分かりやすい選択肢を用意することで、他のプレイヤーと「どっちを選んだ?」と盛り上がる環境を提供したい
寺島氏:
「キャラクターを描く」というところでは、『チェンクロ』はかなり成功した作品だと思っていて。
そんな『チェンクロ』が今も続いているなかで、あらためて新しく『シンクロ』を出すことには、どういう意図があるのでしょうか?
松永氏:
『チェンクロ』は毎回新しいシリーズにするたびに、いろいろ物語の形式を変えてきましたが、いま9年目にもなると「自分が主人公となって、メインストーリーを進む冒険体験」よりも、これまでにたくさん生み出されてきて支持をしてもらっている、大勢のキャラクターたちによってゲームの物語が駆動していると思っています。大勢のキャラクターたちの存在がまずありきで、そこから冒険の語りが生まれたりというのを、ユーザーさんには楽しんでいただいている状態だと思うんです。
それはキャラクターをたくさん生み出して、それをユーザーさんに支えてもらったことの結果としての理想的な姿で。なので最新の第4部では、いかにして各キャラクターの魅力を発揮しながらメインストーリーをお送りするか、ということをテーマにお届けさせてもらっています。
その一方で、今のタイミングでもう一度スマートフォンで、イチから冒険の物語を作ったらどういった挑戦ができるだろう? って考えてみたんです。
そうするとより踏み込んだ、今回のように「選択肢」を中心において物語を進めたりだとか、自分の選んだ仲間がどう関わってくるかについてもっと違う感覚を味わってもらえるような、また別のRPGを提案できるんじゃないかな、と。
なので、『チェンクロ』の延長線上にはあるんですけども、アプローチとしてはけっこう異なるので、『シンクロ』ではまた違う形のプレイを味わってもらえるんじゃないかな、と思っています。
寺島氏:
そのための『シンクロ』の新しいアプローチというか、心がけていることや工夫というのは、「選択肢」以外には何かありますか?
今回のために調べてきたのですが「運営型のゲームでストーリー分岐を売りにしたもの」がヒットした例はあまりなくて、むしろコケているものが多くて。
なので今回、松永さんとして「今回はこういう勝算があるんです」みたいなところを、できればお聞きしてみたいなと。
松永氏:
そうですね、ストーリー分岐が難しいというのはわかります。その点、絶対多くの人に楽しんでもらえると思っているのは、とことん「キャラクターとのドラマ」にこだわっていることです。コンセプトでもあるので、選択・分岐というものを強調していますが、本当に大切なのはキャラクターだと思っています。
ゲームシステムも、分岐という意味では、世の中にはもっと複雑な分岐を楽しめるゲームがたくさんあります。でも、選択肢が話題になるゲーム、心に残るゲームというのは、そんな細やかな分岐がたくさんあるというよりは、さっき話題に出た『ドラゴンクエストV』のように、大きなわかりやすい選択を行うゲームだと思うんです。
──なるほど。
松永氏:
しかも、そういうわかりやすい選択が、ただあればいいというものではない。たとえば、よく「究極の選択」と言われると真っ先に挙げられる「トロッコ問題」というのがありますよね。「レールを変えて、たくさんの命を救うのか? だが変えることでひとりの命が失われるなら、どうする?」みたいな問いかけですよね。
ただ現実問題、もしそういう選択をする立場になった場合に何をもって決めるかというと、「その線路の先に立たされているのが誰なのか」だと思うんです。たくさんの人というのが、みんな自分の家族や友人で、変えたレールの先にいるのが知らない人だったら、申し訳ないですが私なら、迷わずレールを変えます。
なので、やはりストーリー分岐というもの自体が大事なのではなくて、そこに至る「誰と共に歩んで、その運命に立ち会うのか」というところがすごく大事で。なので、とことんキャラのドラマにはこだわっています。それこそ選択がなくても熱いドラマだと思ってもらえるぐらいに。だから、ストーリーRPGが好きな人には絶対熱くなってもらえるし、そのうえで今までにない選択の重みが、いっそう熱くしてくれるはずです。
──いきなり「状況」だけポンと置かれるのではなくて、そこに至る文脈があるからこそ重い選択肢になると。
松永氏:
