2019年9月で日本でも2周年を迎えた『アズールレーン』。
その2周年を記念して、同作の開発会社であるManjuuの社長・林書茵氏へのインタビュー記事をお届けしたが、その後半として、今回は日本の運営会社であるYostarにフォーカスした記事をお届けする。
『アズレン』開発会社の社長はどのような人物なのか ― 国籍ではなく性癖、KPIではなく楽しさ、好きな作品は『ごちうさ』【2周年記念インタビュー】
電ファミでは2017年11月に同社を取材し、「ユーザーさん含めてテンションがハイになることを考えて運営しています。」「我々はとりあえず楽しんでいただきたいんです。これが運営方針でもあります」というユーザーファーストな会社であり、まるで“大学のオタクサークル”のような雰囲気であることをお伝えしたが、あれから2年──Yostarは今、どうなっているのだろうか。
また『アズールレーン』だけではなく、2019年4月には麻雀ゲーム『雀魂』をリリースし、さらなる新作『エピックセブン』、そして『アークナイツ』の準備も進められている。
そこで改めてYostarという会社に迫ろうと思う。運営方針や雰囲気は2年前からどう変化しているのか。そして新作の出来栄えは……? 同社の社長である李氏と取締役の金傑氏に話を伺った。
人を増やしただけの意識低い系オタク企業
──2年前は10名という規模でしたが、オフィスも引っ越されてだいぶ大きくなりましたね。
李衡達氏(以下、李氏):
実は前のビル、とても風水がいいんですよ。miHoYo時代も同じビルにオフィスがあり、『崩壊学園』なんかを運営していました。あのビルから発信するゲームは基本当たります!
──パワースポットなんですね(笑)。
李氏:
パワー持ってますよ、あそこ。それで我々はこのビルに昨年引っ越してきたんですが、もうパンパンな状態なので10月頃にもう一回移転します。
──おぉっ!
金傑氏(以下、金氏):
次はヨドバシの隣の隣です。
李氏:
今度こそ正真正銘のアキバ。最初は末広町(秋葉原電気街の北端)で、今は神田なので、胸張って秋葉原と言えない状況だったんですよ(笑)。
──それにしても1年でオフィスがパンパンになるってすごい勢いで人が増えているんですね。
李氏:
『アズールレーン』の運営だけでもかなり人を増やしたんです。引き続きローカライズも社内でやっていますし。
金氏:
あとは新作を複数用意していますので、さすがに人を増やさなくてはと。引っ越しはその準備も兼ねているんです。
李氏:
もう、あんな地獄は見たくない。
金氏:
『アズールレーン』のローンチは本当に大変でした……。
李氏:
もう……もうあれは、二度と繰り返したくない……。なによりユーザーさんのご迷惑にもなりますしね。
話題の『アズールレーン』はたった10名の会社が運営! 社長が“今のガチャ文化に違和感”を抱いた結果、SSR出現割合が7%になる【インタビュー】
──(笑)。そういえば2年前に取材させていただいたときに、「まるで大学のオタクサークルのような雰囲気だが、このまま大きくなったらこの雰囲気はなくなってしまうかもしれない」と思ったんですよ。でも今日オフィスを見せていただいて、規模は大きくなったけど全然2年前のままだと安心しました。実際はいかがでしょうか?
李氏:
いやおっきくなってません!
金氏:
なってないです。
李氏:
それは言い切れますね。ただ人を増やしただけです(笑)。
金氏:
大手企業みたいな体制はあまり取りたくないんですよ。
李氏:
だから人を増やしただけの意識低い系オタク企業です(笑)。
金氏:
そのぶん、フットワークはすごく軽いんですよ。自分たちが好きなことをしているだけなので。
──それを聞いて安心しました(笑)。
李氏:
ただ、我々がここまで来られたのは、本当に運です。
金氏:
本当にたまたまです。
李氏:
この業界って、一個当たったらだいたいみんな「必勝パターンを掴んだぞ!」と思って、それをコピーして他のゲームを展開していくんです。
で、だいたいはこける。
──(笑)。
李氏:
つまりですね、この業界において“必勝パターン”なんて存在しないんですよ。だから運。80%以上は運です。我々はただ、いいゲームに恵まれただけです。
金氏:
そうですね。やっぱりこの業界は、運が一番強いです。
李氏:
だから運を自分の実力だと勘違いして、それを思い込んだまま仕事をするのは、破滅ルートだからヤバいんです。大切なのは常に謙虚でいること! 謙虚で!
