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実写版『アイドルマスター』を3周した男の告白、私たちは既に「アイマスKR」の登場人物だったのです──過酷なアイドル・サバイバルの裏で崩壊する“第四の壁”

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「俺はこれまで、アイドルマスター.KRをまだ見ていない人のことが信じられなかった。しかし今はただ、アイドルマスター.KRを見ていない人が羨ましくて仕方がない。これから初めて、アイドルマスター.KRを見れるからだ。」

 

 これは、電ファミに幾度となく登場し、その都度「その発想はなかった」という視点からビデオゲームを語る、ゲームストリーマーの赤野工作氏が、自身のツイッターで呟いた熱い想いだ。氏は空想ゲームレビュー小説『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の作者であり、古今東西の低評価ゲームを自分の手でプレイしては、ニコニコのコミュニティなどで再評価する活動を続けている人物である。

 

 氏にここまで言わせる『アイドルマスター.KR』は、その名からも想像がつくように、韓国版で制作された『アイドルマスター』だ。だが、それだけでは計り知れない部分も多々ある。そこで、どのような作品なのか、本作に関する内容の解説を赤野氏に依頼することとした。

 

 ……そして数日後、すっかり『THE IDOLM@STER』世界の登場人物になってしまった赤野工作氏から、熱い寄稿文が到着した。ご覧いただきたい。(編集部)

文/赤野工作


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 突然ですが、皆さんにお願いがあります。最初に言っておきますが、これはレビューではありません、単なるお願いです。皆さんは『THE IDOLM@STER』というゲームをご存知ですか? そうです、ゲーム・アニメ・ステージイベントと幅広いメディアミックスを続ける、バンダイナムコエンターテイメントの誇るアイドル育成ゲームシリーズ──あの『THE IDOLM@STER』の話で間違いありません。

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(画像はTHE IDOLM@STER OFFICIAL WEBより)

 自分でもおかしな話をしている自覚はあります。でも、とりあえず最後まで話を聞いてみてください。最近になって私は、この『THE IDOLM@STER』と現実の区別がつかなくなってしまったと言うか……ごめんなさい、自分でもどうかしている話だとは思うんですけど、「自分は『THE IDOLM@STER』の登場人物の一人なんだ」という思い込みが、どうしても止められなくなってしまったんです。

 だから、こうして公開されているこの記事も、決してレビュー記事なんかじゃありません。正真正銘『THE IDOLM@STER』の登場人物の一人として、私は皆さんへお願いしているつもりです。お願いです。ほんの少しだけでいいんです。皆さんに、どうしてもご覧になってほしい作品があります。詳細はこれから話します。私を信じて、『アイドルマスター.KR』というドラマを見てくれませんか。

そもそもアイドルマスター.KRって?

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 そもそも『アイドルマスター.KR』は、Amazon Prime Videoにて配信が行われている、「THE IDOLM@STER」シリーズ初のドラマ化作品です。タイトルに「KR」とある通り、ドラマは韓国で撮影が行われており、舞台が韓国なら出演するキャストやスタッフも大半が韓国出身。「アイマス」初のドラマシリーズとは言え、アイマス」の名前が冠された「純正の韓流ドラマ」とも言っていい作品でした。

 目下Amazonでは5点満点中で星4.6の高評価を得ている作品ですが、2016年春に製作発表が行われた段階では、日本のファンの反応は賛否両論だった事を覚えています。私だってそうです。なにせドラマの舞台は原作とは全く無縁の韓国で、出演するメンバーですらまったくの未定という状態でしたからね。「本当にこれは「アイマス」と呼べる作品になるのか?」という不安は、どうしても拭えなかったんです。

 しかしながら、第一話が配信された2017年4月28日から、最終回が配信された2017年10月6日に至るまでの半年間。私は結局、かつて自分がそんな不安を抱いていたことをすっかり忘れて、このドラマの世界に没頭し続けました。理由は簡単です。面白すぎたからです。このドラマが。毎週毎週。そもそもドラマが毎週毎週面白すぎて、そんなこと不安がっている余裕がまったくなかったんです。

描かれるのは過酷なアイドル・サバイバル

 まずは序盤のストーリーを説明しておきましょう。今から1年ほど前──10名の女の子がアイドルを目指し始めた瞬間から、このドラマの世界は始まります。

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 超人気アイドル「RedQueen」のメンバーを妹に持つ「スジ」は、妹を不慮の事故で亡くして以来、生きる目的を見失っていました。しかし妹が亡くなってから1年、妹の墓参りにきた彼女の前に、意外な人物が姿を現します。その人物の名前はカン・シンヒョク。「RedQueen」を超人気アイドルへと成長させた敏腕プロデューサーであり、妹の死後、長らく芸能界から行方を眩ませていたはずの男でした。

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 人気絶頂の最中に死んだ妹と、業界から姿を消したプロデューサー。スジは妹の死の真相を知るカン・シンヒョクを問い詰めますが、彼は妹に何があったのかは語ろうとしてくれません。それどころか、妹を失って無気力な生活を送っていたスジを見て、逆に彼女にこんな提案を持ちかけてきたのです。「死んだ妹の代わりに、君が彼女の夢を成し遂げてみないか」──スジに、アイドルになってみないかと。

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 それから数日後──韓国某所にある新興アイドル事務所「825エンターテイメント」。その小さな練習室に、韓国各地から10人の少女達が集められていました。彼女達をこの場所に集めたのは、渦中の男カン・シンヒョク。彼女たちこそ、カンがプロデューサーとして新しく立ち上げるアイドルグループ「RealGirlsProject」、そのメンバーとして集められた10人の夢見るアイドル練習生達だったのです。

