政治こそが“人間らしい”意思決定
──ちょっとAIの話もでてきたので、話題をがらっと変えて、お二人の考えるAIの未来の話も伺いたいです。
川上氏:
それで言うと、うちの妻が官僚なんですが、 彼女によると日本の官僚の一番重要な仕事というのは、政治家のためにいくつかの選択肢のある意思決定のパターンを作って「それぞれこういうメリット、デメリットがあります」と説明することみたいなんですよ。
で、実はこれが、未来のAIに求められる能力そのものだと思うんですよね。
GOROman氏:
Adobe Sensei【※】 とかがまさにそれをクリエイティブの分野でやってくれていますよね。ディープラーニングでパターンを3つくらい用意してくれて、我々は一番良いのを選ぶだけという。
川上氏:
そのうち官僚の仕事が全てAI化することで、むしろ1億人が全員政治家になるみたいな未来が来ると思うんですよね。
GOROman氏:
直接民主制の新しいかたちかもしれないですね。TwitterのアンケートみたいなのがAIから送られてきて、それをみんなスマホでピッて選んでいくと。
僕は、人間はそのうち『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドみたいなAIを一人一体ずつ持つようになると思うんですよね。
そいつは例えば自分の行動履歴から、必要なものを自動的に買ってきてくれるんです。『こち亀』が199巻まであったら、200巻も買ってくれるみたいな。
だからキングボンビーの良いやつバージョンみたいな感じで、勝手に「買ってきたのねん!」と言うんだけど、それが全部嬉しい買い物なんですよ。そこで人間がやることって、たまに「Noのボタン」を押すだけになっていく。
川上氏:
むしろ、そのうち人間はAIが買ってきたものを「いいものだ」と思い込むようになると思いますよ。
──ただ、川上さんって昔から「非合理さには価値がある」みたいなことを言ってきたと思うんですけど、合理的なAIが意思決定をするようになったとき、その部分ってどうなっていくのでしょうか?
川上氏:
それこそ政治家ですよね。彼らはある種、合理的には解決できない選択肢に対して非合理的な決定を行っているわけですよ。
だから僕らがその役割を直接担うようになったら、その意思決定に人間らしさみたいなものは残っていくんじゃないかな。
GOROman氏:
「今日はムカついているからB案!」とか。超非合理ですけどやりそうですね。
川上氏:
実際、うちの会社とかでも「今日は川上さんの機嫌が悪いから、企画書を持って行くのやめよう」とかやっていたりするわけですよ(苦笑)。
GOROman氏:
でもその判断にすらAIが入ってきそうですよね。例えば川上さんがiPhoneの顔認証でアンロックする度に、感情をモニタリングされているんですよ。
で、「今日は会長の表情筋が固いです、プレゼンはやめましょう」みたいな、天気予報ならぬ会長注意報みたいなものを毎日AIが教えてくれるとか(笑)。
川上氏:
それで、機嫌が良いときには表示されるバナーの広告料も高くなるわけですね。
GOROman氏:
ついでに銀行口座までモニタリングされていれば完璧ですね。それ絶対流行るので、今から特許とっときましょうよ(笑)。
AIが恋愛も管理!?
