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日本一歌の上手い会社員・セガ光吉猛修×『FFXIV』祖堅正慶 歌うゲーム開発者対談 ― 『デイトナUSA』がなければ「過重圧殺!」は生まれていなかった

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 『デイトナUSA』のBGMやアニメ版『バーチャファイター』の主題歌など、ゲームミュージックコンポーザーでありながらバンドでボーカルを担当し、果てにはアニメの主題歌でソロ歌手デビューまでしている、“日本一歌の上手い会社員”ことセガの光吉猛修氏。

 最近では『maimai』『チュウニズム』、あるいは『PSO2』内で流れる『きみのためなら死ねる』『赤ちゃんはどこからくるの?』の楽曲でその歌声を聞いたことがある方も多いかもしれない。

 そんな光吉氏によるディナーショーが、2019年10月28日に“セガ社員のセガ社員によるセガ社員のための社内イベント”として開催され、セガ公式Twitterがそれを告知したことで話題に。

 そしてある人物が、「(開催時間の)今夜19:30までに御社に転職すればいいんですか?!」とそのイベントに反応した。

 その人物とは、スクウェア・エニックスの祖堅正慶氏だ。

 祖堅氏は『ファイナルファンタジーXIV』(以下、FFXIV)のサウンド全般を手掛け、「ビデオゲームで最も多くのオリジナルサウンドトラックを持つタイトル」というギネス世界記録にも認定されるほどの楽曲を生み出している。

 また、そこからの派生で『FFXIV』の公式バンド「THE PRIMALS」のボーカルも務める人物だ。

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THE PRIMALS

 残念ながら、祖堅氏は光吉氏のディナーショーに参加することはできなかったのだが、それならばと両者の対談を提案したところ、初めての対談が実現することとなった。

 今回の対談は、いわば「歌うゲーム開発者」同士の対談だ。また両者はともに、ゲームミュージックにボーカルをよく取り入れるコンポーザーでもある。
 果たして両者が双方に与えている影響、そして共通点とはいったい何なのだろうか。

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左から光吉猛修氏、祖堅正慶氏

聞き手/風のイオナクリモトコウダイ
文/風のイオナ
撮影/増田雄介
編集/クリモトコウダイ


『デイトナUSA』で歌が流れてきた時、ゲーム体験が一段上がった(祖堅)

──今回は光吉さんと祖堅さんの対談、よろしくお願いします!

祖堅:
 嬉しいです。いつかこんな日が来ることを願って仕事していました!

光吉:
 本人と会うことで夢を壊してしまったらすみません(笑)。

──今回の企画を祖堅さんにご提案したときに、「光吉さんから大きな影響を受けているんです」という話を伺ったんですが、祖堅さんが光吉さんのことを知ったのは、いつごろなんでしょうか。

祖堅:
 光吉さんは僕がまだゲームサウンドクリエイターになる前から第一線で活躍されていました。
 僕はセガさんのアーケード基板であるMODEL2時代にすごくゲームしていた世代で、家でゲームをするというよりは、ゲームセンターで最先端のゲームに触れる、という人間だったんですね。

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祖堅正慶氏

 それで当時、忘れもしないんですけど、品川のボーリング場に可動式の『デイトナUSA』が8台置いてあって、コインを入れてゲームをスタートしたら……“歌”聞こえてきたッスよ(笑)。

 それでもう興奮しちゃって。もちろん家庭用ゲームでもサウンドで刺激を受けることはありましたけど、それとは異なる……なんというか、「うお、何だこれ!」っていう高揚感ですよね。
 出だしの歌一発で自分にとってのゲーム体験が一段上がった感がすごくあったんですよ。それこそゲームが2Dから3Dになったぐらいの衝撃で。

 当然この歌っている人は誰だろうとなるわけじゃないですか。それで調べたら、光吉さんだってことがわかって。
 当時は『デイトナUSA』の歌のモノマネもしていましたよ(笑)。

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(画像はDAYTONA USA | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

──モノマネですか(笑)。

祖堅:
 当時はメモリの容量が少なかった中で歌を入れたと思うので、ループのつなぎ目も粗くて、「ローリングスター・ア-・ア-・ア-」みたいになっていたんですが、僕はそれが大好きで(笑)。
 でもそこを研究することで、音データをつないでループさせているのかな? って感じで、技術の吸収をしていました。

 改めて光吉さんにお聞きしたいんですが、当時ゲームのBGMに歌を乗せるってどうだったんですか?

