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『アーマード・コア』があまりに強すぎて「フロム・ソフトウェアから直々に出禁をくらった」と噂される伝説のレイヴン・YOU氏に20年越しの真実を聞いてきた

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  突然だが、みなさんは『アーマード・コア』をご存知だろうか。

『アーマード・コア』が強すぎて「公認イレギュラー」になった伝説のレイヴンに話を聞いた_001
(画像はニュース | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

 「チュートリアルがクリアできない」、「鬼畜難易度のミッション」と高難度ゲーとして名を広く知られ、「身体は闘争を求める」のネットミームとしてもおなじみの、フロム・ソフトウェアが手がける「3Dメカ戦闘シミュレーター」の傑作である。

 自分だけのロボットを組み上げて戦う──男のロマンここに極まりといった作品だが、「俺の機体最強」とナニカが極まってしまったり、多くは語られない劇中設定から「フロム脳」と呼ばれる妄想が極まってしまったりと、「刺さる人には刺さりすぎて、人生すら変えてしまう」ことでも有名だ。

 そんな『アーマード・コア』シリーズだが、シングルプレイのミッションとは別に、「ユーザー同士の対戦プレイ」もシリーズの大きな魅力のひとつ。

 数あるパーツの中から自分だけのAC【※1】アセンブル【※2】、「プレイヤー VS CPU」ではない「プレイヤー VS プレイヤー」との対戦が行える2P対戦は、シリーズ第一作である1997年発売の『ARMORED CORE』から引き継がれる伝統ともいえるモード。ユーザー同士の対戦会に留まらず、これまでフロム・ソフトウェア公式、公認の大会が多く開かれている。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

※1「AC」
読みは「エーシー」「アーマードコア」など。多数のパーツを組み合わせて構築される人型兵器「アーマード・コア」の略称としてシリーズプレイヤーに多用される言葉。シリーズそのものを指す場合もある。

※2「アセンブル」
プレイヤー間でAC構築を指す言葉。更に省略して「アセン」などとも呼ばれる。

 そんな本作で「あまりに対戦で強すぎるためにフロム直々に出禁を喰らったイレギュラー」と噂される伝説のレイヴン【※3】がいることをご存知だろうか。「認定レイヴン【※4】」ではなく「認定イレギュラー【※5】なのだ。

 当時から約20年という年月が経っていることもあり、この「伝説のイレギュラー」について残っている情報は少なく、「大会出禁」は無論として、「現在まで続く伝統の戦法を開発した」という真偽不明の噂に至るまで、現在となっては「極めて断片的な情報」しか得ることができない。

※3「レイヴン」
直訳すればワタリガラス。ゲーム世界内でACを操縦し、依頼を遂行する傭兵たちの通称。また『ARMORED CORE』から『ARMORED CORE LAST RAVEN』までのプレイヤーを指す。「レイブン」ではなく「レイヴン」。世界観が一新される『ARMORED CORE 4』から「リンクス」。

※4「認定レイヴン」
フロム・ソフトウェア公式、公認の大会で優勝・準優勝し、認定証を送られたレイヴン。猛者中の猛者である。ランカーレイヴンと呼称される場合もあり、中でも複数の認定証を保持するランカーはトップランカーと呼称される。

※5「イレギュラー」
ゲーム内で主に「秩序や均衡を破壊する者」を指して使われる言葉。ストーリー中盤から終盤にかけてプレイヤーがイレギュラー認定されるのがお約束とも言える流れである。伝説のレイヴンはそんな称号を開発であるフロム・ソフトウェアから直々に贈られた、名誉ある称号だ。

 しかし今回、電ファミではついにその「伝説のフロム公認イレギュラー」YOU氏にコンタクトをとることに成功。

 栄光の影の苦悩、かけがえのない仲間、その後の物語。いちレイヴンから伝説のイレギュラーとなり、父となった伝説の男。約20年という時間を経て、今ここに姿を現します。

 COM : システム キドウ 

聞き手・文/夏上シキ
聞き手・編集/実存


その男はいかにしてレイヴンとなり、イレギュラーとなったのか

──本日はよろしくお願いいたします。率直にお聞きしたいのですが、YOUさんが「フロム公認イレギュラー」「公式大会から出禁になった」というのは事実でしょうか? 