川上氏:
でも実際、表情のモニタリングってかなり応用性がありますよね。視線を使ったUIの最適化とかも出てくるだろうしさ。
GOROman氏:
メンタルヘルスをはじめとする予防医療にも使えますよね。Apple Watchでとる心拍と顔認証をリンクさせれば健康状態が相当わかります。
で、鬱度が一定以上になると突然医者から「そろそろうちに入院して休みましょう」みたいな電話がかかってくる。
川上氏:
あと表情で察して、「あなた、恋をしましたね?」と言い当ててくるAIとか出てきそう。
GOROman氏:
しかも気を利かせて「あなたのためにデートプランを考えておきました」とスケジュール調整するわけですよ。そこにはちゃんといくつかのプランがあって……。
川上氏:
AIが成功確率の高いものから順に、AプランからZプランまでつくってくれるんですけど、確率はすべてほぼ0%で誤差ぐらいの値しかついてないんですよ。「今回は期待できないでしょう」とか言われるわけですね。
一同:
(爆笑)。
GOROman氏:
実はAppleが全て牛耳ってお互いのCloudデータが繋がっているので、数字は救いようがない程正確なんですよ(笑)。
川上氏:
そこですかさずAIが言うんです……「この10000円のプラチナチケットに課金すれば、成功率が3%ずつ上がりますよ」と。じつは、たんなる投げ銭で相手にお金が何割かいくだけの機能なんですが。
GOROman氏:
ぜんぜん上がらないじゃないですか(笑)。
AIが管理する教育
川上氏:
あと、AIが活きるのは教育ですよね。今の教育って正解か不正解かの判別しかできてないわけですが、AIを使えば問題文を読むときの緊張具合、視線や表情でどこに躓いているかが解析できるようになりますからね。
GOROman氏:
それこそ「何度も同じところを読んでいたらわかってない」とかですよね。
今って、先生の負担を減らすためにペーパーテスティングを使ったONE to MANY(1対多)の教育なのが問題だと思うんですよね。
本当はONE to ONE(1対1)の方がいい。いずれ、VR空間にマンツーマンのAI先生を出現させるみたいなことができるようになると思いますよ。
川上氏:
アバターを使えば、常に隣に先生が立っている存在感もありますしね。
GOROman氏:
そうそう。部屋で一人で勉強してもぜんぜん頭に入ってこないわけで、やっぱり緊張感があるのが大事ですね。
そういうシステムは組み込んだ方がいいですよね。例えば昔あった「チョークが飛んでくる」みたいなノリで、サボっているといきなりヘッドショットで死ぬとか。
一同:
(爆笑)。
川上氏:
実際、今の時代は物理攻撃よりもバーチャルのほうが恐ろしいですよね。例えばAI先生にお小遣いの使用を制限できる権利が委任されている、みたいなのは間違いなく効きますよ。
GOROman氏:
あるいは勉強ポイントが減っていくとゲームで遊べる時間が減っていくとか。昔よくあった「スーファミ捨てるからね!」って親に脅されるやつに近いですよね。
ホリエモンさんもMSXをゴミ捨て場に捨てられたって言っていましたけど、当時はACアダプタ切られたやつとかめっちゃいましたもん。
──その権利をAIに全任するんですか、恐ろしい(笑)。
GOROman氏:
もうオカンが、AI先生の権限に関するアクセプトボタンを続々と押していくわけですよ。「最近はAIのほうがいいから」とか言いながら(笑)。
でも、ちゃんと達成感の報酬系もシステムに組み込まれているんですよ。「サボったら1週間ガチャ引けなくなるけど、頑張ったらスーパーレアが出やすくなる」みたいな。ある意味、学力は絶対に上がるので親もゲームを認めてくれますよね。
川上氏:
そしたらAI先生をみんなで怖がるようになって、間違いなく人類はAIに媚を売り始めますよ。ある意味やばい世界ですが、まあ全然ありですよね。人間と違って体罰だとか言われないだろうし。
GOROman氏:
もはや神罰みたいな感じですからね。
便利とセキュリティの天秤
──でも、媚を売るまでいくと「AIにそこまで管理されるのは怖い」と言い出す人も多そうですよね。
川上氏:
もはやAIは、文字通りの神に近づいていきますからね。
GOROman氏:
でも既に我々は、日々Google様の教え通りに動いているじゃないですか。Google Mapに頼りすぎていて、スマホの電池が切れた瞬間に歩けなくなりますもん。
僕なんかは、全身の生体情報をあげるから昔のGoogle Healthみたいな感じで病気にならないように管理されたいんですよ。でも、そういうのは絶対に「プライバシーが……」って反対される。
