ゲームの文字表示に使用されるフォントについて、意識したことがあるだろうか?
レトロゲームのファンならば、少ないドット数で味わいのある字形が表現されたアルファベットや数字を、そのゲームのグラフィックスの一部として記憶に留めている人もいるだろう。また、海外ゲームの日本語ローカライズが増えた昨今では、異なる言語を翻訳するという作業の性質上、日本語テキストのフォントが作品の内容にフィットしているかどうかを、プレイする側も話題にすることが多くなっている。
考えてみればアドベンチャーゲームやRPGでは、長編小説に匹敵するか、それ以上の量の文章を読むことになる場合もある。そういったテキストを重視した作品に限らずとも、文字表現がまったく存在しないゲームというのはほとんどないはずだ。
つまりは文字フォントもまた、ゲームにおける重要な構成要素の1つなのである。
これまでゲームについての論考では、ゲームシステムやストーリー、そしてグラフィックといった面から多くのことが語られてきた。だが文字表示やそのフォントという観点からゲームが語られたことは、それほど多くないのではないだろうか。
そこで今回は、文字表示のフォントという観点からゲームについて語りあう座談会を企画してみた。参加者のうち、バンダイナムコグループでゲームの企画・開発を行っているバンダイナムコスタジオに所属する指田稔氏、鈴木貴晴氏、大和宣明氏の3名は、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)時代からゲームのUIデザインや、タイトルロゴやパッケージのデザインなどを手がけてきた、グラフィックデザインのプロである。
さらにフォントワークス株式会社で広報を担当している福島里江氏にも参加いただいた。フォントワークスは、デジタルフォントの企画・開発・販売を行うフォントメーカーであり、ゲームハードのシステムフォントや多数のゲームソフトに、同社の製品が採用されている。
つまりこちらはフォントのプロというわけだ。
4名のプロフェッショナルが集合したこの座談会では、ゲームにおけるフォントの歴史や、ハードの進化がゲームのグラフィックデザインに与えた影響、そしてゲームだけでなくアニメやコミックといったキャラクターコンテンツとフォントの関係など、幅広い話題が語られた。
あまり聞きなじみのない書体の名称なども登場するが、ゲームファンにとっても興味深い内容となっているはずだ。
なお、下記の本文中に「デザイン」や「デザイナー」という言葉が何度か出てくるが、これはゲームシステムなどを設計する「ゲームデザイン」やその担当者を意味するのではなく、本稿ではゲームのUIやアートワーク、さらにはタイトルロゴやパッケージをデザインする「グラフィックデザイン」とその担当者を指し示している点に留意してほしい。
文/伊藤誠之介
取材・編集/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二
ゲームのフォントは7×7ドットの「アタリフォント」から始まった
──まずはフォントとゲームの歴史について振り返ってみたいのですが。ゲーム業界でフォントを意識するようになった最初の時期は、やはり1970年代後半から80年代初頭ということになるのでしょうか?
指田氏:
1980年代はまだ、ゲームにフォントを組み込むという概念がない時代ですね。その頃は毎回、アタリがいちばん最初に作ったアルファベットをコピーして、形を整えていくというやり方だったのです。毎回微妙にブラッシュアップしながら、タイトルごとにアルファベットを書き起こすみたいなことを、ずっとやっていて。
──それが「Type& 2016」の講演【※1】(「ゲーム屋さんと文字 バンダイナムコスタジオ × Monotype」)でも話題に出ていた、アタリフォント【※2】なのですね。
※1 「Type& 2016」の講演
「Type&(タイプアンド)」はフォントメーカーのMonotype社が2014年から主催しているイベント。「Type& 2016」では、「ゲーム屋さんと文字 バンダイナムコスタジオ × Monotype」と題した講演が行われて、この座談会に登場しているバンダイナムコスタジオの3名の方々が登壇した。
指田氏:
ずっと受け継がれていったという意味では、フォントなのでしょうけど。なにしろ7×7ドット【※】のなかでアルファベットを表示しないといけないので、あまり選択の余地がないのです。
※1文字あたりの大きさは8×8ドットだが、左と下の1ドット幅ずつがスペースとして確保されている
当時は印刷に使っている書体をゲームにどう持っていくかという方法が、ぜんぜん確立されていなかった時代ですから。それがフォントだという意識も、まだ芽生えていなかったと思うのです。
──そういった文字のデザインは当時、どういう役職の方が担当されていたのですか?