YOU氏:
 そうですね、事実です。大会で4回目に優勝した時なんですけど、フロムさん的にもそろそろ新しいチャンピオンが欲しかった頃とは思うんですが、それを自分がことごとく阻止してしまって(笑)。

 当時の営業部長さんだったかな? から口頭で「公式大会にはもう出ないでください」って言われました(笑)。

──今回の取材で最も確認したかった事項ですが、事実でしたね……。

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初代ACシリーズでYOU氏が獲得した認定証

YOU氏:
 とはいえ、「実力で圧倒していた」というわけではなくて、大会の決勝戦ともなると猛者ばかりが集まってくるので、最後のギリギリをなんとか勝てたという場面も多かったですよ。

──その「出禁」が言い渡されあと、YOUさんはどうされたんですか?

YOU氏:
 フロムさん主催の公式大会とは別枠で、認定証が出る公認大会では計9回優勝しましたね。出禁になってモチベーションが下がっていましたが、いい刺激になるような出来事もあって、なんとか復帰できて。

 フロムさん的にも認定証はほいほい出せるようなものではなかったらしいんですが、それでも「認定証持ちが認定証を取る」状況が続いたので、最終的には「修羅ブロック」という認定証持ちだけが集められて、必ず1枚は認定証を持っていない人にも行き渡るような制度が作られたりもしましたね。

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左上:AC2.AC2AAシリーズの認定証
右上:AC3以降の公式・公認大会での認定証

──もう大会側が「ランカーレイヴン」を制御できない感じだったと。

YOU氏:
 やっぱり、認定証持ちが来るとほぼ優勝してしまうんですよ。なので一時期、本当に新しい認定証持ちが出なかったくらいで。

 東京ゲームショウ杯というのもあったんですが、歴代チャンピオンには「出ないでください」的なことが書かれた手紙が送られてきてましたね(笑)。

──みなさん、身体が闘争を求めていらしたんですね。

YOU氏:
 「あなた達は殿堂入りしてるし、もう既に十分強いの分かってるから出ないでね。もういいでしょ」みたいなね(笑)。

──当時、YOUさんは、フロムさんからはどういった感じで呼ばれていたんですか。

YOU氏:
 “大会荒らし”とかですね(笑)。

 とはいえ僕だけじゃなくて、認定証持ち全員が“大会荒らし”でしたよ(笑)。

 お互いに「あれ、またいるじゃん」って。離れた地方の大会なのに知った顔とばかり当たるんです(笑)。

──やはり「認定証が出る」というのが大きかったんでしょうか。

YOU氏:
 そうですね。もう今だと許されないレベルの熱気です。もはや狂気ですね。みんな顔が「殺すから死ね」なんですよ。

──そんなに殺気だっていたんですか……! 同じく競技性のある大会といっても、昨今のeスポーツとも雰囲気が違いそうですね。

YOU氏:
 そうですね、「俺が勝ちたい」「俺が勝ちたい」の狂気の渦でした。

 もう完全に自己満足ですよね。自己満足の押し付け合いで「俺が勝つから死ね」って。一番の友人からは「会場から立ち去れ」なんて言われたりもしまして(笑)。

 主催者からすればランカーレイヴンが来る、特に名が知れたトップランカーが来るってことになれば盛り上がるんですけど、「他の参加者が認定証を取れるのか」ってのは別の問題なんですよ。初戦でいきなりトップランカーと当たっちゃうともう絶望ですよね(笑)。

──トップランカーならまだしも、YOUさんは「公認イレギュラー」じゃないですか。対戦相手の絶望感が20年越しに察せます。

YOU氏:
 当時の僕は対戦中にガム噛んでたんですよ。気持ちを落ち着かせるのと、相手を精神的に動揺させるのを狙って(笑)。しかも、わざとクチャクチャ音の鳴るのを選んでて……。

 もう、今考えると最低ですよね。あまりに柄が悪すぎるだろって(笑)。

──まさしく修羅。ちなみに、当時の公式大会ってどんなふうに開催されていたんでしょうか? また、どれくらいの人数が集まっていたんでしょうか?

