能力を使える探偵はチートではなく夢が膨らむシステム
──『レインコード』は探偵ものですけど、探偵ものをやりたいお気持ちはあったんですか?
小高氏:
まず僕の中では探偵ものがアドベンチャーゲームの花形だと思っているんです。おもしろいと感じてくれる人はぜったいいるし、マーダーミステリーも流行っているし、可能性がある。
『ダンガンロンパ』はデスゲームものにしたけど、違うものとして新たに広く興味を持ってもらえるように考えたとき「探偵」というブランドを使いたいなと思いました。探偵というだけで浮かぶイメージがあるじゃないですか。そのブランドを使いたかったんです。
──探偵ものって最初に犯人がいてアリバイを探るパターンと、犯人がわからなくて犯人を探すパターンとかいくつかあると思いますが、『レインコード』はどういう感じなんですか?
小高氏:
『レインコード』は、謎が起きて犯人を探していくタイプです。「世界中の未解決事件を撲滅する」と掲げる特殊な組織があって、そこに所属する超探偵たちはみんな「透視ができる」みたいな、捜査に特化した能力を持っています。そういう能力を使って謎を解決していく形です。
──探偵に能力があるなら犯人も能力があったり……?
小高氏:
それはシナリオ内でいろいろと(笑)。基本的には超探偵たちだけがこの世界で能力を持っています。そのため、野良の超能力者はいないんです。能力は組織内で作り上げるので。
──テレビドラマの『スペック』は犯人側にも能力があるのでいろいろ難しいのかなと。
小高氏:
犯人側にも能力を持たせるとややこしくなるので(笑)。『レインコード』では単純に3Dアドベンチャーゲームを楽しそうに見せたいという意味で「こういう捜査もある」というのがやりたくて。
『ダンガンロンパ』は調べるだけだったんですけど、今回は事件ごとに毎回違う能力を使って超探偵たちの力を借りて捜査をするので、違うゲームシステムというと言いすぎかもしれないですが、違うゲーム感覚ではあるのかなと。なので捜査パートも飽きずにやってもらえると思っています。
──能力がどういう扱いなのか気になるんですけど、いわゆる科学捜査みたいなものに近いのでしょうか? 一見するとチートのような印象もありますが。
小高氏:
メタ的なことを言ってしまうと、超探偵の能力ありきの事件なんです。たとえば、指紋を見破る捜査能力を持つ超探偵がいるとしたら、「この現場にある指紋はだれとだれとだれのだ」みたいな目星をつけられる。
だけどそこには指紋をつけずに被害者を殺したやつがいるという驚きも入れようと思えば入れられる。そういった「能力」を前提としてトリックを作っています。
極論を言ったら江戸時代にタイムスリップして江戸時代の殺人事件を解くとか、未来に行って未来の技術の殺人事件を解くとかもできてしまうので、夢が膨らむシステムだと思っています。
──既存の作品でいうと小高さんの好きな探偵ってどのあたりなんですか?
小高氏:
小学生のころは明智小五郎が好きで、中学校くらいのときは『金田一少年の事件簿』を見ていました。『怪人二十面相』とかも読んでいて、ゲームでいうと『クロス探偵物語』あたりです。ショッキングなシーンがあったりして。
ちょっと怖さもありつつ、殺人事件というものをパズルのように楽しむ背徳的なところに僕は魅力を感じています。リアリティのあるミステリーものというより、新本格と言われるような死体をバラバラ殺人にして部位を入れ替えるパズルみたいなほうが好きです。
──どちらかというと日本のものがお好きなんですね。
小高氏:
そうですね。海外ではサスペンスになってきちゃって「新本格」みたいな流れはあまりないので。そういう意味でいうとミステリーゲームは海外でも勝負できると思うんです。いきなり唯一無二になれるというか。日本のストーリーテリングの武器のひとつではないかと思います。
人の生活や文化までゼロから作り出す必然性とは
──先ほど、「謎を可視化したい」という部分がなかなか理解してもらえなかったとおっしゃってましたが、プロトタイプはどのように作ったんですか? そこでどういう会話をされたのか気になります。印象に残ってる開発初期のやり取りはありますか?
