CGからジオラマに―原点回帰によってもたらされた「あの頃のコミュニケーション」。ふたりが考える「人の動かし方」とは?
鳥嶋氏:
プロジェクト初期の頃に仕事場を見学したとき、狭いスペースにスタッフがぎゅうぎゅうに入って仕事をしていたけど、何人で作ったの?
坂口氏:
今回はメインスタッフが30人くらいなんですよ。プログラマーもこのゲームの規模だと10〜15人近く入れるんですけれど、本作は5人で。本当に優秀なスタッフたちだったのでこの人数でいけたんです。ファミコンソフトを作ってた頃と同じような人数なのでコミュニケーションは最高でしたね。全員楽しくできたと思います。ジオラマをCGでやっていたら内部にCGスタッフを抱えるじゃないですか。そうすると100人から150人は必要になってしまう。だからジオラマ作家の150人分が外に出たという感じですね。
鳥嶋氏:
スタッフ集めってすごく苦労するところだと思うんだけど、優秀な人たちをどうやって集めたの?
坂口氏:
基本は自分が一緒に仕事をしたことがあるやつで、今回のディレクター兼メインプログラマーは『ブルードラゴン』を一緒にやったり、『ラストストーリー』のメインプログラㇺを担当した中村くんです。こいつはもう信じていたので、まずそういうところを口説いて。
もう一人、CGをずっとやってくれている池田くんがいて。一人でトレーラーとか全部作っちゃうので「アートディレクターやらないか?」って口説いて。
あとはマネージメント担当と僕と中村くんで巡っていく感じです。あたりをつけて会社に行って、「今度こういうものを作るんですけれど手伝う気ありませんか?」って。結構回りました(笑)。ちょうどタイミングもよくてスケジュールが空いている人が多かったので。ラッキーでしたね。
鳥嶋氏:
それはラッキーじゃなくて、僕はいつも感心するんだけど、そのへんの人たらしっていうかね(笑)。坂口のスカウトは妙にうまいんだよ!
坂口氏:
スクウェア時代にそれは問題になっていましたもんね。
鳥嶋氏:
そう。業界中のできるやつを集めてどうするつもりなんだと(笑)。一度、六本木で真剣に議論したことがあったじゃない。
坂口氏:
「坂口、松野だけはやめろ【※】」って言ってましたもんね(笑)。
※当時、鳥嶋氏は、才能があまりに一極集中するのは、ゲーム業界の発展を阻害することだと考えていた。松野氏の才能を非常に高く評価していたこともあり、坂口氏に苦言を呈したという。
鳥嶋氏:
そこは坂口さんのさじ加減というか。才能をピックアップして世の中に出すじゃないけれど、任せ方がうまいよね。昔ね、この話になったときに坂口さんから言われて強烈に覚えていることがあるんだけれど、「どういうふうに任せるんですか?」って聞いたら、「鳥嶋さん、任せたらチェックしたらダメなんですよ」って。「能力があればあるほど、チェックされるとわかったら動かないですよ」って。それから折に触れてその言葉を思い出している。
坂口氏:
偉そうですね(笑)。自分でも相手に仕向けているかはわからないけれど、「坂口に内緒にしておいて、ある程度完成したら脅かしてやろう」とみんな思っているようです。で、僕が「これどうやったの!?」って言うのを本当に嬉しそうにしている。
鳥嶋氏:
あなたが素直に反応するからだよ。普通ならリーダーシップをとる人が素直に反応するってできないじゃないですか。漫画家もそうで、新人であろうがベテランだろうが、打ち合わせで編集が絵コンテ見ているときが一番緊張するって言うんですよ。クリエイターはみんな一緒なんです。論理的な説明じゃなくて、素直な反応と言葉がほしいんです。坂口さんは見事な反応をしているんですよ。そうやって作られている現場は、坂口さんに頼られて嬉しいし、それによって活性化していくんだからいい相乗効果が出ているよね。
──スタッフに動いてもらうため、坂口さんが具体的にやっていることってなんかあるんですか?
