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廃ゲーマーの採用とかホントに大丈夫!? 「ゲーマー採用」を始めた面白法人カヤックに知人のゲーマーを連れて問い詰めてみた

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 これまで数々の「面白採用キャンペーン」で世間を騒がせてきたのが、クリエイター集団「面白法人カヤック」。そんなカヤックが今年世に送り出したのが、その名も「いちゲー採用」だ。
 「一芸採用」をもじった今回の採用では、「ゲームなんて時間のムダだ」という固定観念を打ち破り、ゲームに捧げた時間や情熱、そして育まれた問題解決能力を評価するのだとか……。でも、本当にうまくいくの?

 電ファミニコゲーマーでは、そんなゲーマーにとっては夢のようなキャンペーンの仕掛け人である同社の人事部・みよしこういちさんにインタビュー。なんと、大学院修了後ボードゲーム制作をして生計を立てていたというみよしさん。実際に「就活でゲームの話ばかりして大手企業に内定」した経験を持つゲーマー・ドスさんを交え、今回の採用に込められた思いとゲームへの愛を聞いた。

取材・文/透明ランナー
取材/鈴木慎之介
構成/ひらりさ


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(画像は「いちゲー採用」の公式サイトより)

すでに150人が「プラチナトロフィー選考」に応募!

毎年おもしろい採用キャンペーンを仕掛けているカヤックさんですが、今年はゲーマーを狙い撃ちする「いちゲー採用」を始めたそうで。

今回の選考は「プラチナトロフィー選考」「ゲーム履歴書選考」「協力プレイ選考」の3コースに分かれています。1つ目のプラチナトロフィーはPlayStationのゲームのやりこみ具合に応じて手に入る栄誉ですけど、これを持っているだけで一次選考を飛ばして即面接になります。

即面接! これはいったいどういう意図でつくった選考なんでしょうか?

今回の採用にあたって社内でブレストしたんですけど、「プラチナトロフィーは取るのが難しいものが多いから、あれを持っているだけでいいと思う。絶対にスゲー頑張っているはずだから」という意見が多くの社員から出まして。これについては半年以上前に決まってましたね。

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プラチナトロフィーを持っていれば即面接まで進めるプラチナトロフィー採用。(画像は同ホームページより)

なるほど。ちなみに今どのくらい応募が来てるんですか?

現時点で150人くらいのエントリーが来てます。

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結構、来てますね(笑)。

実は物理系や数学系の大学院生が多いんですよ。「ゲームやりながらビッグデータ解析してます」みたいな。「早く閉じないと、このまま1,000人の応募がきて1,000人と面接することになるぞ」とか社内で言われてますね。まあ、面接に来ない人もいるんじゃないかなと思いつつ(笑)。

ゲーム好きアピールで内定した男は「いちゲー採用」をどう見た?

それで、今日は「いちゲー採用」について深く聞いていこうということで、ゲーマーの人を連れてきました。

よろしくお願いします。ドスと申します。大学院をこの春に修了し、今月から新社会人になりました。ぼくがしょっちゅうやってるのは格闘ゲームですね。昨年就職活動をしていたときも、自己PRで格ゲーをやりこんだ経験を話して選考をやり通しました

それはまた(笑)。どういう話をしたんですか?

格闘ゲームは人と対戦するゲームなので、ゲームを通じて自己研鑽を繰り返し行ってきた、というアピールをしました。「こういう戦法がいいんじゃないか」ということを考えて、実践して、結果を確認して改善していく、と。わからないことがあったら先輩ゲーマーに聞くというのも怠らなかった、というアピールもしましたね。

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『ストリートファイターV』(画像左)や「GUILTY GEAR」シリーズ(画像右は『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』)は、学業と両立しながらプラチナトロフィーを取る一歩手前までやりこんだ、と語るドス氏。
(画像はAmazonより)

要するに、PDCAを回す経験を重ねてきた、と。

※PDCA
Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Action(実行)の頭文字を合わせた造語。PDCAサイクルとも言われる。4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善するための指標とされている。

そうですね。「ゲームを通じて、私は自己改善能力やコミュニケーション能力、そして粘り強く取り組み続ける力を育んできました!」とアピールして、なんとか内定をいただいた次第です。でも体感として、就活でゲームの話をするのはやっぱり難しいな……とも思いました。

まあ、そうですよね(笑)。でも一方で、「就活生がみんな同じようなことを言う」と頭を抱えている人事の話も聞きます。

そうなんですよね。ぼくはゲームに限らず、もっと日常の話にそいつの強みが隠れている気はずっとしてるんで、そこを聞きたいんですよ。

でも、「運動部で全国大会に出ました」みたいな話と違って、「ゲームやりこんでプラチナトロフィーとりました」みたいなのをPRしても、人事の人に分かるのかな……とか不安になりますよ。まあ、ぼくの場合は普通の人のようなPRポイントがなかったので仕方ないんですが。

ゲームをやりこんでもクリエイティビティは育たない?

そんなドスさんにとって、今回の「いちゲー採用」はどう思いますか?

