2006年12月より「ニコニコ動画(仮)」としてスタートし、「ニコニコ動画(く)」まで、じつに16回のバージョン変更が図られた「niconico」も、はや13年めに突入した。
サービス開始初期には「おもいではおっくせんまん」や「エアーマンが倒せない」などの動画が流行したが、なかでも2007年から投稿された「ボカロ楽曲」は当時とても刺激的で、多くの若者の心を掴んだ動画だった。ひとつの文化を形成したと言っても過言ではないだろう。
きっかけは、2007年8月。ボーカロイド『初音ミク』の発売だ。
「みくみくにしてあげる」や「メルト」といった名曲の数々は、いまなお色あせることなく人々に聴かれ続けている。
ブルーグリーンの髪の少女が、こうした魅力的な歌をオーディエンスに届けることができたのは、楽曲を提供し続けた「ボカロP」たちのおかげに他ならない。特に、初期から精力的に活動していた彼らの功績があったからこそだ。
【田中圭一連載:初音ミク編】ブルーグリーンの髪の少女は、やがてユーザーコンテンツの旗手となった。生みの親・佐々木渉がともに歩んだ10年、ともに歩む未来【若ゲのいたり】
そんな彼らについて、いま一度掘り下げてみたい。ドワンゴが大きな転機を迎えたいまだからこそ、初心に戻るべくボカロPたちに当時を振り返ってもらいたい。当時なにを考え、なにをモチベーションにして、曲制作に取り組みniconicoに楽曲を投稿していたのだろうか──。
この編集部の願いを、配信されたばかりのPCブラウザゲーム『エンゲージプリンセス(以下、エンプリ)』ディレクター・保井俊之氏が叶えてくれた。彼こそ、自身も10年以上ボカロPとして活動しており、この『エンプリ』に多くのボカロPをアサインした人物である。
今回、保井氏の呼びかけに応じて集まったボカロPはアゴアニキ、キャプテンミライ、cosMo@暴走P、梨本うい、buzzGの総勢5名。いずれもレジェンド級ばかりのボカロPたちによる、座談会である。
現在多方面で活躍中の彼らが、ボカロの夜明け前から、当時の盛り上がりぶり、そして楽曲提供した『エンプリ』での新たな挑戦について、和気あいあいと語ってくれた。
聞き手/伊予柑
取材・文/カワチ
編集/ムニエル、なかJ
カメラマン/佐々木秀二
保井Dとレジェンド・ボカロPたちは、昔からの飲み仲間だった!?
──本日皆さんは、保井さんの呼びかけに応じてお集まりいただいたわけですが、ふだんからオフでの交流もあるのでしょうか?
保井D:
もともと今回のメンバーは飲み友でして。飲み会の席で「いつか一緒に作品を作りたいね」という話をよくしていたんですよ。
アゴアニキ:
保井さんと知り合ったのは10年前でしたね。そのときから語り合っていた夢が、こうして叶ったのだから感慨深いです。
保井D:
自分は『エンプリ』ではディレクターをしていますが、「テンネン」という名前でボカロPもしているということもあって、皆さんとは昔からの付き合いなんです。
梨本うい:
出会い、ということになると10年前ですけれど、いまでもよく集まっていますよね。
アゴアニキ:
自分は大阪のほうに住んでいますが、この間もわざわざ東京に来て、梨本さんと飲みました(笑)。
cosMo@暴走P:
付き合い、長いですよね。ボカロPのなかでも、気心の知れたメンバーです。
アゴアニキ:
そうそう。「ボカロP老人会」です(笑)。
buzzG:
自分はボカロPの交流会によく行きますけれど、そこでは若い世代の人とも話しますよ(苦笑)。
キャプテンミライ:
そうなんだ。この座談会はおっさんばっかりだけど、大丈夫ですかね(笑)。
──今回の座談会ではボカロPの重鎮である皆さんに、“niconicoとボカロの歴史”を振り返っていただきたいな、と思ったので、大丈夫です!
buzzG:
なるほど。
キャプテンミライ:
まさに老人会ですね(笑)。
梨本うい:
とりあえずお酒が飲みたいですね(笑)。
保井D:
お酒を飲んだら、記事にできないことしかしゃべらなくなるからダメ(苦笑)。
重鎮たちそれぞれの“ボカロとの出会い”とは?