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 825エンタに拾われる前からアイドルを目指し続けてきたアイドル練習生5人組。不愛想なクラブDJにストリート出身のラッパー。韓国語の怪しいタイ人のお嬢様に引っ込み思案のアイドル志望。そして、亡くなった人気アイドルに瓜二つの姉。彼女達はそれぞれ異なる理由でこの場所に集まってきましたが、全員が胸に同じ夢を秘めた仲間同士でもありました。それは、「アイドルになりたい」という強い夢。

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 しかしながら、「アイドルになりたい」という夢を持っている以上、彼女達は仲間であると同時にライバルにもならなくてはいけません。ここに集められた10人の中から実際にデビューすることが出来るのは……成績上位の数名。それもカン・プロデューサー曰く、練習成果は動画サイトで定期的に公開され、誰がデビューするのかは「ファン投票によってのみ決定される」と言うではありませんか。

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 10人のアイドル達はある日突然、「デビュー組」「ルーキー組」という二つのグループに分けられ、合計5つのミッションで競わされることになりました。仲間達と団結し、衝突し、相談し、一歩一歩前進していかなければ、この戦いを勝ち抜いて、アイドルという夢を叶えることは出来ないでしょう。過酷なアイドル・サバイバル『アイドルマスター.KR』は、こうしてドラマの幕を開けたのです。

まずはPVを見て頂きたい。可愛いから

 次に知っていただきたいのがステージ演出です。一目見た時から、このドラマのステージ演出の力の入れように心を鷲掴みにされました。原作ファンの皆さんは、是非ドラマ向けに編曲された「THE IDOLM@STER」のPVを見てみてください。ごめんなさい、依頼されて書いている文章としてはちょっと許されないレベルの言葉で語ってしまいますけど、なんて言うか、もう単純に、可愛いでしょ。アイドル達が。

 もしかすると私がチョロいだけなのかもしれませんけど、やっぱり可愛いでしょ? 歌って踊るアイドル達。彼女達「RealGirlsProject」は10名のメンバーから構成される劇中のアイドルグループなんですが、実は演じているのは女優さんではなく本物のアイドル。最初からステージパフォーマンスの為にダンスを訓練されているので、劇中のダンスもそれはもう「迫力」があるんですよ「迫力」が。

 原作シリーズの曲である「THE IDOLM@STER」に「アイ MUST GO!」。ドラマオリジナル曲である「DREAM」や「ONE FOR ALL」。劇中で歌われる曲の数々が、彼女達のイメージに合わせてガーリィでポップな編曲が多いのも印象的です。「THE IDOLM@STER」なんて、本来ならもっとこう……、アイドルを夢見る女の子のその強い覚悟を歌った、そんな厳しささえある曲のはずですからね。

 『THE IDOLM@STER』シリーズには、「アイドルを目指す女の子」がテーマの名曲がいっぱいあるでしょう? 「M@STARPIECE」、「お願いシンデレラ」、「THE IDOLM@STER」……。当然このドラマにも「アイドルを目指す女の子」をテーマにした曲はたくさん用意されています。そしてそれらの曲の歌詞を読んでいると、このドラマが目指す「理想のアイドル像」を、何となく感じる事が出来るんです。

なにか違和感を感じませんか?

 勘の良い方なら、既に何かしらの違和感を覚えているのではないでしょうか。例えば。私は先ほどあらすじの中で、RealGirlsProjectのメンバーは全員で「10人」だと言いましたが、PVをよーく見てみると全部で“19人”いませんでしたか? そもそも動画タイトルも「A Team」「B Team」と書かれていますけど、私は先ほどアイドル達は「デビュー組」「ルーキー組」という二つのグループに分けられたと説明しました。

──そう、現実の情報とドラマの情報が、微妙に食い違っているんです。

 せっかくなので、違和感ついでにここでドラマのメインキャストである「RealGirlsProject」のメンバーを紹介しておきましょう。まずはルーキー組の5名から、左から順に天才肌のスジ、大人しいイェウン、クールなジスル、お嬢様のミント、ラッパーのハソ。続いてデビュー組の5名。左からリーダー格のヨンジュ、最年少のお子様ジェイン、最年長のお姉さんソリ、ムードメイカーのユキカ、そしてリアリストのジウォンの5名。……やっぱり、19名ではありません。

 演じているのは、いずれも本人です。本人とは、そのままの意味で本人。例えば、唯一の日本人である「ユキカ」は、演じているのはそのまま本人の寺本來可さん。人物設定も演じている本人のプロフィールに近いものが作られていて、キャラクターとしての「ユキカ」は日本での芸能経験がある設定になっていましたが、演じている寺本來可さん自身がもともとニコラのモデルオーディションで優勝した経験のあるモデルでもありました。

──今度は、現実の情報とドラマの情報が、微妙に重なり合っていますね。

このドラマは現実と区別がつかない

 実はこのドラマ、視聴者が「現実との区別がつかなくなる」ように、ある特殊な作り方で製作されていたドラマなんです。

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 第一話を視聴した時点では、私はまだこのドラマのことを「面白い」としか思ってなく、「現実と区別がつかない」とまでは思っていませんでした。しかし3回ドラマを見直して、ようやく私は、このドラマがどうやって製作されたかという秘密に気が付きました。

 皆さんは、「モキュメンタリー」という言葉をご存知ですか? リアリティのある映像作品を製作するために、架空の存在がまるで現実に存在するかのように見せかけた偽物のドキュメンタリーを作ってしまう手法のことです。

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 いや、この『アイドルマスター.KR』がモキュメンタリーだと言いたいわけじゃありません。むしろ、その全くの逆。これは「リアリティのある映像作品を製作するために、架空の存在を現実に存在させてしまったドラマ」だったんだと、私はそう言いたかったんです。

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