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『ロックマンエグゼ』がオンライン対戦に対応したのは本当に凄いことなんだ――思い出と夢が凝縮されたアドコレの誕生秘話を江口名人に訊く

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『ロックマンDASH2』でデビューし、『エグゼ』でシナリオ担当になった江口名人の略歴

──今回のインタビューでは名人改め、江口さんのクリエイターとしての経歴にも少しだけ迫りたいと考えております。『ロックマン11』ではゲームデザイナー兼シナリオ担当として参加されていましたが、カプコンに入ってからは『ロックマンDASH2 エピソード2 大いなる遺産』(以下、ロックマンDASH2)の企画が最初のお仕事だったんですね。

江口氏:
 そうですね。『ロックマンDASH2』がカプコンに入社してから、初めて現場に入って関わった仕事でした。ただ、実はその前にも新人研修の一環で『トロンにコブン』【※】にもほんの少し関わっていたんですよ。

※トロンにコブン
1999年発売のPlayStation用アクションゲーム。『ロックマンDASH』シリーズに登場する空賊「ボーン一家」の長女「トロン・ボーン」と手下の「コブン」が主人公のスピンオフ作品。『エグゼ』では、綾小路やいとのナビとして登場している「グライド」のデビュー作。

──そうだったのですか! ということは、江口さんがカプコンに入社されたのは1999年頃でしょうか。

江口氏:
 はい。で、新人研修の流れで『トロンにコブン』に関わったあと、『ロックマンDASH2』でチームメンバーとして参加しまして、そこから『エグゼ』へと入っていきました。

──江口さんは『エグゼ』ではシナリオを中心に担当されていましたが、『ロックマンDASH2』の時もシナリオを担当されていたんですか?

江口氏:
 いえ、『ロックマンDASH2』ではシナリオは書かなかったです。シナリオを担当するようになったのは『エグゼ』からですね。『ロックマンDASH2』の時はダンジョンの設計とミッションを担当していました。

 『ロックマンDASH2』を遊んだことのある人じゃないと分からないかもしれませんが……ダンジョンですと「ニーノ島の遺跡」、水の仕掛けが出てくるところですね。あとは終盤の氷のダンジョンや、そのダンジョン前だったかな……空賊連合と対決する列車ミッションも僕の担当でしたね。なので、本当に企画スタッフのひとりとしてやっていた感じです。

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(画像は『ロックマンDASH2 エピソード2 大いなる遺産』カプコン公式ページより)

──なるほど……。そして、『エグゼ』に入ってからはシナリオを中心に担当されましたが、今でも思うのがあの当時、カプコンの中でシナリオを専門にするプランナーの方って相当珍しかった印象があるんです。もちろん『逆転裁判』の巧 舟さんなどはその最たる例ですが、他に思い浮かぶのが江口さんくらいでして。当時でも、シナリオ専門のプランナーさんって珍しかったんですか。

江口氏:
 珍しかったと思いますね。ただ、カプコンのプランナー……企画マンって、基本は”なんでも屋”なんですね。だから、ダンジョンとかマップを作ることもあれば、シナリオも書いたり、ゲームシステムの立案もやったりするんです。それこそ名人になることも(笑)。

 一番最初の『エグゼ』の時はメインのシナリオを先輩の黒澤【※】が担当していて、僕は小物とかのオブジェクトを調べた時のメッセージとかをやっていたんですけど、段々メインのお話とかダンジョンも担当するようになっていきまして。2からは本格的にシナリオを書くようになりました。

※黒澤真氏:『ロックマンDASH』、『ロックマンエグゼ』、『流星のロックマン』でシナリオを担当したカプコン所属のスタッフ。テレビアニメ版『ロックマンエグゼ』にも原案協力として参加。

──ちなみに江口さんはシナリオに関する勉強はどうされたのでしょうか? あの当時のカプコンですと、シナリオを専門にした「フラグシップ」【※】という子会社がありましたが、そこに所属されていたクリエイターの方々から学んだりとかされたのでしょうか。

