セガを受けた時に自己アピール欄に大きく「セガ」と書いた(祖堅)
──お二人ともサウンドクリエイターとしての幅が広いというか、その上でセガさんとスクエニさんそれぞれのサウンドスタッフの中でも異端という印象を受けるんですけど、周りから見られる印象ってどうですか?
祖堅:
光吉さんは普段、社内のサウンド室で机に座ってカタカタとお仕事されてらっしゃるんですか?
光吉:
もちろん、やっていますよ。さっきまで普通にエクセルでデータ入力していました(笑)。サウンドの仕事も普通にしています。
祖堅:
(同席していたスクウェア・エニックスのスタッフを見ながら)あ、僕は勤怠、明日出しますんで(笑)。
それでセガさんのサウンド室の様子ってどうなんですか? 例えば光吉さんだったら現場で若い社員に「おーい!」みたいな(笑)。
光吉:
「おーい」とは言わないですよ(笑)。もちろん僕は指導する立場ですが、管理職というよりはクリエイターのリーダーみたいな感じですね。
若い子が困ったことがあって相談しに来たら、今までの経験から「こうしたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしたりとか。祖堅さんもやられていると思いますけど、そういった立ち位置ですね。
祖堅:
光吉さんがさっきおっしゃっていたようにこの世界、曲作って終わりじゃないし、メモリの管理や組み込みもしなきゃいけないし、たくさんの人と折半しなきゃいけないしで、けっこう特殊な仕事というか、どっちかというとアーティストというよりも職人の世界じゃないですか。
そんななか、現場でバリバリやっている人の存在を見せられることは説得力があるし、若い人も信頼してくれるというか。結果出してなんぼの世界なので、その役を今やっているという感じですね。
そういう意味では光吉さんと同じだと思います。
光吉:
なるほど。ちなみに祖堅さんは人事採用にも関わったりするんですか? 例えばサウンドの人間にこういうのを採りたいとか。
祖堅:
関わっていますよ。
光吉:
僕はちょっと前までやっていて、今はやっていないんですけど……。
祖堅:
本当ですか! あの、その話で言いたいことがあるんですけど……実は僕、セガさんを受けたことあるんですよ(笑)! で、その時にやべぇー履歴書を出して。
光吉:
えぇ(笑)! ちなみに何年ですか?
祖堅:
たしか1990年代の後半で、ドリームキャストがギリギリ出てないぐらいだった気がします。
光吉:
あー、それぐらいだと僕はまだ採用の担当じゃなかったですね……。なんでセガは採らなかったんだろ(笑)。
祖堅:
書類は通ったんですけど、二次面接前の書類に「自己アピールしてください」っていう自由欄があって、そこに筆で大きく「セガ」って書いて出したんですよ。
光吉:
それで落ちちゃったんですか? えー!
祖堅:
でも今自分が人事採用もやっているんですけど、そんなのが来たら弾いちゃいますよね(笑)。
光吉:
それでも昔のセガならワンチャン入れた気がするな(笑)。ということはデモテープなんかも送られた感じですか?
祖堅:
確か、送ったと思います。
光吉:
サウンドですよね。ちょっと探してみようかな(笑)。
祖堅:
やめて~(笑)! 捨ててください(笑)。
──ある意味前衛的ですね……(笑)。
祖堅:
音楽と全然関係ないことしちゃいました(笑)。でも当時は目立てばいいやと思ってやってしまったんですよね。
光吉:
ある意味正しいですよ。僕も「なんで君はセガに入りたいんだね」って当時の常務に聞かれた時に「S.S.T.BANDをやりたいです!」って答えましたからね。
時代的にもバブルの頃だったんで採用されたのかもしれないですけど、そこで自分を覚えてもらうことって大事ですよね。
そうそう、人事採用を担当する中で「こんな人間を入れたい」って思っていることはありますか?
