『チェンクロ』のリリース前には「ストーリーは別にいらないんじゃないか」と言われていた
寺島氏:
今回ちょっと、『チェンクロ』から『シンクロ』に至るまでの、開発の歴史的な話もしたいなと思っていて。
リリース当時を思い出すと、『チェンクロ』の扱いが妙に悪かったんですね。でも、僕らはメディアとして「こんなに面白いんだから盛り上げなきゃいけないよね。セガはいったい何を考えているんだ」みたいな話をして(笑)。
松永氏:
(笑)。
寺島氏:
それで「これが本当のRPG!」だの「これはポチポチゲーではない」とかって、みんなで記事を書いて。
当時の記事が週刊アスキーのサイトに残っているんですけど、「これがちゃんとしたゲームなんだよ」みたいな事を書いていて。セガさんは「本格RPGですよ」と言ってるだけなのに、メディアのほうが「これは真のRPGだね!」みたいなことを言っていて、なんだか今と逆だなって、思い出して懐かしかったんですけど(笑)。
松永氏:
昔の話で、恐縮ですけれども。あのときは、本当に嬉しかったです。
寺島氏:
当時、端から見ていてもストーリーを売りにしているスマホゲームって、『チェンクロ』が出る頃まではぜんぜんなくて。実際のところ、PvPもなくてマネタイズも弱そうだから、それで冷遇されているのかな? って印象があったんです。
なので実際に『チェンクロ』を作るにあたって、「これはどうやって売るんだ?」と言われたりとか、そういった記憶ってありますか? 企画を通すのが大変だった、とか?
松永氏:
そうですね、宣伝チームのえらい人にまさにそう言われました(笑)。
結果、当時はいわゆる「ノンプロモ」なタイトルだったので、お察しの通りの状況の中で出させていただいて。そういった意味でメディアさんに支えていただいたり、ユーザーさんの反響をすごくいただいて、それで大きく広がっていって状況が変わっていった、という形でしたね。
寺島氏:
セガ社内で作るに至るまで、企画の審査とかってありますよね?
松永氏:
はい。
寺島氏:
『チェンクロ』の前に売り上げ1位を出したセガの『キングダムコンクエスト』だと、プロデューサーの椎野さんを取材した時に、「そのままやっても企画が通らないから、会社をだまして『キングダムコンクエスト』を作ってた」とおっしゃってましたが(笑)。
一同:
(笑)。
寺島氏:
『チェンクロ』の企画は普通に通ったのですか?
松永氏:
普通……ではないかも。あまり理解はされてなかったですね。最初書いた企画書は、まったく売れるポイントが見当たらないから、プロモーションのかけ方がわからないとはっきり言われましたし。
で、仕方ないので1ヶ月で無理矢理バトルシステムだけ作ったんです。そしたら、「バトルは面白い」と社内でも言ってもらえたんですけど。結果、リリースする瞬間まで「ストーリーはいらないんじゃないか?」と、ずっと言われていましたね(苦笑)。
寺島氏:
どうしてストーリーはいらないという評価だったんですか? セガだとソーシャルゲームだけではなくて、それまでにずっとゲームを開発していた方もいらっしゃると思うんですけど、それでもそういう空気で言われてしまうんですか?
松永氏:
やはり、当時はストーリーがあるから売れている、というスマホRPGが無かったからですかね。……でも、ストーリーがあるRPG自体は、ないこともなかったですよね?
寺島氏:
一応、2012年に『拡散性ミリオンアーサー』【※】がありますね。
※『拡散性ミリオンアーサー』
2012年にiOS/anroid向けの配信が開始されたカードバトルRPGで、その後PlayStation Vitaやニンテンドー3DSでもサービスが行われた。シナリオや世界観設定などを『とある魔術の禁書目録』で知られる作家の鎌池和馬氏が手がけていた。ゲームだけでなくアニメや実写ドラマなど、さまざまな展開が行われた『ミリオンアーサー』シリーズの第1作である。2022年現在、すべてのプラットフォームで運営が終了している。
松永氏:
ですよね。会社の特性だったのかもしれません。「バトル部分が面白いんだから、ストーリーなしでこのまま出せば?」ということを、ずっと言われていましたね(笑)。
寺島氏:
今はもう当たり前になった「バトルを戦ったキャラクターに経験値が入る」というシステムを、ガチャを使ったスマホのゲームとして『チェンクロ』が初めて導入したじゃないですか。松永さんの過去のインタビューを振り返ると、その仕様にも「関係者の95%が反対していた」とおっしゃっていて、改めて驚いたんですけれども。
なんでそういう空気だったんですかね? 戦ったキャラクターが成長しちゃいけなかったんでしょうか?
