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共産党が“国辱”の烙印を押した70万円のゲーム、生ゴミ臭い『E.T.』など──小説家・赤野工作の「低評価ゲームコレクション」はビデオゲームの“裏・歴史博物館”だった

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“赤野工作”を作り上げたゲームと父親

 世にゲームコレクターは数多くいるが、こんなにも妙なゲームばかり集める人物というのも、なかなかめずらしいのではないか。はたして赤野工作という人間はどのような人生を送り、どうしてこんなことになってしまったのか……ということも、もちろんイベントのトークショーでの話題となった。

 渡辺浩弐氏と行った過去の対談でも一部触れられているが、彼を理解するうえで欠かせないことも多いので、ここにあらためて記しておこう。

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赤野工作氏

 やはり赤野工作を語るなら、メガドライブで発売された『ああ播磨灘』【※】は外せないだろう。彼は幼少期に父親にこのゲームを買ってもらい、とにかく楽しく遊んだ。
 だが後に『BEEP!メガドライブ』という雑誌の読者レビューによって、この愛し抜いたゲームが「4.2238点」という低評価をつけられていることを知り、大きなショックを受けたという。

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※ ああ播磨灘……1990年から1996年にかけて、講談社モーニング誌にて連載されたさだやす圭の同名マンガをゲーム化したもの。1993年にゲームギア、ゲームボーイ、メガドライブで発売されており、今回の話はメガドライブ版を指す。対戦型の相撲のゲームだが、力士が炎をまとったり空を飛んだりする点などが当時のゲーム誌に批判された。また、キャラクターボイスを利用して作られた「播磨体操 第一」という謎のエンディング曲の奇妙さや、負けると播磨灘から「ボケェ!」と罵倒される点なども低評価の一因となっている。

 赤野氏の父はそのころメジャーだったコロコロ系ホビー【※1】 を彼にあまり買い与えておらず、『ああ播磨灘』のような父親のお下がりばかりを遊ばせていたそうだ。
 そのように偏ったゲームばかりを遊んでいた赤野氏は、当然ながら学校で友人たちの輪の中に入ることができなかった。そういう苦境に救世主として現れたのがバトルえんぴつ(以下、バトエン)シリーズ【※2】だ。

※1 コロコロ系ホビー
小学館が発行している雑誌『月刊コロコロコミック』で取り上げられるようなホビーのことを指す。例としてはビーダマン、ベイブレード、ハイパーヨーヨーなど。赤野氏は大人になるまでジターリングの存在を知らず、いい歳になってから遊んだという。

※2 バトルえんぴつ
6面にキャラクターや各種データ、行動などが印刷されたえんぴつを転がして戦うアナログゲーム。1993年に発売が開始され、当時はエニックス(現:スクウェア・エニックス)から発売されていた『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターやモンスターが刷られたものが中心となっていた。サイコロのように振って出た目で戦いを繰り広げていくという手軽さから、90年代半ばに小学生のあいだで大ブームとなったが、あまりの人気に持ち込み禁止となった小学校も多い。

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 なんとかしてみんなが話題にしている『ドラゴンクエスト』の情報を手に入れようとしていた赤野少年にとって、このバトエンは救世主とも言える存在だった。
 おかげで赤野氏は「マドハンドは連続攻撃が強い」、「デスピサロが変身してエスタークになる」などと誤った情報を手に入れ、周囲を不思議な雰囲気にしてきたという(周囲の友だちは優しかったのか、これを誤りだと明確に指摘することはなかった模様)。

 とはいえ、そんな赤野氏も有名タイトルを遊んだことがある。たとえば『ファイナルファンタジーVII』。子どものころに本作を遊んだものの、当時はミッドガルから出る方法がわからずにやめてしまったそうだ。
 それから幾星霜、大人になってからクリアはしたものの、それは低評価となってしまったスペイン語版【※】だった……。

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※スペイン語版『FFⅦ』……スペイン語版の『ファイナルファンタジーVII』は、日本語→英語→スペイン語と翻訳される過程で翻訳の品質が悪かったために、とんでもないことになってしまったと言われている作品。たとえば、クラウドが「よっしゃ! いくべ!」というようなセリフを連発していたり、「超究武神覇斬」が「マルチ鞭」という名前になってしまっているなど。詳しくはtogetterにまとめられている。