※フラグシップ:1997年4月に設立された、シナリオ制作を専門とするカプコンの子会社。『バイオハザード2』、『鬼武者』、『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実』などのカプコン開発タイトルでシナリオを担当。後年にはゲーム開発にも進出し、『星のカービィ 鏡の大迷宮』などを手がけている。2007年に解散。

江口氏:
 いえいえ! 僕の場合は見よう見まねです! 特に学んだりするような場とか機会はなかったです。本当に現場で先輩方の仕事を見つつ、書き方とか色々なことを学んでいった感じでしたね。

──なんと! それを聞くと、なんというか……カプコンらしいって思ってしまいますね……(笑)。

江口氏:
 (笑)。

『エグゼ』がハイペースで発売されたのは「待たせすぎないように」との思いから

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──ここからは話を『エグゼ』に戻しまして、オリジナル版の当時の開発に関する話題に入っていきたいのですが、今振り返っても『エグゼ』って続編の販売ペースが異様に短かった印象が強いんです。

 元々、初代『ロックマン』や『エグゼ』と同じ時代を駆け抜けた『ロックマンゼロ』も1年単位で続編が販売されていましたが、『エグゼ』の場合はRPGなだけに本当に大変だったのではと思います。実際、大変だったのでしょうか。

江口氏:
 余裕は全然なかったです。今の時代だとダメですけど、会社に泊まり込みになることが多くて。深夜まで作業していることがほとんどでした。僕自身も作業の手を止めないよう、無理矢理キーボードを叩き続けて「とにかくやる!」みたいにしていましたね。

──その当時だと開発チームの規模はどれぐらいだったのでしょうか。

江口氏:
 だいたい15人くらいでしょうか。今の基準で人数だけ見ると少なく見えるかもしれませんが、当時のゲームボーイアドバンス向けのゲームとしては結構、大きな規模だったと思います。それでも1年単位で続編を出していましたから、余裕になるなんてことはなかったですね。

──差し支えなければ、なぜ『エグゼ』は1年単位で続編を発売することになったのかをお聞きできればと思うのですが。

江口氏:
 それはメインターゲットである小中学生のユーザーさんたちを待たせすぎないように、というのが大きかったです。学年によっては、1年進級すれば卒業して、ゲームを遊ぶことも難しくなってしまうことがあるじゃないですか。そういうユーザーさんたちがすぐに次が遊べるように、まだゲームを遊ぶハードルが高くならないうちに、という思いから開発には取り組んでいました。そのこともあって、最後となった『エグゼ6』まで開発に余裕が生まれることはなかったですが、毎年コンスタントにリリースする事を強く意識したプロジェクトでした。

 けど、『エグゼ』に限らず『ロックマン』って割とそういうものじゃないですか(笑)。

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──確かに初代『ロックマン』も同じくらいペースで発売されていて、開発期間も『ロックマン2』とか3ヶ月だったって逸話は聞いたことがあります……(笑)。過去のインタビューでも話されていましたが、シリーズの中では特に『エグゼ4』の時が一番、開発がカオスなことになったとのことですが。

江口氏:
 『エグゼ4』というよりは『エグゼ5』の立ち上げ時が一番大変でしたね。

 日本語版をリリースした後に英語版を制作していたんですが、英語版の制作と並行して、『4.5リアルオペレーション』の企画が立ち上がって、更に時期的には『エグゼ5』の立ち上げも重なっていたので、『エグゼ4』の英語版、『エグゼ4.5』、『エグゼ5』を同時に進めていたので、今思えばよくやったなと思います。

 あと、『エグゼ4』の話で言えば、グラフィックを『エグゼ3』から一新しているのですが、それも「ソウルユニゾン」によって戦闘シーンでのロックマンのグラフィックパターンが増えた事が大きくて。