指田氏:
それが分からないのです。昔の資料を見たのですが、フォントは見当たらなくて。ただやっぱり、7×7のなかでも創意工夫が見られますね。非常に限られた限定的なものではあるのですが、どこか通常のものとは違う、抑揚がついた表現になっていて。
鈴木氏:
ある箇所に2ドット使うか、それとも1ドット使うかの違いですよね。
──その当時のゲームで文字で表現されるものは、スコアとかそういったものですよね。
指田氏:
そうですね。要するに、機能を満たすだけで精一杯だった時代で。
昔のゲームは画面の上のほうにスコアがずっと表示されていて、常に目に入るものですから。そのためスコアの文字の形というのは、そのゲームの雰囲気を醸し出す要因として、やっぱり大きいと思うのです。
そこを意識的にやっているタイトルもあれば、やっていないものもあると。
やがてハードウェアの表現力が上がってくると、クリエイターががんばってみようかと色気を出して、『源平討魔伝』【※】のように自分たちで漢字フォントを作ってみたりして。当時のナムコに限らずほかの会社でも、作品世界の雰囲気を重視したフォント使いというか、文字使いをするという試みが、1980年代の後半から行われるようになった感じですね。
福島氏:
『源平討魔伝』が出た当時のお話を聞くことがあって。「ファミコンじゃなくてアーケードだから、こういった漢字表示ができるんだ」というのは感じていました。
指田氏:
ただ、我々ゲーム開発者がソフトの容量をいったいどこに割くかというと、やっぱり絵であるとかそういうところなので。そうなると文字というのは、どうしてもしわ寄せが来てしまうのですよ。
──先ほど名前が出たように、1980年代の中盤からはファミコンなどのコンシューマ機が登場して、RPGのように文字をたくさん使うゲームが作られるようになるわけですが。1980年代~90年代前半のRPGなどでは、フォントに関してはどういった選択肢があったのでしょうか?
鈴木氏:
その当時のRPGのフォントというと、使い回しでどんどんマイナーチェンジを重ねているみたいな感じですね。
大和氏:
文字のサイズが大きかったですよね(笑)。解像度の問題もあると思うのですが。
鈴木氏:
7×7では漢字なんて、当然無理なので。そのために文字が画面に占める割合がどんどん増えていくのです。
福島氏:
基本的に平仮名かカタカナですよね。最初の『ドラゴンクエスト』などは容量を節約するために「ぱ」と「ば」が同じ文字の扱いになっていたりとか。
ゲーム業界の人ならあの当時、誰でも経験しているだろう「ふっかつのじゅもんがちがいます」というのも、解像度や文字のクオリティの部分が影響していますね。よくデベロッパーさんにもお話ししているんですよ。
「今のフォントなら、ふっかつのじゅもんを綺麗にノートに書き写せますよ」って(笑)。
指田氏:
あとはブラウン管だと、文字があまり細かいと、にじんだりするというのもあって。
鈴木氏:
にじむし、比率も違うし。ブラウン管だと画面がちょっと横に伸びるので、キレイな円にならないのです。専門的なことは分からないのですが、絵作りしているメンバーからすると、正円が楕円になっちゃうんですよ。
指田氏:
ブラウン管で作る時は、それを計算して作らないといけないので。容量を減らすためにも、320×480ドットとかのスクイーズしている画面で作って、出力する時に引き伸ばすと。プレイステーション時代の『エースコンバット』【※】シリーズとかは全部そうですよ。だから文字は、かなりのトライアンドエラーの繰り返しで完成しましたね。
※『エースコンバット』
1995年にナムコより発売されたPlayStation用ソフト。3D空間の大空で爽快なドッグファイトが楽しめるフライトシューティングゲームとして高い人気を獲得し、以後シリーズ化された。
プレイステーションの時代に、画面のデザインを意識的にグラフィカルにしていった
大和氏:
初代PlayStationのあたりから、日本語だけじゃなくてアルファベットがよく画面に出てくるようになったというのもあると思います。『エースコンバット』のロゴとかもそうですけど。
それまでのファミコン、スーファミというのは、日本のゲーム会社が日本人のためにゲームを作っているというイメージだったのですが、『エースコンバット』は海外でもプレイされていますから。
海外で売れるというのを前提に、ロゴとかでも英語を使うことが増えてきたのではないかなと思いますね。
鈴木氏:
海外市場を狙って、カッコつけていたのかもしれないですね(笑)。1990年代には、自分たちの作っているゲームが海外でも売れると分かってきました。
──ということは、スーパーファミコンからプレイステーションに移り変わっていくなかで、フォントに対する意識が変わってきた感じですか?