光吉:
 ほぼ祖堅さんの思っていたことで正解っていうか、実はその当時“MPEGボード”と呼ばれる基板を使って、『スター・ウォーズ』のライセンスを取得して開発したゲームで“オリジナルのサントラ音源をそのまま再生する”という技術があるにはあったんです。

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光吉猛修氏

祖堅:
 あったんですか。

光吉:
 でも汎用じゃなかったんですよ。
当時「MODEL2」で『デイトナUSA』を作ってはいたんですが、圧縮音源の再生機能もなく、楽曲のMIDIデータを実機に組み込んで基板上の音を鳴らす技術を使っていました。
 最初は『バーチャファイター』で開発・採用され、それを『デイトナUSA』で流用した感じですね。

 そこで一段表現力が上がったんですけど、歌唱楽曲を実装した経験がなく、試行錯誤の中で起きた結果の一つが「アー・アー・アー」となっているという(笑)。今聴くと確かに粗いですよね。

 たとえば、「デイトーナー・アー・アー」ってビブラートもそのまんまループしちゃっているとか。でもパートによってはしていなかったりで、バラバラだったんですけど、それがかえって生っぽくなったのかなとも思いました。
 そういうごちゃっとした感がむしろ人間が歌っているぽかったというか。

 当時のボードにはエフェクト機能もありませんでしたので、重ねたボーカルトラックを少しずらして繋ぎ目の不自然さが目立たないようにしていたんですよ。

祖堅:
 たしかに当時はDSPなんてなかったですよね。

光吉:
 何よりメモリを食いますからね。ただ音質には拘ってCDと同じ16bitにしていました。

祖堅:
 えぇ! そうなんですか!? 4bitじゃないんですね……すごい。

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 あ、実は僕、スクウェア・エニックスに入る前はアーケードゲームをやっていて。やっぱりアーケードが好きだったので、最初はそっちの門を叩いたんですよ。
 僕がやっていた時は8メガビットが一番高いROMでしたけど、光吉さんのころはもっと前ですよね。それこそ2メガビットで「高けぇ!」みたいな。

光吉:
 そんな時代でしたね(笑)。

祖堅:
 懐かしいなぁ。当時、“ゲシゲシ”(ROM)のデータを紫外線に当てて消していましたよ。たしかそれが最初の仕事で、途中で寝ちゃってROMがダメになったり(笑)。

光吉:
 それ僕もやりました(笑)。タイマーがついていて、時間になると「チーン」って言ってくれるんですよね?

祖堅:
 そうそうそう!

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『リッジレーサー』がボイスだけなら『デイトナUSA』は歌を入れてしまえと思った(光吉)

──光吉さんの歌の話がありましたが『デイトナUSA』よりも前に、S.S.T.BANDのライブでもボーカルをされていましたよね。音源ではB-univ名義でリリースされた『バーチャファイター』のアルバムで、光吉さんが初めてボーカルレコーディングされていました。

祖堅:
 光吉さんがゲームミュージックに歌を入れようと思ったきっかけって何だったんですか?

光吉:
 僕はYMO世代なので元々インスト至上主義だったんですよ。だから歌入りの曲については消極的だったんです。
 大学時代もずっとフュージョンバンドを組んでいて、歌とは縁遠い音楽活動をしていたんです。

祖堅:
 ようは演奏する方のテクニックってことですよね。

光吉:
 ええ。僕のパートはキーボードだったんですが、超絶技巧とか速いアドリブとかを取り入れる演奏をしていて、セガに入った頃の自身の楽曲もその延長線上で作っていればよかったんですよ。
 でも入社2年目を過ぎたあたりに、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)さんが『リッジレーサー』を出されて。
 音楽がロッテルダムテクノみたいな、それまでのゲーム音楽とは全然違うジャンルのものを持ってこられたんですね。

