2020年9月30日のサービス開始以来、10~20代の若いユーザーから圧倒的に支持されている『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下『プロセカ』)。特に注目したいのは、今やJ-POPシーン全体に広がりを見せているボカロカルチャーの中で、この『プロセカ』が単なる音ゲーではなく、ある種の音楽プラットフォームとなっている点だ。
『プロセカ』は、ニコニコ動画やYouTubeで長く愛されてきた名曲や、ゲームのストーリーに合わせて人気ボカロPが書き下ろしたオリジナル曲を、多くのユーザーに広く紹介する役割を担っている。その際に特に効果的なのが、『プロセカ』のゲーム自体にライブ機能が用意されているところだ。
『プロセカ』の「バーチャルライブ」では、ユーザーがゲーム内のライブ会場にオンライン接続して、キャラクター同士がドラマチックな展開を繰り広げたり、楽曲をパフォーマンスしたりする様子を楽しむことができる。ゲーム本編同様に基本無料で楽しめるこの「バーチャルライブ」はまさに、『プロセカ』のユーザーであればどこにいても楽しめるライブ体験だと言えるだろう。
この「バーチャルライブ」で体験できるコンテンツは、ストーリーイベントのクライマックスなど、あらかじめモーションや音声が収録されているものだ。それに対して、サービス開始1周年に合わせて2021年9月に発表された「コネクトライブ」は、よりリアルタイム性の高いコンテンツとなっている。2回のリハーサル公演を経て、第1回公演「コネクトライブ Vivid BAD SQUAD 1st CRASH」が2022年6月11日に開催された。
コネクトライブでは、キャラクターによるパフォーマンスがリアルタイムに行われるため、ゲーム内の3DMVが存在しない楽曲も披露できる上に、ゲーム中のShort Ver.ではなくフルサイズでのパフォーマンスが可能。さらにはMCやファンサービスも、ライブ会場に集まったファンの反応に合わせた当意即妙なものとなっている。ある意味、現実のライブをそのままバーチャルに再現したような作りとなっているわけだ。基本無料のバーチャルライブと違い、コネクトライブは有償の公演チケットを購入することで観覧することができる。
6月11日の公演当日には、筆者もゲーム内のライブ会場にアクセスして実際に体験させてもらったのだが、なによりも、現実の音楽ライブの雰囲気や盛り上がりが徹底的に再現されていて驚いた。自分の目の前のステージでキャラクターが歌い踊り、その姿が色とりどりの照明で浮かび上がる。そして周囲からは、会場に集まったファンのコールが聞こえてくるなど、まさに現実のライブとまったく遜色のない興奮が味わえたのだ。
しかもスマホさえあればどこからでもこのライブに参加できるという点では、現実のライブを超えていると言っても過言ではないだろう。ある意味、単なるゲームのコンテンツを超えて、音楽ライブの新たな楽しみ方が広がったと言えるかもしれない。
そこで今回は『プロセカ』の開発スタッフに、このコネクトライブがどのように実現されたのかを直接聞いてみることにした。
本誌の『プロセカ』インタビューではすっかりおなじみになった、Colorful Palette代表の近藤裕一郎氏に加えて、コネクトライブ全体の責任者である塚田陸氏、アニメーションエフェクトチームでライブ演出などを担当している藤本誠人氏、クライアントエンジニアとしてコネクトライブの配信や演出の開発を担当した山口智也氏の4名にお集まりいただいて、詳しいお話を伺うことができた。
まるで現実の音楽ライブのようなコネクトライブの裏側は、本当にゲームというより音楽ライブのようなオペレーションによって実現されていた!
なお、次回公演である「コネクトライブ 2nd ANNIVERSARY SPECIAL STAGE」が10月9日に実施される。
取材・文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二
「コネクトライブ」はゲームというより、現実のライブを開催するような感覚
――今回は、2022年6月に第1回公演が開催された、コネクトライブについてお話を伺います。
『プロセカ』では、僕らはすでにバーチャルライブを何度も体験していますから、コネクトライブも「キャラクターの動きがリアルタイムになるんだ」みたいな感じで、なんとなく分かったつもりでいたんです。でも実際にコネクトライブを体験してみると、ライブとしての作り込みがもう、バーチャルライブとはまったく違う次元のレベルになっていて。現実のライブとぜんぜん遜色がないというか、ある面ではリアルのライブを超えるものになっていると感じたんです。
近藤氏:
1年半の血と汗の結晶を、今回ようやくお届けすることができました。
――これまでのバーチャルライブの経験から、コネクトライブでは「ここを変えてみよう」というものがあったのですか?
近藤氏:
いえ。正直言ってバーチャルライブの経験は、まったく活きていないと言っても過言じゃないですね。
――えっ、そうなんですか!?
