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「ゲームさんぽ」の原点は美術の「対話型鑑賞」にあった!? 「お家騒動」から新生「ゲームさんぽ」まで、制作陣にこれまでとこれからを聞いた

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 かつて、ゲームは「教育に悪いものである」という風潮が蔓延っていた時代があった。2000年代を生きたゲーマーの中には、当時の感覚を未だに覚えている者も少なくないだろう。
 当時と比べて、現代はゲームに対して比較的寛容な社会になったといえる。現在においてもそういった傾向がないわけではないが、ゲームコンテンツやeスポーツがマスメディアで好意的に取り上げられるのを見れば、少なくともゲームが広く社会に浸透し、ひとつのカルチャーとして捉えられるようになってきていることが伺えるだろう。

 一方で、先の風潮の反動かあるいは別の理由かは不明であるが、ゲームは今「教育」ブームの中にあるように感じる。『マインクラフト』「アサシンクリード」シリーズ、「桃太郎電鉄」シリーズなどは教育の現場で実際に教材として用いられているし、脳トレ、パズル、知育など、各方面でゲームと教育が向き合ってアプローチし合うという試みももはや日常のものとなっている。

 YouTube等の動画投稿サイトにおいても、ゲーマーの知的好奇心を掻き立てるコンテンツが現在流行の兆しを見せている。その中で最も規模が大きく、絶大な支持を集めるのが「ゲームさんぽ」シリーズである。

 毎回さまざまな方面の専門家を招いて共にゲーム内世界を巡る本シリーズは、発起人であるなむ氏と「ライブドアニュース/ゲームさんぽ」チャンネルを中心に、多くのゲーマーを、独自の発見と教養溢れる知的な世界へいざなう役割を果たしてきた。

 しかし、そんな「ゲームさんぽ/ライブドアニュース」に、ひとつの不穏な出来事が起きる。
 2月14日、ライブドアで「ゲームさんぽ」シリーズの制作を担当するいいだ氏が、突如チャンネルから「ゲームさんぽ」の看板を降ろすことを発表。加えて、それまで「ゲームさんぽ」がメインコンテンツであった「ライブドアニュース」チャンネルに、堀江貴文氏のニュース解説動画がアップロードされるという事態が起きた。

 これに対し多くのファンが困惑していたが、「ライブドアニュースチャンネル」は引き続き「ゲームさんぽ」シリーズの投稿を継続、いいだ氏はライブドアを円満退社し、「新チャンネルで『ゲームさんぽ』制作を行う」と発表したことから、騒動は一応の終息を見せることとなった。

 今回、電ファミニコゲーマーは「ライブドアニュースチャンネル」で「ゲームさんぽ」シリーズの制作に携わってきたいいだ氏とマスダ氏吉岡氏の3名にお話を伺った。

 今回の騒動で何があったのか?
 独自の視点からゲームを観察する「ゲームさんぽ」シリーズはどのようにして生まれたのか?
 いいだ氏が新たに立ち上げる「ゲームさんぽ」はどのような展開となっていくのか?

 フランチャイズ化とも言える展開となってきた「ゲームさんぽ」シリーズだが、インタビューの中で見えてきたのは、生みの親であるなむ氏といいだ氏による、「見る者への強い想い」であった。

聞き手・編集/実存
文/植田亮平


「お家騒動」(?)の真相

──本日はよろしくお願いいたします。早速となりますが、「ゲームさんぽ」について詳しく知らない読者のためにも、改めて自己紹介からお願いします。

いいだ氏:
 いいだと申します。ライブドアで「ゲームさんぽ」というシリーズを制作していました。

 新卒では出版社に入って美術の教科書を作る仕事をして、それからライブドアに移り、「ゲームさんぽ」シリーズを始めました。4年ほどお世話になりましたが、このタイミングで退社しまして、これからは自身の会社でシリーズを制作していくことになります。

マスダ氏:
 ライブドアでいいださんと同じく「ゲームさんぽ」の制作をしておりましたマスダと申します。ライブドアには約10年ほどいまして、始めはニュースの編成を4年、その後はツイッター等のSNSなどの担当もしておりました。
 そこからいいださんが先行して始めた「ゲームさんぽ」に関わることになり、現在に至ります。