金氏:
全然謙虚じゃない(笑)。
李氏:
ずっと謙虚ですよ、運ですから!
金氏:
でも本当にそうだと思うんですよ。我々は運営として、本当に基礎的なことしかやってないですから。だから他の会社さんと比較しても、強みはいいゲームに恵まれている、ぐらいしかないんです。
──いやいや、そんなことないと思いますよ。
金氏:
強いて言えば、オタクの集団であることですね。ユーザーが何を求めているか、それをほんの少しわかっているつもりで仕事をしています。ただそれだけですね。
李氏:
これは前回のインタビューでも申し上げましたが、ユーザーさんを納得させる前に、まずはいちユーザーとして自分が納得できるか、なんですね。その方向性はずっと変わらないです。
ただ、今だから言えますが、実はこの会社、『アズールレーン』に恵まれる前は破滅寸前な状況だったんです。文字通り一文無し。だから宣伝費もほぼほぼゼロで、初期の宣伝費は仲のいいパートナーと相談し、無理やり支払いサイトを延ばしてもらいました。
──えっと、それはいつ頃の話ですか?
李氏:
『アズールレーン』が日本でリリースされる直前……2017年の8月頃までですかね。本当に給料を出せるかどうか、という危うい状態だったんです。
だから、こう言うと大げさな話ですが、『アズールレーン』は我々の命の恩人なんです。さすがにそこは裏切っちゃダメじゃないですか。
恩に報いるべく、我々は最善を尽くす。それこそ100%、いや120%の力を入れて『アズールレーン』を担当しなければいけない。
これはManjuuさんに対しての恩返しでもあるんです。
──そんな過去があったんですね……。
金氏:
李さんは義理人情の方ですからね。
李氏:
割と僕、頭で考えるより、(胸に手を当てながら)ココで考えるのが好きなんです。
『アークナイツ』はなぜYostarが運営することになったのか
──ここで今回同席して頂いている金さんについても話を伺いたく。李さんは言うまでもありませんが、実は金さんもYostarや日本における『アズールレーン』のキーマンだと思うんですよ。
李氏:
そうですね。だって僕、この人にそそのかされてこの会社にやってきましたから(笑)。
──もともと金さんは中国にある本社のYostarの方で、日本展開の担当者……という認識で合ってますか?
金氏:
だいたいそんな感じですね。
李氏:
僕はそんな金さんの誘いに応じて、Yostarへの入社を決意したんです。実は『アズールレーン』も、新作の『アークナイツ』も、僕が入る前から既にYostarが日本のパブリッシングをすることが決定していたんです。
金氏:
むしろ『アークナイツ』は『アズールレーン』の日本展開が決定する前から決まっていたんです。実は前々から「独立して自分の一番作りたいものを作る環境がほしい」という相談を開発チームのメンバーから受けていて、Yostarが新会社の立ち上げを少し手伝ったりして。そして独立後に『アークナイツ』の開発がスタートしたんですが、「どうせならグローバルでやりましょう」とこちらか提案したんです。
李氏:
そして、おそらく一番ウケるのは日本だろうという判断があり、日本のパブリッシングはYostar が担当することになった……と聞いています!
──聞いています(笑)。
李氏:
僕、当時はYostarの人間ではなかったので(笑)。だから商談とかも全然やってないんです。一度その開発会社さんに行ったことがあるんですが、まだゲームの全貌は全然見えていなくて、できていたのはアートデザインだけだったんですが、それでもこれはウケるなと。それも商談とかではなくて、ただ見に行った、みたいな。
だから僕は運がいいんですよ! だって入社したら既に『アズールレーン』と『アークナイツ』の日本展開が決まっていたんですから!
──そのお膳立てをしたのが金さんだった、と。
李氏:
はい、だからあの、餌ですよ餌!
──しかもめちゃくちゃ美味しそうな(笑)。
李氏:
もう2017年のある期間は毎日ですね、金さんから「来る来る? いつ来る? そろそろ来る?」って(笑)。「いやいやいや、ちょっと待って、ちょっと待って。まだやれることあるから。やることしっかりやってからYostarいくから」ってやり取りをしていましたね。
金氏:
ご存知の通り李さんはもともとmiHoYoの方で、丁度『崩壊3rd』をリリースしてひと段落着いたタイミングだったので(笑)。
運営スタッフ「今回のアニメが失敗したら、この業界ではもう今後やっていけないよ」
──また2019年10月からは『アズールレーン』のアニメもスタートしますが、こちらはYostarさんが仕込まれたんでしょうか。
李氏:
そうですね。Manjuuさんは拠点が上海なので、社内に日本語が堪能な方が多いとはいえ、直接窓口として日本とビジネスを運用する能力は、さすがに当時の段階ではない。
なので、我々は日本でパブリッシャーをやってますんで、手伝えるところは手伝わせてくださいと。それで2017年末か2018年ぐらいのタイミングで仕込み始めました。
──おそらくTVアニメを作られるのはみなさんにとって今回が初めてだと思うんですが、何か注意した点はありますか?