──皆さん、どんなきっかけでボカロを知ったのでしょうか?
cosMo@暴走P:
12年前の2007年、「muzie」【※1】で音楽を投稿する活動をしていましたが、そのときに同じくmuzieで活動していたOSTER project【※2】さん経由で、ボカロを知りまして。「これはおもしろそうだな」と思って、自分もはじめることにしたんです。
※1 muzie
エイベックス・デジタルが提供していた音楽配信サービス。2017年にサービス終了。
※2 OSTER project
日本の音楽ユニット。2007年9月にニコニコ動画で『恋スルVOC@LOID』を発表し脚光を浴びる。
保井D:
自分もOSTERさんのDTM(デスクトップミュージック)講座を見て機材を揃えたりしたので、影響を受けたひとりです。
cosMo@暴走P:
昔から精力的に活動されている方ですよね、OSTERさん。
buzzG:
自分はもともとバンドをやっていたのですが、2007年にniconico好きのオタクの友人に教えてもらってsupercell【※】さんの『メルト』に出会いました。
※supercell
コンポーザーのryoを中心にしたクリエイター集団。
保井D:
そこからボカロPに?
buzzG:
曲は「いいな」と思ったのですが、当時のボカロにはとっつきづらさを感じていたので、すぐにはやりませんでした。
その後、バンドを辞めたとき音楽も辞めようと思っていたのですが、2009年にDTMと出会い、ボカロのことを思い出して「やってみようかな」と思ったんです。友人が『初音ミク』を使っていたので、自分は『Megpoid』【※】のほうを買いましたね。
梨本うい:
自分はcosMoさんの『初音ミクの消失』に出会って、それを聴きながら夜中に川沿いでランニングしたりしていましたよ。
cosMo@暴走P:
ありがとうございます(苦笑)。
梨本うい:
ボカロと出会ったのは、大学2〜3回生のとき。「自分もボカロをやってみよう」と思って、いざ大阪の日本橋に『初音ミク』を買いに行きました。
だけど『初音ミク』だけだと“声だけで、曲が作れない”ことに気づいて、最初はカセットなどのアナログで音を出して、自分がギターを弾いて『初音ミク』に歌ってもらっていましたね。
ボカロをちゃんと調べようと思って勉強したのは、大学の卒業制作の時期でした。
アゴアニキ:
自分はほぼbuzzGさんと一緒です。バンドをやっていたのですが、ドラマーが見つからなくて、活動が停滞していたんです。
そんなときに仕事もなくなって、「やることがなくなってどうしようかな」……という時期にボカロに出会いました。
ボカロPとしては『鏡音リン・レン』ちゃんが登場してしばらく経ってから、2008年から活動をはじめているので、このなかでは新参者です(笑)。
キャプテンミライ:
自分もリンとレンが出たあとにデビューです。
もともとはbuzzGさんやアゴアニキさんと同じでバンド活動をしていたのですが、メンバーがみんな辞めちゃって空中分解してしまったんです。
「またバンドを最初からやるのは面倒だなー」って思っていたときに、ひとりでできるボカロに出会いました。
──保井さん、テンネンPとしてのデビューは?
保井D:
自分はプレイステーション・ポータブルのゲームなどを作っていたとき、だんだん制作のノウハウがわかってくる一方、グループワークばかりで「自分ひとりで何かを表現するものを作っていないな」と思っていました。
そんなとき、家電量販店で『鏡音リン・レン』を見つけて「ボカロPをやってみようかな」と思ったんです。
もともと自分も大学時代にバンドやっていて、そこからゲーム制作の道に進んで10年くらい音楽をやっていなかったので、原点に立ち返った形ですね。
──niconicoにおけるボカロの歴史も12年以上になりますが、これまでを振り返ってみていかがです?