 幼いころの赤野氏は、ときにゲームで詰まってしまうことがあった。そんなときは子どもの常で父親を頼ったそうだが、何を訊いても父からは「がんばれ」としか言われなかったという。
 次第に赤野少年はゲームのおもしろさがわからなくなり、しかし父親はがんばれとしか言わないわけで、そのうち「俺はまだ楽しみを見つけるがんばりが足りないのではないか?」と思うようになっていった。

 さらに成長すると「ゲームは変わらないが、自分は変えることができる」ということに気づく。

 これは要するに「たとえ他人が低評価をしようとも、自分がそこから楽しみを見つけることができるようになればいいじゃないか」ということだ。
 この点に関しては氏にとてもすばらしい精神が育まれたとも思えるが、おかげで詐欺師から分かっていて70万円で国辱ゲームを買うことになってしまうのだから、彼の父親もいまごろ頭を抱えているのかもしれない。

上海ではゲーム屋の看板、台湾では『虹色の青春』の同人攻略本を購入

 こうしてあらゆるゲームの面白さを再確認しようと決意した赤野氏は、国境を越え、海外でも低評価ゲームを探すことになる。ニューヨーク、ロサンゼルス、香港、台北、北京、上海などゲームを探しに向かった先はじつにさまざまだ。それらの地でもたくさんの思い出を作っている。

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 上海では、いわゆる「○○○ in 1」系のゲーム【※】を求めて、とあるショップへと向かった赤野氏。
 店内がわずか一畳程度しかなかったというこの店は、ふつうのアパートの窓を売り買いの場にしているような商店が居並ぶ辺鄙な場所にあり、周囲の店は立ち退いたのか、ほとんどが閉まりつつあったという。

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※ 「○○○ in 1」系のゲーム……いわゆる海賊版のゲーム。ひとつのファミコンカートリッジに数十から数百程度のタイトルが収録されているという夢のような違法製品だが、実際はキャラクターや色を変えて水増しされていたりする。

 そのせいか、その店は近くの店が取り扱っていた商品を仕入れるようになり、ゲームや電気製品と並んで近くのスポーツ用品店から流れてきた水泳用ゴーグルが置いてあったりするというのだから奇妙なものだ。
 赤野氏が訪ねたときにはすでにレアなゲームは漁られており、店員のおばちゃんのオススメを訊くと、『はねるのトびらWii ギリギリッス』【※】を薦められたとのこと。

 こうやって朽ちていくひとつの文化に触れ、何かを感じた赤野氏は思い出として、店の看板を500円で買い取ったという(その際は店のおばちゃんにたいそう怪しまれたらしい)。

※ はねるのトびらWii ギリギリッス
2007年にバンダイナムコゲームス(当時)から発売されたWii用ソフト。当時放送されていたお笑い番組「はねるのトびら」の中にある1コーナーをゲーム化したもので、お馴染みの芸人たちが登場するミニゲームを遊べる。

 一方、台北では『ときめきメモリアル ドラマVol.1 虹色の青春』【※】の同人誌を購入してきている。
 これは台湾のファンが勝手に作った攻略本で、家庭用プリンターで作られているため手作り感に溢れている(ノンブルはボールペンで手書き)。

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赤野氏が台北で手に入れた同人誌の表紙

※ときめきメモリアル ドラマVol.1 虹色の青春
1997年にプレイステーションとセガサターンで発売されたソフト。恋愛シミュレーションゲーム『ときめきメモリアル』のスピンオフとなるタイトルで、人気ヒロイン「虹野沙希」との恋愛がアドベンチャー形式で描かれている。

 内容は3割くらいサッカーのミニゲームの攻略になってしまっているが、それでも著者の情熱が感じられ、異国のゲームタイトルを自分たちで攻略し、それを本にまとめる……こういったゲーマーの熱意のようなものが好きな赤野氏は、あらゆる場所へ出向き、自分より優れたオタクを日夜探しているのだ。

ゴミとして埋められていた『E.T.』の芳醇な香り

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CHEETAHMEN2……海外版ファミコンであるNES用に開発されたアクションゲームだが、正式には未発売。こちらは非公式品の模様。あまりにも操作性がひどいうえ、バグでプレイできないステージがあるなど評判はかなり散々となっている。ニコニコ動画で一時期ブレイクしたことも。画像は来場者の誰かが持ち込み、いつのまにかそっと展示していた『CHEETAHMEN2』。かなりレアなソフトらしく、赤野氏は実物に興奮しつつ、「主役(自分)を食うようなゲームを持ってくるな!」と冗談めかして怒っていた。