李氏:
我々と同じ性質の会社さんと組むことですね。企業の予算とかそういうことじゃなくて、少なくとも『アズールレーン』の持ち味を引き出せるところと組む。そういう基準で進めています。
でも正直なところ、本当に成功するかどうかはわからないんです。アニメはもう、本当に出来上がる直前にならないとどんなものになるかが、さっぱりわからない世界ですから。
ただ、アニメには『アズールレーン』を一番わかっているうちのディレクターが一生懸命、しかも全力で取り組んでいますので、安心してみていただければと思います。
金氏:
ゲームは触ってすぐに面白さが伝わりますが、アニメはそうではないですからね。
李氏:
むしろ心配なのはうちの社員の方ですね。もう彼らにかかっているプレッシャーが凄くて、みんなお金のために働くというよりも、もうなんか……今のこの『アズールレーン』をまず成功させたい、という気持ちが強すぎて。
金氏:
お金というより、本当になんていうか……人生のアチーブメントのためにみたいな。
李氏:
そうですよ、そうですよ。いやもう本当に「今回のアニメが失敗したら、この業界ではもう今後やっていけないよ」みたいな話も出てきて。「いや、全然やっていけるよ、全然やっていけるよ!」って(笑)。
──「ちょっと待ってよ!」みたいな(笑)。
金氏:
だから自分たちが納得できるレベルで出せたらいいと思いますし、そこに向けて全力を尽くしています。
──楽しみにしています。
赤字にならない程度で色々馬鹿なことをやりたい
──そういえば突然麻雀ゲーム『雀魂』を出されて驚きました。
李氏:
麻雀はウケないですよ!
金氏:
この人麻雀わからないから(笑)。
李氏:
『咲-Saki-』のアニメは全部最後まで見たんですけど、麻雀のルールは最後までわからないです。結局おっぱいだけを見ていたんですね。あと赤土晴絵の可愛さを。
なので、たしかに僕は麻雀の楽しさはわからないですけど、日本で中国企業が作った日本ルールの麻雀を出しても、そもそもウケないと思ったんです。
でも金さんや本社社長がこのゲームのことを好きすぎて、どうしてもやりたいと言うんですよ。たしかに『雀魂』は中国で超ヒットしましたが、それは日本麻雀の新鮮さ及び中国特有のSNSの拡散力が要因かと思います。
日本でその成功をコピーすることはまずできないんですね。
──中国ではヒットしたが、その展開方法をそのまま日本に持ってきても、ヒットはコピーできないと。
李氏:
ええ。ただ、一応考えました。本当にやっていけるのかどうか。それで僕は麻雀がわからないので、マーケティング的な視点から見てみることにしたんですね。僕はマーケティングの責任者でもあるので。
それで麻雀のプレイ人口とかいろいろ調べてみたんですが、規模は毎年ごとに若干縮小しており、しかもやってる方々の年齢層は結構高いと。
なので、萌え系の麻雀ゲームが本当にウケるかどうか、結構懸念したんですね。
──たしかに一理ありますね。今年、スクウェア・エニックスのMMORPG『FFXIV』に麻雀が実装されたので、同作のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹さんにインタビューをしたら「それら(麻雀など)の多くは、『単体では収支に繋げにくい』=『継続して運営するのが大変である』という課題が付きまとっています。しかし、それも『FFXIV』内で遊べるようにすれば、その課題を解決できるのではないかと考えました。」という話がありまして。なので、麻雀だけで運営していくのはなかなか厳しい感じもします。
『FFXIV』麻雀実装で新規・復帰が急増。プロ雀士も参戦し、24時間数秒でマッチングする初のコンテンツへ…実は“住めるゲーム”を目指す新たな挑戦の第一歩だった
李氏:
そうやって考えていくと、やっぱり採算は取れないんですよ。僕は基本、赤字にならない程度で色々馬鹿なことをやりたい。赤字になったら、いろいろ厳しくする必要が出てきますし、何より社内の空気が悪くなる。
金氏:
また運営するとなると、人手も必要ですし、もしそれが赤字タイトルだった場合、やっぱりチームのモチベーションが下がってしまうんですよ。
だから李さんが懸念していることはわかるんです。わかるんですけど、やはりこのゲームは日本で出さないともったいないんです!