保井D:
自分が最初に観たのはOtomaniaさんの作品だったかも。「こういう文化が日本には生まれているんだ」と驚きましたね。
アゴアニキ:
自分もそうだったかも。今ではOtomaniaさんと飲み友だちになっていますが(笑)。
梨本うい:
ボカロ界隈は、そういうことが多いですね(笑)。
保井D:
そこから『みくみくにしてあげる』や『初音ミクの消失』といった作品が突発的に出てきましたよね。
梨本うい:
当時はオリジナル以上にカバー曲が多かった気がします。とくに『粉雪』のイメージは強いですね。
保井D:
当時の作品は、“技術博覧会”のイメージが強かったですね。cosMoさんは何年くらいから活動されているんでしたっけ?
cosMo@暴走P:
自分は2007年の頭からですが、そのときは素人に毛が生えた程度でした。
『消失』を発表したのは2008年なので、けっこう間が空いているんですよね。最初は、ボカロPというより、リスナー視点で楽しんでいました。
保井D:
そう考えると、2008年辺りから人が増えた印象がありますね。その当時は『ミク』派と『リン・レン』派にわかれていたりしましたね。
キャプテンミライ:
あの頃の盛り上がりはすごかったと思う。
アゴアニキ:
即売会も開催されるようになりましたね。自分たちも出展したけれど、初めてでやり方がわからなかったりして。誰も値札を持ってこなかったり(笑)。
保井D:
みんな、準備のやり方がわからなかったので、その場でダンボールに値段を書いたり。キャプテンミライさんだけが布を持ってきてくれて、手際の良さを賞賛されたりしていましたね(笑)。
で、そのあとの2009年に目を向けると、『巡音ルカ』の発売やbuzzさんや梨本さんのデビューがあるんですね。
梨本うい:
自分が活動を開始したのは『ルカ』の発売後ですね。『ルカ』の発売が1月で、自分は2月からスタートしました。
buzzG:
自分は2009年の8月からですね。
保井D:
そう考えると、けっこうデビューは遅いんだね。
buzzG:
普段は「古いボカロP」だと言われるので、そう言われると新鮮です(笑)。
キャプテンミライ:
でも当時は、ひと月ひと月が濃かったですよね。
保井D:
うん。あの頃は濃密だった。当時は第1世代とか第2世代とか細かく歴史をまとめていたけど、今では、あの時代ひっくるめて第1世代とか言われているような気がしますね。
キャプテンミライ:
確かに。傍から見たら完全にそうなっていると思います。あの頃は再生数のインフレもすごかったですね。
buzzG:
2012年ぐらいになると、また盛り上がってバブリーになっていく印象です。
ボカロの夜明け前の、Pたちの日常
──そもそも皆さん、インターネットはいつ頃から始めましたか?
保井D:
ISDNの時代になりますね。Win95の前からやっていました。
アゴアニキ:
自分もISDNでした。
キャプテンミライ:
自分は1994年辺りの大学時代にホームページ制作のアルバイトをしていて、そこでインターネットに触れていました。
アゴアニキ:
自分はテレホーダイ【※1】の時代に『ウルティマオンライン』【※2】をやっていたのですが、ハマりすぎて危うくあちらが現実になりかけました。
※1 テレホーダイ
NTT東日本、西日本が1995年より提供を開始した定額制の電話サービス。深夜早朝に限り、指定した電話番号の通話料金が一定となる。インターネットへのアクセスがダイヤルアップ接続時代のコアなネットユーザーにとっては、必須といっても過言ではないサービスであった。
※2 『ウルティマオンライン』
エレクトロニック・アーツが手がけるMMORPG。1997年よりサービスを開始した。
cosMo@暴走P:
自分の場合、家にPCはあったのですが弟の権限のほうが強くて触らせてもらえなかったです(笑)。
大学に入って、2005年くらいからPCに触りはじめて。ちょうど、ニコニコ動画ができる直前から始めた形ですね。
とにかくネットには疎くて、ニコニコ動画に投稿するまで全然触れていませんでした。
buzzG:
自分は中学生のときに学校のPC室にWin95があったのですが、休み時間に忍び込んで好きなゲームのキャラクターのJPGファイルをペイントで塗りつぶして裸にしていました。
保井D:
いいエピソードだねぇ……。
buzzG:
高校生のときにノートPCを買ってもらって、自宅でインターネットができるようになりましたが、テレホーダイじゃないから高額の請求が来て、怒られたこともありました。
保井D:
ゲームとかやっていたんですか?
buzzG:
いや、いつもチャットルームや掲示板を荒らしていました(苦笑)。
梨本うい:
自分もbuzzさんと同じような流れですね。
保井D:
好きなキャラクターのJPGを……?
