大好きなキャラクター、いわゆる“推しキャラ”を愛でる時間は至福のひととき。グッズに囲まれていつでも愛でられるのは、何物にも代え難い癒しです。……ところが、推しキャラのグッズ収集にどっぷりハマる“グッズ沼”に足を踏み入れると、そこは底なし。
キャラクターへの愛ゆえに、BOX買い【※】や、目当てのアイテムが出るまで延々とガチャを回し続けることに……。
最初は「好きなキャラだから欲しい〜」と気軽に購入していただけなのに、気がつけばBOX買い5万円程度ならば迷うことなく支払う戦士へと成長しているのです。
しかし、購入するまで中身の種類が確認できないランダムグッズが多く発売される昨今、欲しいグッズをひとりでは集めきれないのが現実! その結果、収集のために、SNSでの交換やフリーマーケット(フリマ)アプリを使うのは当たり前となり、ときにはオークションで元値以上のグッズを落札することも……。
ただ、個人間の取引には「商品が届かない」、「軽い気持ちで共同購入したら、延々とグッズが届く!」、「取引途中でアカウントを消され逃亡された」などいろんなトラブルが付いてまわります。そういう危険は解っているけれど、それ以上に欲しい気持ちが勝り、「つぎはたぶん、大丈夫」と、また個人間で取引をすることもありますね。
そこで今回は、グッズ沼に陥った人の実態や体験したトラブルに迫り、それ共有するとともに、トラブルをできる限り防ぐ可能性を持つ、交換アプリの企画者に話を聞きました。
文/かなぺん
【CASE1】オークションは高額取引が当たり前。倍額はよくあること? グッズ収集歴5年、事務職エメラルドさん(仮名)35歳は、オークションで購入する派──その心理的実態
──グッズの正規購入はしていないのですか?
エメラルド:
もちろんしています! 公式にお金を落とすというファン精神を忘れたら切腹です。BOX買いができる“くじ系”【※1】なら5万円ぐらい払うだけなので楽ですけど……。購入限定のランダムグッズ【※2】はきつい!
※1 くじ系
くじを引き、当たった賞品が手に入るシステム。
※2 購入限定のランダムグッズ
前述のように、バラ売りされ中身が数種類あり、何が入っているかわからないランダムグッズのうち、コラボカフェやイベントなど購入場所が限定されている商品は、BOX購入が出来ないことが多い。そのため入店チケットの争奪戦が起こる。
──推しキャラ以外のグッズが手に入ったときはどうするのですか?
エメラルド:
私の場合は、集めているキャラ以外はフリマへ出品します。最近は「痛バッグ」【※1】や「祭壇」【※2】が流行っているので、同じグッズを無限回収している人が多いですから。
※1 痛バッグ
キャラクターのラバーストラップや缶バッジが大量に付けられている鞄のこと。
※2 祭壇
推しキャラの誕生日などを祝う際、そのキャラクターの商品を集め、祭壇状にして飾り付けること。
──でもフリマで出品すると、購入価格よりも安くなりますよね。
エメラルド:
どうだろ? 別に転売目的でもないし、利益を出したいわけじゃないのでそこは計算していません。
──購入するときにもフリマを活用されるんですか?
エメラルド:
フリマアプリを中心にオークションで買っていますね。元値が500円の場合、売値2000円ぐらいまでなら即購入します。人気キャラだとそれくらいは普通ですから。
──4倍の価格……。高いですよね?
エメラルド:
そりゃ「高いなー」とは思います。ただ、私のような人間が「倍額出品やめようよ」と言ったところで、世間は変わらないですし。
「購入しちゃだめー」っていうキレイごとを守っていたら、欲しいグッズは手に入らないですからね。売る側はレアグッズならば高値で出品しますけど、こっちは“何としてでも買う”。それだけです。
──SNSを使ってグッズ交換をすることは?