Suicaの乗車ログだけで「ワシの行動がJRに盗まれている」と怒るようなおじいちゃんとかいる国ですし。
川上氏:
だからマイナンバーも中途半端にしか導入されないわけですよ。でも、プライバシーってわりと新しい概念ですからね。住所をプライバシー扱いしだしたのも最近のことですし。
GOROman氏:
電話帳に全部載っていたし、雑誌の読者投稿とかでも普通に書いていましたからね。
──逆に、例えば中国ぐらいまで突き詰めてしまえば、全部監視になるのでストーカーみたいな犯罪も減りそうですよね。実際、顔認証システムを導入したら犯罪率が下がったみたいですし。
GOROman氏:
中国は凄いですよ、警察が『ウォッチドッグス』みたいなシステム を使っていますからね。
まあ僕らもGoogleとかに個人情報とか全部吸われているけど「便利だからもういいや」って感じですし、みんなあまり気づいてないだけで既に『未来世紀ブラジル』みたいな世界に突入しつつありますからね。
川上氏:
そう考えるとあの映画は根本的に間違っていて、人類の幸福を描かなきゃいけなかったですよね。「管理してくれてありがとう」って(笑)。
アンドロイドにも「生類憐れみの令」が…
──でもそうした近未来のディストピアものの作品って、AIによる管理社会に、必ずと言っていいほどアンドロイドの暴走みたいなものが描かれるじゃないですか。そこの「アンドロイドと人間の関係」の部分は今後どうなっていくのでしょう。
川上氏:
それで言うと、最近「アンドロイドに人権はないのか」みたいなテーマって多いじゃないですか。『AIの遺電子』や『Detroit: Become Human』がそうですけど、ああいうのってシンギュラリティ以降という設定なわけで、単に「ソフトウェアでも人間の人格と同じモノが作れちゃった」という話をしているだけだと解釈すべきだとぼくは思っているんですが。
──人権もなにも、単に機械の処理能力が一線を超えた話でしかないと。
川上氏:
でも今の時代の読み手はそこまで認識してないから、「アンドロイドに魂が宿った!」みたいなある種の神話みたいな受け取りかたで感動とかしてるわけですよ。
──なるほど。今話題の『HUGっと!プリキュア』なんて、もはやプリキュアメンバーにまで心を持ったアンドロイドが加わったりしていますしね(笑)。
川上氏:
で、基本的に「アンドロイドにも魂がある」みたいな話を僕は錯覚だと扱わなくちゃ危険だと思っていて。それこそ江戸時代の「生類憐みの令」みたいに、犬を人間と同じにしちゃうような考えに陥りやすいと思うんだよ。
例えば今は一般的な価値観として動物虐待はひどいことだけど、あれが転化して「アンドロイドの虐待はひどい」となっていくのって、想像以上にありえる話だと思うんだよね。
GOROman氏:
ロボット犬公方みたいな感じですよね。僕が笑いながらaiboとかを分解していると、シーシェパードならぬロボシェパードみたいなやつらが現れるわけですよね。で、「この人はひどい人です!」みたいな画像つきTweetで大炎上する(笑)。
川上氏:
しかも世論はまったく味方してくれなくて、「殺人をやっているのと同じだ」、「こいつが死ねばいいのに」みたいな大量の罵声を浴びせられるんですよ。
GOROman氏:
そして「あれ、俺が買ったロボットなのに、なんで逮捕されるんだろう?」とか思いながら、突然現れたメン・イン・ブラックみたいな黒ずくめの男たちに連れて行かれる。ああ、その絵が見えますね……(笑)。
一同:
(爆笑)。
──でも、既に「ルンバかわいい」とはなっていますよね。
GOROman氏:
実際、段差にハマって動けなくなっていたら「助けなくちゃ」と思うよね(笑)。
「あー、ごめんね。俺が悪かったよ」みたいなことを言いながら、いつのまにか一緒になって掃除しはじめて、ルンバを思いやって人間が働くという謎の行動をとってしまう。
川上氏:
「ルンバが掃除しやすいように人間がモノを片付ける」とかはありますよね。それをちゃんとやってない家とかは「うわ、この家のルンバ可哀想」って思われたりする(笑)。
GOROman氏:
ああ、それはルンバの虐待で炎上する危険がありますね……。
川上氏:
で、「ルンバをいじめるのは本当にいけないことなんですか?」とかいう小学生の投書みたいなのが出てきて、大人が「それはやっちゃいけないことなんだよ」という回答を返す未来まで見えています(笑)。
GOROman氏:
道徳の授業とかで、いじめられたルンバの話が出てくるわけですね。「あなたはこの人間のことをどう思いますか?」みたいな。
