「つながり」を欠損した世界だった。
万能の神の采配があった。
万人は神の手先となった。
万事は分担されて、
万象は最適化された。
富も、喜びも、命の安全も、
苦も無く作り出され、湯水のごとく世に溢れた、
わずらわしい古き神とのつながり。
うっとうしい他人とのつながり。
かつて人の力の根源であったものは、
役目を終えたとして、捨てられた。
ある日、奇妙な風が吹いた。
万能なる神は錆の塊となって倒れた。
富も、喜びも、安全も、
瞬く間に、まぼろしのごとく消え去った。
空腹をしのぐ食糧を欠いた。
雨風をしのぐ屋根を欠いた。
苦難と不安をしのぐ、心の支えを欠いた。
欠いたものを補ったのは、血と暴力だった。
奪う、占める、絶望を麻酔するための、血と暴力。
世界は、殺し合いの渦に沈んだ。
少年の身の上は、ありふれていた。
殺戮の波のさなかで、腕を、片目を、声を失った。
それが理由で、かろうじて残った血縁という名の「つながり」をも失う。
「おまえは、いらない」
彼が全てを捨てても生かそうとした実の姉は、
わずかな逃亡の時間と引き換えに、彼を陥れ、捨てた。
絶望が、彼を強くした。
逆境を、彼は呑み尽くした
迅速に破滅に向かう黄昏の世界で、
彼という狂戦士は、血の嵐の中心となった。
『それ』が訪れたとき。
この世にただ一人の生き残りとなった殺戮の王は、
空に浮かぶ虚穴と同じ色を片目に宿して、それを見上げ、笑った。
お前も殺してやる。
彼は腕を振り上げたが、次の瞬間『それ』に呑まれ……
世界とともに、終わった。