李氏:
もう熱意が凄い(笑)。まぁそれで『アズールレーン』をリリースする前と比べれば、ある程度体力は身に着けましたので、若干の失敗は許せる状況ではあったんですね。
そこで『雀魂』で面白いことができれば、まぁそれでいいんじゃないですかね、と僕は開きなおったんです!
──なるほどなるほど。
金氏:
今では本当にユーザーさんのおかげで、わりと採算は取れています。
李氏:
取れてねぇ! 取れてねぇ!
一同:
(笑)。
李氏:
全然取れてねぇ!
金氏:
まだ全然回収できてないけど、あの……個人的には……割と、ポジティブな感じです。
李氏:
まぁでもいいんですよ。やると決めたらガチでやる。中途半端はダメです。
金氏:
これははっきり言っていいと思うんですけど、たぶん中国の会社で僕たちよりも、日本のサブカルをわかっている会社はないと思います。
李氏:
それはさすがに主観すぎると思うよ。
──でも、だからこそ内製でローカライズができるわけですよね。
李氏:
まぁある程度はつながっているかもしれないですね。
金氏:
うちの社員は本当にオタクの集まりなので、色んなジャンルをカバーできるんですよ。
李氏:
だから人はバンバンバンバンを増やしています。
『アークナイツ』の開発チームは中国のゲーム業界においてほぼ奇跡みたいなチーム
──さて、ここからはYostarの今後について伺っていこうと思います。まずは先ほど話に出た新作『アークナイツ』を。実は『アークナイツ』って日本では面白い注目のされ方をしているなと思っていまして。ゲーム自体が面白そうという期待の声はもちろんあるんですが、「『アズールレーン』の運営会社の新作なんだ」という期待のされ方も結構あるんじゃないかなと。こういう“〇〇の運営会社の新作だから”という注目のされ方って、あんまりないんじゃないでしょうか。
李氏:
だいたい『アズールレーン』のおかげですね。
金氏:
期待値が高すぎると逆に怖いです……。
李氏:
そんなに期待されてないですよ(笑)。おそらく、一部のコアファンが注目してくださっているだけ。何より、ユーザーさんも僕らもリリースしてみないとわからないと思うんですよ。何より『アズールレーン』がここまで日本でヒットしたのも予想外の出来事だったので、本当に出してみないとわからないんです。
ただ、最近の傾向として、日本、中国、韓国のスマートフォンゲームって、ゲームに対する考え方やユーザーから求められているものが同一化してきていて。
金氏:
例えば中国で売上とか口コミがいい作品は、日本でもそんなに悪くないんですよ。
李氏:
『アズールレーン』がまさにそうですが、『崩壊3rd』や『ミラクルニキ』、『黒い砂漠』もそのパターンですね。
金氏:
最近ユーザーが期待しているゲームは、日本、中国、韓国に関していえば、たぶん国を問わず同じものだと思いますね。
──そういう意味でも『アークナイツ』は期待の新作だと思っていまして。ローカライズは『アズールレーン』同様に社内でやられているんですか?
李氏:
『アークナイツ』も同じですね。
金氏:
外注より、自社で担当したほうがいろいろ調整が効くし素早く対応できるため、品質もある程度確保できると思っています。
──ゲームのジャンルとしてはタワーディフェンスですか……?