エメラルド:
しませんね。35歳にもなると、取引相手が年下ばっかりだし……。個人の取引はトラブルが多いから。仕事で疲れているのに、トラブルを処理する心の余裕はないですよ。
──「お金で解決できることはお金で解決」ということですね。
エメラルド:
言いかたは悪いですけどね。私は実家暮らしなので、家賃や光熱費はいらないんです。だから、月10万円とボーナス分はグッズ代に使えますね。
──す、すごいですね。
エメラルド:
あ、いま“こいつクズだな〜”って思いましたよね(笑)。そう、“クズ”なんです。
どれだけお金をかけて集めても、推しキャラが変われば、ただのゴミ……。池袋の中古グッズショップに持っていっても「価格はつけられません。引き取れません」って、流行とともに苦労して集めたグッズの価値がなくなってしまうんです。
“元彼はタダ以下”って感じで切なくなりますよ。そんなとき、「私ってクズだわ〜」と思います。でも、女心は秋の空。元彼になった時点で……ね。次の推しキャラを収納するスペースも必要ですし。
──これからも、グッズ収集は続けていくのですか?
エメラルド:
続けますよ。グッズに使った額を考えれば“貯金しとけよ”って、10トンハンマーで自分の頭を殴りたくなりますけど……。
いい歳の大人が……という世間の目もわかっています。でも、仕事では上司に耐え、女どうしの人間関係に疲れ、オタクであることも隠して生きている……。
そんな生きにくく楽しいことがない状態だけど、部屋を開ければ大好きなキャラクターが迎えてくれる。それがとても癒やしになっているんです。
グッズと推しキャラは裏切らないので、人間の100倍は信じられますよ。推しキャラの微笑みだけが生きがいです。だから「グッズは全部欲しい!」。それだけです。
推しキャラに囲まれる幸せ。そこに感じる“愛”は金額では推し量れないものなのです。「尊い……」と毎日言える空間こそが彼女の明日への気力。それが、たとえ二次元彼氏だったとしても。
【CASE2】グッズが手元にないのに「交換募集」をする相手に、垢消し逃亡された過去アリ──グッズ収集歴2年、大学4年生のいちご大福さん(仮名)20歳は、フリマ交換で人間不信に?
──グッズは交換派と伺いました。
いちご大福:
……SNS、Twitterを活用することが多いです。あの、なんかすみません。
──いや、謝ることでは……。
いちご大福:
あっ、そうですよね。ちょっと最近は疲れていて。まだ学生でバイト代もあまりないので、フリマやオークションは敷居が高くて。そういう状況なのでSNSでの交換しかできないんですけど、もともと人と会話するのが得意じゃないので、メッセージのやりとりとか苦手で。
──SNSを使ったグッズ交換で何かあったのですか?
いちご大福:
よくあるトラブルなんですけど、交換が決まったのでグッズを発送したのに、相手からグッズが送られてこないとか。
──どんな状況でしょう?
いちご大福:
私が持っていたグッズがA、交換対象がBとします。でも、相手が持っていたグッズはCだったんです。相手は私とのやり取りを行ったときにBを持っていなかったんですね。
でも、他の取引でCとBを交換する予定だったらしく……。ところが、結局トラブルがあってCとBの交換ができなかったみたいです。
──それは向こうの事情であって、ひどい話ですね。商品は同時に送り合うという話ではなかったのですか?
いちご大福:
いつ送るのかはSNSやLINEで日程を言い合うんですね。このときは、私が「送りました」と言った後に、「ちょっと体調を崩したので郵送遅れます」と言われて……。
でも、2週間たっても連絡がなかったのでメッセージを送ったら「(送るはずの)商品が(私に)送られてこなかったので、あなたには郵送できません」という内容が返ってきて。
──こちらから商品を送ったということは、相手の本名もわかるわけですよね。商品を返してもらいたいと伝えなかったのですか?
いちご大福:
じつは、アカウントを消されて逃亡されてしまい……。それに、住所や本名がわかっていても、遠い場所だと対応は難しいんですよね。
──警察に相談するとか?
いちご大福:
内容証明とかいろいろ調べてみましたが、そんな度胸はなかなか……。
親に相談したら「正体不明の人を信用した、お前がバカだ。勉強代だと思って今後は身を慎め」と怒られてしまって。何度かあると、私もマヒしてしまっていて、「またか……」と思うくらいで……。
──大変でしたね。でもそれが「たまにある」ことなんですか?
