セーブデータを消してしまうのはヨコオさんのせい?
──『パラノマサイト』の発表は2月9日の「Nintendo Direct」だったと思いますが、最初は「役所と絡んだお堅いゲーム」という印象でした。そしたらいきなり呪殺能力バトルが始まって(笑)。そういったギャップは狙っていたのでしょうか?
石山氏:
狙ったというよりも、そうならざるを得なかったというところはあります(笑)。
最初は呪殺や能力を使ったデスゲームみたいなものをやろうとしていたんですけど、今回のコンセプト的にそのシチュエーションだけで物語を成立させるのは難しいと思いました。
『パラノマサイト』は「本所」という街全体が舞台になっているのですが、一般人に殺し合いをさせるのであればやっぱりどこか閉鎖空間に閉じ込めて追い詰めなければダメだよなー、と。そこで、最初に興家彰吾という人物にすべてをギュッと押し付けて呪殺能力バトル係になってもらい、「じつは背後にこういう人たちがいました」という群像ミステリーにシフトしていく構成にしました。
──興家彰吾の存在に加えて、プレイヤーの存在を意識させるメタ要素も多いと思います。メタ要素についてはどういう経緯で取り入れたのでしょうか?
石山氏:
『パラノマサイト』は企画の初期段階から海外でも出すことが決まっていました。その前提があったので「海外でウケているアドベンチャーゲーム」をリサーチしてみたところ、どうやらメタネタがあるものが人気あるようだぞと。自分もメタ的なギミックは大好物なので、じゃあ今回はメタネタをごりごりに組み込んでいこうと決めて、ゲームの冒頭から案内人を使ってプレイヤーの存在を意識させる演出にしました。さらに今作では、それを逆手に取った展開もさせていますが。
──なるほど。難易度はどのように調整されましたか? メタ要素もあったので深読みしすぎて詰まってしまったところもありました。
石山氏:
基本的に難しめに作ったものを社内の人に遊んでもらって、「難しい」と言われたらヒントを足していく感じで調整しました。難しいところは、5人くらいのうちひとりが解けたなら大丈夫だろうと。みんなに解いてほしいところはできるだけわかりやすくしています。
それでも、あえて詰まる部分も作りました。話題作りというか、「あそこ詰まったよね」と共有してもらいたいという狙いで。僕は個人的にこういう仕掛けのことを『ドラクエII』の「たいようのもんしょう」【※】と呼んでいるんですけど(笑)。「なんであれだけあんなところにあるの?」というようなものを、あえてひとつ入れるという。
※「たいようのもんしょう」
『ドラクエII』で最も詰まりやすい箇所。ヒントはあるものの、かなり大雑把なので見つけるのに苦労する人が多い。
──詰まったところはいくつかあったのですが、「もしかしてセーブデータを消すのかな?」と思うところもありました。
石山氏:
うっ……! 確かに、Twitterなどを見ているとセーブデータを消してしまう人がけっこういるようで……。自分としてはそういう導線は張っていないつもりだったので、それを見る度に「消しちゃダメ、消しちゃダメ!」って念を送っていました。
──(笑)。
石山氏:
ですから、今後パッチをあてる機会があったら、セーブデータを消すときに「消さなくても全要素回収できます」という注意書きを入れたいと思っています。
──たしかに、それはメタ要素のあるゲームには大事かもしれませんね。でもその注意書きがあると裏を読んで消してしまう人がいるかも……(笑)。
石山氏:
うっ……!(笑) それでも消してしまうならもう、全部ヨコオさんのせい【※】ってことで(笑)。
※ヨコオさんのせい
ヨコオタロウ氏が手がける『ニーア』シリーズにおいて「セーブデータの削除」が重要な役割を果たすことから、セーブデータを削除するプレイヤーがあとを絶たない。
──先ほどの「たいようのもんしょう」みたいな、「話のネタ」を意識して仕込んだものってほかにもありますか?
