『ポケットモンスター』シリーズという世界中で楽しまれている作品の開発元として知られるデベロッパー、ゲームフリーク。同社のパブリックイメージを塗り替えるような、魅惑の新規タイトルが発売を控えている。
そのタイトルの名は、1月23日に配信された「Xbox Developer Direct」にて、ついにその全貌の一端が明かされた『Beast of Reincarnation』(ビースト・オブ・リンカネーション)。公開されたのは、これまで同社が手がけたタイトルの系譜からは想像できなかった、驚きに満ちあふれた「フォトリアル」の世界だった。
2023年に『Project Bloom』として発表され、2025年にタイトルが正式発表となった『Beast of Reincarnation』。本作はその内容はもちろんのこと、ゲーム開発者や各分野の熟練の専門家たちによって設立された新たなゲームパブリッシャー、Fictionsから発売となることも話題を集めている。
最新映像が公開されるタイミングにて、電ファミでは本作のディレクターを務める古島康太氏へインタビューする機会を得た。インタビューで浮き彫りになったのは、氏が抱く「既存の枠組みに囚われない」開発思想だ。
プレイヤーに抱かせたい特定の「感情」を起点とし、その実現のためにあらゆる要素を最適化していく──この徹底した逆算思考こそが、フォトリアルという必然の選択をもたらした正体であった。
ゲームフリークが挑む新規タイトル『Beast of Reincarnation』。古島氏の発言から開発意図を紐解いていく。

世界を驚かせた「ゲームフリークらしからぬ」ビジュアル
── 本日はよろしくお願いします。まずはユーザーの反響についてうかがいたいのですが、プロジェクト発表後の国内外での期待値や、あるいは地域ごとに注目ポイントが異なるなど、ワールドワイドな視点で古島さんが感じられたことがあれば教えてください。
古島氏:
国内外でとくに大きな差は見られず、私の見た限りでは同じような反応をしていただいていると感じています。共通して言えるのは、皆さん非常に「驚き」をもって迎えてくださったということですね。
── その驚きというのは、ゲームフリークの新規タイトルであるという点はもちろん、これまでゲームフリークが手がけたタイトルのイメージとは異なっていたことに起因しているのでしょうか?
古島氏:
そうですね。ふだんとの「ギャップ」というのが大きかったんだと思います。
── このギャップは狙ったものだったのでしょうか?
古島氏:
狙ったものではありません。じつは、国内向け、国外向けと、そういったところは考えずに開発を進めていました。
本作のコンセプトを実現するために最適な見た目を追求していった結果、フォトリアルの表現に辿り着きました。「このビジュアルでいこう」という明確な意図が先にあったわけではないんです。
──コンセプトのお話をうかがう前に、 古島さんのこれまでの経歴について教えていただけますか。
古島氏:
ゲームフリークに入社したのはだいたい10年ほど前です。その前はソーシャルゲームの開発を行っていました。もっとさかのぼると、フリーランスでサウンド制作に携わっていました。ゲームフリークに入社してからはサウンドマネージャーやプランナーを経験し、現在に至ります。
学生時代には音楽を専攻できる環境があったので、そこで学びながら当時はバンド活動なども行っていました。また、スーパーファミコンで『ドラゴンクエスト』などを遊んでいて、ゲーム音楽というものがゲーム業界に対するいちばん最初の憧れであって、夢のような世界だと思っていました。
── そのバックボーンをお聞きすると、本作のサウンド面にも期待が高まります。2025年に公開されたトレーラーでは、せつなさを感じさせる歌が流れていたことが印象的でした。
古島氏:
あの歌は実際のゲームにも収録しているものとなります。
本作のコンセプトとして、相棒と旅をすることで寂しさであったり、頼もしさであったり、温かみであったり、そういった感情をプレイヤーに感じさせることを掲げています。「そう感じさせる音楽ってどういうものだろう」と構築していったときに、ああいった曲調になっていったので、印象に残ったということであればうれしいですね。
── Xbox Developer Directで公開された映像の中でもコンセプトについての言及がありましたが、本作を生み出すにあたって「ゲームフリークらしさ」や「ゲームフリークとして外せないこと」をどのように考えられて制作に臨まれたのでしょうか?
古島氏:
表面的なところではなく、ゲームフリークのゲームを抽象化していったときに、「驚きと発見」というユーザー体験が外せないと考えました。
ユーザーさんがいろいろな遊び方をして驚いてくれたり、おもしろがってくれる。ゲームを体験し、ゲームの世界に入り込んだときに、自発的に感じる新しい遊びや驚き、おもしろさがある。この要素はゲームフリークとして、非常に重要なことだと捉えています。そこは踏襲し、受け継いでいるところだと思っています。
── トレーラーの中で、動植物、自然を描いてきたというところがゲームフリークのDNAにあるという発言もありましたが、そのDNAをどのように本作に引き継がれていったのでしょうか?
