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決定版『FFタクティクス』はオリジナルを「なるべく手を加えずに出したかった」からこそ、当時のSEを耳コピで再現、目パチや口パクのアニメーションもこだわり抜く。“男装の麗人”ユニットも健在

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スクウェア・エニックスより、9月30日(Steam版は10月1日)に発売される『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』

本作は1997年に初代PlayStation向けに発売されたタイトルの決定版であり、28年の歳月を経て現代のゲーム機向けに蘇る。

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当時のオリジナル版を忠実に再現した「クラシック」と、フルボイス対応に加えてグラフィックやUIなどを刷新した「エンハンスド」のふたつのモードが同時に収録されており、新旧の違いを比べながら楽しむことができる。

こちらの記事では、オリジナル版の開発者でもあったディレクターの前廣和豊氏とアートディレクターの皆川佑史氏の2名に加えて、Co.ディレクターの横山文子氏を含めた3名にインタビューを実施。また、途中で本作のプロデューサーである松澤祥一氏にもお話をお伺いすることができた。

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『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』 特別装丁コレクターズBOXの実物。

文・取材/高島おしゃむ
編集/anymo

※ゲーム画面はすべて開発中のものです。内容・仕様は予告なく変更する場合があります。
© SQUARE ENIX

現代のハードウェア上で当時のスタッフが作ったものを手をくわえずに出したかった

──オリジナル版の発売から28年という歳月が流れました。この長い期間で、お三方それぞれのゲーム開発に対する哲学やアプローチに、どのような変化がありましたか?

皆川氏:
あんまり変わってないかなぁ。僕は高校を卒業して上京してすぐにゲーム業界に飛び込みました。「仕事とは?」とか、そういうことをちゃんと考える前にゲーム開発を始めています。

根本的に自分が面倒くさがりなので、遊ぶ側としても面倒くさいのが嫌なんです。(ゲームを)操作していて面倒くささがないというか、「気持ちよく操作したい」という気持ちがかなり強くあります。振り返ってみても、そこは今でも変わっていません。

自分がどう気持ちよく感じるか、そのゲームを遊んでいて楽しいと感じるか……ということを、どのようにゲームに落とし込むかをずっと気にしています。

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アートディレクターの皆川佑史氏。

前廣氏:
若い頃は、難しく複雑なのが好きだったんですよ。パソコンゲームに夢中だったこともあって、とにかく画面に数字がいっぱいで、やれることが超たくさんのゲームが好きで(笑)。

昔PC-98で出た『銀河英雄伝説IV』などがそれに該当しますが、そういうゲームがタイプでした。ゲームデザイナーになって今年で30年になりますが、その間に、ゲーム全般としても僕個人の心情としても、それが「複雑さ」から「わかりやすさ」というところに変わってきました

例えば、「ゲームの中でヘルプが見える」って昔は少なかったんですよね。それがPlayStationからPlayStation 2など、プラットフォームが遷移していく中で、だんだん当たり前になってきた。

ゲームはエンターテイメントですし、時代とともにグローバルに変化していくなかで、まずは「わかりやすさ」になっていたのかなという気はしています。

──こうした「わかりやすさ」が求められるようになったのは、いつぐらいからでしょうか?

前廣氏:
例えばゲームの画面の「× 戻る」といったようなガイド表示は、スーパーファミコンやPlayStationでも一部のゲームにはありました。

一般化したのは、Xbox 360やPlayStation 3くらいの世代からじゃないでしょうか。OSの画面が各プラットフォームに入るようになり、そこに表示されるものからスタンダードになってきたような気がします。

──なるほど。OSもゲームに影響を与えているんですね。

前廣氏:
だと思います。それこそXbox 360はゲーム風のOS画面で、そこから影響を受けたゲームも多いのではないでしょうか。

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ディレクターの前廣和豊氏。

──横山さんはいかがですか?

