なりゆきでなってしまった名人。そして20年以上が経った今、その傍には……?
──江口さんは『エグゼ』が現役だった頃から今も名人としてご活躍されています。これは過去のインタビューでも言及されていましたが、名人になられたのは先輩方が断り続けた末に、だったんですよね。
江口氏:
そうですね……!
ゴールデンウィーク前くらいの時期、当時の上司からイベントがあるから、博士として出てくれと言われまして。その頃は名人というキャラクターではなかったんですね。
最初は先輩がたに声がかかったんですけど、みんな断ってしまいまして、気付いたら僕のところまでその話がまわって来たんですね。それで当時はまだ21、2、歳の新人でしたから、抵抗するにもできず……なりゆきで出ることになってしまいました(笑)。
──その当時って『エグゼ2』の開発も進んでいた頃だったんですかね……?
江口氏:
まさに開発がスタートしていた頃でしたね。
──なんと(笑)。それで江口さんは名人として大会イベントへの登壇に留まらず、『コロコロコミック』の誌面上に登場するなど、『エグゼ』の顔とも言ってもいいほどの活躍をされていきましたけど……人前に出ることに対しては抵抗がなかったのでしょうか。学生時代にそのような経験があったとか?
江口氏:
いや、そういう経験はなかったです。剣道部の部長とか、あと学級委員をやっていたぐらいですよ。もう、あの時はとにかくやるしかなかったので(笑)、特に人前に出ることに対して抵抗はなかったですね。
──ほかにも、『エグゼ2』の時にテレビコマーシャルにも出演されていましたよね。
江口氏:
え!? それって『エグゼ3』の時じゃなかったかな……?
──いや、『エグゼ2』の時だったはずです。白衣をビシッと決めて、ゲームボーイアドバンス本体に通信ケーブルをカシャッと差し込んで、最後に「さあ!対戦だ!」という内容で、今もよく覚えています(笑)。
江口氏:
あ……!! そうだったかも……!
カプコンスタッフ:
今、見つけてきたんですけど、これですかね? 名人、若い……!
江口氏:
うおっ!ああ、これか!!
これ、確かカプコン社内で撮影したんですよ。
──なんと!
江口氏:
撮影のために狭いスペースを作って、そこであれこれしながら録ったような覚えがありますね(笑)。
──CMを見た友人から連絡が来たみたいなことはありましたか?
江口氏:
なかったですね(笑)。流石に友人とか同世代の人間になると、ターゲットが違うので目にする機会はなかったと思います。
──今ですと、カプコンには『エグゼ』直撃世代だったスタッフも何人かいらっしゃるのでしょうか。
カプコンスタッフ:
あ、私は『エグゼ』の直撃世代です。今、28歳になります(笑)。
江口氏:
……という感じにいらっしゃいます(笑)。
何人かにはサインをねだられたこともありましたね。
まあ、なりゆきではありましたけど、名人になったことでゲームを遊んでいるユーザーさんと直接コミュニケーションを取ったり、遊んでいる時の反応を間近で見られたのは本当に貴重な経験ができたと思っています。
あと、当時のイベント会場でお会いした方が成人した今だとIT業界に入ってシステムエンジニアやプログラマーになったとか、そういう報告も聞いたりすることもあるんです。なので、今も名人になって良かったと思いますし、これからも名人であり続けたいですね。
──おお!
江口氏:
でも、後継者候補が現れたら引退を考えちゃうかもしれません(笑)。
──(笑)。ちなみに『アドバンスドコレクション』の開発スタッフの中にも直撃世代の方はいらっしゃるのですか。
江口氏:
開発チームのスタッフは、『エグゼ』をそれまで知らなかったり、遊んだことがなかったメンバーが多いんです。けど、開発を進めていく内にどんどん『エグゼ』のことを好きになっていきまして、今ではゲームのことに限らず、ストーリーやキャラクターたちのことを話題にしているメンバーもいたりしますね。
──改めて『エグゼ』の魅力が発売から20年以上経った今も色褪せていないことを物語っていますね。
『エグゼ』の人気が最も高いのは日本。でも、海外のファンから「ナマハゲマン」なるボスが送られてきたことも
──『アドバンスドコレクション』が発表された時に改めて実感しましたが、『エグゼ』は『ロックマン』シリーズの中でも特に日本のファンの熱量が高い作品という印象があります。アクションゲームの『ロックマン』シリーズはどちらかというと海外ファンの方が熱量高い感じで、今も根強い人気を保っていますが、『エグゼ』の場合はどうなのでしょうか。
江口氏:
『エグゼ』の場合は日本が圧倒的に強いですね。決して海外では人気がないということではありませんけど、アクションゲームの『ロックマン』との差はあるかな……とは思いますね。
──なんとなく感じてはいましたが、やはりそうなのですね。
江口氏:
ただ、『エグゼ4』の時だったかな……? オーストラリアのケアンズに出張で行ったことがあったんですよ。そこでゲームボーイアドバンスで遊んでいる子供たちがいて、よく見たら『エグゼ4』を遊んでいたというのがありましたね。あれは本当、胸が熱くなりました(笑)。なので、確かに日本が圧倒的ではありますけど、海外でもちゃんと支持されている印象はありますね。
──そういえば、『アドバンスドコレクション』は中国語にも対応していますが、日本以外のアジア地域向けにローカライズして販売するのは今回が初めてになるのでしょうか? 当時もオリジナル版は販売されていたりしたのですか?