梨本うい:
いやいや(苦笑)。セキュリティも厳しかったので『ポケットモンスター』の裏技をプリントアウトしたものを仲間内で共有したりしていました。
──皆さん、ゲームはプレイされていましたか?
アゴアニキ:
ファミコンのときからずっと遊んでいます。最近はPCでプレイすることが増えましたけれど。
保井D:
自分はプレイステーションのゲームを作っていましたが、セガサターンが好きで(笑)。
いつも事務所のサターンで『バーチャファイター』を遊んでいました。
キャプテンミライ:
自分も『バーチャファイター』が好きで、新宿や六本木、県外のゲーセンまで遠征して対戦していましたよ。
梨本うい:
僕の時代は格ゲーよりも音ゲーが流行していたように思います。ゲーセンに通って『ドラムマニア』でドラムを学びました。
アゴアニキ:
俺も同じ。実際の楽器と同じようにプレイできるのが『ドラムマニア』だったよね。
梨本うい:
『キーボードマニア』は、ゲーム寄りで難しかったですよね。
buzzG:
自分もゲーセンで格闘ゲームをやっていました。
ギャルゲーにもハマって『サクラ大戦』や『Piaキャロットへようこそ!!』が好きでした。
cosMo@暴走P:
自分は小学校のときは『スマブラ』などの任天堂のゲームをプレイしていましたが、中学生の頃はゲーセンに入り浸って『ビートマニア』や『ポップンミュージック』などの音ゲーをひたすらプレイしていました。
音ゲーが好きすぎて音楽を始めた、といってもいいぐらいです(笑)。
アゴアニキ:
そういえば、cosMoさんの曲が音ゲーに入っていると、たいていはラストのほうにある難しい曲として登場していて、全然クリアできないんですよね。ご自身はクリアできるものなんですか?
cosMo@暴走P:
いえ、できないですよ(苦笑)。
niconicoを初期から見ていて思うこと〜変わったこと、変わらないこと〜
──最初にニコニコ動画に投稿したときの思い出などはありますか?
アゴアニキ:
最初は『ニコニコムービーメーカー』【※】で作っていましたね。
※ニコニコムービーメーカー
ユーザー向けの公式動画作成ツール。2008年3月5日、「ニコニコ動画SP1」サービス開始と同タイミングで無料配布を開始した。
cosMo@暴走P:
最初は歌詞を載せるだけでしたね。最近は動画も作らないといけないから、しんどいです(苦笑)。
アゴアニキ:
自分は純粋にドットを作るのが楽しいです。『ダブルラリアット』はルカが回っている凝ったものを描いたので、それだけで1週間かかりましたが(笑)。
buzzG:
自分は「piapro」【※】というサイトから1枚絵を借りて、そこに歌詞をつけて『ニコニコムービーメーカー』で投稿していました。
※piapro
クリプトン・フューチャー・メディアが運営する投稿サイト。
保井D:
自分も最初は「piapro」で借りていました。でも、慣れてなくて「イラストを改変して動画で使う」という、イラストレーターの方にとても申し訳ない失敗をしてしまって……。
今考えれば当然のことなんですけど、当時はわからなかったんです。
アゴアニキ:
動画投稿はリテラシーの勉強にもなりましたよね。
キャプテンミライ:
あの頃は「再生数を1でも稼ぎたい」というメソッドがありました。
保井D:
再生数を稼ぐための「アゴアニキ健康法」というものがありましたよね(笑)。
アゴアニキ:
今は全然違うけれど、当時は「ランキングが切り替わる朝5時に動画をアップするといい」とか、そういうテクニックが20個くらいありました(笑)。
梨本うい:
目立つサムネにするとか。
キャプテンミライ:
いろいろ考えて投稿するけど、結局なかなか伸びないんだよね(苦笑)。
cosMo@暴走P:
そういえば、昔は投稿者の自己主張があまりなかったですよね。タイトルやタグに自分の名前を入れることも少なかったと思います。
アゴアニキ:
投稿のフォーマットは変化しましたけど、「まずミクがいて、後ろに自分がいる」という感じは未だに変わらないですね。
梨本うい:
そうですね。ミクをはじめとした「ボーカロイドのために作品を作っている」という感覚は変わらないですね。
アゴアニキ:
初めてボーカロイドの曲を使ってライブをやったのは俺だと思うんですが、当時はすごく不安もありましたよ。
今では当たり前のようになっていますが、当時は「ボカロリスナーに対して失礼なんじゃないか」と思うこともありました。
キャプテンミライ:
「ボカロPが顔出しをしていいのか?」、「JASRACに登録するのか?」、「CDを売っていいのか?」──何もかもが初めてで、毎回迷っていましたよね。
保井D:
Twitterもなかったから、「にゃっぽん」【※】や「mixi」で情報交換していましたね.