横山氏:
私はこのゲームが初めて出た時には、まだゲーム業界にいないというか、まだ学生だったので(笑)。

おふたりはとにかくずっとゲーム開発漬けですが、私の場合は、インターネット系のデザイナーをやっていました。そこからゲーム業界に入ってきたので、ちょっと変わった経歴です。

とにかく憧れてゲーム業界に入ってきて、今回は『ファイナルファンタジータクティクス』にも関わることができて……。本当にいろんな縁がありました。

漫画や映画などいろんな媒体がある中で、ゲームは自分が動かして、それによって体験が変わっていくところがすごく魅力的だなと思っています。今回もそうしたところを意識しながら、開発をしています。

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Co.ディレクターの横山文子氏。

──オリジナル版の開発にも携わられた前廣さんと皆川さんは、当時の経験が今の開発スタンスにどのような影響を及ぼしているとお考えですか?

皆川氏:
このプロジェクトのエンハンスド版を作るにあたり、グラフィックをどのくらい変えるのかという最初の判断が結構大きな起点になりました。たとえばキャラクターを全部今風の3D表現にするとか、そうしたことも当然アイデアのひとつとして、いろんなスタッフと話をしています。

僕がオリジナル版に関わっていたからというのがすごく大きいと思いますが、当時のグラフィックのデータを見たときに、あの時のハードウェア制約の中で本当によく作っているなと改めて感じました(笑)

一緒に働いたスタッフの中には、それこそ連絡もつかなくなっちゃった人もたくさんいます。僕も当時スクウェアに転職をして初めてのプロジェクトで気負っていることもあって、そこで苦労もありました。そういう思い出というか思い入れが混ぜこぜになり、とにかく現代のハードウェア上で彼らが作ったものをなるべく手をくわえずに出したいという気持ちが大きくなっていきました。

本作の作りに関しては、自分がオリジナルの開発メンバーだったという事実にかなり影響を受けています。結果、なるべく人の手を介さずに、彼らの作ったものをキレイな見せ方に持っていくというところに、相当意識を割きました。

──当時の思い出が蘇ってきたりはしましたか?

皆川氏:
楽しいこともあったんですけど、辛いこともたくさんあったので(一同爆笑)。

今の働き方と当時は全然違っていて、朝の4時までみんなで焼肉弁当を食いながら開発したなみたいな。

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オリジナルを再現した「クラシック」版のゲーム画面。

──前廣さんはいかがでしょうか?

前廣氏:
ゲームデザイナー的なところから見れば、あんまり変わってないんですよね。ビジュアルはファミコンとかそれ以前から短期間で変わっていきましたが、ゲームデザインって根本的なところは変わってないなと思います

今回、改めてオリジナル版の『ファイナルファンタジータクティクス』を触ってみてもそうでしたが、例えば時代に合わせてビジュアルを強化したり、インターフェイスを改良していくのは必要ですが、30年前に作った時点でゲーム性は完成されていましたから、それをいじる必要はありませんでした。我々からすれば遊びを提供する部分/プレイヤーからすれば遊ぶ部分という根っこは変わってなかったんです

面白さは、いつもの時代も一緒なんだと思いました。本作に関しても、本当に面白いところはそのまま活かした形で今のゲームに昇華できればなというのはありました。

──ラムザとディリータの対比は、『ファイナルファンタジータクティクス』の根幹をなす要素であり、「持てる者」と「持たざる者」というテーマは貧富の格差や社会的分断が深刻化する現代において、より切実な問題として認識されるのではないかと思います。このテーマを通して、現代社会を生きるプレイヤーに問いかけたいことはオリジナル版と比べて変化がありましたか?

