【水口哲也インタビュー&レポ】究極のVRの最新到達点は?「肉体で感じるVRスーツ」「みんなで没入する巨大ドームVR」【ドワンゴVR部】

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 クリエイターの水口哲也氏が昨年世に放ったPS VR向けコンテンツ『Rez Infinite』をご存知だろうか? きらめく光、音楽、振動などあらゆる要素が心地よくシンクロするシューティングゲームで、その衝撃的な映像体験は「The Game Awards 2016」「Best VR Game」を受賞し、世界的にも高い評価を得るに至った。
 電ファミでは、過去に水口氏へのインタビューを敢行し、氏が人生を賭して追い求めていったその壮大な“ビジョン”と、『Rez Infinite』の到達点について伺った。

水口哲也のハチャメチャ人生が『Rez』で人類を進化(?)させるまで。「制約が創造を生む」なんて、もう言い訳しない【ゲームの企画書:水口哲也氏】

 しかし、水口氏は今なおその理念を具体化する活動をしている。その一つが、『Rez Infinite』の体験をさらに強化しようと製作に取り組んでいる「シナスタジア・スーツ」だ。このスーツは『Rez』をプレイする際に着用するもので、両腕・両足などに26個の振動子が装着されている。プレイすると、全身が音の振動に包まれるような感覚に覆われ、また外から見ている人からは、振動とシンクロするスーツのLEDの点灯で視覚的に音を感じることができるのだ。

 そんなシナスタジア・スーツが、“1.0”から“2.0”に進化を遂げ、『Rez Infinite』のために作られた新ステージ“Area X”に対応したのだという。そこで電ファミでは今回、開発者である水口氏のオフィスにお邪魔し、ドワンゴVR部員と感想を語り合う座談会を催すことに。シナスタジア・スーツの自作に挑んだメンバーもいるほど生粋のRezファンであるドワンゴVR部員たちは、このスーツをどう評するのか――? 水口氏にVRの可能性についてお話を伺った。

取材、文/透明ランナー


低音に包まれる心地よさ。シナスタジア・スーツ2.0

今日は『Rez Infinite』【※1】を手がけ、そして大好評の新ステージ「AreaX」【※2】版のシナスタジア・スーツ2.0を発表した、水口さんに取材する機会をいただきました。まずは皆さん、シナスタジア・スーツ2.0【※3】を体験した感想を水口さんに伝えてください。

※1 Rez Infinite
2016年に発売された、水口氏が手がけるVRシューティングゲーム。2001年に発売された『Rez』の続編となるタイトルで、VRに対応したことで操作性が大きく進化。今作のため新たに作られたステージ「Area X」は、特に大きな話題となった。VR元年と呼ばれた2016年にしてすでにVRゲームの金字塔と評され、「The Game Awards 2016」の「Best VR Game」を受賞した。

※2 Area X
『Rez Infinite』のために新たに作られた、パーティクル(粒子)で構成されたステージ。世界を自由自在に移動し、全方向から襲ってくる敵を打ち倒していく。それまでのステージはレール上を一方通行に奥へ進むだけだったのに対し、「Area X」では3D空間を上下左右に移動することができる。

※3 シナスタジア・スーツ2.0
『Rez Infinite』のプレイ時に着用するスーツ。ゲームプレイと連動する26個の振動素子が搭載されたインナーと、振動にシンクロするLEDが内臓されたアウターから構成される。プレイヤーからLEDの光は見えないが、プレイヤーを見ている観客の目を楽しませることができる。今回の「2.0」は「Area X」に合わせて振動設計を調整したもの。

たいへん幸せな体験でした。プレイ終盤での「もうこの世界が終わってしまうのか……」という寂しさがたまらなかったです。

途中から自然と身体が揺れていて、自分でもびっくりしました。まるでジェットバスが身体に当たるときのような感触を電子的に体験できて、興味深かったです。

シナスタジア・スーツ2.0

低音がズーンと身体に響いてきて……ナイトクラブのような熱気や陶酔感を体験できてとても幸せでした。でも、クラブの低音だと身体全体に均一な振動が来ますが、シナスタジア・スーツは身体のパーツごとに異なる感触が味わえるので、「触覚ってこんなに複雑な解像度を持っているんだ」という驚きがありましたね。