いや、そこはゲーマーなら、とりあえずやって損はないよねとは思いますね。ただ、ゲームをやりこんだことが社会的に評価されることなのかについて、ぼくは手放しでは同意できなくて。

といいますと?

ぼくは就活で「ゲームを通じてコミュニケーション能力も伸ばした」という話をしたけど、ゲームってやっぱり基本的に一人でやるものじゃないですか。マルチプレイのゲームはあるけど、ゲーマーであればあるほど、自分の中に閉じていく気もする。実際、社会的にはダメ人間なゲーマーって多いですし……(笑)。

実感のこもった意見ですね……。

あと、ゲーマーはそこまでゲームを通じて自分の創造性を発揮してないんじゃないかとも思うんです。「こういうゲームにしたらもっと面白いんじゃないか」と考えられる人と、ゲームを攻略することに焦点を当てている人は、人種として結構違うんじゃないかと。

なるほど。ドスさんご自身はどちらですか?

ぼくは攻略が好きなほうですね。効率の観点で手っ取り早い方法をどんどん探していくのが好きです。やり込み系の人なんかは、例えばいろいろな縛りプレイなどで自分の創造性を発揮していくかもしれないですけど、結局ゲームのルールにしたがってやっているに過ぎなくて、あんまり「開けた創造性」とはいえない気もしています。

2つ目の「ゲーム履歴書選考」では、そういう2タイプの人間に向けて6つ質問を用意してるんです。最初の3問はやりこんでいるタイプのゲーマーに対して、自分の思考法を書いてほしいという意図のものです。後半の3問は、「俺は本当はこういうゲーム作りたいんだけどな」というもので、そんなにゲームをやりこんでいるわけではない人たち向けなんです。

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選考で設けられている6つの質問。「一番やりこんだゲームソフトと、そこから学んだことを教えてください」などはやりこみゲーマー向け、「自分が考えた攻略法を教えてください」などはゲームクリエイター向け。(画像は「いちゲー採用」ホームページより)

そのなかから「2問選んで回答してください」としていることで、バランスをとってます。

あー、そう言われてみると、「これは書きやすいけどこっちは書きにくいな……」というふうには思ったので、個人個人のパラメーターをバランスよく見られるようにしてるんですね。

ゲーマーもテニサーも本質的には同じ?

実際のところ、今回の「いちゲー採用」のページを見てどう思いました?

ゲーマーに理解があって、ゲームの話をすることが前提になってるのは、またとないチャンスだなと思いましたね。一見奇をてらった採用にも見えますけど、「頑張ったこと、そこから学んだこと」「他人と協力して成果を出した経験」といったところは、他の一般的な就活と本質的には変わらない気がしました。

そうなんです。「テニスやってました」とか、「学生団体でこんなこと頑張ってました」と、まったく同じでいいんですよね。普通にエントリーシートを書いてもらうのでまったくかまわない。普通のエントリーシートを、ゲームを通じて書けるようにと思っていて、その気持ちだけ伝わってほしかった。

ぼくは格ゲーが本当に好きで、一生懸命やっていたんですけど、じゃあそれを面接で「ゲームやってました」と言うのもなあ……というアンビバレントな気持ちがあって。そのときに、「自分が持ってるフックはなんでも使っていいんだよ」というメッセージを企業側から発してもらえると、だいぶ気楽ですよね。

うちのエントリーで書いてもらったことを他社の普通の人事が読んでも、「あれ、めちゃめちゃいいこと書いてあるな」と思うはずですよ。そういうのを、今回の「いちゲー採用」だけじゃなくて、ゲーマーの方がいろいろなところでやってくれるならぼくはいいと思うんですよね。

気になるんですが、3つ目の「協力プレイ選考」というのは……。

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協力プレイ選考の題材には『New みんなのGOLF』と『THE PLAYROOM VR』が使われる予定。(画像は同ホームページより)

つまりグループワークのようなものです。3月初めの合同説明会への出展で試してみましたが、やっているときにどういうコミュニケーションを取るべきかと、なかなか人事としても課題が多かったです。

なぜ数あるゲームの中から『みんなのGOLF』(以下、『みんゴル』)を選んだんですか?

『みんゴル』って、一打打つごとに「いや、ここはもうグリーン一発狙ったほうがいいよ」とか、「俺はそんなに得意じゃないから、一回前に落としたい」という会話が自然と発生するじゃないですか。他のゲームに比べても適度なコミュニケーションが起きやすいんじゃないかと思って。

人事としてはどういうところを見ているんでしょうか?

2~3人くらいでチームを組んでもらって対戦するんですけど、自分の実力だけじゃなくてメンバーの実力も考慮しないといけないじゃないですか。うまい人たちだけで回していくわけじゃないので、お互いの強みを把握したうえでコミュニケーションができるのかということですね。

なるほど。プレイ中の会話でコミュニケーション能力を見ていると。

ぼくが昔ボードゲームを作っていたときに、ボードゲームで選考したことがあるんです。そこで思ったのが、人間って目標に向かって何かの作業をしているときのほうが素が出るってことなんです。それでいうと、誰かがミスったときにどんな反応をするかなということを一番見てましたね。そういうところに出てくるので。

そこから、会社に入ってからの仕事の仕方が想像できる?

