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可愛い女の子を、あなたはどこまで犠牲にできますか──? ゲームならではの裏技が詰まった期待作『アリスの世界』は、メタフィクションを用いたプレイヤーへの挑戦状だ!

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フィクションとは、作者の想像力によって作り上げられた、現実には存在しない登場人物や出来事を描いた物語である。言うならば「虚構」を取り扱う作品だが、そのなかには作品自らの「虚構性」に自覚を持った作品も存在する。

「メタフィクション」や「第4の壁」などの名称で総称されるそれらの作品は、プレイヤーが作品世界への介入するインタラクティブさを特徴とする“ゲーム”との相性が非常に良い。

今回紹介する『アリスの世界』も、そんなメタフィクションを取り扱う作品である。

『アリスの世界』レビュー:可愛い女の子をどこまで犠牲にできる?メタフィクションを用いたプレイヤーへの挑戦状_001

(ゲーム内の主人公ではなく)プレイヤーに直接語り掛けてくるナビゲーターの存在や、プレイヤー心理を先回りした粋な仕掛け、そして何より「可愛らしい女の子が痛めつけられる」というプレイヤーの倫理を問うシナリオなど、シンプルなゲーム性にしてかなり意欲的なシナリオを持った作品である。

7月18日から7月20日にかけて京都市勧業館みやこめっせにて開催されているBitSummit 13th」では、本作の出展がおこなわれている。

『アリスの世界』レビュー:可愛い女の子をどこまで犠牲にできる?メタフィクションを用いたプレイヤーへの挑戦状_002

本稿では、本作のゲームプレイ内容やメタフィクションの仕掛けについて、少しだけ語ろうと思う。

執筆/植田亮平
編集/kawasaki

ゲーム内の存在としての「プレイヤー」

本作のゲームプレイは、「不穏な世界に迷い込んでしまったアリスを誘導しながら謎解きをおこなう2Dアドベンチャー」と、「プレイヤーが、画面の中にいるキャラクターと選択肢を通して直接やりとりをするテキストアドベンチャー」に大きく分けられる。

実際のゲームプレイではこの二つは完全に独立しているわけではなく、相互に入り混じっているわけだが、特に注目したいのはもちろん、後者の「テキストアドベンチャー部分」だ。

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本作におけるプレイヤーは、単なるゲームプレイヤーに留まらず、物語を動かす、いちキャラクターとしての役割をも担っている。

どういうことかと言うと、本作に登場するアリスや他のキャラクターは、プレイヤーをゲーム内世界に存在するものとして認識している。
ただ認識していると言っても、それはギャルゲーやRPGにおける「世界観の内にいるキャラクターとして」ではない。彼らはプレイヤーを、「このゲームを遊んでいるプレイヤーとして」認識しているのだ。

その結果、ゲームのテキストは単なるキャラクターのセリフ以上の質感をプレイヤーに与えてくれる。

本作におけるキャラクターとのやりとりは、「脚本」ではなく「会話」なのである。
この部分はロールプレイングとメタフィクションの重要な違いであり、本作が持つ最も「おいしい」部分だと言える。

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本作はプレイヤーに対して、そこにある役割を演じるのではなく、生身の人間的主体として物語世界に入っていくことを要求する。本作はプレイヤーの発言を「選択肢」として表現しているが、おそらく究極的に目指しているのはプレイヤーがテキストを入力して進めるチャットボット的なインタラクションなのだろう。

もちろん、そこで提示される選択肢はプレイヤー自身の発言(という約束)なのであるから、プレイヤー自身もそれなりのメタ視点を持って遊ぶことが前提となっている。

だから、プレイヤーはアリスに対して「君は単なるゲームのキャラクターじゃないか」という爆弾発言を平然と言い放つことができるし、ゲーム内に登場する「systemちゃん」は、自分がゲーム内のキャラクターであるという態度を一切隠そうともしない。

上記に代表される、プレイヤーからの爆弾発言に対するアリスの反応は実に興味深い。もし興味を持ったら、ぜひ実際にプレイして確認してほしいと思う。

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本作にはメタフィクションを扱うゲームで用いられる演出が、これでもかというくらいに詰め込まれている。これらの仕掛けの巧さを見て、「この開発者はメタフィクションの扱い方を相当に心得ているな」と強く感じた。

たとえば、「ブルースクリーンの画面」→「ゲームそのものを強制終了させる」→「再起動したプレイヤーに『なぜ再起動したんだ?』と問いかける」という、ゲームでしかできないような演出もある。

なかでも気に入ったのは、デモ版が終了した後にもう一度ゲームを始めようとしたときのシステム側からのセリフ。「体験版はもう終了したと言ったでしょう? 必ずまたお会いしましょう」というメッセージを見て、この先に待ち受けているゲーム展開が思わず気になってしまった。

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可愛いキャラクターからの「問いかけ」

アニメ風のキャラクターデザインも素晴らしい。
とくに、本作の2Dアドベンチャーパートにおける、メインキャラクターのアリスの姿は、めちゃくちゃ可愛いと思った。等身の低いSD絵で、表情をコロコロと変えながら左右にせわしなく動くアリスは、それだけでプレイヤーにとっての癒しだ。

しかし、そんな可愛らしいキャラクターデザインとは裏腹に、本作のシナリオは非常にダークなものとなっている。

ゲーム全体の世界観としては、『不思議の国のアリス』に暗く陰鬱なSF要素を足したようなものとなっており、敵に追いつめられるなどの危機的状況では、若干のゴア描写(視覚的にではなく文章でだが)も行われる。そして、その被害者は何を隠そう、プレイヤーになつき、可愛い表情を見せてくれるアリス本人なのだ。

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ただ、ここまで読んだ方ならお分かりだと思うが、これは単なる悪趣味な「リョナ演出」ではない。むしろプレイヤーの倫理を試す、ゲーム側からの挑発的な問いかけなのである。

アリスがひどい目に遭えば遭うほど、システムはプレイヤーを残虐だと罵り、そのたびにプレイヤーの倫理は少しずつ打ち砕かれてゆく。
その点で、本作は「遊ぶと同時にプレイヤーが問われる」という、『The Beginner’s Guide』『ドキドキ文芸部』『Spec Ops: The Line』の系譜に繋がっているように感じる。

『アリスの世界』は、メタフィクションゲーム界に現れた、新進気鋭のニューカマーだ。
現在、Steamで本作のデモ版が公開されているので、興味のある方はぜひ遊んでみてほしい。

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ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
編集者
元4Gamer。『Diablo』 『Ultima Online』 『EverQuest』 『FF11』 『AION』等々の、黎明期のオンラインRPGにおける熱狂やコミュニティ、そこから生まれたさまざまな文化は今も忘れられません。

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