 そこで社内的には全てにおいて『リッジレーサー』を超えろ、ということになり。その時僕が『デイトナUSA』のサウンドをやることになって、さぁどうしたもんかと。

 いろいろ思案する中で、『リッジレーサー』は声の素材は入っていたけど歌って感じじゃなかったので。
 割とそういうシンプルな発想だったんですよね。今までにないものを作るという。
 僕の音楽の発想って「前例がないんだったら自分が最初にやっちゃえ」みたいなところがありまして、ないところに自分がポンと行って、新しいことをやるという逆転の発想なんですよ。だから「歌入れちゃえ」って(笑)。

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 まぁかといって自分が歌う必要はなかったんですが、業界あるあるというか、サウンド担当者が「仮でとりあえず自分の声入れてみました」っていうのが、そのまんま製品版に乗ってしまう、みたいな。

祖堅:
 ありますよね(笑)。当時は会議室を使って音声を録ったりとか。

光吉:
 そうそう(笑)。それで当時、社内に防音室があったんで、そこで「デイトーナー、レッツゴーアウェイ、デイトーナー」のパートを録って、楽曲をループするようにして組み込んで実装してしばらく放置してたんですね。
 そうしたら現場にいるスタッフからクレームが来て。

祖堅:
 え!?

光吉:
 それで「やっぱりダメだった?」って言ったら「これ、帰ってからも歌が頭から離れないんでやめてください」って言われて、「よし勝った!」って(笑)。

祖堅:
 それサウンド的には勝ちですね(笑)。

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光吉:
 そんな出来事もあって、その後CD化されるなんて考えてなかったから、そのまんま自分の歌が乗った状態で『デイトナUSA』がリリースされた感じですね。
 でもロケーションテストの後にネイティブの外国人の方から、発音が変だとか言われたことはあったかな(笑)。英語的に、「Don’t Play Me(遊ぶな!)」と聴こえるって言われて、それなら「Don’t」消せばいいんだろって感じで消したりとか。

祖堅:
 ということは意図を持ってああいう風に歌っているわけではなくて、消去法でそうなったということなんですね。

光吉:
 場所によってはそうですね。歌詞のある部分以外は持っている素材を使えるとこに当てはめていったんで、メロディを作ったっていうよりはDJに近い作業でしたね。

祖堅:
 僕はそんな光吉さんから大きな影響を受けていて。

 今は『FFXIV』というタイトルを手掛けているんですけど、「何かパンチのある音をくれ」って言われたとき、例えばオーケストラのインストでずっと攻めて、ここで一発という時に激し目のオーケストラを入れるのも定石なんですが、まず思いつくのがギターサウンドによるロックなんです。元々ロック大好きだし。

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 そして光吉さんがサウンドを担当したゲームをめちゃめちゃ遊んでいたセガっ子だった影響からか、『デイトナUSA』のときに、歌によってゲームのプレイ体験が一段階上がる体験をしていたので、それを自分の手掛けているゲームにも入れたいなって思ったんです。

 今の時代、『FF』に対して抱くイメージってもうプレイヤー側に移っていて、僕ら開発陣のイメージではなくなっていると思うんです。
 そして『FF』で思い浮かぶ音楽はオーケストラだと思うんですが、そこにあえて、プレイヤーが思い描く『FF』とは全然違うところを持ってきて、パンチのある音という発注に対して作ってみようと思ったのが、「タイタン」っていうボスのバトル曲だったんですよ。

 ガーーやって、永遠「タイタン!」って言っている曲なんですけど(笑)。

光吉:
 聴きましたよ、その楽曲! 嬉しいですね。会社を超えてそのような影響を与えているというのが……。

──では『デイトナUSA』がなければあの『過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~』は生まれなかったんですね……。

祖堅:
 『デイトナUSA』でのゲーム体験がなければ生まれてなかったですね。

 それまでの『FFXIV』は壮大な感じだったのに、急に巨大な岩みたいな敵が出てきて、突然地面に落とされた挙句、力尽きて復活もできず、「何もできないじゃないか!」という衝撃の次に来るのが、「なんか急に歌い出したぞ!?」という(笑)。

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タイタン(FFXIV)

──そう言われてみれば、歌によってゲームのプレイ体験が一段階上がっていますね。

祖堅:
 というかカオスですよね。

光吉:
 そう、カオス。それがやっぱり1個のインパクトになりますよね。……勉強させていただいています!