YOU氏:
 大会に参加する際は、まずフロムさんに参加表明の手紙を出して、そこから抽選が行われるという形式でした。大会が開ける最少人数が16人という規定があったので、どの大会でも最低それだけの人数はいたはずです。

 僕が初めて優勝した時はヨドバシカメラさんが協賛の大会だったんですが、抽選に漏れてしまった人とかも含めて、100人前後はいたと思います。

──なかなかの規模だったんですね。

YOU氏:
 しかも、それまで大会自体はちょくちょくあったんですが、「フロムさんが認定証を発行する」という制度が始まったのもその大会だったんです。参加者のテンションはもう爆上がりでしたね。

 そこで、その大会の日がちょうど自分の誕生日でもあったので、「自分に最高のプレゼントをしよう!」と思ってすごく気合いが入って。その勢いで初優勝したんです。

──後の「伝説のイレギュラー」はその初陣もドラマチックだったんですね……!公式の大会が開かれるまでは「野良対戦会」のようなものに参加されていたんでしょうか?

YOU氏:
 『アーマード・コア』は画面を分割して対戦ができたので最初はそれで友人とかと遊んでいたんですが、「大きい画面で自分の機体を動かしたい」って欲望が出てきて、気づいたらモニターが増えてプレステ本体が増えて【※6】…といった感じでした(笑)。

 あと、当時はインターネットの掲示板が出始めた時期でもあったんです。当時、僕はパソコンは持っていなかったんですが、友人がインターネットの環境を持っていたので借りていました。認定証の1番を持っている方が運営していたホームページで、対戦会の募集も行われていましたよ。

※6「対戦環境」
PS1時代の『ARMORED CORE(以下、初代)』『ARMORED CORE PROJECT PHANTASMA』(以下、PP)『ARMORED CORE MASTER OF ARENA』(以下、MOA。これらをまとめて初代3部作と呼称する)では1画面を2分割して対戦するほか、それぞれ「PS1本体、モニター、ディスク」に加え、本体同士を繋ぐ対戦ケーブルを用意することで、プレイヤー両名がそれぞれ1画面を使用可能な対戦環境の構築が可能だった。

──間違いなくガチですね。そんなYOUさんが『アーマード・コア』に触れたキッカケをお聞かせいただけますか。

YOU氏:
 最初は『アーマード・コア』ではなくて『ヴィークル・キャバリアー』という3Dのロボットゲームを友人と遊んでいたんですが、「ポリゴンのロボットを動かす面白いゲームがあるよ」って友人に薦められたのが『ARMORED CORE』だった、というのがキッカケです。そこから遊んでいくにつれて「ACの大会があるらしいよ」と聞いて火が点いたというか。

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(画像はAmazon | ヴィークル・キャヴァリアー | ゲームソフトより)

 当時の僕はカラサワ【※7】とかを中心に「自分の好きな機体」を組んで遊ぶ感覚で、友人と勝ったり負けたりを繰り返していたんですが、そのノリで大会に行ったらレベルが違うんですよね。まず勝てない。そこで「自分の戦術やアセンをしっかり構築して努力して勝ちたい」という気持ちが芽生えました。

※7「カラサワ」
WG-1-KARASAWA。通称カラサワ。カテゴリはプラズマライフル(PPよりレーザーライフル表記へと変更)。ゲーム内でも屈指の瞬間火力と継続火力を誇る射撃武器だが、主に重量や射撃補正の関係で取り扱いが非常に難しい(対人戦では特に顕著)。当時、大流行していた某決戦兵器の某陽電子砲が元ネタと言われており、素敵なビジュアル【※8】とロマンのある性能から愛用レイヴンは多かったらしい。KARASAWAの名前は初代、PPのプロデューサーである唐澤靖宜氏から取られている。

※8「素敵性能」
素敵な性能。時にレイヴン達は実用性ではなく、外見を最重要視してアセンすることもある。大抵は悲惨な性能のACが完成するが、素敵性能の前では実戦性能など不要である。上記のカラサワは一定の性能とビジュアルを両立した素敵なパーツ。

伝説のイレギュラーの記憶

──現在ではオンライン対戦が主流ですけど、当時はプレイヤー同士が集まって、顔を合わせての対戦だけですよね。そういった環境の中での思い出はありますか。

YOU氏:
 全てが思い出といった感じですが、じつは公式大会を出禁になって以降、かなりモチベーションが下がってしまって。それから、やっとユーザーの有志が開催する公認大会に出ようって気になったのが愛媛の大会なんです。

