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スクエニと協力でゲームの展覧会!? 美術の天才集う東京藝大が“ゲーム学科”新設をもくろむワケ。担当教授に狙いを訊く「ゲームは現代の総合芸術と呼ぶにふさわしい」

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なぜ藝大にゲーム学科が必要なのか

――いま「日本でもゲーム学科についての状況が動く可能性がある」とおっしゃいましたが、ここで先ほどの「藝大の将来にはゲーム学科が必要不可欠だ」という話に戻りたいと思います。その理由はどういったところにあるのでしょうか。

桐山氏:
 まず大きな流れとして、藝大はひとつの芸術だけでなく、それを複合した総合芸術の方に向かおうという動きがあります。

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 伝統的な油絵や彫刻だけでなく、2005年に映像研究科が新設され、2006年にメディア映像専攻、2008年にアニメーション専攻が次々に誕生したのもその流れです。そしてやはり、現在最も機能している総合芸術は「ゲーム」なんです。

――総合芸術というのは複数の分野の芸術の集まりによって創造される芸術のことで、普通はオペラや舞台のことを指しますよね。ゲームが総合芸術というのはどういうことでしょう

桐山氏:
 ゲームは音楽、脚本、演出、美術、エンジニアリング、いろいろな要素が入っていて、まさに舞台芸術に匹敵する現代の総合芸術と呼ぶにふさわしいものです。

 そして何より学生の間でも、自身の表現手段としてゲームを作ってみたいという人が年々増えているんですよ。授業の中で何か作品を作ろうとすると、ゲームのようなものを作りたいという人が必ずいます。今まではそれはメディアアートという大きなくくりの中に入れていたんですが、やはり無視できない流れなので、「ゲーム学科」として新たに立ち上げたいという思いが強くあるんです。

――なるほど、そういった時代の流れもあるんですね。

桐山氏:
 そしてもう一つ意識しているのは、アニメーションの応用分野としてのゲームです。これまでも藝大のアニメーション学科を卒業してゲーム会社に行くという人が何人かいました。アニメ業界ってなかなか仕事も限定されますしね。

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「ゲーム学科(仮)展」の一環として7月23日に東京藝大で開かれた、スクウェア・エニックスのアニメーターの神林孝幸氏による講座「ファンタジーにおけるリアリティ アニメーション編」の様子
(画像は東京藝大提供)

 ところがゲーム業界では、しっかりと絵が描けるとか、映像的な演出ができるといった力が求められている場面が非常に増えてきています。そういったアニメーションを学ぶ学生のひとつの出口として、ゲームを位置づけることもできると思っているんです。

――藝大の卒業生の出口という面でもゲーム産業を見据えているんですね。将来的にゲーム学科ができたら卒業生にはどういうところに進んでほしいですか?

桐山氏:
 南カリフォルニア大学の動きが参考になるんですが、ひとつは独立系のゲームを自分たちで作るようなスタジオですね。それからスクエニさんのようなビッグタイトルにキャラクターデザインで参加するとか、そういう人も出てほしいと思います。

藝大が社会と接続する「COI拠点」とは?

桐山氏:
 実は今回スクエニさんという企業と協力してひとつの展覧会を作り上げたことは、藝大の方向性の大きな流れの中にあるんですよ。

――大きな流れといいますと?

桐山氏:
 私が所属している東京藝術大学COI(Center of Innovation)拠点【※】は、本格的に稼働して今年で3年目の新しい組織です。一言で言うと産学連携のプロジェクトを推進し、芸術を社会の役に立てるように成果を還元する活動を行っています。

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※東京藝術大学COI拠点……文部科学省と科学技術振興機構によって設立された「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」の一貫として採択されたのが東京藝術大学COI拠点。本拠点について公式サイトには、「本拠点は、芸術と科学技術の融合によって次世代のインフラとなる豊かな文化的コンテンツの開発をおこない、教育産業を通した文化教育コンテンツの社会実装ならびに国際関係の構築に資する文化外交アイテムの社会実装を目指しています。」と記載されている。
(画像は東京藝術大学COI公式サイトより)

 産学連携という言葉は近年注目されていますが、要は資金を大学が頑張って得なさいということなんですよね。他の大学でいえば新技術を企業と共同研究するといったものが多いですが、藝大はそういうものは持っていない。そこでどうするかというと、芸術と技術の融合を標榜して、社会に芸術を浸透させていくという考え方でやっています。

――たしかに藝大で産学連携というとあまりピンときませんが、たとえばどういう活動をしているんですか?