近藤氏:
バーチャルライブを最初に始めた頃は、技術的な制約もあって、同時接続人数が15人とか20人だったんです。その後に、ひとつの部屋の人数が100人に増えたんですが。
――最初の頃は15人ぐらいの部屋がたくさんあることによって、大勢のユーザーが同時にバーチャルライブを体験できるというお話でしたね。
近藤氏:
その頃に「やっぱりリアルタイムでやりたいよね」という妄想をしていて。その妄想をバーチャルライブとは別のプロジェクトとしてずっと動かしてきたものが、コネクトライブなんです。
それでコネクトライブの準備を始めるにあたって、ミドルウェアの置き換えをすることになって。それによってひとつの部屋に入れるユーザーの人数制限がなくなったので、バーチャルライブの上限も100人に増えたという順番なんです。
ユーザーさんから見ると「バーチャルライブが100人に増えたから、次はコネクトライブになった」と思えるかもしれないですけど、実際には「リアルタイムでやろう」という過程の中で「これなら100人にできるじゃん」という流れだったんですよ。
――なるほど、あくまでバーチャルライブとはまた別の流れで生まれたのが、コネクトライブなんですね。
今回のコネクトライブを体験させてもらっていちばん印象的だったのは、リアルのライブの雰囲気がものすごく巧みに表現されている点で。いきなりライブが始まるんじゃなくて、まず「影ナレ」【※】から入ったのには、「ここからやるんだ!」ってビックリしました。
※影ナレ
「影ナレーション」の略で、MCなどが観客に姿を見せず、舞台袖や舞台裏からナレーションを行うこと。「影アナウンス」の略で「影アナ」とも呼ばれる。アイドルなどのコンサートではファンサービスとして、開演前の諸注意がメンバーの影ナレによって行われることが多い。『プロセカ』のコネクトライブでも実施されていた。
近藤氏:
そこは細かいところの積み重ねですよね。実際のライブに行っている感覚を再現するにあたって、必要な要素がすごく多くて。
――あとは、ライブのオープニングでOVERTURE(序曲)が流れて、モニターを使ってビビバスのメンバーを紹介する演出があったのも、リアルのライブさながらでテンションが上がりましたね。
山口氏:
途中から、映像に合わせて周りのライトの演出もガンガンつけたりして。そこでだいぶ臨場感が上がりましたね。
近藤氏:
ふだんのバーチャルライブはどちらかというと、ゲームのストーリーシーンを作る感覚なんです。それに対してコネクトライブは、本当にライブイベントを開催するような感覚なんですよ。担当するスタッフは、ゲームクリエイターじゃなくてライブの運営スタッフになったみたいな感覚が、めちゃくちゃ強くて。
藤本氏:
前日のリハーサルから当日の本番まで、全部ライブでしたね(笑)。
塚田氏:
前日だけじゃなくて、何度も通しリハをやりましたし。
――社内スタッフのみなさんだけで通しリハを行われたのですか?
塚田氏:
社内スタッフだけの時もありましたし、声優さんとアクターさんをお呼びして、練習会みたいな形で開催したこともありました。それだけの練習をしないと、本番のあのクオリティは出なかったと思います。
近藤氏:
いちばん最初にテクニカルリハーサル(テクリハ)という、社内だけのリハーサルをやったんです。いちばん最初にやったのはいつだっけ?
山口氏:
去年(2021年)の8月ぐらいですね。
近藤氏:
1年前かぁ(笑)。その時にはもう、システム自体は組み上がっていて。
もともとはハーフアニバーサリー(2021年3月)の時に、最初のコネクトライブをやろうとしていたんですよ。それがクオリティアップのために遅れて、1周年(2021年9月)の時に初めて発表したんですけど。そこからさらに遅れて、実際の第1回公演はこのあいだ(2022年6月)になったんです。でもテクリハ自体は、1年前からやっていて。
いちばん最初のテクリハでは、あらかじめ決めた進行どおりにのことをやったんです。そうしたら、それがぜんぜん面白くなくて。結局、決まった進行通りのことをただやるだけだと、3DMVを見ているのと何も変わらないんですよ。チーム内でも「これにはお金を払えないね」って話になって。そこからめちゃくちゃ作り直しました。
決められたとおりのことをやるだけでは、3DMVを見ているようで面白くない
――具体的には、どういうところに重点を置いて作り直したのですか?