指田氏:
『エースコンバット3 エレクトロスフィア』【※1】のあたりから、フォントに凝り始めたのです。僕はこの作品からコンシューマゲームのデザインに入ってるんですけど、オリジナルのアルファベットをいくつか作ってみたりとか、そういうことをやり始めてますね。
絵作りの部分はどんどん進化しているのですが、画面のデザインの部分で意識的にグラフィカルな感じにし始めたというのは、1990年代の中盤以降ですね。その流れだと、1998年に『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』【※2】というタイトルがあったのですが。
このタイトルのあたりはとくに、グラフィックデザインに関しては気合を入れていてかっこよかったですね。
鈴木氏:
エディットモードでチームエンブレムみたいなものを作ったりとか、いろいろあったので。
──最初は自分たちでフォントを作られていたとのことですが、そこから既成のフォントを使おうと変わったのは、どういったタイミングだったのでしょうか?
指田氏:
いえ、フォントも最初から併用していましたよ。
鈴木氏:
和文に関しては漢字も含めて、自分で作るのはあり得ないので。自分たちで作っていたのは、アルファベットと数字と、あとはせいぜいカタカナぐらいですね。
指田氏:
フォントの選択の幅は単純に、年月が進むごとに増えてきましたね。これだったらイチから作らなくてもいいというものが出てきたし。ベースは既存のフォントを使って、要所要所の見出しとか、そういうところだけオリジナルのフォントを使うとか、それだけでそのゲームの持つグラフィックのイメージを定着できるので。
でも最近はそういうことをあまりせずに、結局のところ全体的なデザインやUIのテーマに合わせています。どこかそういうこだわる部分を1カ所だけ残して、あとは全体のイメージで筋を通すというのが、大事なところだと思うので。
鈴木氏:
だから我々としては、あくまで使いどころなので。ここは既存のフォントを使いたい、こっちは自分でやりたいとか。
指田氏:
テイストが同じアルファベットで揃えるとか、全体的にどこを切っても同じように見えるという、統一感は気をつけていますね。
鈴木氏:
昔はその選択肢すらなかったということなので。その意味で今は、選択の幅が広がっています。
指田氏:
でもまぁ、プレイステーションの時期はどうしても無理をしていましたよね。解像度もけっこう厳しいなかで。
鈴木氏:
オリジナルのフォントを作っても、そのイメージを画面に出すためには、7×7じゃ表現できないので。画面に占める割合がどんどんどんどん大きくなる(笑)。そうすると本末転倒で、レイアウトとしては微妙になっていくのです。
指田氏:
カッコ悪い(笑)。
──その当時の文字はどれぐらいのサイズだったんですか?