古島氏:
世界の中で生き物が存在する、実在しているということは、これまでゲームフリークが取り組んできたことですし、すごく注力しなければいけないところです。
当然そこは外さないようにしつつ、より生き生きとした、この世界の魂を感じるようなものを作ることを重視しています。一方で、単純に「ポジティブな世界観」を描くのではなく、生物が逆に脅威になるような世界にしたいという発想の転換が本作にはありました。
── 本作の骨子を考えるにあたり「感覚を突き詰めていった」とトレーラーで語られていましたが、その過程をもう少し詳しく教えていただけますか?
古島氏:
やや特殊かもしれませんが、ジャンルやゲームシステムを最初に考えなかったんです。
まず「このゲームを体験したあとに何が心に残るのか」、「遊んでいる最中に纏う雰囲気、感覚はどんなものなのか」を頭の中で考えていきました。
たとえば、小説を読み終えたあとの読後感であったり、読んでいる最中の雰囲気であったり……。そういったところを最初に考えていったんです。
そこから「じゃあ、それを感じさせるにはどうすればいいのか」をロジカルに組み立てていったんですね。寂しさを感じさせるのであれば、ひとりでいるほうがいいのか? いや、それよりもひとりからふたりになるほうがいいのではないか? そういったことを論理的に組み立てていって、ストーリーであったり、世界であったりを構築していきました。
── さきほどお話された「驚きと発見」というユーザー体験に加えて、エモーショナルな部分も重視されているということですね。
古島氏:
本作においては、感情をどう描くか、どう体現するかということをずっと突き詰めて積み上げていきました。
──文明が失われた未来の日本を舞台としたことも、動植物の描き方のほか、感情の振れ幅を描くにあたって最適だと考えられたからなのでしょうか?
古島氏:
そもそも舞台を日本にしようと考えたのは、まずコンセプトを実現するのに最適なのが日本だというロジックがありました。
ひとりと一匹の関係性を育むにあたって、それなりに時間軸が必要だと考え、ロードムービー的な見せ方としたんです。旅を続けていき、このふたりが関係値を育むとしたら、広いところ、狭いところ、乱雑なところ、あるいは過去の世界を垣間見る……といったさまざまなシチュエーションを思い描いていくと、廃墟がある世界が適していると考えたわけです。さらに、植物が生い茂って過酷な環境がいいのではないかと考え、それを自然に体現できるとしたら舞台は日本なんじゃないか、と順を追って組み立てていったんです。
──なるほど。その世界を表現するためにフォトリアルとなったわけですね。ちなみに、「 フォトリアルで制作する」ということを社内に伝えた際の反応はどうだったですか?
古島氏:
正直なところ、最初はピンと来ていなかったと思います(笑)。
コンセプトが私の頭の中だけにある、感覚だけの段階ですと「なぜフォトリアルなのか」という必要性がわからないわけで……。少しずつ形になっていって初めて「この過酷な世界を描くにはリアルじゃなきゃダメだったんだな」というのが伝わったという感じですね。
──古島さんの頭の中にあるものをどのように第三者に伝えていったのですか?
古島氏:
いろいろな方法でアプローチしました。「この人にはこの表現、この伝え方だと刺さる」など、スタッフによって理解してもらえる媒体が異なっていました。
ですので、コンセプトアートを作ったり、スケッチを描いて伝えたり……。シナリオも私が手がけているのでテキストや詩のようなもので雰囲気を含めて伝えたり、さまざまな手法を試しました。
──シナリオも古島さんが務めているのですね。古島さんは本作が初ディレクション作となりますよね?
古島氏:
はい、そうです。
──ディレクションを初めて務めるにあたって、たとえばゲームフリークでの師匠的な方からの教えがあったりするものなのですか?
古島氏:
特定の師匠というわけではありませんが、大森【※】であったり、教えてくれる人がたくさんいるという環境でした。「あのタイトルの開発時はどうだったんですか?」とか、「どう作っていたんですか?」と、いろいろと深掘りして聞かせてもらいながら作り方を踏襲していったというか。
──シナリオも書いて、ディレクターとしてチームをまとめ、さらに本作は海外パブリッシャーとの初の取り組みとなっているなど、制作はかなりたいへんだったのではないですか?