吉岡氏:
 よろしくお願いします。僕はライブドア内部の人間ではなくて、PR会社の人間として2020年あたりから「ゲームさんぽ」に関わらせていただいています。メーカーへの許諾や営業など、対外的な仕事をメインにしています。

──今お話にも上がったと思いますが、まずお三方に聞きたいこととして、ライブドアの「ゲームさんぽ」がこれからどうなっていくのか、ということがあると思います。言いにくいことも有るかと思いますが。やはりこのタイミングでのインタビューですし、避けては通れないと思いまして……。

いいだ氏:
 そうですよね……。もう外側の人間なので言えることは多くないですが、まず順を追って説明しますと、2023年2月に体制変更があり、「ゲームさんぽ」を展開していたライブドアのYouTubeチャンネルが「ゲームさんぽ/ライブドアニュース」から「ライブドアニュース」となりました。なんというか…色々と不運な要素(?)が重なりちょっとしたボヤ騒ぎになってしまいましたね。

 チャンネル名の変更に伴う視聴者の一番の心配は、すでに公開されている「ゲームさんぽ」シリーズの動画が削除されてしまうのではないか、という点だったと思います。

 これについてはすでにチャンネルで正式にアナウンスがあったのでご存知の方もいらっしゃるかと思うんですが、動画は消えずに残ったままになります。

──なるほど。ひとまず、一番大きな懸念については一安心と言ってよさそうですね。

いいだ氏:
 そうですね。それにライブドアニュースのチャンネルでは「ゲームさんぽ」シリーズの制作を続けていくことが発表されています。どのような姿になるかは分かりませんが、これからもライブドアの「ゲームさんぽ」は続いていくようですよ。

 一方で、それとは別に、今回僕も独立して新しい「ゲームさんぽ」のチャンネルを立ち上げることにしました。もちろん、これまで参加していただいたゲストのみなさんにも出ていただこうと思っていますし、人気だったタイトルやシリーズもこちらで継続していきたいと考えています。

 まとめると、これからは「ライブドアのゲームさんぽ」「僕のゲームさんぽ」、そして「なむさん【※】が運営するゲームさんぽ」という三つに大きく分かれることになりますね。

──そうなると、それぞれの「ゲームさんぽ」はどのような立ち位置になるんでしょう? 一番最初に「ゲームさんぽ」を始めたのはなむさんですよね。

※なむ
「ゲームさんぽ」の創始者。ゲームさんぽの手法をオープン化しており、誰でもこのスタイルで実況できる「みんなのゲームさんぽ」コミュニティをつくることを目指している。ライブドアニュース版、今回のいいだ氏の独立版もその一環の取り組みとなる。

いいだ氏:
 そうですね。一応なむさんは自身のチャンネルを「本家」と言っています。
 「ゲームさんぽ」の権利自体は、あくまでなむさんが所有しているものなので、他の「ゲームさんぽ」はそこから許可を得てやっていく形になりますね。

──つまり、今回のいいださんのチャンネルは“分家”というわけですね。

マスダ氏:
 家系や二郎系といったラーメン屋と似ているかもですね。インスパイア系が出てきても大丈夫ですし。

一同:
 (笑)。

──となると、これからは各「ゲームさんぽ」の独自性が問われてくる、というわけですね。一方でライブドア版では、「さんぽ」もしつつ、ホリエモンのニュース解説動画もありつつと。

いいだ氏:
 これからいろいろ動画が上がるみたいですよ。詳しくは全然知らないですけどね。

「ゲームさんぽ/ライブドアニュース」の始まり

──「ゲームさんぽ」はいいださんとマスダさんのおふたりで始めた企画ではなかったんですね。

いいだ氏:
 もともとシリーズの立ち上げは僕ひとりで始めました。ただ僕は全くゲームに詳しくなかったので、ゲームについて聞ける相手が必要だったんですね。そしたらちょうど自分のデスクの後ろにマスダさんがいて、声をかけてみたところからが始まりですね。

──後ろの席にいたマスダさんが、たまたまゲームに詳しかったと。ドンピシャですね(笑)。

いいだ氏:
 本当に助かりました(笑)。マスダさんがいなかったらここまで続いてないですよ絶対。

──いいださんがゲームさんぽを始めようと思ったのはどのような経緯だったんですか?