そうです。そこに加えて、選択肢が分かりやすいということの良さは、「誰かと話題を共有しやすい」というのがすごく大きい、とも思うんですよね。
さっき言っていたような昔のRPGを遊んで、大きな選択をした後って、たとえば学校で「お前はどっちを選んだ?」みたいな話をするのってすごく楽しいじゃないですか。あれは、選択肢がシンプルでかつ、自分の意志でそれを選んだからですよね。
選択や分岐というのは、自分自身で手ごたえを感じるのはもちろんですが、選ばなかったもう一方はどうだったんだろうとか、選んだ理由はなんなんだろうとかが、気になるがゆえに話すのが楽しいので。そういった盛り上がりをもう一回作れれば、というのを目指していて、今作ではストーリー結果をSNSに簡単に発信できる機能なども用意しています。
寺島氏:
そのお話を聞いてようやく、ストンと腑に落ちました。
これまでのスマートフォンRPGで選択に焦点を当てたものというと、細かい選択でプレイヤーひとりひとりの体験が変わっていくものか、大勢のプレイヤーの投票でAかBかルートが決まってストーリーが分岐していくものだったので。
『シンクロ』では2カ月に1回、「ビアンカとフローラ」レベルの決断をして、それが積重なって、最後の最後に「俺のエンディングはあいつと一緒だけど、そこにいたった過程は違う」となるのかなと。
違う仲間と語り合い、違う情報で悩んで決断する。そして、「これは自分のストーリーだった」と感じられるようになっていくのかな、というのが見えてきて、なるほどなと思いました。
ただそうなると気になるのは、キャラクターの「出番」ですね。たとえば序盤に手に入れたキャラクターが、シナリオが序盤のほうにしかないから、最後の方ではしゃべらなくなったりとか、そういったことってあり得るのですか?
松永氏:
キャラごとにクローズアップされるタイミングというのは、たしかにありますね。もちろんどのキャラクターでも、一緒に冒険している感覚を常に感じてもらえるよう、いろいろ工夫はさせてもらってます。
寺島氏:
なるほど。そうすると1章でこのキャラを選んで、2章でこのキャラを選んで、キャラクターが理由で選択肢を選んでいる形になってくると、メインストーリーに関わってくるキャラがどんどん変わって、プレイヤーの物語に対する印象が変わってくる、みたいな感じになるんですか?
松永氏:
そうですね。好きなキャラにこだわってもらうのも楽しみ方ですが、ある程度は自然とそうなるのかなと思っています。メインストーリーの「運命の選択」でどちらを選んだかによって仲間になるキャラクターが変わるわけですが、いずれにしてもひとりの仲間が増えるので、新しいメンバーも入れつつ、物語が進んでいく体験を味わってもらえたらなと思っています。
寺島氏:
新しい仲間が来たらレベル1で、なかなか深い階層の冒険に連れていけない、みたいなことはあるんですか?
松永氏:
そこは大丈夫です。ある程度のレベリングというか、「追い付きやすくなる設計」にはしています。
もちろん、経験値アイテムみたいなものは無いので、気軽に最高レベルに追いつく、みたいなのは無いんですが……ただ本作の場合、逆にずっと使っているキャラについても、レベルがカンストせずにずっと成長していけるようになっているんです。
『シンクロ』では「キャラが成長することで、物語が進められる」という、RPGのすごく基本的なところを大切にしていて、「メインストーリーで新章が追加されると、レベルの上限が解放される」という仕組みを用意しています。一般的なスマートフォンゲームだと、レベルが最大まで上がってしまうと、成長の余地がなくなってしまうと思うんですが、あの状態だと新ストーリーが追加されても、なかなかRPGとしての攻略する感覚が得られにくいと思うんです。なので、どんなに最強に育てたキャラも、新章を進むごとに、レベルアップさせる楽しみが生まれるようにしています。
お気に入りのレギュラーキャラも、獲得したばかりの新キャラも、どのキャラクターでも常に「成長の体験」を継続的に味わってもらえればと思っています。
みんなでライブ感を持って同じ物語を共有しているなかで「自分はこうだった」と感じてもらえる体験を作りたい
寺島氏:
松永さんはスマートフォンでの遊びにこだわっていると思うんですけど、『シンクロ』にはスマートフォンでなければならない仕組みが用意されているんでしょうか?