古島氏:
そうですね(笑)。初めてのことが多すぎて麻痺している可能性がありますが、私としてはひとつひとつ積み上げていった感覚があるので、たいへんさよりも楽しさのほうが勝っています。
開発が進んでいき、コンセプトに近づいているのが実感できるというのは、やっぱり楽しいです。
──これまでのゲームフリークのタイトルといえば、アニメ調のグラフィックが特徴としてあったと思うのですが、長年アニメ調のタイトルを手がけてきたからこそ、「リアルを描くうえでの気づき」や「現実と虚構のバランス」が養われていたところがあったのではないでしょうか?
古島氏:
本作の体験としていちばん大きいのは、現実に近い解像度があるということです。たとえば、どこかを「見る」という行為そのものがゲームプレイになるんですね。文字が書いてあるところを見たり、どこかを見ることで何かが起こる。この「見る」という行動がゲームプレイに直結しているんです。要するにナラティブの仕込みを多く行うことができた、というのがありました。
過酷な世界を描くうえで、見た目がアニメ調だったりデフォルメされているとわかりづらいということもありますが、リアルにすることで過酷さが強調できると考えました。
一方で、本作のキャラクターにはほんの少しだけデフォルメが入っているんですけど、マンガなどと同様で、ちょっとデフォルメが入っていることが表現のコントラストにつながるんです。ほんの少しのデフォルメによって、より過酷さが強調できるというのが気づきとしてありました。
──本作は少女のエマと犬のクゥの旅路が描かれていきますが、相棒のクゥはどういった発想から生まれたのでしょうか?
古島氏:
コンセプトとして「感覚」を探っていったときに、いちばん最初に「寂しさ」があり、「イチ」ではなく「二」だと思ったんですね。「二」がもっともいい組み合わせだと考えたときに、いろいろな描き方がありますが、何も言わない動物のほうがゲームプレイを実現するにあたって最適なんじゃないかと判断しました。
同じ人間どうしでしゃべっているということであれば、映画や小説など、どんな媒体でも表現できますが、物言わぬ何かと関係性を育んでいくというのはビデオゲームだからこそできる表現だと考えたわけです。
だいぶ昔なんですけども、猫を飼っていた経験もありますので……。
──あ、では出会いと別れの体験を……。
古島氏:
そうですね、その体験、感覚も思い出しながら制作しています。
──トレーラーではゲームプレイも公開されていましたが、お話できる範囲で、本作のレベルデザインについてお聞かせいただけますか?
古島氏:
植物を伸ばして高い崖を登ったり、朽ちた地形をつなげて通り道を作ったり、プレイヤーが植物のアクションを駆使して道を切り拓いていくというのがレベルデザインの根底にあります。また、そこで感じるシチュエーションからドラマを感じられるようにしています。
── たとえば、いまは移動できない場所でも、あとでキャラクターが成長すれば行けるようになる、といった展開もあるのでしょうか?
古島氏:
そういった、いわゆる「後戻り前提のパズル」的な作りではありません。じっくり考え込むというより、「これはこうすればいいんだな」とスムーズに感じられるものになっています。
──本作はオープンワールドではなく、いわゆるリニア式ということなのでしょうか?
古島氏:
旅を通じて少女と犬がロードムービー的に関係を育むことを感じてもらうため、距離的な移動があるものになっています。
基本は横幅のあるリニアな流れですが、プレイヤーの体験の“幅”が狭くならないようにしていますし、「あとで探索しよう」と前のステージに戻って新たな発見を探す楽しみもあります。
── ゲーム体験としては、アクション寄り、RPG寄りのどちらになるのでしょうか?
古島氏:
前提としてはアクションゲームですが、RPG的な楽しみも追求できます。
自分を強化して攻略する要素ですとか、クゥに指示を出す際にコマンドRPGのように時間を止めて技を選択して放つ、といったことも可能です。リアルタイムアクションとターン制RPGが混ざり合ったシステムと言いますか……。単純にアクションの腕前で攻略できないときにクゥを頼って敵の動きを止めたり、あるいは自分を回復する技を放ったり、そういったことができるゲーム性になっています。
ある程度の腕前が要求されるゲームとしていますが、さまざまな攻略法があり、遊ぶ方のプレイスタイル、体験が異なるものになっています。
──アクション面でもユーザー体験を重視したデザインになっているということですね。
古島氏:
エネミーやボスの攻略時も「驚きと発見」のあるものにしています。「こういう倒し方だったらいける」といった攻略方法の発見や、「この組み合わせが効果的なんだ」といった驚きもある。そういったバランスをとったデザインになっています。
スキルツリーで能力を強化できるシステムですので、プレイヤー好みにカスタマイズできますし、何かの系統を伸ばしたら戻せないというものではなく、自由に割り振りを戻せるものとしています。
──古島さんオススメの戦い方はありますか?
