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「ゲームさんぽ」の原点は美術の「対話型鑑賞」にあった!? 「お家騒動」から新生「ゲームさんぽ」まで、制作陣にこれまでとこれからを聞いた

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「有名人を起用する」よりも、企画の掛け算が重要

──「ゲームさんぽ」では、ゲームや専門家の方の選定はいいださんとマスダさんが行っているんですか?

いいだ氏:
 基本はそうですね。ゲストの候補に関しては、あまり上から決められるとか却下されるみたいなことは無かったですよね?

マスダ氏:
 そういうやり取りは無かったですね。

──専門家さんに打診してNGをもらったことは?

いいだ氏:
 それはあります。無視されたりも全然しますよ。

吉岡氏:
 企画会議では、「有名な人を呼べばいいんじゃないか」という考え方と「ゲームとの相性を重視すべき」という考え方がせめぎ合っていましたが、基本的には後者のスタンスを守ってきましたね。

──たしかに、もはや「ただ有名人を起用すれば伸びる」ような時代でもないですよね。

いいだ氏:
 自分もそうだと思います。それに有名な人を呼んでも伸びていない動画だって、世の中にはいっぱいあるじゃないですか。僕はそうなるのが一番恥ずかしい。素材は良くても料理人のウデが無い、って感じで(笑)。

──そこは、いいださんとマスダさんの中で固い意志があったんですね。

マスダ氏:
 僕はもともとニュース編成やSNS担当という数字を求められる仕事をずっとしていた人間なので、当初は自分も「有名どころを起用すべき」というマス寄りの思考ではありました。けれども、何本か一緒に作っていくうちにその考え方は「ゲームさんぽ」ではあんまり意味がないなと思いました。

 実際、伸びている動画を見返すと誰もが知っているというような有名人を起用しているわけではないですし、めちゃくちゃ知名度のあるタイトルというわけでもない。本当に組み合わせの問題だと思いますね。

いいだ氏:
 組み合わせが良くて、なおかつ有名人だったりビッグタイトルだったりするのが一番いいんですけどね。

マスダ氏:
 先ほど「ビッグタイトルを扱ったら伸びる」という話をしましたけども、それもよくよく考えてみれば「組み合わせ」の話に行きつくように思いますね。

いいだ氏:
 「何を、どう楽しむか」がこの「さんぽ」の一番面白いと思ってもらえるポイントだと思うので、そこで勝負しないとユーザーのニーズに合わないものが出来上がる可能性があるというか。

マスダ氏:
 なんか、インタビューを受けていると自分の中で再整理されてきますね(笑)。

吉岡氏:
 演者だけが有名でお飾りになったらそれは意味がないし、有名タイトルでも相性がよくないゲームだとそれはそれでつまらない。演者とタイトルの掛け算が噛み合って、なおかつ有名だと最高。

いいだ氏:
 つまり麻雀と一緒ですね、いろいろ揃うと強い(笑)。

一同:
 (笑)。

吉岡氏:
 良純さんの回は特にハマってましたね。

いいだ:
 サムネの表情も楽しそうですしね(笑)。

「ゲームさんぽ」の原点は美術の「対話型鑑賞」にあった

マスダ氏:
 「楽しそう」ということで思い出しましたけど、「動画内で楽しそう」というのはけっこう大事なことだったりしませんか?

いいだ氏:
 「専門家が楽しそうにしているだけで、何だか嬉しくなる」という声はめちゃくちゃ多いですね。

マスダ氏:
 ゲストで呼んでいるのは教授だったりアカデミックな方面の方が多いので、ふつう難解な話になるかなと思うんです。けど「ゲームさんぽ」では、そういったすごい権威の方々がオタク丸出しになるというか(笑)。そういうゆるいトークが繰り広げられるのも「ゲームさんぽ」の特徴かなと思います。

──学者の先生たちが自分の専門領域を自由に話していいとなったら、そりゃあ嬉しいですよね。

いいだ氏:
 みんな自分の専門知識というかっこいい刀を持ってるイメージですね。みんなほんとは自分の刀をぶんぶん振り回したい。だけど学術には学術のお作法があり、テレビなんかでは尺も限られてるし「一般人向けに……」と考えるとあまり込み入った話はできない。

