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“日陰のゲーム”に救われたからこそ、日陰に生きる者のためにゲームを作り続ける。『モナーク/Monark』を作った若手クリエイターが語る、「ゲームに救われる」という体験のメカニズムとは

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フリューという会社では、いろいろなデベロッパーの文化を学べる

──林さんはゲームを作るときに、ひたすら考えてひねり出すタイプなんでしょうか。それとも引き出しが無数にあって、その中から引き出したものをアジャストしていくタイプなのでしょうか。

林氏:
 引き出しはあるほうだと思います。

──『モナーク』は狂気がテーマでしたが、他にもやりたいテーマがあるのでしょうか。

林氏:
 ありますね。思いつくだけならたくさんあって、くだらないゲームとかも思いつくんですけど。
 でもやっぱりゲームを作るからには原体験というか、得も言われぬ衝撃を受けたあの体験のリバイバルをし続けたいという思いがあるので、その方針の中でなるべくアウトプットできるものを手がけています。

 あとは商品である限りは売れるというか、お金を出していただくに値するものにするということは、最低限心がけていますね。

──大学を卒業してすぐ、フリューに入られたのですか?

林氏:
 新卒でフリューに入りました。会社に入ってゲームについて学びたいなと思いつつ、他の会社だと自分がオリジナルゲームを作るという経験をするのに、運が良くても10年や20年かかるんじゃないかという感覚があって。

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──フリューではオリジナルゲームをすぐに作るチャンスがあったのですか?

林氏:
 フリューが初めてゲームを作ったのは2007年で、僕が入社したのは2013年でした。会社の面接を受ける中で話を聞いたら、中途採用の社員がすごく多くて、かつ年齢が若めだと聞いたんです。

 人数も少ないし、できてすぐの会社だから、誰かに認めてもらうような才能があれば、他の会社よりも早く経験ができるかなと思ったんです。

──フリューはたしか「オリジナルのコンシューマゲームを作ります」と宣言した上で、社員を募集していたんですよね。

林氏:
 そうです。当時は『アンチェインブレイズ』シリーズや、『ドラえもん』のゲームシリーズを出していました。

──そうやって集まった人たちは、自分でオリジナルゲームを作りたいという方が多かったのですか?

林氏:
 今でもそうですし、中途入社の方に顕著なんですけど、フリューをいい踏み台だと思って入ってくる人が多かったですね。
 ここでオリジナルゲームを作って、そのまま自分のチームを作るも良し、その経験を活かして別の会社でやりたいことをやるも良し、みたいな感じで。ベンチャー気質というか、ガツガツした方が多かった印象ですね。

──なんでフリューがオリジナルゲームを作っているんだろうと、けっこう不思議に思うことがあったんです。クリエイター出自の会社がそれをやるのは分かるんですけど、フリューの場合はそうではないじゃないですか。

林氏:
 これは僕の見方なんですが、うちの会社はボトムアップ型の企業なんですよ。みんながやりたいことの意見を集めて、その中で会社として成功できる範疇が重なったものをやりましょう、という方針なんですね。
 利益だけの追及ではないなかでゲームを作るのであれば、「オリジナルゲームを作りたいよね」、「自分たちの看板となるタイトルが欲しいよね」、というのが当時からありました。

 オリジナルゲームで成功しようという目標は今でも続いているし、新しく入ってくる人もそういう気持ちの人が多い印象はあります。

──「オリジナルを作る」ということを目標に掲げることで、結果として尖った人がくるのはわかるんですけど、そこまで見越してのことなのでしょうか?