松永氏:
そうですね。そのひとつは、「運営でストーリーを配信できる」というところがとても大きいのかなと思っていて。毎章リアルタイムに新しい物語をみんなで同時に共有できる、一緒に盛り上がれるということが、とても大きいのかなと思っています。
──松永さんが以前、『Fate/Grand Order』の奈須きのこさんと話した時に、やっぱりテレビアニメや『少年ジャンプ』の話が出てきたじゃないですか。
要するに、そういったライブ性とかライブ感というのが、これまでのゲームにはなかったスマホゲームの面白さですよね。
『FGO』奈須きのこと『チェンクロ』松永純が語る、スマホならではの物語の見せ方とは
松永氏:
なるほど。いちばん出せたらいいなと思っているのは、みんなでライブ感を持って同じ物語を共有しているし、同じ選択肢のテーマを共有しているんだけれども、「人によって感じ方に差があって、“僕はこうだった“、“私はこうだった”」と話してもらえる体験が作れたら、それがゴールだなと思っています。
『チェンクロ』をはじめ、それこそ『FGO』さんだったりとか、スマートフォンRPGで良さとして表現できていることって、自分自身が主人公になった上で、そのメインパーティというか、「どの仲間とプレイするか」をユーザー自身が選択して「これは自分だけのパーティだ」と思えることが、何より大きな価値だと思うんです。
そこにはやはり、パッケージされた作品では味わえない部分がきっとあって。そのパーティの面白さの上に、物語を選択していく楽しさを乗っけているのが今回なんです。みんなで同じ物語を共有してるのに、その中でも「自分が選んだパーティだからこういう体験だった」というところの差がきちんと感じられるというのを、新しい感覚として味わってもらえればと。
寺島氏:
それで言うと、コンシューマとスマホのゲームの大きな違いに、「キャラクターの多さ」があると思うんですね。
コンシューマのRPGだとキャラクターは多くても十数人で、主人公格のキャラクターも決まっていて、そこの部分ではあまり選択の余地がないというか、だいたい決まっちゃうんですよ。
だけどスマートフォンのゲームだと、何十人、何百人といるキャラクターの中から自分だけのお気に入りを見つけて、パーティを組むというところの愛着というか、選択感をより強調するというか。
松永氏:
そうですね。そこが一番楽しいんだと思うんです。だからその愛着感をさらにメインストーリーの、冒険していく物語の体験の中に組み入れたい。メインストーリーの冒険体験と、自分のパーティが大好きという感覚が別々のものだともったいない。メインストーリーを進めていく時に「自分のパーティだから」という感覚を味わえるゲームにできたらいいな、というのが今回やりたいことなんです。それはたぶん、スマートフォンでないと表現できないことだと思うので。
──たとえば『鬼滅の刃』だって、鬼舞辻無惨を倒すというゴールは一緒なんだけど、柱のメンバーそれぞれのバックボーンはぜんぜん違うわけじゃないですか。
もし炭治郎と一緒に戦う仲間が本編のように伊之助と善逸ではなくて、他のキャラクターと一緒に戦って無惨を倒していたら、きっと違う物語の見え方になっているはずだ、みたいなことなんでしょうか。
松永氏:
そうですね。ゴールは同じ、途中で倒す鬼たちも同じですが、途中のドラマはぜんぜん違うものになりますよね。
そしてもし、誰といっしょに戦うかを自分で決めることが出来たら、それは一気に、炭治郎の物語から、自分だけの物語に変わると思うんです。
自分の物語だと思えることって、RPGにおいてはとても大事だと思うんです。だってロールプレイするゲームなので。いかに主人公に自分を没入できるかっていうのが。自分の意志で選択する楽しさも、そこですよね。
──僕はどちらかというと、スマホのゲームを繰り返して遊ぶぶん、物語を読み飛ばすタイプのプレイヤーなんです。でもシンクロを遊んでいて、「この後に重大な選択肢がある」と最初に言われたら、物語をすごく真面目に読む自分に気がついたんです(笑)。
松永氏:
ありますよね。自分ごとになるからこそ、物語をしっかり楽しめるという。
