TGS2022における『龍が如く』チームの発表は「200点あげてもいい」最高のものだった
──せっかくの機会なので、東京ゲームショウ関連のお話もできればと思います。まず、セガさんの『龍が如く』新作の発表会はいかがでしたか? 名越さんとしては初めて開発側ではなく、外側からの視点で『龍が如く』の発表を見たわけですが……。
名越氏:
すばらしい発表だったと思います。私がやっていてもあれだけのボリュームを一度にできたかと問われたら自信がないですし、なおかつグローバル対応に全力を注ぎつつ成し遂げたというのは、私は100点を超えて200点あげてもいいかなと。
──おお! 『龍が如く』チームの皆さんも喜ばれると思います。
名越氏:
まあ、それだけ現場の尻は叩いているんでしょうけど(笑)。でもそれは仕方がないじゃないですか、出すものがそれだけ多いわけですから。その分スタッフをいたわりつつ、またどんどん前に進んでいただけたらと思いますね。少なくとも現段階の評価としては、私はもう、満点以上のものをあげたい。
──3年ぶりのリアル開催(2021年は小規模実施)となったTGSですが、現地の印象はいかがでしたでしょうか。
名越氏:
コロナ禍での開催ということで、まだまだ制約が多くて少し寂しいところもありましたね。それでも、せっかくやるんだから楽しんでもらおうよ、みたいな業界の意地のようなものは感じられました。伝わるものはけっこうあって、そういう心意気は買ってあげなくちゃいけないな、と思わせてくれるショウだったと思います。
あとPC関連メーカーや海外のパビリオン的な出展が充実していたように感じましたね。その一方でコンソールメーカーのド派手な感じがなくなってしまったのはちょっと寂しいかな……。
──ここでリスナーからの質問も拾っていきたいと思います。「名越さんがいま注目しているサービスやテクノロジーはありますか?」という質問が届いているのですが、いかがでしょうか。
名越氏:
そうですね……いま話題になっているものだとメタバースとかNFTとか、そういったものですよね。といっても全然否定するつもりはなくて、メタバースの流れは当然来るものかなと思っています。可視化できる仮想現実化されたコミュニティから物を買ったり、遊んだりっていう。そういう中で仲間どうしつながっていくっていうのは一番わかりやすいので、そこはその通りになっていくだろうなと予想しています。
ただまあ、そういったインフラ自体を作るのは私たちの仕事ではありません。それに乗っかって物を作っていくのが我々の役目ですから。もちろんゲームにせよ、イラストにせよ、音楽や映像にせよ、そういう新しく完成したインフラとデバイスの誕生の過程でビジネスチャンスが生まれていくっていうのは期待してもいいんじゃないかな、と考えています。
──続いてもうひとつ。近年、AAA級タイトルでも初日からサブスクリプションサービスに取り入れられていたりするケースがあると思うのですが、こういった状況はどのようにご覧になっていますか?
名越氏:
私はもうそこを論評できるような立場にないかなと思いますが……(笑)。ビジネス的な勝ち筋がある作品なら、それは悪いことではないと感じます。ユーザーさんから見ても安く面白い作品を遊べるならそんなにいいことはないだろうし。
ただ、つらいところですよね。「ああそうか、こんなにすごいタイトルもそういうふうに売られちゃうんだ……」みたいに思ってしまう部分はあります(笑)。
とはいっても「安くて面白い」ってユーザーさんからしたら本当に最高のことなので、じゃあ自分たちはどうやって戦うんだ、というところですね。それはもう我々なりにがんばってそれでも成り立つ仕組みを作り、「楽しんでください、お願いします」って言うしかないのかな。
ひと言でいうと、ユーザーさんからすれば最高なんですけど、作り手からしたら「やめてくれ」って話です(笑)。
「それってゲームと関係ねえじゃん」と言われてしまうような新しいものを作りたい
──そういえば名越さんと言えば、今年3月ごろからTOKYO FMでラジオ番組「名越スタジオ presents Future Lounge」を放送されていますよね。
名越氏:
あれは「新しい出会いをしたい」っていう思いでやっています。なので番組的に数字を取れる人というのも気にしてはいますが、それ以上に私が本当に会いたい人に会っている、という感じですね。ゲーム業界の方でなくても、仕事の仕組みや将来について話していく中で、「これはけっこうゲームに応用できるんじゃないか」って参考になる意見もいただけることが多いんですよ。
直近だと元テレビプロデューサーの佐久間宣行さん【※】とか。年齢的にはもうそれなりの方が多いんですけど「でもまだまだやっていくんだ」という気概があって。諦めていない人が好きだし、私自身も諦めない人間のひとりでありたい。
でも、そのためには何かしらの手段、決断が必要になっていくじゃないですか。そういう部分を学ぶには、やはり人にいっぱい会って、お酒を飲んで、みたいなところを大事にしていきたいですね(笑)。
※元テレビ東京プロデューサー。『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』といった番組を立ち上げたことで知られる。
──これまでにお会いした中で、名越さんが影響を受けた方とか、印象的な方ってどういう方なんでしょう?
