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ニーア、ペルソナ等の人気ゲーム開発者が激論! 国内ゲーム産業を支える40代クリエイターの苦悩とは【SIE外山圭一郎×アトラス橋野桂×スクエニ藤澤仁×ヨコオタロウ】

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2017年、世界で注目浴びる日本産ゲーム

――21世紀に入って、日本のゲーム業界が世界市場で置かれた厳しい状況は、意外とコアゲーマー以外には知られていません。電ファミでは、三宅さんのインタビュー記事などで、そこもなるべく包み隠さずに一般読者へ紹介してきたつもりです。

21世紀に“洋ゲー”でゲームAIが遂げた驚異の進化史。その「敗戦」から日本のゲーム業界が再び立ち上がるには?【AI開発者・三宅陽一郎氏インタビュー】

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 ところが、今年に入ってヨコオさんの『ニーア』や橋野さんの『ペルソナ5』などの新作が、日本のみならず世界的に高い評価と、一定規模の商業的実績を得るという「事件」が起きています。藤澤さんが電ファミで対談した『ゼルダ』新作に至っては、久々に日本のゲームが世界の潮流を変えるだけのインパクトを持つ歴史的傑作になりました。
 ちなみに、『ニーア』は海外に向けた要素を入れて……みたいな議論はあったのですか?

ヨコオ氏:
 実は前作で、海外向けの「オッサン」が登場するバージョン違いを出してるんです。ところが、結果的に海外のお客さんから言われたのは「いや、オッサンは好きだけど、スクエニにそれは求めてないから」だったんです(笑)。

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(画像はNieR:Automata公式サイトより)

――ここも、ちょっと読者の人に補足したいと思います。

 日本のゲーム業界は00年代後半、ハードで言うとPlayStation 3(以下、PS3)以降に、海外で数千万本単位の売上の桁違いなビジネスが生まれてきたときに、「欧米ウケ」を狙ったゲームを試行錯誤したんですね。
 でも、やっぱり日本人には、そんなゲームは上手く作れなかった。その後、他にも色々な理由があって、日本のゲーム業界は世界市場から事実上、隅に追いやられつつあります。『ニーア』の前作も当時のものですね。

ヨコオ氏:
 結局、スクエニブランドで日本人が海外向けっぽいキャラを作る意味は、あまりなかったというのが、当時の結論でした。その失敗例を踏まえて、スクエニの齊藤プロデューサーと一緒に今回、僕たちは日本に向けてまずはしっかり作りました。
 要は、自分が面白いと思うものを、好き放題やっただけですね。

――それで生まれたのが、若い頃の椎名林檎みたいな見た目で、ゴスロリ服のアンドロイドが活躍するゲームだったわけですね(笑)。

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(画像はNieR:Automata公式サイトより)

橋野氏:
 『ペルソナ5』【※1】も一緒ですよ。海外はあまり意識していません。

 そもそも僕らの場合は、「女神転生」が皆さんも知っての理由【※2】で(笑)、海外にどうしても出しづらいゲームだったので、海外市場への意識は確かにずっとあるんです。でも、だからこそ僕は、海外を目指す必要があるのかと、ずっと疑問に思っています。そもそも「ペルソナ」については、全く意識せずに海外のお客さんから支持して頂けたのだから、それを変えるのはダメじゃないかとも感じています。まあ、その意味で意識しているとは言えるかもしれないですが。

※1 ペルソナ5
2016年にアトラスから発売されたRPG。「ペルソナ」シリーズ5作目にあたる。「ペルソナ能力」を手にした主人公たちが、異変によって悪魔やシャドウが出現するようになった現代日本の街や高校を舞台に活躍する。本作の舞台は東京で、主要登場人物は「怪盗」。

※2 「女神転生」、「真・女神転生」シリーズでは、さまざまな宗教で崇められている神々がそのままの名で登場。ゲームシステムとして悪魔やUMAなどと並置されていたり、強さによる序列があったり、悪魔(!)合体と称して融合した神が別のモンスターになったりなど、宗教観の強い厳しい国ではおよそ受け入れられない内容となっている。

――面白いのは、「ペルソナ」って「学園モノ」の要素があることですね。ぶっちゃけ、アニメや漫画のクールジャパン的な話でも、やっぱり学園モノは日本独自の文脈でしかなくて、海外では弱い舞台設定だと聞くんです。

橋野氏:
 学園モノが、共通体験が少なくなってきた現代日本人の数少ない共通体験であるのは事実です。実際、「ペルソナ」は、こう見えて高校生などの若いプレイヤーよりも、30代以上の方が多いです。だって、現役の高校生が「高校生活」をプレイしても、ノスタルジーなんて感じようもないでしょうからね。