前廣氏:
物語のテーマ自体は変わっていませんし、(本作の脚本、加筆修正及び監修を担当した)松野さんもおっしゃっておられましたが、リアルの社会情勢についても実は変わってない。30年経って変化は多少あるけど、大きなところが今も昔も変わってないというところがあります。

改めて今回クラシック版をプレイしてみても、エンハンスド版に向けて松野さんが加筆・調整してくださったものを拝見しても、やっぱり根本にあるものは変わっていないのだと感じました。

30年前にラムザが訴えていたことが今でも通じる。社会情勢は本当に変わっていないし、変わっていないのが少し怖いとも思いました。

当時の音を再現するため、サウンドチームが「耳コピ」

──エンハンスドではオリジナルのイラストを活かしながら、目や口が動くなどのグラフィックの動きが追加されていました。こちらで気を付けたところはございましたか?

皆川氏:
そこは担当のデザイナーが、オリジナルのテイストをしっかりと残し、やりすぎないように作ってくれました。

試作の段階ではアニメライクに口を大きく開けたり、いろいろ表情パターンを作ったらどうなるのか試したりしました。しかし、オリジナルのルックに対して違和感がどうしても出てきてしまって。でも、さりげなさすぎると、今度はちょっといくらなんでも動いてなさすぎる。

地味なんですけど、何パターンか試作してもらい、そこから今の形に落ち着きました。現場スタッフがかなりこだわりを持ってしっかり作ってくれた部分です。

横山氏:
ボイスが入っているので、どうしても動かしすぎてしまうとズレなどが気になります。ボイスを当てても気持ちよく見られるように、担当アーティスト込みでいい塩梅に作っていただいたと思っています。

──同じシーンでも、ボイスが入るとよりドラマチックに見えます。

皆川氏:
そこは作っている我々自身も、あっ、全然変わるんだなと思いました。自分は当時のオリジナル版でイベントシーンのアニメーションパターンも組んでいたのですが、最初ボイスが入ると言われた時に、間延びしてしまい間が持たなくなるんじゃないかというのがすごく怖かったんです。

ボイスが入ることで、文字送りできる速度が、全然変わってきてしまいます。当時のドットの演技って、そこまで大量のパターンでいろいろなことをやらせるわけではありませんでした。ずっと立っているだけの絵が、しゃべっている時間堪えることができるのか、ちょっと怖かったんです(笑)。

ただ、実際にボイスが入っているものをプレイしてみたら、声がはいることでむしろキャラのドットに感情が加わったように強化される印象で、本当にボイスの力が大きいなと思いましたね。

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──ボイスが入ったほか、何気にSEも変更されているような気がしました。

前廣氏:
SEは実は変わっておらず、逆にオリジナル版を再現した形になります。ただ、当時はプレイステーションの内蔵音源で再生していたため、データがあったとしてもそれだけでは同じ音にはなりませんでした。

本作はサウンドスタッフの努力によって、ほぼ耳コピで音を全部作り直しています

──SEは耳コピだったんですね!

前廣氏:
オリジナル版はボイスがなかったところに本作ではボイスが入ることもあって、BGMとボイスとSEが噛み合わないように、サウンドのボリューム調整に関してはすべてを見直しています。その結果として、オリジナル版との違いはないものの、より迫力あるものに聞こえているのだと思います。

──先ほど会議室でヘッドホンをしながらゲームの試遊をさせていただいたのですが、会議室の外で誰かが騒いでいるのかな? と思ったら、ゲームのSEだったことに気が付きました。

前廣氏:
群衆がいるシーンなどでは、声が入ることによって臨場感が増すため、いわゆる“ガヤ”を追加することで対応しています。

──「このシーンはフルボイスで見てほしい!」とオススメしたいイベントはありますか?