坂口氏:
無意識にやっているんですけど、例えば何かを頼んだ時に、「これは3週間仕事かな」って雰囲気を作るんです。別に3週間でやれとは言わないけど、頼まれた本人もそうだろうなと思うし、僕もそう思うみたいな。そうするとだいたい2週間でやっつけてくる。というか、2週間でやっつけたときに一番びっくりする。「すげぇ! もうできたの!?」って(笑)。そうするとそれから早く作ろうとしだすんですよ。
──なるほど。鳥嶋さんがおっしゃるように、坂口さんのリーダーシップの肝は “リアクション”なんですね。
鳥嶋氏:
そう、リアクション。それが演出じゃなくて本人の素だからね。そこが人たらしたるゆえんというか。持って生まれたものだな。
坂口氏:
んー、これは褒められているのかな(笑)。
鳥嶋氏:
年を重ねていても、ものづくりの現場にいる人はポジティブな明るさがあるよね。どんなに才能があっても暗い人には人が集まらないし、ついていかない。「楽しい」が本人が思っている以上に人を動かしているからね。それだけ現場で「楽しい」って思う機会がないからじゃないかな。
──坂口さんご自身が今仕事をしていて楽しいと思う瞬間ってどんなときですか?
坂口氏:
「いつも驚かせていたい」という感じですかね。ネタになることを考えつつ、自分では絵が描けないのでCGクリエイターに振って、予想以上に汲み取って絵にしてもらったときは「してやったり」みたいな。2〜3日ニヤニヤしていられますね。
鳥嶋氏:
目の前の人間や話にいつも好奇心があるのがいいよね。楽しむことを真剣にやっているのが僕の好きなところかな。
──いや、しかし。今日の鳥嶋さんは褒め殺し状態ですね。
坂口氏:
新たな手口かもしれないですね(苦笑)。
鳥嶋氏:
僕がなぜ仕事をしているかというと、自分の中に何もないから。人に会いに行って何かを見たり聞いたりすることで、自分の中の何かが動き出して、回路にスイッチが入るんだよ。「本人も気づいていないいいところがある」とか「誰かと絡ませたら面白くなるんじゃないかな」って、気付いてはじめて自分の頭が動き出すから。誰かが「この人どうです?」って言うと僕も気になるというね。
坂口氏:
逆だと思っていました。鳥嶋さんの解析能力ってすごいじゃないですか。だからひとりでいるときもTV番組とか解析し尽くしちゃって、それを知らしめずにはいられないというか。物事を解析して別の分野と組み合わせて「あ、これうまくいくわ」みたいなことってあるじゃないですか。そういう解析がモチベーションの人なのかなと思っていました。
鳥嶋氏:
いやいや、そりゃあいろんなニュースを見て日本の問題点を考えるけどね。
坂口氏:
僕が鳥嶋さんとお話していて感動するのは、その解析力や言語化力なんです。いつも、なるほどねって唸るんです。普通の人だったら一つの切り口で攻めるところ、鳥嶋さんは2〜3箇所から切り込んでいく感じある。で、気が付いたら、4箇所目からはずぶって自分の奥まで刺さっていくんです。
出会いのきっかけは『FFIII』。鳥嶋氏の指摘が「FF」を変えた
──そもそも、おふたりの出会いは、『FFIII』をジャンプに紹介してもらえないかと持ち込んだときだと思うのですが、そこでの会話は具体的にどんなものだったんですか?
