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「ゲームさんぽ」の原点は美術の「対話型鑑賞」にあった!? 「お家騒動」から新生「ゲームさんぽ」まで、制作陣にこれまでとこれからを聞いた

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「ゲームさんぽ」の個性はゲーム選びに出る

──先ほど企画会議の話がありましたが、「ゲームさんぽ」の企画会議はどのようなものなんでしょうか。どなたかが最終的にGOするかどうかを判断したりしているんでしょうか?

マスダ氏:
 それはなかったんじゃないですか? もちろん意見交換はありましたが、そこで完全に企画が却下される、みたいなことはなかったですよね。

吉岡氏:
 そうですね、アイデア共有会に近いものでしたね。「これからこの企画をやろうと思っています」というような。

いいだ氏:
 「GOしていいですか?」ではなく、「GOします!」だけ(笑)。

──特に上からは何も言われず、現場の裁量で好きにやっていたんですか?

いいだ氏:
 上からはいろいろと言われていた気はするんですが、振り返れば勝手にやっていたなと(笑)。

──たとえば数字はこれくらいほしいとか、あるとしてもそういった注文ぐらいですか?

マスダ氏:
 それもありますし、「これは絶対やった方がいい」という企画が上から来ることもあります。ただ、そこはうまいこと説明して結局自分たちが本当にやりたいと思える企画をやっていました。放任されていた、といえばそうかもしれません。

いいだ氏:
 ほとんど僕とマスダさんだけで企画を動かしていた側面もあるので、ふたりで話し終えたらそこでもう終わりなんですよね。「これどうすかね?いいんじゃないすか?」みたいなノリで(笑)。

──フットワークがすごい(笑)。でも逆に、それくらいの軽さじゃないとここまでの投稿頻度は難しいですよね。

マスダ氏:
 動画作りに関しては僕もいいださんも全くの素人で、上司も分からないという状況だったんです。なので各々知見を溜めながら進めてきた3年間でしたね。ここまで許されているのは、なんやかんや成功して結果を出していた、というのもあるんじゃないかな。

吉岡氏:
 案件動画の際はもっときちんとした会議もするんですけどね。

──案件動画となると、知らないゲームも扱うことになりますよね?

吉岡氏:
 実は先ほど話したラリー回も案件動画なんですよ。

いいだ氏:
 広告案件で、なおかつ守備範囲外のものだったけど、あそこまで伸びたのは予想以上の大成功ですね。

吉岡氏:
 『セインツロウ』の案件をやったときも面白かったですよね(笑)。

──予告編を作る回ですね。

いいだ氏:
 案件動画なのに、『セインツロウ』のプレイを1秒もしていない(笑)。

吉岡氏:
 案件のお話をくださる先方も「ゲームさんぽ」のやり方を理解してくれていて、ここまで変わった企画を大丈夫と言ってくれるのはありがたかったです。

──しかし、「マーケティング制作をそのままコンテンツとして出しちゃえ」というのはすごいですね。企画の勝利というか。

いいだ氏:
 我々が先行プレイして撮ってきた映像とありものの宣伝素材を映画のトレーラー制作会社に渡して、映画風予告を作ってもらったんです。

 そもそもの条件として、収録に使えるのが製品版ではなくかなり狭いエリアしか歩けない体験版のみで、あまりいつものような「さんぽ」が出来なかった。だから「じゃあ無理にさんぽしないで使える素材で映像を作ればいいじゃないか」と。

吉岡氏:
 実際にトレーラーとして良いものが出来たと思っていただけて、完成版を東京ゲームショウのブースで流してもらったりもしましたね。

──案件以外でのゲーム選定はどうしているんでしょうか。おふたりの趣味で選んでいるんですか?

いいだ氏:
 マスダさんは基本的に自分の好きなゲームを選んでますよね。

マスダ氏:
 そうですね。やっぱりそのゲームが好きで愛がないと詳しくしゃべれないですし、そもそもどこを深堀りすればいいのか分からなくなってしまう気がするので。思い返せば自分の好きなゲームばっかりやりがちだったのかなと思います。

──マスダさんは手広くゲームを遊んでいるのが強みですよね。ミリタリーがお好きと言っていたわりには、『SEKIRO』『あつ森』なんかもカバーしていますし。かなりバランスよくやられているなと思います。

マスダ氏:
 全部のゲームを遊ぶのは、さすがにもうできないですけどね(笑)。ただ、やったことないゲームでもなんやかんや楽しんじゃってはいますね。『三國志 真戦』ももともと案件だったんですけどハマっちゃって、課金しまくってもう一年ぐらい続けています(笑)。

──マスダさんは好きなゲームから選んでいるということですが、いいださんは話したいテーマからゲームを選んでいるんですか?