名越氏:
そうですね……いっぱいいるんですけど、私の最初の師匠は鈴木裕さん【※】ですね。あの人からゲームのイロハをすべて教わりました。いわば大師匠ですね。
ユーザーインターフェース周りっていまは常識化しているものですけど、遊びやすさや安全性を担保したうえで面白さを生み出さなくちゃいけない、っていう部分は当時は学べないことだったりしたんですよね。そういったところを教えていただいた先人の方たちには大いに影響を受けたと思います。
いまでは私たちもその立場になったわけだから、やっぱり伝えていかなくちゃいけない。ミーティングの中でも仕様を聞いて「これはすごく面白いよね」とか「ここは余計だよね」っていう気づきをたくさん増やしてあげたいと思っています。そのために、どう伝えるのがベストか、ひと言ひと言をこれまで以上に真剣に考えるようになりましたね。
※株式会社YS NET代表取締役社長。セガ在籍時に『スペースハリアー』や『シェンムー』、『バーチャファイター』シリーズなどを生み出した。
──ノウハウを伝えていくという点で言うと、最近だと『スマブラ』の桜井政博さんがYouTubeで動画の投稿を始めたじゃないですか。
名越氏:
あれはもう化け物ですよね、いい意味で(笑)。
一同:
(笑)。
名越氏:
私は逆立ちしても彼のゲームセンスには勝てません。彼と話していてわかるのは、「どう遊ぶか」の美学が最初の設計の段階でもうクリアに浮かび上がっているんですよ。
それでいて、あれだけ頭が良いのにソフトな感じで話すじゃないですか。天才肌の人って往々にして暴れん坊タイプなんですけど、桜井さんは周りに対してのストレスを見せない。そこが一番びっくりするところですね(笑)。
──(笑)。名越さんは鈴木裕さんをはじめ、レジェンド的な方々を大勢見てきてらっしゃいますもんね。
名越氏:
最近で言うと、「諦めないカッコよさ」を一番感じたのは岡本(吉起)さんですね。カプコンを辞められたあとに『モンスト』を大ヒットさせて。
当時は本当に驚きましたけど、やっぱりかっこいいですよね。諦めていなかったんだ、みたいな。
──桜井さんにせよ、岡本さんにせよ、そういったトップ級のクリエイターさんが持っているビジョンって名越さんからするとどういうものなんでしょうか? どういう人がそれを持てるようになるんだろう、という。
名越氏:
これは人によって回答は違ってくると思うんですけど、私から若い人に必ず言うのは「いろんな経験をしなさい」ってことですね。彼らには“引き出し”を増やしてほしいんですよ。たとえば初対面の人と会うときは「はじめまして」って結構緊張するじゃないですか。
でも繰り返していくうちに「はじめまして」のあとに続くふた言目、三言目のフォーマットが徐々にできあがっていく。そうしてコミュニケーションを深めていくことで、相手の考え方を知るところまでいたって、初めて知りあう価値が生まれてくると思うんです。それができるようになると、自分の中のデータベースがどんどん積み上がっていくじゃないですか。
積み上がっていけば今度はそれが引き出しになって、いろいろなところから引っ張ってこれるようになる。よく「ゼロから1を作れる人って最高ですよね」って言われるんですけど、私としてはゼロから1を作った覚えは全然ないんです。
私は自分が持っていた何かの種に、別の栄養とか水分とか、何かわからないけどいろいろなものを足して育てていったわけで。傍から見れば「見たこともない」って言われるものになったかもしれないけど、原点は別にゼロではなく、自分が見聞きしたなにかからスタートしています。
だから、その原点になる下地っていうのが狭いよりは広いほうがいい。広ければ広いほど最初の一歩目の選択肢が多いわけですからね。そういうところを意識して増やしていくのはすごく大事なことだと思っています。それは「映画をいっぱい観ています」でも、何でもOK。批判を恐れず、それでいて謙虚でいて、みたいなところのバランスさえ取れれば誰でも意識できることだと思うんですよ。
──名越さんが人と会って話すことを大事にされている理由がわかった気がします。
名越氏:
それに加えて、会話の中で人間観察も同時に行うんです。話している間合いや表情みたいなものから、本気で言っているのか、建前で言っているのか。そういうところを推し量るスキルも会話を積み重ねるうえで学んでいけるものだと思うんですよ。