祖堅:
 とんでもないです!(笑)。でもギャップって大事ですよね。ゲームだけじゃないかもしれないけど、いい意味でのギャップってのは必要ですよね。

光吉:
 本当に。僕、人生ギャップだと思っているんで(笑)。

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「ディナーショーをやりたい!」と10年くらい言い続けていたら実現できた(光吉)

──少し前の話になりますが、光吉さんがセガ社内でディナーショーをやられるという情報がツイッターで告知されていて、話題になりましたよね。祖堅さんもそこに反応されていたり(笑)。

祖堅:
 あの時はもう会社辞めるしかないなと(笑)。

一同:
 (笑)。

光吉:
 祖堅さんらしさ?が出ていて思わず笑っちゃいました。祖堅さんがセガのことを好きって知っていましたし、弊社のアカウントの返しもなかなか良かったですしね(笑)。

祖堅:
 僕も面白かったです、自分のことながら。何とかしてディナーショーに行けないかなと。後から思ったのは、光吉さんに連絡取ればよかったかなぁとか。

 僕、さっきも言ったんですけど、セガっ子なんですよ。それでセガさんの社内に乗り込んでお仕事させていただくって今日が初めてなんですが……オフィスが大鳥居じゃないのが少し残念です(笑)。

 でも不思議なことに、今『ソニック』の中裕司さんが弊社に所属されていて。今回の対談もそうですけど、割と最近、セガの方としゃべりやすい環境にあり嬉しいですね。
 それまでセガと言えば、雲の上の存在だったんですけど。

光吉:
 それはよかったです(笑)。

──光吉さんはディナーショーを開催してみていかがでしたか?

光吉:
 先行して社内ディナーショーをやりましたけど、実は銀座で一般のお客さん向けに開催するっていうのが先に決まっていて【※】、その前に1回社内でやってみようっていう話だったんですね。

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 環境としてはいいんですけど……観に来てくれる方がセガグループに所属されている方だけなので、光吉のことを知っているリテラシーの高い人が集まるっていうのはわかっていたものの、「ほんとに来てくれるのかなぁ」っていう不安もあって。
 でも割と早い段階で席が埋まってしまって、「おお~!」みたいな。

※2020年3月22日開催「光吉猛修 ディナーショー in KENTO’S 銀座」。チケットは好評につき全席完売済み。

祖堅:
 そりゃあ聴きたいでしょう。セガサミーグループの社員さんの方は、やっぱりセガのゲームを遊ばれて、セガに入ってくるわけじゃないですか。
 だから僕と同じように『デイトナUSA』で遊んでいたり、『バーニングレンジャー』で遊んでいた人が来るわけじゃないですか。そりゃ見たいッスよ!!

光吉:
 条件で言えばそのはずなんですけど、やっぱり個人的には不安がありましたね。その後に銀座が決まっていたので、社内ディナーショーの結果次第では……っていうプレッシャーもあって。
 でもおかげさまで社内ディナーショーは成功させることができて良かったです。

──ディナーショーの企画自体はどういったところから立ち上がったんでしょうか?

光吉:
 実はあんまり記憶にないんですけど、どうやら10年くらい前からいろんな人に言っていたみたいなんですよ。
 でも熱を持って「やりたい!」って言っていた頃は自分の圧も強すぎてかやや引かれて終わる、みたいな事が多くて(笑)。

 ただオフィスが大崎に移ってから、「ディナーショー」というワードに興味を持ってくれる方が増え始めて、あれよあれよって感じで社内ディナーショーができちゃった感じなんです。いろんなグループ会社の社員さんとの距離が物理的にも近くなったっていうことがあるかもしれないですね。

祖堅:
 大鳥居の時は1号館があって、2号館があってと、結構ビルも分かれていましたもんね。その辺りは“セガ村”って言われていたり……ってなんで俺が説明しているんだ(笑)!

光吉:
 でもスクエニさんも同じビルにオフィスが集まっているからそういう感じありませんか?