金氏:
そうです。実はそこが一番心配しているポイントで、今までとジャンルが違うので。
李氏:
タワーディフェンスだと人を選ぶという懸念があり、社内の若手から「いや、これ見た目だけじゃないですか?」と言われることもあったんです。
それで翌日みんなにやってもらったんですね。そしたら凄くハマっちゃって、「これ面白いぜ」って言うんですよ。
金氏:
前言撤回。
李氏:
前言撤回どころじゃないですよ! 昨日の自分をビンタするみたいな勢いで(笑)。しかも中国版の『アークナイツ』に自腹で課金する社員も出てきて。その額を見たら、おそらくこれはコケないだろうな、と思いましたね。
──いまだにどんなゲームかあんまりわかってないんですが、話を聞くだけでやりたくなってきますね……。
金氏:
いやいや、なんか変な期待はしないでくださいよ(笑)。我々はあくまでも、ただ面白いゲームを出して、それ相応の成績を収めたらいいなって、考えて動いています。逆になんというか、最初から「てっぺん取ろう」みたいな目標を立てると、逆にモチベーションを下げることになるので、そういったのは全然なくて。あくまで最善を尽くす、です。
李氏:
まぁ僕が当初立てた目標としては、セルランで100位から50位でゴロゴロする感じですね。中国では1位を取ったとはいえ、我々とはあんまり関係のない話ですから。
だからいきなり「覇権とろう!」みたいな話になったら、苦痛しかないです(笑)。
──開発メンバーにはどういった方々がいらっしゃるんでしょうか。
李氏:
デベロッパーの社長は大手IT企業に勤めていた経験があり、プロデューサーは海猫先生。そしてアートディレクターは日本で有名なスマホゲームのADを担当した経験があります。
金氏:
エンジニアも中国ではトップクラスの方々で、インフラ自体もそれなりに信頼感があると思います。
李氏:
もう中国のゲーム業界においてほぼ奇跡みたいなチームですよ。ローンチ時のサーバーダウンも1回ぐらいしか起こってないんです。会社自体はベンチャーですが、メンバーはオールスターだったわけですね。
なにより、皆さんゲームを愛しているんですよ。出張に行くたびにぷんぷん伝わってくるんですね。
金氏:
オールラウンダーというか、好きなジャンルに偏りがなく、常に各カルチャーの良さを取り入れている感じがしますね。
李氏:
それで思ったんですよ。スマートフォンゲームはどうすれば成功するのか、いろいろな疑問があったんですけど、結局は面白いゲームを作る、これしか答えはないんじゃないかと。
金氏:
課金に関しても、「なぜ課金するのか」という疑問って大切だと思っていて。この課金は、ゲームが面白いから課金しているのか、それともシステムが課金させているのか、と。
李氏:
ただ、我々は面白いゲームを作ることはできない。だから運なんですよ(笑)。
──お二人はすでに『アークナイツ』をプレイされていますが、感想はいかがですか?
金氏:
一つ一つのステージは難しいんですけど、それゆえに達成感が凄いですね。
李氏:
しかも課金よりも考え方や策略のほうが、戦闘に大きく影響するんです。
金氏:
どうやったらクリアできるか、本当に考えさせられるゲームですね。
李氏:
だからソシャゲじゃなくて、ゲームとして成り立っている感じですね。
金氏:
昔よくあったRPGの縛りプレイみたいなこともできるんですよ。タワーディフェンスの経験者はそういった縛りプレイも楽しいでしょうし、逆に時間を掛けてひたすらユニットを強化して、脳筋プレイをすることもできます。
もちろん、難しすぎて普通のプレイヤーは遊べない、ということもないです。
李氏:
ゴリラプレイもできます。
──ゴリラ……。
金氏:
つまりは色んな楽しみ方がある感じですね。
──先ほどサーバーダウンは1回ぐらいだった、という話がありましたが、注目タイトルって結構サーバーがダウンして、最悪サービス再開に数か月かかる場合もあるじゃないですか。そこの差というか、なぜ『アークナイツ』はそれほど安定していたと思われますか?
