幻の『グラディウスⅢ』AMショー版を収録。
そして、令和に『沙羅曼蛇』の新作が蘇る──。
2025年3月27日に配信されたニンテンドーダイレクトで電撃発表された、『グラディウス オリジン コレクション』。
『グラディウス』シリーズのコレクション作品の発表に、往年のシューティングファンは拍手喝采を送り、若いゲーマーはその詳細に対して困惑したかもしれない。なにしろ全7タイトルで、18ものバージョンが収録されているのだ。
とりわけ『グラディウスⅢ 伝説から神話へ』(以下、『グラディウスⅢ』)に関しては、1989年に2日間開催された「アミューズメントマシンショー」(通称:AMショー)に出展されたバージョンのロムを“発掘”し、本作に収録。さらに、完全新作である『沙羅曼蛇Ⅲ』を開発して同時収録するという離れ業をやってのけているのだ。
この圧倒的かつ変態的な物量を前に、「まずはいったん落ち着こう?」と自分に言い聞かせつつ、電ファミ編集部は本作の開発陣にインタビューを慣行した。
取材に応じていただいたのは、KONAMIで今回『グラディウス』シリーズへの想いをタイトルへと結実させた上野亮作プロデューサーをはじめ、開発を手掛けた有限会社エムツーの堀井直樹社長、河内武博ディレクター、久保田和樹ディレクターの4名。いずれも自他ともに認める『グラディウス』に心を焼かれた方々である。
いったいなぜ幻だった「AMショー版」のロムを発掘できたのかなど、往年のシューターにとって気になる情報の数々をお伝えしたい。
聞き手/豊田恵吾
文/澤田アツシ
編集/kawasaki
カメラマン/佐々木秀二
40周年を機についに実現した、KONAMI謹製による『グラディウス』最新作
──今日はよろしくお願いします。はじめに、皆さんの本作における役割と、簡単な自己紹介をお願いします。
上野亮作氏(以下、上野氏):
KONAMIの上野です。『グラディウス オリジン コレクション』では、プロデューサーを務めています。過去シリーズ作の資料の調査や収集、エムツーさんとのやり取りなどの、KONAMI側の窓口も担当しています。
河内武博氏(以下、河内氏):
ディレクター1号のエムツーの河内です。エムツー側のディレクションを統括しており、上野さんとのやり取りも担当していました。
久保田和樹氏(以下、久保田氏):
じゃあ僕は、ディレクター2号の久保田です(笑)。最初は河内がメインディレクターを担当していたのですが、僕は自社ブランド『エムツーショットトリガーズ』【※】を統括していることもあり、プロジェクトの途中から駆けつけました。チーム内では“リリーフピッチャー”と呼ばれています。
※エムツーショットトリガーズ:
エムツーが自社展開を行う、アーケードやコンシューマーゲームの忠実な移植を目的とするパブリッシングブランド。
堀井直樹氏(以下、堀井氏):
いち『グラディウス』ファン、エムツーの堀井です。
──(笑)。エムツー代表取締役社長の肩書きよりも「いち『グラディウス』ファン」のほうが優先度が高いのですね(笑)。
堀井氏:
『グラディウス オリジン コレクション』のプロジェクトが発足したとき、たまたま会社の社長をやっていたことから、職権乱用でプロデューサーという肩書にして潜り込みました。今回はファンとして好き勝手に楽しんだ感じです。
一同:
いやいやいや(笑)。

──本作の発表はかなり大きなインパクトがあり、往年のシューターは歓喜しました。本プロジェクトが立ち上がった経緯と、エムツーさんとタッグを組まれたことについて教えてください。
上野氏:
KONAMIのパブリッシングによる『グラディウス』の名を冠したゲーム作品は、2010年にブラウザゲームでリリースした『グラディウス・アーク -銀翼の伝説-』を最後に発売されていませんでした。もちろん、「アーケードアーカイブス」【※】を通じて何タイトルかは出させてもらっていたり、「アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション」に収録もされていましたが、いつか再び『グラディウス』の名を冠したタイトルを世に送り出したいと、2017年くらいからずっと考えていたんです。