そうですね。ぼくらの会社はブレストや企画の際に「人の考えに乗っかっていく」という文化を推奨しているんです。アイデアや成果が出せなかった人に対して「お前何で打てなかったの?」と聞いたところで、次打てるわけではないではないので、「ってか俺が全然カバーするし」みたいなことを言える人のほうが合うだろうなと思います。

まあ、既存のグループディスカッションって、あまりにもスタンダードになりすぎていて、就活生にとっても一種の手続きというか、ロールプレイングになってますよね。

ゲームってコミュニケーションがありながら目標が明確なので、選考とのなじみがいいように思うんです。グループディスカッションで「正義とは何か語ってください」と言うよりかはマシかなとぼくは思ってます(笑)。とくに、カヤックにとっては。

本当に大丈夫? 「いちゲー採用」

うーん。でも「いちゲー採用」で実際に来た人たちがすごいダメな人ばっかりだったらどうしますか? ゲームには夢中になれるけど仕事は……って人、正直結構いると思うんですよ(笑)。

ぼくも結構いるだろうなと思ってます(笑)。それでも、うちを受けたいと思ってくれるのであれば、面接はしたい。門戸を狭めるよりは、来てもらったうえで判断できればなと。うちの会社って、これまでにも「変わった人」がたまにいました。

そうなんですか(笑)。

それでも、よくわかんないけどとりあえず採って、合いそうなところに配属してきて、意外とうまくいってるんですよ。選考に応募してくれたゲーマーの中にも「この人ちょっと本当によくわからないけどヤベーな」みたいな人は全然いるだろうけど、うちの会社なら大丈夫だろうと最初から思ってますね。

本当に大丈夫ですか(笑)。

うちの面接担当者が、それをちゃんと見られる人間だという信頼に基づいた企画ですよ。

カヤックに来る前はボードゲーム制作

ちなみに、さっきボードゲームを制作していたとチラッと言ってましたが、どういうことですか?

数学科の大学院を出てから5年間くらい、ボードゲームを制作して生計を立てていた時期があったんです。でも一般の方に楽しんでもらうB2C【※1】のものではなく、企業向けのB2B【※2】のボードゲームなんです。

※1 B2C
Business to consumerの略。企業・事業者が、一般の消費者に向けて商品・サービスを提供すること。

※2 B2B
Business to Businessの略。企業・事業者が、企業・事業者に向けて商品・サービスを提供すること。

へええ。B2Bのボードゲームってどんな感じなんですか?

アメリカだと、自分たちの会社の利益構造を社員に学ばせるようなシミュレーションのできるボードゲームがあって、会社説明会とか研修で使うんですね。みんなが楽しむためのゲームというより、学ばないといけないことを学ぶためのゲームですね。ゲームをやっているうちに自分の会社の強みがわかってくる。

なるほど、そこからカヤックに入った、と。

いろいろあっていま6年目ですね。2011年からずっと採用キャンペーンにかかわっているので、社歴も人事部歴も6年目です。そういう経歴なんで「世間の『採用』ってよくわかんねーな」とずっと思っていますよ(笑)。

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なるほど(笑)。

今回の「いちゲー採用」もそうですけど、今まで「#バックトゥザフューチャー採用」【※】「佐藤採用」【※】「エゴサーチ採用」【※】をやってきました。

※1 #バックトゥザフューチャー採用
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にあやかって、主人公がタイムマシンに乗ってやってきたとされる20151021日に実施された選考。2045年の世界で流行っているサービスや製品、テクノロジーをツイッターでつぶやき、最も真実味のあるレポートをしてくれた人を面接に招待するというもの。

※2 佐藤採用
2015年に実施。佐藤という苗字のクリエイターが多いことに注目し、面白法人カヤックの株主の中から、苗字が「佐藤」の人を採用してみようというアイディア。

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※3 エゴサーチ採用……2016年に実施。普段からWebで情報発信をしている人たちを対象として、履歴書の代わりにGoogleでのエゴサーチの結果をもとに行う選考。

え、あのインパクトあるキャンペーンを打ってきたのはみよしさんだったんですか。

ぼくとしては、「全人類、その人の強みだけ見てもらって生きていれば幸せなのにな?」と思ってるんです。うちの会社ってぼくも含めてダメな人がわりと多いんですけど(笑)、だからこそ強みを生かして働けていると思うんですね。なので採用活動でも、それが好きな人にちゃんと強みをアピールしてもらいたくて、だから「いちゲー採用」をやってるんです。

なるほど、そんな壮大な目的が(笑)。「いちゲー採用」の結果が数年後にどう出るか、楽しみにしています。今日はありがとうございました!

 

プロフィール
電ファミニコゲーマー編集部員。映画を観るのとアナログゲームをするのが好き。
Twitter:@_k18

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