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 ところが、不思議なことに、海外でも支持して頂けたんですよ。彼らは制服も着なければ、舞台も文化も全然違っていて、ティーンの置かれた状況だって違うというのに。しかも、日本人とキャラクターの愛で方や読み解き方も変わらないんですね。

藤澤氏:
 結局――「アメリカ人の真似」じゃダメってことだと思います。
 ゲーム業界全体としても、PS3の頃に「海外ウケ」を意識して大コケした記憶があって、今はまだそのリハビリ中みたいな時期だと思っています。
 だから、『Horizon Zero Dawn』(以下、『ホライゾン』)【※1】や『The Elder Scrolls V: Skyrim』(以下、『スカイリム』)【※2】や「Grand Theft Auto」(以下、「GTA」)シリーズ【※3】を見せられても、僕はあまり悔しいとは思わない。それらはそもそも作り方の違いでもあるし、プロジェクトというものの捉え方の違いだと思っているので。

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※2 The Elder Scrolls V: Skyrim……2011年に発売されたシングルプレイヤー専用のアクションRPG。アメリカのゲーム会社Bethesda Game Studiosによる開発で、「The Elder Scrolls」シリーズ作品のひとつ。本作は発売から2日間で約340万本売り上げるなど、大ヒットを記録。日本ゲーム大賞2012の「年間作品部門」では「優秀賞」を受賞している。
(画像はAmazonより)

※1 Horizon Zero Dawn
2017年に発売されたオープンワールド型のアクションRPG。文明の衰退から1000年後の世界を舞台にし、地上を闊歩する機械獣たちを狩猟する。オランダのゲリラゲームズが6年の歳月をかけて開発した。

※3 Grand Theft Auto
通称GTA。米Rockstar Gamesによって開発・発売されている人気ゲームシリーズ。第1作が北米で発売された1997年から現在に至るまで様々なタイトルが発表され、2015年には、シリーズの累計販売本数が2億2000万本に達したと報じられた。プレイヤーがゲーム世界を自由に動き回れる「オープンワールドゲーム」の代表作として知られている。

橋野氏:
 日本人が「これが美味しいぞ」と生み出したラーメン文化が、今や世界中でウケるような事実があるわけじゃないですか――それで、いいんだと思います。

海外で戦う必要なんてあるのか

橋野氏:
 ただ、ここはもう少し皆さんにお聞きしたいです。
 確かに、僕たちより上のレジェンド世代は、色々な理由から世界中でゲームを売ることが、まだ日本人にも可能な時代でした。それに対して、やはり僕らの世代にはゲームが世界中で売れていく中で、日本のゲームだけが国内市場で閉じてしまった事実はあります。

 そのときに皆さんは、やはりかつての栄光を取り戻したいのですか? 正直に言いますが、僕はピンと来ていません。

外山氏:
 まあ、『ペルソナ5』は上手くやってていいなあ……と思って、僕は見てるんですけどね(笑)。

 ただ、僕のいるSIEだと、海外のPlayStation 4(以下、PS4)作品がこれだけの売上を上げているのだから……という話になりやすいんですよ。実際、開発費は従来の何倍もかかってるわけで。

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 そもそもゲームは、かつては海外で売られて「当然」だったんです。それがPS3になって、海外市場と日本市場を区別した視点が現場でも語られ始め、PS4となると、もはや海外と日本では売上の規模が大きく変わってしまった。その中で、僕らのやっていることは何も変わっていないのに、周囲に「え、その数字でいいの?」と問われる空気が生まれています。

藤澤氏:
 映画ビジネスに喩えるとわかりやすいと思います。ハリウッドと日本映画ではスタッフの数も予算も違うし、彼らは最初から世界に向けて作るという発想を持っている。結果的に、日本人も含めた世界中の人がアメリカ映画を見るけど、それ以外の国の映画の配給は概ね国内にとどまる。ゲーム業界でも、これと同じことが起きているんだと思います。

――ちなみに、「ドラゴンクエスト」はどうだったのですか?

藤澤氏:
 僕は既に離れてしまった立場なので、参考程度に聞いて下さい。
 ビジネス的な面で言うと、「ドラクエ」も「まずは国内向けにきちんと作りましょう」という考えでやっています。

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(画像はドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン公式サイトより)

 故に、外山さんのような焦燥感を抱くことはなかったですね。ドラクエは海外で、まあまあ売れてはいるけど大ヒットには至っていません。向こうの人からしたら、あのコマンド選択型のバトルが古く見えるし、ゲームデザインレベルで日本人向けに最適化されたゲームではあるので。もちろん、今も挑戦は続けていますけどね。

ヨコオ氏:
 なるほど。ちなみに、僕の場合は、単にスクエニさんが「海外向けに作れ」と言ったら、作るだけですが(笑)。
 でも、僕自身は自分が「海外で戦う」なんて口に出来る人間だと思っていません。そもそも日本で戦えていないことにコンプレックスを感じているわけで、「日本で売れないやつが、海外で売れるとか思うなよ!」という気分です。正直なところ、自分の「海外に向けてこうやって売っていこう」というコメントは、全て「お金をくれるクライアントにつく、凄そうな嘘」でしかないです(笑)。

一同:
 (笑)

AAAとインディーの「中間のゾーン」に活路あり?