いちご大福:
はい。これまでに5回ほど。未使用って書いてあったのに汚れていたりとか……。トラブルが続くとさすがに人間不信になりそうです。
──5回……。それでもグッズ交換はこれからも続けていくのですか?
いちご大福:
はい。いろいろなトラブルに遭っていますが、私は交換がいちばん健全だと思っているので。顔の見えない相手だとトラブルが多く、もう誰も信じられないけど……。それでも、欲しいグッズがあるなら仕方がないかなって諦めています。
“等価交換”だからこそ、できるなら交換のみでグッズ収集をしたいところ。ただ、“何がなんでも欲しい”という欲望が、トラブルの連鎖を引き起こしているのかもしれません。
【CASE3】共同購入を軽い気持ちでOKしたら、延々とグッズが送られてきて代金を請求される闇──グッズ収集歴7年、保険営業の雪奈さん(仮名)28歳は、共同購入で効率的に収集派だったが……
──グッズを共同購入されていると聞きましたが……。
雪奈:
くじ系のグッズを集める際、よく推しキャラが違う人間どうしでBOXを一緒に購入するんですね。総額5万円だとして、そこから自分の推しキャラ分の代金と郵送費をまとめ買いしてくれた人に入金する、というわけです。
──効率的ですね。
雪奈:
そうですね。推しキャラのグッズのみ届くので、余計な不安とかはありませんよ。
──トラブルも少なそうですね。
雪奈:
私も最初は「安心安全」だと思っていましたが、そうでもなかったんです。……というか、もはや恐怖でした。
──ど、どういうことですか?
雪奈:
相手に「グッズを共同購入しよう」とSNS上で声をかけられて、「いいよ」と返し、LINEを交換したんですね。
ところが私はそのときだけの共同購入だと思っていたら、新商品が出るたびにグッズが送られてきて……。相手は「これからも、ずっと共同購入しよう」という考えだったらしく……。
仕事から帰宅したらけっこうな頻度で郵便物が届いているわけです。もちろん、入金額も書かれてある。そんな恐ろしい日々が、10ヵ月ぐらい続きました。
──断れなかったのですか?
雪奈:
当時、仕事でトラブルを抱えていたので、プライベートでも悩みたくなくて。“お金を払って済むなら払う”という状態になっていて。押し売りに金を払い続ける“カモ”みたいになっていましたね。
──10ヵ月は長かったですね。
雪奈:
……来る日も来る日もグッズが送られてくるので、推しキャラが“恐怖の対象”に変わりました。10ヵ月経ったところでようやく「本当にごめん、推しキャラが変わった」と伝えて。
相手からは「そんな薄情な愛だとは思わなかった」と言われましたが、「ごめんね」と、それ以上揉めないように対応しました。
──もう共同購入はされていないのですね。
雪奈:
ええ、中古ショップで購入しています。あとは、付き合いの長い友人とだけ交換したり、イベントのときにできる「トレーディングエリア」を使っています。
……こんな怖い目にあってもグッズ収集をやめられない私はグッズ沼の住人なんでしょうね。
考えるだけで恐ろしい話でしたが、“共同購入”に関する意識の違いがトラブルを巻き起こしたようです。
グッズを送り続ける側も“好きだから送っている”と悪意がないのが厄介なところ。「無理だ……」と感じたときに強い意思表示が難しかったことが悲劇を引き起こしています。
グッズ収集時に個人間で取引を行う場合、誰にでも降りかかる可能性があるトラブルの実例を挙げましたが、その怖さがおわかりいただけたでしょうか?
このまま記事を終えてしまうとただ恐怖を煽るだけになってしまうので、ここでトラブルに見舞われないための方法を考えてみましょう。
まず確実なのは、その場でグッズを同時に引き換えられる「トレーディングエリア」を積極的に使うこと。これなら、事前にSNSなどでやりとりや約束をし、実際に会って交換できるから助かりますね。ただし、好条件の相手が必ずしも現れるかというと、なかなか難しいところがあります。
そこで、アプリを使うにしろ“安心安全”なものを使いたいところ。それも……可能なら“交換”スタイルで。
つぎのページでは、実際に使われている交換アプリ『ゆずもと』の企画者にアプリがどれほど有効かなどのお話を伺いました。