林氏:
 僕としては、そこまで見越してはいなくて、あくまで結果かなとは思いますね(笑)。……じつは事業部長に深淵な考えがあるのかもしれないですけど。

 それでいうと当時のフリューは、スパイク・チュンソフトから入られた方、レベルファイブから入られた方、スクウェア・エニックスから入れた方など、他のデベロッパーなどから移ってこられた方がたくさんいました。おかげでいろんな会社の文化に基づいた考え方や企画書とかを一通り学べましたね。

 それにパブリッシャーという立場上、いろんなデベロッパーさんとお話しして、いろんな資料を見られるので、本当にフリューに来て良かったなと思います。一社に絞られないいろんなゲーム業界の考え方や方針を知れて、それを吸収できていることはメリットとして感じています。

──フリューさんぐらいの規模感だと、フルプライス以外の売り方って、けっこう難しいポジションなのかなと思ってはいます。その環境で勝負していくには、価値をどう差別化するのかという話がきっとあるはずで。
 その価値というのはたぶん「自分ならできること」みたいなものだと思うんですけど、林さんが提供できる価値って、ご自身ではいったい何だと考えられています?

林氏:
 それに関しては、最適な言語化に戸惑っているんですけど。フィーリングの話で言えば、「闇の中の光を描くのが好き」というのが、自分の特徴ですね。小さいけどすごく眩しい、みたいな。
 別の言い方をすれば、「痛みの中に生を感じるコンテンツ」みたいなものですかね。

 自分としては「理不尽の中でこそ輝くもの」というコンテンツに共感や救いを感じる人に向けて、刺していきたいと思います。

なぜインディーゲームの道を選ばなかったのか

──林さんの年代だと、インディーにいく可能性や方向性も十分にあり得たと思います。会社のように、上の人がいると決まっている場所で作りたいゲームを作るのは、すごくやりづらくないですか。

 なので、なぜゲーム会社に入ったのかなと疑問があるんです。同人活動から世に出ていった奈須さんに憧れていたというのなら、なおさらそう思います。

林氏:
 じつは、大学時代に何本か同人ゲームを作っていたんですよ(笑)。でも、自分の中で限界を感じたんです。このままがむしゃらにほぼひとりでやり続けても、変わらないし、広がりもないしと。
 その結果、コンソール業界の会社でしっかりと学びたいと思ったんですよね。

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 実際、コンソール業界に入ってコンソールのゲームを作っていくことで、他社さんも含めた業界の人と話す中で知識が広がったり、メディアの方からの刺激を受けたりして、自分の成長に繋がっていきました。
 それにゲーム業界に勤めながらインディーでゲームを作ることも、やろうと思えばできると思っていたんです。

──ちなみに大学時代からの同人ゲーム制作は、どのようなことをやっていたのですか?

林氏:
 その頃は3チームぐらいに所属して制作をしていたんですけど、いちばん印象に残っているのは、自分が主催しているサークルでの活動ですね。

 それは4人でやっていて、僕が企画・デザインとシナリオ・スクリプトとかを担当して、あとはプログラマーひとり、サウンドひとり、グラフィックひとりという構成でした。

 そこではいちばん最初にフリーゲームを作って出しました。フリーゲームのちょっとした賞をもらったり、雑誌に載ったりしたので、それはそれですごくいい体験ができたと思っています。
 でもフリーゲームって究極のエゴの世界なので、何十万円つぎ込んでも、あたりまえですがすべて赤字になりました。なのでやり終わった後に、「これを継続するのはしんどいな」と思ってしまいました。

──当時フリーで作ったゲームは、今でもどこかでダウンロードできるのですか?

林氏:
 できますよ。「Blue*」というノベルゲームですね。

──今見ても、かなりちゃんとしていますね。

林氏:
 白髪のキャラクターをひとり置いて、かつ暗い世界観で……という、当時から変わらないマイルールのもとでゲームを作っていました。

──お話を伺うとかなりアクティブに活動されていたんですよね。なぜそんなに活動できたのですか?