ゲーム作りってやっぱりチームで進めるものだから、何よりも相手に伝わっているかが大事になってくるわけで。お互いが共感できているか、それを見抜く力がないと「だって言ったじゃん」みたいなすれ違いが起こってしまう。そういう意味でも、会話を通して人からしか学べない大事なものはあるんじゃないかな、と考えています。
──貴重なお話をありがとうございます。さて、そろそろ終わりも近づいてきたんですが名越さん的に「この機会に言っておきたい」ということがあれば改めておうかがいしたいなと。
名越氏:
「名越スタジオ」としての話なんですが、私としては「何をやってるの?」といった反応を得られる仕掛けを生み出していきたいです。変な話なんですけど「それ、ゲームと関係ないじゃん」とか「ゲームにそれは必要なの?」って言われたい。それはスタッフにゲーム制作のみではない「作る」という体験を色々させてやりたいという願いでもあります。
そういう反応がないと新しい何かを始めてないって思えてしまうんですよね。だから、私としては「何やってんだろう、あいつ大丈夫かよ」って心配されるくらいがちょうどいいなと(笑)。
──(笑)。
名越氏:
あとこれは前にも言ったんですが、とにかく「風通しの良さ」を大事にしたいんですよ。自分自身はもちろん、スタジオ全体として議論を尽くして語り合うことができる、っていうのが欠かせないところだと思います。本当に強いスタジオとはスキルとコミュニケーションを同等に大事にする場所だと思うんです。そういう意味では、まあ酸いも甘いも、ゲーム開発の中でいろんな思いをして、良いことも悪いこともいろいろ経験した人たちが山ほどいる会社なんです。
そういうところで働いてみても面白いかもな、って思われる方は、ぜひ来てみてはどうですか、みたいな。宣伝になっちゃいましたけど(笑)。
──ありがとうございます。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。何か面白いことを仕掛けるのであれば、ぜひ電ファミも利用していただければ(笑)。
名越氏:
はい、ぜひよろしくお願いします(笑)。本日はありがとうございました。
「10年若い仕事をする」……そう語る名越氏は、2022年6月17日に57歳を迎えている。一般的なところでいう社会人のゴール「60歳」に決して遠くない年齢でありながら、セガの重要なポジションを退いてまで自らのスタジオを立ち上げるという「挑戦」をしているのだ。自身の言葉を体現するようなチャレンジ精神あふれる取り組みには、10年どころではない若さを感じてしまう。
「もっともっとクリエイターを長生きさせられる組織を作り上げたい」と語る名越氏には、クリエイターに対する愛情を見せつけられたようだった。彼らが引き出しを増やし、10年長くものづくりに携わり、幸せに生きられることを祈って、名越氏が導き出した結論が「名越スタジオ」だったのではないだろうか。
そして、その「名越スタジオ」にはいま、「新しいものを作りたい」と願う野心的なクリエイターが集りつつある。どのようなプロジェクトが進行しているのか、まだ不明な点も多いものの、きっと名越スタジオの「かっこよさ」が凝縮された作品となることだろう。
名越氏自身、『龍が如く』ではできなかったことに挑戦していくという、積極的な姿勢を示している。そういった力強さを目の当たりにすれば、自然と「もっともっとクリエイターを長生きさせられる組織を作り上げたい」というビジョンも、遠くない未来に実現してしまう気がする。
「名越スタジオ」の新作がどのように世界へ飛び立つのか。いまはその動向を見守りつつ、ひとりのプレイヤーとして発表を楽しみに待ちたいところである。
\名越スタジオ設立1周年/
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) November 1, 2022
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「風通しが良い状態で作りたい」名越氏がスタジオについて語るインタビューはこちら▼https://t.co/U86FABDFDG pic.twitter.com/L7gWXx0z0v
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「10年若い仕事をする」──名越氏がスタジオについて語るインタビューはこちら▼https://t.co/U86FABmCBG pic.twitter.com/RA5FiO0Oys