前廣氏:
オリジナル版のときから、特定の戦闘で敗北したときにその時しか流れないセリフがあるんです。

「あるキャラクターを守れ」という戦闘で該当のキャラクターが倒されてしまった時など、特定の条件で流れます。普通にステージをクリアしちゃうと当たり前ですが聞くことができないのですが、そういう見逃しそうなシーンにも、もれなく音声が入っているので、ぜひ聞いてみてください。

横山氏:
バトル中は本当に細かく、いろんなシーンでボイスを聞くことができます。敗北イベントだけじゃなく、それ以外に、ブレイブストーリーなどにもたくさんいろんな声が入っているので、そこをぜひ楽しんでいただきたいですね。

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──エンハンスドでラムザのスキン(服の色)が変更できるのが嬉しすぎるのですが、どういった経緯で実装されたのでしょうか?

(※ここでたまたま様子を見に来ていたプロデューサーの松澤祥一氏が飛び入りで参加)

松澤祥一氏(以下、松澤氏):
デラックスエディションと予約特典を作ることになった時に、目に見えて変化をする要素を入れたかったんです。性能面には関係ないんですけれど、デラックスエディションを買ってくださったお客様や期待して予約してくださったお客様が視覚的に好みの形に変更して楽しめる要素を取り入れたいというのがあり、開発メンバーがいろいろと頑張って実現してくれました。

当初は、もう少し軽めに実装できるかと思っていたのですが、構造上の問題で大変なところがありまして(笑)。特にイベントのシーンは、ラムザのアニメーションカラーも全部変えなければいけなかったのですが、アーティストチームがうまく工夫をしてくれてなんとかなったという状況です。

──大変な実装だったんですね。

皆川氏:
たまたま今回は色替えができる構造だったんですよ。

昨今の3DCGのゲームでは、シェーダーで色をパラメーター的に変えるのはわりと一般的に実現できます。しかし、ドット絵を移植する場合、最近は当時ほど色の制約が厳しくないのでフルカラーでデータを作ることが多いんです。違う色のパターンを用意しようとすると、その掛け算でデータが増えてしまいがちです。

当時はパレットと呼ばれる色だけを別のデータとして管理しており、色を変えても容量が増えない構造で作られていました。今回はその仕組みをそのまま利用しているので、実はパレットだけを変えれば色が変わる仕組みそのものは、エンハンスドでも同じように動いているんですよ。

なので、色のデータだけを変えればちゃんと変わってくれるという構造が守れました。今回は作りをフルカラーでリッチにしようとしていたら、きっとその仕様はできなかったので、危なかったなと(笑)。

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──ちなみに、他のキャラクターのスキンがDLCなどで販売される予定はありますか?

松澤氏:
今のところございませんが、本作は名作である「FFT」を様々なハードウェアで、長期間に渡って販売、プレイしていただきたいと思って制作されています。ですので、さらなる言語の追加なども含め、検討を続けていきたいと考えています。ぜひ、応援のほど、よろしくお願いします。

前廣氏:
ただ、ラムザが物語の過程で衣装が変わるのに合わせて、すべての衣装で服の色が変わりますから、特にオリジナル版のファンの方には、ラムザの目新しい姿を見ることができるかと思いますので、楽しみにしていただければ。

横山氏:
ムービー以外は色を変えるとちゃんとそこも色が変わった状態で見られるので、後で別の色でも紀行録で見直すことができますね

──エンハンスドでベオルブ家が「伯爵」家になり、ダイスダーグの敬称が「卿」から「伯」になっていますが、これらが変更された理由を教えていただけますか?

前廣氏:
松野さんとシナリオのお話をしていく中で、あらためて爵位を正しく表現しておこうというご提案があったためです。

横山氏:
ベオルブ家の爵位を明確にした方がすっきりするね、という話が松野さんからあって、変わっています。

──オリジナル版のディープダンジョンに「見た目は男性ユニットだけど、内部データは女性ユニット」といったユニットが存在していました。クラシックでも、こちらのユニットはそのまま残されているのでしょうか?