※にゃっぽん
VOCALOIDファン専用のSNSサイト。2013年2月にサービス終了。
──現在は環境も広がってきたと思いますが、当時と比べていかがですか?
キャプテンミライ:
おじさんなので、今がどうなっているのかわからない(笑)。
cosMo@暴走P:
「便利になりましたよね」くらいのイメージです。
キャプテンミライ:
niconicoでずっとやってきた世代なので、YouTubeにボカロ曲をアップしてもイマイチ活動している実感がわかないんだよね。みんなはYoutubeに動画をあげてる?
全員:
あげてますね。
キャプテンミライ:
YouTubeを観ている人たちは、どうやってボカロの動画に辿り着くんんですかね。
アゴアニキ:
サムネとか名前ですかね。
cosMo@暴走P:
名前で検索するんですかね? あまり想像がつかないです。
梨本うい:
niconicoにはボカロのカテゴリがあるので、そこにファンが集まっているイメージ。YouTubeはその人のチャンネルに人が来ているイメージです。
アゴアニキ:
やっぱりコメントが流れるのが一番うれしいですね。
保井D:
niconicoはコメント機能や再生数争いなど含めて“ゲームっぽいな”と感じますね。
──niconicoにはほかの人気ジャンルもありますけど、そこに嫉妬や影響などがあったりしますか?
保井D:
嫉妬はないですよね。
アゴアニキ:
うん。普通に楽しんでる。自分は「ゆっくり実況」が好きでよく観ていますよ。
梨本うい:
自分は野球が好きなので、「プロ野球チャンネル」でキャンプの模様などを観てます。
buzzG:
僕は「実況」と「料理」を観ますね。料理は「パンツマン」さん【※】の動画が好きです(笑)。
※パンツマン
黙々と料理をする様子が人気のユーザー。
cosMo@暴走P:
自分は「アニメ」をよく観ます。
保井D:
「実況」系を觀ているかなぁ。
キャプテンミライ:
「料理」と「科学部」、「技術部」が好きですね。
アゴアニキ:
自分はTRPGの動画が好きでよく観ているのですが。ついにこの前、実際に自分でクトゥルフのTRPGをプレイすることができました(笑)。
──最近の音楽に関してはどうでしょうか?
キャプテンミライ:
CDは買わなくなりましたね。
梨本うい:
そもそも音楽もあまり聴かないんですよね(苦笑)。
アゴアニキ:
俺も(苦笑)。
キャプテンミライ:
僕もずっと音楽を聴かない日々が続いていたのですが、ここ最近はApple Musicのおかげでずいぶん聴くようになりました。適当なプレイリストを再生して気に入った曲があったら、アルバムも聴いてみたりしています。
buzzG:
自分もApple Musicみたいな配信サービスができてから、ラジオのような感覚で聴くことが増えましたね。
cosMo@暴走P:
「M3」【※1】に出るようになってから、若手の人からCDをもらって聴くことが多くなりましたね。
※ M3
1998年から続く音楽系即売会。年2回開催している。
──皆さんが今、注目しているPは?