鳥嶋氏:
足を踏まれたほうがよく覚えているというやつで、それは坂口さんから聞いて。
坂口氏:
ジャンプに紹介してもらいたくて……というのはちょっと違って、アプローチがあったのは鳥嶋さんの方からだったんです。なんか、いきなり呼び出されて。
鳥嶋氏:
ああ、確かにそうだった。いや、自分もドラクエに関わっていて、ゲームもいろいろ遊んでたわけだけど、『FFIII』を遊んでみて凄く良く出来てるなと思ったんです。そして、だからこそどうしても、これを作った人にひとこと言いたくなっちゃったんです(苦笑)
──そんな流れだったんですか。
坂口氏:
で、開口一番「キャラクターが全然立ってないから駄目だ」と(苦笑)
一同:
(爆笑)。
坂口氏:
特に『FFIII』はキャラクターがアバターでしかないゲームだったじゃないですか。だから、キャラクターも立っていなければストーリーも立ってなかった。世界が平坦なものになっちゃっていたというか。
鳥嶋氏:
少し補足をするとね。「ファミコン神拳」【※】でライターをしていた堀井さんが抜けたので、代わりに若手のライターを揃えたんですけど、そのうちのひとりが『ダイの大冒険』の原作者の三条陸だったんです。
で、彼らとゲームの話になったときに、彼らは「『FFIII』が最高傑作だ」って言うんですよ。でも僕はドラクエ派だから、どっちがナンバーワンかディスカッションをしたのよ。
でも、『FFIII』はちょっとプレイして投げ出した経緯があって。こいつらを論破するには最後までやらないとまずいなと思って最後までプレイした。それで思うところがあって、彼らを論破するよりも作ったやつに言いたいことがあるぞと(笑)。
で、のちに『遊戯王』のカードをプロデュースする、当時、読売広告の下村さんという方が、「ゲーム業界で会いたい人いますか?」って言うから、「今はなんといっても『FFIII』作った坂口さんでしょ」ということで連れてきてもらって。にも関わらず、ずっと文句を言ったというね(笑)。
※「ファミコン神拳」…「週刊少年ジャンプ」に掲載されていたファミコンゲームを中心に紹介した記事。
坂口氏:
読広【※】の会議室に通されて、「集英社の鳥嶋さんが会いたがってる」ていうから、なんの話だろう? って。そしたら「僕は『FFIII』をやったぞ!」って言われて(笑)。
※読広…読売広告社。
鳥嶋氏:
「ドラクエ」にはない、例えば飛空艇とか、斬新なことがあってすごく面白いんだけど、広く一般的なユーザーを入れて長く遊ばせる視点がないと思ったの。例えばセーブポイントがほとんどないとかね。キャラクターの立て方については、特にラスボスの立て方がうまくいってない。僕も『ドラゴンボール』で苦労してピッコロを作った経験があるから、もっとラスボスが立っていれば倒したときのカタルシスがあるんじゃないかとかいう話をしてね。このままではもったいないなと思って。このとき傲慢にも「僕らと一緒にやれば3倍売れる」って言ったと思う(笑)。
坂口氏:
単純に文句を言われたという気持ちはまったくなくて。ジャンプはすごいという気持ちが小学生の頃からありますから。なんでこんなに面白いものを連発できるんだろうって。しかも毎回設定とか世界観とかが違うじゃないですか。そこの編集部だった方(当時はVジャンプの編集長)が来て何か言ってくれるというだけで、それはもう100%吸収しよう! って気持ちで行ってるんです。
ただ難題でしたね。キャラクターについては、そのあとずっと考えていました。『ファイナルファンタジーIV』である程度キャラクターが立たせることが出来たのは、本当にあの会議室の話のおかげです。でも『FFIV』を編集部に持っていったら、扱ってくれなかったですけどね。「まだだな」って(笑)。
──その後、おふたりが仲良くなったきっかけはあるのですか?
鳥嶋氏:
僕の辛口の分析を聞いてくれる人がいないのよ。聞いた人みんな引いちゃうから。それを受け止めて聞いてくれる相手がいそうでいなかった。坂口さんは受け止めて、まぜ返してくれる。楽しかったんだね。
坂口氏:
僕は逆に鳥嶋さんの話が聞きたかったですけれどね。ジャンプに近づける気がしました。それくらい偉大なものなんですよ。
鳥嶋氏:
僕はジャンプの中でもはじっこだったからね(笑)。
坂口氏:
その頃は知らないから中央にいた人だと思っていたかもしれないですね(笑)。とはいえ鳥山明の担当で、絶対に魔法か秘密を持っていると思っていましたもん。それを掴み取るまではという気持ちもありましたし。逆に鳥嶋さんの鋭くメスをいれる語り口は、漫画やゲームのことじゃなくても「なるほどな」と目から鱗でした。それが楽しかったですね。
ジャンプにはジャンプじゃなきゃできないヒットの法則がある。 ジャンプ的組織をスクウェアで試した結果……
──鳥嶋さんと付き合ってみて、坂口さんなりの「ジャンプはなぜ面白いものを連発できるのか」に対する答えは出たのでしょうか?