祖堅:
 そうですね。うちはけっこう固まっていることが多いので、部署間のコミュニケーションは活発なほうだと思います。『キングダムハーツ』『ファイナルファンタジー』などを中心に、音楽興行も多いですしね。

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──でもバンドをやっていた方がディナーショーに行き着くってのは、あまり聞かない話かなとも思いました(笑)。

光吉:
 これはリスクヘッジなんですよ(笑)。

祖堅:
 ど、どういうことッスか?

光吉:
 これは祖堅さんも感じられているかもしれませんが、昨今、ゲーム音楽のコンサートも増えてきて、純粋に音楽を聴くスタイルって確立されていますよね。
 僕の場合はバンドをやっていた経歴もあるけど、例えば今「光吉猛修ライブ」っていうのを開催したとしてもあまりインパクトもないし、興味を持って観に来てくれる人も少ない気がして。

 でも、人間の三大欲求の一つ「食欲」をそこにパチってつければ「光吉のライブは微妙だったけどメシはうまかったよね!」ってなるかなと。
 とはいえライブが微妙じゃダメなので、勿論そこでもご満足頂けると信じていますが(笑)。

祖堅:
 なるほど(笑)。

──ライブに食事を組み合わせることで来てくれた方たちの満足度を上げようという狙いだったんですね(笑)。

光吉:
 そうなんです(笑)。あとはこういう衣装を着たかったんですよ。それでエルビス・プレスリーのような衣装をリクエストしたらスタッフが乗り気になってくれて、社内ディナーショーで用意してくれました。

 あとは「ディナーショー」って響きがちょっと古いけど「え、何やるの!?」って気になるじゃないですか。
 それでゲームミュージックのディナーショーってわけわかんないんですけど、そういうところで僕はしっくり来ていたんで、「いいかも!」っていう風に言い続けていたんです。

──それも、先ほどの話にも出てきたギャップにもつながる部分ですね。

光吉:
 そうですね。ちなみに僕、ディナーショーって1回も見たことないんですよ。
 でも敢えてディナーショーを観たことがない人が作る新しいディナーショーっていうのも、ゲーム会社っぽいかなって(笑)。

──考えてみると、ゲーム業界の方でディナーショーを開催された方っていないですもんね。すごい企画だなって改めて思いました。

光吉:
 急いでやらないと、佐野電磁さんあたりがやっちゃいそうだったしね(笑)。佐野さんは地上波に出る可能性が一番高いゲーム業界のサウンドの人間だと思っているので(笑)。

『FFXIV』のファンフェスティバルでロックコンサートの提案をしたらTHE PRIMALS結成につながった(祖堅)

──続いて祖堅さんのバンド活動についてお聞きしていってみたいんですが、元々学生時代からバンド活動されていたんですか?

光吉:
 それ聞きたい!

祖堅:
 音楽活動の一環として学生の時にバンド活動をしていました。パートは鍵盤だったんですが、知り合いから「ディープ・パープルのコピーやりたいんだけど鍵盤いないからやってくれ」みたいな感じであちこちのバンドでサポートメンバーとして参加していましたね。

 元々はピアノとエレクトーンを小さい頃からやっていたんで鍵盤が主なんですが、次第にDTMに移行していって、その頃はまだギターが弾けないので、曲を作る時にギタリストを呼ばないといけなかったんですね。

 で、こうしてほしいああしてほしいって伝えて、トラックを作っていくんですけど、段々めんどくさくなってきちゃって。思っていることもなかなか伝わらないし、発想が浮かんだ時にすぐに入れたいのに、まず電話して「来れる?」みたいな。

 それで自分でギター弾けたらこのめんどくさいのが解消できると思って、始めたんですよね。だからDTMがきっかけなんです。

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──DTMがきっけかでギターを始めるというのは珍しいケースのような気がします。

祖堅:
 最初はパワーコードしか弾けないところから始めて、教則本も見てなかったんで弾き方はほぼ独学ですね。
 で、もともとロックが大好きでフェスとかにもバンバン行っていたんですけど、その流れもあってTHE PRIMALSを結成することに繋がっていくんです。

 そもそもは『FFXIV』でファンフェスティバルをドデカいところで2日間やることになり、両日最後の締めは音楽コンサートで締めたい、という企画が上がったんです。最後を音楽で締めれば流れ的にイベントが終わった感ありますし、満足度も上がるので。

