世界1位──。
男なら、いや男でなくとも、一度は憧れるナンバーワン。トップオブトップ。ありとあらゆるものにナンバーワンが存在するこの世界。それはゲームにおいても同様だ。なかでも羨望の的となるのが、世界一のスピードだろう。
誰よりも早くゴールする。
陸上、水泳競技だけに留まらず、ナンバーワンを目指して、ゲームにおいてもスピードの速さは競われ続けている。弊誌読者には釈迦に説法になるが、RTA(リアルタイムアタック)というゲームプレイの文化がある。おもにゲームスタートからクリアまでのタイムを競うRTAでは、1分1秒1フレームのタイムを縮めるべく、日夜さまざまなゲームプレイヤーがタイムアタックに臨んでいる。
弊誌でもたびたびニュースをお伝えしているとおり、RTA関連の話題は尽きることなく、最新ゲームからクラシックゲームにいたるまで、さまざまなタイトルでそのスピードが競われているのである。
そんな中、RTAで盛り上がりを見せているのが『スーパーマリオワールド』だ。多くの方がご存知のとおり、1990年にスーパーファミコンと同時発売されたタイトルで、ピーチ姫を助けるためにさまざまなステージに挑むアクションゲームとなっている。『スーパーマリオワールド』のRTAカテゴリーは多岐にわたるのだが、ゲーム性を破壊するバグを禁止したうえでゲーム中に存在する96個のステージすべてを通ってクリアすることを条件とした“96exit”というカテゴリーにて世界記録を持つ日本人プレイヤーがいる。
クリアタイム1時間21分43秒。
新幹線で東京から名古屋に向かうあいだに全96ステージをクリアしてしまう凄腕プレイヤー。その名は“まいば”氏。2年前に弊誌でも記事を扱ったことがあるので、名前を聞いたことがある人もいるだろう。ステージを最速でクリアするために、あらゆるテクニックを駆使し、カテゴリーによっては“バグ技”も用いて記録を縮めていくRTAプレイヤーとは、どのような思考の持ち主なのか。緊急事態宣言が発令される直前の4月に、まいば氏に自身のこと、RTAのこと、そして人知を超えた『スーパーマリオワールド』のテクニックについて話をうかがった。
取材・文/リプ斉トン
世界でいちばん速く『スーパーマリオワールド』をクリアする男
──本日はよろしくお願いいたします。
まいば氏:
よろしくお願いいたします。こういったインタビューは初めてのことなので、お声がけいただいてうれしいです。
──まいばさんは現在、『スーパーマリオワールド』で、“96exit”で1位を取られていますね。
まいば氏:
そうですね。昔は“全城”(すべての城をクリアしつつゲームクリアを目指す。ショートカットであるスターロードは使ってはいけない)と“星なし”(スターロードを使ってはいけないのは全城と同じだが、こちらはすべての城を攻略しなくてもいい)”でも1位を取ったことがあるのですが、いまは記録が更新されてしまいました。
──ほかのカテゴリーでも1位を取ったことがあるんですね。
まいば氏:
“星なし”はそれほど熱を入れてプレイしていないので、「あんまりやりたくないなぁ」って思っています。
──それはどうしてでしょうか?
まいば氏:
本当に個人的な意見ですよ。“星なし”って中盤の「まよいのもり」のステージでひとつ山場があるのですが、そこに行くまでのルートがけっこう簡単なんです。道中が簡単なのに、中盤で運ゲーに挑戦して、ダメだったらまた簡単なルートをやり直して……というのが単調に感じてしまうため、個人的にはほかのカテゴリーのほうがプレイしていて楽しいんです。
※まよいのもりのコース1とコース2は、後述する“ウイング”と“角抜け”のテクニックを成功させることが“星なし”では必須となっている。
──なるほど。プレイしていて楽しいのが、“96exit”や“全城”なんですね。
まいば氏:
『スーパーマリオワールド』のRTAの中でメジャーなのは、“96exit”、“全城”というイメージです。“96exit”はプレイ時間が1時間20分を超える長丁場なので、日本だとそんなに流行っていない印象ですね。全ステージをプレイすることになるし、ちょっとのミスがタイムに影響してくるので、そういった意味では難しいカテゴリーなのかもしれません。
──いまは名実ともに、まいばさんはRTA界隈で超有名プレイヤーとなりましたが、RTAを始めようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。
まいば氏:
RTAのプレイヤーで、“でいすい”さんという方がいるのですが、でいすいさんのニコニコ生放送でのプレイを見たのがRTAとの出会いでした。そのときはでいすいさんが『スーパーマリオブラザーズ3』をプレイしていたのですが、あまりに正確な動きに、「TAS【※】がプレイしている」と思っていたんです。
※ツール・アシステッド・スピードラン、ツール・アシステッド・スーパープレイの略。エミュレータなどのツールを駆使して作成された”人間離れ”したタイムアタックプレイを指す。
──たしかに、うますぎるプレイは、知らなければそう見えますよね。
まいば氏:
TASだと思って見ていたら、じつは人間がプレイしていると知って、びっくりしました。同時にすごくおもしろそうなゲームプレイだなと思って興味を持ったのが最初ですね。
──それでプレイしていくうちに、自分自身がTASになってしまったと。
まいば氏:
そうですね(笑)。
──プレイを始めたのは、何年前からなのでしょうか。
まいば氏:
配信活動を始めたのは2018年からですが、RTAのプレイはそれ以前からもひっそりと行っていました。『スーパーマリオワールド』のRTAは練習はしていたものの、それまでは完走したことはない、という感じです。
──そんな最近から!? 短期間で頭角を現していったのですね。かなり高いモチベーションを持ってプレイされていると思うのですが、そのモチベーションはどこから湧いてくるものなのでしょうか。
まいば氏:
たしかになんででしょう……。自分は最初にRTAをプレイしたのが『スーパーマリオブラザーズ3』の“笛なし”(ワープアイテムの笛を使わないでクリアを目指す)カテゴリーだったのですが、このカテゴリーで1時間を切るというのが目標でした。めちゃくちゃプレイしたんですけどなかなか記録が出せなくて、59分という記録を出したときは本当にうれしかったんです。
──ゲームをやり込んだからこその感動というわけですね。
まいば氏:
でも、改めてそのプレイを見てみると……「うーん、そんなに早くねぇなぁって」。
──満足できなかったと(笑)。
まいば氏:
見返すと「ここミスっちゃったな」とか、「ここはもっと改善できないか」と考えるようになって……。
──RTAの沼にハマってしまったと。
まいば氏:
沼(笑)。まさにそうですね(笑)。
──筋トレなんかと同じですね。目標の重量が上げられるようになったら、もっと上げてみたくなるとか。
まいば氏:
近しいものがありますね。
バグ技? なるほど。わからん
──『スーパーマリオワールド』のRTAを語るうえで欠かせないのが“バグ技”になりますが、おもなバグ技の解説をお願いできますか。
まいば氏:
わかりました。まず、よく見る(?)のが、ヨッシーの羽をなにもないところから錬成する“ウイング”というテクニックです。
──錬成……ですか?