 それが「ゲームさんぽ」によって解放されるんです。「今日は自由に刀振り回していいのか!?」と(笑)。

──(笑)。存分に早口で喋っていいんだ、と。

いいだ氏:
 そういう自由さがあると思います。やっぱり人が生き生きと輝いてる姿は見ていて気持ちがいいですよね。それと同時に、こういった専門的な話をする空間というのを保ったまま、コンテンツとしても楽しめるフォーマットになっているのを見ると、やっぱりゲーム実況からヒントを得てこれを生み出したなむさんの企画力に改めて驚かされますね。

 なむさんが最初に考えたゲームさんぽのコンセプトってゲーム実況に専門家を連れてきて、美術の「対話型鑑賞」の方法論で楽しんでみよう、というものだったんですよ。

──対話型鑑賞、というと?

いいだ氏:
 対話型鑑賞というのは作品鑑賞の方法論のひとつで、学校の授業でも使われている手法です。

 たとえば皆で絵を見るとき、先生が「この絵の中に何が見える?」といった風に、司会役となって生徒に語りかけるんですね。そうして皆が思ったことを好きに発言していく。その作品の年代や作者みたいな付帯情報は一旦置いておいて、「それを観た人がどう感じるか」を、会話の中で深めていく鑑賞法。ここで司会をつとめる人を「ファシリテーター」と言って……。

──そのファシリテーターが、「ゲームさんぽ」における「案内人」というわけですね。

いいだ氏:
 そうですね。よくテレビで、「こういう回答をさせたいんだろうな」という質問をするインタビュアーがいますが、「ゲームさんぽ」では「これについて教えてください」とか「これについてどう思いますか」といった質問はあまりしないように心がけています。

 その人がどうゲームを見て、自分の専門分野の観点からどう解釈するかというのが一番重要。

──その方法論は、美術系出身のなむさんといいださんにとっては自然なものだったと。

いいだ氏:
 そうですね。それになむさんは本職が美術館スタッフで、普段からよくファシリテーターをやっている人なんです(笑)。
 だから、「案内」が抜群に上手いんですよ。

マスダ氏:
 確かに上手いよなあ。

──なるほど!本職として美術館の鑑賞ツアーをしてるんですもんね。

吉岡氏:
 めちゃくちゃ話がそれていくこともあるんですけど、そこが逆に面白さに繋がっていますよね。それこそ、専門家がずっと好きなことだけ喋っていることもある。
 それが良いのか悪いのかは視聴者の判断にゆだねるとして、たとえば「三国志」回なんかはすごくマニアックで面白くなった回だなと思います。

マスダ氏:
 渡邉先生、めちゃくちゃ面白いですよね(笑)。

──すごく合点がいきました。そういう意味では、「ゲームさんぽ」は常人には真似できないスタイルになっているのかもしれませんね。うちもメディアだから分かるんですが、確かに「答え合わせ」をするインタビューってつまらなくなってしまうと思います。

いいだ氏:
 見出しもリードも、全部インタビューする前から読めてしまっているような感じは嫌ですよね(笑)。

マスダ氏:
 ゲームさんぽの撮影でももちろん進行表は作りますけど、実際の収録は割と行き当たりばったりですよね。いいださんはあえて厳密に組み立てないところがある。

いいだ氏:
 事前に固めすぎると緊張しちゃうんですよね。だから下準備はマスダさんの方が緻密。なのに、収録の破天荒さではマスダさんの方が上(笑)。

マスダ氏:
 なぜか進行通りにいかないというのがお約束になっちゃっていますね。

いいだ氏:
 大体2〜3時間で撮り切れるように準備するのに、『HADES』の時は結局6時間くらいかかってましたよね。

マスダ氏:
 ですかね。「喋り過ぎて逆にあの日の記憶がない」ってシシンさんが後日言ってました(笑)。

──具体的に、取材の下準備はどんな感じで進めているんですか?

