年経ったら、まったく人が入れ替わっていることも多そうですね。それだけ宮本さんが偉大だし、その看板の下でじっくり時間をかけていまのエースたちが育っていったと。
hamatsu氏:
昔、『ギャラクシー』のときのCEDECで小泉歓晃さん【※】が登壇されていた講演に参加したんですが、そのときに宮本さんが64の『マリオ』は、さっき話した“つかまり”とか、カメラ操作とかがあって、「いままでの「マリオ」とはリズムが変わっちゃったんじゃないか?」と言っていたんですよ。
宮本さんはカメラ操作を嫌うんです。カメラ操作はゲーム操作にとってもノイズだと基本的に思っていらっしゃる。だからカメラ操作を極力しないゲームを作られるんですが。
※小泉歓晃
任天堂 企画制作本部副本部長。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』ではキャラクターデザインとともに3Dのシステムをディレクション。話題となっている『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』では青沼氏とともにディレクターを務め、ゲームの中心街であるクロックタウンを担当。同作の独自性に大きく寄与している。
──64でのその変化を嫌っていたと。
hamatsu氏:
ええ。宮本さんて、究極的に言うとレースゲームの人だと僕は思っています。「マリオカート」などのレースゲームを作るのが、つまりどこにもぶつからずに、ノーミスで最高のコースアタックをひたすら磨いてい楽しむというゲームを作るのがいちばんうまい人だと思うんですね。
そういう中で“つかまり”やカメラ操作みたいなものは、基本的にノイズでしかなくて、だから排除する方向にあるんじゃないかと思うんです。だからまん丸に喩えられる。
島国氏:
RTA【※】みたいなものが、本来目指すべき方向で、究極ということ?
※RTA
Real Time Atack(リアルタイムアタック)の略称。特定のゲームの特定の区間をタイムアタックする遊びかたで、ストリーミング放送や動画配信との相性がよく、近年盛んとなっている。なお、英語圏ではRTAではなく、Speedrunと呼ばれる。
hamatsu氏:
ええ、そういうプレイをしているユーザーを、宮本さんはニヤニヤしながら見ているんじゃないかなと(笑)。
岩崎氏:
ああ、それは僕もそうだと思うな(笑)。
僕は『ピクミン』が、リソースコントロールから何から、宮本さんらしさがいちばん出たゲームだと思っています。
hamatsu氏:
『ピクミン』も突き詰めていくと、レースゲームみたいになっていきますよね。
岩崎氏:
そうそう!
島国氏:
いやー、でもあれはたぶん、ピクミンというリソースのコントロールと、謎解き的なメインのゲームとを正しく両立させないとうまく解けないゲームを作るという、宮本さんの悪い癖が出ただけだと思うんですけど(笑)。なかなかいまだとやっちゃいけないワザをやりまくってるみたいなところがある。
岩崎氏:
『ピクミン』1作目はそれが異常におもしろかったの。
島国氏:
でも趣味に振り切りすぎたから、「マリオ」のように人々がついて来ませんでしたよね。
hamatsu氏:
ほぼ日か何かのインタビューで、宮本さんは右腕たる手塚卓志さん【※】を指して、「手塚さんは「マリオ」でピースとかしたがるんだけど、僕はそれすらいらないと思ってる」というようなことを言っていて。「マリオがピースとかちょっと違うと思っていて」と(笑)。
※手塚卓志
1960年生まれのゲームクリエイター。任天堂情報開発本部所属。ファミリーコンピュータの頃からゲーム開発に携わり、マリオが登場する多くのゲームでディレクションやプロデュースを行っている。
──それはきびしい!
hamatsu氏:
手塚さんが主導したタイトルと言えば「どうぶつの森」。そう考えると「どうぶつの森」って、どう考えても非宮本タイトルの代表みたいなタイトルだと思うんです。宮本茂は絶対にああいうものを作らない。宮本茂でほんわかした世界を作ろうとすると「ピクミン」になっちゃうという(笑)。
島国氏:
絶望の物語!(笑)
TAITAI:
(笑)。
hamatsu氏:
「ほんわかのつもりが、よりガチになってる!」というようなものですね(笑)。どちらかというとピースは、その非宮本的な「どうぶつの森」のように、余剰の豊かさを楽しむものにハマる行為なんですね。
──宮本さん伝授のツルツルさこそあれ、ここ10年をかけて育んできた下の世代という花が、Switchという場で大きく開いたのが任天堂の2017年ということですね。「ゼルダ」、「マリオ」と開花しているので、ぜひ2018年は「どうぶつの森」の花も開いてほしいところです。
迷いの見えた『スプラトゥーン2』
──そうだ。『スプラトゥーン2』(7月21日発売)はどうだったんですか?