近藤氏:
コネクトライブって、もともとの名前は「リアルタイム・バーチャルライブ」だったんです。でもバーチャルライブをリアルタイムで見る、みたいな話だと、さっきも言ったように3DMVをただ見ているだけにしか過ぎなくて。
やっぱり「つながっている」感覚ですよね。それは他のプレイヤーともつながっているし、目の前にいるキャラクターとも同じ空間でつながっている。それを体験できるというところに全振りしようと決めて、名前も「コネクトライブ」に変えたんです。だから面白さのベクトルがちょっと違うなと思います。
――なるほど、そこで現実のライブさながらのリアルタイム感を狙ったわけですね。
近藤氏:
最初のテクリハのあとでブレストを行って、リアルのライブに近づけるためには「これがほしい」というのを話し合ったんです。社内にもふだんライブに行っている人が大勢いるので、さっき話題に出た「影ナレ」もそうですけど、いろんなアイデアが出てきて。
ブレストで話し合ったアイデアは、200~300ぐらいあったんじゃないかな。それを一個一個、細かく入れていって。だからユーザーさんからすると自然に感じられるものでも、一個一個仕込んであるというか。
――それはスゴイですね。
近藤氏:
技術的にもまぁまぁ大変なんですけど、なによりもそれを実現するオペレーションのノウハウが、すごく難しいんです。ほとんど実際のライブを運営するのと同じような感じなので。「僕らはいったい何を作ってるんだろう? ゲームを作っているはずだったのに」っていう(笑)。
塚田氏:
もともとはシステムとかアセットの組み上がりが遅くて「これは開催時期がズレるね」って話をしていたはずなんですけど。いつの間にか、中身のチューニング待ちで1年かかるようになっていて。それぐらい大変でしたね。
――今回のコネクトライブは1日に3回公演があったうち、第1回目の公演は技術的なトラブルで開演時間が遅れたじゃないですか。そうしたら影ナレで「待たせてすまなかった」というコメントがあって。そんな臨機応変なコメントが出てくるなんて、まさにリアルタイムだからこそできる面白さだなと思ったんです。
塚田氏:
じつはあれも、ライブなので「何か事故が起きるだろう」という前提で、事前に「こうなったらこのパターン」とすり合わせてありました。だから突発的ではあるんですけど、事前準備をしてあったからこそ、臨機応変にカバーできたんです。
近藤氏:
「トラブルガイドライン」みたいなものがあって、リハーサルの時から用意していたんですよね。それは今回みたいに僕らが提供しているシステムに不具合が起きた時だけじゃなくて、たとえばアクターさんが転んでしまったとか、声優さんが急遽体調不良になってしまったとか、いろんなトラブルを想定していて。
それが実際に起きた時にどんな対応をすればいいのか、リアルのライブを運営している人にいろいろとヒアリングしたりして、ガイドラインを構築していきました。リハーサルの時に「次はガイドラインの○○番のケースをやります」って、緊急事態対応のトレーニングを1年ぐらいやっていたので。
藤本氏:
1年間練習したんですけど結局、前日まで本当にその場その場で何が発生するのか予想できなくて。もう臨機応変に対応するしかない、みたいな感じでした。
――ある意味、リアルなライブを作り上げるのと同じぐらいの手間がかかっている?
近藤氏:
リアルのライブに比べると、演出の幅はすごく広いというか。機材とかに囚われずに好きなエフェクトを出したり、衣装を瞬間的に変えたりするのも、本当にできるので。
――見る側としても、日本全国どこからでも参加できるというメリットがありますよね。
近藤氏:
モーションキャプチャースタジオを押さえたりしなきゃいけないんですけど、本物のライブみたいにすごく大きな会場を押さえる必要はないですから。そういう良いところもありつつ、という感じですね。生身の人間が目の前にいることの熱狂、みたいなところには、どうしても手の届かないものなので。
――それにしても、そんなに細かいところまで台本で指示されているとは思いませんでした。
近藤氏:
なので作るのがめちゃくちゃ大変なんですよ。ライブでやってほしい「あるある」が、すごくたくさんあって。暗転した中で動いている影を感じてほしい、とか。
――えっ!? そんなところまで再現しているのですか?
近藤氏:
ところが、暗転のブラックとキャラクターの影のブラックがまったく同じ色なので、「影を感じられない」って論争が起きたんです(笑)。そこが見えてしまうと、今度は衣装チェンジの時に切り替わる瞬間が見えてしまったりして。……でも本番だと、ちょっと影が見えてたよね?
塚田氏:
あれは、よーく見ると見えるんですよ。
山口氏:
後ろに観客のペンライトがあると、それが隠れるので、結果的に見えるんです。
近藤氏:
なるほどね。
塚田氏:
だから、なんだかんだで良い塩梅だったと(笑)。
近藤氏:
あとは、1曲終わったあとに息切れをしてほしい、とか。そういうのも全部お願いしていて、すごく細かいんですよね。
塚田氏:
そういう細かい積み重ねが、とにかく大変でしたね。どこまでやり切ろうかって話なんですけど、極力全部採り入れて。
近藤氏:
あとはMCをしている時に、話していないキャラクターはどう動いてほしいのかというのもあって。最初のテクリハだと、しゃべっていない人はずっと棒立ちになっていたんです。「しゃべっている内容に対してリアクションしてください」というのは、完全にお任せするとけっこう難しかったりするので。このキャラクターはこの話の時にはこう動くだろう、というのを事前にお話しています。
そうするとひとつの公演の用意がすごく大変なんですけど、でも1日に3公演あるんだったら、全部の進行を変えたいよね、って話になって。そのため、3公演とも異なるように用意しました。
近藤氏:
だから、MCの内容が各公演でけっこう違っているので、そこは見どころというか、もしよければ全通【※】してほしいですね(笑)。
※全通
ライブなどで複数回ある公演を「全部通う」こと。(https://numan.tokyo/words/0tIfF)
――同じセットリスト(セトリ)であっても公演ごとに内容が微妙に違うというのも、現実のライブに通じるところですよね。
近藤氏:
生身の人間だったらきっとこういう違いがあるよね、という細かいところがめちゃくちゃたくさんあって。それを一個一個拾っていくのはすごく大変なんだけど、だからこそ出せるクオリティがあるんです。
塚田氏:
ゲームだと普通、Aのキャラがしゃべって、次にBのキャラがしゃべってという感じで、ひとりずつしゃべるじゃないですか。ただ、コネクトライブの場合は生の会話感を出したかったので、相づちとかを他の人のセリフに被って言ってもらってるんです。今まではあんまりなかったので、声優さんも最初は苦労されていましたね。
近藤氏:
ゲームでも、そういうのはないからね。
――実写とか舞台のお芝居に近くなりますよね。
近藤氏:
だから本当に細かくやろうとすると、舞台のお芝居みたいに通し稽古をやらなきゃいけないんですけど、キャストさんを全員集めて何回通し稽古ができるんだ、キャストさんが揃う限られたタイミングで何を稽古するのか、というそんな難しさもあるんですよね。
でも、これも何度か繰り返していくうちにキャストさんの練度が上がってきて、さらにどんどん面白くなっていくんだろうな、という期待もありますけど。
日本武道館のような360度ステージで、客席のモブも駆使して会場の盛り上がりを生み出す
――コネクトライブではバーチャルライブとは違って、ステージの360度すべてを客席がグルリと囲む形になっていますよね。
近藤氏:
日本武道館の構造ですよね(笑)。
――360度のステージだと、観客がどこにいても自分の正面にキャラクターが見えるし、ファンサービスでキャラクターがステージをグルッと一周してくれたりして、すごく良かったんです。あのステージの作りは、どこから生まれたのですか?