林氏:
 なぜでしょうね(笑)。

 当時は『ドラッグオンドラグーン』、『月姫』、『真・女神転生if…』、『Kanon』を遊んだときの電気ショックが強すぎたんでしょうね。その電気が体内に残り続けていて、このビリビリを別の形に昇華して、そのコンテンツの良さを自分でも語りたいし、同様の何かを再現したいし、という気持ちがあったからですかね。

──インディーで自由にやってきたからこそ、コンシューマーの業界での制約が気になったりはしないのですか? そこの折り合いはどうやってつけているのでしょうか。

林氏:
 フリーゲームを作ることは老後の楽しみとして、まだ取っておいてあります(笑)。人生の後半に私小説を書く時間を残す、みたいな感じで。

──なるほど(笑)。ということは、仕事として作るからには、プロフェッショナル意識としてちゃんとプレイヤーに伝わるものを作ろう、ということですね。

林氏:
 そうですね。やりたくないことをやるのは絶対にないんですけど、やりたい面白い企画というのはけっこうあるじゃないですか。その中でアジャストしているものを、ちゃんと出していこうという意識はありますね。

シナリオとゲームシステムを組み合わせるキーワードは「フラクタル」

──ちょっと話が飛ぶんですけど、林さんが物語のカタルシスを得るにあたって重視しているのは、シナリオなんですか? それともゲームのシステムなんですか?

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林氏:
 それで言うと、もちろん全部組み合わないとダメだなと思っています。ゲームってひとつの世界を作ることだと思うんですけれども、感動させたいポイントがその世界のすべてに沿って形作られているものじゃないとダメだなと思っているんです。

 そこでコンセプトが活きてくると思うんです。「こういう感動体験をさせたい」というコンセプトで作られたのであれば、そのコンセプトに沿ったシステムがあり、そのコンセプトに沿ったストーリーがあり、そのコンセプトを盛り立てる楽曲が流れる。そういうものが全部ないとダメだと思っています。

──コンセプトからシステムなりシナリオなりを落としこんでいく感じですか?

林氏:
 そういう感じですね。一回作って、壊して、作り直すという感じで制作しているんですけど、最初になんとなく「こういう感動を味わいたいな」というところから、ゲームの要素をぶわっと積み上げた後で、その中で共通することは何なんだろう、というのを言語化していく作業をしています。
 言語化した後に「これがコンセプトだ」というのをちゃんと張れるものが出来上がったら、それに応じてリビルドする感じですね。

 『モナーク』だったら「プレイヤーのエゴが力になり、プレイヤーの狂気を統べるシステムが必要だ」というところから始まっています。

──そういう構造を創り上げていくにあたって、意識していることはありますか?

林氏:
 『クライスタ』を作っているときにヨコオさんとお話する機会があったのですが、その時に印象に残っているのが、「フラクタル」という概念です。「フラクタル」というのは、遠くから見ても近寄って見ても同じ構成をしている集合のことです。
 ヨコオさんは、「ゲーム全体のコンセプトやサイクルはフラクタルであるべきだ」と、すごくこだわられていたんです。

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有名なフラクタル図形のひとつ、マンデルブロ集合
PantheraLeo1359531 – 投稿者自身による作品, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=103462693による

──それは具体的に言うと、どういうことですか?

林氏:
 僕なりの解釈になってるかもしれませんが、そのゲームのあらゆる要素──キャラクター、シナリオ、システム、サウンド、そうした細部のすべてにおいて、まさにフラクタルのようにコンセプトが見えてくるかどうかが重要なんだと考えています。
 『モナーク』で言えば、「理不尽に打ち勝つ達成感」というのをコンセプトにしているんですけど、それがシナリオでも味わえて、かつバトルでも味わえるということです。

 シナリオ自体も分解していくと、全体の構成として3行くらいにまとめたときにそのコンセプトどおりの構成になっているかどうか。それから各章ごとの話が独立しているんですけど、各章の中でもそういうテーマがちゃんとあるかどうかも意識しています。

 『モナーク』だったら、この作品は確かに理不尽に抗っている、しかし達成感が味わえる、というところ。『クライスタ』では罪悪感とカタルシスにフォーカスしているんですけど、罪悪感を得た後にそれを昇華して強さにするカタルシスが、全編に当てはまっているかどうかを意識していますね。

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(画像はSYSTEM|CRYSTAR -クライスタ-より)