横山氏:
そのあたりは変えていません。

前廣氏:
はい、そのまま残っています。エンハンスドでもそのままですね(笑)。

皆川氏:
今みたいな感じで、僕ら自身がもう忘れているか知らないのに、プレイしてくれた方のほうがめちゃめちゃ詳しくなっていたりします(笑)。

当時作ったものが今でも十分ゲームとして楽しめると確信

──エンハンスドでは3種類の難易度が選べますが、最高難易度の「タクティカル」で遊んだときに、レアアイテムが出やすくなるなどの恩恵はありますか?

前廣氏:
いえ、意図してそうはしませんでした

あくまでも難易度は、プレイヤーの方々がどう遊びたいかというところに紐づくべきだと思っていますので、レアアイテムを手に入れるために、厳しい難易度を選択せざるを得ない、のようにはしませんでした。内容は全然変わらないので、どれを選んで遊んでいただいても大丈夫です。

横山氏:
本作を難しいとおっしゃっているお客様の方が多く、ゲームを途中で離脱してしまった方もいらっしゃいましたので、スタンダード版は遊びやすくするための調整を入れています。

それと同時に、昔遊んで難しかった『ファイナルファンタジータクティクス』が好きだった・楽しみにしているという方ももちろんいらっしゃるので、(難易度「タクティカル」は)クラシック版よりも難しくなっています

スタンダード版をもう少し遊びやすくする。難易度の「タクティカル」は、ちょっとやってやるぜという方たちに沿ったデザインになっています。

──クラシックのテンポが良くなったような気がしたのですが、こちらは変わってないでしょうか?

皆川氏:
メディアの違いぐらいですね。当時はディスクだったので、ローディング時間が物理的に掛かっていたところはテンポアップしていると思います。逆に、アニメーションなどのタイミング調整は、一切手を入れていません。

──クラシックのアスペクト比ですが、昔のPlayStationなどで一般的だった4:3ではないように見えました。

皆川氏:
ドットの縦横比も当時は正方形ではないので、ドットの比率もやや横長に補正したうえで、さらに画面も少しだけ横の表示範囲を広げています

──それで映像の横幅が広めになって、端がやや暗幕っぽく見えるスタイルになっているんですね!

皆川氏:
4:3よりも実際の表示範囲が広がりつつ、16:9よりは狭くなっています。

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「クラシック」のアスペクト比は、オリジナルよりも若干横長に表示されている。

──本作を現代に蘇らせるにあたり、もっとも気を付けたところはどこでしょうか?

皆川氏:
我々はPlayStation版を開発しましたが、『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』やスマートフォン版でも遊べるようになったり、いくつかのプラットフォームに追加されたりしました。

改めてすごく久しぶりに本作を提供できるタイミングということもあり、まったく『ファイナルファンタジータクティクス』を遊んだことがない人にも、現代のプラットフォームで遊んでもらえる場を提供したいなと思いました。

プランナーサイドは、当時作った物語やゲームバランスなどが、今でも十分ゲームとしてすごく楽しめるものだと確信していました。グラフィックも含めて、当時作られたものを今の環境で快適に遊ぶことにフォーカスしたい、ということを最初に決めました。

横山氏:
私は当時の開発には関わっていなくて、リアルタイムでも遊んでいなかったんです。

今回チームに合流するという話になったときに初めて本作に触れたのですが、28年前のゲームとは思えないぐらいにストーリーも緻密で、これを今の時代に出せるということを大事にしたいと思いました

最近のゲームとして見たときに、ベースを変えずに現代の人たちが遊びやすくする。なるべく今のゲームの形に合わせて、でも大事なところは壊さずというところを意識して自分は作りました。

前廣氏:
冒頭の話とも被りますが、本作のゲームデザインは当時すでに完成されていました。そこは変えないというのは、プロジェクトを起ち上げたときから思っていました。

その上に乗る部分……グラフィックもそうですし、インターフェイスを便利にするのもそうです。それらを作り直したり拡張することで、遊びやすくしています。

──ゲームの作りとしては2本の作品が入っているような形ですよね。オリジナル版とリメイク版を交互に切り替えながら遊べる作品も見受けられますが、そうせずに、あえて別々のゲームとして入れた意味はございますか?