近藤氏:
あのアイデアは誰が出したんだっけ? 自分はもともと360度ステージ反対派だったから(笑)。
藤本氏:
もともと最初のコンセプトとして、リアルタイムでいつでも動けるように360度にしたいという話があって。
塚田氏:
「キャラクターをいろんな方向から見たい」という意見もあった気がします。
近藤氏:
それに対して僕は「背景に何もないステージなんて考えられない」と反対していたんですが、360度で作っておけばあえて半分しか使わないことで普通のステージみたいに見せることもできるとなって、じゃあいいか、と。
藤本氏:
試しにプロトタイプとして、本当に簡素な感じで円柱状のステージを作ってみたんです。そこから見え方をみんなで試行錯誤しながら、ちょっとずつ足したり、テクスチャを増やしたりしていったんですけど。
塚田氏:
客席の床の角度も最初は違っていましたよね。会場がすり鉢状になってるんですが、客席の傾斜をどのくらいにすると見やすいのか、とか。あとはステージの高さも調整して。
藤本氏:
ステージの中央に昇降機があって、キャラクターがウィーンと上がってきたり(笑)。
――セリ上がりですね!
近藤氏:
リハーサルの途中まであったんですけど、モーションキャプチャーとの同期が上手くいかなくて。どんなにがんばっても2回に1回ぐらいしか成功しなかったんです。
藤本氏:
客席ももっとギューギューだったり、逆に余裕があったり、いろいろ見え方を工夫しながら調整して、最終的に今の形になりました。ただ基本的な形自体は、いちばん最初に作った簡易的なものからそんなに変わってはいないですね。
――360度が客席なので、ステージの向こうに反対側のお客さんも見えるじゃないですか。開演前に、反対側の客席でお客さんの持っているペンライトがバラバラに動いているのが見えたんですけど、あれはリアルな動きが反映されているのですか?
山口氏:
それは反映されていないですね。
藤本氏:
プレイヤーの周囲で会場内を移動しているアバターがいたら、それは他のユーザーさんなんですけど、移動せずにその場でモーションしているだけのアバターは、こちらが仕込んだモブですね。
――ということは、自分の周囲にいて名前が表示されている人はリアルな観客なんだけど、反対側の客席にいるのはあくまでモブなんですね。
近藤氏:
数万人のユーザーさんが同時に接続しているので、本当はおっしゃるとおり、ユーザーさんのアクションをデフォルメしてモブのアバターに反映すると面白いんでしょうけど。そうすると通信の関係上、どうしてもサイリウムを振るタイミングなどが若干ズレちゃうんですよね。だからけっこう難しいなと。
ただ、ライブの途中で「ペンライトトーク」というのがあったと思うんですけど。2つの話題のうちどちらの話をするか、お客さんにペンライトの色で選んでもらうっていう。アレは実際にユーザーさんが選んだ色の多さに応じて、会場にいるモブのペンライトの色が変わっていく仕組みになっています。
――そこはリアルな比率が反映されているんですね。
近藤氏:
そうです。そういう仕込みを一部でしている形ですね。
――あくまでモブとはいっても、ステージを見ながら同時に反対側のお客さんの動きも見られるのは、会場の盛り上がりがダイレクトに伝わってきて、すごく良かったです。
山口氏:
これは演出の範囲なんですけど、会場全体でモブの観客も使ってライブ感を表現するということをやっています。開演前はモブのアバターもざわついていたり、ライブ中はちょっと静かになってライブを見ているような動きをしたりとか。
藤本氏:
客席のペンライトの色の比率も演出で設定できるので、いろんなタイミングで細かく色を変えたりしているんです。これって気づく人がいるのかな? と思いつつ。
近藤氏:
そういう細かな積み重ねがあるんですよね。
――個々の演出ひとつひとつは気づかないかもしれないですけど、それらが積み重なった会場全体の雰囲気というのは、間違いなく伝わっていると思います。
歌詞がフキダシで出てくる「コール&レスポンス」機能で、ステージと客席の一体感を表現
――今回のライブで特に良かったのは、楽曲の途中で合いの手みたいな形でコールを入れられたことですね。CLAP(拍手)自体は今までのバーチャルライブでもありましたけど、今回のように歌詞のフキダシが表示されたりするコールの機能は、初めてですよね?