指田氏:
大きいのだと、一文字が30×30ドットぐらいあったかな。
鈴木氏:
初代プレイステーションの頃はまだ、14インチのブラウン管で遊ぶお客さんというのを想定していましたから。業務用だったら大きなモニターを押し付けることもできるのですが、家庭用は文字が読めないとどうしようもないというのがあるので。
指田氏:
小さく作っても、デバッグのほうから絶対に文句が上がってくるので。「読めそうで読めないなら文字にするな。読ませるなら意味のある、きちんとしたものにしろ」って言われて。まぁ、ごもっともです(笑)。
鈴木氏:
我々はそこでモヤモヤしましたね。
指田氏:
この当時はゲームのデザイナーっていうと、グラフィックデザイン業界のなかでも下に見られていたので、ちょっと鬱屈していて。
鈴木氏:
僕なんかは、ゲームのデザインをやっていると言うと、面白がられたけど。
指田氏:
『アイデア』【※】にゲームは載りませんからね、この当時は(笑)。そういうのをバネにしつつやっていた時代ですよ。「やればできる子なんです」って(笑)。
鈴木氏:
ハードの進化もそれについてきてくれたって感じですね。
本格的なフォントの利用はまず、ハードに内蔵されたシステムフォントから
指田氏:
フォントワークスさんはいつ頃から、ゲームにフォントを提供するようになったのですか?
福島氏:
フォントワークスはもともと、1990年に香港で開業したメーカーなんです。アメリカでMacintoshが生まれて、DTPというものが日本に入ってきて。当時はAppleの標準の日本語プリンターで2書体しか使えない時代でしたが、その時代にサードパーティーとして初めてフォントを販売した会社になります。
そこから1993年に、フォントワークスジャパンという日本国内での販売代理店というスタンスから始まって、2008年にフォントワークス株式会社となりました。
ゲーム業界とのお付き合いという部分では、バンダイ様と合併する以前のナムコ様に、弊社のフォントを使っていただいて。当時はパッケージデザインとかチラシとか、いわゆる紙のデザインからお使いいただいたんじゃないかなと思います。
まだWebもなかった時代ですから。
そういった形で、大手ゲームパブリッシャー様に使っていただくようになって。その次はソフトウェアではなくて、ハードウェアのほうですね。
バンダイさんのピピンアットマーク【※】やセガサターンに内蔵された、ハードウェアのシステムフォントという形で採用していただくことになりまして。
当時はハードのスペックもそこまで高くはないですし、なにより初代のPlayStationでも容量が厳しかったですから、アルファベットではない日本語の表示に関しては、システムフォントを使うというのが主流だったと思います。
──ということは、個々のゲームに対してフォントを提供するよりも前に、ゲームハードに内蔵されているシステムフォントの形が先だったと?
福島氏:
そうなりますね。システムフォントの形ではなく、ゲーム開発のデベロッパー様が弊社のフォントを直接ご使用いただけるようになったのは、PS2の時代になってからだと思います。もちろんPS2以後も、セガ様のドリームキャストや任天堂様のゲームキューブなどに、システムフォントとして採用していただいています。
PS2で容量がCDからDVDに増えたというところで、作品の雰囲気に合わせたフォントを使っていただけるようになって。システムフォントだとゴシックや丸ゴシックしかないなんだけど、ハードなゲームだからもっとカクカクした書体がほしい、とかいった具合に。
あとはRPGとかだと、ムービーシーンでは映画で使われる字幕書体がほしいとか。女の子がいっぱい出てくるようなゲームだと丸文字を使いたいとか、そういうご相談がよく出てくるようになってきたのが、PS2の時代だと思いますね。
──相談というのは、ゲームクリエイターからの要望があったのですか?
