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だれに聞いても『パラノマサイト』の評価が高い。その理由を制作者に聞いてみたら、プレイヤーを飽きさせないために連載漫画のようなライブ感で見せ場を差し込みまくっていた

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大切なのは時間的なボリュームではなく「密度」

──『パラノマサイト』は1980円という映画1本分くらいの価格でありながら、2時間映画の5倍くらい(10時間前後)のボリュームで、ゲームならではの達成感を味わえるところが評価に繋がっていると思います。先ほどボリューム調整のお話がありましたが、価格やボリュームについてはそもそもどのような議論があったのでしょうか?

石山氏:
 プレイ時間は評価につながる大きな指標であるとは思うのですが、大切なのは時間的なボリュームではなく「密度」だと思うんです。極端な話、テンポを悪くしてしまえばいくらでもプレイ時間を引き伸ばすことができてしまいますから。もちろんそんなことをしたところで満足してもらえるわけがありません。

 時間的なボリュームよりも体験に対する価値として判断していただきたいとつねづね思っています。そのうえで『パラノマサイト』は、価格設定もあったので短めのプレイ時間でもいけると判断しました。公式からも10時間前後で終わることは伝えています。

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──いわゆる「タイパ」でしょうか。かけた時間に対する時間対効果を意識されていると。

石山氏:
 そう! そうなんです!『パラノマサイト』はタイパもコスパもいいんです!(笑)
 これだけエンタメが普及している時代に求められているものは「50時間遊べるゲーム」だけではないのではないか、プレイ時間が短いほうが逆に手に取りやすい場合もあるのではないか、とは思っていまして。

 たとえば「『パラノマサイト』って評判いいよ、10時間くらいで終わるよ、1980円だよ」と言われたら、ポジティブに受け止めて「ならやってみようかな」と思ってくれる人もけっこういるんじゃないかと。

──時世をつかんでいますね。まさに体験価値の濃さが高評価に繋がっていると思います。

石山氏:
 評判がよかったときに手に取りやすいようにしておきたかったんです。でも評判がよくなかったらその前提がすべて崩れるので、勝負どころでした(笑)。ありがたい反響をいただいてホッとしています。

『パラノマサイト』の根幹は18年前に作ったゲームと同じ

──今回の『パラノマサイト』は石山さんの作家性を広めるきっかけにもなっているのではないかと思います。これまで石山さんが携わった作品と変えたところはあったのでしょうか?

石山氏:
 いやあ……どの作品もやっていることは基本的に変わらないんじゃないかなあ。たとえば『スクスト』のストーリーも、ベースは謎で話を引っ張るミステリーですし、キャラクターの関係性もさっき伝えた”いい人”ばかりで居心地の良いものですし、ゲーム体験として得られる驚きや感動はそんなに変わってないと思うんですけど。

 ただ『スクスト』の場合は、求められるものが違っていたかもしれません。

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──『スクスト』ではどういうものが求められるのでしょうか?

石山氏:
 やっぱり「キャラクター」ですよね。まず女の子のキャラクターがいて、コスチュームがあって、コミュニケーションがあって、バトルがあって、最後にストーリーを紐づけるので。『スクスト』のシナリオ作成は最下流の工程でしたから。

──なるほど。『スクスト』はスマホゲームですから、シナリオがよいことに越したことはないけど、キャラクターやコスチュームに対する需要が高いと。

石山氏:
 はい。僕としては『スクスト』も『パラノマサイト』もどちらも等しくおもしろいと思っていますが、シナリオの評判がよかったとき老若男女に受け入れてもらいやすいのは、やっぱり『パラノマサイト』なのかなーと。できれば両方読んでもらいたいんですけども!(笑)

──これまでの作品から特別に変えたところがあったわけではなく、石山さんの作家性を最大限に届けることができたのが『パラノマサイト』だったんですね。

石山氏:
 もちろん『スクスト』は『スクスト』で、キャラ立てに振り切った方向でとてもうまくできてると思っていますが、今回はシナリオを届けることに比重を置いたので、そうした感じです。なので『パラノマサイト』は特に新しいことをしているつもりはなくて、仕様も過去に作ったゲームとほぼ同じなんです。DSで出した『探偵・癸生川凌介事件譚 仮面幻影殺人事件』というゲームがあるんですけど、開発が始まったときは「今回作るものはこの正統進化版です」と、みんなに共有しました。

──DSの『仮面幻影殺人事件』というと、18年くらい前のゲームですよね。どのあたりが『パラノマサイト』と同じなんですか?

石山氏:
 ポイント & クリック式とコマンド選択のハイブリッド、立ち絵だけではない奥行きと寄り引きのあるカメラワーク、メッセージウインドウがなくテキストが直接画面に出る……みたいなところはそのまま継承しています。ちなみにマルチサイトの群像劇も、携帯アプリの『永劫会事件』でやっています。

 それをベースに、画面のフィルタリングやぼかし、3D空間でのダイナミックな演出で「今っぽく」した感じです。

──なるほど。仕様自体は18年前からすでに取り入れていたんですね。

石山氏:
 はい。スケジュールもあったので、目新しいシステムを実装することは早々に諦めました。なので、戦い方としては「オーソドックスなアドベンチャーをものすごく一生懸命作る」という力業です(笑)。

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──王道の戦い方ですね(笑)。

石山氏:
 新しいことを取り入れるとその検証で時間が取られてしまうので、それがおもしろくなかったときに立ち往生してしまうんです。『パラノマサイト』はスピード勝負でもあったので、過去に実績があるものなら間違いないだろうと。360度背景については技術的にできることがわかっていたので取り入れました。

「読むテキスト」ではなく「見るテキスト」を意識している

──では石山さんがこれまで携わってきた作品ではなく、ほかのアドベンチャーゲームと『パラノマサイト』はどのような違いがあると思いますか?