近藤氏:
そうですね。コール&レスポンス(コーレス)の機能も、最初にテクリハをやった後で「どうしたら本物のライブっぽくできるか」というアイデアを考えた中の1個なんです。どうやったら実際にコール&レスポンスをしているような感覚になれるか、という話をして、けっこう試行錯誤をして実装したんですけど。
自分がレスポンスしないと誰もレスポンスしないのか、逆に自分がレスポンスしなくても周りがレスポンスするのか、っていう。結果的に、周りがレスポンスしているなかで自分もレスポンスすると、歓声がより大きく聞こえるようにしたんです。あとは、自分がズレてレスポンスすると、ちゃんとズレて聞こえるんです。そういうところでリアル感を出したりとか。
――どの楽曲のどこにコールを入れるか、というのは?
近藤氏:
すべての楽曲の歌詞を10人ぐらいで見て、どのフレーズでコーレスをすればいいのか考えるという「コーレス会議」をやったんです。人によっては「そのコーレスはそのタイミングではない」みたいな議論もあるので。
塚田氏:
最初はコーレスの数がもっと多くて、クドかったんですよね。ただ、ある程度は濃い目にやらないと、みなさんに楽しんでもらえないかなと。個人的にはもうちょっとあっさり目が好みなんですけど(笑)。
近藤氏:
本当に意見が分かれるんですよ。最終的にはちょっとクドイぐらいのほうが、つながってる感はあるかなって。
藤本氏:
演出チーム的にはこれぐらいやりたいっていうのを、最後まで粘って押し切った感じですね。
近藤氏:
実際のライブコールはファンの方々のほうから勝手に起こるものなので、運営側が定義するものではないんですよ。でも今回の場合は、最初に定義しておかないとコールが起きないですから。
――今(2022年7月)って、ライブ会場のキャパシティ自体はほぼ満席の状態まで戻ってきましたけど、まだ観客が一緒に歌ったり、コールしたりはできないんですよね。そういう意味でコーレス機能は今この瞬間、リアルのライブを超えているところでもあって。
近藤氏:
たまたまそういう時勢ではありますけど、いつかはリアルのライブもコーレスできるようになってほしいと思っていますし、なってくれると思っていますから。そうなったとしてもコネクトライブはコネクトライブで独自の魅力があるようにはしていきたいので。それはちゃんとやらないといけないなと思っています。
――先ほどのお話にもありましたが、コーレスの機能もやはり、他のユーザーさんとつながっている感覚を味わえる部分なのでしょうか?
近藤氏:
そうですね。全部を仕込んだ流れにしてしまうと、最初に言ったように「これは3DMVを見ているのと何が違うんだ」という感覚になってきますから。ただ、全部を本当につなげるって話になると、それはユーザーさんが想像するようなつながりと、けっこう乖離してしまうんですよね。技術的な制約でどうしてもタイムラグがあったりして、一体感を出すのは思っている以上に難しいので。
どこらへんまで演出としてアシストしてあげるのか、どこらへんからユーザーさんがリアルタイムでコミュニケーションを取っている感覚になれるのか。その比率のバランスが大事なところですかね。でも、もうちょっとつながっている感覚を大事にしたいというのは、内部で話しているところです。
――ペンライトの色で会場にいる観客にアンケートを採ったり、応援のコメントで目立った人の名前を呼んだりするというのも、そういったつながりを意識した部分ですよね?
近藤氏:
そうなんですけど、コメントに対してどういう拾い方をするのかというのも、結局はキャストさんのアドリブ力に頼ってしまうといった話にどうしてもなってしまうので。1日の公演の中でも回数を重ねるごとに、キャストさんがアドリブに慣れてきたことでより面白くなった、と現場のスタッフが言っていましたし。
でも一方で、動きに関しては完全にアドリブにしてしまうと、アクターさん同士でぶつかっちゃったりといった事故の可能性が増えるので。そこらへんの難しさはありますね。
――ところで、今回のビビバスの公演のセットリストを決めるにあたって、特に意識された点はあるのでしょうか? コーレスを入れやすい曲や、3DMVがない曲を意識的に選んだとか?
塚田氏:
基本的には、メイン歌唱を行うキャラクターをバランス良く選ぶというのを意識しました。あとは……これまでのお話でも出てきたように、コネクトライブの準備を始めたのは1年前なんですよね。その当時は今ほど楽曲のレパートリーがなかったので、キャラクターのバランスを考えてセトリを選ぶと、それでもう楽曲が限られるところがあって。あとは書き下ろし曲と既存曲のバランスとかも意識しつつ、どうやったら全員がまんべんなく輝くかな、というのをパズルのように考えたら、あのセトリになった感じですね。
アンコールの曲も本当は、ビビバスの4人にバーチャル・シンガーを加えた5人が全員で歌う曲にしたかったんです。でも当時は本当に選択肢がなくて。それで2人ずつで「Just Be Friends(作詞・作曲:Dixie Flatline)」と「威風堂々(作詞・作曲:梅とら)」になったんです。
近藤氏:
ライブの起承転結と、あとはライブでどの曲を聞きたいかですよね。キャラクターのバランスを優先しつつ、そういう基準も入ってきて。今この瞬間に選ぶなら、いろんなレパートリーが増えているので、もう少し違ったセトリになるかもしれないですけど。それこそビビバスとMEIKOさんで「月光(作詞・作曲:キタニタツヤ / はるまきごはん)」とか。
「月光」に関しては、コネクトライブが遅れに遅れて「月光」の配信よりも後になったので。「今からがんばって“月光”を入れられないの?」という話もしたんです。フルバージョンのダンスを考えなきゃいけないとか、いろんな問題があって断念したんですけど。
そんなふうに楽曲の演出とかの、仕込みには意外と時間がかかっているので。ちなみに、次のユニットのステージの制作とかはもう終わっていて、楽曲の演出の作成に入っているところですから。
――それは楽しみですね!