 このほかにも、赤野氏の著作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の執筆秘話が公開されたり、事前に「わたしの考えるゲームの未来」というテーマで募集していた読者投稿を紹介したり、超レアな『CHEETAHMEN2』が参加者によって持ち込まれいつのまにか展示されていたりと、トークショーの内容は盛りだくさんで、すべてを紹介しきれないほど。

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ゴミとして地中に埋められていた『E.T.』……1982年、大ヒット映画『E.T.』を題材にしたゲームソフトがATARI 2600で発売された。これはかなりの売れ行きを見込んで大量生産されたものの、ゲームの品質の評価の低さや生産過剰などが重なり、あまりにも多くの在庫として残ってしまい、結果、余剰のカートリッジがアメリカはニューメキシコ州アラモゴードの埋立地に廃棄処分されることになり、いつしか都市伝説化していった。ところが2014年になってその伝説を確かめるドキュメンタリー番組により掘り返され、実際のできごとだったと判明したのだ。赤野氏は出土したひとつをオークションを通じて購入。今回のトークショーでも展示を行った。氏によると現在は「だいぶ臭いはマイルドになっていて、むしろ俺の家の臭いが混じっている」とのこと。画像は埋められていた『E.T.』。赤野氏はかつてこれをビニール袋に包み、いい加減に保管していたため、私(筆者)が怒ったところ、ダイソーで売っていた100円ケースに入れて保管することになった。

 休憩時間には、ゴミとして地中に埋められていた『E.T.』の臭いを嗅げるコーナーも用意された。
 このカートリッジは実際にゴミ捨て場に埋められていたもので、よくわからない紙がカートリッジに貼り付いてしまっているうえ、触るとポロポロと土がこぼれる。おまけに腐った何かが中に入り込んでいるのか、酸っぱい臭いもする。

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ニューメキシコに埋められていた『E.T.』の話は来場者の皆さんもご存知のようで、実際に臭いを嗅げるとなると長蛇の列に。ろくでもない光景なのだが、臭う『E.T.』を持ってお客さんに嗅がせて回る筆者も、嗅ぐ人も、見守る赤野氏もなぜか皆楽しげだった

 赤野氏が書く小説はおもしろいが、本人はさらに輪をかけて風変わりな人物だ。話をさせてもニコニコの実況で鍛えた成果か、トーク力を発揮し、その場は嫌でも盛り上がる。
 イベント当日は、とにもかくにも盛りだくさんにもほどがある内容で、ふつうであれば知ることのないビデオゲームの、ある意味、歴史の裏側を垣間見たようなイベントとなった。

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イベント終了後、サイン会を行う赤野氏。低評価ゲーム愛好家に男女の差はなし。女性のお客さんも遊びに来ていた

 今回のイベントは大阪で開催されたものだったが、熱い声援があればもしかしたら同様のものが東京でも行われるかもしれない
 ゴミ捨て場に埋められていた『E.T.』の臭いを嗅ぎたい人、約70万円もした『血獅』を間近で見てみたい人、そして『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』を読んで氏のファンになった方は、ぜひとも今後とも赤野工作氏の活動を見守り、応援し続けていただきたい。

 ※2017年11月29日12時 一部記事内容を修正しました。

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 電ファミでは、本稿のイベント出演者・赤野工作氏と、作家の渡辺浩弐氏の対談も掲載中。赤野氏が小説『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』を書いた動機、そしてゲームとメタフィクションの相性の良さとは?

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著者
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「マリオの乳で育った男」と自称するフリー・ゲームライター。いくつかのメディアでゲームニュース、レビュー、コラムなどを担当。自分が書いた記事で気に入っているのは「なぜこのゲームが「モンハン」の次に売れるのか…? 『Ice Station Z』から見る3DSという市場の特殊性とゲームの評価の難しさ」。好きなキャラクターは「しずえ」と「カービィ」。
Twitter:@SSSSSDM
イベント出演
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ゲームストリーマー。『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』で作家デビュー。ゲームコレクターとしても活動しており、ニューメキシコ州はアラモゴードに実際に埋められていたATARI 2600の『E.T.』や、中国で国辱と呼ばれているMS-DOS用ソフト『血獅』などを所有。古今東西の低評価ゲームを探しては再評価する活動を続けている。
Twitter:@KgPravda

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