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ファンフェスティバルの様子(画像は思い出 | FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2019 in TOKYOより)

 取り回しが良くて、お金がかからない形で何とかしてくれと言われていたので、そこで思い付いたのが、じゃ1日目はピアノのコンサートでしっとり美しく音楽を楽しみ、2日目はロックのライブで激しく熱く音楽を楽しみましょうと。
 そうすれば対比がついてギャップが生まれますし、オーケストラを連れてくるよりもコストがかからないので少人数でできると提案したら、「ぜひやってくれ!」と。

 それがきっかけでTHE PRIMALSが結成されたんです。

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THE PRIMALS

光吉:
 ちなみにTHE PRIMALSのメンバー構成はどのような感じで集められたんですか?

祖堅:
 メンバー全員が社員ではなく、ギター、ベース、ドラムの3人はプロの方です。で、僕ともう一人、マイケル・クリストファー・コージ・フォックスという英語がネイティブの社員という構成でバンドとして動いています。
 そんな状態でありながら、2018年はZEPPツアーを開催したり……。

光吉:
 THE PRIMALSは海外にも行っているじゃないですか。そういうのを見て「いいなあ」と思って(笑)。

祖堅:
 いやいや、ちょっと聞いてくださいよ光吉さん。
 『FFXIV』の海外出張ってスケジュールがキツイんですよ。日本出て夕方に向こう着いたらそのままリハして、夜中までガチャガチャ準備して、朝8時にロビー集合ですよ。

 しかも会場のスクリーンでPVを流すとか、ライブ以外の準備や調整もサウンドデザイナーとしてやらないといけなくて、やっと終わったと思ったら午後からはゲネプロやりますとか、むちゃくちゃハードなんですよ。

 それでずーっと出っぱなしで、諸々終わった夜中の1時ぐらいにメシ食って、翌日また朝の8時から動いてっていう。一日中立ちっぱなしだし、慣れない仕事して足はプルプルしている上に、その遠征の一番最後にブワーってバンドライブやる感じなので、ライブ始める前はもうボロボロですよ(笑)!

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光吉:
 でもライブが終わって翌日1日くらいは遊んだりできる時間があるんでしょ?

祖堅:
 ないんですよ! もう帰るだけですよ! だから飛行機の中で完全に棒になっています(笑)。

光吉:
 あ、そうなんですね(笑)。でもある意味ミュージシャンっぽいですよね。

──ロックスター的な(笑)。

祖堅:
 いや、ロックスターは終わった後1週間ぐらい遊ぶじゃないですか(笑)! ないんスよ!!

光吉:
 そこは都合よく社員なんですね(笑)。

祖堅:
 そうなんスよ! だから僕は今日そのことを話したくて(笑)!

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──(笑)。光吉さんもS.S.T.BANDで活動されていた頃は同じくらいのレベルの多忙さだったと思うんですが、いかがでしたか? ツアーは週末に組まれると思うんですけど、平日は会社員としての業務もありますし。

光吉:
 後期で言うと[H.]をやっていた頃は仕込みが大変で、アレンジを社内でやらなきゃいけない上に通常業務も乗っかってくるので、それが割としんどいことが多かったですね。

祖堅:
 やっぱりゲームサウンドクリエイターだから、本業をおざなりにはできないですしね。だから、バンド関連の作業となるとどうしても空いた時間になっちゃうんですよね。

──社内で編成されたゲームミュージックバンドで活動されていた方に話を聞くと、だいたい同じ答えが返ってきますね。

祖堅:
 もっとやりたいってのは山々なんですよね。お客さん側からも「もっとやってくれ」っていう熱量が凄い。でもどうしてもね……。優先すべきはゲーム制作ですし。

──でもライブもあれだけ盛り上がって、CDも沢山売れているので、もっとそっちに時間とお金を掛けようって展開になりそうな気もしますけどね。

祖堅:
 ないです!