坂口氏:
ないというか、今でも「そんなものないぞ」って言われる。確かに話を聞いてるとなさそうだなという気もする(笑)。だけど、漫画家のパッションだけではなんともならないところがあるんじゃないかとも思うわけですよ。才能だけではああいう作品群が生まれてこない。
──他の編集部でも突然変異的に大ヒットが出ることはあれど、ジャンプほど連続してというか。安定して大ヒットを出すって、確率論的にはありえないですよね。
鳥嶋氏:
今いるところを悪くは言えないんだけど、白泉社はここ数年ヒットが出てないんだよね。で、ジャンプはそれなりに出ている。何が違うのかって、ひとつは徹底的な競争原理かな。編集にあーしろこーしろって一切言わないから。
連載会議とかで出てきたものに編集長や副編集長がコメントすることはあっても、一度連載が始まれば今度は何も言わないからね。徹底的な担当と作家任せで、結果によって連載が終わったりする。全ての責任が自分たちに返ってくるシステムがジャンプのすごいところと、つらいところかなと。
みんなアンケートやデータを見るって言うけれど、ジャンプは入った時からそれをやらされるわけですよ。自分が編集長になったときに落ち始めた部数を戻すためにやったことは、アンケートと、編集者と漫画家の二人三脚のものづくりと、それから新人の新連載、これしかなかった。それを徹底して部数を戻して、『ワンピース』とか『NARUTO -ナルト- 』が出始めて今に至るみたいなところがある。ジャンプの基本方針は変わってないよね。
坂口氏:
そこはやっぱり、歴史というか根付いたからこその特色なんですかね。なかなかそういう組織は作れないというか。
鳥嶋氏:
これは話半分で聞いてほしいんだけど、現場の編集は基本的に「自分より年上の編集は馬鹿だ」って思っているんです。自分より年上の人間は、読者から年齢が離れて彼らの好みがわからないでしょって。僕も含めてジャンプの編集はまともではない(笑)。感性とかこだわりがすごいけど、その分何かが欠けている、そんな感じだよね。
坂口氏:
編集の競争心が漫画家に乗り移っていくのですかね? 今どきハングリー精神を持った漫画家志望の子なんていなさそうじゃないですか。編集者の下克上の戦いの気持ちを漫画家に持っていくのかな?
鳥嶋氏:
それは自然になる部分と後発的にできる部分と両方あるんじゃないかな。自然にできる部分って、やっぱりジャンプで一番を取れば日本で一番って思うわけですよ。後発的な部分は編集が「あの漫画はこれぐらいの評価だけど君はもっといけるはずだよ」って煽り方をどっかでするのかなって。
「ドラゴンボール」のアンケートが落ちてきたとときに、僕はずっとトップを走っていた『北斗の拳』を研究した。で、「こういう方針で『ドラゴンボール』を立て直し、数ヶ月後に『北斗の拳』を抜く」という目標設定をしたんです。それでやり遂げましたからね。目標より早く抜いたんで拍子抜けしたんだけど(笑)。
──目標設定をしたときの鳥山明さんの反応ってどうだったんですか?