──たとえば『ウマ娘』とかも、とりあえず報酬がほしいから、ドラマは全キャラ飛ばして埋めるわけですよ。それで後からアニメの第2期を見て、トーカイテイオーに超感動したので、もう一回ちゃんとドラマを見直したんですよね。そのとき、事前にキャラクターに思い入れがあるだとか、前提のセットアップ次第で物語の受け取り方ってかなり変わるよな、ということを改めて感じて。
松永氏:
そうですね。前提のセットアップって、楽しむうえで本当に大事だと思います。
寺島氏:
家庭用ゲーム機のゲームだと、絶対に20〜30時間でエンディングを迎えてまた繰り返せるという前提があるじゃないですか。それに対してスマートフォンのゲームは、プレイに100時間ぐらいかかっちゃう場合もあるし。
「スマートフォンだからこそ」という部分は、長く運営していると繰り返せないし、毎回ガチャから同じキャラクター出るとも限らないから、居住まいを正してストーリーに接するようになる。……ということなんでしょうか?
松永氏:
そうですね。今おっしゃっていた、「選択肢が影響するぞ」と言われるからストーリーに気持ちが入るというのは、気軽にやりなおせない点が大きいのだとは思います。
──『ひぐらしのなく頃に』とかも、分かりやすい例かなと思っていて。『ひぐらし』は「謎があるぞ」ということが宣言されている作品なんですよね。普通のアニメだったら「楽しいな」って流して見ちゃうところも、「謎がある」と宣言するだけで、受け手の心構えがぜんぜん変わる。考察班なんかは、これが伏線に違いないみたいな視点で注意深く見るわけですよね。
松永氏:
そういう意味では『シンクロ』も、第一章の最初で「自分が死ぬシーンみたいなもの」が幻覚で見えるというものがあるんですけれども、それには今のお話と同じような意図があって。
クライマックスまでに誰かと運命を打開するきっかけに気づかないと、「こういう運命になるよ」という緊張感を持ってもらいたいなと。そういったふうに最後の選択の熱さというか、緊張感に集約できるようなものを、いろいろな要素で本当に細かくいっぱい入れています。なので、きっと「この瞬間はちょっと緊張するな!」と思ってもらえるクライマックス体験になるんじゃないかなと思っています。
──ただ、今回の『シンクロ』の面白さを伝えていくことの難しさって、まさにそこにあると思うんです。松永さんが目指す体験を実現するために、いろんな仕掛けとか、打ち出し方とか、シナリオとか、キャラクター設計とか、そういうものを全部ちょっとずつ「最終的に味合わせたい体験に向けて落とし込む」ってことをやろうとしているので。
だから、その体験を再現するために「こんな新しいシステムが導入されている!」という言い方だけでは伝わりにくいと思うんです。大きなシステムだけの話じゃなくて、キャラ、世界、物語、システムの隅々への“配慮”が一貫しているってところがミソですから。
松永氏:
そうかもしれない(笑)。でも、ゲームで一番大切なのって、配慮とかバランスだと思うんですよね。なんて言ってるから、毎回、どう売ればいいかよく分からないって言われるのかもしれませんが……(苦笑)。
──でも、こうやって順を追ってお話を聞いていくと、松永さんの考えている狙いがだいぶ分かってきました。
バトルや成長、ストーリーによるテキストなど、ゲーム体験のすべてを「運命の選択」の瞬間に集約させたい
寺島氏:
さっき、コンシューマのRPGとスマートフォンのRPGで人数の話をしましたけど、これって単なる数の比較の問題ではなくて。コンシューマRPGのキャラクターって、どのキャラもメインストーリーの中で生きているキャラクターなんだけど、スマートフォンRPGのキャラは何百人いたとしても、メインストーリーには何も関わってこなかったり、存在が希薄なキャラクターも多いじゃないですか。
だから松永さんが目指しているのは、プレイヤーの中には存在しているけど物語の中には存在しない、というキャラクターがたくさんいるスマートフォンのRPGに対して、もう一回コンシューマゲームみたいに「このキャラも物語の中心にいるんですよ」という、一緒に冒険してる感を出したい、ということなんだろうなって。
松永氏:
そうです。そうなんですよ!