川上氏:
「いやいや、機械なんだし別に壊してもいいじゃん」みたいなことを書くと単位がもらえない(笑)。
GOROman氏:
「ロボットにだって人格はあるのよ!」とかって先生に怒られるわけですよ。
川上氏:
というか、最初の話でも言いましたけど、明らかに道徳的に正しく振る舞えるのは常にAIの方なので、人間は理不尽でわがままな存在になっていくわけですよ。
キャラクターが人間の感情を緩和する
──むしろ人間の人権の方が低く見積もられそうですよね……だんだん話が恐ろしくなってきました(笑)。
GOROman氏:
ただ、むしろアンドロイドに人格を感じることのメリットもありますけどね。
例えば、江戸時代の妖怪とかって何かがあると「これは小豆洗いのせいだ!」みたいに責任をおしつけていたわけですよね。
あれも一種のバーチャルリアリティだなと思うんですが、あんな感じでサポートセンターとかである種アンドロイドのせいにして怒りを緩和できるのはあると思います。
川上氏:
ああ、それでいうと昔のMacって起動がめっちゃ遅かったんだけど、そのときに顔アイコンが出たじゃないですか。
あのMac君みたいなのが出ると人格を感じるから、なんか頑張っている感じがして許せちゃうんですよね。
GOROman氏:
同じようなものに、昔Baiudu IMEのアンインストール時に女の子が出てきて「今までお世話になりました……私の良くないところをどうぞご指摘ください」って言いながらガーと泣いちゃうのがありましたね。
川上氏:
完全な茶番だけど……これは効きますね。
GOROman氏:
ただのJPEGなはずなのに、なんだかすごく悪いことした気持ちになるんですよ(笑)。
川上氏:
でもそうやってなんでもアンドロイドに感情を押し付けたりして人間のストレスを緩和していたら、それはそれで「押し付けてひどい!」ってクソリプが大量に送られてきそうですよね。
ネットのクラスタと炎上記事
──そうなってくるともはや恐ろしいのは不合理な人間の方ですよね。Twitterとかでは、既にそういう世界が顕在化しつつありますけども。
川上氏:
僕もこの前の暴雨のときに桂川の写真をあげたら「この時代に不謹慎ですよ」みたいなこと言われた(笑)。
GOROman氏:
もう不謹慎探しのプロみたいなのがいますよね。そういうのは僕とかは、すぐミュート・ブロックしちゃいますね。
あれって存在ごと消えてしまうので、いわばバーチャル殺人ですよね。Twitterだと基本的に文字のやり取りの範囲だけど、未来のVR空間だと、本当にその人の存在を抹消する感じがありますから。
『レディ・プレイヤー1』の原作でも、学校でいじめられている主人公が相手の名前を書き換えたりブロックしたりしてましたけどあれに近い。
僕は自分の属したいクラスタに所属できるのってすごく幸せだと思っているので、これからはもう各々が信じているVR空間のクラスタに属していけばいいと思うんですよね。
VRだと、エコシステムやある種の税収システムを作るとかで、カジュアルに建国ができると思いますし。
──でも現在のネットの問題って、母数が増えすぎて昔のような自然なクラスタリングがあまり機能していないことですよね。
GOROman氏:
パソコン通信とかの時代は「少数民族同士で助け合おう」という雰囲気があったけど、今はもういろんな民族が混じり合って、常に文句が飛び交っている世界になっちゃいましたよね。
川上氏:
僕が面白いなと思ったのが、『セカンドライフ』は「ワンワールド50人の制限」なのが致命的な弱点だとみんなが言っていたが、『VRChat』ではさらに30人に減っているんですよ。それで流行っているから『セカンドライフ』のあの論は一体なんだったんだっていう(笑)。
実際、大人数でやったらコミュニケーションできないわけで、あのアーキテクチャは実は間違いじゃなかった、むしろ狭いクラスタを作らないといけなかったわけですよ。
──『エバークエスト』のころはフィールドが一つしかなかったからユニークモンスターをみんなで取り合っていたわけですけど、『エバークエスト2』以降の時代はパーティ単位でダンジョンが自動生成(インスタンスダンジョン、略称はID)されるようになりましたよね。それが幸せの世界っていう。
GOROman氏:
だからジオンと連邦が離れていれば戦争はしなかったわけで、相反したクラスタを混ぜるとお互いの正義で戦争になるにきまっているんですよ。結局、クラスタ同士の微妙に重なっている部分でいつも喧嘩しているんですよね。