 『エグゼ』シリーズでは、毎回ROM容量の限界ギリギリまでデータを詰め込んでいるんですね。その中でも一番容量を食うのがグラフィックで、『エグゼ4』からはマップのキャラクターのサイズを小さくする以外に、一部のキャラクターは向いている方向以外を一切描かない、歩かせないとか、かなり細かな工夫をしながら容量を削っていきました。

 僕が担当したシナリオでも容量がカツカツで、開発中に僕の席にプログラマーがやってきまして、「この漢字は使用頻度が低いから、カタカナに置き換えよう」と言われて、そこだけカタカナに置き換えて漢字1文字分の容量を削減たりもしました。

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──時々カタカナが使われているのは「読みやすさを考えてかな?」と思っていましたが、容量対策だったのですね……。

江口氏:
 キャラクター性や読みやすさのためにカタカナを使っていましたが、実は容量の都合で使っていた所もかなり多くありましたね。

──ちなみに『エグゼ4』の次の『エグゼ5』でも、ニンテンドーDS向けに2バージョンをカップリングした『ロックマンエグゼ5DS ツインリーダーズ』(以下、ツインリーダーズ)が発売され、その後に『エグゼ6』というスケジュールになっていましたけど、あの時は『エグゼ4』ほど開発はカオスなことにはならなかったのですか?

江口氏:
 『エグゼ4』ほど大変なことにはならなかったですね。と言いますのも、『ツインリーダーズ』は社内の別チームが作っていたんですよ。なので、『エグゼ5』から『エグゼ6』の時はそこまで厳しいことにはならなかったんです。まあ、余裕がないというのは全然変わらなかったんですけど(笑)。

──その『エグゼ4』と『エグゼ5』で今も印象に残っているのが、それまでの『エグゼ1』から『エグゼ3』以上にゲームシステムの変革が見られたことです。『エグゼ4』はトーナメントで周回制、『エグゼ5』は「リベレートミッション」ですね。あのような大規模な変更はどういった経緯から決まったのでしょうか。

江口氏:
 『エグゼ4』の時は、『エグゼ3』の「N1グランプリ」で描かれたトーナメント戦をさらに掘り下げたり、実際の通信対戦も熱気がありましたので、大会をフィーチャーした形で、あのようなゲームシステムになっていった感じでしたね。『エグゼ3』の時はシナリオの一部でしたから、今度は全部トーナメント戦で構成してみようという具合に。『エグゼ5』の「リベレートミッション」はどのような経緯から生まれたのかちょっと記憶が曖昧なのですが、『エグゼ4』の時にはトーナメントで出会う仲間と共鳴を描いていましたが、新たな仲間との共鳴の形として、「じゃあ、今度はチーム戦を描こう」という話になって、ブルースとカーネルのチームに様々なキャラクターが所属して戦うみたいに発展していったように思います。「リベレートミッション」もそういったテーマからの派生を経て生まれた感じですね。

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──今でも特に『エグゼ5』はだいぶメインストーリーのゲームデザイン面で挑戦していた作品だったように思っています。そのような作品を経て誕生した『エグゼ6』では一転して、ストレートなシステムになっていたのも印象的でした。

江口氏:
 ストレート……確かにあの流れからだとストレートだったかな……いや、ストレートではありましたね……(苦笑)。

──まあ、「獣化システム」に「クロスビースト」とか新要素はてんこ盛りでしたが(笑)。あと『エグゼ4』以降でとても印象に残っているもので、バージョンそれぞれの個性付けが面白かったというのがあります。あのようなバージョンごとの個性を出すに当たって、意識したことはあったのですか。

江口氏:
 “どちらかが絶対に強い”みたいなことが起きないこと、ユーザーさん同士で”どっちの方が強い?“と議論が続くことを大事にしていましたね。バージョンを分けて、どちらかだけにすごく強いものがあったりすると、すぐに結論が出てしまうじゃないですか。そういうことにならないよう、発売した後もどっちのバージョンが強いのかを沢山語り合ってもらって、その熱を維持したまま次の続編に入ってきてもらう、みたいな流れができることを意識していました。ただ、バージョンごとの名前をどう付けるかで悩みましたけどね……(笑)。