江口氏:
今回が初めてですね。一応、聞くところによると販売されていたらしいのですが、英語版だったと耳にしています。なので、現地の言葉に対応し、遊べるというのは今回が初めてとなります。
──日本での人気を決定づけたのが『コロコロコミック』を始めとした漫画連載、テレビアニメの放送といったメディアミックスが盛んに行われたことだったと思うんです。江口さんはシナリオの担当として、メディアミックス絡みには積極的に関与されたのでしょうか。
江口氏:
漫画とアニメに関しては設定を提供したり監修するとか、そのような打ち合わせはしました。けど、基本的にはそれぞれの分野の専門的な方々にお任せという形でしたね。
──もしかして、テレビアニメ版の第1シーズンが割と自由な作風だったのはそういう背景もあったのでしょうか(笑)。また、メディアミックス絡みでゲームの方に逆輸入したネタってあったのでしょうか。
江口氏:
そうかもしれません。ゲームでは難しい、思い切ったストーリーもありましたね。
メディアミックスで、明確に逆輸入と言えるのはPETのデザインですね。あの当時、メディアミックスの一環でおもちゃも展開されていましたが、販売されるのはゲームよりもそちらが先だったんです。なので、早い段階でデザイン画が挙がってくるのですが、それを踏まえてゲーム側のPETのデザインも統一させるとか、そうしたことはしていましたね。
アニメ、漫画、玩具、メディアミックスした『エグゼ』作品から刺激をもらっていたのは確かですね。
──現在、YouTubeの「CAPCOM CHANNEL」で『エグゼ』のアニメが無料配信【※】されていますよね。『流星のロックマン』のアニメもそうでしたけど、改めて見返すと凄い方々が制作に参加されています。例えば今では『ソード・アート・オンライン』のキャラクターデザインや、『リコリス・リコイル』の監督で知られる足立慎吾さんとか。
※2023年5月31日までの期間限定公開
アニメの打ち合わせでは、そうした方々とお会いする機会ってあったのでしょうか。アニメのスタッフさん、『イレギュラーハンターX』【※】の『The Day of Σ』【※】も手掛けられていましたので。
※『イレギュラーハンターX』:2005年12月にPlayStation Portable向けに発売された『ロックマンX』第1作のリブート作品。
※『The Day of Σ』:『イレギュラーハンターX』に収録されたオリジナルアニメ。加戸誉夫氏、うえだしげる氏、足立慎吾氏といったテレビアニメ版『ロックマンエグゼ』のスタッフによって制作された。『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』にはリマスター版の映像が収録されている。
江口氏:
僕の場合、監督の加戸誉夫さん【※】、シリーズ構成と脚本を担当されていた荒木憲一さん【※】とは何度かやり取りすることがありましたね。確かに考えてみれば『The Day of Σ』も『エグゼ』のアニメに関わった方々によるものでしたね。
※加戸誉夫
テレビアニメ版『エグゼ』シリーズの監督。2023年現在、studioMOTHER株式会社取締役。『エグゼ』シリーズ以外の代表作に『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』シリーズ、『ゾイド』シリーズなど。
※荒木憲一
テレビアニメ版『エグゼ』シリーズでシリーズ構成&脚本を担当。『ゾイド』シリーズを始めとするテレビアニメのほか、『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』などの特撮作品も手がけている。
──そのほかにも、メディアミックス絡みでとりわけ印象的だったのが『コロコロコミック』で実施されたボスキャラクターの公募企画です。初代『ロックマン』シリーズでも展開された企画ですね。やはり当時は相当数の応募が寄せられたのでしょうか。
江口氏:
