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注目のインディーゲーム、実験的なアイデアが多数登場した「センス・オブ・ワンダー ナイト 2020」レポート。TGSで見逃すべきではない個性的な受賞作を紹介

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 9月25日(金)、「東京ゲームショウ 2020」内にてアイデアコンテスト「センス・オブ・ワンダー ナイト 2020」(以下、SOWN 2020)の最終プレゼンテーションが実施された。「センス・オブ・ワンダー ナイト(SOWN)」は“見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚”、つまり「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲームのアイデアを取り入れた作品を、審査員のゲーム開発者や一般の投票者に紹介・プレゼンテーションする企画である。

 13回目となる今年は371のエントリー作品から、選考出展枠の80作品を決定後、「SOWN 2020」でさらに優れた8作品を厳選。初めてオンライン開催へ移行したことにより、日本からは2作品、海外6ヵ国からそれぞれ1作品が選出される国際色豊かな並びとなった。

 本記事ではファイナリストに選ばれた8作品それぞれの特徴と、オンライン配信のなかで実施されたプレゼンテーションの様子を以下にお伝えしよう。

『Infini』

 David Martin氏とÉmeric Morin氏のふたりで立ち上げられたカナダ・モントリオールに拠点を置く開発チームBarnaqueの作品。本作はサイケデリックな雰囲気をもつパズルアドベンチャーゲームで、プレイヤーは主人公の「ホープ」を操作して、無限に落下し続ける世界からの脱出を目指す。

 上下と左右の画面端はそれぞれつながっており、物体に触れないようにしながらゴールの穴を目指して落ちていくが、ゲームを進めていくと画面の拡大・縮小「ホープ」の加速・減速などのアクションを使うステージも登場。このほか、レイヤーによる奥行き重力の方向転換を用いた仕掛けも出現し、複雑で奥深いパズル要素を含む作品となっている。

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(画像はSteam『Infini』より)

 本作では「時間」「技術」「誌」などの概念が不思議なキャラクターとして登場するほか、物語は時系列順ではない形で進行するため、クリアした後につなぎ合わせることで物語の全容が見える仕組みとなっているようだ。

『ElecHead』

 「日本ゲーム大賞2016 アマチュア部門」で優秀賞を獲得したセルフリメイク作品で、制作者の生高橋氏は現地出演でプレゼンテーションを実施した。本作は漏電状態にあるロボットを操作してジャンプで穴を飛び越えたり、勝手に仕掛けを作動させてしまう電流の性質を活かしたりしながら、光の無くなった世界を進んでいくパズルアクションプラットフォーマー作品となっている。

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(画像はTGS用体験版『Elekhead』より)

 本作ではロボットと触れる壁や床がスイッチの役割を果たすことで、間接的に仕掛けを作動させられる。さらに、ステージの背景として登場する鎖もパズルの一部として機能しているため、背景や床・壁のつながりを考える必要がある。また、ゲームを進めていくと能力を獲得する「チップ」が手に入り、電流を発する頭部を投げて離れた場所の仕掛けを起動させたり、上に投げて鍵を回収したりできるようになる。

 一方、胴体部分には電流が流れていないため、こちらは仕掛けの起動を気にせずに自由にステージを進んでいける。ただし、頭部が離れた胴体は10秒経過すると爆発してしまうため、頭部を投げて仕掛けを解いた後は速やかに回収しなければならない。

 操作は移動・ジャンプ・頭を投げる動作の3種類だけだが、電流の要素を加えたことでシンプルかつ奥の深い作品に仕上がっている。

『カニノケンカ -Fight Crab-』

 海洋生物で闘う三人称視点のアクションシューティング『Ace of Seafood』で「センス・オブ・ワンダー ナイト 2017」の優勝を獲得した実績を持つ、Nussoft改めカラッパゲームスの対戦型アクションゲーム。制作者の大貫真史氏も生高橋氏と同様に、現地出演でプレゼンテーションを実施した。

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(画像はマイニンテンドーストア『カニノケンカ -Fight Crab-』より)

 格闘ゲームには攻撃が命中する判定を発生させる「ヒットボックス」があることから、本作の開発ではいくらゲームシステムや動きによって「カニらしさ」を再現したとしても、ヒットボックスの性質が同一であれば「カニでなくてもいいのではないか?」という課題があったという。そこで大貫氏は「カニで無ければならない」要素として「カニの形」に焦点を当てた。そして、カニの形を手で作り出したときに思いついたのがNintendo SwitchのJoy-Conであった。
 