──今、振り返ってみても『エグゼ6』でラスボスの名前を付けるだけでなく、発売前に「今回はこいつが最後のボスだ!」と明かしてしまうというのは前代未聞でしたね……(笑)。

 それで、最初に話題に出した『エグゼ』のシナリオに関するお話に入ってくるのですが、江口さんはメインのシナリオ以外にフィールド上の小物……オブジェクトを調べた際のテキストとかも担当されていたんですよね。

江口氏:
 はい、『エグゼ1』の時はほとんど僕ですね。あとプログラムくんの台詞もほとんどすべて担当していました。『エグゼ2』以降はメインのシナリオを書くようになりましたけど、小物やプログラムくんのテキストと台詞は引き続き担当していますね。

──実は前々から気になっていたことがありまして……。『エグゼ』だと物を調べた時のメッセージが特にそうなのですが、調べられる対象の豊富さもさることながら、ユーモアが込められているじゃないですか。

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 江口さんは『ロックマン11』でもシナリオを担当されていますが、特に「ギャラリー」で見られる敵キャラクターやボスキャラクターの解説文にもユーモアがあるんですよね。例えば「シモベー」【※】という雑魚敵であれば「いつかヒーロー役になれる日を夢見て、今日も吹っ飛ぶ。」みたいに。あれは江口さんなりのこだわりなのでしょうか?

※シモベ―:『ロックマン11』の「ブラストマンステージ」などに登場する、特撮番組の悪の戦闘員をモチーフにした雑魚敵。倒すと横に吹っ飛んで大爆発を起こす。

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江口氏:
 それは僕個人というよりは、カプコンのクリエイターのこだわりかもしれません。なんと言いますか……ガッカリさせたくないんですよ。せっかく調べたり、見てもらったのに、例えば「これはテレビです」という素っ気ないメッセージが表示されるだけで終わるとか、そもそも何も反応がなかったとか、そういうのって寂しいじゃないですか。ユーザーさんはそれが気になったから、わざわざ調べてくれたのですから、少しでも「調べてよかった」「見てよかった」という気持ちになってもらいたい。

 『エグゼ』の小物を調べた時の反応が豊富だったり、メッセージがちょっと愉快な感じになっていたりするのは、そういうところから来ています。これは僕に限らず、カプコンのクリエイターなら誰もが持っているこだわりと言いますか、ゲームに対する考え方じゃないかなと思います。

 『ロックマン11』の時も同じですね。「ギャラリー」って、ゲームをクリアするだけなら別に見なくてもほとんど問題ないじゃないですか。けど、見てくれるユーザーさんは必ずいますから、そういう人たちをガッカリさせたくない。「見てよかった」「面白かった」という気持ちになってもらいたいんです。そういう思いから、あのような解説文になっているんですね。

 ちなみに『ロックマン11』の解説文だと、「トーチマン」ステージの中ボス(モエターキー)が僕の中では会心の出来だという自負があります。鉄板と鉄板ネタを組み合わせられたので(笑)。

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──なるほど、確かにそれを思うとメッセージの豊富さとユーモアにも納得です。あと『エグゼ』のシナリオは少年漫画の王道を押さえたものに仕上がっているという印象があるのですが、執筆に当たって影響を受けた作品はあったのでしょうか。

江口氏:
 藤子不二雄先生、手塚治虫先生の作品をはじめ、多くの漫画やアニメには何かしら影響を受けているところはあるかと思います。『ロックマン』シリーズのストーリーから影響を受けることもあり、『エグゼ6』のカーネルとアイリスのエピソードは『ロックマンX4』の設定画を活かしています。あの設定は今でも自分の中で綺麗にハマったという手応えがありますね。

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