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「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】

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タヘル氏メールインタビュー

「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】_011
(画像はBrave Wave公式サイトより)

モハメド・タヘル
 Brave Wave主宰。クウェートに生まれ、ファミコンで育ったゲーム音楽愛好家。

 クウェートでは日本のアニメが大人気であり、とくに『UFOロボ グレンダイザー』『未来少年コナン』『キャプテン翼』は、世代を超えて愛されているという。そうした状況下、同国ではNESではなく、れっきとした日本のファミコンが流通した。

 「ファミコンの『キャプテン翼』シリーズは、中東ではめちゃくちゃ人気があります。みんな日本語のままでプレイしていたんですよ。私自身も、ファミコンでいちばんよく遊んだのは『キャプテン翼2』でした。同世代の人たちは、知る限り全員やってましたし、思い入れも深いですよ」とモハメド氏は語る。
 それほどファミコンが普及していた環境下で、モハメド氏はいわば日本のファミコン少年たちと同じようにしてゲーム音楽に興味を持つようになった。

 Brave Waveには現在『ロックマン』シリーズの松前真奈美氏や、『忍者龍剣伝』、「キャプテン翼」シリーズの山岸継司氏などが所属しているが、それはまさにこうしたタイトルがモハメド氏をゲーム音楽に目覚めさせたからである。彼はレーベル設立前後に、両氏に熱烈なラブコールを送った。
 山岸氏はそれによって、辞めて久しかった音楽活動を再開する意欲をもらい、現在はソロ作品第三弾を鋭意制作中(ファミコンの拡張音源チップVRC VIによる全曲アレンジもあるとか)。また松前氏もBrave Waveを介して再注目される機会が増え、今年12月にはBrave Waveから人生初のソロアルバムを出す。

――本日は現在のゲームミュージックにおけるアナログレコード事情について伺いたいんです。タヘル氏は、海外でも大きなレーベルBrave Waveを主宰されており、現在までに15枚のアルバム/EPを発売しておられます。
 レーベルとして最初に大きな話題を集めたのは、2015年に発売した『ストリートファイターII ザ・ディフィニティブ・サウンドトラック』ですが、あのとき初めて商品ラインナップにアナログ盤を加えたんですよね?

「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】_012
『ストリートファイターII ザ・ディフィニティブ・サウンドトラック』のジャケット
(画像はBrave Wave公式サイトより)

モハメド・タヘル氏(以下、タヘル氏):
 構想初期の段階では、アナログ盤はまったく考慮していなかったんですよ。その時点では「どうやって録音し、どうやって古い音をレストア【※】するか」が主な関心事でした。
 というのも、まだサントラが未発売、あるいは発売されていても不完全、低音質、入手困難といったものに照準を合わせようとしていたんです。だから、そういうものはデジタル配信とCDで提供するのがいいだろうと思っていました。

 音質的にもパッケージ的にも、「最高の体験」を提供したかったんです。当時は移動中に聴けないアナログ盤は、「最高の体験」には及ばないだろうと思っていました。

※レストア
Restore。ここでは、経年劣化してしまった録音のクオリティを向上させることを指す。リストアともいう。

――手軽さという面では、デジタル配信とCDの方が優れていますね。ではアナログの仕掛け人は誰なんでしょうか?

タヘル氏:
 カプコンUSAのコミュニティマネージャー・ブレット・エルストン (Brett Elston)さんが、「少数限定生産ならうまくいくから」って言い出したんです。Data Discsさんがセガのレトロゲーム音楽をアナログ盤で出す一年ほど前のことでした。

「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】_013
Brett Elston氏
(画像はLinked inより)

 つまり、当時はまだそういうトレンドはなかったんです。だから一応やってみることにはしたものの、正直その時は「そんなメディアをラインナップに加えるのか。すごいね」なんて思ってたんですよ(笑)。

 幸いにも、僕の友人にしてレーベルの共同設立者でもあるマルコ・ガルディア (Marco Guardia)は、腕利きのエンジニアでした。15年以上の音楽制作キャリアがあり、その中でメガヒット作のアナログ盤も数多く手がけていたんですよ。そんな彼が、Brave Waveではミキシングエンジニアをやってくれたんです。

──次の『忍者龍剣伝 オリジナルサウンドトラック コンプリートコレクション』【※】も結果的に、『ストII』のときと同じくCD、ダウンロード、アナログ盤の三形態が用意されました。よほどよく売れたっていうことなんでしょうか。

※忍者龍剣伝 オリジナルサウンドトラック コンプリートコレクション
Brave Waveのジェネレーション・シリーズ第三弾(第二弾が『ショベルナイト』)。このときは日本向けと欧米向けで、音源内容は同じながらパッケージングを大幅に変えている。海外では利便性を考慮してVol.1とVol.2に分けて発売したが、日本版では全部をセットにし、また日本語によるインタビューやエッセイを掲載したブックレットを付けた。