桐山氏:
 たとえばCOI拠点の中には、元の絵画と見分けがつかないような、絵の具の成分や凸凹などもそっくりな絵画を複製するという技術を持っている文化共有研究グループがあります。そこはもともと古美術の修復をやっていた宮廻正明教授【※1】のチームで、クローン文化財【※2】の特許をいくつも持っています。

 それを社会の役に立てようということで、最近ではテロで失われたバーミヤンの壁画を復元して伊勢志摩サミットで各国の首脳に披露し、好評を得ています。

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2016年のG7伊勢志摩サミットにて、文化共有研究グループ制作の壁画複製を鑑賞する各国首脳。オバマ前米国大統領は実際にクローン文化財に触れ、手ざわりを確かめた
(画像は東京藝術大学COI公式サイトより)

※1 宮廻正明教授
1951年生まれ。東京芸術大学助教授、教授、学長特命、社会連携センター長を歴任。複数美術館などの理事も務める。

※2 クローン文化財
東京藝術大学が開発した特許技術を用いて制作された、手触りや使う素材も、本物そっくりな複製品。失われてしまった文化財をクローンとして復元することで、文化を継承する。

――おお、それは興味深いですね! 他にはどのような取り組みがあるんですか?

桐山氏:
 他にも障がいと表現研究グループがあり、発達障がいや自分だけでは表現するのが難しいお子さんたち向けにコンサートをやって、表現力を解放してあげるという活動もしています。

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(画像は東京藝大提供)

 そこでは我々の共感覚メディア研究グループも協力をしており、砂場をセンサーで感知して高さごとに色分けしたものをプロジェクションマッピングするという作品を作りました。砂を掘ったり盛ったりするとリアルタイムで色が変わるんです。なかなか他人のいる環境に入って行きにくい子供さんたちも、こういう仕掛けで熱中させて遊んでいると、いつの間にか他人と一緒に遊べるようになったりするんです。

――藝大が持つ技術やアートの知見を生かして、社会の役に立つような取り組みを進めているわけですね。

桐山氏:
 また、1年ほど前から、耳が聞こえにくい子供さんたちに音楽のコンサートに参加してもらおうという取り組みもしています。

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(画像は東京藝術大学COI公式サイトより)

 たとえば自分の太鼓の音の大きさがiPadにリアルタイムに表示されるようなアプリをヤマハと協力して作りました。こういう支援ツールを導入すると、今まで音楽に触れる機会が少なかった子供さんたちにも「音の大きさを目で見て理解することができた」「初めて人に頼らず楽器を練習できた」と自信がつくんですよね。

――耳が聞こえない人だけではなく、例えばうるさい場所でも使えますし、すごくユニバーサルなデザインですよね。

桐山氏:
 最近では映像研究科もクラウドファンディングを取り入れ始めました。

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(画像はReadyforより)

 クラシックの名曲・ヴィヴァルディの「四季」を、世界の4人のアニメ作家がそれぞれ映像化し、オーケストラの生演奏と組み合わせるというプロジェクトのために、500万円の出資を募りました。はじめはどの程度注目を集めるのか不安でしたが、なんとか満額以上集まってよかったです。

――逆に言うと、こういったプロジェクトもクラウドファンディングに頼らなければいけない状況なんですね……。

桐山氏:
 いやあ、本当にそうなんですよね……。国がドンとサポートしてくれれば一番いいんですけどね(笑)。それは時代の流れですから、大学は大学で自立して資金を確保していかなければいけないんです。そういう大きな流れの中で、スクエニさんとがっちりタッグを組んで今回の「ゲーム学科(仮)展」ができたのはひとつの成果になったと思います。

――企業と組んでプロジェクトを進めるというのは、藝大全体の流れとして今後もますます強まっていき、その一環としてのゲーム学科(仮)展だったわけですね。

ゲーム学科設立に向けて

――最後になりますが、今回の展覧会における反省点はありますか?

