「……ヨーズ、ですか?
驚いた。
もう休んだものかと。
いえ、あなたのことですから、
夜じゅうずっと、
気を張ってくれていたかも
しれませんが」
声の感じに、険はない。
今日の流れで、
たぶんビョルカは、
私を味方と思ってくれてる。
『ゴニヤが狼派』の仲間って。
ビョルカは『狼』じゃない。
私はそう思って、『儀』で
ビョルカを助けたわけだから、
ビョルカの認識で、
だいたい問題ない。
けど、半分誤解なんだよな。
「大丈夫ですか?
ずいぶんと、
思い詰めた顔に見えます。
あなたは寡黙(かもく)だけれど、
人一倍、皆さんのことを
考えてくれているから……」
「……だからぁ。
それは、あんただろ」
「え。
私……は、ええ、
ヴァルメイヤの巫女ですから、
『村』の皆さんを思い、
助けるよう、
心を配るのが役目だと
思っていますが」
「……もう、
『村』はなくなったのに?」
「なくなっていませんよ。
ヴァルメイヤを信じ、
共に歩んでくれる皆さんが
いる限り、
『村』は滅びません。
それにほら、
巫女も一応、いますしね!」
「あー。
じゃあビョルカ、
子供いっぱい産む気なんだ」
『村』の巫女って、
そういう役目でもある。
みんなの母親。
これからそうなる娘。
だからみんな、必死で守るし、
本来は『儀』にも出ない。
ビョルカが『儀』で
自分の首をかけてるのは、
底抜けにマジメだから。
「ええ。
相手は少し、悩みますが。
ウルヴルはもう歳ですし。
外から何人か、
お婿を迎えるのがいい、かな。
あ、もちろん、
境界騎士団を目指す以上、
そこの流儀に合わせますよ?
多少形を変えるなり、
隠すなり、ね」
……
無口のふりで、黙った。
優しいビョルカ。
当然、「人」を選ぶ。
そう思ってた。
でも……思ったより、
ビョルカの中では
『村』が、強い。
というか、
もしかして、
私たちが『村』だから、
ビョルカは親身なのかな。
もし、私たちが
『村』じゃなくなったら?
ビョルカは、
私に優しい言葉を
くれたビョルカは、
……それは、聞けない。
「明日、何もなければ、いいね」
「……ええ、本当に。
あなたの言う通り、
もう『狼』などおらず、
誰も欠けず、
この雪原を抜けられたなら、
どんなにいいか。
……そうですね。
いつしか私も疑心に染まり、
信じることの素晴らしさを
忘れていたかもしれません。
希望を信じ、眠りましょう!」
そうじゃない。
違うんだよ、ビョルカ。
私はただ、
何があっても、
どっちかが死んだとしても。
あんたと私は、
今のままの関係だって、
そんなこと、
言い合えたらって、
あー
めんどくさい
やめやめ。
お休み。
生きてね、ビョルカ。