──ネットの炎上記事も「Aクラスタ向けの記事をBクラスタの人が読んで、Bクラスタの人が激怒」というパターンが本当に多いですね。
GOROman氏:
もうそういうのは、通報してスッキリしてもらうのがいいんじゃないですか。
Aクラスタ向けの記事をBクラスタが見て通報したら「ありがとうございます、すぐ修正します」と表示されて、そいつのところだけ中身がBクラスタ向けに変わる(笑)。
川上氏:
その結果、政治系の記事とかで、「右翼と左翼のどちらも称賛する」みたいな記事ができるかもしれない。
同じ内容でも「安倍政権支持率回復!」と「支持率、依然5割を下回る」みたいに人によってタイトルが変わって、それにみんなで「いいね!」を押し合う(笑)。
GOROman氏:
まず最初に「右ですか? 左ですか?」みたいなアンケートに一通り答えるんですよ。で「あなたはタイプBです」といってタイプB用の記事を表示する。
クラスタというのはパラメトリックに定義できるので、自分のパラメーターをちゃんとネットに預けると、動的に自分のムカつかない世界にすることができるはずですよ。
──いっそその方が合理的かもしれません。事実誤認などの指摘はありがたいしなすべきだとは思うのですが、今の記事の作り方って誰にも刺されないための予防線を張る作業にものすごくコストをかけてて、不毛だなと感じていて……。
GOROman氏:
テレビの「スタッフが美味しくいただきました」みたいなのも一緒ですね。『ダウンタウンのごっつええ感じ』のキャシイ塚本とか、「食べ物を粗末にするな!」ってクレームが殺到していたらしいですから。
──あれとか典型的な、建前として出しているだけのテロップですよね。
川上氏:
最終的にはクラスタですらなくなって、AIによってそれぞれが見ている現実を変えた1人1ワールド制にすればいいんじゃないですかね。
圧倒的なディストピアだけど、人類は間違いなく幸福になれますよ。
GOROman氏:
おっさんばっかの満員電車とかも、VRを被って全員美少女に変換したらストレスフリーになれるみたいな。みんなで8x4(エイトフォー)とかを嗅ぎながら……(笑)。
常にバーチャルな新天地を求めてきた二人
──さて、そろそろお時間がやってまいりましたが、最後に今後の仮想現実の普及によせる期待などをお伺いできればと。
GOROman氏:
でも、人類ってもう一日中スマホとパソコンの前にいて、既にバーチャルの住人なんですよ。
僕もずっとスマホ見てTwitterいじってメッセンジャーでいいねボタンを押しているだけで一日が過ぎていて、「俺はリアルで仕事しているのか?」とふと我に帰るが結構あって。でも、考えてみたら僕の場合それってパソ通の時からで、もうずっとバーチャルの世界の方に生きているんですよ。
川上氏:
僕もパソ通の時に、「もうこっちでいいじゃん」と思ったんですよね。そっからはずっと時代の先をいっているんだか、単に逃げているのか分からない感じでネトゲとかもやっていて。
GOROman氏:
基本的には逃避ですよね(笑)。
僕がパソ通はじめたのは中1で、その時は学校に居場所がなかったんですよ。
パソコンやっているやつなんていないし、「アニメージュ」と「アニメイト」を買ったりするのは女の子からキモいと思われていたから、もう隠れキリシタンみたいな感じだったんですよ。
でも、パソコン通信ではアニメの話をしてもパソコンの話をしてもいいわけで、みんながこんなに肯定してくれる世界があったんだとすごく感動して。そこから現実側はクソだとずっと思っていましたね。
川上氏:
現実社会って、濃縮されてないから共通の話題ができる人がまずいないんですよね。そういうところはネットは良かったよね。
GOROman氏:
で、しばらくすると面倒くさいやつらがいっぱい増えてくるんですよね。インターネットでIRCとか始めても、すぐにまた何かどんどん入ってきたりして……常に居心地のいい新天地を求めて逃げ続けています。
──その次の新天地としてVR空間での生活を目指しているということですかね。
GOROman氏:
そうそう。『セカンドライフ』とかも仮想現実の新天地と言われたけど、あれは中央集権っぽかったんですよ。
その点、『VRChat』は草の根的にワールドがあって、自由度が高くて、居心地がいいところに住んでりゃいいんですよね。
僕はパソ通のときから、ニフティみたいな企業のものではなくて草の根BBSを使っていたし、むしろ中学二年生のときに自分で「GORO-NET」というホスト局をつくっていたので、ある意味自分のワールドで楽しめたんですよね。そういうのは大事だと思います。