2025年は初代『グラディウス』がアーケードゲームとして登場してから、40周年を迎えます。この機会にぜひ作ってみたい。そしてもしやるなら、できれば新作タイトルも収録したい。であれば……ということでエムツーさんに相談したところ、意気投合していまに至る、という感じです。
堀井氏:
本当にありがたい話です。
じつは、エムツーからKONAMIさんに向けて、かねてより「あれがやりたい」「これがやりたい」と、いろいろな企画書を提出していたんです。でも『グラディウス』関連の企画は、これまではひとつも通らなかった。だから今回、KONAMIさん側から提案をいただいたときは、本当にびっくりしましたね。
上野氏:
KONAMIが「PCエンジン mini」(2020年発売)を展開した際、エムツーさんには収録タイトルの移植作業をお願いしていましたが、その前からさまざまな提案書をいただいていて……。過去にエムツーさんが『Castlevania Advance Collection』(2021年発売)を手がけられたときも、私は横でずっと作業を見ていました。
堀井氏:
なんと、そのころからご存じだったんですか。
上野氏:
以前に堀井さんとお話する機会があったときに、「『グラディウス』が大好き」だとお聞きしていて、いつか一緒に携わることができたらいいなと考えていました。
そういったなか、今年は『グラディウス』が誕生して40周年という大きな節目を迎えます。このタイミングもあと押しとなり、ついに実現できました。
──『グラディウス オリジン コレクション』の制作が決まったときのエムツーさん側の反応はいかがだったんですか?
堀井氏:
言うまでもないですが、当時の経験者にとって『グラディウス』は特別なタイトルです。
そのようなタイトルに関わらせていただく以上、もし中途半端なものを出せば、ファンはすぐに気が付きますし、社内のスタッフもそれを許さないでしょう。やるからには全力でやらねばならないと覚悟を決めました。
『グラディウス』“最新作”をシューティングにしたい
──1985年にアーケードで稼働がスタートした『グラディウス』ですが、上野さんは当時プレイをされていたのでしょうか?
上野氏:
アーケード版の『グラディウスⅢ』までは、いちプレイヤーとして楽しんでいました。KONAMIに入社したのは1997年です。
『グラディウス』には非常に深い思い入れがあります。1980~90年代のアーケードゲーム少年って、目にしたゲームはとりあえずひと通り遊ぶし、「それら全部が好きだ」といった方も多いと思います。
私もそうなのですが、そういったなかでも初代『グラディウス』は、私にとってとくに思い出深いタイトルですね。人のプレイを後ろからずっと眺めて攻略方法を学ぶ、ということを意識的にしたのは『グラディウス』だったかと。
ずっと眺めていると、たまに見知らぬおじさんが「向かいに座りな」と2Pプレイを遊ばせてくれたりした、そんな時代でした。
──シューティングゲーム史としてはもちろん、ビデオゲーム史全体としてもマスターピースと呼ぶに相応しいタイトルですからね。
上野氏:
もちろん、『グラディウス』以降もKONAMIの作品は深く遊び込みました。『ときめきメモリアル』にもドハマりしましたし、
ラジオ番組「ツインビーPARADISE」も大好きでした。ファミリーコンピュータのKONAMIソフトはもちろん、なによりMSXユーザーだったので当時のKONAMIゲームには本当にお世話になりました。
堀井氏:
生粋のKONAMIっ子ですね。
──『グラディウス オリジン コレクション』は、過去シリーズ作の移植だけではなく、完全新作の『沙羅曼蛇Ⅲ』も含まれています。新作を入れるという方針は最初から決めていたのでしょうか?