祖堅:
いい意味でバカな人間が欲しいですね。曲や効果音を作ることは教えられるけど、仕事はそれだけじゃないですからね。
遊び心がわかって視野が広い、そういういい意味でバカが欲しいですね。
光吉:
固定観念というか先入観がない人がいいですよね。
僕、今はもう人事採用はやってないんですけど、それでもセガのサウンドにどんな人が来てくれたらいいのかなって考えることがあるんです。
自分としては前例のない音作りを目指している時点でいい意味でバカと思っていますし、振り返ってみれば今までそうやってセガらしさを表現してきたとも思います。
それだけに他社さんの採用基準についてはクリエイター目線でどう思われているのか気になっていたんです。
祖堅:
やっぱりゲームを作っているので、遊びがわかる人じゃないとダメですよね。面白がってくれる人。そこが大事ってことなんだと思います。
光吉:
例えば昔の話で、開発室でラジコンを走らせたり、キャッチボールしたりとかね。
周りにゲーム基板があるのにダメだろうって話なんですけど(笑)。そういうことを散々やってきたんですよね。
それがいいかどうかはさておき、その中で生まれるクリエイティビティが今もあると思っているんですよ。
祖堅:
紙一重のやつですね(笑)。
光吉:
そうそう(笑)。そういうギリギリのとこにある楽しさのエッセンスを体で感じるみたいなね。
そういうことができる人が結果的に自由な発想に繋がるのかなぁって思ってます。
祖堅:
大企業になればなるほど、そういう部分って見えにくくなりますよね。
光吉:
また深い話になるんですけど、我々の仕事ってノウハウがどんどん貯まるじゃないですか。会社側はそれを他のサウンドスタッフにも伝承というか残していってほしい、みたいな話があると思うんです。
そのあたり、祖堅さんはどう考えられていますか?
祖堅:
僕は教えるのも伝えるのも下手なんですよ。だから基本的に結果主義で、とりあえず現場に連れてきて自分が働いているところを見せて「吸収してくれ、わかんないことがあったら聞いてくれ」 って言っています。
でも今の時代それだけじゃダメなことはわかっているんですけどね。
光吉:
ぼくも実際そうだったんですよ。とはいえ僕ら人間だし、無茶もしているし体調壊すときもありますよね。
で、自分もダメな時に“自分以外の人間が、自分と同じパフォーマンスを出さなきゃいけない”環境を作ることも考えなきゃいけない、っていう話もあると思うんです。
先ほどの採用話もそうなんですけど、今僕はそういう立場にいるんですが、さすがに「歌を歌える社員を作れ」って話も無茶だと思うんですよね。
とはいえもっと真剣に考えなきゃいけないのかなとも思っていて、他のクリエイターさんがどう考えられているのか興味があるんです。
祖堅:
それこそいい意味でバカになれる人がこの仕事に向いているのかもしれないですね。
僕らは職人の世界だから「これがこうでこれがこう」っていう方程式はないじゃないですか。だから経験してもらうしかないんですよね。
光吉:
難しいですよね、感覚を教えるってのはほぼ無理ですもんね。
祖堅:
無理ですね。規模の大きいものから小さいものまでいろいろあるし、一人でやるのかチームプレイなのか、外部を使うのか中だけなのかとか。
それだけならまだいいですけど、それをどう料理してゲームに落とし込んでいくかって、もう感覚でしかないですからね。
光吉:
その状況になった時に祖堅さんのような考え方ができるかどうかとか、要はそういうことなんでしょうね。
相手も人間だし、逃げ方を知らないとついて来れなくなっちゃうこともあるだろうし。
祖堅:
ほんとそれなんですよ。自分なりのガス抜きの仕方ができる人じゃないと……っていうか出来る人がいいな。採用時はそこも含めて、人を見て採ることができるといいなと思っています。
──色々お話を聞いてきて改めて思うのは、祖堅さんがTHE PRIMALSというバンドをやっていることになんだかすごいセガスピリットみたいなものを感じます。
祖堅:
本当ですか!? それは嬉しいですね。
光吉:
ホントカッコいいですよね。僕もああいう感じでやりたかったなあ(笑)。
祖堅:
やめてくださいよ(笑)。僕の持つ光吉さんのイメージからどんどん外れていくのはやめてください(笑)。
歌が入ることで伝わりやすくなったなって思った時、ボーカリストも続けていきたいと思った(光吉)
──次はお互いボーカリストとしての話を聞いてみたいんですけど、光吉さんは歌うゲームミュージックコンポーザーのパイオニア、祖堅さんも現在はTHE PRIMALSでボーカルもされています。歌うことについてはお二人ともいかがですか?
