『ロックマンエグゼ』がオンライン対戦に対応したのは本当に凄いことなんだ――思い出と夢が凝縮されたアドコレの誕生秘話を江口名人に訊く

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 ゲームボーイアドバンスの時代を象徴する人気作『バトルネットワーク ロックマンエグゼ』(以下、エグゼ)。1987年にファミリーコンピュータ用アクションゲームとして誕生し、カプコンの看板タイトルへと発展した『ロックマン』の新しい派生作品として発売された「データアクションRPG」である。

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 『エグゼ』は、当時の小中学生を中心に大きなヒットを記録すると同時に、漫画、テレビアニメといったメディアミックスも盛んに展開。ゲームとしても、カードゲームとアクションゲームを融合した独創的な戦闘システム、ネットワーク技術が発展した未来の社会を舞台にした世界観とストーリーが高く評価された。とりわけ前者は対人戦も可能な作りと戦略性の高さ、そして定期的に開催された大会イベントもあって、日本全国で多くの「ネットバトラー」たちを輩出するに至っている。

 そんな一時代を築き上げた『エグゼ』も、第6作『ロックマンエグゼ6 電脳獣グレイガ / 電脳獣ファルザー』で完結。しかし、それから十年以上が経った今も『エグゼ』の人気は衰えを知らず、何かひとつ話題になれば大きな盛り上がりを見せるほどの力を維持し続けている。

 そして、2016年に初代『ロックマン』シリーズを現行の環境で遊べるようにしたコレクションタイトル、『ロックマン クラシックスコレクション』が発売されると、『エグゼ』のコレクションも求める声が上がるようになった。

 だが、『エグゼ』は後継の『流星のロックマン』もだが、ゲーム内で扱っているデータの物量がアクションゲームの『ロックマン』とは比べ物にならないほど大きい。ましてや、現代に蘇るとなれば、『エグゼ』の屋台骨も同然な対戦のオンライン対応は確実にファンから望まれる。そのための開発も新規に発生するとなれば……と考えると、復刻する可能性はゼロでないにしても、簡単な話ではないと思えたのだ。

 しかし、2022年6月……ついに待ち望まれた夢は現実となった。

 『エグゼ』を現行の環境で遊べるようにした待望のコレクションタイトル、『ロックマンエグゼ アドバンスドコレクション』が発表されたのだ。

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 しかも、その後に対戦と「バトルチップ」交換のオンライン対応、イベント限定の「配信チップ」と『エグゼ4』以降のシリーズに導入された「改造カード」のデジタルデータとしての収録も発表。まさに直撃世代のファン感涙の決定版にして、夢と理想が凝縮されたコレクションタイトルになることが明らかになったのである。

 そして迎えた2023年4月14日、『アドバンスドコレクション』は発売を迎えた。この驚愕のコレクションの開発を指揮したのは、大会イベントに登壇され、『エグゼ』シリーズのナビゲーターとして活躍した江口名人こと江口正和氏。クリエイターとしては『エグゼ』シリーズにシナリオ担当のプランナーとして携わり、『エグゼ』以降も『流星のロックマン』シリーズ、『ロックマン11 運命の歯車!!』といった『ロックマン』シリーズでシナリオのほか、ディレクター、ゲームデザイナーを務めてきた人物だ。

 今回、電ファミニコゲーマー編集部はそんな江口氏にインタビューを敢行。『アドバンスドコレクション』開発の始まりから、オリジナルのGBA版『エグゼ』開発当時の秘話、そして江口氏のクリエイターとしての経歴と素顔にも迫った。

江口正和氏
江口正和氏

取材・文/シェループ
編集/クリモトコウダイ

ユーザーそれぞれの思い出と夢を熟慮しながら開発された『アドバンスドコレクション』

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──本日はお時間をいただき、ありがとうございます。そして『アドバンスドコレクション』の開発、本当にお疲れ様でした……!

江口名人:
 ありがとうございます!

──『アドバンスドコレクション』と『エグゼ』の話題に入る前にひとつ、触れさせてください。名人、衣装を新調されたのですね!