堀井氏:
エムツーは2008年以降に『GRADIUS ReBirth』『魂斗羅ReBirth』『ドラキュラ伝説 ReBirth』を開発しています。これらは現在も定期的にプログラムのメンテナンスをしていて、プログラムや仕様も熟知しています。
なので、この『GRADIUS ReBirth』をベースにすることで、仮に『グラディウス』の新作を作ろうと考えたときに、ゼロから作るよりも工数が大幅に短縮できると思いました。そのことを上野さんに相談したら、快諾していただけたんです。
上野氏:
タイトルのウリという意味も含め、「もし可能なら何かしらの形で新作を入れたいよね」という考えがありました。
さきほどお話したように、現在のwikipediaに掲載されている『グラディウス』シリーズのページに、シリーズ最新作はシミュレーションの『グラディウス・アーク -銀翼の伝説-』【※】だと記載されているんです。あれはあれでおもしろい作品だったのですが、やっぱり最後は“シューティングゲーム”で締めくくりたい。このことが、ずっと心のなかで引っかかっていました。
※『グラディウス・アーク -銀翼の伝説-』:
2010年9月にサービスが開始された携帯電話向けブラウザゲーム。シューティングではなく、『グラディウス』の世界観をモチーフとしたシミュレーション。
──上野さんの『グラディウス』への想いが伝わってきます。では、当初は『沙羅曼蛇』ではなく、『グラディウス』の新作を想定していたのですか?
堀井氏:
詳細を詰めていくと、いろいろとややこしい問題が浮上してきたんです。仮に『グラディウス』の新作を出すとなると、まず、ナンバリングをどうするかという問題があります。コアなファンならご存じかと思いますので、ここでは詳細は割愛しますが、間違っても“グラディウスⅥ”にはできないわけです。
さらに『グラディウス』の看板を掲げるのなら、途中でミスをしたあとに復活パターンを探す遊び方も絶対に入れたい。しかし、今回の開発期間を踏まえると、そこも含めたバランス調整をきっちり行うのはきびしかったんですね。
上野氏:
“グラディウスの新作”になると、一気にハードルが上がってしまいますよね。いつかはチャレンジしたいと思ってはいるのですが、今回はまだその時ではない、座組も準備も時間がかかるなと……。
堀井氏:
一方で『沙羅曼蛇』は、自機がやられてしまってもステージが巻き戻らず、ノンストップで流れて行きます。しかもふたり同時プレイも行えます。“グラディウスの新作”であれば考慮すべきことを減らせるわけです。
『沙羅曼蛇』シリーズをモチーフにした新作であれば、なんとか納期までに収まってくれるんじゃないか……と期待しての判断でした。まぁでも、結局あまり収まらなかったんですけども……。
上野氏:
大変でしたね……(遠い目)。
よりハイクオリティなアーケード版が移植可能に
──さっそくですが、新作の『沙羅曼蛇Ⅲ』についてのお話を聞かせ……。
上野氏:
すみません。『沙羅曼蛇Ⅲ』の詳細については、発売日の8月7日まで取っておきたく……。本当にごめんなさい。『沙羅曼蛇Ⅲ』の開発エピソードはこのあとお話させていただきますが、記事の掲載は8月7日でお願いします。
──わかりました。では収録されているアーケード版『グラディウス』シリーズに関しての話をメインにうかがいます。本作にはアーケード6作が収録されていますが……。
上野氏:
じつは、当初はコンシューマー版のコレクションだったんですよ。
河内氏:
KONAMIさんに最初に提出した企画書のタイトルにも、「CSコレクション」と書いていました。
──なぜ最初はコンシューマー版を想定していたのでしょうか? そしてなぜ最終的にアーケード版の収録となったのでしょうか?