寺島氏:
キャラクターの存在感のリッチさを提供する、というか。
松永氏:
そうですね、そういう意味では、私はキャラクターの存在感のリッチさというのは、キャラクターが、その世界の中に存在していると思ってもらえることだと思ってるんです。そしてストーリーRPGにとって、世界っていうのはメインストーリーのことだと思うんですよね。
──ゲームならではのキャラクターに対する感情移入の話としては、たとえば『スーパーロボット大戦』ってあるじゃないですか。
『スパロボ』にダンバインとかが出てきても、昔の作品なので若い人は直接知らないはずですよね。でも『スパロボ』でダンバインを使うことによって、「こいつ超強いじゃん、かっこいいじゃん」と、そこから興味を持つようになる。
要するに、ストーリー的な体験による感情移入ではなくて、ゲーム的な体験からキャラクターへの感情移入が起こっている。ゲームってそんなふうに、「強い」とか「弱い」とかいった体験を伴ってキャラクターと接することのできる唯一のメディアだと思っていて。
『シンクロ』ではバトルも重視しているという話をお聞きすると、ゲームってストーリーももちろん大事だけど、そのストーリーに沿ってバトルをやることが、キャラクターへの感情移入においていかに大事なのか、みたいな話をもうちょっと聞いてみたいなと。
松永氏:
実際にモンスターがあふれる世界で冒険の旅に出たとしたら、ほとんどの時間は仲間とのドラマを演じてるより、旅をして歩いて、モンスターと戦って、っていう時間のほうが長いはずなので。いっしょに旅して、戦って、成長して。っていう部分が、結果的に物語の没入感を高めると思うんです。だからストーリーRPGにおいてバトルは大事です。
あとバトルも大事ですけど、「成長」させることもすごく大事だなと思っていて。今回、キャラクターのスキルとかも任意で選択できるようにしています。バトルで得た経験値を使って、キャラクターの能力を成長させてという。普通のことですが、これもすごく大事だなと。
──ゲーム自体によってキャラクターが立つというと、やっぱり『ポケモン』とかだと思うんですね。特に『ポケモン』のキャラクターに対する体験って、ゲーム的な構造と切り離せなくて、密接に絡んでくるんですよね。
松永氏:
『ポケモン』では個々のポケモンに固有のストーリーみたいなものは当然ないですけども、でも必ず仲間になるのではなく、自分で捕まえたポケモンで、しかも個体ごとに能力の差があって、ひとつとして同じポケモンはいない。そしてそのポケモンといっしょに戦う。だから「自分のポケモンと一緒に旅をした」って感覚になりますよね。その感覚は『シンクロ』でも欠かせない部分だと思います。
寺島氏:
あー!
私の体験だと初代ポケモンで役立たずに見えるコイキングを「こいつは育つよ!」って育てたら強くなって、クラスでひとりだけずっと一緒に旅したから、初代は「俺とコイキングの物語」でした。自分だけ。そういうやつですね!