いいだ氏:
 当時僕はライブドアで特集記事の担当編集をやっていたんですが、特集記事は独自のコンテンツを抱えることでメディアとしてのブランド力を上げていこう、好意的認知を拡大していこうという目的のものだったんですね。

 自分としては「そういう目的なら記事じゃなくて動画でもいいよな」と考えて、上司に相談して「ゲームさんぽ」を始めさせてもらいました。もともと本家のなむさんとは知り合いで、なむさんが「ゲームさんぽ」をやってみているけど伸び悩んでいるのも聞いていたので、「あれはちゃんとやったら爆伸びしそうだな……」と。

──なるほど、そんな経緯が。

いいだ氏:
 フォーマット自体に面白さがあったので、それをスケールアップさせたいと思いました。
 まずはお試しで『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『Detroit: Become Human』『グランド・セフト・オートV』の3本を上げたんですけど、それらが大ヒットしたので、上から「お前はもう動画だけやっとけ」と言われました(笑)。
 
 それが2019年の5月。そこからは6・7・8月で企画、撮影、編集を行って、そのストックを9月から「ゲームさんぽ」シリーズとして公開していくことにしました。

──その頃にはマスダさんも参加していたんですか?

マスダ氏:
 まだ本格的には参加していないですけど、聞かれたらアドバイスする感じでゲームの話をするようにはなってました。会社内でいいださんと自分の席が近かったですし、いいださんは普段あまりゲームをやらない方だったので。

いいだ氏:
 当初はそうでしたね。

マスダ氏:
 いいださんはぜんぜん“ゲーム慣れ”していなくて。
 あるとき、いいださんが『レッド・デッド・リデンプション 2』をプレイしているのを後ろから見ていたんです。すると、ゲーム内マップを使わずに、パッケージ版に付いてくる紙の地図とにらめっこしながら探索しているんですよ(笑)。個人的にすごくほっこりした場面でしたね。

一同:
 (笑)。

マスダ氏:
 そういう状況もあって、ゲームに関することでいいださんと話をする機会も増えてきました。その時はまだ直接関わってないので、雑談みたいなものですが。

──マスダさんが正式に案内人になったのは『レッド・デッド・リデンプション 2』の俳句回ですかね?

マスダ氏:
 そうですね。当時まだSNS担当だったんですが、そこから徐々に「ゲームさんぽ」の方にシフトしていって、最終的に引き抜かれたというかたちです。

いいだ氏:
 マスダさんが来る前にヤマグチクエストくんも加わってますね。マスダさんがSNS担当からすぐには離れられないということで、誰か他にフットワークの軽い人材を探して近くの席に彼がいたので。

──また近くの席に!人材が豊富ですね。

いいだ氏:
 そうなんですよ。ライブドアニュースはいい環境だったんです。で、そんなこんなでメンバーも増えつつ、2020年の後半ぐらいからは「ゲームさんぽ」チームだけで回るようになってきたので、そこから動画の投稿量も増やしていきました、と。現在に至る大まかな流れとしてはそんなところですかね。

──なるほど。そこからチャンネル登録者数も伸びていったと思うのですが、どういったタイミングで伸びていったのでしょう?

マスダ氏:
 企画の面白さにもよりますが、やっぱり顕著なのはビッグタイトルのときですね。たとえばポケモンやFGOなどの一大クラスタがあるゲームは、扱うたびに大きな波があったような気がします。

いいだ氏:
 「どうやったら登録者を増やせるか」って、なんだかんだ細かいことを考えるよりも「再生数」を見た方が話が早いですよね。再生数が伸びれば登録者も伸びる。あんまり難しいことは考えないでいいのかなと思います。

──良いか悪いかは数字が教えてくれると。

いいだ氏:
 そうですね。あとは視聴者の声。最初は収録機材のこともよくわからなくて、ググっておすすめ記事の出てきた1500円ぐらいのめっちゃ安いマイクを使っていたんですけど、反響音がひどすぎて視聴者から「風呂場で収録してんのか」と苦情が来て(笑)。

一同:
 (笑)。

いいだ氏:
 そこからマイクを改善していったり、編集のテンポをもっと上げていったりと、地道な変化のおかげで伸びたところもあると思います。もちろん、知名度がだんだん上がっていったのもあると思いますが。

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ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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