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だれに聞いても『パラノマサイト』の評価が高い。その理由を制作者に聞いてみたら、プレイヤーを飽きさせないために連載漫画のようなライブ感で見せ場を差し込みまくっていた

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 2023年3月に発売された『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(以下、『パラノマサイト』)の評判がとにかくよい。Steamやメタスコアの評価はもちろんのこと、発売後も継続的にその評判が広がっている。

 具体的にどのようなレビューがついているかというと、「退屈させない工夫に満ちた良作」「レビューなんて読んでないでさっさと買ったほうがいい」「おじさんがかわいい」など、高評価なものばかり。

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 しかしながらこのように評判のよいゲームは遊ぶ前から期待値が上がってしまうため、実際に遊んでみると思いのほか刺さらないということがしばしば起こる。ところが『パラノマサイト』は、評判をもとに手に取った人たちも軒並み高評価をつけている印象だ。

 『パラノマサイト』はスクウェア・エニックスによる完全新規のホラーミステリーADVである。

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『パラノマサイト』はこんなゲームです。

 東京の墨田区を舞台に、そこらへんの公園などでわりとカジュアルに「呪い合い」の呪殺バトルが行われ、《蘇りの秘術》をめぐり七不思議の謎を解くという物語。先ほど挙げたレビューにもあるように、登場人物におけるおじさん率の高さも特徴のひとつと言えるだろう。

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 実際に遊んでみると、1980円という映画1本分くらいの価格でありながら2時間映画の5倍くらい(10時間前後)のボリュームで、ゲームならではの達成感を存分に味わうことができた。さらに驚かされたのは、エンドロールの短さである。もしかして4人とかで作ってるの……?

 そこで電ファミは今回、本作のディレクターおよびシナリオを務める石山貴也氏にインタビューを実施した。どうやら『パラノマサイト』は “メイド イン スクウェア・エニックス” にこだわっているという。

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石山貴也氏

 石山氏にしかできないであろう「おもしろくなるメソッド」とは。気がつくと応援してしまう不思議な魅力がある登場人物の描き方とは。そして、『ニーア』シリーズなどで知られるヨコオタロウ氏による “予期していなかった影響” とは。

 本稿は『パラノマサイト』の評判のよさを紐解くインタビューになっている。

聞き手・編集/実存
文/柳本マリエ
カメラマン/佐々木秀二


自分で書いたシナリオを読み返すたびに泣いている

──いきなりですが、どうしてこんなに『パラノマサイト』は評判がよいのでしょうか? Steamやメタスコアの評価はもちろんのこと、発売後も継続的に口コミで広がっている印象です。石山さんはその理由をどのように分析されていますか?

石山貴也氏(以下、石山氏):
 そう言っていただけてありがたい限りです。理由はたぶん、ちゃんとおもしろかったからでしょうか(笑)。

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──(笑)。

石山氏:
 もともと僕は前の会社で『探偵・癸生川凌介事件譚』という探偵アドベンチャーゲームなどを作っていて、スクエニに入ってからは『スクールガールストライカーズ』(以下、『スクスト』)というスマホゲームのディレクターとシナリオを担当していました。そのときに自分の作ったものを楽しんでくださる方がいて、自分のなかで「こうすればおもしろくなる」みたいなメソッドが培われていったんです。

 なので『パラノマサイト』についても、僕が携わっていたタイトルをおもしろいと思ってくださった方には楽しんでいただけるはずだと思いながら作りました。そしたら過去のタイトルを知らない方にも楽しんでいただけたようで、とてもうれしく思っています。

──石山さんの「おもしろくなるメソッド」とはどういうものなんですか?

石山氏:
 明確に言語化するのが難しいですが、とにかくひたすらシナリオを読み返します。まっさらな気持ちで読み返して、おもしろいと思えるようになるまで書き直すという。やってることは、ただひたすらそれだけなので……。

──すごくストレートですね(笑)。電ファミでも、記事を編集していると「まっさらな気持ちで何度も読み返すこと」が難しくて、読んでいるうちにどこがおもしろいのかわからなくなってしまうことがよくあるんです。石山さんの言う「おもしろいと思うまで書き直す」って、どういう感覚なんですか?

石山氏:
 シーン毎に、読み返して「これは意味がわからないな」とか「ここはちょっと言葉が引っかかるな」みたいなところを何度も何度も書き直しながら、「おもしろくなれ……おもしろくなれ……よし、おもしろくなった!」ってなったら、次に……と。

──(笑)。そんなことあります?

石山氏:
 会話ひとつでも、「おもしろくなれ……おもしろくなれ……!」って念じながら書くと、なんとなくおもしろくなります。という完璧なメソッドです。

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──それで本当におもしろくなってしまうのは、もう石山さんの特殊能力ですね(笑)。

石山氏:
 (笑)。特殊能力かどうかはわからないですが、読み返すたびに新しく気づくことがあるんです。それでいうと、多くの人は「自分が書いた “いい場面” を読むたびに泣いたりしない」ということを知ったときは驚きました。

──! 石山さんはご自身が書いたシナリオを読むたびに泣いているんですか?