鳥嶋氏:
ノッてきましたよ。彼はああ見えて意外と負けず嫌いなんですよ。ジャンプでやっていくためにはファイティングスピリッツがないと難しいかもしれないですね。そういう人が集まって、編集が他の編集や漫画に負けたくないという気持ちが出てるんじゃないかな。
坂口氏:
スクウェア時代に真似したんですよ。一時期、「この会社は『FF』しか作れないのか」とかなりのスタッフが言い出したからチャンスだなと思って。で、チームをいくつか作っていく中で、それまで宣伝部として独立していた組織を分解して、プロデューサーとして二人三脚でプロジェクトの最初から最後まで一蓮托生になるように組み直しました。
でも、あまりうまくいかなかった。難しいものだと、かなり悩みました。
鳥嶋氏:
ゲームは、漫画と比べると制作コストと制作日数がかかるのが難しいところですよね。漫画は当たる芽を探すために、読み切りというプロトタイプをたくさん作って読者の反響がどうか見る。当たらないものは二度と作らない。読み切りでデータに当たり的なものが出てこないと。連載ネームを作って上に回せない雰囲気があるんです。
『Dr,スランプ』から『ドラゴンボール』にいくときに、持ち前の分析力をもって緻密な読み切り(苦笑)をいくつも作ったけれど、ことごとくウケなかったんです。
で、万策が尽きて鳥山さんの住む名古屋に行ってもダメで。帰り際に奥さんが、「うちの旦那は変わっている。仕事の途中にビデオを流している」と言うんです。セリフがわかるから、そのシーンがきたら振り返って見ていると。「そんなに真剣に見ているビデオは何?」って聞いたらジャッキー・チェンのカンフー映画だと。じゃあそんなに好きだったらカンフーで一つ描いてよと。それで描いたのが『ドラゴンボール』の元になる「ドラゴンボーイ」でね。
当たる芽は論理的なところから出そうとしても難しいよね。当時の僕は『Dr.スランプ』が当たったから、編集としての自負はあったんです。だけど、『ドラゴンボール』を見つけるまでの過程で、漫画は水物だなって思ったね。
坂口氏:
『Dr.スランプ』自体が、新キャラが出てくる驚きの回数が多かったじゃないですか。もうあれ自体が新しい漫画に近くて。基本はコメディなんですけれど、もはや違う漫画に近いというか。あのテンポが凄かった分、難しかったんじゃないんですか。
鳥嶋氏:
あれは全てナンセンスですからね。鳥山さんの頭の中にあるごっこ遊びをまんま絵にしているんですよ。あれを直すとなると丸ごと直すことになるから彼も苦しんでいて。奇跡のような作品ですよ。それに比べると『ドラゴンボール』は一回軌道に乗っちゃえば楽。鳥山さんも言ってましたもん、「ストーリー漫画はなんて楽なんでしょう」って。いやいや、そんなことを言ったらみんな怒るからって(笑)。
坂口氏:
鳥山明さんといえば、『ブルードラゴン』のときにプロットを書いて鳥山さんに渡したら、「鳥嶋さん、この話、面白いと思う?」って言われて。あれが一番ショックでしたね(笑)。鳥山さんからボツをもらった男はなかなかいないですよ。そこから地獄の日々が始まったんですよ。
鳥嶋氏:
鳥山さんは実は結構厳しいですよ。ニコニコしていてあまり言わないだけでね。
坂口氏:
自分にも厳しいんでしょうね、きっと。
「もう一本鳥山さんとゲーム作りましょう」──坂口博信の今後と『ファンタジアン』後編への思い
鳥嶋氏:
でも、「僕もそろそろサラリーマンを終わらせる頃だから、次をどうしようか考えながら過ごしているんだ」って坂口さんに言ったらね、坂口さんが「もう一本鳥山さんでやりましょう」って言ったんだよ。で、こいつ懲りてないなって(笑)。
坂口氏:
懲りてないですよ(笑)。ちょっと待ってください、僕は真剣なんですよ!
鳥嶋氏:
『ファンタジアン』は終わったけど、次を考え始めるでしょ?
坂口氏:
具体的な企画の組み立てには入らないですけど、例えばジオラマ背景で、そこにストップモーションなジオラマと鳥山さんメカだったら、「これは、絶対いける」みたいなことは考えます(笑)。
そういう想像はするじゃないですか。ダメ元で鳥嶋さんに言ってみようかな、みたいな。鳥山さんジオラマ好きだったはずだし、なんだったら背景のジオラマを作ってくれるだけでもいいですし(笑)。そういう想像はしますけどね。ただ、実際に企画・座組の組み立てにかかると、難しいですよね。
鳥嶋氏:
こうやって自分の頭の中のことを人に言ったりとか、バカな話っぽく雑談している時は楽しいよね。
坂口氏:
きな臭いこともいっぱいありますからね。あんまりいうとこれも問題になっちゃうんだけど、米国のビジネスが厳しいですよね。契約書とか条件交渉は凄く大変なんです。
鳥嶋氏:
それは『ドラゴンボール』の映画で骨身に沁みましたからね。坂口さんも僕もハリウッドで仕事をして痛い目にあっている(苦笑)。ハリウッドって、もしかしたら日本よりも限られた人間関係で動く社会なのかもしれないね。一緒に業界で仕事をやってきて顔見知りじゃないと難しいところがあるよね。
坂口氏:
そうですね。意外と狭い社会というか。
鳥嶋氏:
でもまぁ、次回作を作りそうな感じで安心しました。
坂口氏:
まだ何も(笑)。しばらくはゆったりとします。鳥嶋さんこそ、次何かやるときはぜひ。どこか頭の片隅に「鳥山さんのゲーム」を入れておいていただければ(笑)。
──最後に、今回の対談のきっかけである『ファンタジアン』の後編が出るということで、改めて『ファンタジアン』に込めた想いとか、どういう人に遊んで欲しいとかお話しいただければと思います。
坂口氏:
後編も、ぜひ鳥嶋さんの感想が聞きたいです。「前編は体験版だったの?」ってくらい突っ込みました。ボリュームは全体の2倍ぐらいあります。
鳥嶋氏:
それを聞いて僕はすごく嬉しかった。楽しみにしています。
坂口氏:
ボスたちもかなり作り込まれていますので。もちろん、これを読んでいる方もぜひ!