祖堅:
さっき光吉さんもおっしゃっていましたが、僕の場合もとりあえず仮で歌を入れて、実装して、気がついたらそれがそのまま完成版のデータになっちゃったっていう流れなのが始まりなんです。
光吉:
あ、同じなんですね(笑)。
祖堅:
なので、僕の場合どっちかって言うとボーカルをやりたいからって意識はひとつもないんです。むしろ困っています、くらいの感じですね(笑)。
光吉さんは歌が上手いからいいですけど、僕は上手くないので録った後も結構修正したりしています。
光吉:
それは僕も一緒ですよ。ゲームサウンドクリエイターの方って傾向としてあると思うんですけど、まず最初に修正ありきな部分が結構あると思うんですよ。
だから後で加工することを前提に、ある程度勢いで録っちゃう。
祖堅:
アニメとゲームの決定的な違いってそこなのかなと。アニメの現場だとその場でニュアンスまで全部録り切るっていう。だから掛け合いもするし。
でもゲームサウンドはボイスとかも割とスポットで録るじゃないですか。ニュアンスが違ったら後で直せばいいやってなりますよね。そっちの思考のほうが働いちゃうんでしょうね。
光吉:
素材を録っているって感じなんですよね。
祖堅:
どっちがいいとか悪いとかでもないけど、ゲームサウンドならではですよね。
光吉:
だから音はなるべく響かないように録る。後から加工しやすいように。
祖堅:
ゲームミュージックの鉄則ですよね。これは後でアレンジしろと言われそうだから、できるだけデッドで録ろう、みたいな。
──楽器から入る方って歌うことに抵抗あるイメージがあって、そのせいか音楽を作るコンポーザーの方も歌うことに抵抗があるって思っていたんです。それでもドンとフロントに立って歌われているっていうことは、むしろボーカルをやりたいっていう思いが強かったからなのかなっていうのが、僕が勝手に抱いていたイメージで(笑)。
光吉:
でも、確かに僕は元々歌うことが好きでしたね。
自分が歌手になりたいとか、CDを出したいっていうことではなく、普通にアニソンが好きで子供の頃からテーマソングを口ずさんだりしていましたし。
ちなみに出身中学が合唱活動に熱心な校風だったんですね。朝、給食の前、放課後と1日3回。
そのルーチンで「箱根の山は~」って歌うわけですよ。それを3年間ずっとやらされていたんです。後から考えるとそれがある意味ボイトレになっていたのかなって思うことがあります。
学生時代は合唱で歌うことの楽しさがあったり、大きな声が出せるようになったみたいなのがあって、歌うこと自体に抵抗はなかったんです。
抵抗があったのはレコーディングですね。広い収録ブースに置いてあるマイクの前にひとりポツンと立たされ「歌録りまーす」と言われて前奏のカウントが聞こえてきて……あれは緊張しましたね。
『デイトナUSA』のアルバムを制作する時の話なんですけど、録った声を自分で聴くと全然ダメダメで。ワンコーラス録って戻ってきたらレコーディングプロデューサーの方から一言「あーこれ、売り物にならないね」って言われて(笑)。
そこで心が折れて「やっぱ歌ダメだな……」ってちょっと落ち込みましたね。
でも『デイトナUSA』の後にも『バーニングレンジャー』や『バーチャファイター』のアニメ版主題歌を歌ってほしい的な話が入ってきてボーカリストとしても活動していくうちに、そっちのほうも楽しくなってきてね。
自分の音楽に歌が入ることによって、より強く音楽が伝わりやすくなったなって思うようになったし、これはボーカリストも続けていってもいいのかなって意識に変わっていきましたね。
──中学時代の合唱がボイトレになっていたかも、という話がありましたが、お二人は歌うために何かトレーニングをしているんですか?
