“パクる”と“バレない”のコンボをキメれば面白いゲームが作れる
梅田:
AIの話はこの辺にして、最後に聞きたかったのがゲームクリエーターのスター選手という話なんです。僕は小高さんの世代以降、ゲームディレクターのスター選手がほとんど出ていないと思っていて。だけど若い人はみんなそこになりたいと思っているじゃないですか。「僕は小高和剛になりたいんです」と若手に言われたらどうしますか?
小高:
いや、「そんなの知らねぇよ」のひと言ですね(笑)。
梅田:
ハハハハハ(笑)。
小高:
別に僕は業界のことを見ていなくて、自分の好きなことを自分でやりやすいようにやっているだけなので。「若い人? 知らねーよ」と、それでしかない。
梅田:
だけど、日本のゲーム業界のジレンマみたいなものは感じていますよね?
小高:
というか、スター選手のような存在が必要なのかという気もします。
梅田:
僕の結論は「必要ない」です。でも、小高和剛みたいなスター選手になりたい人はいっぱいて……。それを夢だと感じている人に、「君たちが見てるのは幻想だよ」と言うのもなんか違うじゃないですか。
小高:
そもそも、いまは難しいんじゃないですか。未経験のヤツにプロジェクトを任せるかといったらいまの企業は絶対に任せないので。20代と僕らの世代を比べて20代のほうが面白いかどうか、それだけの話なのかなって気はするし、僕らと同じやり方をしたいだけなら、生まれる時代を間違ったんじゃないのっていう。まあ、もっともらしいことを言えば、いまの時代の“それ”を見つけるべきじゃないですか。
梅田:
そうですね。小高さんがスターダムに上がったのは、本当にそのときの時代があって、そのときのタイミングで攻めたからこうなっているわけで、いまの人は別の攻め方をしなきゃいけない。小高さんをロールモデルにするのは違うんですよね。
小高:
目指しても目指さなくても、なるヤツはなるんです。別に僕も有名クリエーターになりたかったかと言われたら、なりたいと思ったことはなかったですから。
梅田:
いやでもそれが本質なんですよね。僕の会社でリクルーティングをしていると「小高さんみたいになりたい」と言う人が一定数いるんですけど、憧れてる時点でそうなれないというのが悲しいところで……。
小高:
もし誰かに憧れていたとしても僕だったらそのことを就職の面接のときに言うという選択がまず合ってるのかと考えますけどね。
梅田:
ああ、なるほど!
小高:
その憧れは内に秘めておいて、いまこういう選択をしたら、そこに近づけるかもしれない、と考えて動かないと。「自分のゲームを作りたいんです!」と言って「よし、じゃあ任した!」とはならないですからね。だから、現場で問題が勃発しているようなタイトルに自ら入っていって、このゲームを俺色に染めてやるぜ、みたいなやり方でしょ。
梅田:
そうそう! これはめっちゃ金言ですよ。それが俯瞰で見れているかどうかなんですよね。
小高:
だから、みんなもっと打算的になったほうがいいということです。
梅田:
そう、本格的に打算的になったほうがよくて。就職活動で俺のゲームが出したいんですって言ったらもう無理じゃん(笑)。そんなヤツなかなか採れないよ。
小高:
みんな韓国ドラマを見すぎ(笑)。そんなに「よし、お前にチャンスをやろう!」みたいなドラマチックなことはないですから。本当にやりたいことがあれば、どんな手を使ってでもやるべきで、相手に得をさせながらこっそり自分の得に持っていく……みたいなね。
梅田:
そのやり方が小高さんのクリエイティブとまったく逆なのが面白いです。漠然としてますけど、若手から「どうすれば面白いゲームが作れますか?」と聞かれたらどうします?
小高:
「なにが面白いの?」って聞きますね。「君はなにを面白いと思ってるの?」と。そこでなんらかのタイトルが出てきたら、「じゃあ、それをパクろう」と(笑)。
梅田:
ハハハハハ(笑)。
小高:
あと、「パクったことをバレないようにしよう」と。“パクる”と“バレない”のコンボをキメれば絶対に面白いゲームが作れるよと言いますね。
梅田:
コンボをキメれば(笑)。たしかにそうかもしれません。
小高:
まあ、いろんなところからパクれるようになれば、だんだんオリジナルになっていくじゃないですか。その組み合わせがオリジナルなので。いまのネットってけっこうパクりにうるさかったりするから、そこら辺で嫌悪感を抱いている人もいるかもしれないですけど、そもそも“オリジナル”なんてないし、いまの時代。
梅田:
それはそうですよね。最後にもうひとつ、このあとトゥーキョーゲームスはどうなっていきたいんですか?