 Nintendo Switch版『カニノケンカ』ではL/Rボタンがそれぞれハサミの開閉に対応したほか、Joy-Conの傾きはハサミの動き、Joy-Conを振った際の動きは攻撃へ連動した。また、本作のルールも「カニの形」へ寄せる形で「ひっくり返ったら負け」にしたことで、カニの体格や形状による個性が生まれている。さらに、カニに持たせる武器も物理シミュレーションによって動くため、プレイヤーが「武器の組み合わせ」に関する発想を活かした闘い方ができる。

 このほか、蓄積することでひっくり返りやすくなる「ダメージ」の要素や一定時間能力を向上させる「ハイパーモード」、相手の武器を奪う「白羽取り」や武器を投げる「投擲」のアクションも用意されており、ユーザーコミュニティでは大会も実施。技術を極めて“カニに近づいている人間”もいるそうだ。

『Nimbatus – The Space Drone Constructor』

 スイス・チューリッヒに拠点を置く開発スタジオのStray Fawn Studioが開発するアクションシミュレーションゲーム。プレゼンテーションにはArno Justus氏とPhilomena Schwab氏が出演した。多種多様なパーツを組み合わせてスペースドローンを建造し、宇宙を探索してミッションをこなす本作は、2013年に趣味の域として開発が始まった。
 本格的な開発が始まったのは2017年で、Kickstarterにてクラウドファンディングを実施し、7万5000ドルを調達。2018年の秋に早期アクセスを開始し、2020年の春に正式版をリリースしている。

 開発にあたってはテクノロジーとアートを組み合わせたゲームを目指しており、元々のプロトタイプでは2Dや3Dで地形を掘り進めていくものを試作していた。さらに「宇宙に舞台を移すことでより面白くなるのではないか」とのアイデアから、さまざまなパーツのエフェクトや物理シミュレーションなどのテストを実施した。

 また、ドローンの組み立てについては初期のころからあったアイデアだが、さまざまななゲームモードやプレイヤーコミュニティからの要望を汲み取ることでパワーアップ。ドローンを動かすためのプログラミングも学習可能で、自己を自由に表現できるゲームとなっている。

『First Class Trouble』

 デンマーク・コペンハーゲンに拠点を置く開発スタジオのInvisible Wallsが開発する作品。プレゼンテーションにはCEOでクリエイティブプロデューサーを務めるNiels A. Wetterberg氏が出演した。本作はクルーズ用の豪華な宇宙船のなかで人間と人間に扮したAIが対決する非対称のマルチプレイヤーゲームだ。人間側のプレイヤーは協力しながら人間に扮したAIを見つけなければならず、一方でAIは人間に協力するフリをしながら、気づかれないように残りの人間を殲滅しなければならない

 本作には物理的に近い距離のプレイヤーとのみチャットができる機能が搭載されており、現実に近い環境で作戦会議やないしょ話ができる。また、船内にはくつろぐためのさまざまな施設が用意されている一方、死因となり得る場所も各所に存在するため、複数人で行動する場合も油断できない作品となっている。

『Arrog』

 ペルー・リマに拠点を置く開発スタジオのLEAP Game Studiosと、イラストやアニメーションなどのアートデザインを手がけるHermanos Magiaによる共同制作作品。プレゼンテーションには本作のディレクターであるMateo Alayza氏が出演した。本作は「死」に対する考え方を取り上げたテーマと、手描きのアニメーションが特徴のパズルアドベンチャーゲームとなっている。

 誰かが亡くなった際には、黒のスーツを着て死を悼むのが社会的な常識だが、なぜ「こんなことをしなければならないのか?」という疑問を抱いたことはあるだろうか。本作では、伝統的なひょうたん彫刻である「マテ・ブリラド」ペルーの神話などの伝承を交えて、白と黒を基調としたビジュアルで亡くなった男性の「死のプロセス」を表現している。

 Alayza氏は死について「文化によってさまざまな考え方がある」としたうえで「それぞれのプレイヤーが異なる答えを持つ」ような作品を作りたかったという。また、タイトルの「Arrog」に意味はなく、プレイする前の固定観念を取り払い「プレイヤー自身が考えて、感じることで答えを掴んでほしい」との想いがあるようだ。