福島氏:
いえ、そういうわけではなく、そのあたりは弊社のビジネスにも関わってくるお話となりますが、かつてフォントというのは、デザイナーが必要としているフォントを単品で買うという時代でした。それに対して弊社では、2002年から年間ライセンスという形で、フォントメーカーとしては初めてサブスクリプションのビジネスを開始させていただきました。
それによってクリエイターも、値段とかそういったことをいちいち気にせずに、フォントワークスのすべての書体が使えるようになりました。そういった形で、ゲームのハードウェア技術が進化していくタイミングと、私どものビジネスのスタイルがちょうど上手くマッチングしたと思っています。
鈴木氏:
1990年代には我々もまだ知らなかったですからね。フォントを買うという行為が、どんなに敷居が高いものなのかは。
指田氏:
1997~98年ぐらいからようやく、グラフィックデザインと画面のデザインがだんだんと近づいてきて。それまでは画面レイアウトを設定するにしても、ぶっつけ本番でドットを書いていたんです。Photoshopで言えば、いきなりペンで書くようなもので(笑)。そういうところから、まず最初にIllustratorでフォントの大きさを規定して、それをドットに落としていくようになって。
そうしてようやく、フォントを使ってもいいのかな、という感じになったのですけど。このフォントは買ってきたものだし、そのまま使っていいだろうと思ったら、どうやらそういうわけにもいかないぞ、という話が出てきて。
鈴木氏:
僕は印刷畑だったので、フォントの商用利用についてはもちろん知っていたのですけど。でもゲームのなかで使うことに関しては、「ダメなんじゃない?」みたいな感じでしか知らなくて。
指田氏:
当時、ほかのメーカーさんのフォントを使おうという話を持って行ったら、フォントワークスさんと違って使用を想定していないので、「じゃあ1文字100円で」と言われて「えっ!」って、なったことがありました(笑)。その点でフォントワークスさんは、ライセンスについての対応が早かったですね。
鈴木氏:
早かったですし、我々としても会社対会社で話をしても大丈夫そうだなという感覚が、いちばんありましたね。1990年代の後半はフォントブームみたいになって、Macフォントが世の中にあふれた時期だったのです。そうなるとやっぱり会社としては、信頼のおける会社と契約をして使わなきゃいけないだろうと。
福島氏:
そういった意味では、弊社の当時のスタッフというのが、フォントワークスを起こす前にゲーム会社でアルバイトをしていて、まさにドットで文字を作るという作業をやっていたんです。なのでゲームに対しての理解度が当時から高かったんじゃないかなと思います。
1990年代の後半には、当時はMac関連の仕事をしていたんです。その頃はいわゆるデザイナーズフォントというものが、いろんなメーカーの画面にたくさん使われていて。
もちろん当時は許諾とかも知らなかったですけど。
指田氏:
そういえば当時、普通に個人製作のフォントを買ってきて、その作者に電話で「ゲームでも使っていいですか? ありがとうございます」みたいなやり取りをしてましたね(笑)。
福島氏:
まだ牧歌的な時代だったと思いますね。クリエイターもたぶん、それでお金を儲けようというよりは、「このゲームで自分が使ったフォントが使われた」というところに喜びを感じていた時代じゃないかなと。
ゲームがHD解像度に対応したことで、アウトラインフォントが必要になった
──1990年代のゲーム開発において、たとえばRPGのように文字をたくさん使うゲームの場合、フォントにはどういう選択肢があったのでしょうか?
大和氏:
先ほどの話で出たように、他社さんが用意されたシステムフォントでしょうね。
鈴木氏:
1990年代だとシステムフォントぐらいで、ほかにはあまり選択肢がないですね。90年代はものすごく激変していて、前半と後半でかなり様相が違うのです。90年代の後半になると、フォントワークスさんとかが入ってくるのですけど。
指田氏:
1998~99年ぐらいの作品だと、まだプレイステーションで容量も少ないので、いわゆるアトラス化という、ゲームのなかで使われている字だけを全部抜き出して、それだけを1枚の画像にして使用するみたいなことをやっていますから。さすがに日本語を全部乗っける容量はまだなかったですね。
福島氏:
任天堂様が『ゼルダの伝説 時のオカリナ』でキアロ【※】のフォントを使われたのも、ちょうどそのあたりですよね。
※記事中に「任天堂様が『ゼルダの伝説 時のオカリナ』でロックンロールのフォントを使われた」というフォントワークス福島氏の発言がありましたが、同社に改めて確認したところ、正しくはロックンロールではなくキアロであったため修正いたしました。
鈴木氏:
プレイステーションからPS2に変わっても、そんなに激変はしていないですよね。どちらも画面の解像度としては、いわゆるSDですから。PS3からHDになって、激変するのですけど。