石山氏:
それでいうと「スクショを撮りやすいタイミング」は意識しています。『スクスト』がソシャゲだったからなんですけど、思わずスクショを撮りたくなってしまうようなパワーワード的なセリフを入れてみたり。たとえば、ミヲちゃんの「がんばれ国家権力」とか。
──私もまさにそこでスクショを撮りました(笑)。
石山氏:
ありがとうございます(笑)。でも、それもすべては評判がよくないと空回りしてしまう仕込みなので、勝負どころでした。
──発売後の口コミからSNSや配信の広まり方までちゃんと意識されていたんですね。
しかしおっしゃるとおり、ゲームがおもしろくなければ成立しない仕掛けであることも事実です。石山さんとしては、ゲームのおもしろさに対する自信みたいなものって、開発のどの段階で感じていましたか?
石山氏:
正直なところ、ここまで反響をいただけるとは思っていなかったです。やれるだけのことはやったと思っていましたが、発売前はどちらに転ぶかまったくわからず、毎日、緊張で吐きそうになってました(笑)。
なので、少なくとも自分の過去の作品を楽しんでくれている人ならば「おもしろい」と感じてくれるはずだと思って『スクスト』とコラボさせてもらったり、『癸生川』シリーズの復刻版を展開しているジー・モードさんにもお声がけさせていただきました。もう、なりふり構わず(笑)。その節は、ご協力本当にありがとうございました。
──たしかに『癸生川』シリーズは昔から根強い人気があって『パラノマサイト』ともジャンルも近いから、そういった活動は響いていたのかもしれないですね。選挙活動みたいな(笑)。
石山氏:
ああ、そうです(笑)。「いつもご支援ありがとうございます」って気持ちでいっぱいです。これはちゃんとお礼に行かないといけないですね。
ネタバレ配信を前提としたアドベンチャーゲームを作る
──『パラノマサイト』は七不思議や墨田区など実在するものを題材として扱っていますが、そもそもどのような経緯で企画が立ち上がったのでしょうか?
石山氏:
「本所七不思議」を題材にすることは、プロデューサーの奥州(一馬)からの提案でした。奥州は『インペリアル サガ』でもプロデューサーを務めているんですけど、“サガ” つながりで佐賀県とコラボをしていた経緯から、「地方の自治体と協力できる企画であればオーソドックスなゲームでもおもしろくできるかもしれない」と、アイディアを探していました。そこで墨田区にある「本所七不思議」にたどり着いたそうです。
とはいえ今回の企画は規模的に大きいものを作れそうにはありませんでした。そこで、自分がノウハウを持っているアドベンチャーゲームであれば規模に関わらずクオリティを担保できると思ったので、奥州と企画を進めていきました。
──なるほど。「地方の自治体と協力できる企画」といっても、さまざまなジャンルがあるかと思います。数あるジャンルのなかで本所七不思議というホラーミステリーに決めた理由はあるのでしょうか?
石山氏:
実際に、純粋な探偵ミステリーやSFみたいなアイディアも出ましたが、奥州が「配信ができるホラーにしたい」と。ホラーミステリーだったら配信と相性がよく、どんどん配信してもらえるのではないかと考えた結果です。
──ホラーミステリーというジャンルが配信映えする一方で、アドベンチャーゲームにとってネタバレは致命的なものだと思います。そのあたりの不安はいかがでしたか?
