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『ロックマンエグゼ』がオンライン対戦に対応したのは本当に凄いことなんだ――思い出と夢が凝縮されたアドコレの誕生秘話を江口名人に訊く

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20年前、僕らが夢見たインターネットの世界を『アドバンスドコレクション』を通して味わってほしい

──少しマニアックな話題になるのですが……登場人物に関してずっと気になっていることがありまして。熱斗の父親の祐一朗なのですが、彼は何歳なのでしょう? シリーズのストーリー全体を見ると、割と歳を重ねてそうに思うのですが(笑)。

江口氏:
 あぁ……(笑)。今、手元に資料がないんですけど、ちゃんと年齢も含めて設定していたと思います。確か30代後半だったかな……?

──なるほど……。もうひとり、よろしいでしょうか。ヒノケンこと火野ケンイチに関してです。『エグゼ5』を除いて、ほとんどすべてのシリーズに出演していましたが、あのようなレギュラーになったのには何か理由があったのでしょうか。アニメでも結構、活躍されていましたが。

江口氏:
 それは僕自身、“炎”のキャラが好きで、思い入れを持っているというのがあります。特にアニメで活躍していたから、とかではないんですよ。元々、開発スタッフの間でもヒノケンは愛されていまして。それに炎キャラって活躍の場を与えやすい強みがあるんですよ。そうした特徴もあって、最終的にはほとんどのシリーズに出演することになったという経緯だった気がします。

──シナリオに関してお伺いできればと思うのですが、『エグゼ』シリーズはインターネット社会を題材にしていることがあります。『エグゼ』の第1作が開発された当時はまだインターネット黎明期ということで、今のSNSみたいなサービスも誕生していなかった時代でしたが、あの当時、江口さんを始めとする開発スタッフの皆さんはインターネットに対し、どのようなイメージを持たれていたのでしょうか。

江口氏:
 「なんでもできそうな魔法みたいなもの」ですね。人や機械が繋がることで、あんなことやこんなことができるようになって、生活がより便利に、豊かになっていくんじゃないのかと思い描いていましたね。

 あと、シナリオ担当の立場から見れば、インターネットの世界なら、どんな表現でも許されそうなイメージもありましたね。”電脳”と付けるだけで、どんなにあり得ない表現でも「そういうものなんだ」と説明できてしまうという。

 普通には考えられないことでも表現できてしまいそうと言いますか、その意味でも”魔法のようなもの”というイメージはありましたね。

『ロックマンエグゼ』がオンライン対戦に対応したのは本当に凄いことなんだ――思い出と夢が凝縮されたアドコレの誕生秘話を江口名人に訊く_035

──その『エグゼ』の発売から20年以上の時が経ちまして、作中で描かれた技術などの一部は現実になったりしています。中には『エグゼ1』で描かれたストーンマンによるメトロの運行妨害、水道局がウィルスの攻撃で断水してしまう事件などの悪い事例もごく一部とはいえ、現実に起きるようになりましたが、そのような今のネットに絡む現状を江口さんはどう見ているのでしょうか。

江口氏:
 人間が使っている以上、やっぱりそういうことが起きてしまうかと思いましたし、あの当時に思い描いた世界がいい事も悪い事も含めて徐々に現実に近づきつつあるのは、楽しみと同時に不安も半々ですね。

──奇しくも『アドバンスドコレクション』は、「ChatGPT」に象徴されるAIの台頭が始まった時期の発売にもなったんですよね。今、バーチャルVTuberでもAIを搭載したAI VTuberが出てくるようになって、私個人は「これ、いずれはネットナビが誕生してしまうのでは?」と思いながら情勢を見ているのですが、そうした動きに対しても江口さんはどのように見ていますか。

江口氏:
 今は人間のアクションに対して返答してくれるツールとしての役割が大きいですが、いつかはネットナビのように、自発的なコミュニケーションをしてくれる、パートナー的な存在になっていくのかもしれませんね。AIの運用の是非については色々議論されていますが、社会がAIとどういう付き合い方をしていくか楽しみですね。

──『エグゼ』の自立型ネットナビって基本、人間に使われているという設定なのでしょうか。

江口氏:
 自我はあるものの、人間が組み立てたプログラムに基づいて行動していますから、今のAIにやや近いのかなとは思いますね。

──ちなみにもし、「ネットナビ」が現実に誕生したとしたら、江口さんはどんなやり取りをしたいですか。

江口氏:
 愚痴を聞いてくれる話し相手になってもらいたいかな……(笑)。「今日、こういうあってさ~、聞いてくれよ~」みたいに。それで何か励ましてくれる一言を色々返してもらったりして。今の段階でもある程度実現はされてはいますが、まあ……現実にネットナビみたいな個性的なAIと自由に会話出来たりするのは楽しそうですね。

──これは本当に「もしも」の話になってしまいますけど……仮に『エグゼ』の新作が作られることになり、今のインターネット社会や技術が当たり前の中で新しいストーリーを執筆することになったとしたら、どんなことを一番にやりたいでしょうか。

江口氏:
 エグゼの世界から更に進化したネットワーク社会……っていうのは、結構想像するのが、難しそうですね(笑)。けど、20年経った今、改めてAIと人間の関係性やネットワーク社会を描くと当時とまた違った切り口で描ける気がしますね。そんな新しいネットワーク社会で暮らしている人間を描くことを一番重視したいですね。ネットワーク技術やAI以上にそうしたものが当たり前の世界で人間たちがどんな暮らしを送って、どんな関係を築いているのかという人間味あふれる所を深く描きたいです。