コネクトライブのクオリティは、リアルタイムのオペレーションにかかっている
――コネクトライブは歌にダンスにMCにファンサービスと、リアルタイムに届けるにはものすごく要素が多いと思うのですが、その中でも特に大変だったのは?
藤本氏:
大変だったというのとはちょっと違うんですけど。ライトとかの演出を事前に作り込んで、決まったタイミングで出るようになっていたんです。でも、現地でアクターさんや声優さんのアドリブによってモーションが変わっていった時に、そのアドリブですごく良いシーンになったとしても、そのアドリブを最大限に活かす照明にはなっていなかった、ということが起きて。そのへんで事前に演出を作る時に、もう少し自由になるところを作れていたら良かったなと、現地で照明を担当しながら思っていました。
――リアルタイムで照明を変えたりといったことはできるんですか?
藤本氏:
演出が入っているところは基本的に、あらかじめ作った演出でやっているんですけど、MCパート中の照明なんかは、全部コントローラで操作していて。「今日の公演はこれで終わりだよ」っていういちばん最後の暗転は、ものすごくゆっくりにしたりとか。
近藤氏:
だからもう完全に、ライブのオペレーションスタッフなんですよ。リアルタイムに操作するのは、表情、演出、音だっけ?
山口氏:
効果音とかガヤも含めた音ですね。
近藤氏:
あとはもちろん、アクターさんと声優さんもいるんですけど。
ライブを違和感なくやるというのは、意外とセンシティブにやらないといけなくて。歓声も大きい歓声が合う時と、小さい歓声が合う時があったり。歓声のタイミングがズレただけで、すごく違和感があったりとか。そういう意味ではひとつのミスが、すごく大きな違和感になるので。
アンコールも、小さい声から始まってだんだん声が高まって大きくなっていくとか、声が最大になって少し時間が経ったところでキャラクターが出てくるとか、リハーサルですごく細かく調整したんです。とにかく自然なライブ感を出すための難しさが、めちゃくちゃたくさん詰まっていて、それはオペレーションでしか解決できなかったので。
コネクトライブのクオリティの6割ぐらいは、オペレーションのクオリティなんです。なので、オペレーションに熟達したチームが必要になって。そこで1年間練習をやり続けた成果が出ましたね。
藤本氏:
とはいえ、前日のリハでめちゃくちゃ成長しましたね。
塚田氏:
当日の直前リハでも「ここで5秒ぐらい待ってから次に行く」とか、ギリギリまでさらに良い公演になるよう、めちゃくちゃ調整してましたから。
近藤氏:
戦いながら成長してる感じですね(笑)。
本当に、ゲームの作り込みとはまたちょっと違ったクオリティの上げ方になっていて。ゲームはこちら側であらかじめ準備したものを出すって形なんですけど、コネクトライブは当日のオペレーションがクオリティを左右してしまうんです。
山口氏:
本番のクオリティもそうなんですけど、何度もリハーサルを繰り返したことで、事前準備のクオリティも上がっていて。最初のリハーサルでは大まかな表情しかなかったのが、リハーサルを繰り返していくうちに「こういう表情も出したい」というのがどんどん増えていって、いろんなパターンが用意されていって。その増えた表情パターンを使いこなすために、また練習したり。
藤本氏:
演出も、最初に演出を作っていた頃は「こういう表現をしたいからこういうライトの機能を入れてほしい」とかいうのを、エンジニアとめちゃくちゃ密にやり取りをして。それがひととおりできてから、今度はライブ自体を作り上げていくのがまた大変で。そういうふうな段階に分かれていた感じですね。
――ということは、コネクトライブも今後開催の回数を重ねていくと、さらにレベルアップしていくのでしょうか?