まさにそうなんです。人間って、身体の部位によって触覚の解像度が高い部分と低い部分があって、それで気持ちよさも変わってくるんです。身体のパーツごとに異なる音が響くというのは、私たちがまだ味わったことのない体験ですよね。

水口哲也氏。1965年生まれのゲームクリエイター。音楽や映像を共感覚的に融合させる作風を持ち味としている。代表作に『セガラリー』、『スペースチャンネル5』、『Rez』、『ルミネス』、『Child of eden』など。2016年発売のPS VR向けソフト『Rez Infinite』を手がけた。

「KOR-FX」【※】など、海外でも音に合わせて振動するジャケットは発売されているんですが、振動が痛かったり長時間着けていると吐き気がしたりして、正直あまり心地良い体験ではなかったりもするんです。ところが今回体験したシナスタジア・スーツ2.0は、酔いもなくとにかく振動が気持ちよくて驚きました。

※KOR-FX……2014年に発売された、オーディオを振動に変換するベスト。振動の強さはオーディオによって変化する。ゲームだけでなく、映画や音楽コンテンツと併用することも可能。
(画像はKOR-FXのオンラインストアより)

それは嬉しいです。振動はただ震わせればいいものではなく、音と結びついてどれだけ人を幸せな気持ちにできるかが重要なんですが……その可能性はまだまだ未開拓ですね。

ぜひこれからも研究を続けて、新しい世界を開拓していっていただきたいです……!

シナスタジア・スーツ2.0を着用して『Rez Infinite』をプレイするドワンゴVR部員

1.0に比べて変わった点はどこになるのでしょう?

1.0はインナーとアウターの二層になっていて、振動部分とLEDが光る部分が別々のレイヤーになっていたんですが、まずはそれを一体化しました。もうひとつは「Area X」にあわせた振動設計の最適化です。実は振動子自体の場所や数、機構は変わっていません。

「Area X」のゲーム画面
(画像はPlayStationの公式サイトより)

えっ、変わっていないんですか!?

1.0はドラムスティックで軽く叩かれるような鋭い振動だったのが、2.0ではズーンと低音で包まれるような深く響く感触に変わっていて、まるで別物のような体験でした。

アクチュエータ【※】の種類や数が変わったのかなと想像していたんですが、ハードウェアを変えていないというのは意外です。振動パターンだけでここまで変わるんですね。

※アクチュエータ
油圧や電動モーターによって、入力されたエネルギーを物理的運動に変換する駆動装置。

振動の演出で意図して変えたところはありますか?

以前のRezはテクノっぽい「固い」音楽だったので、それにあわせて振動も固めだったんですが、「Area X」は全編通して多様な表情を持つので、よりエモーショナルにしたい、感情に訴えかけたいという気持ちがありました。それが表現できていれば嬉しいです。

お話を聞くほど、シナスタジア・スーツで目指すところは、水口さんが作られた『Child Of Eden』【※】や『Rez Infinite』の延長線上にあるんだなぁと実感しますね。2001年の『Rez』の頃からプレイしていた我々ファンとしては、ずっと水口さんが夢を追いかけてくださっていて嬉しいです。

※Child Of Eden
2011年に発売された、Xbox360およびPS3専用のシューティングゲーム。モーションコントローラーに対応しているため、Xbox360版ならKinectを使ってプレイすることもできる。水口氏が手がけた作品のひとつ。

ファン垂涎のRezコンプリート・パック

こちらのシナスタジア・スーツ、一般の人が体験できるのはまだ先になりそうでしょうか。

『Rez Infinite』の関連グッズと特典を詰め込んだ「コンプリート・パック」を発売しました【※】。その中に、今年秋に実施する予定のシナスタジア・スーツ 2.0の体験会招待チケットが入っています。Infinite(∞)にちなんで88名限定の招待チケットになっています!


すでに完売しています。

このパックはどんな内容なんですか?