いいだ氏:
 テーマを考えて、質問案も考えます。面白い話が聞けそうな筋道、移動経路もその時に考えますね。「序盤は概要を話したいからこのあたりからスタートするのがよさそうだ」とか「話が広がりそうだったらこう見た方がよさそうだ」とか「ここで終わると見晴らしがよくて奇麗そうだ」とか。9割は役に立たないですが(笑)。

マスダ氏:
 たとえば『FGO』回のときは、始めに収録で推すキャラクターを4・5体ほど選んで、そこからどんなことを聞こうか質問リストを作ったりして、大体1時間の長さでやっていこうとスケジュールを立てていました。ただ、結局それは上手くいかず、収録も伸びて、キャラも2体だけになったりして。

 専門家も「このキャラをもっと見たい!」となりますし、そうなれば用意した質問も全然使わずにその場の流れで質問を考えるので、いい意味でぐちゃぐちゃになりますね(笑)。

いいだ氏:
 準備ってあんまり直接的に役に立たないですよね。というか「何が起きても自分がまとめきる」という意志さえあれば準備したものは捨てていいし、捨てた方がいい。その自信を持つために準備はするけど、本番になったら相手に任せた方が絶対に面白くなる。どんな媒体でもそうかなと思います。

──いいださんが元編集者、ということも関係してそうですね。

吉岡氏:
 いいださんもマスダさんも記事を書く人なので全体像を考えながら話ができるんでしょうね。質問の弾はめちゃくちゃ用意しておくんだけど、相手のうち返しによっては平気で捨てるよ、と。逆に言えば準備があるからこそ、大胆に道をそれることが出来るのかもしれないですね。

専門家さんは仲のいい人といると素が出やすい

──動画がどれくらい再生されたら手ごたえがあったと思いますか?

マスダ氏:
 手ごたえですか……。チャンネル登録者数と同じぐらいはあると手ごたえがあると思いますね。10万再生あたりがひとつの山になると思いますが、やっぱり登録者数を基準にして考えていたところはあります。40万人が登録していれば40万再生。

吉岡氏:
 そこについても議論がありましたよね。たとえば俳句回は伸びだけで言ってしまえばすごく伸びたとは言えないですが、ゲームの見方としては新しいものを提供できている。

いいだ氏:
 再生数というのはもちろん重要な指標ですが、企画決定の判断基準として見た場合、いろんな考え方があるのかなと思います。
 たとえば学芸員の人とイギリスの美術館で見られる6枚の絵を見るという動画も出したのですが……。

──ゲーム実況というより教養動画ですね(笑)。

いいだ氏:
 そもそもゲームに全く関係がない(笑)。でもこれはゲーム以外に「旅行系」のコンテンツなども増やして新しい案件の獲得に繋げよう、というプランが背後にはあるんです。だから新しい形式を作ることが第一で、再生数はあまり気にしていないパターンですね。

マスダ氏:
 職業柄やっぱり再生数はほしいですが、個人的には純粋に数字が多いかどうか以上に「どれくらい界隈に刺さっているのか」のほうが気になりますね。そのジャンルが本当に好きな人に、どれくらい刺さっているのかはけっこう重要なので。

──動画の反響はどのようにチェックされていますか?

マスダ氏:
 もちろんツイッターでエゴサもしますし、YouTubeのアナリティクスを使って視聴維持率などの数字もチェックしています。あとは動画についたコメントもチェックしていますね。
 たとえば「三国志」を扱うなら「三国志」界隈の方がコメントしてくれるのが一番嬉しいですし、かなり大事な指標になっています。

いいだ氏:
 マスダさん自身もゲーマーで、扱う作品の元々のファンだったりするから「ファンから見てどうか」はすごい気にしてますよね。その点は視聴者の人にもちゃんと伝わってて、例えば『FGO』の場合であれば、ネタバレを避けつつキャラの魅力を紹介して、さらにアニメのエピソードも紹介もして……という絶妙な距離感で進行が出来ていたのを褒める声が結構多くて、そういう反響はいつもうらやましいなと思います。