近藤氏:
スタッフが熟達していくとそうなりますよね。
藤本氏:
実際に今回のビビバスの公演を経て「こういう要素があったらいいんじゃないか」という話が出ていますから。それは鋭意実装中です。
塚田氏:
後になるほどクオリティが高いとなると、いちばん最初だったビビバスは微妙なのか、ってなっちゃうかもしれないんですけど、そうではなくて。ビビバスはビビバスで完成しているし、今後のユニットはそれはそれで、そのユニットらしさを表現する演出が用意されていくという意味ですね。
藤本氏:
演出的にはふだんのバーチャルライブの場合、3DMVに対してライブとしての見え方を担保するために手を加えるんですけど。コネクトライブは360度かつ視点も上下があって、どこから見ても成り立つ演出というのを、3DMVとか関係なく、イチから作らないといけないんです。だからふだんのバーチャルライブに比べて、めちゃくちゃ演出のコストがかかっていて。1曲の演出を作るのに、普通のバーチャルライブの3~4倍、手がかかるんですよ。それを今、次のコネクトライブに向けて必死に制作しているので(笑)。
ただ、前で見ているとキャラクターの周りにスポットが当たるような演出を集めていたり、ちょっと後ろに引いて見ると、上のモニターが見えて会場全体の空気感が味わえたり、そのへんの角度や場所によって見え方が違うというのを、ユーザーさんに特に見ていただきたいというのは、作り手としてはあります。そのあたりの密度をめちゃくちゃ濃くしてやっているので。
ふだんのバーチャルライブはシナリオの延長線上みたいなところがあるので、演出を盛りすぎると逆に乖離してしまうんです。そこはストーリーっぽいエフェクトを入れたりしているんですけど。それに対してコネクトライブは、本当にライブって感じにしているので、そこの差を注意して見てみるのも楽しいかなと、個人的には思います。
近藤氏:
そもそもステージが違うし、ついているライトも違うし、コネクトライブは全部作り直しだよね。
藤本氏:
まぁそうですね。
山口氏:
会場の光とか空気感を、だいぶ意識して作っていましたよね。
藤本氏:
そうですね。スポットライトの光の中のちょっとモヤがかっているところまで、3DMVとは違うコネクトライブのオリジナルで、会場の空気感を見せるために表現しているので。そのへんはエンジニアチームとアニメーションチームでめちゃくちゃこだわりながらやってた感じです。
近藤氏:
でも、あの空気感を出すためにCGでもあれだけの数のライトが要るっていうことは、現実のライブの設営って本当に大変だよね。
藤本氏:
そうですよね。
近藤氏:
こっちは「ライトを置くぞ」ってコンピュータに指示するだけですけど、現実のライブだと天井のトラスに照明を一個一個取り付けていくわけですから。
塚田氏:
僕は「セカライ」(「プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE」)ってリアルのライブのほうもやってるんですけど、そっちの会場は仕込み日から徹夜で準備…なんてことも現地スタッフの方から聞いたことがあります。
近藤氏:
ライブ現場のスタッフさんの大変さがちょっとだけ分かる気がするよね。
藤本氏:
収録現場で照明のコントローラをリアルタイムでいじりながら、「ゲーム会社に入ったはずだよなぁ」って思いました(笑)。
塚田氏:
セカライのほうで照明を操作している人とまったく同じでしたよ(笑)。みんなインカムをつけて「はい、暗転」とかやってますから、そこだけ見るとマジのライブスタッフっぽいです。
山口氏:
コネクトライブは、実際のライブの照明や音響のシステムを参考にして、それを社内のメンバーで動かせるように作っていますからね。
近藤氏:
僕がリハーサルを見に行った時に、スタッフがライブTシャツみたいなのを着てインカムをつけて走り回っていて、「ゲーム会社じゃなかったっけ?」と思いましたから(笑)。
ただ、真面目な話、今後はそれこそリアルのライブを制作するような会社さんと組んだりして、対応できるチームを増やしていかないと、コネクトライブの開催頻度も落ちていってしまうので。藤本や山口にはコネクトライブだけじゃなくて、本業もやってもらわないといけないですから。
――でも一方で、ふだんのお仕事と違うことをやる楽しさもあるのでは?
藤本氏:
楽しいのは楽しいんですけど、本業と並行してコネクトライブもやるとなると、なかなか全力でコミットできないんですよ。そこの歯がゆさみたいなのはちょっとあったりしますね。
近藤氏:
たまにならいいけど、ずっとになるとシンドイからね。
でも現場のスタッフは、ライブが終わったあとに円陣を組んでたらしいですよ(笑)。一体感がハンパなかったって。
山口氏:
ライブの現場感とか、リアルタイムでコンテンツを作っている感じは、あそこでしか味わえないですから。
塚田氏:
終わった後はみんなでスタンディングオベーションでした(笑)。
ユーザーの予想を良い意味で裏切ることができたので、今後の継続が見えてきた
――今回の公演では技術的なトラブルもありましたが、そこはすでに解決されているわけですよね?
近藤氏:
今回のトラブルは大きく2つあって。ひとつは第1公演の時に、お客さんが会場に入れなくなってしまったトラブルです。
これは当日、僕のTwitterアカウントでもお伝えしたんですが、負荷によるトラブルというよりはロジックが悪さをしていた形ですね。ユーザーさんを各ルームに振り分ける機能が正常に機能しなくなって、ひとつのルームに全員が集まって入れなくなったんです。そこは当日修正したんですけど、その修正したプログラムをちゃんと検証しなきゃいけないので、もしかしたらもう一回、ベータ的な公演を行うかもしれません。
もうひとつは、無償で最後まで見ることのできたユーザーさんが僅かにいた件ですね。これに関しては原因の特定ができているので、そこを塞ぐ対応をします。
――そういう意味では本番の公演を行ったことによって、問題を洗い出して解決できた形になったわけですか?