いいだ氏:
 自分はグラフィックを見ていることが多いので、ゲームの中をぶらぶらして作りこみを見ながら、いけるかいけないかを考えていますね。そのときは、自分が好きかどうかよりもゲームの作り手側の熱量が感じられるかどうかを意識しているかも。

マスダ氏:
 グラフィックが強いゲームは予備知識がなくても「さんぽ」できますけど、テキスト重視のゲームだと深い部分をちゃんと知っておかなきゃいけないのはかなり違いますよね。

いいだ氏:
 ストーリーを追ったりキャラ設定を読み解いたりする系の企画は、準備の大変さがグラフィックを見る系の比じゃないですね。マスダさんはもともとやり込むタイプだからできるけど、自分はまだまだゲーム歴が浅いし、そういう意味での引き出しは全然ないので羨ましいです。

吉岡氏:
 マスダさんといいださんだけでもゲーム選定に個性が出ているので、「ゲームさんぽ」はチャンネルが増えても無限に差別化できるような気がしますね。

いいだ氏:
 ゲームにしろゲストにしろ、選択肢は無限のバリエーションがあるのでこれから類似コンテンツを作る人はどんどん増えていきそうですよね。

──これからどんどん「ゲームさんぽ」が広がる……冒頭の「いくつあってもいい」という話に繋がってくるわけですね。

いいだ氏:
 これは本家の意向でもありますからね(笑)。それはずっと尊重し続けたいと思うし、そうなっていけばいいなと僕らも思っています。

吉岡氏:
 なむさんとしてはこの「ゲームさんぽ」がオープンソースのように広まって、多くの人がゲームの良さを発見したり、専門家の知識をわかりやすく吸収できるプラットフォームになることを望んでいて、そういった「ゲームさんぽ」の世界観を共有できればいいなと僕たちも思っています。
 
 「ゲームさんぽ」の商標はなむさんが取得しているんですが、それは活動を制限するためではなく、このフォーマットをひとつの形として共有するためなんです。

いいだ氏:
 古き良き「インターネットドリーム」みたいな感じですよね。みんなが自由に好きなことを発信出来て、コミュニティが広がって、楽しみが共有されて、もっと人々の生活が豊かになる。
 ネットはそんなキレイな場所じゃないってもう皆知ってるんだけど、敢えてその可能性を夢見続けておきたい的な。今回自分が新しく始める「ゲームさんぽ」も、本家と同じそういうマインドがベースにはありますね。

新生「ゲームさんぽ」のラインナップ

──そのような思想の流れの上で、いいださんの「ゲームさんぽ」はどのように展開されていくのでしょうか?

いいだ氏:
 「ゲームさんぽ」は良いコンテンツだし、願わくば自分たちの活動が後から続く世代の誰かの土台になればいいと考えていて、そのためにもまずは「ゲームさんぽ」の更新を続けていくということが第一かなと思っています。

 差し当たっての課題は資金繰りになりますね。この点はひとまず主にこれまで協力していただいたゲストの方々にまたご協力をいただきつつ、制作基盤を地道に整えていくことになりそうです。遠からずメンバーシップやグッズ展開もしていきたいと考えているので、これから半年はそういった活動がメインになると思います。

 インタビュー記事としてはイマイチ映えないコメントで申し訳ないんですけど(笑)、全体的な方向性としてはこれまでと変わらないものになるかと思います。今までのゲストも出演しますし、案内人もこれまで出ていた人が多い予定です。

 ただ、これまでアニメや漫画にもちょいちょい手を出してきたように、新しいチャレンジも随時やっていくのでそこはぜひ期待していていただきたいです。あとデザイン周りはこれまでよりもグッと洗練された感じになりそうで、私自身すごく楽しみですね。

──ちなみに、いいださんの「ゲームさんぽ」チャンネルはどのようなチャンネル名になるんでしょうか?

いいだ氏:
 チャンネル名はそのまま「ゲームさんぽ」にする予定です。ただこれだと少し分かりづらくなってしまうので、「ゲームさんぽ/ライブドアニュース」のように「/」などを用いて、そこに自分で新しく立ち上げた会社の社名を入れようかなと思っています。
 「株式会社よそ見」という会社名にしたので、「ゲームさんぽ/よそ見」ですかね。これからよろしくお願いいたします。会社のロゴも今作っていまして、記事公開に間に合いそうだったら送りますね。

 最後に、今後の制作ラインナップのお話もしましょうか?

