2019年9月で日本でも2周年を迎えた『アズールレーン』。
その2周年を記念して、同作の開発会社であるManjuuの社長・林書茵氏へのインタビュー記事をお届けしたが、その後半として、今回は日本の運営会社であるYostarにフォーカスした記事をお届けする。
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電ファミでは2017年11月に同社を取材し、「ユーザーさん含めてテンションがハイになることを考えて運営しています。」「我々はとりあえず楽しんでいただきたいんです。これが運営方針でもあります」というユーザーファーストな会社であり、まるで“大学のオタクサークル”のような雰囲気であることをお伝えしたが、あれから2年──Yostarは今、どうなっているのだろうか。
また『アズールレーン』だけではなく、2019年4月には麻雀ゲーム『雀魂』をリリースし、さらなる新作『エピックセブン』、そして『アークナイツ』の準備も進められている。
そこで改めてYostarという会社に迫ろうと思う。運営方針や雰囲気は2年前からどう変化しているのか。そして新作の出来栄えは……? 同社の社長である李氏と取締役の金傑氏に話を伺った。
人を増やしただけの意識低い系オタク企業
──2年前は10名という規模でしたが、オフィスも引っ越されてだいぶ大きくなりましたね。
李衡達氏(以下、李氏):
実は前のビル、とても風水がいいんですよ。miHoYo時代も同じビルにオフィスがあり、『崩壊学園』なんかを運営していました。あのビルから発信するゲームは基本当たります!
──パワースポットなんですね(笑)。
李氏:
パワー持ってますよ、あそこ。それで我々はこのビルに昨年引っ越してきたんですが、もうパンパンな状態なので10月頃にもう一回移転します。
──おぉっ!
金傑氏(以下、金氏):
次はヨドバシの隣の隣です。
李氏:
今度こそ正真正銘のアキバ。最初は末広町(秋葉原電気街の北端)で、今は神田なので、胸張って秋葉原と言えない状況だったんですよ(笑)。
──それにしても1年でオフィスがパンパンになるってすごい勢いで人が増えているんですね。
李氏:
『アズールレーン』の運営だけでもかなり人を増やしたんです。引き続きローカライズも社内でやっていますし。
金氏:
あとは新作を複数用意していますので、さすがに人を増やさなくてはと。引っ越しはその準備も兼ねているんです。
李氏:
もう、あんな地獄は見たくない。
金氏:
『アズールレーン』のローンチは本当に大変でした……。
李氏:
もう……もうあれは、二度と繰り返したくない……。なによりユーザーさんのご迷惑にもなりますしね。
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でも金さんや本社社長がこのゲームのことを好きすぎて、どうしてもやりたいと言うんですよ。たしかに『雀魂』は中国で超ヒットしましたが、それは日本麻雀の新鮮さ及び中国特有のSNSの拡散力が要因かと思います。
日本でその成功をコピーすることはまずできないんですね。
──中国ではヒットしたが、その展開方法をそのまま日本に持ってきても、ヒットはコピーできないと。
李氏:
ええ。ただ、一応考えました。本当にやっていけるのかどうか。それで僕は麻雀がわからないので、マーケティング的な視点から見てみることにしたんですね。僕はマーケティングの責任者でもあるので。
それで麻雀のプレイ人口とかいろいろ調べてみたんですが、規模は毎年ごとに若干縮小しており、しかもやってる方々の年齢層は結構高いと。
なので、萌え系の麻雀ゲームが本当にウケるかどうか、結構懸念したんですね。
──たしかに一理ありますね。今年、スクウェア・エニックスのMMORPG『FFXIV』に麻雀が実装されたので、同作のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹さんにインタビューをしたら「それら(麻雀など)の多くは、『単体では収支に繋げにくい』=『継続して運営するのが大変である』という課題が付きまとっています。しかし、それも『FFXIV』内で遊べるようにすれば、その課題を解決できるのではないかと考えました。」という話がありまして。なので、麻雀だけで運営していくのはなかなか厳しい感じもします。
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──そういう意味でも『アークナイツ』は期待の新作だと思っていまして。ローカライズは『アズールレーン』同様に社内でやられているんですか?
李氏:
『アークナイツ』も同じですね。
金氏:
外注より、自社で担当したほうがいろいろ調整が効くし素早く対応できるため、品質もある程度確保できると思っています。
──ゲームのジャンルとしてはタワーディフェンスですか……?