松永氏:
覚えてはいないんですが、それも当時のゲームが全部そうだったから、というだけだと思います。今も昔もそうですが、他がやっていないことは反対されるものなので。
当時のスマホゲームにはいわゆる「カードRPG」というようなイメージがあったんです。キャラクターというよりは、「ユニット」だったり「カード」だという見え方が強くて。『チェンクロ』はそれを「一緒に冒険する仲間だ」と、キチンとプレイヤーさんに感じてもらうことをいちばんの目標にしていました。
そういった意味では「戦うことで強くなる」という要素も、あってしかるべきだなぁと。それって、いわゆるコンシューマRPGでは一般的な体験だと思うので、その体験は必要だろうということで入れていたんですけれども。
寺島氏:
当時、私も「戦ってもキャラが成長しないのはおかしい」と思っていたのですが、『チェンクロ』が出たあとで、いろんなメディアのレビューが「戦うことでも成長できるんです」と、そこを大きな特徴として書いて。
プレイヤーも、メディアも、開発者も、やっぱりみんなそう思っていたんだ、と10年越しに納得できました(笑)。
松永氏:
なんか、ありがとうございます(笑)。あぁ、そうか。当時はそういうふうに言われていたんですね……。
今回の『シン・クロニクル』だと、むしろ戦闘でしか経験値が入らない形にしています。キャラクターと冒険して物語を感じる感覚って、やはりストーリーテキストだけでは生み出せるものではなくて。
一緒にフィールドを歩いたり、一緒に戦ったりといったゲーム的な体験も、セットになって初めて物語として感じられるというか、そこってすごく大事だよなと思っていて。
なので「キャラカード合成」みたいなのはなくて、今回はバトルのみでキャラクターが成長していくようにしています。あとは戦いの結果によって、いわゆる信頼度、絆が上がっていくようなフィーチャーが入っていたりして。ストーリー以外の部分でもキャラクターと一緒に冒険している感覚をキチンと感じてもらえるゲームシステムになってるので、一層楽しんでもらえると思います。
寺島氏:
そうすると「ボスを倒せるようにコツコツとレベルを上げていく」という、家庭用ゲーム機のRPGみたいなプレイ感覚になりますよね。
松永氏:
そうですね。今回は「ハックアンドスラッシュ」というか、武器をドロップして、良い武器を集めて進むような体験もあります。
それと、キャラクターによって装備できる武器の種類とかも違っていたりするので、ドロップの結果によって「パーティを入れ替えようかな?」とユーザーさんが判断することもあると思います。そしてパーティを入れ替えた結果、発生するドラマが変わって……という感じで、なんというかストーリー要素とゲーム要素が混ざりあうようになっています、
ストーリーとバトルや育成要素が混然一体となった、「ゲーム全体で感じてもらえるRPG体験」を、今回味わってもらえればと思います!
アーケードの『三国志大戦』や『戦国大戦』の時点で、すべてのキャラにストーリーを用意することは実現できていた
寺島氏:
『チェンクロ』で偉大だったというか、発明だと言っていいのは「全部のキャラクターにストーリーがある」ことだと思うんです。今ではもう普通になっていますが、これも業界初だったことですけど、セガ社内ではどういうふうに受けとめられていましたか?
当時、他のゲームでは絶対に発生しないほどに手間がかかる作業だったと思うんですよね。
松永氏:
確かに手間はかかりましたね。
寺島氏:
それもやっぱり、「なんでそんなことをやってるの?」といった反応だったのですか?
松永氏:
そうですね。なにしろキャラクターストーリーどころか「ストーリーはまったく入れなくていいよ」と言われてましたから(笑)。
ただ、僕自身はそれをあまり無茶なコストとは感じていなくて。その前にやっていたアーケードの『三国志大戦』や『戦国大戦』のシリーズには、ストーリーモードというのがあって。そちらでもキャラクターひとりずつにストーリーを用意していましたから。なのでけっこう普通に「そういうのはやったほうが面白いよね!」という感覚で作っていたのが、当時の気持ちですね。
寺島氏:
なるほど。ということは松永さんの中では常識のように作っていて、社内的にはいろいろ言われたけど、そのまま通してしまったと?
松永氏:
通したというか……「計画にも予算にも含まれていないけど、お前がやりたかったらやれ」みたいな感じだったので(笑)。
寺島氏:
松永さんに裁量権があって、その裁量権の範囲で好きにやったのが、ストーリーだったと?
松永氏:
予算にほとんど含まれてなかったので、裁量とは言えないような……。そこだけじゃなく、当時としては珍しく3Dモデルでキャラを用意したり、ボイスもたっぷり入れたり。どれも、私だけでなく当時のスタッフに、たいした予算なんてなくてもやれるだろうという技術と経験があったからです。
あとみんな、やってやろうという気概があった。「カードじゃなくキャラクターにしたいんだ」という声に、デザイナーもプログラマーもみんなやる気になってくれて。普通の見積もりだと1ヶ月に5体のはずなのに、月に20体ずつ3Dモデルを作ってくれたりして。
寺島氏:
そういえば『チェンクロ』が出た時に、ゲームマニアの間で「これでセガの本気が見れるぞ」みたいな話題になったことがあったんですよ。
それはなぜかというと、今から10年ぐらい前は「セガといえばアーケード(AM)」というイメージがあったからです。その頃は『WCCF』が大ヒットして、『三国志大戦』も『ボーダーブレイク』もヒットして、みたいな感じだったじゃないですか。そのAMの開発部隊がスマートフォンで『チェンクロ』を作っているってことで、話題になっていたんですね。
松永氏:
そうだったんですね。
寺島氏:
ライトなところでは「真のRPGだ」みたいなことを言われて、バトルでちゃんと経験値がもらえるし、キャラクター全部にストーリーがあるじゃん、とか言われていて。
一方でゲームマニアみたいなところからは、「スマホゲーなんてポチポチばかりだけど、セガのAM系が作ってるならやってみるか」みたいな感じで、上から下まで広めやすいところがあって。
今回の『シンクロ』はどんなチームで作られたのですか?