 当時、ネット上で知り合った九州の方々が愛媛に集まるってことでモチベーションが戻ってきて参加しようと。いざ会場に足を運んだら九州だけじゃなくて、もう関西とか関東とか全国から集まってきてましたね。

 今みたいにSNSで情報交換できる時代でもないので、みんな「個性的な戦術やアセン、ACへの世界観」を持っている。それが一気に集まった熱気を感じられて、もの凄く刺激になりました。僕は2回戦で負けちゃったんですけど。

──なるほど。まるで青山ゼロヨン【※9】のようなエピソードですね。

※9「青山ゼロヨン」
1980年代、国道246号線の青山一丁目から青山三丁目の信号機間約400mで行われた公道レース。もちろん今も昔も暴走行為は違法だが、当時は全国から走り屋が集結し凄まじい熱気を持っていたとか。

YOU氏:
 もうみんな凄い殺気なんです。「俺のACでお前を殺してやる」みたいな(笑)。ただ対戦が終わると「なにこのおバカな人たち」ってなるんですよ(笑)。

 面白いカツラを被ってきて負けると「脱帽~!」とかいう人とか、コスプレイヤーみたいな感じで出てきたりとか、とにかくいろいろな人と戦術とACに刺激を受けました。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──ユーザー有志の大会は各地で開催されていたようですが、フロムさん公式の大会は都内が多かったんですか?

YOU氏:
 そうですね。例えば「ハイパープレイステーション杯」というのがあったんですけど、それは全国で予選会を行って勝ち上がった人が関東に集まってきてもらうという感じで。

 ただ、それ以外にも全国規模でやってたみたいですね。関西は関西で大きな大会を開いてたりするらしい、というのは聞いていました。

──大会でも証明されたYOUさんの強さはどこから来たものなんでしょうか。

YOU氏:
 当時ですが、九州の人たちって個性的なアセンの機体を持ち出してきていたんです。地理的な関係もあって対戦はなかなかできなかったんですが……。関西から関東、自分の近辺とかだと頻繁に対戦を行うので、時間が経つにつれて似たようなアセンになってくるんですよね。だから、機体だけ見れば同じような機体が多かった。

 正直に言うと、僕は凄い技を持っていたとかいうわけではないので、もうとにかく練習でした。1日最低でも5時間、長ければ8時間くらい。寝ても覚めてもプレステに電源を入れてという生活でしたね。そう考えると「練習量」だったんじゃないかなと思います。

──5時間から8時間……!もはやアスリートですね。当時、お仕事はされていたんですか?

YOU氏:
 仕事は一応していました。なので、それ以外の時間は全てつぎ込むという形で。CPU相手の練習から、大会で知り合った方とかの対戦会までひたすらやっていました。

 でも大会とかが近くなると「この機体で行くよ」とかっていいながら、当日はまったく別の機体を出したりとかね(笑)。スポーツマンシップとかなんて何もない、勝つことだけが全てという感じで。今になって思い返すと「酷いなぁ」って思いますけど(笑)。

──お一人の際はどのような練習をされていましたか?

YOU氏:
 地雷伍長【※10】というPP(『ARMORED CORE PROJECT PHANTASMA』)で一番弱いACを相手にひたすら戦っていました。弱いのは間違いないんですが、想定しないような動きをしてくれるので、それをひたすらブレードで斬り続けて。同じようなコトを延々と繰り返しているだけなんですが、とにかく攻撃の精度を上げるという練習でしたね。

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(画像はARMORED CORE -PROJECT PHANTASMA- PlayStation the Best | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

 当時、僕は「固め斬り【※11】という戦法をメインにした剣豪機【※12】を使っていたので、ハンドガン【※13】月光【※14】を装備したACで戦っていたんですけど、その能力を最大に発揮できるようにするためだけにもう何時間でも(笑)。

※10「地雷伍長」
AC「デンジャーマイン」を操るNPCレイヴン。PPのアリーナモード(1vs1のタイマン勝負ができる)で真っ先に対戦する相手(あまりに標準的な機体に加えて弱いAI)であり、大抵はプレイヤーに瞬殺される。ただ、新しくアセンしたACのテスト相手などには持ってこいなため、PPプレイヤーであれば印象深いレイヴンの1人。