金氏:
そうです。実はそこが一番心配しているポイントで、今までとジャンルが違うので。
李氏:
タワーディフェンスだと人を選ぶという懸念があり、社内の若手から「いや、これ見た目だけじゃないですか?」と言われることもあったんです。
それで翌日みんなにやってもらったんですね。そしたら凄くハマっちゃって、「これ面白いぜ」って言うんですよ。
金氏:
前言撤回。
李氏:
前言撤回どころじゃないですよ! 昨日の自分をビンタするみたいな勢いで(笑)。しかも中国版の『アークナイツ』に自腹で課金する社員も出てきて。その額を見たら、おそらくこれはコケないだろうな、と思いましたね。
──いまだにどんなゲームかあんまりわかってないんですが、話を聞くだけでやりたくなってきますね……。
金氏:
いやいや、なんか変な期待はしないでくださいよ(笑)。我々はあくまでも、ただ面白いゲームを出して、それ相応の成績を収めたらいいなって、考えて動いています。逆になんというか、最初から「てっぺん取ろう」みたいな目標を立てると、逆にモチベーションを下げることになるので、そういったのは全然なくて。あくまで最善を尽くす、です。
李氏:
まぁ僕が当初立てた目標としては、セルランで100位から50位でゴロゴロする感じですね。中国では1位を取ったとはいえ、我々とはあんまり関係のない話ですから。
だからいきなり「覇権とろう!」みたいな話になったら、苦痛しかないです(笑)。
──開発メンバーにはどういった方々がいらっしゃるんでしょうか。
李氏:
デベロッパーの社長は大手IT企業に勤めていた経験があり、プロデューサーは海猫先生。そしてアートディレクターは日本で有名なスマホゲームのADを担当した経験があります。
金氏:
エンジニアも中国ではトップクラスの方々で、インフラ自体もそれなりに信頼感があると思います。
李氏:
もう中国のゲーム業界においてほぼ奇跡みたいなチームですよ。ローンチ時のサーバーダウンも1回ぐらいしか起こってないんです。会社自体はベンチャーですが、メンバーはオールスターだったわけですね。
なにより、皆さんゲームを愛しているんですよ。出張に行くたびにぷんぷん伝わってくるんですね。
金氏:
オールラウンダーというか、好きなジャンルに偏りがなく、常に各カルチャーの良さを取り入れている感じがしますね。
李氏:
それで思ったんですよ。スマートフォンゲームはどうすれば成功するのか、いろいろな疑問があったんですけど、結局は面白いゲームを作る、これしか答えはないんじゃないかと。
金氏:
課金に関しても、「なぜ課金するのか」という疑問って大切だと思っていて。この課金は、ゲームが面白いから課金しているのか、それともシステムが課金させているのか、と。
李氏:
ただ、我々は面白いゲームを作ることはできない。だから運なんですよ(笑)。
──お二人はすでに『アークナイツ』をプレイされていますが、感想はいかがですか?
金氏:
一つ一つのステージは難しいんですけど、それゆえに達成感が凄いですね。
李氏:
しかも課金よりも考え方や策略のほうが、戦闘に大きく影響するんです。
金氏:
どうやったらクリアできるか、本当に考えさせられるゲームですね。
李氏:
だからソシャゲじゃなくて、ゲームとして成り立っている感じですね。
金氏:
昔よくあったRPGの縛りプレイみたいなこともできるんですよ。タワーディフェンスの経験者はそういった縛りプレイも楽しいでしょうし、逆に時間を掛けてひたすらユニットを強化して、脳筋プレイをすることもできます。
もちろん、難しすぎて普通のプレイヤーは遊べない、ということもないです。
李氏:
ゴリラプレイもできます。
──ゴリラ……。
金氏:
つまりは色んな楽しみ方がある感じですね。
──先ほどサーバーダウンは1回ぐらいだった、という話がありましたが、注目タイトルって結構サーバーがダウンして、最悪サービス再開に数か月かかる場合もあるじゃないですか。そこの差というか、なぜ『アークナイツ』はそれほど安定していたと思われますか?