光吉:
基本的にはやってないですね。だから僕、ガラスの声帯って言われていて(笑)。すぐ声が枯れちゃうんですよ。
そんな中、四十になって空手を習い初めまして……。そこに呼吸法というのがあるんですけど、結果的にそれが腹式呼吸の練習にもなっていたみたいで。
この年になって、若いころよりも楽に歌えるようになりましたね。本当にそれぐらいです。
祖堅:
僕も何にもしてないですね。『FFXIV』のファンフェスティバルって日本でも海外でも2日間やるんですが、ステージに立たない間はお客さんがたくさんいる会場にポーンと放たれて、ファンの方々と交流してるんですよ。
それでファンの方とずっと交流するんですが、お客さんたちは本気で気持ちをぶつけてきてくださるので、我々も本気でそれに応えるんですね。
それが5、6時間とか続いたボロボロの状態でステージに立つので、きっとそれで鍛えられたんでしょうね(笑)。
もう声も枯れ枯れですよ。だからマラソン選手が吸う栄養剤みたいなものをチューって吸ったり、足がつった時には漢方薬を飲んだり。でもそれって前借りらしくて(笑)。
光吉:
疲れているのはそれが原因かもしれませんね(笑)。
祖堅:
そうかもしれませんね(笑)。
──そうやってお互いボーカルを披露するようになったことで、そこに対する反応も増えたのではと思います。特に光吉さんはアニメ版『バーチャファイター』の主題歌『愛がたりないぜ』なども歌われていましたし、かなり広い範囲の人にその歌声が聴かれた実績があります。
光吉:
おっしゃる通りで、僕の場合けっこうわかりやすいんです。
たぶん、僕は歌を歌っていなかったら、S.S.T.BANDなどのインストのゲームミュージックバンドをやっていたころのユーザーさんと一緒に年を取って、いわゆる自分のサウンドの……あえてファンって言い方をしちゃいますけど、ファンの方の年齢の空洞化って言うんですかね。
要は若い方たちからすれば「あのメガネのおじさん誰?」みたいな感じになっていたと思うんですよ。
でも音ゲーの曲を歌う仕事をたまたまやったってこともあるんですけど、今どきのサウンドクリエーターによって作られた音楽がたくさん入っている音ゲーで、例えばレベッカの『フレンズ』を歌ってみたりとか、『美少女戦士セーラームーン』の主題歌である『ムーンライト伝説』を歌ってみたりしていく中で、今どき世代のクリエイターにとって光吉がゲームサウンドクリエイターっていう認識はあまり無い気がするんですね。
セガの音ゲーの曲で歌っているおじさんみたいな感じだと思うんです。
でもそれによって、僕がS.S.T.BANDをやっている頃に音楽を聴いてくれていたファンから下にバーッと年齢層が広がりましたよね。でも年代ごとに僕を見ている認識がちょっと違うっていう、ちょっと面白い現象になったなって思います。
たぶん祖堅さんもTHE PRIMALSで歌を歌われるようになったことで、ちょっと違うファン層が出来ているんじゃないでしょうか?
祖堅:
『FFXIV』ってMMORPGと呼ばれるネットワークゲームなので、新規のお客さんがいつでも入ってくるのが望ましいタイトルなんです。
「こういうゲームなんですよ」って紹介すると興味を持ってくれるお客さんはたくさんいらっしゃるんですけど、新規となるとその枠を超えてお客さんを引っ張ってこないといけないんですよ。
その時に自分が出来ることとしては、さっき光吉さんがおっしゃったように「ゲームクリエイターがやっているバンドに見えないよね、なんかアーティストっぽいよね」ってことをすることによって、「カッコいいバンドがいるなぁ、何あれゲームの曲を演奏しているんだ、どんなゲームなんだろう」って興味を持ってもらって。
今まで全然ゲームと接点のなかったお客さんの畑を開拓してみたいな、ってことでやっているんですね。
なおかつすでに遊んでくださっているプレイヤーの方たちには、ゲーム内で体験したあの興奮をバンドの奏でる音に乗って再度エキサイトできる音楽体験を届けられる。いわば一石二鳥ですね。
今まさに、それをひたすらに、がむしゃらにやっている最中なので、まだ変化というか、違うファン層が出来ているなっていう感じは僕自身にはないんです。
──今まで全然ゲームと接点のなかったお客さんの畑を開拓するとのことですが、祖堅さんはどういった経緯でボーカルをやることになったんでしょうか。
祖堅:
そもそものきっかけは、『FF』ってシリーズおなじみの召喚獣がいるじゃないですか。僕の担当している『FFXIV』ではいわゆる召喚獣戦でボーカル曲を印象的に入れている感じにしているんですね。
節目というか、そのバトル体験をマキシマムにしたいと思って。
で、たまたま「リヴァイアサン」っていうボスと対峙するときの曲を作るって時に、「こいつは水系だから女性ボーカルだな」と思ってガーっと作ったんですね。
曲は激しいロックなんだけど歌は美しい女性ボーカルっていうイメージで仕上げて実装したら、締切直前にプロデューサーから「あれなんで女性ボーカルなの?」って言われて、理由を説明したら「違うんだよなぁ、女性じゃないんだよなぁ」って(笑)。
そいつ、うちの吉田直樹っていうんですけど(笑)!