上野氏:
KONAMIとしては、2019年に発売した『アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション』に、アーケード版の『グラディウス』シリーズを3作品収録しています。そことの差別化を図るべく、つぎはコンシューマー版のコレクションを想定していたんですね。
ところが、エムツーさんと詳細を詰めていくにつれ、アーケード版に準拠した『グラディウス』でも、これまでに展開した作品よりも手厚いサポート機能を搭載したモノが作れそうだということがわかったんです。しばらく悩んだのですが、社内の「40周年だし、まずアーケードでいいんじゃない? 完全版的なのにできるんでしょ?」というあと押しもあり今回の形にいたりました。
──エムツーさん的にはどう思われたのでしょうか。
堀井氏:
もう先に出ちゃってるんだけどなぁ……って(笑)。
でも結果的に、すごく良かったと思っています。先ほども申し上げたように、『グラディウス』は多くの人にとって思い出深いシリーズです。技術は進歩するものですし、より忠実な移植を行うことで、ファンがより満足していただけるのなら、それに越したことはありません。
──本作ならではのサポート機能について、詳細を教えてください。
久保田氏:
クイックセーブ・ロード機能や、巻き戻し、無敵モード等々いろいろありますが、今回とくにこだわったのはトレーニングモードですね。これは復活ポイントや周回数、パワーアップの状態などをあらかじめ設定したうえで、各ステージ内の特定のポイントを繰り返し練習できるというものです。
堀井氏:
これまでのシリーズ作で、どうしてもクリアできない場面がある人も、このトレーニングモードで練習すれば攻略できるように……。
久保田氏:
『グラディウスⅢ』以外はね(笑)。
上野氏:
ツッコミが早い(笑)。
久保田氏:
『グラディウスⅢ』といえばキューブラッシュ【※】ですが、トレーニングモードを1年も続ければ、たぶん誰でもクリアできるようになると思いますよ。……多分!
堀井氏:
キューブステージを攻略できるプレイヤーは増えるかもしれないね。そこまで行けるかどうかは、また別の話になりますけど(笑)。
久保田氏:
「トレーニングモードの仕様を考えてよ」と言われたとき、キューブラッシュだけは絶対に入れようって、真っ先に思いましたからね。
──これは褒め言葉としてお伝えしますが、収録されているバージョンは数も内容も頭がおかしいですよね(笑)。
上野氏:
そう思いますよね(笑)。
たとえば『グラディウスⅢ』ですと「NEW版」「OLD版」、『グラディウスⅡ』は「前期版」「中期版」「後期版」の存在が判明していたわけで、今回エムツーさんにお願いするうえで「技術的に可能なバージョンは収録してくれるだろう」という、勝手な期待は最初からありました。
ですが、最終的にここまでの規模になるとは、当初は想像すらしていませんでした。
河内氏:
エムツーは基本的に、ほかの作品に関わらせていただくときも「あるものは全部入れる」というスタンスでやっているんですね。とくに「ショットトリガーズ」として開発する際は、必ず上から「とにかく全部入れろ」といった指令が降りてきます。
──バージョン違いの収録にそこまでこだわる理由、その根っこにあるのはどんな考えなのでしょうか。
堀井氏:
アーケードゲームを復刻したタイトルは、「昔の思い出のゲームを振り返る」という目的で購入する人が多いでしょう。そういった人が、仮に思い出と違ったバージョンに触れてしまうと、「なんか違う……」とギャップを感じてしまいます。それは開発者として申し訳ない気持ちがあります。
ですので、技術的に収録できるバージョンは全部網羅して、できる限り多くのユーザーが納得できるものを提供したいと考えています。
河内氏:
これは堀井が現場でディレクションをやっていたころから続く、エムツーの伝統みたいなものですね。
久保田氏:
実際の開発作業では、まず最初に「このタイトルは、現在どのようなバージョンが存在しているのか」を調べるところから始めます。
ただでさえ長い年月が経っている作品で、こういったバージョン違いの基板やロムをどうやって入手するのか。そこは毎回頭を悩ませているところですね。
──実際のところ、「全バージョンを収録したい」と思い描いたとしても、コストやリソースの兼ね合いもありますし……。
堀井氏:
幸いなことにエムツーには、さきほど述べたスタンスに共感してくれるスタッフが揃っています。また、これまでご一緒させていただいたクライアントさんにも理解していただけたことで、実績を築いて軌道に乗れたのも大きいでしょう。
久保田氏:
我々スタッフにとっても、それが当たり前に受け入れられる環境だから、開発者として存分に鍛えられたと感じています。