石山氏:
 あ、はい。いい場面は、書きながら泣いてるし、読み返す度にまた泣いてます(笑)。
 実際にそういう場面はプレイヤーさんにもちゃんと刺さっているので、少なくとも自分に刺さるようにすれば、同じツボを持っている人には刺さるはずだと。それが自分の創作の支えになっています。

──それは本当に特殊能力ですよ!(笑)。
 もともと石山さんはゲーム業界でのキャリアをサウンドからスタートされていらっしゃいますが、そもそもどうして「シナリオを書ける」と思ったのでしょうか?

石山氏:
 うーん……昔から趣味の範囲で推理小説的なものを書いたりはしてましたけど……。前の会社では2カ月に1本くらいのペースで携帯アプリのゲームを作っていたので、企画が通りやすい環境だったんです。そこで、個人的に好きだった探偵アドベンチャーゲームの企画も出して、実際にシナリオを書いてみたところ、ありがたいことに評判もよく、「じゃあ続編も出して」と続いていきました。その中で、こうすればおもしろくなるという手応えを次第に掴んでいった感じです。

──それが『癸生川』シリーズですね。お話を聞いていると石山さんは天才肌の印象があるのですが、『パラノマサイト』で苦労されたところはありますか?

石山氏:
 今回はボリュームの加減が難しかったです。プロジェクトのたびに「今回こそスケジュール通りにきちんと作るぞ」と思っているんですけど、なかなか思い通りにはなりません(笑)。本当に天才なら、そこもちゃんと作れるはずなんですけど!

 もともと価格は1980円で出すことが決まっていたので、作り始めたときは6時間から7時間くらい遊べるボリュームを想定していました。でも終わってみたら10時間になっていたので、そういうことです(笑)。

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“メイド イン スクウェア・エニックス” にこだわる

──『パラノマサイト』のボリュームが想定を超えて10時間になってしまったのは、おもしろくしようとしたら収まらなくなってしまったからなのでしょうか?

石山氏:
 その場その場できちんと盛り上がるように組み立てていくと、最初に用意したプロットに沿って作っていっても、予定通りにならないことが多くて……。ゲームとして遊んでみると「ここはもう少し丁寧に説明しないとダメだな」とか「この場面はこっちに持ってきたほうがおもしろいのでは?」みたいなことがどうしても出てきてしまって。

 ちょっと単調だと思ったらあとで出す予定だった人を先に出してみたり、山場が盛り上がらないと思ったら別の事件を追加で起こしてみたり、ずっとおもしろさが続くように “緩急” は意識しています。

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──なるほど。いわば連載漫画みたいなライブ感で調整されていたんですね。

石山氏:
 確かに「退屈にさせないように、都度軌道修正しながら話を展開させていく」という点は連載漫画の感覚に近いかもしれません。そしたら、ボリュームがどんどん大きくなってしまいました(笑)。逆に、もろもろの都合からカットしていった要素も多々ありますので、そこも含めてライブ感満載です。

──買い切りのアドベンチャーゲームでそういう作り方をしていたとは思いませんでした(笑)。

石山氏:
 ですよね(笑)。でも、そのくらいの勢いで作らないと納期と品質を両立できないなと。じつは『パラノマサイト』の前に作っていた『スクスト』もそういう作り方だったんで、ある意味、安定した作法であると言えましょう!

──なるほど、『スクスト』はスマホゲームで1話ずつ更新していくから。

石山氏:
 そうなんです。その話のどこかで必ず見せ場を作らないといけないので。

──おもしろいですね。そのライブ感で1本のアドベンチャーゲームを作ってしまったと。

石山氏:
 作り方としてはおすすめできません(笑)。会社としては作り方をメソッド化して引き継いでいかないといけないんですけど、このやり方をしろとはとても言えないです。

 とはいえ、会社にはいろんなプロジェクトがあるので、みんなで力を合わせて丁寧に脚本を作るタイトルもあれば、僕みたいな変な人が変なことをして作るタイトルがあってもいいのかなと(笑)。今回のコンセプトを満たすために、そう割り切って。

──『パラノマサイト』は石山さんの作家性が色濃く出ているタイトルということですね。

石山氏:
 はい。うちのチームは最初からそこで勝負するしかないと思っていましたから。「スクウェア・エニックスのクリエイターってスゴイんだぞ」って。キャラクターデザインの小林(元)と、作曲の岩崎(英則)にも、自身の作風の「らしさ」を思いっきり出して欲しいとお願いしました。

 もちろん外部の有名なクリエイターさんや絵師さんを起用するプロジェクトがあっていいと思いますが、自分たちの戦い方としては “メイド イン スクウェア・エニックス” にこだわりました。内部クリエイターの持つ作家性で新しいコンテンツを生み出していくという動きは、どうにか残していきたいと勝手に思っています。