小高氏:
今回大変なところがふたつありました。カナイ区という街を作るにあたって、「巨大企業に支配されて雨が降り続いていると人々はどんな生活になるんだろう」というところからスタートしているんです。そのため、「巨大企業の人たちはどういうことをしているのか」「街にどういう変化を及ぼすのか」「文化レベルはどのくらいなのか」ということを考えつつ、背景デザインやキャラクターデザインを行いました。
その一方で、謎迷宮についても組み立てなければならなくて。カナイ区を作るところはセオリーどおりでできるというか、コンセプトを固めて背景をデザインして文化などの項目を作っていけばなんとか作れるんですけど、なにしろ謎迷宮が難しい。いろんな試作を重ねました。
固定カメラにするべきかフリーカメラにするべきか、いっそテキストアドベンチャーのように文字を読んでるけどうしろは動いているようにしてしまうとか。
開発中盤くらいには映画の『インセプション』の映像をみんなで共有しました。ゲームでいうと『コントロール』も。急に背景がガラッと変わるところは動画を共有して参考にしています。
──いわゆるアドベンチャーゲームで、背景に対して人の文化や生活まで落とし込んだものってそんなにない気がします。すごく苦労がありそうですが、そこまでやる必然性はあるんですか?
小高氏:
それは最初に言っているところとつながっています。死んだアドベンチャーゲームをゼロから作り直すとしたら、日本の街並みじゃない気がしました。
リアリティ路線でやるともっと予算がかかってしまうし、それこそ『ゴーストワイヤー トウキョウ』みたいな作り込みが必要になってしまう。そこはちょっと難しいと思っていて、ファンタジーのほうが可能性があるというか。
個人的にはティム・バートンが好きなので、彼の持つダークな雰囲気も出したいと思っていました。リアルな街並みにはあまり興味がなかったんです。
──謎の作り方そのものもかなり特殊でこれまでにはないアプローチだと思います。アニメや漫画からの文脈のもので海外ではなかなか出てこない発想かなと。小高さんの話を聞いていると、戦略性を感じます。
小高氏:
あとづけですけどね(笑)。
──発想は直感からきている感じなんですか?
小高氏:
「次世代のアドベンチャーゲームを背負う金字塔になる」というハッキリした目的があるので、そこに向かうために「こういう新しいことをやったほうがいい」「やってないことをやったほうがいい」みたいなことを考えています。
もともと『ダンガンロンパ』のときから「なるべくリアリティがないトリックを作りたい」と思っていました。実際の現実世界ではわざわざ密室を作らないし、わざわざ死体を入れ替えない。
でも、そういうところをミステリーゲームの醍醐味として入れるほうがみんな「なにこの事件」って思ってくれるかなって。北山さんもそういうのが得意な方なので、トンデモ事件を作るのが楽しいです。
Switchオンリーで出すことはメリットのひとつとなる
──『レインコード』はニンダイで初めてお披露目されましたが、そのタイミングで出すことは前々から決められていたのでしょうか?
小高氏:
そうですね。スパチュンさんが決められました。
──あの回のニンダイでは『レインコード』が特に目立っていた印象です。
小高氏:
マルチプラットフォームのゲームが多い中で、Switchオンリーの『レインコード』は目立ちやすかったのかもしれないです。タイミングがよかったのかなと。ニンダイは海外も同時配信なのでその効果は大きいと感じています。
──海外での反響はいかがですか?