――まあ、海外市場の話が、CEDEC【※】のような「勉強会」的な場所で、よく語られてるのは事実ですね。
 それに一ユーザーとして凄く違和感があるのは、「これ、いいじゃん」と思う作品をストレートに出さないで、海外向けに自分を合わせて作品をつくることに、ものづくりの「正しさ」が本当にあるのかということです。
 実際、日本人のクリエイターなら、やはり彼らなりの発想で突き抜けた面白さを提示してくるゲームこそが、やっぱり遊んでいて楽しいんです。本当に、実感の伴わないマーケティングの先に可能性なんてあるのだろうか、と。

※ CEDEC
Computer Entertainment Developers Conferenceの略。ゲーム会社からなる一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会 (CESA)が主催する、日本国内最大のゲーム開発者向け技術交流会のこと。1999年に第一回が開催されて以降、毎年開催されている。

橋野氏:
 そう思います。ただ、日本のゲームクリエイターが、だいぶ自信を失っている状況があるのも事実ですね。

※PROJECT Re FANTASY
2016年にアトラスが発表した新プロジェクト。“真なる幻想世界(ファンタジー)への回帰”をテーマとした、新たな王道RPGになるという。

 ちなみに、僕は先日のファンタジー作品プロジェクトの発表で「原点回帰」という言葉を使いました。僕自身は「ペルソナ」を作る中で得た、海外のユーザーも含めて普遍的に面白がってもらえる部分を突き詰めてみたくて、あえて「現実と切り離したファンタジー作品」に乗り出してみるつもりなのですが……まあアイディアがなくて困ったときに言う言葉でもありますよね、「原点回帰」って(笑)。

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 でも、それでもいいと思うんですよ。アイディアが無いなら無いで、開き直ってやってみれば、何か生まれると思います。僕の問題意識としては、むしろスマホの無料ゲームに流れた日本人たちに、どうすれば彼らの期待を上回った作品を提供できるのか……みたいな方が強いですが。 

――橋野さんのプロジェクトは、本当に楽しみなんです。
 ただ、そういうユーザー視点を話しつつも、日本が置かれたシビアな現実もあると思うんで、その話もしたいです。以前、『龍が如く』の名越さん【※】が、「かつて日本のゲーム産業が世界一だったのは、単に当時の日本が開発費を世界一かけられる国だったからだ」と話していました。
 その理由は、まさに団塊ジュニア世代という「人口ボーナス期」の世代に作れば、世界を制する予算を取れる莫大な売上を確保できたからですね。

※名越さん
名越稔洋。1965年生まれのゲームクリエイター。1989年にセガ(後のセガゲームス)に入社し、『バーチャレーシング』、『バーチャファイター』などの作品にCGデザイナーとして参加する。その後、プロデュース側に回り『デイトナUSA』、「龍が如く」シリーズなどのヒット作を生み出す。現在は、株式会社セガゲームス取締役兼開発統括本部統括本部長、株式会社セガ・インタラクティブ取締役CCO兼開発生産統括本部統括本部長を兼任。

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(出典:総務省統計局 国勢調査)
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(出典:国立社会保障・人口問題研究所 中位推計)
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(出典:国立社会保障・人口問題研究所 中位推計)

※エンタメを消費する主な世代のうち「15〜19歳」、「20〜24歳」、「25〜29歳」の人口の合計の推移に注目してみたい。その人口は1995年から2015年にかけて、約2700万人から約1850万人にまでと、約68%になっていることがわかる。さらに2025年にはもう一回り減少し、約1700万人(1995年と比較して約62%)になっているとの推計が出ている。

 でも、上のグラフを見れば分かるのですが、団塊ジュニア世代が大学生だった95年と比較して、今の日本でエンタメを消費する世代の人口はガクッと落ち込みました。そして、この少子化は加速することこそあれ、反転の兆しはない。そもそも日本のエンタメ産業全般が外需の視点なしにやっていけない時代へのカウントダウンが、もう始まっています。
 そのとき、いち早くグローバル市場の舞台に乗せられたゲーム産業が「どう現実的な戦い方を見せていけるのか」という問題は、日本の未来に繋がる大きな問いだと思うんです。