光吉:
 でもプロモーションビデオは社内の方々の協力があったんですよね? すごくかっこよくてびっくりしました。

祖堅:
 あれはうちに音楽出版の部隊がいるからなんですよ。そこは少しセガさんとは違っていて、音楽を売る部署があるので、そこがプロモーションとして作ってくれたんです。

 ちなみにオリコンで3位取りましたって聞いても「おおーすげえなー!」とは思うけど、それ以外に変わったことはないですね(笑)。

──でも会社員でありながらもミュージシャン的な立ち位置みたいなものも味わえるって、考えてみるとすごい状況ですよね。

祖堅:
 どうなんスかね。光吉さんは当時どうでしたか?

光吉:
 武道館とか中野サンプラザとか、個人ではなかなか立てないステージに立たせてもらえたなっていうのはありますね。
 そこはやっぱり社内のサウンド部署での仕事がメインであってこそ、その派生でバンド活動ができて、CD作ったり歌ったりできたのかなって思いますね。

祖堅:
 あと、組織に所属した上で、ゲームデザインやサウンドデザインをやるっていうのは、大きなものを動かせるメリットがありますよね。そこは個人と違っていい部分だと思います。

──S.S.T.BANDを始めとして、当時の若いゲームファンから支持されてゲームミュージックバンドのブームが起きましたけど、祖堅さん率いるTHE PRIMALSはゲームミュージックバンドの新しい形というか、当時の思いを受け継いでいる部分もありつつ、全く新しい時代のゲームミュージックバンドという雰囲気を感じます。

祖堅:
 確かに、時代が回っている感じがするし。その流れが来ているのかなっていうのは感じますね。

 ちなみに楽曲作りに関しては、ゲームを作っているときはゲームのことしか見ていないですね。
 最優先はゲームに合うか合わないかで、THE PRIMALSのことはあんまり考えていなくて、後から「これTHE PRIMALSでやったらカッコイイんじゃないですか?」と言われて「たしかに面白いかもしれないね」と思うみたいな感じなので、完全に切り離して考えています。

 それでTHE PRIMALSでやるとなったときは、自分のカッコイイと思うロックのスタイルを表現している感じです。

光吉:
 こういう言い方して正しいのかわかんないですけど、THE PRIMALSってゲームミュージックバンドっぽくないんですよ、いい意味で。僕、最初にTHE PRIMALSを知った時に「祖堅さんに何が起きたんだろう?」って思いましたもん(笑)。僕にはそういうふうに見えたんですね。

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 僕もディナーショーやったり、ゲーム音楽で歌っていたりしますけど、昔はもっと違う感じでクールに行きたかったと思うこともありますよ。

祖堅:
 実はわざとそうしています。

光吉:
 やっぱそうですよね。いやー、実は僕もそういうのをやりたかったんですよ。

祖堅:
 やったらいいじゃないですか!

光吉:
 まぁそれがディナーショーという(笑)。もちろんゲームの音楽を歌うんですけど、ゲームじゃないところでなんかこう……もっと違う見せ方をしたかったんですよね。

祖堅:
 でも凄くわかります。ゲームミュージックのコンサートという見られ方で興行すると、来て頂けるお客さんに満足してもらえる内容には持っていけるんですよね。
 でも他の方からはゲームって言うと身構えられることもあるので、ゲームミュージックって実はすばらしい一大エンターテインメントなコンテンツなんですよっていうのを、知らない人にもわかってほしくて、そういう見え方をしようとしているんです。

 だって、今ゲームサウンドってすごいじゃないですか。僕の個人的な意見ですけど、いろんな娯楽ってあるなかで、ゲームサウンドってずば抜けてすごいと思うんですよね。
 映画よりもすごいって思っています。インタラクティブだし。圧倒的だし。

光吉:
 ゲーム音楽って刷り込みが圧倒的ですよね。
 映画で聴く音楽で印象的なのもありますけど、ゲームはちょっと違いますよね。刷り込まれている感じが特に。

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祖堅:
 映画だと一方通行っていうか、受け手側がひたすら受けている。でもゲームは自分で操作しているから、ゲームサウンドが動いてく様が自分の中に入ってくる。そこがちょっと違いますよね。印象が全然。

 だから歌なんかまぁ刷り込まれますよ! 当時、絶対プレステじゃなくてセガサターン買おう! って思いましたもん(笑)。

光吉:
 いまの太字でお願いします(笑)。

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