キャプテンミライ:
今のPはわからないなぁ。
梨本うい:
詳しくないですね。
アゴアニキ:
自分も詳しくないので超有名なところをあげちゃうけど、やっぱり「ナユタン星人」【※】はすごいと思う。
※ナユタン星人
2015年に『アンドロメダアンドロメダ』でデビューしたボカロP。
buzzG:
自分は今のボカロPもいろいろ聴いていますが、今の世代は今の世代で様変わりしていて、新しい才能がたくさん生まれています。
「ハチ」くん(米津玄師)【※】の影響も大きいと思うのですが、アーティスト志向の方が多い印象ですね。
※ハチ(米津玄師)
シンガーソングライター。2009年よりVOCALOIDクリエイターのハチとして活動し、2012年に本人名義のアルバムでソロデビュー。
保井D:
今回の座談会にはボカロ界の重鎮に集まってもらいましたが、『エンプリ』には新しい世代の人も参加してもらっています。ですから、ボカロ全体のムーブメントが繋がる作品になっていると思いますよ。
『エンゲージプリンセス』参加ボカロP一覧
40mP
buzzG
cosMo@暴走P
doriko
EZFG
koyori
mothy_悪ノP
OSTER project
yanagi
アゴアニキ
かいりきベア
キャプテンミライ
すこっぷ
トラボルタ
ナユタン星人
ポリスピカデリー
れるりり
新城P
梨本うい
鬱P
『エンプリ』の楽曲では、新境地に挑戦している
──『エンプリ』の話が出たところで保井さん、座談会に参加している皆さんには、どのように『エンプリ』への楽曲を発注したのでしょうか?
保井D:
今回、ドワンゴでゲームを作ることになったときに、「ニコニコ文化をゲームに取り込んでいきたい」と思ったこともあり、ボカロPを起用させてもらいました。楽曲については、それぞれのテーマを伝えて、それをもとに作ってもらいました。
アゴアニキ:
今回「アイドルっぽい曲を」という依頼だったので、とにかく可愛く自分でも赤面するような歌詞の曲を作りました。Aメロはいつも通りの感じですが、サビがかなりはっちゃけているので楽しみにしてもらいたいです。
また、今回はテンネンさんの紹介で足立賢明さん【※】に編曲をしてもらいました。普段のアゴアニキとは違う曲になっているので、その点にも注目してみてほしいですね。
※足立賢明
シンセメーカー「KORG」にて経験を積んだのち、サウンドデザイナーという視点であらゆるジャンルの音楽制作、ライブに携わる。ライブではいきものがかり、superflyなど多数のアーティストのマニピュレートを担当。また音楽番組の収録、生放送などにもマニピュレーターとしても参加している。ゲーム音楽では『Xi』シリーズや『グランツーリスモ』シリーズなどの作品を手掛ける。公式サイトはこちら。
保井D:
キャプテンミライさんもポップな曲になっていますよね。
キャプテンミライ:
そうですね。でも、提示されたテーマは「毒」でしたよ(苦笑)。自分のなかで毒と言われてマッチすると考えたのが「プログレ」【※】でした。変拍子で転調もある複雑な曲になったので、「歌いづらいかな?」と思いましたが、声優さんが見事に歌いあげてくれましたね。
※プログレ
プログレッシブ・ロックの略称。音楽ジャンルのひとつで、楽曲を複雑な構成する、技巧的なパートが目立つといった先進的、前衛的な曲調が特徴。
保井D:
「毒」というテーマですが、最後にはキャプテンミライさんらしい「優しさ」なども伝わってくる、いろいろな側面がある曲になっています。
cosMo@暴走P:
自分も「炎」、「燃える感じ」というアバウトな発注だったので、ちょっと迷ったのですが、最終的にハードコア・テクノの曲を作りました。
もともと自分はロックな曲を発表していたのですが、ここ数年はボカロを離れてDJの方やダンストラックを作る方と会う機会が増えて、自分自身もダンストラックを作る機会が増えてきたんです。
ということもあって、今の自分らしさを表現するために「ハードコア・テクノ」にしました。とにかくテンポが速くラップのパートもあるので、収録も大変だったのではないかと思います。
buzzG:
自分のテーマは「風」でした。突き抜けていく感じが思い浮かんだので、いつも通りの「ロック」っぽいものに仕上げました。歌詞のほうは、いろいろ想像できる象徴的なものにしようとも考えたのですが、「面白みがないな」と思って、具体的な内容にしました。
梨本うい:
自分は「森」がテーマでした。最初は「世界観に合った、森林浴をしているような曲がいいのかな」と思ったのですが、ボカロPが集まってワチャワチャするコンセプトのゲームなら、自分らしい曲がいいかな、と。で、「森のなかで殺し合いだ!」と考えました(苦笑)。
──皆さん、声優さんのボーカルが入ったものを聴いた感想はいかがですか?