李氏:
まぁそうですね……一言でいうとプロ精神ですかね。自分のやっている仕事の責任や重さを実感できないと、なかなかうまくコントロールはできないんですね。
そういう実感がない人って、だいたい自分の計算ぴったりのサーバーを用意するんです。そしてだいたいオーバーすると。
今って物理サーバーではなく、クラウドサーバーが多いので、増やしたり減らしたりするのって結構簡単なんですよ。だから数段上のクラスとか規模のサーバーを設計・用意して、そこまで使わなかったら2ヶ月とかで下げればいい。
まぁそれができるのはチャイナマネーがあってからこそかもしれませんけど……でも、費用はそんなに変わらないんですよ、本当に。むしろ低く見積もった方が結果的にコストは掛かったりします。
金氏:
まぁ一回ぐらいのサーバーダウンでしたら……。
李氏:
1回であればメリットはありますね。話題にもなりますし、それがきっかけでユーザーが増える。でもそれ以降のダウンはもうデメリットしかない。炎上するばかりです。当然サーバーダウンはユーザーさんのご迷惑になるので、意図的にダウンさせることは決してありません。
ただ、一方でクラウドサーバーを使ってる以上、提供元で何らかのアクシデントが起こる可能性はあります。その場合は、間違いなくみんな死にますね。
──(笑)。さて、そんな『アークナイツ』ですが、気になるリリース時期は……。
李氏:
年内で頑張りたいと思いますね。とはいえ、実は控えているタイトルが結構ありまして……。『アークナイツ』や『エピックセブン』以外にも、未発表のタイトルがまだあります。
ただ、ユーザーさんに「この会社、ゲームを乱発しているような」とは思われたくないですし、我々としても1本1本を大切に運営していきたいと思っています。
なので、どの新作もローカライズは順調に進んではいるんですが、ローカライズが終わった瞬間に出すことはまずないと思いますね。
金氏:
他社さんのタイトルとバッティングしたくないですしね。
李氏:
とりあえず隙を伺っています(笑)。というかむしろ、昨年は新作が1本もなくて、それはそれでおかしな事態なんですけどね。
──たしかに新作なかったですね。
李氏:
本当に『アズールレーン』は我々の娘、というかお姫様ですから。全部の力を入れこんでいたんですよね……。
まぁそういったビジネス的な視点や理由もあるんですが、一番気にしているのは、先ほども言ったようにユーザーさんがどう思われるのかですよね。
──たしかに同一の運営会社から複数のゲームが短期間に出ると、運営のリソースもユーザーも分散してしまいそうですし、それに対するヘイトも出てきてしまいそうですね。
李氏:
なにより「Yostarが調子乗ってて、もうちょっと儲かったら夜逃げするらしいぞ」みたいな感覚だけは作りたくないんですよ。
金氏:
それもそうですし、やっぱりYostarから出すゲームは、自分たちが実際に遊んで、本当に面白いと思ったゲームだけを、しっかりとした形でユーザーに届けたいと思っています。
実際『エピックセブン』はかなり面白くて、もう廃人みたいに繁体字版をプレイしています(笑)。面白くないゲームには課金しないんですが、『エピックセブン』にはかなり……。
──おお、それは楽しみです。
金氏:
パブリッシング会社としては、面白くないゲームに携わっても自分の苦痛にしかならないですからね。ちゃんと自分が面白いと思ったものを提供して、それでユーザーも自分も幸せになれればいいなと思っています。
──最後にもう少し未来のことも伺えればと思うのですが、将来のYostarのビジョンがありましたら。
李氏:
いや……ないですよ、もう。
金氏:
見てないです(笑)。ひたすら現状の最善を尽くすだけ。
李氏:
そう、そうです。3ヶ月先しか見てないですね(笑)。
金氏:
一年先ですらどんな状況になるか、もう全然わからない業界ですし。
李氏:
この業界、流れがもう常に激しいですから、ビジョンを持っても一年後になると全然現実と合致してないんです。むしろ超離れてますから。
だからもう、適当でいいんじゃないかと(笑)。
──(笑)。
金氏:
もう適当でいいと思います。
李氏:
普通に……普通に会社が生きててくれればそれでいいです(笑)。僕としては少なくとも、引き続きユーザーさんを幸せにする、それで従業員さんにいい給料払う。この2点だけ実現できれば万々歳です。
金氏:
あとは、継続的にいいゲームと巡り合えればと。
李氏:
恵まれる、運が! 運が! 僕がYostarに来る前の2つの弾は全部解禁されましたので。
──今後の運を……。
李氏:
そう、今後の運。
金氏:
それにかかってますね(笑)。
──わかりました(笑)。本日はありがとうございました。(了)
「この業界において“必勝パターン”なんて存在しないんですよ。だから運。80%以上は運です。」と語る李氏。しかしこれは、ただ単に運任せということではない。
スマートフォンゲームを成功させる答えが“結局は面白いゲームを作るしかない”のならば、金氏が言っていた“自らが実際に遊んだうえで、本当に面白いと思ったゲームを、しっかりとした形でユーザーに届ける“ということが重要になるはずだ。
その上でヒットするかどうかは運――ということなのだ。
これこそが意識低い系オタク企業Yostarの運営論である。そしてユーザーファーストな運営方針や、大学のオタクサークルのような雰囲気は2年前から変わっていなかった。逆に変わったことと言えば、会社に余裕ができたことで『雀魂』のようなチャレンジができるようになったことだろうか。基本は「赤字にならない程度で色々馬鹿なことをやりたい」だが、「やると決めたらガチでやる。中途半端はダメです。」という李氏の発言はユーザーにとっても頼もしい言葉なはずだ。
だからこそ『アークナイツ』や『エピックセブン』、そして今後の『アズールレーン』の展開が楽しみでならない。
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