小高氏:
やっぱり海外は反響がありますね。すでにファンアートもあがってたりするので。初めての情報解禁で幅広くみなさんに届けることってなかなか難しいですけど、ニンダイはやっぱりすごいなって。
前に雑談の中で「マルチプラットフォームってどうだろう」みたいな話をしましたけど、今回の発表でプラットフォームを絞ることへの効果を実感しました。
AAAのタイトルだと話は別ですが、AAとかAとかのタイトルは数が多すぎてマルチにすると埋もれてしまう。『レインコード』をSwitchオンリーにしたとこはスパチュンさんが決めたことですけど、僕は英断だと思っています。
──最近のインディーの成功パターンとしてよく見るのは「Steamオンリーで出す→Steam内のランキングが上がる→知らない人の目につく」みたいな感じですよね。
それはSwitchでも言えることで、Switch内のランキングが上がることで知らない人の目につく。いわゆるメディアを見ていない人たちのアンテナに引っかかる機会はストアでランキングが上がるくらいしかないからですからね。
小高氏:
そうですよね。そのへんがマルチプラットフォームにするとどうしても埋もれてしまうから。
──ニンダイと「State of Play」【※】を比べるとニンダイのほうが圧倒的に影響力があるので、Switchオンリーで出すことはメリットのひとつになっていると思います。
他社さんのタイトルですけど、ニンダイで発表された『トライアングルストラテジー』とState of Playで発表された『ディオフィールド クロニクル』は、どちらもスクエニで似たようなニーズのタイトルのはずなのに、売れ方がぜんぜん違う。その理由はおそらくゲームの中身の問題ではないんですよ。プロモーションの違いみたいなところは外から見るとけっこう感じています。
※State of Play
PlayStationに関する最新のゲームトレーラーやゲームプレイ映像などを紹介する番組。
小高氏:
ジャンルがアドベンチャーゲームだったからSwitchで出せるというのもありました。Switchはハード的にスペックの制限があるので、たぶんほかの会社がいきなり新規IPを作ろうとなったときに、それがCGメインだったら難しい気がします。『レインコード』はストーリーがメインなので作ることができました。
今後さらにPVを出していく中で謎迷宮も出てくると思うんですけど、そういうところのバラエティでも興味を引いてもらえたらうれしいです。
──最後に読者に向けてのメッセージをお願いします。
小高氏:
アドベンチャーゲームは死んでしまったので、アドベンチャーゲームというジャンル自体を「新しい」と感じていただけるかもしれません。
過去にアドベンチャーゲームをやってた人も「いまこんなふうになるんだ」というのを見てほしいし、まったくアドベンチャーゲームに興味のなかった人にもこれから解禁されるPVや公式動画を見れば「おもしろそう」と思ってもらえるように作っているので、唯一無二の体験を『レインコード』に期待してほしいと思います。(了)
インタビューをとおして「日本のアドベンチャーゲームは死んでいる」と繰り返す小高氏の姿が印象的だった。アドベンチャーゲームはその特性から、ひとつの背景を作っておけば使い回して会話ができる利点がある。ところが氏は「だからこそ死んでいった」と語る。
『レインコード』は使い回しの背景はほぼなく、事件ごとに専用のダンジョンが用意されているという。スパチュン内製でいちばんのコストをかけ、「次世代のアドベンチャーゲームを背負う金字塔になる」というハッキリした目的を掲げるトゥーキョーゲームスとスパイク・チュンソフトの戦略的なアプローチは始まったばかりだ。
現時点で解禁されている情報はわずかのためその全容はまだ見えてこないが、2023年春の発売に向けての続報を電ファミは今後も追っていく。
【あわせて読みたい】
期待度MAX! あの『ダンガンロンパ』制作陣が足掛け5年以上かけた完全新作『超探偵事件簿レインコード』小高和剛氏インタビュー「一緒に見てても面白いと思えるゲームに」
電ファミの姉妹サイト「numan」でも小高氏へのインタビューを実施。氏の学生時代のエピソードから家族構成まで、電ファミとは異なる切り口で『レインコード』についてうかがっている。