──ぜひ!

いいだ氏:
 まず、リクエストの非常に多かった「名越先生と見る『Detroit: Becomu Human』」の続編動画が5月12日からシリーズとして予定されています。既に10本分くらいは撮影完了していて編集中。そのほか収録済みの素材は大学の工学部の先生と見る『ヒューマン フォール フラット』、俳人と見る『ホグワーツレガシー』などなど……。一つずつ言うと長くなるので、画像で一覧表を送りますね。

「ゲームさんぽ」インタビュー:その原点は美術の「対話型鑑賞」にあった _001

──良いラインナップですね。『エルデンリング』で俳句は面白そうですね。

いいだ氏:
 まだ固まり切ってないので一覧表には入れてないですが、このほか変わり種な企画として『マインクラフト』×弁護士も予定しています。

 ライブドアで「ゲームさんぽ」をやっていた時に運営していたマイクラサーバーがあるんですが、その時に参加者が作った建築のデータは誰のものなのか、自分の書いたガイドラインはちゃんと法律的な効力を持っていたのか、そういった問題についてガチの法律家に訊いてみようという企画です(笑)。

──えらく実用的な企画ですね(笑)。

いいだ氏:
 今お伝えできるのはこんなところになります。

──これだけ予定が詰まっていれば、ファンの方も安心じゃないでしょうか。

いいだ氏:
 そうですね。新生「ゲームさんぽ」はとりあえず『Detroit』から始まっていくので、ご期待していただければと思います!(了)


 対話型鑑賞によって培われるチカラの中に、自己の再発見というものがある。対話によって自己の感性や思考過程を発見し、それらを他社と共有することで肯定感が生まれるというものだ。
 ともすれば、今回のインタビューも、いいだ氏、マスダ氏、吉岡氏にとってはある種自己発見の機会だったのかもしれない。これから「ゲームさんぽ」を制作していく彼らにとって、なむ氏の思想と自らの足跡の再確認は、これから先へ進むための良き道しるべとして、一層強く刻まれることになるのではないだろうか。このインタビューがその一助となれるのであれば幸いだ。

 さて、一ファンとして見れば、今回のインタビューで聞くことのできた企画はどれも魅力的で、公開が待ち遠しい企画ばかりである。特に名越先生と見る『Detroit』シリーズは、当時その専門的な視点や名越先生のユーモアあふれる語り口に、私もすぐさま虜になった。

 こうして続編を望んでいたシリーズが、いいだ氏の「ゲームさんぽ」で実現するのはありがたいし、これからより一層さまざまなタイトルで作られるであろう「ゲームさんぽ」がどのようになるのか、期待せざるを得ない。また、こうした流れの中で、より一層楽しく、かつ知的に、ゲーマーの好奇心を満たしてくれるコンテンツが現れることを祈ってやまない。

 下記に記載するURLはいいだ氏の新生「ゲームさんぽ/よそ見」のチャンネルページだ。「ゲームさんぽ」ファンの方は、ぜひチャンネル登録いただければ幸いだ。

 なお、「ゲームさんぽ/よそ見」はYouTubeだけでなく、ニコニコの公式チャンネルでも配信されることとなった。
 YouTubeと同時刻に動画が公開されるほか、動画制作の裏側について語る公式生配信番組なども随時行われていく。

 「ゲームさんぽ/よそ見」の記念すべき第1回目の動画は、「精神科医の名越先生と見る『Detroit: Become Human』」の続編となる。YouTube版、ニコニコ版いずれも2023年5月18日の20時に公開予定だ。

 くわえて、初回動画の公開後、5月18日の20時30分よりニコニコ生放送にて「新ゲームさんぽ スタート記念おしゃべり会」と題した番組を生配信する。
 本シリーズを長年制作してきたいいだ氏に、初回動画の振り返りや、「ゲームさんぽ/よそ見」立ち上げの経緯、今後の目標やラインナップなどについてお話いただく予定だ。聞き手は、弊誌編集長のTAITAIが務める。
 ぜひ初回動画の視聴後に、あわせてお楽しみいただければ幸いだ。

【番組概要】
・番組名  :新ゲームさんぽ スタート記念おしゃべり会
・放送日  :2023年5月18日(木)20:30~22:00
・視聴URL :https://live.nicovideo.jp/watch/lv341374143 
・出演者 :【出演】いいだ(ゲームさんぽ/よそ見)、【聞き手】平信一(電ファミニコゲーマー編集長)

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ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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