そういえば、初期の『ファイアーエムブレム』もそういった要素は強かったように思います。
松永氏:
『ファイアーエムブレム』もたしかに、キャラクター固有のストーリーも少しはありますけど、基本的にはバトルの中で実感できるキャラクターのドラマですよね。
──ああいうシミュレーションゲームで、「エリート兵士」とか言ってるのに弱いと違和感があったりするわけじゃないですか。だから物語上の設定と、キャラクターの台詞と、パラメータというものがガチっと噛み合って、キャラクター性が表現されるんですよね。
古い話になっちゃうんですけど、『ファイアーエムブレム』のミネルバなんて、王女様でキリッとしたルックスで、しかもドラゴンに乗っててめちゃくちゃ強くてカッコイイという。
寺島氏:
ゲーム的な性能とセットでキャラクターとして考えられていると。
ストーリー性でいうと昔の『ファイアーエムブレム』なんて、仲間に加入する時と死ぬ時のセリフしかないんですけど、でも死ぬ時のセリフがすごくイイんですよね。「あぁ、こいつは妹を探しているままで死んでいくんだ」とか分かったり。
松永氏:
ああいうセリフの良さは、『シンクロ』もかなり意識してます。最後の選択肢を選ぶ前に、みんなイイセリフを言うので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
──そういった体験を全部まぜこぜにしておいて、さらに最後にそれらが集約される先として、選択肢というものに価値を持たせようとしているというのは、やっぱり挑戦ですよね。
手元に集まったキャラクターが「自分の仲間だ」と感じられる楽しさを、メインストーリーにしっかりとつなげたい
──スマホゲームやオンラインゲームが新しいジャンルとして出たきた時に、そこにコンシューマゲームの開発で実績のある人が乗り込んでくることがあったじゃないですか。その時に成功する人と失敗する人がいるなと思っていて。その違いは何かな、みたいなところが気になるんです。
ゲームの歴史で言うと、グリーやDeNAの人たちが、ゲームをぜんぜん知らない文脈からヒット作を生み出したけど、ハードウェア的に、あるいは市場的にこなれていくに従って、ゲームの文脈を持った人が再び台頭してきた。『ドラゴンポーカー』とかもそうだし、『パズドラ』や『モンスト』というのも明確にそうですよね。そして『チェンクロ』も絶対にそうなんですよ。
で、その時の成功パターンというのが、ゲーム屋さんとしては当然あるべき勝ち筋というか、手触りのよさというか。たとえば『チェンクロ』で松永さんがやったのは「キャラクターはリッチでいい」という価値観を持ち込むことですよね。
『チェンクロ』って、それまでのスマホゲームの何を良いものとして受け入れて、一方でどこを「こっちのほうがいいですよ」と変えていったのでしょうか?
松永氏:
これはあまり表では言いづらいんですが、僕自身「ガチャは楽しいものだ」と思っているんです。ガシャポンとかカードダスの世代ですし。あとビックリマンとか。ランダムでキャラクターが手に入ること、それ自体が僕は「偶然の縁」として感じられて。だから、そこを受け入れてるというのはありますね。
ですが、せっかくデジタルのゲームを作っているのに、ただ単に「レアカードを手に入れたよ、ラッキー!」だともったいないなと思うんです。だから、こっちのほうがいいですよって、デジタルゲームなりのキャラクターの価値を、高めることをがんばりました。
そういった意味では、『ムシキング』も『三国志大戦』もカードがランダムで出てくるので、ガチャとまったく同じことを、もともとやっていたんですけど。
寺島氏:
なるほど。『三国志大戦』とかも、運営要素はけっこう強かったわけですね。
松永氏:
そうですね、『チェンクロ』のゲームシステムも、そのまんま『三国志大戦』のつもりで作っていましたから。
やっぱり自分がプレイヤーになった時に、たくさんのキャラがいて、それを集めるのが楽しいゲームは、好きだなと。そうやって自分自身が作ったパーティは自分の財産だし、自分の仲間だって感じられるという感覚は、本当にスマートフォンゲーム特有の楽しさだと思うので。