福島氏:
PS3やXbox360が出てきて、ゲームメーカーからの問い合わせの内容がすごく複雑化してきたんです。その当時にいちばん多かったのが、「ネットワーク前提になったのでチャットがしたい」ということで。
RPGで自分のキャラに名前をつけるというのは、最初に入力したら基本的にはゲームが終わるまで、固定化された文字列として扱われるんです。ところがチャットのようにリアルタイムで文字をキーボードで入力するだとか、あるいはリアルタイムチャットじゃなくても、プロフィール編集みたいなものですね。
当時のお問い合わせの際にいちばんよく出てきたタイトルが、PSPの『モンスターハンター ポータブル』なんです。あれのプロフィール編集みたいなものをやりたいと。
そういう具体的なゲームタイトルをお客さんのほうから言われるようになってきたのが、PS3とPSPの時代ですね。ですから2005年あたりから、プレイヤーさんがフォントを能動的に使うというサイクルに入ってきたわけです。
──プレイヤーが文字をリアルタイムにたくさん入力するようになったことで、フォントの重要性が出てきたわけですね。
福島氏:
あともう1つ、それまでのゲームでは文字をいったん画像にしてゲームのなかに取り込んでいたのに対して、PS3やXbox 360の頃には、アウトラインフォントを組み込みたいという要望が増えてきまして。
PS3やXbox 360の最初の頃には、SD解像度のブラウン管テレビで遊んでいる人もいれば、HDの液晶テレビで遊んでいる人もいて。プレイヤーの環境によって解像度が違うので、そのためにビットマップを2種類用意するのは面倒だから、アウトラインフォントを使いたいというお客さんが出てきたんです。
──プレイヤーごとに文字を表示する大きさが変わるのであれば、文書の出力サイズが変わるのと同様に、アウトラインフォントが必要になると。
福島氏:
それだけでなく、ハードごとの違いというのもあって。
PS3のシステムフォントには、フォントワークスのニューロダンというフォントを使っていただいていたんです。もちろんマイクロソフト様にも営業に行ったんですけど、先方には「自分のところでフォントを持っているから」と言われて。
そうすると当然書体が違うので、Xbox 360とPS3では、同じゲームでも文字のデザインや線の太さがぜんぜん違うんです。Xbox 360のシステムフォントってすごく細いんですよね。
プラットフォームによってシステムフォントが違って、ゲームの雰囲気が変わってしまうのであれば、いっそのことゲーム自体にフォントを埋め込んでしまえば、どちらのプラットフォームでも同じフォントでゲームが出せると。
Xbox 360が先行して登場して、その後にPS3が出たあたりから、そういったご相談をいただくようになりました。
ただ、当時は日本語のレンダリングエンジンというのがまだ一般化していなかったので、想定はしたけど結局今までどおりやるということも多かったんです。そのあたりで劇的に変わるのがもうちょっと後の時期で、スマートフォンが出てきてからですね。
それと同時にミドルウェアが充実してきたあたりから、アウトラインで組み込むのも珍しいことではなくなってきましたね。
フォントの普及が進んだことで、文字に対するこだわりが逆に薄れてきた
──かつては7×7ドットで1ドットずつ打ち込んでいたものが、2000年代後半になるとアウトラインフォントまで進化してきたのですね。
大和氏:
だから僕らの頃になると、文字に関してドットの苦労とかはしていないのです。ミドルウェアだったり、3Dだったりと、ツールの幅が広がった時代になっているので。
指田氏:
ただ自分はどちらかというと画面の見出し部分などは可能な限り画像として処理したい派なのです。絵として作ったほうがいろいろいじれますから。どうしてもカーニング【※】を自分で調整したいとか。
※カーニング
隣り合う文字の間隔を、その文字の形状に応じて個別に調整すること。活版印刷では活字を削るなどの特殊な作業が必要だったが、DTPソフトでは自動的にカーニングが実行されることも多い。
──アウトライン派と画像処理派がいると。
福島氏:
これはゲーム業界に限定したお話ではなく、フォントを使う人の層が広がっていますから。たとえば今、カーニングという言葉が出ましたけど、「カーニングが分からない」という世代も出てきました。
昔はフォントってすごく高かったので、ちゃんと儲かっているグラフィックデザイナーさんしか買えなかった憧れのツールだったんです。でも今は、年間数千円でたくさんフォントが使える時代に変わってきているので。
そうすると、文字に対するこだわりの部分も変わってきますよね。この文字とこの文字の間がスカスカだと気持ちが悪いっていう、デザイナーだったら普通に考えるところを、何もおかしいとは思わないという。
鈴木氏:
高級料理を食べ慣れちゃったみたいな感覚ですか?