──Apple Arcadeで遊べるので、600円払えばできるというのもありますし、最初の登録から1ヶ月間は無料で遊べますよね。
坂口氏:
そう。だから一ヶ月で遊びきってしまえば、実質無料で遊べるんです!
というか、日本だとApple Arcadeそのものがハードルになっているらしくて、まだまだ届ききってないなと感じています。Apple Arcade自体が知られてないというか。Apple Arcadeは入会すると1ヶ月は無料だし、Apple製品を買うと3ヵ月くらい無料になるんです。『ファンタジアン』は1ヶ月あれば終わるので。ぜひ多くの人に触れてみてほしいんですよね。
──全編と後編併せて60時間くらいのボリューム、ということですから、本当にコンソールのフルプライスゲームくらいの内容ですよね。600円でもお釣りが来る内容だとは思うので、読者の皆さんもぜひ!という感じでしょうか。
坂口氏:
いやでも、別にそんなに売り込んで頂かなくてもいいですよ。
──そ、そうですか。
坂口氏:
本音をいえば、デジタルアーカイブされてAppleさんが丁寧に扱ってくれれば、そのうち誰かが遊ぶだろうから、僕的にはそれでいいんです。そのうち。じわじわと誰か遊ぶだろうくらいの感じです。
鳥嶋氏:
僕は最後に言っておきたいね。「これは遺書じゃなくてどうやら卒業アルバムみたいだよ!」ってね。(了)
『ファンタジアン』をきっかけに鳥嶋氏から坂口氏にモノ申す! ……が本来の企画主旨であったが、蓋を開けてみれば、30年以上にも及ぶ鳥嶋氏と坂口氏の関係性と、そのやり取りから垣間見えるお互いの愛情(友情?)が、なんとも印象的な取材であったが、読者の皆さんはいかがだっただろうか。
テキストではお伝えしづらいのだが、予想外(?)に鳥嶋氏からベタ褒めされて、なんともばつの悪そうな、それでいて嬉しそうな坂口氏の反応は、普段はなかなか目にすることができない、坂口氏の一面だったかもしれない。
改めて説明するまでもないが、鳥嶋氏と坂口氏は、『クロノ・トリガー』や『ブルードラゴン』などといった作品を通じて、仕事で”やりあってきた仲”である。成功体験もあれば失敗やトラブルもあり、時には喧嘩もしたことだろう。
しかし、そんな中から、相手の良いところや凄いところを認め、そこから学ぼうとしている姿勢が見えたのが、個人的には、今回、一番心に残ったことかもしれない。「戦友」とはかくあるべしーーというか、そういう関係性は素直に羨ましいし、自分も見習わらなければと思った次第だ。
『ファンタジアン』にまつわる各種インタビューでは、しきりに「引退」「遺書」という言葉を口にしていた坂口氏だが、一方で、現在68歳の鳥嶋氏が「次を考えている」のだという。
「これは遺書ではなく卒業アルバムだね!」
という言葉には、「俺も頑張るから、お前も頑張れ!」という、鳥嶋氏らしい言い回しのエールが込められている。お二人の、今後の活躍が楽しみだ。