※11「固め斬り」
敵へ大きな反動を与える射撃武器で敵ACの足を止め、ブレード攻撃をヒットさせるテクニック。ブレードは威力こそ大きいものの、射程が非常に短く、敵も動き回っているので命中させるのは難しいが、相手を無防備な状態にして斬りに行くことで、命中率を大きく向上させることができる。主に初代3部作で流行した戦術のひとつ。

※12「剣豪」
主にブレードでの攻撃をメインダメージソースとする機体やアセン、戦術を指す。ACの武装はブレードだけでなく、もちろん射撃武器も含まれるため、接近するまでの回避技術や高度な操縦技術を要求され、難易度は極めて高い。この他にも射撃武器をメインとする「ガンナー」、ミサイルをメインとする「ミサイラー」、ステージの地形を利用した局地戦を展開する「ゲリラ」などが存在。

※13「ハンドガン」
初代3部作のハンドガンは一部を除いて「有効射程が短い」「ロックオン範囲が大きい」「命中時、大きな反動を与える」という特徴があり、剣豪からミサイラーの近接防御まで、幅広いレイヴンに愛用された。

※14「月光」
LS-99-MOONLIGHT。通称「月光」。フロム作品ではおなじみの「ムーンライトソード」。重量こそあるが、他のブレードの約2倍の威力を誇るため、一部のアセンを除き、剣豪機でなくても装備されることが多かったらしい。

──「固め斬り」という戦術はユーザー間で自然に発生したんですか?

YOU氏:
 僕が聞いたところだとMOA(『ARMORED CORE MASTER OF ARENA』)のチャンピオンアリーナ【※13】にも登録されている、機体「Hi-ジハード」の「エフネ」さんという方が「固め斬り」を世の中に広めたという風に聞いています。

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(画像はAmazon | アーマード・コア マスターオブアリーナ PS one Books | ゲームソフトより)

 それまで「高火力の射撃武器で、いかに相手よりも先に落とすか」という感じだったのが、空中斬りと言って「自ACが地に足を着いていない状態で敵ACにブレードをヒットさせるとダメージが3~4倍まで跳ねあがる」テクニックが、固め斬りの浸透で行いやすくなった。1発で戦況が大きくひっくり返るので「僕もそれで行こう」という形でやり始めたんですね。

※13「チャンピオンアリーナ」
MOAに収録されているアリーナモードのうちのひとつ。MOA発売までの歴代公式大会優勝者たちのACと戦うことができる。機体はご本人のアセンだが(一部、変更が加えられている場合もある)、中身はもちろんAIのため、本人ほどの強さは持ち合わせないものの、戦闘スタイルを模倣したAIが組み込まれており、並みのレイヴンでは太刀打ちできない圧倒的な強さを持つ。「YOU/パラダイスロスト」として、YOU氏も登録されている内の1人である。

──少し派生する話ですが、いわゆる「メテオ斬り」の祖がYOUさんとお聞きしているんです。

YOU氏:
 そうですね……公式戦で初めて「メテオ斬り」をやったのは僕だと思います。あくまで認知されたってだけで、すでに他の方がやられていたかもしれませんが。それまでは横からの戦いが多くて、上空から仕掛けるという戦法が発展していなくて。結局、ハンドガン同士で平面で戦闘をするので、お互いに足の止めあいになって斬りに行けなくなるんです。

 なので「上から狙って迎撃を困難にさせれば強いんじゃないか」ってふと思って、ひたすら練習して、それを2~3週間後の大会で試したんですね。そうしたら、決勝戦の残り15秒でそれが決まって優勝したんです(笑)。

──それは間違いなくイレギュラーじゃないですか(笑)。

YOU氏:
 相手は緑ライフル【※15】ガンナー機AP【※16】が3000くらいあったらしくて、自分のAPが残り100くらいしかなかったので、1、2発被弾すれば負けてしまう状況で。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

 ハンドガンの残弾も0になっていて、成功確率もそれまで20~30%くらいしかなかったんですが、でも「これしかない」ってことでやるしかなかった。それが成功したんですね。
 周りの観客の方も喜んでくれて、決まって良かったなと今でも思います。それが決まったから周知されたのかと思います。