福島氏:
というよりは、お寿司屋さんで味の薄いものから順番に食べるところを、いきなり大トロとか穴子とかいった、自分の食べたいものだけ頼むという感覚ですかね(笑)。
たとえば先ほど言われたような、フォントを絵で組み込む派の人たちというのは、それこそ紙のデザインの頃からやられてきた、「デザインとはなんぞや」という部分を勉強されてきた方々で。
それに対してプログラマーさんだと、「文字なんて読めればいいじゃん」という考え方の人もいるんです。文字の美しさなんかはどうでもよくて、それよりも「このフォントには何万文字入ってるんですか、何語が使えるんですか」っていう、どちらかというと無味乾燥なところだけを気にする方もいて。
やっぱりデザイナーだと「この文字のここがいいんだよ!」とか、そういう部分に対するこだわりがありますから。MMORPGが流行りだした頃の話ですけど、種族によってセリフのフォントを変えたいという相談があって。
ドワーフなら太ゴシックで文字を出したいし、エルフの魔法使いだったら細い丸文字でやりたいと。「できますけど、容量は足ります?」という話をしていましたけど。
指田氏:
最近だとローカライズが基本になってくるので、日本語と他の言語で同じ表現になるかどうか、という問題もありますね。
福島氏:
今、私たちのなかでもローカライズだとかカルチャライズがテーマになっているんですけど、セリフのところにたとえばHelvetica【※1】を使うとか丸ゴシック【※2】を使うとか、海外の人たちから見たらデフォルトフォントに見えたり、場違いに見えるフォントの選択をしているコンテンツが多いと、英文専門の書籍を出されているクリエイターさんとお話をした時に言われたんです。「もうちょっとそういうのも啓蒙してください」と(笑)。
※2 丸ゴシック
文字を構成する点や線の太さがほぼ均一なゴシック体のうち、線の端や曲がりが丸みを帯びている書体のこと。柔らかい雰囲気があるために人気が高いが、欧文フォントにはこのように丸みを帯びた書体が少ないため、置き換えるのが難しい。
──日本語のフォントだけで考えてはいけない部分が出てくるんですね。
福島氏:
コンシューマのゲームはわりとそこまでちゃんと考えられているというか、この地域でリリースするからその国の人たちが違和感を覚えないか、といったテストをされたりしています。でもスマホのアプリとかだと、そんなヒマはないよという感じで。デザインに対してもそういった温度差を感じることはありますね。
私は年に1~2回、ゲーム系の専門学校に訪問させていただき、お話をするのですけど、その生徒さんにしてみれば、フォントというのはパソコンの中に最初から入っているものであって、紙のデザインのコースをかじった子でも、“文字詰め”というのはIllustratorで1文字ずつ移動させたりすることじゃなくて、「詰め」っていうチェックボックスを選ぶことだという感じなのです。
だからツールが進化すれば進化するほど、なかなかそういうデザインの基礎的なことを知る機会がないという。その子たちを教える先生たちも若いですからね。
指田氏:
昔はアウトラインフォント【※】が入ったMacをチームに1台とか渡されて、それに群がって作業するという世界だったので(笑)。ぜんぜん違いますよね。
※アウトラインフォント
フォントのデータは大きく分けて、ビットマップフォントとアウトラインフォントの2つに分けられる。ビットマップフォントはドット絵のように、1ピクセルづつ文字の形を作っていて、データより大きいサイズの文字を使うと、文字がぼやけてしまうという問題が起きてしまう。アウトラインフォントは輪郭のデータを持っているため、さまざまなサイズのフォントに対応しやすいという利点を持っている。
福島氏:
それが今では、フォントをコンビニで買えるようになりましたから(笑)。良いことだとは思うんですよ。フォントメーカーからすると、やっぱり一部のクリエイターだけが使うものではなくて、誰にでも使ってもらいたいとは思いますし。
指田氏:
便利になって、技術を持つプロのアドバンテージがどんどん下がっているなと思ったのですけど、じつは地力のところが違うという感じなんですね。
ローカライズに関しては、海外の開発者と直接やり取りするしかない
大和氏:
ローカライズに関してですけど、海外のゲームを日本語にローカライズする際のフォントというのは、やっぱりオリジナルの開発者の方々が決めるものなんですか?