「それを今言うかよぉー!?」みたいな。しかもタバコ部屋で(笑)。
光吉:
タバコ部屋あるあるですね(笑)。
祖堅:
「何とかならねぇか」って言うから、「なるわけねぇけど何とかするわ!」って言って、そしたらもう自分で歌うしかないじゃないですか! いまからボーカル手配するわけにもいかないし。
それで自分で歌って入れたら「いいじゃんこれ!」ってことになって。
そのまま現在に至るって感じなんですよ。もうなし崩し的に(笑)。
──ちなみに祖堅さんはこれまでボーカリストでステージに立ったりレコーディングして音源化したりっていうことが全くなかった感じなんですか?
祖堅:
全くないですね。
──それなのに、あんなに大きいステージに立ってしかもレコーディングもしてっていう展開に進展してしまっているってすごいですよね。たった1回、たまたま歌ったことがきっかけになって。
祖堅:
まぁでもライブではお客さんがワーッて力をくれますからね。
光吉:
いい意味であきらめるっていうか(笑)。
祖堅:
ステージに上がったらやるしかないですもんね。帰るわけにいかない(笑)。
ロック的な熱さを追求するのが自分らしさだと思う(祖堅)、自分の声を作品に必ず入れることで爪痕を残したい(光吉)
──サウンド制作についてもお伺いしたいのですが、それぞれお互いのサウンドに自分らしさを感じるようになったのはいつ頃ですか?
祖堅:
僕は自分らしさっていうのはちょっとわからないですね。でも最終的には自分の中で心が震えるか震えないかなので、そこで判断しています。
方程式っていうのはないです。それが自分らしさなのかもしれないです。
──ロック的な熱さを追求している。音楽的にはロックじゃないとしても。
祖堅:
そうですね。燃え上がれるかどうかみたいな。それは別にギターサウンドじゃなくても、クラシックでも、ゲーム体験に対して燃え上がれるかどうか。
PV1個に対しても、SEのつけ方に対しても、心が震えるかどうか、カッコいいか悪いかで判断していますね。
光吉:
尺度はありますよね。自分で作って聴いて「カッコイイ!」って思えるかどうかっていう。
祖堅:
でも色で言うと僕もオールジャンル、ノージャンルで曲を書くタイプなので、全然色はないかもしれないですけど、最終的なジャッジだけはこだわっているかなって感じですね。
光吉:
僕は、たとえば何らかのプロジェクトにアサインされた時に必ず決めているのが、どういった形でもいいから作品内に自分の声を実装するっていうことです。
以前はそういう意識はなかったんですが、結局自分の歌や声によって少しでも光吉が作ったサウンドだっていうものに聴こえて、それによって自分の爪痕を残すっていう。
それが光吉のサウンドデザインっていう認識になったらいいのかなって思いはありますね。
祖堅:
確かに光吉さんの声は聴けば一発でわかりますからね。しかも、コーラスっていうよりかはメインボーカル向きなんですよね。
光吉:
どんなにユニゾンされても自分の声が出てきちゃうっていう(笑)。
祖堅:
混ざらないですよね(笑)。
──光吉さんは音楽的にはけっこうテクニカルというか、バンドをやられていた時のイメージかもしれないんですけど、そういったサウンドが好きで、それが光吉節みたいになっているのかなと思うこともあります。
光吉:
そうですね。音楽的なベースはフュージョンなどのインストゥルメンタルなので、それはあると思います。
でも、これも祖堅さんと似ているのかもしれないけど結局アウトプットするジャンルは何でもよくって、それをお客さんに喜んでもらえるのであればいいと思うんです。