小高:
クリエーターとしては夢が「Life is Strange」とか「Detroit: Become Human」とか、3Dの大作アドベンチャーゲームを作りたいということだったんです。それがゴールだと思っていたんですけど、ぶっちゃけ「レインコード」でもうやれちゃったのかな、と。
梅田:
たしかにそうですね。
小高:
あれ、もう叶っちゃってんじゃん、と。だから、いま夢を探しています(笑)。
梅田:
ハハハハハ(笑)。
小高:
まあ僕らはクリエーターからすると、正直、タイトルが出たときに評価によって状況が変わってくるじゃないですか。それがハネれば次はもっと大きい予算になるし、ハネなかったら小さい予算になっていく。計算した通りになんかいかないし、それがストレスになったりするので、臨機応変に対応していくには短期的に見たほうがいいとは思うんです。
梅田:
じゃあ、今後の展望は決めたくないってことですかね。
小高:
そうですね。その時々に素直に行動できたら一番といいですね。ただ、いまの会社の役員4人はずっと一緒にやっていくというのは、たしかだと思います。誰か辞めたら自分も辞めるかな、みたいな。
梅田:
ああ、そうなんですか。
小高:
ゲーム業界で才能も含めて信用できるって本当に作れない関係なので。それがコアメンバー全員揃えられたのはラッキーだった。そこは大事にしていきたいなっていう。
梅田:
やっぱりそれぐらい打越さんのこと、好きですか?
小高:
人間的にはあんまり好きじゃないです(笑)。
梅田:
ハハハハハ(笑)。
小高:
お互いに、ね(笑)。
[対談後記]
「ダンガンロンパ」が出たとき、アドベンチャーゲームが好きな私はすぐ購入し、のめり込んでクリアまで没入してやり切りました。その後、そのゲームをディレクションしているのが小高和剛という人だと知り、小高さんの記事やインタビューなどはむちゃくちゃ興味深く読んでいました。小高さんのファミ通のコラムの単行本(「ダンガンロンパ小高 ~『ダンガンロンパ』を作りながらの890日~」)も持ってます。
その後、小高さんが独立して作ったトゥーキョーゲームスさんと一緒に「ワールズエンドクラブ」や「デスカムトゥルー」を作ることになるんですが、小高さんのディレクションは「あれを絶対こうしてくれ」というのは少なくとも私が一緒に作ったゲームにおいてはほとんどなく、逆に「それはやらなくてよい」「それは気にしなくていい」という、やらなくていいことをちゃんと言ってあげるという点が多かったです。また、ちょっとイタズラ好き悪魔属性の天才肌という印象もありますが、基本的に弱者にとても優しい人です。その弱者に寄り添う姿勢や気持ちの優しさが小高さんのシナリオやキャラクターづくりの中に現れているのかもなあと思います。たまにヘンなことをわざと言ったりしますけど(笑)。
トゥーキョーゲームスという会社の社長でもある小高さんですが、あまり社長として気張っているという感じはもともとなかったですし、久しぶりにお会いしてもそれは感じませんでした。あくまでトゥーキョーゲームスというチームとともに、クリエイターとしてやりたいことができるようにしている感じがします。言葉ではあまり言わないですが打越さんのこととかすごく信頼していますよね(笑)。
小高さんは、これからもゲームをいろいろな形で作っていかれると思います。ものすごい量のインプットをしている小高さんだし、アニメや漫画などゲーム以外のエンターテインメントも作っているのですが、ゲームが一番可能性があるっていう姿勢がまったくブレていないんです。きっと「ダンガンロンパ」を初めてやったときのあの感動を、また別のゲームでみなさんに届けると思います。私もこれからも小高さんが関わるゲームを楽しんでいきたいと思います。(梅田)