古島氏:
勝手に戦ってくれるのが好きなので、相棒のクゥに任せた戦い方ですね(笑)。自分は防御に集中して、攻撃はクゥに任せる。極端な例ですが、そういった戦い方でも勝てるゲームデザインになっています。
──なるほど。プレイヤーの好みに応じて、さまざまな戦い方、攻略方法があるということなんですね。実況映えもしそうな気がします。ちなみに、古島さんがこれまで触れてきたエンタメで影響を受けた作品や好きな作品はどういったものなのでしょうか?
古島氏:
ゲームですと、『クロノ・クロス』の雰囲気やシナリオがすごく好きでした。あと、どちらかというと勝手に世界が発展していくものが好きなので『シムシティ』も印象に残っています。
自分が思いもよらぬ発展をしたりとか、あるいは発展しなかったりとか、衰退していったりとか、そういうおもしろさが『シムシティ』にはあるんですよね。世界が移ろっていくというか……。自分が完全にコントロールしきれない感覚を求めているんだと思います。
映画ですと、リドリー・スコット監督やドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品。小説だと、SF小説を読むことが多いですね。どちらかというと宇宙というよりも、SFを深掘りした結果、こういう世界になるだろうという伊藤計劃さんの作品とか。
── なんとなく『Beast of Reincarnation』につながるヒントがいただけた気がします。本作の主人公をエマという少女にしたのには、何か理由があるのですか?
古島氏:
感覚的にそうなったといいますか、最初は中性的なほうがコンセプトに近かったとは思うのですが、結果的に植物の力に応じてエマの髪が伸びるという仕組みを入れたことにより、世界としてもシステムとしてもマッチしたと感じています。
──ゲーム内で描かれている花もすごく印象的でした。
古島氏:
“ヌシ”という巨大な敵を倒していくことで、その主の力をエマが取り込み、髪に花が咲くんです。たとえば、あるヌシを倒したら髪に桜が咲く。力を取り込むたびに、さまざまな花が咲き、エマの髪が伸びていくんです。
──なるほど。敵といえばロボット的な無機物も登場しますが、退廃的な和の雰囲気、そして動植物という有機物とロボット的な無機物が融合した世界を描くうえで、デザインやアートワークでとくに意識されたのはどういった部分なのでしょうか?
古島氏:
動植物を脅威としている世界ですので、動植物を彩度高く描き、よく動くものとしています。一方で、人工物や文明は滅んだものとして彩度を低く描き、コントラストを生み出すようにしています。
さらに言うと、本作には「穢れの森」と呼ばれる要素があるのですが、この世界でもっとも生き生きとしているものを植物として定めて描いています。
──トレーラーには敵を一刀両断するシーンが映し出されていましたが、シチュエーションによってフィニッシュが入るものになっているのですか?
古島氏:
そのとおりです。バトルの状況に応じて爽快感が得られるモーションが入るものにしています。
──本作はパブリッシャーをFictionsが務めていますが、ともに制作を進めていく中で、どのような影響があったのでしょうか?
古島氏:
クリエイティブに対しては、自由に開発をさせていただきました。ゲームフリークがやることを見守っていただくような形で進んでいきました。一方で、ローカライズや英語ボイスなどでは手厚くサポートをいただいています。
Fictionsさん側にプロデューサーを立てていただき、プロジェクトをともに牽引いただいたので、ゲームフリーク側にプロデューサーは立ててはいないんです。開発側のプロデュース業は私が並行して行っていきました。
──簡単におっしゃられましたが、古島さんの業務量はめちゃくちゃ多いんだなと、改めて感じました(笑)。最後に、本作の魅力について、改めて古島さんの言葉で伝えてほしいのですが……。
古島氏:
世界の雰囲気ですとか、この世界にある謎や伝承を感じてほしいと思っています。また、シナリオやバトルシステムなど、ありとあらゆる要素を「一人と一匹」というコンセプトを一貫して作り上げていますので、どんな旅の結末を迎えるのかを楽しみにしていただければと思います。
独特の感覚が得られるゲームになっていると思いますので……ただ、なぜそうなっているのかはまだお話できず……詳細をお話したいのですが、いまは話せない(笑)。
──(笑)。まだ発売前のインタビューですので、話せないことが多いのは承知してます。ぜひ発売後に改めてインタビューをさせてください。
古島氏:
そのときはぜひよろしくお願いします。
また、ゲームをプレイしていただいたときに「未知の世界を知る」という楽しさがありますが、レイヤーとしてはけっこう下のほうに入れ込んでいるんです。要するに、層を積み重ねていくうえで、わかりにくいところに深く存在させている。プレイする人によって、より深い部分が楽しめるものとしていますし、ニューゲームプラスを用意する予定ですので、さまざまな方法で本作を楽しんでもらえればと思います。
