ただ、ベースとして持っている手クセはフュージョンが元だったりするんで、そういうところから来るフレーズは出ちゃうかもしれないんですけど。でも大きく見た場合はあんまり関係なくて、幸いなことにセガでもいろんなタイプの曲を作ることができていて(笑)。
そういえば「続きぃぃeeeee!電脳HUMAN」(テレビ東京)の撮影時に祖堅さんの話題になり、「何でもやる人」とお聞きしたときにスクエニさんでそれは珍しいなと思ったんです。
祖堅:
社風はありますよね。うちは作業をセパレートして効果音は効果音、ボイスはボイス、曲は曲で分業しているんですが、それはやっぱりRPGのタイトルが多かった歴史があるからだと思うんです。
RPGは大量のアセットが必要ですし、BGMも何十曲も必要だし、ボイスは何万ファイル、SEは映画何本分みたいな量が必要になるんで、分業することによってRPGが作りやすい社風だったんで、たまたまそうなっている。
でも僕は元々スクエニ以前に所属していた会社でアーケードを手掛けていたので、一人で何でもやれるっていう。
光吉:
なるほど。僕の祖堅さんの印象はサウンドデザイナーでありながら人と人を繋ぐディレクター的な人にも見えて。でも見た目はロックっぽいし、不思議な印象を受ける方でしたね。
そう思っていたら急にTHE PRIMALSでミュージシャンにもなられて、ますます僕の中で不思議な印象が強まったんですが、いい意味で「ゲーム業界っぽくない」要素をお持ちの部分が魅力的だと思いました。
祖堅:
でも僕のスピリットの根本は、やっぱり光吉さんが手がけられたサウンドデザインなんですよ。本当に凄く影響を受けていて、これいつも持ち歩いていますからね。(サターン版『デイトナUSA』を鞄から取り出す)
背表紙まで取っているんですよ! 自分のCDの背表紙なんてすぐポイッ!ってしちゃうのに(笑)。
しかも3枚持っていますから。保存用、プレイ用、CDで聴く用で。
光吉:
なつかしい! これ『デイトナUSA』のサターン版じゃないですか。
これの僕の思い出はカラオケモードですね。当時、けっこう無理言って入れてもらったんです。文字が出てくるやつ。
カラオケみたいにしてくれってちょっとわがまま言って。それが一番の思い出ですね。
祖堅:
「ローリングスタート」って始まるじゃないですか。一番最初にディスク入れてプレイしたら「あれアーケード版と違う! キレイになっている!」って。
それが、けっこうユーザー同士の間で論争になったんですよ。「こっちのほうがカッコいいじゃん」、「いやそうじゃねえよ」みたいな。
光吉:
僕としては「これがやりたかった」っていう形が、ちゃんとレコーディングしたものなんですよね。でも、そうではないオリジナルのものが良いという気持ちもわかります。
祖堅:
僕はちゃんとその光吉さんの意図を汲んで「こっちのほうがカッコいいじゃん」派でしたよ(笑)。擦り切れるぐらいCDを聴きました。
あと研究も沢山させてもらいましたね。やっぱり技術が詰まっているんですよ、これ一枚とっても。
いつCDのデータを読み込んでいるかとか、セガのハードはアクセスランプがあるんで分かるんですよね。
となると、消えているときは何やっているんだろうって気になって……まぁ開けるッスよね(笑)。
それでここで音が切れているから、このタイミングでデータを読み込んでいるんだ、というのが分かってくるんですよ。学生ながらにそういうことをやっていました。
光吉:
僕もプレイステーションでやっていましたね。「まだ音が鳴ってる! ロードはこのタイミングじゃないんだぁ!」って(笑)。
祖堅:
そのまま読み込んでいるんじゃないんですよね(笑)。
光吉:
そうそうそう!
──光吉さんの場合、それはやっぱり研究のためにやられていたんですか?