李氏:
まぁそうですね……一言でいうとプロ精神ですかね。自分のやっている仕事の責任や重さを実感できないと、なかなかうまくコントロールはできないんですね。
そういう実感がない人って、だいたい自分の計算ぴったりのサーバーを用意するんです。そしてだいたいオーバーすると。
今って物理サーバーではなく、クラウドサーバーが多いので、増やしたり減らしたりするのって結構簡単なんですよ。だから数段上のクラスとか規模のサーバーを設計・用意して、そこまで使わなかったら2ヶ月とかで下げればいい。
まぁそれができるのはチャイナマネーがあってからこそかもしれませんけど……でも、費用はそんなに変わらないんですよ、本当に。むしろ低く見積もった方が結果的にコストは掛かったりします。
金氏:
まぁ一回ぐらいのサーバーダウンでしたら……。
李氏:
1回であればメリットはありますね。話題にもなりますし、それがきっかけでユーザーが増える。でもそれ以降のダウンはもうデメリットしかない。炎上するばかりです。当然サーバーダウンはユーザーさんのご迷惑になるので、意図的にダウンさせることは決してありません。
ただ、一方でクラウドサーバーを使ってる以上、提供元で何らかのアクシデントが起こる可能性はあります。その場合は、間違いなくみんな死にますね。
──(笑)。さて、そんな『アークナイツ』ですが、気になるリリース時期は……。
李氏:
年内で頑張りたいと思いますね。とはいえ、実は控えているタイトルが結構ありまして……。『アークナイツ』や『エピックセブン』以外にも、未発表のタイトルがまだあります。
ただ、ユーザーさんに「この会社、ゲームを乱発しているような」とは思われたくないですし、我々としても1本1本を大切に運営していきたいと思っています。
なので、どの新作もローカライズは順調に進んではいるんですが、ローカライズが終わった瞬間に出すことはまずないと思いますね。
金氏:
他社さんのタイトルとバッティングしたくないですしね。
李氏:
とりあえず隙を伺っています(笑)。というかむしろ、昨年は新作が1本もなくて、それはそれでおかしな事態なんですけどね。
──たしかに新作なかったですね。
李氏:
本当に『アズールレーン』は我々の娘、というかお姫様ですから。全部の力を入れこんでいたんですよね……。
まぁそういったビジネス的な視点や理由もあるんですが、一番気にしているのは、先ほども言ったようにユーザーさんがどう思われるのかですよね。
──たしかに同一の運営会社から複数のゲームが短期間に出ると、運営のリソースもユーザーも分散してしまいそうですし、それに対するヘイトも出てきてしまいそうですね。
李氏:
なにより「Yostarが調子乗ってて、もうちょっと儲かったら夜逃げするらしいぞ」みたいな感覚だけは作りたくないんですよ。
金氏:
それもそうですし、やっぱりYostarから出すゲームは、自分たちが実際に遊んで、本当に面白いと思ったゲームだけを、しっかりとした形でユーザーに届けたいと思っています。
実際『エピックセブン』はかなり面白くて、もう廃人みたいに繁体字版をプレイしています(笑)。面白くないゲームには課金しないんですが、『エピックセブン』にはかなり……。
──おお、それは楽しみです。
金氏:
パブリッシング会社としては、面白くないゲームに携わっても自分の苦痛にしかならないですからね。ちゃんと自分が面白いと思ったものを提供して、それでユーザーも自分も幸せになれればいいなと思っています。
──最後にもう少し未来のことも伺えればと思うのですが、将来のYostarのビジョンがありましたら。
李氏:
いや……ないですよ、もう。
金氏:
見てないです(笑)。ひたすら現状の最善を尽くすだけ。
李氏:
そう、そうです。3ヶ月先しか見てないですね(笑)。
金氏:
一年先ですらどんな状況になるか、もう全然わからない業界ですし。
李氏:
この業界、流れがもう常に激しいですから、ビジョンを持っても一年後になると全然現実と合致してないんです。むしろ超離れてますから。
だからもう、適当でいいんじゃないかと(笑)。
──(笑)。
金氏:
もう適当でいいと思います。
李氏:
普通に……普通に会社が生きててくれればそれでいいです(笑)。僕としては少なくとも、引き続きユーザーさんを幸せにする、それで従業員さんにいい給料払う。この2点だけ実現できれば万々歳です。
金氏:
あとは、継続的にいいゲームと巡り合えればと。
李氏:
恵まれる、運が! 運が! 僕がYostarに来る前の2つの弾は全部解禁されましたので。
──今後の運を……。
李氏:
そう、今後の運。
金氏:
それにかかってますね(笑)。
──わかりました(笑)。本日はありがとうございました。(了)
「この業界において“必勝パターン”なんて存在しないんですよ。だから運。80%以上は運です。」と語る李氏。しかしこれは、ただ単に運任せということではない。
スマートフォンゲームを成功させる答えが“結局は面白いゲームを作るしかない”のならば、金氏が言っていた“自らが実際に遊んだうえで、本当に面白いと思ったゲームを、しっかりとした形でユーザーに届ける“ということが重要になるはずだ。
その上でヒットするかどうかは運――ということなのだ。
これこそが意識低い系オタク企業Yostarの運営論である。そしてユーザーファーストな運営方針や、大学のオタクサークルのような雰囲気は2年前から変わっていなかった。逆に変わったことと言えば、会社に余裕ができたことで『雀魂』のようなチャレンジができるようになったことだろうか。基本は「赤字にならない程度で色々馬鹿なことをやりたい」だが、「やると決めたらガチでやる。中途半端はダメです。」という李氏の発言はユーザーにとっても頼もしい言葉なはずだ。
だからこそ『アークナイツ』や『エピックセブン』、そして今後の『アズールレーン』の展開が楽しみでならない。
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