江口名人:
 よくぞ聞いてくれました!!(笑)

 『アドバンスドコレクション』の開発を始めて間もない頃だったんですけど、プロモーションのスタッフから衣装を新調するというメールをもらったんですよ。前の衣装は15年前ぐらいに作ってもらいまして、そこからずっと色んなところで使い続けてきたんですね。

 それで何度も袖を通してきましたから、このオレンジの襟とか袖のところとかがボロボロだったんですよ! 襟なんて、内側のシャツとかにオレンジの粉がいっぱいくっ付いたりしていましたから(笑)。

──そんなにも(笑)。

江口名人:
 その分、愛着もあったんですが……新しい衣装を着られるという嬉しさもありまして、昔の衣装を参考用としてスタッフに送ったんですね。そしたら、数ヶ月ぐらい経ってから担当のスタッフから”修繕”ってメールが返ってきたんですよ。

──おお!……ん? え? 修繕?

江口名人:
 そうなんですよ! 新調じゃなくて、前の衣装を直すということで、いまのになったんです。てっきり、「新しい衣装を着れる! どうなっているんだろうな~」とワクワクしていたらこれですよ!(笑)。

──(笑)。

江口名人:
 でも、このボロボロだったオレンジの襟や袖とかは元通り、こんな具合に綺麗になりましたから。それに『エグゼ』が今回、『アドバンスドコレクション』になって帰ってくるのを思えば、かつて遊んでくださったファンの方々と、新たに『エグゼ』を遊ぶ若い方々と思い出を作っていくのにこの衣装は相応しいなと、今では納得しています!

江口正和氏

──最高の白衣じゃないですか! それにしても、本当に……本当に開発お疲れ様でした。

 今まで『ロックマン』は初代『エックス』、『ゼロ』、『ゼクス』とアクションゲームのシリーズを中心に復刻が続いてきましたが、『エグゼ』はRPGで、なおかつゲーム内で扱っているデータの量がものすごく多い……それこそ「バトルチップ」なんて1000枚は超えていますから、復刻するとなれば、チェックとか整合性の確認などで相当大変なことになるのではと素人ながら心配していました。

 なので、復刻が発表された時は期待と同時に「開発大変そうだけど、大丈夫かな……」とも感じたのですが、実際に始めてみていかがでしたか?

江口氏:
 いやぁ……まあ、分かり切っていたとは言え、大変でしたね! もともと、オリジナル、ゲームボーイアドバンス版の当時もそうでしたが、とにかく『エグゼ』って組み合わせが膨大なんですね。バトルチップにプログラムアドバンス、そして『エグゼ2』からはスタイルチェンジ、そして『エグゼ4』からはソウルユニゾンにダークチップと、本当に色んな要素があって途方もない感じで。けど、それは復刻が決まってから覚悟していたことでもありましたからね。

 基本的に組み合わせなどの検証は、社内にチェックチームがいますので、そちらにお任せしていました。ただ、本当に組み合わせが膨大ですから、開発期間全体で見てもチェックに当てた時間は長かったように思います。とはいえ、これは『エグゼ』を復刻するとなれば絶対に避けては通れないことですからね。意を決してやりきりました。

──ちなみに過去のインタビューで「次回作の構想はある」と仰っていましたが、そこから『アドバンスドコレクション』へと繋がっていったのでしょうか。

江口氏:
 いえ、『アドバンスドコレクション』はそれとは別の所から出てきたものでした。今回の『アドバンスドコレクション』の企画は約2年前に立ち上がりまして、元々『エグゼ』の復刻を求める声が当時のファンのみならず、カプコン社内からも上がっていたんです。それで一番後押しになったのは、非開発側のスタッフからも要望が上がったことでして。それで僕に白羽の矢が立ち、開発がスタートしました。ちょうど2年前は『エグゼ』の20周年で、昨年も初代『ロックマン』の35周年という出来事もあったんですけど、本当に色々な要素が重なった結果、という感じでしたね。

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──そういった経緯だったんですね。さて、『アドバンスドコレクション』では『エグゼ』の代名詞ともいえる対戦がオンラインに対応している点が大きなポイントとなっています。それも収録全作、それぞれで対戦が楽しめるというものですが、このような形になるのは最初から決まっていたのでしょうか。

 作品ごとに対応させるのはかなり大変なのではという不安と、『エグゼ6』の対戦がファンの間で高く評価されていたことから、それをベースに現代の調整を加えた独立させたモードを組むのでは、勝手ながら想像していました。