物事を変える前向きな力としての「狂気」

──ここからは『モナーク』本編について、もう少し踏み込んでいこうと思います。ひとまず感想として、戦闘が小気味よく調整されていて非常に遊びやすかったです。

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林氏:
 よかったです。戦闘パートについては、序盤の面白さからどんどん掛け算で面白さが広がっていくので、後半も期待してください(笑)。

──序盤のうちは力押しで勝てちゃう状態なんだけど、これから「狂気」や「覚醒」を駆使していかないといけないんだな、という予兆を感じます。あと、「リスクを踏まえて戦う」みたいなところをかなり意識されていますよね?

林氏:
 そうですね。キャッチコピーの通りで「狂気を統べろ」というテーマは、実際のゲームプレイでも重要になっていきます。敵をどう倒すかという戦略・戦術もそうなんですど、倒すための手段として狂気のリスク管理を怠ると、狂気に飲まれて自滅してしまうので。

──おそらく、ギリギリ狂気になって戦闘不能にならないところで勝ち切る、みたいなところを調整するゲームなんだろうなと。

林氏:
 あと、覚醒状態になって、狂気と覚醒が混ざると狂気をリセットできるんですよ。それも考慮しつつという感じです。

──戦闘での大きなポイントは「共感」と「狂気」のシステムだと思います。この相反するふたつをなぜ同時に入れているんだろう、というのはけっこう面白いなと思いました。

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林氏:
 ありがとうございます。アイデアとして思い立った理由としては、狂気の力というものは「視野が狭くなっていく力」だと思っていて。それをどう導くかというときに、じつはひとりだけでは上手くいかないことが多いなと思ったんです。

 客観的に見てくれる誰かが上手くフォローしてサポートしてくれたり、寄り添ってくれる誰かがいて、その力を正しい、最適な方向で導けるという要素が必要だと。

 狂気は個の力として強いけれども、それを誰かがフォローしてサポートしてくれて、正しいやり方を導くことで、狂気の力が自ら傷つける力ではなく、「物事を変える前向きな力」として作用すると思っているんです。こういう考えをシステムとして落とし込みたいというのがありました。

 主人公が共感の力を使えるようにしたのには、ふたつの理由があります。ひとつは主人公という立場上、何かに共感しあって仲間と協力しつつ進むというのが綺麗だな、と思ったので。
 もうひとつは開発のランカースさんが、『世界樹の迷宮』の頃からスキルの重ね合わせがとても得意な会社で、そこがすごく好きだったという理由です。ランカースのゲームデザイナーさんの良さを活かすためにも、スキルの重ね合わせを能力にフィーチャーして活用したいなと思ったんです。

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──狂気の扱いや狂気に関する概念が、ある種の才能みたいなニュアンスを含んでいるのかなと思いました。一般に「狂気」というと暴走するようなイメージですけど、一方では「狂気的に取り組む」みたいに、集中する意味での表現としても使うじゃないですか。

林氏:
 僕の中では狂気って、「超越行為」だと思っているんです。常識とか既成概念といった、今ある何かを超えていくものということで。
 つまり「普通じゃないこと=狂気」という定義だと思うんですよね。だからポジティブに言い換えると、狂気とは「何かを変える力」のことだと思っています。

──システムの話に戻るんですけど、狂気度はパーセンテージで表されるじゃないですか。あれはどういう意図で実装したのですか?

林氏:
 システム設計的に言うと、主人公たちは「共感」というシステムを使って戦うので、MP的な数値が減っていくスタイルだと、レベル差が生まれたときに活かせない懸念があったんです。なのでパーセンテージ概念にしたいなというのがありましたね。
 だから簡単に言うと、パーセンテージ概念にしているのは遊びの上での理由です。

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──バトルで狂気度があるのは分かるんですけど、ダンジョン探索で狂気度が上がっていくのはなぜなんですか? あの狂気度があることで、探索にも時間制限がある感じになっていますよね。