指田氏:
当然向こうの判断ですね。よっぽどおかしくなければ、それで行くことになるのですけど。
福島氏:
洋ゲーのフォントサイズって、日本語に比べてすごく小っちゃいじゃないですか。それが日本語になるとさらに小っちゃく見えて、すごく読みづらくなったりするので。もうちょっと文字の大きさの部分を意識してもらえると有り難いですね。
さっき言われたように、文字を大きくするとカッコ悪いといった風潮もあるんですけど。でもプレイヤーからすると文字が読めるかどうかもすごく大事なので。
あるゲームソフトは文字がすごく小さくて、そのことがネットで話題になったりもしていたんですけど、そうしたらアップデートで文字のサイズを選択できるようになって。私自身も、文字が小さかった時にはチュートリアルを読むのを飛ばしていたんですけど、そこが改良されるとやっぱり読むようになりましたから。
ネットワークで常時繋がっているのが前提になっている今は、そんなふうにアップデートで対応するのが増えていくのかなとは思います。デザイナーさんとしては発売されたら「はい、お終い」という時代から、今は発売後も改良したり、運用の部分で作業を続けなきゃいけないという苦労もあるんでしょうけど。
指田氏:
昔は打ち間違いとか、ずっとそのままにしてたのですけどね(笑)。スペルミスとかありましたから(笑)。
鈴木氏:
リメイクの時に、あえて間違いを残したままにするとか(笑)。
指田氏:
おっしゃるとおり、基本的にはお客さんから意見があれば、アップデートで直していきますね。
ローカライズに関してですが、外国人がローカライズして日本人がチェックをしなかったタイトルは、やっぱりどこか奇妙に見えるのですよ。間違ってはいないのですが、妙な違和感を感じるような。
そういったものを、どのレベルまで直していけばいいかというのは、直接やり取りできればいいのですけど。逆に言うと、そういうところにまで意識を持っているスタッフが向こうにいるかどうか、というところもありますね。
大和氏:
とくにテキストを読ませるタイプのゲームだと、日本語であれば句読点が頭にくるとか、絶対あり得ないじゃないですか。でも海外の人たちにしてみたら、それも違和感がないのかもしれないし。
指田氏:
そこはやっぱり、今のところは向こうと直接やり取りをする以外にないですね。
大和氏:
逆に日本のゲームを海外に持っていく場合は、その国の文化を分かっていないと大問題になるケースも出てくるでしょうし。
指田氏:
たとえばフランス語やロシア語に翻訳する場合は、元の日本語よりも長くなっちゃうので、文字を枠の中にきっちり収めるというのが難しくなるのです。そういうところでデザイン処理に関わってくる苦労はありますね。
大和氏:
文字じゃなくて絵になってしまえば、トラブルを回避できるのですけど。
鈴木氏:
「海外向けにローカライズするから」という理由で文字をシステムフォントにしたら、結局ローカライズしなかったっていうこともありましたね。じゃあなんでシステムフォントにしたのだと。やっぱりダサいじゃないですか。まぁ、しょうがないですけどね。