石山氏:
おっしゃる通りで、ネタバレの観点から配信とアドベンチャーゲームの相性はあまりよくないと考える人も多いと思います。しかしながら今回は「ゲームを知ってもらうこと」を最優先に考え、配信OKにした方がいいだろうと判断しました。
なぜかというと、おそらく配信を見る人の多くは、その配信者さんのファンだからであって、このゲームを知らないか、自分で遊ぶ予定がなかった人がほとんどだと思うんです。そんな中から「配信を見て興味が出て買ってしまった」という人がひとりでもいたらもう、ありがたいことですからね。実際、「配信で途中まで見たけど、続きは自分でやってから見たいから、先に買う」という方もいらっしゃいました。これはもう、配信者もユーザーもメーカーも、全員もれなく幸せなパターンじゃないかと。
それとこれは発売してから実感していることなんですけど、意外とゲームをクリアしてから配信を見ても、おもしろいんだなと思いまして。
──たしかに『パラノマサイト』をクリアしたあと、ネットですぐ配信を探しました。自分が詰まったところをほかの人がどうやって解くのか見たくて(笑)。
石山氏:
そうなんですよね。「この人はどういうリアクションをするんだろう」とか、ストーリーの気付かなかったところに気付けたりとか、自分がすでにクリアしているからこその楽しみ方もあることを学びました。
──なるほど。しかし、スクエニという大きい会社で「ネタバレ配信を前提としたアドベンチャーゲームを作る」って、よく企画が通ったなと思います(笑)。
石山氏:
逆に、『パラノマサイト』は自治体と協力したり、配信をしてもらう前提で作ったり、極限まで低価格(1980円)にしたり、いろいろと挑戦的な企画だったので「やってみたら?」とお許しが出たのかもしれません。横展開も縦展開もいかようにもできるように準備しているので、シリーズを積み重ねながら多くの人に届けられたらと思います。
“スクエニ” と言わないで売り出したほうがいいんじゃないか
──石山さんはスクエニに入社されてからどのような作品をご担当されていたのでしょうか?
石山氏:
最初は『FF』の鳥山求さんのチームで『ファイナルファンタジーXII レヴァナント・ウイング』のシナリオの演出などを担当していました。その後『ドラクエX』のチームにも参加したのですが、街の人のテキストを一部書いたときは、当時のディレクターだった藤澤仁さんに「お前やるな」みたいなことを言っていただいてうれしかったです(笑)。
──(笑)。スクエニでがっつりシナリオを書いたのは『スクスト』からですか?
石山氏:
そうですね。ただ先ほど言ったように『スクスト』のシナリオはいちばん下流の工程でしたけども。
──最下流なのにシナリオの評判がいいという。
石山氏:
メインコンテンツではなかったからこそ、好き勝手やらせてもらえたというのはあったと思います(笑)。ディレクターをやりながらだったので、ゲームの各要素をシナリオに絡めるのも、しやすかったですし。
──『癸生川』シリーズのように、ご自身でアドベンチャーゲームを作りたいみたいなことはなかったんですか?
石山氏:
いやあ、作れたら面白いとは思っていましたが、普通に考えたら新規のアドベンチャーなんて売るのが難しいですから、提案しても無理だと思って別のRPG的な企画を上げたりしていました。が、トライアル版を作ってみたり、いろいろあがいていたんですけど、ぜんぜんダメで……。それで、新たなプロデューサーと組んだときに、今回の条件ならアドベンチャーゲームがいいだろうということになって。
──では今回の『パラノマサイト』は念願だったんですね。社内の反応に変化はありましたか?
石山氏:
社内の反応はすごく変わりました。びっくりしています。急に「じつは『癸生川』シリーズ好きでした」という人が現れたり。いままでそんなことなかったのに(笑)。
──(笑)。
石山氏:
サウンドの水田直志さんや『オクトパストラベラー』プロデューサーの髙橋真志さんからも「面白かった」というお言葉をいただいたり、いままでになかった手応えを感じています。
──これまでも「オリジナルIPで次の芽を出そう」みたいな試みはけっこうあったと思うんですけど、ちゃんと狙ってヒットを出せるのはすごいことだと思います。
石山氏:
そこはもう、全部が全部当たるわけではないので狙い続けていくしかないのかなと。ヒットへのアプローチ方法はいろいろあっていいと思っています。何百億も使ってAAAタイトルを投入していく人たちもいれば、自分たちのように内部のクリエイターでコンパクトにスキマを狙っていく人もいる。スクエニはおのおのがいろいろな方法でアプローチできる会社だと思いますので、引き続き挑み続けていきたいです。
──Steamのレビューを見たら「スクエニだけどおもしろかった」という書き込みもあったのですが、スクエニを再評価するユーザーが増えている印象です。
石山氏:
そうなんですよね……そういうふうに言われてしまうと、ちょっと微妙ですけども……(苦笑)。じつは企画提案時は「“スクエニ” と言わないで売り出したほうがいいんじゃないか」という意見もあったんです。特にインディーズ業界からは「大手が価格で殴ってきた」と反感を買ってしまう可能性もありますし、「スクエニの新規アドベンチャーゲーム」で興味を持ってくださる方が果たしてどれだけいるのかもわからないので……。
──なるほど。でもそこも評判がよければすべて解決してしまうという(笑)。
石山氏:
まあ、それでもとにかくやってみないことには、ということで進めました。いずれにしても、結果を出すためには少なくとも「評判がいい」状態に持っていくしか道はないと思っていたので、おもしろくなるようにとにかく一生懸命作るだけでしたけども。
──それでは最後にこの記事を読んでいる読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
石山氏:
はい。『パラノマサイト』は10時間前後でクリアできるので、すでに遊び終わった方もいらっしゃると思います。続編も作りたいと思っていますが、そこは会社次第なのでいますぐ出すことはできません。
そこでぜひおすすめしたいのが、『スクールガールストライカーズ2』というスマホゲームです!!