──20年前に思い描いた未来の世界で暮らす人間たちのストーリーを描いた『エグゼ』6作ですが、今回の『アドバンスドコレクション』は現役世代に限らず、20年前の当時、まだ生まれていなかった若い世代の方々で初めて触れる方もいると思われます。

 最後になりますが、『アドバンスドコレクション』で初めて『エグゼ』の世界を体験する若い世代の方々に向け、どのように遊んでもらえればという思いがございますか。また、当時現役だった世代のファンの方々にもメッセージをいただければと思います。

江口氏:
 はい……! まず若い世代の方々には、僕たちが20年前に考えた未来はこういうものだったんだ、というのをそれぞれの作品のシナリオやイベントを通して楽しみつつ、当時の雰囲気を味わっていただければと思います。20年前の作品ですから、古さを感じるかもしれませんが、あの時代、インターネットに対してどんな夢が思い描かれていたのかを知る、ひとつのきっかけになれば嬉しいですね。もちろん、対戦も楽しんでいただきたいです。開発チームのメンバーも最初は『エグゼ』を知らなかったメンバーが、次第に『エグゼ』のことを好きになっていったように、新しいファンが生まれればこの上ないですね。

 そして、当時の世代だったファンの方々にはこの『アドバンスドコレクション』を末永く楽しんでいただければと思います。そのような思いを込めて作りました。当時だと夢のまた夢だったオンライン対戦も楽しめるようになりましたが、それ以外でもみんなで集まって小さな大会を開催して遊ぶとか、色んな楽しみ方をして欲しいですね!

──対戦といえば、オンライン対戦をしていればいつか名人と対戦できたりしますか……?

江口名人:
 いまは『エグゼ1』から順番にストーリーを進めていて、全てクリアしたらオンライン対戦もしようと思っています! だから、またどこかで対戦することがあるかもしれませんね。

──それは楽しみです! 名人は何年経ってもずっと名人なんですね。

江口名人:
 名人としても今後、定年を迎えるまでの15年ほどは立ち続けるつもりでいます!(笑)後継者が現れるまではずっと現役です!

 これからも『エグゼ』のこと、何卒よろしくお願いします!

──本日はありがとうございました!

 『エグゼ』のさらなる展開と、江口名人さんのさらなるご活躍を楽しみにしています!

江口名人:
 「さん」はいらない!!

 名人でした!

『ロックマンエグゼ』がオンライン対戦に対応したのは本当に凄いことなんだ――思い出と夢が凝縮されたアドコレの誕生秘話を江口名人に訊く_036

 今回のインタビューでは、江口氏のクリエイターとしての姿勢や素顔にも少しだけ迫ることができた。とりわけ「せっかく調べてくれたユーザーをガッカリさせたくない」という、メッセージ周りに込めた思いには、大変納得すると同時に感銘を受けた限りである。そして名人として、ファンと近い距離に立ち続けていたからこそ、今回の『アドバンスドコレクション』は理想にして最高の形となって誕生するに至ったのだろう。

 改めて、膨大なゲーム内データ量を持つ『エグゼ』をオンラインに対応させ、当時思い描いた夢の数々を詰め込んだ決定版を完成させたことに対し、改めて「お疲れ様でした!」との言葉を贈ると同時に、心からの感謝を伝えたい。

 以前、『エグゼ』を特集した記事でも言及したことだが、筆者は『ロックマン』というゲームの醍醐味とは、自分なりの攻略法を考えては試行錯誤する「答え探し」にあると考えている。それと同時に『ロックマン』とは、「遊ぶ人同士を繋げる力を持つゲーム」との印象も持っている。

 特に小学生の頃は『ロックマン』の名を出せば、決まって周りに人が集まり、「あのボスはどう倒した?」「どの特殊武器が効くのか知ってる?」「パスワードを教えてよ」「ボスキャラ公募に出してみない?」という風にどんどん話が膨らんでいったり、友人の関係にまで発展するということがあった。

 『エグゼ』が出た頃には既にそんな年代ではなくなっていたが、それでも節々で『ロックマン』の話題を出せば、誰かしら近くにやってきて、その話で盛り上がった。それはSNSが当たり前になった現代においても続いている。

 だからこそ、『エグゼ』も直撃世代の間では、それはもう大変な盛り上がりになったことが、ゲーム本編の戦略性の高さなどから容易に想像できる。しかも、ゲームボーイアドバンスを持つ者同士であれば、いつでもどこでも対戦ができたのだ。それゆえ『エグゼ』は「答え探し」の醍醐味に限らず、「遊ぶ人同士を繋げる力を持つ作品」としても圧倒的な力を振るったのだろうと思う。そのことは、電ファミニコゲーマー掲載の福田ナオ氏による『アドバンスドコレクション』のプレイレポート終盤に記されたエピソードが物語る通りである。

 だからこそ「いまでもボクらは、つながっている!」という『アドバンスドコレクション』のキャッチコピーには、『エグゼ』のみならず、『ロックマン』というゲームそのものが持つ”力”も込められているように思うのだ。

 SNSの誕生により、ネットワークを介したコミュニケーションが当たり前になった時代でも、『エグゼ』は『アドバンスドコレクション』を通してその”力”を存分に発揮し、話題を振りまいていくだろう。それが今後、どこまで広がり、新時代の「ネットバトラー」たちを生み出していくのか。そこに『エグゼ』の伝道師たる江口名人は、いかなる活躍を見せてくれるのか。楽しみでならないこの頃だが、まずは『アドバンスドコレクション』を各々自由な「答え」を探し求めながら隅々まで楽しもう。

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