ヨコオ氏:
 ただ、この1、2年の状況を見ていると、だいぶ事態が変わってきたように思います。
 海外ではAAAタイトル【※】の市場が成熟して、冒険が出来なくなっています。オープンワールドやFPS、あとレール型のアドベンチャーアクションだらけになって、それを破壊するようなことができない。その一方でインディーズの方では、実験的な作品が次々に低予算で飛び出しています。

※AAAタイトル
厳密な定義はないが、主にハイエンドユーザー向けのタイトルで、大ヒットしたゲームを指す言葉である。トリプルAクラスともいう。

藤澤氏:
 二極化が進んでいますよね。

ヨコオ氏:
 この「大規模予算のメジャー作品」と「低予算のインディー作品」の二極化の中で、どうも日本の個性的なゲームが、その中間の辺りにあるぽっかりと空いたゾーンに入り込み始めた印象があります。例えば、外山さんの『GRAVITY DAZE』【※】なんて、まさに僕の印象ではこの漂う「中間」のゾーンに飛び込んだ作品です。

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※GRAVITY DAZE……2012年発売のアクションアドベンチャー『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において彼女の内宇宙に生じた摂動』。重力を操作してオープンワールドを自由に動き回る。2017年1月には続編が発売された。外山氏がディレクターとシナリオライターを務めている。
(画像はソニー・インタラクティブエンタテインメント提供)

 この10年、もはや日本がAAAの戦いに参加できなくなった中で、僕らが迷いながらも到達した境地は、いま世界的に見て非常に面白いポジションに来ているのではないでしょうか。僕の中では、『人喰いの大鷲トリコ』【※1】も『FINAL FANTASY XV』【※2】も、あるいは「ペルソナ」や「ダンガンロンパ」【※3】も、海外のAAAタイトルが陥ったフォーマットの硬直化にとらわれていない、とても面白い作品たちです。

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人喰いの大鷲トリコ……2016年発売。プレイヤーは主人公の少年を操作して、トリコと呼ばれる怪獣のような生き物と協力しながら神秘的な世界を探索する。『ICO』や『ワンダと巨象』のキャラクターデザイン・ゲームコンセプトを担当した上田文人氏が監督・ゲームデザインを務めた。
(画像はソニー・インタラクティブエンタテインメント提供)
2  FINAL FANTASY XV……2016年発売。本作は従来のようなコマンドバトルでなく、オープンワールド内で繰り広げられるアクションRPG仕様となっている。
(画像はAmazonより)

※3 ダンガンロンパ
2010年発売の『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』に始まるハイスピード推理アクションゲームのシリーズ。「超高校級」の稀有な才能を持つ個性的な生徒たちが巻き込まれてしまう殺人事件を、“学級裁判”で推理していく。

――その感覚は、非常に良く分かります。今年に入って海外のメタスコアで好評価を得ている、『ニーア』、『ペルソナ5』、『仁王』【※】などの日本発作品は、まさにヨコオさんの仰る「中間ゾーン」にハマっている気がします。

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※仁王……2017年にコーエーテクモゲームスより発売されたアクションRPG。1600年の大航海時代、戦乱の最中にあった日本にたどり着いた金髪碧眼の主人公・ウィリアムが、異国の戦いに巻き込まれていくという物語。その難易度の高さから「死にゲー」と評されることも。
(画像はAmazonより)

ヨコオ氏:
 しかも、海外のプラットフォームが巨大なバジェットで、ここに賭けてくる土壌があるかというと、そんな気はしない。とすれば、ある意味で――日本のチャンスですよね。
 ただ、残念ながら、これは日本人が「意図して起こした」ことではないです。だから、この先どうなるかは全く分かりません(笑)。でも、こういう風に迷いながら答えを探すのは、クリエイターとして楽しいですよ。答えがない状況って、やっぱり面白いですから。

「J」RPGとオープンワールド

――そういう意味では、今回の『ゼルダ』は日本的なゲーム開発の究極形だと思うのですが。

ヨコオ氏:
 300人体制でプレイしたという話ですよね。その辺は、開発の仕方は人それぞれだなあ……と思ってしまったところですが。

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藤澤氏:
 多くの人が触ることで、さわり心地の悪い角を徹底的に落としたことが、プレイしていて見えてくるんですよね。もう、ありとあらゆるところを撫でまわすように触って、すり減らして丸くなったような。

橋野氏:
 ただ、「ペルソナ」のような作品と比較すると、思うところもあります。やはり海外のメディアからは、「プレイヤーの自由に委ねるのが現代のゲーム開発なのに、なぜお前らはプレイヤーの時間を奪って、シーンを見せてくるのか」と言われるんですよ。一応、「それはそれでよかった」とは言ってくれるんですが(笑)。