※15「緑ライフル」
WG-RFM118。火力、命中率、射程、連射性能、ロック範囲をバランスよく備えた実弾ライフル。ガンナー機が装備することが多かった。緑色の外見から「緑ライフル」と呼称され、素敵性能と実戦性能を両立している良パーツ。

※16「AP」
ACの耐久力。俗にいうヒットポイント。組み合わせるパーツによって増減する。パーツには基礎となるAPのほか、それぞれ「耐実弾防御力」「耐エネルギー防御力」が設定されており、これらの防御力が計算されてダメージを受けることになる。

──ではその時は残弾はなかったと。「メテオ斬り」って今では「反動武器で敵を地面に落下させて斬るテクニック」と伝わっているんですが、最初は違ったんですね。

YOU氏:
 相手の着地に合わせて上空から斬りに行く、というのが原型なんです。そこから広まって、いろいろと派生が作られて。

 それまで「落下斬り」という名称で同じようなことをしようとされている方はおられたみたいなんですが、大会で決まったのが僕だったので、一気に認知度が上がったのかなと。名前も「落下斬り」より「メテオ」の方がカッコいいでしょ(笑)

 あと「メテオ斬り」って言われてますけど、正式名称は「メテオアタック」です(笑)。

──これは歴史に残る証言ですね……!「メテオアタック」以外にもYOUさんが考案された戦術はありますか?

YOU氏:
 僕が考えたのは「メテオ」くらいです。それ以降、みんなレベルが拮抗してくるので、「相手を出し抜く」のが戦いのメインになりました。戦術よりかは、成功率と引き出しの多さですか。相手の細かいミスを引き出して、引き出したミスの瞬間に当てていく。

 あとは5分間の時間制限の中での駆け引きですね。相手との読み合いだったり、メンタルだったり。ミスした方が負けるだけです。

 認定証持ちのトップランカーの実力は本当に大差ないレベルなんです。トップランカーと、それ以外だと実力差は割と大きかったかなと思いますが。

──当時の大会ってどういう雰囲気だったんでしょうか。

YOU氏:
 対戦中は静寂に包まれていましたね。お互いの息遣いとコントローラーの音しか聞こえない。周りも凄い緊張感を持ってくれている感じになっていました。

──もう大会というよりも「決闘」に近いような。

YOU氏:
 本当に殺気だっているんですよ。「これに負けたら死ぬ、だからお前を殺す」ぐらいの(笑)。なので負けた時も紳士的な人もいましたけど、中には椅子を蹴っ飛ばしてしまう人がいたりとか、そういう感じでやっていましたね。

──もう全員が「ガチ」だったんですね。

YOU氏:
 そうですね……ガチですね。僕の周りはこういう人ばっかりだっただけなのかもしれないんですけど(笑)。

 対戦以外だと本当に面白い人なんですけど、大会とか対戦になると纏う空気も表情もガラリと変わる。普段は温和な人でも冷徹に殺しに来る。

──ひとたびコントローラーを握れば、みんな「レイヴン」になる。

YOU氏:
 そうですね。みんな「レイヴン」になっちゃってるんです(笑)。今だと信じられないかもしれませんけど、ホント20年以上前の昔の話ですから。

 どうしても相容れない人もいましたけど、でも未だに連絡を取ったりとか遊びに行ったりする友人も多くいます。独自アセンの九州にもいますし(笑)。なので彼らは「自分の親以上に自分のことをさらけ出した相手」という感じです。

──レイヴンであり、友人であり、戦友でもあると。

YOU氏:
 本当にそうですね、一生涯の付き合いができました。自分が道を外しそうになった時も止めてくれたりとか……なくてはならない存在です。先月も一緒にキャンプ行ったりしてますし。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──プレイヤー間の交流という面からお聞きしたいと思います。当時は今ほどネットワークも発達していなかったとは思うんですが、どのように界隈の情報交換が行われていたのでしょうか。

YOU氏:
 主には掲示板で行われていましたね。あと、スキルとか攻略とかを書いてくれている人もいましたが、その相手が、どの程度のスキルを持っているのかは対戦してみないと分からないんです。オンラインの対戦はないので当たり前ですけど。

──今では一般的になった動画も、当時はアップロードすら難しいですよね。

YOU氏:
 動画をアップしてくれる人は本当にレアな存在でした。今みたいにYouTubeとかニコニコとか、Twitterとかもそうですけど、容易に上げられる環境ではなかったので。