そういう意味では、今のVRの状況って、パソコン通信やインターネットのときにも近いし、ネトゲの黎明期にも近い感じがするんですよ。
やっとマーケットが広がり始めて、いろんなメーカーが参入してきている。あの頃の新天地にワクワクした、ムーブメントが起きる感じがまた戻ってきていると思っています。
ネトゲ元年からVR元年へ
川上氏:
ネットゲームだと、初めて『ウォークラフト2』とかやった時に、「これは明らかにゲームの標準になる」と思ったじゃないですか。
あの時代って毎年ネットワークゲーム元年とか言われていましたけど、実際は10年以上の時間がかかりましたよねえ。
GOROman氏:
その頃、僕はネトゲを作って持ち込んでたんですけど、当時は全部駄目って言われちゃって。やっぱり早すぎるとなかなか理解されないんですよ。
「この時代が来る」って言い続けてもすぐには来なくて、蓋を開けたら7年後にようやくみんながネトゲをやっているみたいなパターンが多くて。
川上氏:
僕らドワンゴもすごい早くからPCゲームをやっていたんだけど、結果的には今Steamが現れているわけじゃないですか。
GOROman氏:
もう僕の中のSteamは、違法コピー対策バージョンアップツールですからね。ハゲの頭にバルブがついていた時代(笑)。
──最初はプラットフォームですらなかったですからね。
川上氏:
だからVRも絶対に時間がかかりそうですよね。そもそも「VR元年」は一体何年まで元年をやっているんだって話ですからね(笑)。
Oculus Riftが出た2013年が最初に「VR元年」と呼ばれた年だと思うんだけど、14〜16年も同じようなこと言われていて。
そういう意味では去年が珍しくVR元年と呼ばれなかった年かもしれないね。だから今年、2年ぶりのVR元年ですよ。
GOROman氏:
ボジョレーヌーボーみたいにね。今年のVR元年は非常にまろやかでコクがある……みたいな茶番を延々やっている(笑)。
──(笑)。
GOROman氏:
だから本当は、元年って言うのやめたほうがいいと思いますよ。まあその意味では、今年は、VTuber元年とかソーシャルVR元年とか言われるんじゃないですかね。
もう既視感しかないっていういつものパターンなので。僕はDK1のときからVRに7年はかけるって決めているので、今回は早すぎるなんてことがないようにしたいと思います。
──ちなみに、VR空間で生活できるようになったら、そこで最終的にお二人は何をするのでしょうか?
川上氏:
ずっと寝ていたい。
一同:
(爆笑)。
GOROman氏:
まあ寝たきり老人って普通だったらものすごくネガティブなイメージですけど、VR空間で、寝たきりが最高のエンターテインメント環境になれば老後は幸せですからね。
だから、僕も寝たきりでお布団でぬくぬくしたいですね。なるべく布団から出たくないじゃないですか(笑)。
──今日は長時間、ありがとうございました!(了)
実を言うと、今回の対談で唯一大幅にカットさせてもらった話題がある。それは──両者の、パソコン通信やオンラインゲームとの出会いにまつわる思い出話だ。
まあ、「『Ultima Online』がオンラインゲームの料金相場を決めた」みたいな本題と関係のない話が続いたのだが、しかし、その“語りぶり”の方は大変に印象的だった。
というのも、GOROman氏も川上氏も、本当に心から嬉しそうに(でもちょっとだけ恥ずかしそうに)当時の楽しかった話に花を咲かせるのだ。
そう。この二人に共通点があるとすれば、それはずっと以前からバーチャル空間に心を奪われ続けてきた人間同士だということだろう。
昨今、VRという呼称は、もはや頭につける“あの機器”という意味合いが強くなりつつあるように思う。だが、言うまでもなく本来のVRとはまずもってバーチャル・リアリティ(=仮想現実)のことだ。
今回の対談の内容が、その“本来のVRの可能性”を大いに語ったものとなっているのは、そうした二人の出自の影響によるものだろう。
時にフィクション、時にオンラインゲームの縦横無尽な比喩で語られたその仮想現実の未来像は、果たしてユートピアか、ディストピアか──。
その判断は読者の皆様に委ねるとして、いま確信を持って言えることは「少なくとも、この二人はその世界の到来を心待ちにしている」ということだろう。これからの両氏の活躍を期待するとともに、いつか彼らがVR 空間で安眠できる未来が来ることを願っている。
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