林氏:
 あれは学園の理不尽さを表現したかったからです。狂気度は「理不尽な環境」というリアリティを再現するためのファクターですね。

 システムの遊びの話で言うと、『モナーク』においては「狂気」がべつに悪いものではない、というのが大きいです。
 戦闘システムとして狂気度があって、発狂したらネガティブなことになるんですが、それに覚醒という要素を足すことで、ポジティブに作用するんです。あらかじめ発狂度を上げつつ行くことも、戦略としては決して悪くはないですね。

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──ただ探索させるだけではなく、もうちょっとサバイバル感を出したかったのかな、とも思ったのですが。

林氏:
 そうですね。そこは理不尽に打ち勝つというか、理不尽に追い詰められた人の魂の輝きみたいなものが好きで、そういうものを作り続けてるという話にも繋がってきます。追い詰められたときに必死にあがく、あの感覚を再現したかったんです。

──単純にゲームシステムの効能として見ると、デメリットも多い仕組みだなとは思います。でも焦燥感というか、早く進まなきゃいけないという気持ちになることも含めて、このゲームの体験ってことですよね。追い詰められるとか、追い立てられるとか。

林氏:
 嘘偽りのない必死な感情だとか、そういう熱量を感じるものを作りたかったんです。

──理不尽さという点で言うと、「デスコール」【※】が象徴的なのかなと思います。

※デスコール
学園の探索を行う際、スマートフォンにランダムでかかってくる着信。着信自体は悪魔と戦う「異界」へと通じるために必要なものだが、デスコールの場合は、強力な敵の存在する「深淵」に飛ばされてしまう。

林氏:
 あれは舞台装置のひとつとして機能するものではあるんですけど、趣旨としてはエンドコンテンツの紹介も兼ねています。最終的には「深淵」で戦って勝つことが、おまけ要素につながるんです。

──ちなみに電話をモチーフにしたのはなぜですか?

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林氏:
 僕が電話嫌いだからですね(笑)。それに僕の周りの人にも、電話嫌いな人が多いんです。電話って、ある種の人間にとっては恐怖の象徴だなと感じていて。それは電話でのコミュニケーションになじみがあるかで左右されるものだと思うんですよ。

 今では「知らない番号から電話が突然かかってくる」ということも少なくなっちゃいましたけど、逆にそうだからこそ、今では適度な非日常感があるものになっていると思って入れています。

──そういうモチーフがバーンと出して気味の悪さを表現する、みたいなのはフリーゲーム感がありますよね。僕がパッと連想したのは、ホラーゲームの『Ib』【※】で。

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※『Ib(イヴ)』……2012年にkouri氏によって公開されたホラーアドベンチャーのフリーゲーム。美術館へ迷い込んだ少女「イヴ」の不思議な体験がマルチエンディング方式で展開される。2022年の公開10周年に合わせて、リメイク版の制作が発表された。
(画像はIb_ssより)

林氏:
 『ゆめにっき』【※】とかもそうですよね。

 エゴって本来、汚い言葉だという印象が強いんですけど、『モナーク』ではそれを全肯定してシステムに落とし込んでいます。狂気も気持ち悪い印象があるけど、それを肯定して、ただ綺麗な形で推奨したいんです。
 僕は代わる代わる違うタイプの電気ショック機材を順番に製造して、今まで痛みを知らなかった人に新しい痛みを与え続けたいという気持ちがあるのかもしれません。いろんな手法で「お前は生きているぞ」と訴えかけたいんです。

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※『ゆめにっき』……ききやま氏によって『RPGツクール2003』製のフリーゲームとして公開されたアクションアドベンチャーゲーム。少女を操作して、夢の中の世界を探索する。2018年にはリメイク版の『YUMENIKKI -DREAM DIARY-』がリリースされた。
(画像はkikiyamaHPより)

──診断システムもなかなか特徴的ですよね。

林氏:
 エゴをテーマにしてそれを肯定するゲームなので、「ひとりひとりのプレイヤーらしさがシステムに現れるゲームにするべきだ」という気持ちの表れが、診断システムですね。