──(笑)。
石山氏:
『パラノマサイト』でキャラクターに好感を持っていただけた方なら『スクスト2』も楽しんでいただけるかと! お互いを尊重し合った居心地の良い関係と、軽妙なノリのやり取り、そして謎が謎を呼ぶ濃密なミステリー体験を『スクスト2』でもご堪能ください。なんと、ストーリーは始めてすぐでも無料で全部楽しめます! しかも過去のイベントストーリーも最初から全部見れます!
──『パラノマサイト』を遊んだ方には、ぜひ『スクスト2』もプレイしていただきたいですね(笑)。本日はありがとうございました。
石山氏:
ありがとうございました。(了)
筆者が『パラノマサイト』をクリアしたあとまず感じたことは「最初から最後までずっとおもしろい」だった。なんならチュートリアルにあたる序盤から全力でおもしろい。
それは、石山氏が連載漫画のようなライブ感で見せ場を差し込みまくっているからだった。あとで出す予定だった人を先に出してみたり、別の事件を追加で起こしてみたり、プレイヤーを飽きさせないための工夫が施されている。
しかし、「飽きさせない」といっても話を動かすためだけにキャラクターをクズにするようなことはしない。『パラノマサイト』のキャラクターは、(並垣くんを除いて)相手のことを尊重できる “いい人” ばかりが登場する。それを徹底することで居心地のよい人間関係が描けるという。
「おもしろくなれ……おもしろくなれ……」と何度も書き直したというシナリオはまさに密度の高い体験価値を作り出している。大手がお金にものを言わせて作っているのかと思いきや、“メイド イン スクウェア・エニックス” にこだわった制作陣がただただ一生懸命作っているだけだった。
『パラノマサイト』を遊び終わると「呪殺バトルをしてみたい」と思うこともあるだろう。そんな人のために(?)LINEスタンプが発売されている。
トーク相手が「行ってきます」などと言ったときにすかさず「呪詛行使」を送れば気軽に呪殺ができてしまうため、呪殺バトルごっこをしたい人にはうってつけ。「おつかれさま」や「よろしくお願い致します」など日常使いできるスタンプも多く、筆者は多用している。
【LINEスタンプ公開!!】
— パラノマサイト FILE23 本所七不思議【公式】 (@PARANORMA_PR) April 27, 2023
#パラノマサイト オリジナルLINEスタンプ第1弾が公開されました!https://t.co/E3iPZHFcZc
ゲーム中の印象的な場面から、ネタ系、新規描き下ろしまで、スタッフ厳選の40枚です!
じゃんじゃんご利用ください! pic.twitter.com/2iK5rFtjSm
『パラノマサイト』のプラットフォームはNintendo Switch、Steam、iOS、Android(※いずれもダウンロード販売のみ)となっている。Steam版は6月30日よりサマーセールを開催中。サマーセールの期間中は『パラノマサイト』が1584円(税込)で販売されている。