バグをRTAに利用することによる“意味”
──こういったテクニックを最初に発見したのは、誰なのでしょうか。
まいば氏:
自分も、先人がやっていたのをマネしているだけなので詳しくは知らないのですが、TASの中の人(TASを作った人)やRTAプレイヤーが集まって、RTAでもそのテクニックが実用範囲になるように技の難度を落とし込んでいったんだと思います。
──最初にやろうと思った人がすごいですね……。
まいば氏:
先人の知恵ですね。
──こういったゲームのバグというのは、ゲームメーカーが想定していない仕様の穴をついたテクニックになりますよね。
まいば氏:
そうですね。でも、『スーパーマリオワールド』はカテゴリーによってはバグを使わないと絶対に記録を抜けないようになってしまったので、使わざるを得ないんです。各レースのカテゴリーによって、使用を許可したり、禁止したりすることもあります。
──実機でできることならなんでもあり、というわけではないんですね。
まいば氏:
じつは『スーパーマリオワールド』には、“オーブストックバグ”という、ゴールを呼び出すバグがあります。オーブとは、ちんぼつせんのステージで最後に取るアイテムの俗称になります。準備に少し時間がかかるのですが、これがあると、どんなステージもすぐにクリアできてしまうんです。しかし、このバグは、多くのカテゴリーで使用を禁止されています。
──それはなぜなのでしょうか。
まいば氏:
端的に言うと、“おもしろくないから”ですね。このバグを許可してしまうと、オーブストックをしてステージをクリアしたら、もう一度オーブをストックしてからつぎのステージをクリアして……という手順のくり返しになります。それってもうゲームをやる意味がないじゃないですか。
──何のために競っているのかわからないですよね。
まいば氏:
全ゴールのカテゴリーでは、このバグの使用が禁止されていますが、もしこれが許可されていたら、僕は『スーパーマリオワールド』のRTAをやっていなかったと思います。
──RTAでどのバグを許可するなどは、プレイヤーたちでルールを決めて禁止することもあるんですね。
まいば氏:
変な言いかたをすると、僕は「バグを禁止してくれたおかげでバグを使ってRTAを走っている」。これを禁止してくれたのは、個人的にはありがたかったな。
──無法地帯というわけではないんですね。
まいば氏:
どれを禁止するのかっていう明確な指針はないのですが、また新しいバグ技が発見されたら、その都度精査すればいいと思っています。ただ、個人的には、バグ技を使っていったほうがおもしろいとは思っています。
RTAはさらなる高みへ
──最近だと、RTAinJAPANなど、いろいろなRTAの大会やイベントが開催されるようになり、RTAの文化は盛り上がりを見せていますね。
まいば氏:
『スーパーマリオワールド』については、でいすいさんの影響がすごいと思っています。以前、でいすいさんが『スーパーマリオワールド』の初心者大会を開いてくれたのをきっかけに、すごくプレイヤーが増えた印象がありますね。動画配信サイトでは、『スーパーマリオワールド』のRTA走者が24時間365日、途切れることなく誰かしらがプレイを配信しているんじゃないかって思うくらい増えています。
──そんなに盛り上がっているんですね。プレイヤーを虜にするRTAのおもしろさは、どんなところにあると思いますか?
まいば氏:
最初に言っちゃうと、RTAは本当に記録って出ないんですよ。99%出ないです。それをわかったうえで、じゃあなんでRTAをやっているのかっていうと、自分で決めた目標を達成できるかできないかの緊張感を味わうためなんじゃないかなって思っています。
──緊張感、ですか?
まいば氏:
自分もそうなんですが、ふつうの人が緊張感を味わう機会ってそんなにないですよね。
──たしかに。一般的な暮らしをしていると、緊張を感じる機会はそんなにないですよね。
まいば氏:
これを話すと「おいおいお前ドMかよ」って言われることもあるんですけど、自分は記録を出せても出せなくても気持ちよく感じる人間なんですよ(笑)。出せたらうれしいし、出せなくてもめちゃくちゃ悔しいからすごく燃えるんです。どっちに転んでも楽しいし、気持ちいいっていう。
──スリルが味わえるのが楽しいということでしょうか。
まいば氏:
そうですね。一般の人がなにかしらの大会に出場するのってすごくハードルが高いですけど、RTAなら今日始めた人でも参加できるのが魅力ですね。興味がある人はぜひRTAを始めていただきたいです。
──始めたばかりの人も参加できるものなのでしょうか?
まいば氏:
勘違いされやすいんですけど、RTAの大会って敷居がめちゃめちゃ低いんです。べつに記録を狙える腕前がある人じゃないと参加できないわけじゃないので、気軽に参加していただきたいですね。みんなすごくやさしい人たちばっかりなので、ぜひ! ただ、海外勢が参加する並走大会とかになると、大会が朝開催になったりするので、そこだけ注意かな(笑)。
──「タイマーをセットすれば、それはRTAだ」と言う人もいます。
まいば氏:
本当にそうなんですよ。出たもん勝ちなので、気軽に参加してほしいです。
──ちなみに、ご自身のライバルって存在するのでしょうか。
まいば氏:
う~ん、難しい質問ですね。カテゴリーによって強い人は異なるのでなんとも言えないのですが……。あえて答えるなら海外プレイヤーのLuiさんですね。僕が勝手にライバルだと思っているだけなんですけど。彼は、自分が気にもしていない0.1秒、0.2秒を短縮できるようなポイントをしっかり練習して、技術を積み重ねているんです。その場その場で見るとわずかな短縮なのですが、それが積もり積もって2~30秒の短縮につながるという。努力型のすごいプレイヤーです。僕もLuiさんにインスパイアされて、気になる部分とかはすぐに検証するようにして、タイムを短縮できたところがあります。
──Luiさんといえば、昨年末に開催されたRTAの大会で、まいばさんと決勝戦で大接戦を演じたプレイヤーですね。3戦とも試合展開がドラマチックで、観ていた人は「おおっ!」となったと思います。
●大会1日目のクリップ
●”Toss Up tourney”実況予定チャンネル(英語)
●”Toss Up tourney”実況予定チャンネル(日本)
誰もが楽しむゲームを、競技へと発展させたRTA。それはふつうに生きる人々でも世界1位になれるチャンスを持ったゲーム文化だった。
まいば氏の“96exit”のカテゴリーで持つ世界記録は、常人では到底到達できない恐るべき記録だ。しかし、絶対的な記録ではない。現在は新進気鋭のプレイヤー、oosui氏の活躍が目覚ましく、すでに“星なし”と“全城”のカテゴリーで1位を記録。“96exit”のカテゴリーでは世界3位となっており、界隈を騒然とさせている。oosui氏は現在“96exit”にも挑戦しており、毎日少しずつタイムを縮め、まいば氏とLui氏の座を脅かしているというのが現状だ。
いまなお進化を続ける『スーパーマリオワールド』。これから1年後にはどういった記録が生み出されるのか、誰にも予想はできないだろう。
ゲームが発売されて長い年月が経つ『スーパーマリオワールド』だが、これほど長きに渡ってプレイされ、これほど熱狂させてくれるゲームは稀有だ。これからも筆者は、本作と本作のプレイヤーが切磋琢磨する姿を見続けたいと思う。