それはもう! すごかったですよ! 段ボールに入れられてくるんですけど、もう山のような量でして。選定も定時になったら会議室に行って、机の上にハガキを並べて、ディレクターとデザイナー、僕といったスタッフがそれらを1枚ずつ見ては確かめるという感じでした。しかも量がすごいので、そんなすぐには決まらないんですよ。大体、決めるのに1ヶ月以上は費やしていたように覚えています。
──そんなにも……。公募されたボスの多くは『エグゼ6』を除きますと江口さんがモデルになった名人の持ちナビとして登場することがほとんどで、初代『ロックマン』シリーズのようにストーリー上のボスとして出ることはなかったですが、これは何か事情があったのでしょうか。
江口氏:
そこは生々しい話になっちゃうのですが(笑)、開発スケジュールの都合が影響しています。まず、選んで決めるまでに時間がかかりますから。なので、ストーリーで対決するボスたちは過去の『ロックマン』シリーズからのアレンジボスたちを当てつつ、公募されたボスは名人のナビとして登場させる……みたいな割り振りになることが多かったです。
──その公募されたボスキャラクターの中で、江口さん自身が特に印象に残っているボスキャラクターはいますか。あと、選ばれる際の決め手になった指標ってあったりしたのでしょうか。
江口氏:
印象に残っているものですと、チェスをモチーフにした「キングマン」ですねぇ。あれはマス目のフィールドで戦闘するシステムでありながら、「なんでこれを思い浮かばなかったんだ!?」となりました。
指標は特になかったですが、当時の僕がハマっていたり、何かしら結びつくネタを扱っているキャラクターが選ばれる傾向は若干あったかもしれません。例えば『エグゼ3 BLACK』の「ボウルマン」は、僕があの当時、ボウリングにハマっていたことから目についた感じで(笑)。『エグゼ4』の「ケンドーマン」も僕が元々剣道部だったことから繋がって……みたいなところはありましたね。
──先ほどの海外人気の話に若干戻るのですが、『ロックマン6』の時には海外のユーザーさんが応募したボスキャラクターが採用されるということがありました【※】。同じように『エグゼ』でも海外のユーザーさんから送られてくることはあったのでしょうか?
※同作に登場する「ナイトマン」と「ウインドマン」は海外のファンから公募されたボスキャラクターだった。2体は『エグゼ』シリーズにも登場していて、「ナイトマン」は『エグゼ2』と『エグゼ5(チームオブカーネル)』、「ウインドマン」は『エグゼ4(レッドサン)』と『エグゼ4.5』で会える。
江口氏:
もちろん、ありましたよ!
カナダの方から「ナマハゲマン」というボスキャラクターが送られてきたことがありました。
一同:
(爆笑)。
──ナ、ナマハゲマンですか……(笑)。
江口氏:
それと一緒に覚えたてな日本語でメッセージが添えられていまして(笑)。あれはすごく印象に残っていますね。
──完全に余談ですけど、江口さんも過去に初代『ロックマン』のボスキャラクター公募に応募されたことがあるんですよね。
江口氏:
よくご存じで!(笑)。『ロックマン3』か『ロックマン4』の頃だったかな。「スナイパー・ジョー」【※】の偽モノみたいなボスキャラクターを出したことがありました(笑)。
元々僕自身、『ロックマン』シリーズはそんな熱心に追いかけていた訳じゃなく、友達の家で遊ばせてもらっていたような感じだったんです。ただ、自分の描いたキャラクターがゲームに登場するのって、あの当時の小学生からしたら夢のような話じゃないですか。だから、憧れの度合いが半端なくて、ワクワクしながらデザインした覚えがありますね。
※スナイパー・ジョー:初代『ロックマン』シリーズに登場する人型戦闘ロボット。ワイリーがブルースのデータを元に設計したという設定。「いつも、いて欲しくない場所に現れる。」(『ロックマン11』ギャラリーより一部引用)
──そんな江口さんがカプコンに入社され、『ロックマン』シリーズに関わって、『エグゼ』で当時憧れたボスキャラクター公募に携わることになるというのには運命を感じさせられます(笑)。
江口氏:
そうですねぇ(笑)。