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 ここって、まさにJRPG【※】の「J」がつく部分だと思うのですが、僕はプレイ時間をプレイヤーの意識に委ねるのがゲームだという考え方は、あまりないんですよ。外山さんの『GRAVITY DAZE 2』だって、イベントをかなり見せてきますよね。

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(画像は『GRAVITY DAZE 2』ゲーム内容紹介映像より)

※JRPG
欧米のRPG(WRPG)と比して日本製RPGを指すときに使われる言葉。コマンド選択式バトル、長尺のムービークリップ、キャラクター性の強さなどが傾向としてあげられる。

――そこは今日集まった4人の特徴かもしれないですね。とはいえ、現在のAAAタイトルのオープンワールドだって、目的地に向けた矢印が出ていたりして、随分と受け身な設計になってきたように思いますね。

外山氏:
 ただ、トレンドで言えば今回の『ゼルダ』がまさにそうで、ゲームを「自由に動き回れる遊び場所」と捉えているのはありますね。自分が少し前時代的なことをやっている不安はあります。

藤澤氏:
 青沼さんとの対談でも話したのですが、ストーリーがあって決められた手順でエンディングに向かうタイプのゲームだと、中間にある障害物が面倒な作業に感じられてしまう。昔の日本のプレイヤーは、それをRPGの作法として許容してくれましたが、オープンワールドの登場以降、世界的にはこのタイプは厳しく見られるようになりました。現代の海外ユーザーからは「やめてくれ」という感じはあるでしょうね。

「ディレクションとテキストの執筆はセット」(藤澤氏)

ヨコオ氏:
 でも、せっかくなので、今日はこの4人の開発手法も聞いてみたいですね。例えば、外山さんって『SIREN』【※】のようなホラーの後に、『GRAVITY DAZE』を作っちゃうじゃないですか。両方とも素晴らしいのですが、共通点がどこにもない。一体、なぜそんな作り方が可能なのかを聞きたいです。

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※SIREN……2003年に発売された3Dアクションホラーゲーム。外山氏がディレクターを務めた。昭和78年の日本を舞台にし、土着的・民族的なモチーフを題材としたストーリーと、その攻略の難易度の高さから熱狂的な人気を集めた。2006年と2008年には続編が発売され、以降コミカライズもなされている。
(画像はAmazonより)

外山氏:
 いや……よく見ると結構そっくりなはずです(笑)。

 ただ、ドット絵の時代とは、もうディレクターの役割が変わったというのはあります。昔は自分が嫌いなモノを排除して、好きなモノだけを詰め込んでいくようなゲームづくりが可能だったけど、例えばオープンワールドともなると、そういう作り方はあり得ない。しかも工数制限は厳しくなる一方。その中で、優秀なスタッフをどう采配して注力すべきポイントを決めるかに、ディレクターの役割は移行しているんです。

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 僕も今は、社内のクリエイターたちの能力を上手く発揮させながら、全体的にじわっと開発を進行させていくイメージで作ってます。逆に昔のように一点突破で作品を面白くしていくやり方は、なかなか難しい時代ですね。

藤澤氏:
 外山さんは、もうあまり自分の手は動かしていないんですか?

外山氏:
 自分で手を動かしている場合ではなくなってます。正直、僕は元々絵描きですけど、残念ながら今やその専門スタッフに混ざったとしたら一番下手なくらいですよ。
 でも、不思議なことに「絵が上手である」ことと、「今、注力すべき絵はこれだ」と判断することは、どうも別なんですね。そのときに僕は「君は、そこにフルスイングすればいいんだよ」と客観的に指し示すことは出来るんです。最近は「ああ、これが自分の仕事なんだな」と思ってます。

――手作業での腕前はもう現代の専門スタッフには敵わなくなったけど、大規模開発の中での「大局観」に、むしろ大きな役割が生まれてきたということですね。

ヨコオ氏:
 僕は今、ご存じのようにシナリオを自分で書いています。
 ただ、別に書きたくて書いてるわけではないです。理由も、ここにいる皆さんなら、ご存じの通りです。ゲーム開発では色んな要素によって次々に変更が起きてくるのですが、実はシナリオで回収するのが工数管理的に最適解であることが多いからです。

一同:
 (わかるという表情)

ヨコオ氏:
 例えば、「このイベントシーン、絵に違和感あるんだよなあ」となっても、実は映像を作り直すより、シナリオを直した方が劇的に早いことの方が多いですよね。
 そのときに外部のライターに頼むと遅くなるんですよ。僕のゲームではシナリオがさほど重要じゃないし、あまり他人に被害を与えたくないこともあって、自分で書いてしまいますね。

藤澤氏:
 テキストの直しで、劇的に良くなることが多いですよね。ここは、プレイヤーと向き合う要の部分だと思いますし、なかなか他人に任せられない。『ドラゴンクエスト X』【※】の規模でも、僕がいた当時はシステムメッセージは全部書いていました。