『Trash Sailors』

 ゲーム開発全般を担当するPiotr Karski氏とグラフィックデザイン担当のVeronika Harkavenko氏のふたりで構成される、ポーランド・ワルシャワの開発チームfluckyMachineによる作品。プレゼンテーションには2名が揃って出演した。本作は、最大4人で協力してゴミだらけの海を漂流していくセーリングアクションゲームだ。
 海から拾い上げたゴミは燃料やスペアパーツ、そして武器として再利用できる。ただし、何も考えずにアップグレードすればいいわけではなく、夜間に必要となる光源やいかだの修理をはじめ、状況にあわせたリソースの活用が必要となる。

 開発のプロセスについてはHarkavenko氏がグラフィックを担当し、そのほかのすべてはKarski氏が対応。Karski氏によれば公開された映像はふたつ目のアルファテスト版で、今後のアップデートも開発中。外部のデザイナーとの協力によるデザイン面の強化やゲームモードの追加を予定しているという。

『A Space for the Unbound』

 インドネシアの開発スタジオToge Productionsが販売を手がけているアドベンチャーゲーム。同社は1杯のコーヒーを提供して、店を訪れるお客との会話を楽しむノベルゲーム『コーヒートーク』の開発元としても知られる。プレゼンテーションには開発元のMojiken Studioから、本作のプロデューサーを務めるEka Pramudita Muharram氏が出演した。
 本作は90年代後半のインドネシアを舞台に、高校生の少年「アトマ」
と超能力を持つガールフレンドの少女「ラヤ」の関係性をはじめ、心配や憂鬱さといった心の問題美しいピクセルアートで表現している作品だ。

 新海誠氏の映像作品から影響を受けている本作では、Muharram氏の地元をモチーフに舞台の田舎町を表現。ジェンキーと呼ばれるインドネシアの建築や「ワルン(Warung)」と呼ばれる屋台を配置することで、リアリティのある世界を作り出している。Muharram氏によれば、インドネシアならではの人間性や現地の高校生のやりとりなどの表現も正確に表現されているようだ。

 開発にあたってMuharram氏は、新海誠氏の作品以外にも『インセプション』『ドニー・ダーコ』のほか、『トゥルーマン・ショー』『ストレンジャー・シングス』などの映画作品から影響を受けたほか、漫画作品の『惡の華』や『チェリー』からもインスピレーションを受けたことを語っている。

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(画像はSteam『A Space For The Unbound』より)

 ゲームプレイについては90年代後半のインドネシアの町を探索するとともに、モノを調べたり人と会話をすることでヒントを得ながらストーリーを進めていく。また、猫を撫でることも実は物語のなかで重要な要素となっているという。

 作中にはパズルやミニゲームの要素も収録されているほか、どうしてもゲームを進められない際には超能力の本を使って人の心のなかへ入り込む「スペースダイブ」を使ってキーアイテムを引き出すこともできるようだ。

 最終的な受賞結果は以下のとおりとなっている。各部門の受賞者には賞金500ドル、大賞の「Grand Audience Award」には賞金3000ドルが贈呈されるが、今回は『A Space For The Unbound』が大賞と「Best Arts Award」をダブル受賞する結果となった。

 一方で大賞にノミネートしていた『Elechead』の生高橋氏は惜しくも受賞を逃したが、優れたゲームデザインで「Best Game Design Award」を受賞。また、笑いどころ満載のプレゼンテーションを披露した『カニノケンカ –Fight Crab-』の大貫氏も「Best Presentation Award」を勝ち取っている。

Best Experimental Game Award:『Infini』

Best Technological Game Award:『Nimbatus – The Space Drone Constructor』

Best Game Design Award:『Elechead』

Best Arts Award:『A Space For The Unbound』

Best Presentation Award:『カニノケンカ –Fight Crab-』

Grand Audience Award:『A Space For The Unbound』

ライター/ヨシムネ

ライター
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2019年11月加入。小学生の時に『ラグナロクオンライン』に出会ったことがきっかけでオンラインゲームにのめり込む。
コミュニケーション手段としてのゲームを追い続けている。好きなゲームは『アクトレイザー』『モンスターファームアドバンス2』『新・世界樹の迷宮2』など。

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