制作スタッフたちのロングインタビューをドキュメンタリー風にまとめた、歴史や制作背景を紹介する64ページのオリジナルブックレットが目玉です。どうやってRezというゲームができたのか、どういう文脈に基づいて制作されているかが、詳しく分かると思います。

装丁もこだわっていますよね。

こちらにアナログレコードがありますが、これは一体……?

Rezのサウンドトラックをアナログレコードに収録したものです。先日L.A. Times【※】ゲーム音楽のビンテージ特集記事を出したのですが、そちらでも写真付きで紹介していただきました。ゲーム音楽をアナログレコードで楽しむという人は少しずつ増えているのかもしれませんね。

※L.A. Times
ロサンゼルス・タイムズ。1881年創刊のアメリカの地方紙のひとつ。西海岸のカリフォルニア州ロサンゼルスで発行され、西部を中心に多数の読者を抱る。ここではそのウェブ版に掲載された記事について触れている。

VRの未来は「触覚」にある?

VRの可能性はいろいろな方向性で語られていますが、VRの未来について、水口さんはどうお考えですか?

振動によって身体に立体的な感触が得られるというのは、ゲームのみならずエンターテイメントの分野でさまざまな未来が開けるのではないかと思います。

たとえばどのような形ですか?

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の学生たちが、シナスタジア・スーツの応用形で触覚フィードバックを使って音楽に没入できるスピーカー「atmoSphere」を発表したのが印象的でした。卵を抱くようにスピーカーを抱いて聞くと、耳ではなく身体で音が感じられるので気持ちいいんです。これは面白かったです。

新しい感覚器のひとつになりそうですね。例えば電話がかかってきたら肩が叩かれるとか。そのとき、触覚という「ボタン」がこんなに気持ちいいのかと気づくのかもしれません。

VRの方向性として「楽しい」とか「役に立つ」といったことは語られますが、改めて、シナスタジア・スーツを体験して「気持ちいい」という方向性もあるなと気づかされました。

そうですね。「気持ちいい」を実現するためには、不快な部分をどう取り除いてデザインするかというのが腕の見せ所になるんですよ。

ちなみに、シナスタジア・スーツ3.0の構想もあるんですか?

実は頭のなかにはその構想があるんですが、今はまだ詳細は秘密です。正直、2.0でもまだまだ足りないです。発想はいろいろと湧いてくるんですが、実現するまでの道のりはなかなか大変ですよ。どれだけ時間がかかっても、必ず理想を実現させたいと思っています。

3.0! 楽しみに待ってます!

そういえばMIROさんはシナスタジア・スーツを自作されたことがあるんですよね?

はい……今思うと恥ずかしくて仕方ないのですが(笑)。

ありがたいです。ここ10年でスマホが一気に普及したように、10年後にはVRも今では考えられないほど普及しているのではないでしょうか。僕らがこうして話していることも、10年後に振り返ると懐かしく感じるんでしょうね。

本日は素敵な体験、ありがとうございました!(了)

 シナスタジア・スーツを体験したVR部の興奮冷めやらぬ、2週間後——。
 お台場の日本科学未来館にて、水口氏によるある壮大な「実験」が行われようとしていた。その実験は今回のインタビューで水口氏が語った内容と連動するものなので、ぜひとも続けてVR部のレポートを読んでみてほしい。

日本科学未来館のドームシアター
(画像は日本科学未来館公式サイトより)

 普段PS VRでプレイしている『Rez』を、直径15mの巨大ドーム全面に映したら、そこにはどんな光景が広がるのだろうか……? そんな一夜限りの映像実験が、日本科学未来館にて行われたのだ。その名も、「VR to Dome 実験: Rez Infinite」。高精細の全天周ドームシアターに『Rez Infinite』をプレイしている映像を投影。通常はPS VRをかぶって一人で楽しむ映像体験を、約100名の観客と一緒になって鑑賞するというものだ。

 水口氏はこの試みについて「ヘッドマウントディスプレイをかぶってひとりでプレイする以外にも、いろいろなVR体験の形があるのではないか」と語ってくれた。この体験は、果たしてVRなのか、それともVR以上のものなのだろうか? ぜひ次のページをめくってレポートを読んでほしい。

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