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 僕にとって、ディレクションという行為とテキストを書くという行為はセットなんです。そこを他人に任せることは永久にできないので、きっと外山さんのようなゲームは自分には作れませんね(笑)。

※ドラクエX
『ドラゴンクエストX オンライン』。2012年に発売されたWii版をはじめとして、順次新版が発売されてゆき、現在は複数のハードで展開されている。全国のプレイヤーたちと同一の世界内で、他のプレイヤーと協働してクエストをこなしたり、一人でメインストーリーを進めたりなど、さまざまな遊び方が可能なMMORPGとなっている。

――ディレクターがテキストを現場で徹底監修することで、クオリティを統御する手法があるんですね。JRPG的なゲームならではの手法かもしれないですが。

橋野氏:
 僕は、脚本までは書かないけど、その手前の「小バコ」【※】を書くところまではやります。
 それは『ペルソナ3』でチーム組んだときに、シナリオを書ける人がいなくて始めたことでしかないです。ディレクターの仕事って、言わば「最後の尻ぬぐい」なんです(笑)。

 だから、基本的には他人に任せるけど、必要な部分には入り込んで、手を動かすイメージですね。
 本当はバトルプランナー出身だから、バトルなんて口を出したくなったりもするんですが、そこは上手いヤツがいれば任せます。逆にダンジョンのギミックみたいな部分で、「今回は経験の浅い若手しかいないから、自信はないけど自分が入るか……」みたいに判断したりもします。要は完成度が高くなればいいので、そのためなら何でもするわけです。で、穴がたくさんあると、全部自分が入るから延々と開発期間が延びる……(笑)。

※小バコ
ここではシナリオの大枠のことを指す。

一同:
 (笑)

ヨコオ氏:
 まあ、という感じですので……『ゼルダ』の例は確かに一つの究極形だとは思うし、「GTA」シリーズのような予算のゲームにも、それに見合う作り方はあると思うんです。でも、現実には予算的にも人的にも決して恵まれていない状況で、僕らは開発しなければいけない。だから、プレイヤーの皆さんが想像しているよりも遥かに、地味で貧乏くさい工夫をいっぱいやってるんです。ほとんどの会社さんが、そういう事情の中で開発していると思います。

――なるほど。

ヨコオ氏:
 ただ、ディレクターが自分でやんないほうがいいのは事実です。僕も、自分が手を動かすことで失うモノが多いのは知ってます。でも、工数やコストを考えると仕方ないところがあります。

外山氏:
 そこを切り離さないと、判断が甘くなりますよ。「残り時間がこれだけ……」という開発事情で、自分が手を動かしているうちに、「いやあ、俺はいい仕事してるなあ」なんて発想に頭を乗っ取られていくことが、どうしてもあるんです。すると「いや、これおかしくない?」とツッコミを入れられる人が、チームにいなくなる。
 自分で手を動かすと、ついつい自分に甘くなってしまうんです。

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マーケティングが高度化した時代に「個性」とは?

――今の言葉にウッとなった、同世代の管理職は多いんじゃないでしょうか(笑)。
 ただ、現代のゲーム開発でディレクターがそういう役割になる中で、ゲームの「個性」はどうなるんだろうか、と思うんです。まさにテキストワークで、そこを担保しているのかもしれませんが。

橋野氏:
 そもそも、僕が若い頃の話をすると「メカニック信仰」のようなものがまだあったんです。新しい技術を用いれば、それだけで売れるぞ……という。
 でも、もうそんな時代はとうに終わっています。別に新しい技術がなくても売れる時代になりました。

――今の若い世代には「ゲームでこんな体験が出来るのか」という、メカニクスのイノベーションそれ自体への感動を日々味わっていた感覚は、なかなか伝わらないでしょうね。
 しかも、ある時期からゲームは「このくらいの予算でこういう作品を作れば、こう売上が立つので回収できます」みたいに、おおよその答えまで出てきはじめてしまい……クリエイティブにとって残酷な状況があるように思うんです。

外山氏:
 むしろ操作に新規性なんて入れてしまうと、今やウケないです。「いつも知ってる動かし方を外さないでね」みたいな圧力を感じます。その意味でも、ハリウッド映画に似てきましたね。突飛なことは別に要らない。
 同じような感じで始まって、途中でよい感じで刺激が入ってきて、良い感じに終わるエンタテインメント――ゲームはそうなりつつあります。