桐山氏:
 面白かったとか特定のゲームがかなり楽しめたと言ってくださる人が多いですが、やはりコンセプトありきでゲームそのもとしてはまだまだといった意見も多かったです。

 今回展示されたゲームのプレイ時間はせいぜい1回5分程度なので、長時間遊べるようなゲーム性を持たせることに関してはまだまだでした。

――でもそれは展示という形式自体が抱える、なかなか難しい問題ですよね。美術展の映像作品やメディアアートでも、ひとつの作品に10分や15分かける人はそんなに多くないですし。

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桐山教授と佐藤雅彦教授によるユニット「ユークリッド」が手がけたメディアアート、『指紋の池』。指紋認証センサーに指を置くと、自分の指紋がスキャンされて液晶ディスプレイの中に現われ、まるで池に放流された魚のように自分の指紋が泳ぎだす。もう一度センサーにおなじ指を置くと、指紋の群れの中から自分の指紋があらわれ、自分の指へと帰ってくる
(画像は東京藝大提供)

桐山氏:
 まさにそれがゲームを展示するということにおける矛盾で、我々もまだ解決できていないところです。アニメーションだとイスに座った状態である程度の時間見てもらうことが可能ですけど、ゲームだとまた違った方法が必要になってきますね。

 必ずしも今回のような展示だけでなく、ダウンロードして家でプレイできるようにしたり、ネット上で展示したり、そういった方法も次回は考えていきたいです。

――こういった点を踏まえて、実際にゲーム学科を作るときにはどのような形になる予定ですか?

桐山氏:
 やはり「ゲームを作るとは何なのか」ということを多角的に研究していきたいです。我々は映像やアニメーション作品を作ることについてはある程度の知見がありますが、ゲームとして長時間プレイできるようなゲーム性を持たせることについては、これから学問的にも理解を深めていかなければいけない部分だと思っています。

――実際に学科ができるとなると、講師や授業のカリキュラムを組む必要がありますよね。

桐山氏:
 今回の展覧会では「ファイナルファンタジー」という切り口からスクエニさんに多方面の講義をしてもらいましたが、実際にゲーム学科を設立するにあたっては、さらに基礎から応用までさまざまな講義を作り、充実したカリキュラムを設定していかなければと思っています。

 東京藝大は前身の東京美術学校を含めて100年以上の歴史がありますが、時代に応じて最新の芸術を取り入れ、柔軟に形を変えてきました。その歴史の中にゲームという芸術を位置づけられればいいなと思っています。

――ありがとうございました。ゲーム学科の設立、楽しみにしています!(了)

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 個人でもある程度ゲームが作れるようになった今、ゲーム制作について大学で学ぶ意味とはなんだろうか? ゲーム会社への就職が有利になるといった一面的な利点だけでなく、実績ある講師からの直接の指導や他分野の友人からの刺激などは得難い経験になるだろう。

 日本のゲーム学科の代表的存在である東京工芸大学がゲームコースを新設したのが2007年のこと。当時は「ゲームを大学で教えるなんてどういうことだ」という批判もあったというが、岩谷徹氏遠藤雅伸氏ゲーム界のレジェンドたちが教授に就任し、多様な人材を輩出している。

 現在ゲームを専門に学べる学科は日本に10ほどあるが、国公立大学ではまだない。日本の芸術大学として最高峰の存在である東京藝大がゲーム学科を新設するとなれば、社会に与えるインパクトは非常に大きい。ゲームの社会的意義を再確認する意味でも、藝大の新たなチャレンジに今後も注目していきたい。

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 田中圭一先生による人気連載『若ゲのいたり〜ゲームクリエイターの青春〜』の第一話。「ファイナルファンタジー」の生みの親・坂口博信さんをゲストに迎え、当時の開発秘話や若き天才プログラマたちとのエピソードを描いています。

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電ファミニコゲーマー編集部員。映画を観るのとアナログゲームをするのが好き。
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