光吉:
やり始めは当然研究のためなのですが、たとえば『バイオハザード』とかは普通に面白くて後半はガチで遊んでました(笑)。
当時『シェンムー』を作っていたんですけど、似たゲームがあるなとプレイしたら、「なんだこれ面白いな……」って。
一応、ちょいちょい「ああ、ここはこうなっているんだ」みたいなことを分析している体でつぶやくんですけど、たまに「あ゛あ゛あ゛~」って悲鳴を出してしまったり(笑)。
一同:
(笑)。
祖堅さんにディナーショーに来てもらいたいな(光吉)、僕の関わるタイトルにボーカリストとして光吉さんを召喚したい(祖堅)
──光吉さん的には、祖堅さんのような方がセガファンでもありながら、バンド活動とかもされていて、刺激に感じる部分はありますか。
光吉:
やっぱりTHE PRIMALSのライブ映像などを観た時はカッコよくて悔しい思いをしましたよ。でも今日、自分がそこまで祖堅さんに影響与えているとは思ってなかったので、純粋に嬉しいですね。
祖堅:
だってあまり面と向かって言えないじゃないですか(笑)。
光吉:
会社の中で自分を目指してくれる人に出逢う率は意外と低いんですけど、自分が祖堅さんに影響を与えていたんだとしたらそれはもうクリエイター冥利に尽きますね。もういつ辞めても悔いはないというか(笑)。
祖堅:
ちょいちょぃちょい(笑)。
光吉:
もちろん冗談ですけど(笑)。
──さて、これで最後の質問になるのですが、今回こうしてお二人の対談が実現したわけですが、これをきっかけに祖堅さんが光吉さんとこんなことやってみたいなとか、逆に光吉さんが祖堅さんとこんなことできるかな、みたいなことを思われていたらお聞きしたいです。
ここは一旦、メーカーの垣根はナシにして(笑)。
光吉:
そうですね、まずは3月に銀座で開催する僕のディナーショーに祖堅さんにも来てもらいたいな(笑)。ステージ上で祖堅さんの紹介とかしてもいいですか?
祖堅:
え!? じゃ『デイトナUSA』の歌を練習しとこうかな(笑)。
光吉:
ぜひぜひ来てください(笑)。まずは親密度アップから始められればなと。そのうえでもし光吉コラボのお話があるようでしたら喜んで歌わせて頂きます!
祖堅:
いいんですか?
光吉:
二人で新しい世界を切り開きたいですよね。
──最近は音楽面でメーカー同士のコラボが活発ですもんね。
光吉:
そうですね。祖堅さんとは飲みの席が多いので、一緒にちゃんと仕事したぞー! みたいなね。そういうのもあると嬉しいですよね。
祖堅:
僕はやっぱり光吉さんをいちボーカリストとして召喚したいですよね。自分の関わっているタイトルに。
──そこで祖堅さんがバックでギターを弾くとかになったら熱いですね!
光吉:
よ、よければTHE PRIMALSのカッコいいビデオに出たりとかね!(笑)。
一同:
(笑)。
祖堅:
なので、まずは僕がセガさんに乗り込んで何かしたいのと、逆にこちらにもご招待するっていうのがそれぞれできればと思いますね。
その2つができれば、もう僕はゲーム業界を去ってもいいかな(笑)。それぐらい僕は多大な影響を光吉さんから受けているんで。
光吉:
ほんと嬉しいですね。ずっと言い続けることで時間を超えて実現することもありますよね。
周りが「そんなにやりたいんだ」って理解してくれる可能性もありますし!
祖堅:
じゃ念仏のように唱えます!(笑)
──本日はありがとうございました。
(了)
光吉氏が社内でディナーショーを開催するといったニュースに、祖堅氏が粋な絡みを見せたことで実現した今回の対談。祖堅氏の中に存在するセガスピリットが、セガオフィス内で、そして光吉氏の前で炸裂しまくったプレミアムな対談となった。
祖堅氏が現在所属して活動し、ファンに熱狂的な支持を受けている「THE PRIMALS」も、光吉氏が過去に所属していた「S.S.T.BAND」や「B-univ」がなかったら存在していなかったのではないかと思えるほどだ。
以前より見えない部分でその使命や歴史を引き継いでいるのではと感じていたことは、決して偶然や夢想ではなかったことが今回の対談ではっきりしたと言えよう。
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