橋野氏:
 でも、僕は外山さんの『GRAVITY DAZE』なんて、根本に公園で遊ぶ子供のような柔軟な発想を感じましたけどね。

 以前、フランスのインタビューで『GRAVITY DAZE』を作ったキッカケとして、「会社まで歩くのって面倒だなあと思っていたら、途中に急な坂があって“ここを転がれたら、簡単に会社に着けるのにな”と考えた」というのが原点だったと話されていて、凄く面白かったんです。そういう「明日の朝は、どのぐらい痛いうんちが出るのか」みたいな、子供のような発想が出来るなら、まだまだ面白くなるはずですよ。

外山氏:
 えー! もう「そういうのはインディーでやってよ」って感じなんじゃないかなあ(苦笑)。

藤澤氏:
 僕も『Portal』を初めて見たとき、「よくこんなの思いつくな!」と感動したんです。あの頃はまだギリギリそういう感動が市場に残っていたのかな、と思います。

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※Portal……2007年リリースされた、シングルプレイ専用アクションパズルゲーム。アメリカのValve Corporationによる開発。重力と物理エンジンを活かしたゲーム性が評価され人気を博した。
(画像はSteamより)

 ただ、作り手として、新しいアイディアに感動するという観点は忘れてはいけないと思うし、そこに意味も価値もあると信じていますが、市場での成功を目指すときにそれがマストかと言えば……残念ながら、もはや勝負は別のところにあります。もう、そんなワンアイディアで勝てるほど単純な時代ではなくなってしまったと、最近はつくづく感じます。

――確かに、もうコンシューマーゲームは市場が整理されてしまっている感じは、あると思います。

橋野氏:
 うーん……そうなんでしょうか。本当に求められていないんでしょうか。

藤澤氏:
 求められていないというよりは、プレイヤーの要求水準が、単なるアイディアだけでは満たされなくなってきている、というような感覚でしょうか。もちろん、この感覚自体が「錯覚」なのかもしれないですけどね。 

『Demon’s Souls』という常識を覆すゲーム

ヨコオ氏:
 そういう意味では、フロム・ソフトウェアの「ソウル」シリーズは、まさにユニークな独創性のアイディアで突破していった作品ではないでしょうか。

ニーア、ペルソナ等の人気ゲーム開発者が激論! 国内ゲーム産業を支える40代クリエイターの苦悩とは【SIE外山圭一郎×アトラス橋野桂×スクエニ藤澤仁×ヨコオタロウ】_052
Demon’s Souls……2009年に発売されたアクションRPG。ダンジョンの奥にいるデーモンを討伐するというストーリー。「死にゲー」の代表格と目されるほどの難易度の高さと、やり込み要素の豊富さにより、国内外のゲームファンより熱狂的な支持を集めた。
(画像はAmazonより)

 当時は「なぜこれがOKされたんだ!?」と驚いたほどですが、いま思えばあれはフロムとしても空前絶後の「奇跡の発明」だった気がします。作り手の狂気を感じますよね。ホント、言わば「激辛ラーメン」が商売として広い層に受け入れられる瞬間を見たというか……。
 今や、『Demon’s Souls』(以下、『デモンズソウル』)以前には想像できなかった光景があるように思います。 

藤澤氏:
 しかも、「激辛」だけど、食べてみると意外とイケるという(笑)。
まさに、仰る通りですね。「錯覚」かもしれないと思うのは、それでも『デモンズソウル』のような事例がごく稀に存在するからです。

外山氏:
 「こういうのは売れない」という僕たちの思い込みを、フロムは平気でひっくり返してしまった……。もちろん、ウチの社内でも「これは面白いぞ」と食いついていた人もいたけど、あそこまでのヒットを予想できた人は少なくて。あのときは「ああ、ゲームファンのリテラシーは想像していたより凄く高いなあ」と思いましたね。

藤澤氏:
 僕は初めて触ったときのことをよく覚えてますが、アイディアでぶっ飛びました――「ああ、なんちゅうゲーム作ったんだ」って。「他のプレイヤーの死にざまが見られる」なんて、聞いただけで面白い。

――お話を聞いていると、やはり宮崎英高さん【※】は、皆さん意識されているように見えますね(笑)。

※宮崎英高
フロム・ソフトウェア取締役社長。ゲーム開発未経験で、29歳のときに外資系ITコンサルタントから転職してきた異色の経歴のゲームクリエイター。「アーマード・コア」シリーズのプランナー、ディレクターを務めた後、『Demon’s Souls』や『DARK SOULS』のディレクターを務める。

藤澤氏:
 僕はもう、近年では最大の “やきもち”を焼いたゲームでしたね。

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 というのも、僕は『ドラゴンクエスト X』で「ドラクエをオンラインゲーム」にせよというミッションを与えられたときに、パーティも組めず、チャットもなく、ただその世界に他のプレイヤーがいるのが見えるだけ……というゲームを最初は作ろうとしたんです。
 でも、MMO【※】を求められている状態でそんなゲームデザインが許されるはずもなく、結局はオーソドックスな方向へ少しずつ寄せる判断をしていったんです。だから、『デモンズソウル』を触ったときに、「ああ、こんなのをやりたかったんだよ!」と本気で思いましたので(笑)。