松永氏:
前回同様と言えるかもしれません、『チェンクロ』を作っていたスタッフもいれば、アーケードゲームを作っていたスタッフもいて。混成チームといった感じで。
寺島氏:
じゃあなんというか、もともとの古巣というか?
松永氏:
そうですね。長い付き合いのメンバーもかなり多いです。それこそ古くは『三国志大戦』をやってたメンバーもいますし。一方で、音ゲーを作っていたとか、コンシューマのRPGを作っていた人とか、本当に多彩ですね。結果、ストーリー性があること、直感的な気持ちよさがあること、そしてスマホのゲームであること、それぞれの良さが発揮されたゲームになったと思っています。
あと今回も、やってやろうってなってくれてるスタッフが多いです。特にメインストーリーにこだわってくれてるスタッフが強いですね。たとえばストーリー用のBGMとか、もともとは15曲くらいの予定だったんですが、シーンに合わせることにこだわってくれて、いまなんと50曲くらい作られてます。本気を感じてもらえると思います。
『チェンクロ』では、RPGとして当たり前だと思うことを実現していったら、スマホゲームではそれまでにないゲームになった
寺島氏:
『チェンクロ』をリリースして、自分なりにこういうところがユーザーに響いていたなとか、ここはけっこう業界でも評価されたんじゃないかとか、そういったところはありますか?
松永氏:
どうなんでしょう。すくなくとも、キャラクターごとにストーリーがある部分は、その後、普通になっていったというか、みなさん「そうだよな」と思ってもらえたんだなと。そこはひとつ、何か大きく業界に貢献というか、新しいスタンダードを提案できたのかなとは思っています。
あと、具体的に「ここが良いよね!」と言われたことはないんですが、『チェンクロ』はキャラクターにストーリーをつけただけで終わりではなくて、プレイヤー自身が主人公となって、自分が選んだキャラクターでパーティを組んでストーリーを進めていく時に、一個の大きなストーリーで骨太な物語を楽しんでもらいつつ、仲間のキャラのストーリーが挟まることによって、自分が選んだ仲間たちと冒険物語を楽しめている、みたいな感覚を目指していたんですが。そこは当時のユーザーさんに体験してもらえたのかなと思っています。
寺島氏:
外から見ていると、『チェンクロ』って「ストーリーが商売になる」ことを証明したゲームのひとつだと思っているんです。
たとえば、レア度の低い商人のキャラクターがいて、そいつが「天使みたいなんだけど強欲な、二面性を持つ商人」という描かれ方をしていて。「このキャラいいよね」とパーティに入れて使っていたら、第3部とかになった時にレア度が上がって出てきて。でもほしいからガチャで課金しちゃう、みたいなところがあって(笑)。
低レアのキャラクターにもちゃんとキャラクターとしての演出がされていて。そのキャラの成長したバージョンがのちのちに出てきた時に、「絶対にガチャを引いちゃうよね」とか、イベントで出てきた時に「このイベントはやり込まなきゃ」みたいなのが『チェンクロ』の体験として、ソーシャルゲームの体験として新鮮だったなと思っていて。
「キャラクター性をちゃんと付ければ商売になるから、ストーリーを付けたほうがいいんだよ」というのも、ゲームとして説得力を持たせたなって思っているんです。そういったところって、やっぱり意図されていたんですか?
松永氏:
低レアリティのキャラクターだからといって、キャラクター性が薄いというのはあまり意味がないと思っていたので、そこはちゃんとキャラクターとして感じてもらえるところまでは全キャラやりきろう、というのは意図してやっていました。それは今作も同様です。
で、結果的にそうしたキャラが次にレア度が上がって帰ってくるみたいなところは、どちらかというとユーザーの皆さんの反響によるところが大きかったですね。
「このキャラクターをもう一度ピックアップしてほしい」「また物語の中で登場させてほしい」という声をいただいてからの施策だったので。それで喜んでもらえて、商売にもなったというのは、すごく良かったなと思いますね。
寺島氏:
お話を伺っていると、松永さんとしては当たり前だと思うことをスマートフォンで実現していったら、それが上手くハマっていったのが『チェンクロ』だったわけですね。
松永氏:
そうですね。ハマったのは、本当はみんなそう思ってたからだと思います。「カードっぽい扱いのキャラクター」というのがそもそも変だったんですよ。だから「ちゃんと仲間として遊べるRPGにしたい」と言ったら、プレイヤーの皆さんも共感してくれた、ということだと思います。