石山氏:
 ほかのアドベンチャーゲームとの違いというより、これは僕のこだわりみたいなことになってしまうんですけど、テキストの読みやすさとテンポには気を配っています。

 たとえば20文字1行よりも10文字2行にしたほうが目に入りやすい、みたいな。僕は「読むテキスト」ではなく「見るテキスト」を意識していて、見るだけで頭に入ってくるテキストを心がけています。

──なるほど。石山さんが過去に携わっていた作品が携帯アプリやスマホゲームで画面が小さいから、テキストの読ませ方についてはそこでの工夫や経験が活かされている感じもしますね。

石山氏:
 そうかもしれませんね。それでいうと、「読点を使わずにスペースを使って見やすくする配慮」はスクエニに入ってから『ドラクエ』チームで学びました。なので、『スクスト』や『パラノマサイト』ではその影響で読点を使っていないんです。

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──たしかに読点を使わないのは『ドラクエ』らしいですね。テンポのよさにも気を配っているとのことですが、アドベンチャーゲームにおけるテンポのよさって石山さんはどのように捉えていますか?

石山氏:
 僕は地の文を使わずに、基本的に会話形式で進めているんです。心情や状況などの細かい描写がない分、テンポがよくなって読み進めやすくなるのかなと。

──言われてみれば『パラノマサイト』は細かく描写していくノベルゲームの味わいというより、ドラマのような会話劇という印象です。

石山氏:
 そうなんです。たとえば「見てわかることは言わない」とか「感情をセリフに込める」とか。

 テキストで「●●は笑いながら××と言った」という説明をするよりも、セリフのうしろに「ふふっ」とひと言つけるだけで笑っていることは伝わるし、だれかにものを渡すときも「はい、これ」「ありがとう」というやり取りがあれば伝わる。

 立ち絵しかなくて動きも見せられないので、地の文を使わずに会話のなかで表現すればテンポがよくなると思っています。

──たしかに、状況を説明するだけの地の文が入っているとテンポが悪くなりますね。

石山氏:
 僕は基本的に会話形式のほうが読みやすいんじゃないかと思っているのですが、ただそうなると「川に飛び込む」とか「道路を渡る」みたいなダイナミックな動きを伝えることがすごく難しくなるんです。『パラノマサイト』は地の文がない立ち絵のアドベンチャーゲームですから、動きがある場面はあまり出せないというのはシナリオ上の制限になっています。

 どうしても動きが必要な場面では画面を暗転させて音だけで説明して、どうにかやり過ごしましたが、基本的に会話劇で成立するミステリーは、そういう面でも便利ですよね。

──なるほど。これがアクションバトルものだったら動きを伝えるのが難しくなりますね。

石山氏:
 はい。『パラノマサイト』の仕様でアクションバトル系のお話は難しいかと。バトルのたびにドカドカと動くようなものは会話形式で伝えるにも限界がありますね。

──それだけ動きの表現に制限があるにも関わらず、『パラノマサイト』はキャラクターの臨場感があるように思いました。演出の工夫みたいなものはあるのでしょうか?

石山氏:
 それでいうと、「視線の演技」を意識しました。立ち絵で使える表現って限られているんですけど、視線を変えるだけで表情が変わるんです。たとえば「ありがとう」と言うときも、相手を見て言う場合と目をそらして言う場合では意味合いが異なる。視線ひとつで表現はだいぶ広がると思います。

──たしかにマダムの流し目なんかはすごく印象的でした。

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石山氏:
 ありがとうございます。表情を豊かにするために各キャラクターごとに目のパーツと口のパーツを別々に組み合わせていきました。目と口をそれぞれ喜怒哀楽の4種類作れば、その組み合わせでいろんな表情を作ることができます。目を怒らせて口を笑わせるとドヤ顔っぽくなったり(笑)。

──なるほど。パーツの組み合わせで表情を作っていたんですね。

石山氏:
 はい。キャラクターデザインの小林がひとりで描ける量に限りがあるため、もう最低限のリソースで。瞬きのアニメも3コマあるんですけど、目を半分閉じている中割りをジト目として使えば、表情のバリエーションをさらに増やすことができるなと。目を閉じながら言うのと開きながら言うのでも違うので。

──お話を聞いていると、なんだかファミコン時代のような工夫を感じますね。大手のスクエニがお金にものを言わせているのかと思いきや、最低限のリソースで泥臭く作っていたとは思いませんでした(笑)。

石山氏:
 それはもう、この価格でご提供するために。ただ、表情と違ってポーズについてはバリエーションが少ないので、ずっと同じに見えないようカメラアングルはバストアップが中心になっています。会話形式だからそれでも成り立つかと思って。

──たしかにポーズは表情のように細かく組み合わせられないから融通が効かないですね。

石山氏:
 はい。でもその代わり、すごくアップになります(笑)。画面に目と鼻と口くらいしか映らないくらいの超アップに。表情の絵にチカラがあるので、そこを強調していこうと。

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──(笑)。アップにすることでカメラワークのバリエーションを増やしたと。

石山氏:
 そのためにキャラクターの画像の解像度はわりと高めに作ってもらいました。選択と集中です。

──聞けば聞くほど泥臭い作り方をしていらっしゃいます。キャラクターの臨場感や迫力はそういう工夫があったからこそだったんですね。

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デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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