近藤氏:
結果的にはそうなりますが、ご迷惑をおかけしてしまったことについては本当に申し訳ありません。リアルタイムでやっている性質上、次回以降も予期していなかったトラブルが起きる可能性はあり、それはシステム的なトラブルだけではなく、オペレーション的なトラブルだとか、アクターさんや声優さんにトラブルが起きることも含めてありますが、こちらでできる限りの対策は取り続けたいと思います。
――公演当日のユーザーさんの反応を見ていると、そういったリアルタイムならではのリスクもある一方で、そのリスクを負っても体験する価値のあるコンテンツだということが、ちゃんと伝わっていたと思います。
近藤氏:
リアルタイムならではの面白さは当然用意しつつ、それに付随してどうしても発生する可能性のあるリスクをゼロに近づけていくことは、両方やらなければいけないと思っています。
実はリスクをゼロにすることは、究極的なことを言えば、事前に収録したモーションや音声を再生すれば可能ではあります。でも、それはそれで違う、と思いますし。だからリアルタイムならではの面白さとリスクの軽減は、どっちがどっちというわけではなくて、両方やらないといけないですね。
――こう言うとアレですけど、現実のライブでもいろいろなトラブルがありますからね(笑)。
近藤氏:
結局は発生率の問題だと思います。ユーザーさんからすると内部の事情はよく分からないだろうし、分からなくていいと思っているんですけど。なので僕らとしては、一個一個のトラブルの発生率を極限まで下げていくしかないかなと。その結果「最近は安定してるね」と思ってもらえるようになったら、というか、それすらも忘れて目の前のコンテンツに触れてもらえればそれでいいはずなので。それを目指してやっていくしかないと思っています。
――では最後に、今回の公演を振り返っての感想をお願いします。
近藤氏:
自分も公演を見て、不具合もありましたが、新しい体験を提供することができたのかなという感覚がありましたし、それがファンのみなさんにも楽しんでいただけたようなので、それは本当に良かったです。
藤本氏:
公演後のユーザーさんの感想が、ゲームじゃなくて完全にライブの感想になっていたんですよね。
塚田氏:
本番中に僕は、実機でもライブの様子を見ていたんですが、会場のモブが本物のファンの方々に見えてきて。ようやく皆さんに見せることができたー!って、そこで1年半の準備期間の思い出がフラッシュバックしてきましたね。
近藤氏:
思い入れしすぎだって(笑)。
ユーザーさんって、何が来るのか分からないものが始まる時には、どちらかというと不安な反応になると思うんです。いちばん最初にバーチャルライブを発表した時も「バーチャルライブって何?」「そんなのやるなら音ゲーの曲を増やせよ」みたいな反応で。それもごもっともなんですけど(笑)。でも実際に体験してもらうと、反応がガラッと変わって。
今回のコネクトライブも、最初は同じような反応だったんですよね。リアルタイムでやると言ったって、現実のライブに敵わないのはみんな分かっている。それに2000円のお金を払う価値があるのか?っていう反応でしたから。でもそこで、お客さんが想像をしていなかった体験を提供するというところに、エンタメの真髄みたいなところがあると思います。
――最初にも言いましたけど、僕自身も「バーチャルライブのちょっとスゴイ版」なのかなと思っていたら、もうぜんぜんレベルが違ったので。
近藤氏:
本番当日に感動のピークを持っていきたかったので、リハーサル公演では要素をひた隠しにしていたんですよ。そうするとリハーサル公演が、どんどんショボくなっていって(笑)。「ホントはもっとスゴイんだよ! でも今はまだ見せられないんだ」っていう。
当日になって、第1公演は不具合が起きてしまったんですが、それでも「めちゃめちゃ良かった」と思ってもらえた方が大勢いてくれたみたいで。第1公演のあとにチケットがすごく売れたんですよ。無料で見た人が「これは!」って買ってくれたりとか、あとはリピーターだとか口コミだとかで。結果、僕らが事前に想定していた予想の4倍ぐらいの枚数が売れてくれたので。
コネクトライブって、キャストさんが集まる会場を用意して、大勢のスタッフを拘束して何度も練習してっていうところで、一回の開催コストがけっこう重くて。事前に収支計算をしたら「どう考えても赤字です」となって。それでもファンの方々の満足度のためにはやるべきだよね、と腹を括っていました。でも今回チケットが売れてくれたので、「これなら胸を張って各ユニットでの開催が継続できる」っていう感じになったので良かったです。
――これからのコネクトライブも楽しみにしています。ありがとうございました。(了)
『プロセカ』はゲームとしてのチャレンジの一方で、音楽的・エンターテインメント的なチャレンジが継続して行われているタイトルでもある。
そもそも『プロセカ』の楽曲には、いわゆるボカロ曲を人間が「歌ってみた」だけでなく、バーチャル・シンガーと生身の人間がユニゾンで歌うというチャレンジが用意されている。それを違和感なく実現させただけでなく、オンライン上のバーチャルライブ、そして「セカライ」のようにリアルな会場でのライブといった具合に、キャラクターとバーチャル・シンガーが共演する場を広げてきた。
そして今回のコネクトライブでは、バーチャル空間やCGキャラクターを使った新たな音楽ライブの形式を生み出す、といった領域にまで到達している。もちろん現実の音楽ライブには、その空間でしか味わえない熱気といった、他に代えがたい魅力が存在している。だがコネクトライブはそこに加えて、音楽やライブパフォーマンスのまた新たな楽しみ方を生み出すことができたのではないか。当日はスマホを手にしてライブ会場の雰囲気にすっかり没入しながら、筆者はそんなことを考えていた。
今回お話を伺ったように、コネクトライブはオペレーションの習熟度が上がっていくことで、さらなる進化が期待できる。今後このライブ形式がどのような発展を遂げていくのか、『プロセカ』のゲーム自体とはまた別に、そちらのほうも大いに期待したい。