梨本うい:
想像と違いましたね。保井さんに「エロい曲だね」と言われて、自分ではピンと来ていなかったのですが、声優さんに歌ってもらったら、「確かににエロいな」と。
buzzG:
歌詞にストーリーがあったので、ミュージカルを演じているような雰囲気がありましたね。抽象的なものではなく、こちらの歌詞にしてよかったなと思いました。
cosMo@暴走P:
ボカロではなく声優さんの歌う今回の曲で、唯一想像できなった部分がラップでした。でも、ちゃんとハマっていて「良かったな」と思いました。
キャプテンミライ:
僕も難しい曲なのですが、完璧に歌ってくださいましたね。また、声優さんは声に表現力があるというか、“声で世界観を作るのだな”というのがよくわかりました
アゴアニキ:
自分の曲を田村ゆかりさんが歌うと知って「どひゃーっ!」となりました。
レコーディングに参加させてもらいましたが、めちゃくちゃ上手くて安定感があって驚きましたね。「こうなるだろうな」という考えを、遥かに超えていましたね。すごくキュートな曲になって大満足でした。
保井D:
それぞれすごく良い曲になりました。声優さんが歌ったことで、曲の解釈の幅が広がって、“ボカロPとのコラボ感”を体現できたと思っています。
──『エンプリ』をプレイすれば、皆さんの新たな挑戦を聴くことができるわけですね。
cosMo@暴走P:
いつも通りの「強い曲」を作ったので、ぜひ聴いてもらえるとうれしいです。
buzzG:
曲の頭で、自分の曲だとわかるようになっています(笑)。ぜひよろしくお願いします。
梨本うい:
声優さんのファンに怒られないようにしたいです。生暖かい目、いや耳で聴いていただけるとうれしいです。
アゴアニキ:
スーパーキュートな歌詞とメロディーになっています。ぜひ楽しみにしてください。
キャプテンミライ:
いろいろな展開のある曲なので、なるべく長い戦闘をして聴いてもらいたいです(笑)。
保井D:
『エンゲージプリンセス』には、いろんな個性が集まって、さまざまな楽曲、イラストレーションなどのコンテンツが集まっているので、ぜひ遊んでみてください!(了)
niconico初期から、ボカロという文化がいかに形成されていったか──ボカロ界を開拓してきた先駆者たちによるこの座談会で、その当時の空気感を垣間見ることができたのではないだろうか。
ほぼ一年ごとにバージョンが変わる荒削り感満載な場所で、権利問題がまったく整備されていないにもかかわらず、「自分の音楽活動をみんなに届けたい」というまっすぐな想いだけで活動する彼らがいて、その想いをしっかり受けとめるユーザーがいた。
我々を取り巻くインターネットサービスの質量は向上し、コンテンツの消費が速い「いま」では真似できないことのほうが多いだろうが、niconicoが転機のいま、彼らを突き動かしていた「熱量」について、改めて振り返ってもいいのかもしれない。
取材を終えて「面白いな」と感じたのは、けっして彼らは「俺の曲だ!」というわけではなく、「あくまでボーカロイドが主役で、自分たちは脇役だ」という謙虚な姿勢で楽曲制作に臨んでいたことだ。
この一歩引いた姿勢こそがあったからこそ、今日まで「ボカロ」が続いている大きな要因のひとつなのでは、と思わずにはいられない。
そんな彼らは、楽曲においては進化を止めることはしない。2019年4月1日からサービスインしている『エンプリ』では、自分たちの新しい挑戦を見せてくれているのだ。
ボカロPたちの止まらない進化を、ぜひ体感してみていただきたい!
イラスト/かんざきひろ
©2018 伏見つかさ/ストレートエッジ ©KADOKAWA CORPORATION 2018 ©2018 DWANGO Co., Ltd.
【あわせて読みたい】
【田中圭一連載:初音ミク編】ブルーグリーンの髪の少女は、やがてユーザーコンテンツの旗手となった。生みの親・佐々木渉がともに歩んだ10年、ともに歩む未来【若ゲのいたり】今や日本のポップカルチャーのシンボルとなったバーチャルシンガー「初音ミク」。「彼女」の誕生と成長の影には、開発者とユーザー、そしてファンの想いがあった。
田中圭一の人気連載マンガ『若ゲのいたり』
『初音ミク』の生みの親・佐々木 渉さん編!