岩崎氏:
ゲームの出来としては文句なしにいいと思うんですけど、『スプラ2』でいちばん引っかかるのは……マッチングかなあ?
hamatsu氏:
1作目から鮮烈にデビューもしたし、人気も出て、実際売れたし。でも「次はどうしたらいいんだろう?」というところで若干迷いがあるというか。
TAITAI:
そうですね。期待していた伸びを感じなかったですね。
島国氏:
でも、1作目で鮮烈デビューして、2作目が期待されすぎちゃったのはたいへんなんだろうなと思います。
hamatsu氏:
今回は、相当バランス重視なマッチングにしているんですよ。
岩崎氏:
任天堂版の『コール オブ デューティ』をやられても困るというか……。方向性を見誤ったんじゃないのかなと思います。任天堂版の『オーバーウォッチ』というか。
島国氏:
自分はクソFPS野郎なんですが、「そういうシューティングであることをうまくごまかしてきた」というのが1作目だったんですが……マッチングの場をもっと大事にするべきだし、いろいろなところでいろいろ抜けていると思いました。ほかにうまくやっているタイトルはいっぱいある中でなので、なおのこと思います。
TAITAI:
まあ、それこそ『PUBG』的な何かが求められていたはずなんですけどね。
hamatsu氏:
ちょっと、ガチシューターに寄りすぎてるのかなあ。当然そういうガチなモードがあってもいいんですけど、もうちょっと別の方向を据えてないとさらに広まらないなと思います。
TAITAI:
いちおう“サーモンラン”【※】とかがそういう方向性なんだろうけど。
※サーモンラン
『スプラトゥーン2』で協力プレイ可能な「サーモンラン」のモードのこと。シャケを退治するバイトで、報酬のポイントを貯めるとギアなどと交換できる。
島国氏:
いやあ、残念ながら人はアクセルを踏んだらいちばん速くまで出したいんですよ。いちばん高い山があったら、そこに行けないと不満が出る。
hamatsu氏:
『マリオカート』とは別の方向を目指しているんだと思います。違う方向に行こうとはしているんだけど……。
島国氏:
レースゲームでいう「マリオカート」の位置に、FPSでは「スプラ」を持ってきたのかと最初は思っていたんですけどね。『スプラ2』がわりとガチで来たから、「ああ違うのか」となりました。
hamatsu氏:
何かのインタビューで、プロゲーマーのウメハラさんが「バランスを正常にするより、壊れ性能を残したほうがゲームとしておもしろい」みたいなことを言っていたけど、それなのかなあ。どちらかというと、『スプラ2』はバランスを取る方向に進んだというのがあると思いますね。
TAITAI:
バランスはもちろん大事なんだけど、コンピューターゲームの面白さって、もっとその手前にあるというか。
単純なボタンを押した時の気持ちよさだとか、もっとプリミティブな快楽なんですよね。
島国氏:
アリカ西谷さんのインタビューで、「完全にバランスを取ったら、全部同キャラ対戦になっちゃう」という話と同じだね。
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TAITAI:
極論を言うとそうですね。
hamatsu氏:
とはいえ、国産TPSでいつのまにか百何十万と売れているのはスゴいこと。みんな当然のように対戦をする環境まで持っていったのは単純にスゴいことだと思います。おそらく今後も定番タイトルとして売れ続けるでしょうし、個人的にも今後も遊び続けると思います。
さらに言えば、いままでは、対戦型のFPSとかTPSって国内では熱心にやる人はやっていたけど、やらない人はやらないという断絶した状態だったのが、『スプラトゥーン』で共通の場ができて「ツラいわー」なんて皆が語り出した。そういう不満を言える環境まで作っちゃったのがスゴい。
岩崎氏:
それは思うね。このゲームって勝負はマジでガチだから、「けっこうちゃんとe-Sports並みのゲームをみんなやっちゃてるんだけどいいの?」みたいに思うときはありますね。
hamatsu氏:
『スプラトゥーン』も『ARMS』(6月16日発売)もそうなんですが、いま任天堂って真面目にスポーツと呼べるくらいのゲームを作ろうとしているのかなという感じがします。でも、そのガチな路線と任天堂がもっとも得意とするファミリー向け路線との齟齬も若干感じるのですが。
TAITAI:
ああそれはありますね。
岩崎氏:
確かに任天堂はスポーツみたいなゲームを作ろうとしてるのかもしれないな。言われてみてそうかもと思った。
島国氏:
でも、わりと真面目にスポーツゲームを作るのなら、SwitchのJoy-Con【※】って合いませんよね。
岩崎氏:
それも言えてるな。任天堂は操作系でまだ問題を抱えてるんだなあ。
──Wii、Wii Uと幅広い層にゲームを楽しんでもらうため、犠牲にした操作系が、ここへ来てのハードプレイを要求するゲーム群の中でネックになっているという話ですね。Joy-Conでそのいいとこ取りを目論んでいたり、そのためのプロコン【※】などもあったりしますが……。幅広さと専門性のあいだで揺れ動く任天堂の気持ちみたいなものが見え隠れしますね。
※プロコン
「Nintendo Switch Proコントローラー」の略称。Joy-Conのように左手部分と右手部分が分離しておらず、Xbox系統のコントローラーに近いレイアウトをしている。USBで充電し、ワイヤレスプレイが可能。