 やっぱり、実際に現地に足を運んだり、なんなら対戦してみてという。負けてもいいから対戦して「相手の得意なこと」をどんどん引き出していく。自分の中に消化して、戦術に組み込んでいったりしてました。

──SNSみたいなのも当時はありませんからね。

YOU氏:
 はい。なので、結局は現地で拳を交えるのが一番だった。あとは雑誌とか攻略本とかですかね。ただ、今だからこそ言えますが、攻略本は役に立ちませんでした(笑)。

──トップランカーには攻略本が通用しない(笑)。

YOU氏:
 大会の時とかに業者の方が来られて、いろいろと披露してくれてたんですけどね。「うーん…」って感じで(笑)。

 「実戦向きじゃない」「対戦やってないんだろうね」って、みんな感じていたと思います。

 フロムさんのサイトではみんな「夢中になって読んでたよ!」みたいなことを書き込んでたんですが、「いや実際は誰も読んでなかったよな…」って。口に出しては言いませんでしたけど(笑)。

──そんなトップランカーたちの間でも最強の一角だったことは間違いないYOUさんですが、当時ライバルだったって方はおられましたか?

YOU氏:
 たくさんいました。同じチームにミサイラーがいたんですけど、彼には2ヵ月近く勝てなかったり、九州のチームを率いられてた方には、遮蔽物だったり地形を使う「今っぽい」戦い方をする方がいたり。

 「自分のチームのライバルだ」って公言して戦いを挑んでくれた大阪のチームがいたりと、本当にいろいろな方がいましたね。

──当時はチーム所属のレイヴンが多かったんですか?

YOU氏:
 チームに属している人が多かった印象はありますね。もちろん個人でやられている方もいましたが、無理やりチームに勧誘したり。「君の技術をウチのチームで」みたいな。

──YOUさんもチームを率いられていたんでしょうか?

YOU氏:
 そうですね。「GunBlade」というチームのリーダーでした。一番人数が多いときでは50人近くはいましたかね。認定証持ちも10人くらい。対戦会も毎週のようにやっていました。

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YOU氏が当時運営していたホームページ

──50人のメンバーと認定証持ちが10人って一大勢力ですよね。

YOU氏:
 なので「打倒ガンブレ」ってことで立ち上げられたのが、前にも軽く触れましたが、大阪の「Tempest」ってチームだったんです。「メンバー全員が認定証持ち」のバケモノチームで(笑)。

──打倒の意気込みが強すぎませんか?(笑)

YOU氏:
 本当にバケモノばかりで。あとは九州の「AngraMainu」というチーム。いい意味で頭おかしかったですね(笑)。「九州ってバカしかいないのか」って感じで笑わせてくれるんですけど、対戦になると想定を覆すような戦いをしてくる。みんな良きライバルでした。

 ネットだと「僕が圧倒的に強かった」みたいな書き方をされていますけど、全然そんなことはないんですよ。僅かな差で勝ててた。勝ち逃げされて「いつか絶対倒すからな~!」って思ってたら、対戦する機会がなくなっちゃったとかもありますから。

──初代発売(1997年7月発売)からMOA(1999年2月発売)発売まで、ゲームとしての時間が長くないとは思うんですが、現在に残っている情報だと、その短期間の間に戦術やアセンなど目まぐるしい進化を遂げていたと。その中で、YOUさんが影響を受けたものとかはありますか。

YOU氏:
 ありますね。自分が初めて優勝した時が「指」【※17】「核」【※18】を装備したアセンが主流で、固め斬りをする人って少なかったんです。最初の頃はそれもあって勝てていたのかなと思いますが、どんどん情報が広がって、ハンドガンを持つ同じような機体が出てきて。お互いの実力で勝負するしかなくなるんですよ。

 最終的には、障害物とか地形をフルに活用したり、僕は防御力が高めの機体だったので、相手を削って時間切れさせて、AP差で勝つことを狙ったりとか。強引に斬り込んでいくだけ剣豪スタイルだけではなくて、さまざまな戦法が混ざっていった感じです。

※17「指」
WA-Finger。通称「指」。PPより追加されたマシンガン。射程が極めて短い代償として、凄まじい瞬間火力とそれなりの継続火力を発揮できる。非常に強力なパーツであったため、次作のMOAにて弱体化された。