まいば氏:
これはヨッシーの羽を本来は出ないところに出現させ、強制的にゴールするバグ技になります。ヨッシーに乗った状態で羽を獲得するとボーナスステージに突入するのですが、ボーナスステージで画面下に落ちることで即ステージをクリアできるシステムを利用したものです。
──理屈はわかるのですが……なぜヨッシーの羽が出てくるのでしょうか。
まいば氏:
話すとややこしいのですが……(笑)。どこでも出せるわけではなく、バルーン(取るとマリオがふわふわと浮くバルーンマリオになる)とカギ(裏ゴールに行くためのアイテム)のアイテムが入っているハテナブロックをタイミングよくコウラで叩くと、なぜかヨッシーの羽が出てきます。
──なぜヨッシーの羽が出てくるのか理解できませんが、そういうものなのですね。
まいば氏:
よく見るのが、バニラドーム コース1だと思います。ここでは、上記で説明した何もないところを叩くテクニックに加え、ドラゴンコインの下のブロックを増殖させてカギブロックにするテクニックを併用したもので、こっちは実はけっこうすごいことをしているんですよね。
──最初からすごいことをしている気がします。
まいば氏:
(笑)。続いてボスキルですね。これはヨッシーに“無”を取得させてアレコレすることにより、口の中にコクッパを錬成して吐き出し、倒してステージを強制的にクリア状態にする裏技です。
──おお……?
まいば氏:
マントマリオ状態でファイアフラワーを取ってフラワーマリオになる際にタイミングよく舌を出すと、1回の入力で何故か2回ヨッシーの舌が出ます。これが二枚舌というテクニックです。1枚目の舌で甲羅を食べたあと、2枚目の舌にハダカガメを乗せた状態でマリオがダメージを食らうと、ヨッシーの口の中に“無”が入ります。
──???
まいば氏:
“無”が入るんです。口の中に“無”が入った状態にして、さらに画面内にハダカガメが入るように画面をスクロールさせると、口の中にある“無”がハダカガメに移ります。本来ハダカガメは食べるとコインになりますが、本バグ技を使うことで、なぜか口の中にハダカガメが入った状態になります。このときにバグが発生し、口の中の“ハダカガメだったもの”の左に透明なコクッパが出現しますので、こいつを倒せばステージクリアーになるという具合です。バグったキャラクターはハダカガメの残骸のようなもので、こいつを倒してもとくに演出は何も起こりません。
──なるほど。わかりません。
まいば氏:
ようするに、“いい感じにヨッシーでハダカガメを食べたふりをすると口の中にコクッパが入ってしまうので、そいつを倒してステージをクリアする”といったイメージです。
──なんとなくわかりました。
まいば氏:
最後に紹介するのは“角抜け”です。これはおもに、まよいのもり コース2で使うテクニックで、ステージの角の部分でいい感じにヨッシーに乗ることで壁にめり込んでしまう現象を利用した裏技になります。
──これは理解できます。本来は入れない場所に入り込んでしまうわけですね。
まいば氏:
そうです。これはけっこう運が絡むのですが、角に入ったタイミングで成功確率が決まってしまうんです。角に潜れるか、失敗するかはAボタンを押したタイミングで決まります。事前にうまく調整できれば、成功確率を最大の75%にすることができますが、反対に調整に失敗すると、成功確率が0%になってしまうテクニックなんです。ですが調整の方法は簡単なため、基本的にはあらかじめ成功確率を75%にして、しっかりアタリを引けることを祈ります。
──完璧にテクニックを成功させても運が絡むテクニックなんですか?
まいば氏:
そうなんです。
──つまり、どれだけ正確にゲームをプレイできても、『スーパーマリオワールド』のRTAは運が影響してしまうと……。
まいば氏:
そうなんですよ(笑)。これが『スーパーマリオワールド』RTAのおもしろいところでもあるのですが。以上が、おもなテクニックになります。
──よくわからないということがわかりました。
まいば氏:
(笑)。でも、慣れてしまえばそれなりに成功しますよ。