 例えがマニアックですみませんが……『ロックマンメガワールド』【※】の「ワイリータワー」のようなシステムで構成された、総決算的なモードが用意されるのかと。

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※ロックマンメガワールド
初代『ロックマン』1~3作目のメガドライブ向けリメイク作品。『ワイリータワー』は3作クリア後に解禁される完全新作の短編で、『ロックマン』の1~3作目の特殊武器+サポートアイテム全種の中から好みの武器セットを作ってステージ攻略に挑む独自システムを搭載している。2023年現在『セガ メガドライブ for Nintendo Switch Online』でプレイ可能。

江口氏:
 通信周りに関しては初めから全作対応させたいと思っていました。やはりシリーズそれぞれの対戦が思い出として残っているユーザーさんがいると思うんですね。それと同じ環境のままオンラインで遊べるようにして、あの当時は無理だった未来を味わってもらいたいという思いもありまして、全作で対戦可能にする形になりました。現代のオンライン対戦を踏まえた基準を考えつつも、ユーザーさんの思い出もきちんと残す、という方針ですね。

 少し専門的なことになりますが、単純に『エグゼ』の6作をオリジナル版そのまま復刻するのであればエミュレーションが使えますから、割と早くできてしまうんです。もう、配信は終わってしまいましたけど、Wii Uのバーチャルコンソール版はまさにエミュレーションによる復刻でした。

 ただ、対戦をオンラインに対応させるとなれば、プログラムを新たに作ることになります。開発の難度が大きく高まってしまうので、初期にはチーム内でもオンライン対応するかどうかの議論がありました。でも、そこはもう、チーム一同で「思いきってやろう」と。

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── 一方で、作品別にするとプレイヤーが偏るなりして分散する懸念もあったと思うんです。その辺りは考えられたのでしょうか。

江口氏:
 もちろん、チーム内で議論はありました。ただ、ユーザーさんにはそれぞれ思い入れのあるシリーズ作があるでしょうから、その思い出を残し、楽しめるようにするという思いから、今の形で通したという感じですね。

──その対戦に関しては、例えば『エグゼ2』で猛威を振るった「プリズムコンボ」に象徴されるように、当時とは異なる調整が入っている部分もあります。これらの再調整も最初から決まっていたのでしょうか。

江口氏:
 決まっていましたね。まあ、「プリズムコンボ」に関しては僕自身が大会でその瞬間を直接目にした時の衝撃があまりにも大きかったのもありますし、簡単に出せちゃいますから(笑)。なので、そこは必ず手を入れようとなりました。ただ、「プリズムコンボ」の調整はあくまでも対戦だけで、ストーリーではオリジナル通りとしています。

──「プリズムコンボ」は私も使った時に大変な衝撃を受けました(笑)。ただ、既に『アドバンスドコレクション』を遊ばれている方からは『エグゼ2』の「ダークメシア」【※】、『エグゼ3 BLACK』の「フォルダリターン」【※】などはそのままとの声も挙がっているんですよね。

※ダークメシア
『エグゼ2』のプログラムアドバンスの1種。凶悪無慈悲な攻撃力を誇るが、発動にはイベント限定の「ゴスペル」チップを入れるなど、いくつかの厳しい条件を満たす必要がある。『エグゼ6』でも使えるが、攻撃力が下げられ、弱体化している。

※フォルダリターン
『エグゼ3 BLACK』のみに登場するギガクラスチップ。発動させると「フォルダリターン」も含む使い終えたチップが復活する。その万能ぶりから、公式大会では使用回数を制限されることがあった。

江口氏:
 確かにその辺りは調整を入れていないですね。「プリズムコンボ」と『エグゼ5』のいわゆる「ABD戦法」は、あまりに脅威の度合いが高かったことから調整を入れることになりました。どちらも出しやすかったり、連発できちゃったりするんですよね。

 逆に出すのにちょっとコツが必要であったり、連発するのが難しかったり、特定のシリーズ作に限られているものは、そのままにする判断をしています。難しいところではあるのですが、そこはユーザーさんの思い出を大切にするという方針も若干影響していますね。

──なるほど。あと、オリジナルから修正されたものでは『エグゼ6』のクリア後の楽曲がありますが……。

江口氏:
 あれは必ず直してやると、開発が決まった頃から掲げていました(笑)。

──確か江口さんが指定し忘れたのが発端だったんですよね。それを直すというのはまさにディレクター権限発動でしょうか(笑)。

江口氏:
 はい! もう、ファンの皆さんから散々言われていましたから(笑)。絶対に直すぞ、と!