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▼診断システム

 あと、懐かしいゲームシステムであると同時に、今の時代にすごく合っているなとも思っているんです。SNS文化の中で「診断」は、みなさんが特に好きな文化じゃないですか。
 診断を通して自分を知るのはもちろんのこと、診断を使って他人に自分を知って欲しがっている人も多いと思うんですよね。「こういう人間なんです」という、自己紹介の道具のひとつになっていると思っていて。

 『モナーク』というゲームの中で自己理解は当然として、プレイヤーが「自分はこういう人間なんです」と主張してくれたことを肯定しながら、それを認めつつ寄り添いたいなと思っています。
 あなたの分身であるその存在が、理不尽に追い詰められる中で必死に「勝ちたい」「抗いたい」と抵抗している、その感情の爆発をしっかりと描きたいと思って入れていました。

人間が自分らしく生きる最適解は、エゴを肯定するしかない

──自分がやった行為が肯定される、みたいなこととつながると思うんですけど、エゴを肯定することって、現実世界ではあんまり達成できない気がしますよね。

林氏:
 そうですね。「エゴ」という言葉の印象が悪いっちゃ悪いですからね。

──それでも、なぜエゴを肯定したかったのでしょうか?

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林氏:
 エゴという言葉が好きなんです(笑)。
 「何のために生きるんだ?」「何が正しいんだろう?」とかを真剣に悩むと、昔から結論としては「エゴ」に行きついちゃって。人間の本質だと思うんです。

 それこそゲーム作りもそうだと思うんですけど、「最高のゲームを作ってください」という話になったとして、何が最高なのか、答えがないじゃないですか。「今日を最高の一日にしてください」と言われても、何をもって最高なのか、みたいなことはすごく悩みどころだと思っていて。

 それを決める物差しみたいなものって実際にはなくて。生きている自分がどう感じるか、エゴ次第だと思っているんです。

──なるほど。

林氏:
 世の中にはいろんな判断があるじゃないですか。たとえば危険な場所で、今にも崩れ落ちそうな橋の上をどう渡るか、という状況があるとします。
 それはいろんな選択の連続だと思うんですけど、悩み続けていたら答えは出ないじゃないですか。悩んでいる間に橋が崩れて死ぬ、みたいなこともぜんぜんあり得ると思うんです。もう答えがなくてもなんでもいいから答えなきゃいけない、みたいな。

 それを踏まえて、答えのないものに答えを出すのがエゴしかないかな、ということを感じました。それこそ現実世界ってよく「答えがない」って話になりますけど、そうなると選択や行動の決め手はやっぱりエゴしかあり得ないと思うんですよね。
 規則とかがひとつの手段としてありますけど、その人がその人らしく生きる最適解は、エゴに従うしかないと、僕は信じています。

 これは狂気の肯定に近いのかもしれないです。もちろん汚いエゴや、人を傷つけることを僕は肯定したくないですけども。でもエゴを肯定することは、「理屈じゃなくて感情のほうが大事だよね」みたいなところにも紐づくものかもしれないです。

──ディレクションしているときの判断力が、内側にある人と外側にある人とで分けることができると思うんですけど、林さんは圧倒的に内側にありますよね?

林氏:
 それは物事を決めるときのジャッジが、どこにあるかということですよね?

──いわゆるクリエイターと呼ばれる人ほど、根っこのところで判断力を内側に持っている気がするんです。でも意外と多くの人が、外側で判断しているなと感じることがあります。

林氏:
 外側に理由を持って行動すると、結果、後悔することが多いんです。僕がクリエイターと思われているかどうか分からないですけど、僕自身はなるべく内にあるもので、物事を決めたいと思ってはいます。

 何かをするときに、自分の感覚的にこうしたいという気持ち以外のものに従うと、結果はどうあれ後悔につながるから、嫌だなぁとは思っていますね。

 議論をするときに、一般論として正しい・悪いと言う人よりも、自分はこう思うから好き・嫌いみたいに言う人のほうが、説得力があるというか好感を持てるというのもありますよね。
 今って個のクリエイターが伸びてきたこともあって、エゴのほうが尊ばれる時代だとは思います。