※18「核」
WM-AT。通称「核」「核ミサ」。PPより追加された肩武装。弾速こそ遅いものの、高い追尾性能と凄まじい威力のミサイルを発射する。非常に強力なパーツであり、こちらも次作のMOAで弱体化された。

──機体が似通ってくるからこそ、戦術面だったり「自分の引き出しの多さ」が進化を遂げていったと。

YOU氏:
 瞬間の瞬間の判断が勝負に直結していくようになりました。その判断をするために、いろいろな戦術を知っていた方がいい。そういうことです。
 あとは、最終的には通信対戦の「ラグ」が左右するところまでいきましたね。じつは1P補正みたいなものがあって、2P側は微妙に弾が当てにくいという仕様があったりしたんです。あまりに突き詰め過ぎて、普通なら気づかないようなところまで行ってしまったと。それでも勝てなくなるってわけではないんですが、勝負の要素にはなっていたのかな。でも、バランスは良かったと思いますよ。

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(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

──今だとオンラインのアップデートで上方修正、下方修正がありますけど、そうした調整がない中で実力が均衡するまで行くというのは、『アーマード・コア』の対戦ゲームとしてのバランスもかなり良かったのかなと思わせます。

YOU氏:
 プレイヤーが「勝ちたい」、「強くなりたい」と同じ気持ちを持っていたというのも大きいと思います。そういう人たちが『アーマード・コア』に集まってくれたからこそ、自身も刺激を受けたし、高みにも登れたかなと。環境が良かったと思います。

──「指」「核」アセンはPPの頃だと思うんですが、それ以降のMOAだとどのような移り変わりがあったんでしょうか。

YOU氏:
 MOAはPPで猛威をふるった武器が弱体化して、ハンドガンも白ハンド【※19】から銀ハンド※20】へ移行したりして、かなり環境が変わりました。プレイヤーのレベルが更に上がっていたので「固めなくても勝てる」人が出てきたりね。

 PPk【※21】だったり、ちょっとバランスブレイカー気味だったけど、エネルギーマシンガン【※22】を持って装甲をガチガチに固めたりすると凄く強くて。最終的には「銀ハンドかエネルギーマシンガンを持った固い機体」という二極化に至ってしまった感はありますね。

※19「白ハンド」
WG-HG235。初代から登場するハンドガン。後に銀ハンドに立場を奪われる。

※20「銀ハンド」
WG-HG1。PPより追加されたハンドガン。反動が大きく、アセンによって安定性を高めて無効化することは不可能。

※21「PPk」
WG-XFwPPk。PPより追加されたエネルギーライフル。MOAで重量増という形で弱体化されているが、高い攻撃性能は変わらず。素敵性能も高め。

※22「エネルギーマシンガン」
MG-MG500/E。MOAで追加されたシリーズ初のエネルギータイプのマシンガン。非常に強力なため、大会での使用が禁止されかけたこともある。

──お聞かせいただいた内容だけでも、かなりカオス感がありますね。戦術がそこまで進化していなかった環境も含めて、初代とかPP初期辺りのバランスが良かった感じでしょうか?

YOU氏:
 よく言われていたのが、「初代のデータをPPで引き継いだデータで対戦する」という「イエロールール」ですね。データを引き継いだ機体は、カラーリングが黄色くなることに由来しているんです。

『アーマード・コア』が強すぎて「公認イレギュラー」になった伝説のレイヴンに話を聞いた_017
(画像は詳細 – 製品情報 | FromSoftware – フロム・ソフトウェアより)

 それが「一番バランスが取れている」という人もいましたね。でも「なんでもありのガチガチがいい」って人もいましたし、後期は割とみんな好き勝手にやってました。

──YOUさんはどちらでしたか?

YOU氏:
 ウチのチームはもう「なんでもアリ」な感じで。「その時々で、とにかく一番強いものを目指そう」というスタイルでやっていましたね。

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ライター
『アマガミ』に脳を破壊された結果、フリーランスライターに。FPSやTPSをメインに遊ぶトリガーハッピーだが、ノベルゲーやレトロゲーも好む雑食ゲーマー。美味しいご飯とお酒もゲームと同じくらい好き。
Twitter:@Shiki_Natsugami
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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