タヘル氏:
 アナログ盤の売り上げ枚数が、デジタル配信とCDの合計を抜いてしまったんです。具体的な数は言えませんが、4桁の数字です。『ストII』だけじゃなくて、以降のどのタイトルもそうなりました。

 アナログ盤はあらゆる面で美しく、鑑賞していて楽しいですが、聴くとなると多くの時間と注意を割かなければいけない。もちろん、選択肢のひとつとして用意できることは喜ばしいことですし、最高のクオリティのものを提供してきた自負もあります。
 でも、CDやデジタル音源にだって所有の喜びはあるんですよ。私自身もそうしてますが、移動中や就寝中に聴けますからね。

──最近のアナログ人気の中で、欧米でもゲーム音楽レーベルが増えましたが、これについてはどう思われますか?

タヘル氏:
 精力的なレーベルがたくさんありますね。同業者ではData DiscsとShip To Shoreが全般にいい仕事をしています。

 ただ、彼らのことを、ライバルだと思ったことはありません。みんなが「ビデオゲーム音楽コミュニティの一部」だと思っていますよ。そしてそのコミュニティは、私達が何かをやり始めるずっと前から存在していたんです。だってみんな、その中にいる一介のファンからスタートしているわけですからね。

──アナログ盤リバイバルとレトロゲーム音楽復刻の波は、どれくらい続くと思いますか?

タヘル氏:
 予測は難しいですが、当分続くと思いますよ。人はいつでも「所有すること」によって、プロダクトとの繋がりを感じていたいんです。何もかもがデジタルになり、そこかしこにそれが溢れている現代は、間違いなく便利な時代です。

 でもそんな状況だからこそ、スローペースで楽しむアナログレコードのような、よりパーソナルな体験を求める人達がどんどん増えています。
 「思考なき消費」の時代にあっても、映画やゲームや音楽に関しては、みんな流れ作業のように消費するのではなく、より奥深くてパーソナルなものとして収集整理したがっているように思われます。

──日本の市場ではCDが未だに根強いわけですが、これについてはどう思われますか?

タヘル氏:
 ダウンロードよりもCDの方を尊重している人が多いというのは、興味深いですね。渋谷のタワーレコードに行くと、いつもCDの盛況ぶりや、豊富な品揃えにわくわくさせられます。日本のCDは紙や印刷の質も良くて、ブックレットもずっしりしていて、いろいろと高品質ですよね。そういうものを大事にしているリスナー層の存在を、高く評価しています。
 私はCDやデジタル配信でのリリースをずっと大事にしています。まだBrave Waveを名乗る前からCDを作っていましたし、またひとりの音楽ファンとしてもCDとデジタル配信の利便性により惹かれています。

──最後に、ジェネレーション・シリーズの新作がSNK『龍虎の拳』シリーズに決まったそうですね。

タヘル氏:
 10月に第一弾として初代『龍虎の拳』を発売し、翌年『2』『3』を順次発売していきます。それ以外にも松前真奈美さんや山岸継司さんのソロアルバム、元セガ・小林早織さんとのプロジェクトなども進行中ですので、楽しみにしていてください。(了)

「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】_014
(Photo by Getty Images)

 かつて一介のゲーム音楽ファンに過ぎなかった人たちが、アナログレコード復興の潮流に乗って音楽ビジネスを確立させ、いまや日本人以上の旺盛にレーベルを切り盛りし始めている──それが今回の取材や調査で浮かび上がってきた、欧米ゲーム音楽産業の現状だ。

 日本のゲーム音楽産業はこれまで一度も海外進出しなかったので、欧米ではゲーム音楽が次々とパッケージ化されるという状況自体が目新しいものになっている。聴き手も作り手も、その新しさまで込みで、ゲーム音楽のレコードを愉しんでいる。
 逆にいえば、彼らは日本のゲーム音楽「産業」からは、何の影響も受けていないのだ。筆者は日本と欧米、両方のゲーム音楽レコード産業に関わっているが、いまのところ二つが交わる気配は全く感じられない。しかし同じものを商品として扱っている以上、いずれそうも言っていられなくなるだろう。

 日本のCD文化が海外に発信され、海外のアナログ文化が日本にもたらされる──という交差と相乗効果によって、いつの日かゲーム音楽市場がより活気に満ちたものになることを期待したい。

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 本稿の著者で、日本におけるチップチューンの第一人者であるhally氏のインタビュー。ゲームと密接な関わりをもつチップチューンの魅力と歴史を、具体的なアーティスト名を交えつつ語っていただきました。

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