──そもそも判断が全部エゴ、というのはすごく分かります。

林氏:
 世の中を下手に複雑に考えた結果、「よく分からんなぁ」とくよくよすることが、僕にはあったんです。だけど、分からないものは分からない、知らないものは知らないと整理していくなかで、唯一たしかなものは「エゴ」しかないと思いきれたときに、ようやく前に進むことができたんです。

──最後の質問になるんですが、『モナーク』をプレイした人にはどういう感情を抱いてほしいですか?

林氏:
 最終的な感情のゴールとしては、「生きるぞ」「生きてやるぞ」という熱量のところに帰結するかもしれないです。
 理不尽に負けてたまるか、こんな世の中に負けてたまるかっていう熱量を抱いたまま、最後のパンチをして気持ちよく打ち勝ってもらいたいです。

 『モナーク』以降については、僕が作る「闇のなかで輝く光感のある作品」が羽休めになるひとたちへ向けて、無限に作り続けていきたいですね。内容や規模感は正直、バジェットに合わせて変えているので、今だからこそこの内容で作っていますけど、将来的にはどう転ぶか分からないです。

──スマホになるかも分からないし。

林氏:
  そうですね。それでもガチャは作らないですけどね、絶対に(笑)。

 闇の中で輝くきらめきというか、暗い中でも共感できる生きる体験みたいなもの、そういうものに惹かれる人に向けて、無限にモノを作り続けていきたいし、そういう人がそういう世界でしか味わえない、生の体験を感じさせられる場を作り続けていきたいと思っています。

──クリエイターって結局、自分の持っているもので戦うしかないじゃないですか。自分が今抱えているものと、二十代や三十代の頃に考えることや感じていることは、ぜんぜん違っていて。だから林さんも今はそうおっしゃっていますけど、将来的にはまた変わっているかもしれませんよ。

林氏:
 僕は壊れた蓄音機じゃないですけど、これを無限に作り続けるというものを、自分に定めているんです。何があろうと同じものを作り続ける。……いや、まったく同じものは作らないですけどね(笑)。なので僕は、僕らしいコンテンツをずっと作り続けます。(了)

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  「新世代に訊く」の第5回は、いかがだっただろうか。

 なぜ前向きではない“日陰のゲーム”が人の心を救うのか。
 重要なのは、日なたか日陰か、ということではない。人の心の奥底に作用するかどうか、止まってしまった心に電気ショックを与えられるかどうか、ということなのだ。林氏の語り口には、自らの原体験に裏付けされた、確固とした前向きさがあった。

 林氏が経験した「理不尽」という言葉の重さ。そして、そんな世界の中でも見出そうとした「狂気」「エゴ」という一見ネガティブな言葉の光を、どのようにコントロールするか。『モナーク』が掲げたテーマ「エゴに従え。狂気を統べろ。」という言葉の大きさに負けないほどの林氏の理念と執着心を、インタビューを通して感じ取ることができた。

 我々はきっと、これからもゲームに救われることがあるだろう。一方ではそういう作品に“まだ”出会うことができず、心が動かなくなってしまっている人もいるかもしれない。しかし、今はとにかく自分を信じてエゴを突き通し、狂気を目の当たりにする瞬間に備えるのも良いかもしれない。

 

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』『電撃オンライン』などで、クリエイターインタビューや業界分析記事を担当。また、アニメに関する著作も。現在は電ファミニコゲーマーで企画記事を執筆中。
Twitter:@ito_seinosuke
ライター
『プリパラ』、『妖怪ウォッチ』ありがとう。黙々とゲームに没頭する日々。こっそりと同人ゲーム、同人誌を作っています。ネオ昭和ビジュアルノベル『ふりかけ☆スペイシー』よろしくお願いします。
Twitter:@zombie_haruchan

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