「欠損」を欠損した世界だった。
無数に存在する「異世界」の中には、
当然に、その試みで生き残りを試みた世界もあった。
十分すぎる豊かさを基礎に、「完璧」を目指す。
あらゆる瑕疵、問題、欠損を排除することで、
世界と繁栄の永続化を実現する。
そのために採用されたのが、
「ヴァルメイヤ・システム」と呼ばれる人工の神であった。
「ヴァルメイヤ・コア」。
彼女はこの世で最も誠実、清廉、凄絶なるゆえに、システムの核に選ばれた。
彼女を中心とする、あらゆる知的生命の群体化。
それにより、死も、病も、愚かさも、心の隔たりの生む闘争も、克服できる。
やがて群体化は森羅万象に及ぶ。
世界は彼女と合一し、この世の一切の欠損は埋められる。
そのような愚策を、実行に移す世界も存在したのだ。
有象は、一つとなった。
無象も、一つとなった。
「ヴァルメイヤ・システム」は完全に仕様を実現した。
そして、『それ』が訪れて、一瞬で滅びた。
なぜ滅びたのか。
あらゆる「欠損」を排除したのに、なぜ!
彼女は最後までそれを叫び続けたが、
観測者がいれば一目瞭然であったろう。
理論的にいえば、その「完璧」が完璧たりうるのはこの世界に限られる。
世界の外から侵犯する『それ』に有効な理由がない。
実践的にいえば、使命実現にあたる彼女の行動原理には問題があった。
「完璧」の実現のために、
彼女は人類の約72%と、
森羅万象の約96%を切り捨てていた。
彼女は善良ではあったが、
善良さゆえに、個であるがゆえに、不良なるものを許容できなかったのだ。
「欠損」を欠損した世界は、
「全て」を欠損した世界と近似し、当然に滅んだが、
彼女だけは今でもその不可解に苦しみ、再試行を求めている。
その魂に「戦乙女」が賛同したのは、ある意味で必然といえるかもしれない。