それに対して今回は何を乗っけるかというところで、キャラの良さを、メインストーリーそのものにつなげるというのが、『シンクロ』の目指しているところです。
寺島氏:
でも『チェンクロ』の時点でキャラクターが数百人いて。その体験をもう一回アップデートしてみたい、というのはすごくイイなと思うんです。
今、キャラクターを大事にしているスマートフォンゲームって、キャラクター数を抑えて描写を増やすみたいな方向に行っている。そこをあえて「新しい描写を入れてよりリッチになったキャラクターをたくさん用意したから悩んでくれ!」と、ガチャキャラクターの体験・あり方を変えていこうとするチャレンジは本当に面白いなって思うんです。
松永氏:
そうですね。弊害もあると思いますが、とはいえキャラクターがたくさんいることには意味があると思っています。アイドルでも48人いるのか、6人のグループなのかで、感じ方は当然変わってきますし。
たくさん人数がいることによって、自分の「推し」を見つける楽しさが強まるとか、たとえばあるのかなと思うので。
──今回、松永さんのお話を聞いていてすごく関心したのは「勝負したいメインストーリーひとつを作り込んで、それをどう受け取るかはユーザーごとに変化するように設計している」というところです。それはすごくクレバーな作り方だなと思いました。
「選択がある」というと、みんな分岐を想像するんだけど、そうじゃなくて「ストーリーは1本なんだけど、その受け取り方が変わるような仕掛けなんだ」というのは、もっとキチンと伝えていきたいですね。
松永氏:
説明の難しいものを作ってしまってすみません(笑)。
寺島氏:
でもホントにスゴイなって思います。これまで夢だったけど、なかなか誰も手を出していなかったところですから、それができるかもしれないというのは楽しみですね。
松永氏:
そうですね、感じ方が人によって変わるからこそ、どんな反応がもらえるか怖いところもありますが、どんな遊び方をしても、キャラクターと物語に対して、「新しい」と思ってもらえるゲームになっているので、ぜひたくさんの方にプレイしていただきたいです!(了)
ファミコンで『ドラゴンクエスト』の第1作目がヒットして以来……というよりPCゲームとして『ウィザードリィ』『ウルティマ』といったタイトルが日本に上陸して以来、RPGというジャンルは日本のゲームファンにとって、常に絶大な人気を集めるジャンルであり続けてきた。
そしてゲームハードとゲームシステムが多種多様に進化するとともに、RPGというジャンルも本当に多様化しており、「RPG」という言葉で思い浮かぶイメージも、人によって千差万別となっている。
そんななかで松永氏は『チェインクロニクル』において、スマートフォン向けに運営される基本無料型のRPGに新しいトレンドを生み出した。それまではストーリーがあまり重視されていなかったスマホRPGに、読み応えのあるテキストで語られる物語を提供すること。なかでもガチャなどで登場する大勢のキャラクターひとりひとりに、そのキャラクターならではの物語を描いてみせた点は、文字通り業界に大きな変化を起こした。
今回のインタビューで語られたように、新作である『シン・クロニクル』もまた、その根底にあるキャラクターに対する「想い」は『チェンクロ』と変わらない。
一期一会のキャラクターがプレイヤー自身の「仲間」として感じられるように、今度は自分の元にやってきたキャラクターがメインストーリーとより密接に関わるようにしたい。そして、その関わりが集約されるのが、各章のクライマックスに用意された「運命の選択」だというのだ。
「運命の選択」自体も、どちらの選択肢を選んだのかというリアルタイム性のある盛り上がりを生み出すとともに、その選択による変化をプレイヤーが実感できるよう考えられているという。このあたりの要素をどこまで具体的に味わうことができるのかは、実際にプレイしてみないと分からない面も多いが、今回の松永氏の説明からは、その意図するところを明確に理解できる。
これまで続いてきたRPGの歴史に、いったいどんな1ページが加わるのか。それがプレイヤー自身にとって、特別な体験となるのか。それを自分で試してみることができる日は、そう遠くないだろう。