愛されるクズと愛されないクズの違いとは

──「生み出す」というところでいうと、たとえば登場人物のキャラクター性を作る工夫みたいなものはありますか?
 『パラノマサイト』は登場人物がみんなすごく個性的でありながら、ただ癖が強いわけではなく、気がつくと応援してしまう不思議な魅力があるように感じます。

石山氏:
 ありがとうございます! ふふふ、いいでしょう?(笑)
 これは『スクスト』でも同じようにしていたことなんですけど、基本的に登場人物はみんな “いい人” なんです。

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──あっ、たしかに。

石山氏:
 自分のなかで「いい人のことは嫌いにならない」という確信があって。
 それはだれにでもいい顔をする人を指しているわけではなく、相手のことを尊重できる人、ありがとうやごめんなさいを言える人、注意するときに人格を攻撃しない人、みたいなことです。

 たとえば、なにかをしようとしている人がいたらできる限り寄り添う。やろうとしていることがよくないことだったとしても、その人の気持ちは否定しない。そういう人間関係ってすごく居心地がいいと僕は思っているんです。

──『パラノマサイト』でいうと、マダムと利飛太、約子ちゃんとミヲちゃんがまさにそういう関係性ですね。行動は止めるけど、気持ちには理解を示すという。

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石山氏:
 はい。『スクスト』のときに「尊重した態度」を徹底したらすごく居心地がよくなったんです。その経験から『パラノマサイト』でも人間関係の居心地のよさにこだわりました。

 お互いを否定する関係性は僕自身が見ていてストレスを感じてしまうので、喧嘩をするときでさえも気持ちのいい対立関係を意識しています。津詰警部と根島の罵り合いは皮肉ばっかりなんですけど、どこかに「しょうがねぇなぁ」という雰囲気を出したりして。

──たしかに津詰警部と根島の関係性はカラッとした印象があります。それって、別の言い方をすると「キャラクターをクズにはしない」みたいなことでしょうか?

石山氏:
 そうですね。キャラクター性のためにあえて嫌われるような特徴を持たせる必要はないと、僕は思っています。基本、みんなが “いい人”でもドラマは成立するし、むしろ気持ちよく物語に入れるんじゃないかなと。その方が今っぽいというか。『パラノマサイト』が、「舞台は昭和なのに、人物は令和的」と評価されているのは、そういうところかなと、勝手にいい意味に捉えています。

──とはいえ、話を動かすためにキャラクターをクズにせざるを得ない状況ってあると思うんです。借金を作って身内に迷惑をかけたり、周りの意見を聞かずに行動して騙されたり。でも、そういう形で話が動くと「そいつが余計なことするからじゃん!」と腹が立ちますよね(笑)。

石山氏:
 話を動かすためだけに足を引っ張るキャラクターってけっこういるんですけど、僕としてはわざわざそういうキャラクターを登場させなくてもいいと思っています。

 「こいつ本当にクズだな」という役回りは悪役にすべて押しつけて(笑)。なので、悪役以外の人は基本的にみんな穏やかですし、話の理解も早く、無駄に足を引っ張らないです。

──たしかに。だから『パラノマサイト』はどの登場人物にも好感が持てたんですね。

石山氏:
 想定外だったのは、並垣【※】です。彼はクズすぎて逆に人気が出ました。「あいつ本当にどうしようもねぇな!」と(笑)。そういう愛され方もあることを学びました。

※並垣
主に両国橋付近で登場する大学生。とにかく器が小さい。

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──たしかに、並垣くんの小物感は見事でした。でもなぜか憎めないんですよね。並垣くんはクズなのになぜ愛されているのでしょうか? どのあたりを工夫されましたか?

石山氏:
 イケメンだからですかね……?(笑)。いや、そもそも並垣は、嫌われていいと思って登場させたキャラクターなんですけどね。自分のことしか考えていない、どうしようもないクズですよ、あいつ!(笑)

 だけどチーム内でもなぜか人気があって、初回のセールが終わるときにキャラクターデザインの小林が急に「並垣を描きたい」と。

──(笑)。

石山氏:
 「じゃあお願いします!」と描いてもらったイラストをTwitterに投稿したところ、反響がすごく大きくて。あいつの人気は、ちゃんと分析したほうがいいと思いました(笑)。

──なるほど。並垣くんのように「愛されるクズ」と一般的によく見る「愛されないクズ」って、どういう違いがあると思いますか?

石山氏:
 うーん……並垣の場合は、かわいそうだからかもしれません。あやめと一緒にいるときも見下されていたであろうことが容易に想像できますし。「あいつ本当にクズだけど相手にされなくて哀れだな」「しょうがないな」みたいな。つまり、同情票ですね(笑)。

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──たしかに(笑)。そもそもだれからも期待されていないというか、最初から器の小ささがわかるから「かわいそう」と思ってしまいますね。

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デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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