※MMO
Massively Multiplayer Online Role Playing Game(大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)のこと。運営会社の設置したサーバー内に展開された世界に数百~数千のプレイヤーが同時接続し、オンラインで同期して楽しむタイプのロールプレイングゲーム。

外山氏:
 「新しさ」と「わかりやすさ」のバランスが素晴らしいんです。単に新しいだけでなく、誰でも面白いと思える、わかりやすい、いわば大衆性。この発明が、まあ難しいんです。

藤澤氏:
 しかも、『デモンズソウル』には、そんな大発明が三つぐらい入っている。
 ゲーム的にはオーソドックスなアクションRPGだし、その三つのアイディア以外は古き良きアドベンチャーゲームなんですけどね。

――ところが、その新旧の各要素の融合が素晴らしいんですよね。あの難しさとリンクしているから、「幻影システム」【※】も面白いんです。難しいんだけど、他人の死にざまを見ることで難度が下げられるし、納得感もある。本当に絶妙にゲームシステムが絡み合う作品です。

※幻影システム
『Demon’s Souls』では、オンラインプレイでプレイヤーが死亡するとその場に血痕が残る。ほかのプレイヤーのダンジョンにもこの血痕は表示され、ほかのプレイヤーがこれに触れると、死んだプレイヤーの死亡シーンが再現されるため、何がどう危険なのかを知ることが可能。同様に、オンラインプレイ中、同じダンジョンにいる他のプレイヤーの行動が幻影として見られることがあり、これを手掛かりに攻略ルートなどがわかることも。

外山氏:
 宮崎さんに聞いたら、「ランダム要素を除いたRPG」を作ろうとしたと言うんですね。言われてみれば「目から鱗」というか、コロンブスの卵ですよ。愚直とも思えるような、シンプルだけど強いコンセプトだと思います。

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藤澤氏:
 なにか、作品に「香り」みたいなものがありますよね。新しいアイディアを市場に投げて、それをプレイヤーさんに受け止めてもらって熟成していくところまで、しっかりとやり切りましたからね。

ヨコオ氏:
 でも、それって当たった状況から振り返って、言っていませんか(笑)。さすがに、当時は「これは売れない」と100%思ったし、絵的に尖ってるわけでもないし、むしろモーションなんてちょっと野暮ったい感じさえある。まあ、それが味になってしまったわけですが……。

橋野氏:
 僕は宮崎さんって、今っぽくない人な気がしていますね。

外山氏:
 まあ、宮崎さん、ゲームよりも読書という人ですからね(笑)。

藤澤氏:
 漫画がかなり好きみたいですね(笑)。

――しかも、出自はゲーム業界ではなく、元々はコンサルタントという(笑)。

橋野氏:
 宮崎さんとお話しさせていただいたとき、「どうやって死にゲー【※】としての難易度調整してるんですか」って聞いたら「してない」と言われました(笑)。

※死にゲー
難易度が極端に高かったり、回復手段が極端に少ないなどの理由で、プレイヤーが何度も死んでしまうゲームを指す造語。『Demon’s Souls』をはじめ、『仁王』や『Bloodborne』などがその筆頭。

一同:
 (爆笑)

藤澤氏:
 僕も最初にお会いしたとき、「『デモンズソウル』をどうやってβテストしたんですか」って聞いたら、「してない。いきなり売った」って言ってました(笑)。

一同:
 (また爆笑)

橋野氏:
 色々な意味で、希望を覚える返答ですよね(笑)。
 「難しくしてるつもりはないんだけど、ああなっちゃった」みたいなことを言うんです。もちろん、理詰めの部分もあると思うんですよ。でも、ユーザーがデカくシビれた部分は、人間の「感性」の力で生み出されていた。
 そういう話を聞くと、まだまだゲームというジャンルには伸びしろがあると思えるんです。嬉しくなっちゃいますよね。なにせ「スタッフが理不尽だってキレたら、そこだけ直す」なんて話もされてたんですけど……これ、『ダークソウル3』の話ですからね!

――本当に宮﨑さんって、不思議ですよね(笑)。ちなみに、その一方で彼は「じゃあ、テスター100人にやらせて、意見を収集して角を取ったら面白くなるかといえば、危ういでしょう」とも、しれっと言うんです。

橋野氏:
 本当は徹底的に「理詰めの結論」で、そうしていらっしゃるんですかね。もしそうなら、彼の僕への言葉はサービストークだったのかもしれないですが……。

――一体、真実はどっちなんでしょうね(笑)?

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