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──(笑)。それと今回、新たに追加された要素で「バスターMAXモード」があります。最近の『ロックマン』のコレクションではお馴染みの救済措置ですが、『ロックマンX アニバーサリーコレクション1+2』と『ロックマンゼロ&ゼクス ダブルヒーローコレクション』には、救済措置を封じないと獲得できない実績(トロフィー)がありましたよね。ただ、そういった縛りは今作は存在しないようです。この辺りは最初から決まっていたのでしょうか。

江口氏:
 「バスターMAXモード」の実装に関しては、皆さんそれぞれ自由に好きなスタイルで遊んで欲しいという思いからです。

 ちょっと辛い場面では「バスターMAXモード」に頼り、頑張りたい時はOFFにするみたいに。当時、世代だった方も今では社会人になって時間を作るのが難しくなっていたりしますし、なによりどのシリーズ作もメインのストーリーだけでも結構ボリュームがありますからね。そういった想いがあり、実績は用意しませんでした。

 それにそのような実績を用意するとなるすと、気軽にバスターMAXが使えませんし、実績を獲るためにもう1回プレイしないといけないなんて事になるじゃないですか。RPGで、かつ、収録タイトルが多い今回のアドコレとは根本的に相性が良くないので導入は考えませんでした。

──なるほど。

江口氏:
 「バスターMAXモード」に関しては、アドコレでは基本的にはあの頃のままの『エグゼ』を楽しんでもらいたいというのが前提で、システム側で一律簡単にしちゃうではなく、自分のペースや気分に合わせて難易度を調整できるようにしたかったんです。

 アドコレの「あの頃の『エグゼ』」が詰まったPET」というコンセプトを大事にしつつ、現代の忙しい皆さんにサクサク遊んでもらいたいという気持ちを合わせた形ですね。

 なので、じっくり当時のままの状態で遊んでもらうのも良し、バスターMAXが必要な時には、ためらうことなく使いたい時に使って楽しんでいただきたいです。気持ちよくシナリオをクリアした後はじっくり対戦に挑んでいただければ。

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──疑似再現されたPETですが、登場するのはロックマンのみになっています。他に実装したかったキャラクターはいるのですか?

江口氏:
 もちろんいますよ! ブルースは入れたかったです。あとはプログラムくん【※】ですね。

※プログラムくん:『エグゼ』のインターネットから電子機器といったあらゆる電脳世界に登場するマスコットキャラクター。彼らの台詞のほとんどを江口氏が担当している。

──プログラムくんも考えられていたのですか!?

江口氏:
 アイデアはあったんです。最終的には、より密度を濃くしよう、と言う方針でロックマン1体に絞りました。ロックマンだけに絞った分、沢山のネタが注ぎ込めました。声優の木村亜希子さんが収録される際にも僕自身、現場に張り付いて色々と無茶ぶりもしまして。正直、完成させた今は木村さんのファンの方々に「なにを言わせているんだ!」って怒られるんじゃないのかとビクビクしています(笑)。

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──どんなネタが仕込まれているのか少し調べたのですが、面白いものだとSwitch版であれば、携帯モード時に本体を上下に何度も振るとロックマンが慌てるリアクションを取るんですよね。細かいなぁ、と(笑)。

江口氏:
 それはスティックとボタンをガチャガチャやった時にも見られますね。他のハードでも見ることができますよ。

 実は発売後にユーザーさんのロックマンに対する反応を眺めていたりするんですが、「あー、まだほんの一部のネタしか見つかっていないな。」と、ニヤニヤしております(笑)。

──え、ほんの一部?

江口氏:
 これって言っていいのかな……?(同席したカプコンスタッフに確認しつつ)あ、大丈夫ですか? 一部だけ明かしますと、季節ものだったり、なんらかの記念日なんかにゲームを起動しますと、固有の反応をロックマンが見せてくれます。沢山リアクションが隠れているので、全部その目で確かめたい方は……毎日起動してください!(力説)

──なんと(笑)。でしたら、当面は毎日起動し続けます……!

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