マスダ氏:
 いつも怯えながらやってますけどね(笑)。
 一方で俳句回はいいださんが俳句好きということで、コミュニティの盛り上がりがちゃんと分かるんですよね。

いいだ氏:
 僕もマスダさんも、みんな押さえてる範囲が違うんですよね。ミリタリーであったり歴史であったりと。

吉岡氏:
 ライブドアの天野さんは野球やサッカー、競馬なども詳しかったりと、いいださん、マスダさんとはまた違う守備範囲を持ってます。

マスダ氏:
 正直なところ、自分の好きなことをやってるだけな気がします。企画の段階では皆あれこれ「こういう新規層の開拓につながるんじゃないか」とか「新しいDLCのリリースに合わせたこの時期にこのゲームを扱えば伸びるはず」とか客観的な理由づけはするんですけど、結局みんな自分の好きなことがやりたいですし、むしろそうじゃないと話も盛り上がりづらいですから。

──となると、自分たちの守備範囲外のものを扱うときはやはり苦労しますか?

マスダ氏:
 守備範囲外だったら守備範囲外なりに、「そんな世界があるんだ」と楽しむこともできているので、そういう観点でやっていますかね。

いいだ氏:
 自分の場合は「ラリー回」がそうでしたね。もとは車のことも全く知らないし、ラリーがふたりで車に乗って行うスポーツだということすらも知らなかったんです。
 けれども企画を考えるためにいろいろとリサーチをしていく中で、ラリーにはドライバーとコ・ドライバー(ナビゲーター役)がいて、ペースノートという道案内のメモを用いているということも知って、そういう新しい発見の楽しみがありましたね。

 そして素人だからこその純粋に疑問として聞いたことが、案外その分野のファンたちにとっても新鮮な面白い話に繋がることもあるんですよね。
 動画の中ではペースノートをどういうふうに普段作っているのかも実演してもらったのですが、その様子はラリーファンでも見たことがない人が多かったことが視聴者のコメントを通じてわかってきて、なかなかが撮れていたんだなと事後的に思いました。

吉岡氏:
 ちなみにラリー回は、「ラリーはふたりで乗るもの」ということも含めてゲストをふたり呼んで収録に臨んだんですが、「専門家さんは仲のいい人といると素が出やすい」というのがこの時図らずも判明しましたね。

 出演した新井さんがラリーゲームをひとりでプレイする動画もYouTubeにあるんですが、「ゲームさんぽ」では新井さんの面白さがより出ていました。

──なるほど、知り合いがその場にいることでちゃんと素が引き出せていたと。

いいだ氏:
 知り合い同士をゲストにするパターンはラリーより前からありますけどね。「信長の野望」回でも、萩原さんに「誰か仲がよくて呼びたい人いませんか」とメールで聞きましたもんね。

マスダ氏:
 懐かしい。あのふたりの掛け合いは本当にすごくおもしろかったですね。

いいだ氏:
 ただのオタクの会話ですもんね。

マスダ氏:
 それを傍から聞いてるのも面白かった(笑)。

──最初に複数人ゲストをやった回はいつなんですか?

いいだ氏:
 ボディービルダーの「スト5」回ですね。

マスダ氏:
 あれは3人の化学反応が凄かったですね(笑)。個人的にも好きな回です。

いいだ氏:
 ボディービルダー2人がメインのゲストですけど、せっかくなら「スト5」のプレイも上手い人がやる方が面白いだろうと思って板橋ザンギエフさん【※】も呼んでと。これが初めての複数人ゲストです。

※板橋ザンギエフ
DetonatioN Gaming所属のプロゲーマー。トークスキルの高さでも知られ、ゲーム系テレビ番組のディレクター間でも「板ザンさん呼べば間違いない」との評判があるとかないとか。

──なるほど、これは3人並んだ絵面からして面白いですね(笑)。ゲスト同士の相性で面白い展開になることもあると。そこも掛け算なんですね。

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ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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