前廣氏:
クラシックは、オリジナル版を忠実に再現することが目的だったのでそのまま収録しています。

そしてエンハンスド版を入れるにあたり様々な調整を行ったところ、フラグの管理やストーリーの進行は同じでも、会話イベントが増えるなど、設計レベルでは大きな違いが出るところがありました。

これを落とし込もうとした時に、切り替えできることを前提にしてしまうと、ゲーム体験を向上させる前に、仕様がどちらかに引っ張られてしまいます。だったら、2本を完全に切り分けて、クラシックはクラシック、エンハンスドはエンハンスドとして完成度を上げるようにした方がいいと判断し、現状の形となっています。

皆川氏:
クラシックに縛られちゃうんですよ。

たとえば連戦マップで戻れないようにしていたじゃないですか。これを戻れるようにした時にセーブデータ的にも別のものになってしまうと、もう一度クラシックに変えたときにどうなる?みたいな、いろいろ複雑な問題が出てこないように、かなり初期からズバッと分けて進む方針で決めました

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──逆にクラシックで変更された部分って何かあるのでしょうか?

前廣氏:
基本は変更していません。ですが、先ほどのアスペクト比の話にもあったように、昔のものをそのまま現代の画面に出してしまうと印象が違う物になってしまいます。

ですので、本作では当時の印象に合わせるように表現を工夫していますし、それ以外でも、システム面ではオートセーブの対応や、LRボタンでカメラ操作していたのを今のスタンダードなスティックでも操作できるようにするなど、遊びやすくしています。

──クラシックの操作感も現代風になっているんですね!

前廣氏:
そうですね。ゲームそのものには手を加えずに便利さを追加して、クラシック版をプレイしても「懐かしいな」で終わらず、しっかりと遊んでいただけるように工夫しています。

──エンハンストとクラシックで敵AIなどのアルゴリズムの変更はあるのでしょうか?

横山氏:
アルゴリズムは変更していないです

前廣氏:
基本は同じですが、当時とはハードウェアが異なることもあって、一部では、より的確な動きをしてくることがあるかもしれません。

皆川氏:
パラメーターとかもちょっとイジっているから、そこで内部的な評価点が変わって行動が変わるというパターンはありそうです。

横山氏:
アルゴリズムは変えてないんですけど、アビリティの取得ポイントで一部手を入れているところがあります。そこで、昔は覚えていた技を覚えていないといったような時に、行動が変わってきます。

──最後に本作の発売を楽しみにしているファンに向けて、メッセージをお願いします。

皆川氏:
我々自身も、ほぼ30年ぶりに本作を開発する側としてゲームプレイをしており、本当に懐かしいタイトルなんです。

今遊んでも十分に世の中に受け入れられる普遍的な楽しさがあるタイトルです。今回は同時にいろんなプラットフォームで展開し、皆さんがお持ちのゲームスタイルに合わせて、どのプラットフォームでも同じ体験ができるように作られているので、ぜひとも遊んでいただきたいと思っています。

横山氏:
『ファイナルファンタジータクティクス』というゲーム自体が、本当に素晴らしいストーリーと世界設定で作られています。ラムザとディリータの友情と愛憎劇が物語の中心になっていますが、他のキャラクターたちも苦しい時代を懸命に生きています。

例えばオヴェリアは、立場や周りの人を考え自分が我慢していくことを選び悩み苦しんでいくなど、キャラクターごとにドラマと考えを持っています

現代に遊んでも、今だからこそ共感できる部分もたくさんあって、自分の思い通りにならないといったところもしっかり描かれています。初めての方も昔遊んでいただいた方も、本当に楽しめるゲームになっております。

また、28年前に途中でプレイを諦めた方々にも、ぜひ本作をプレイしてほしいです。当時は難しくて途中であきらめてしまった人もいらっしゃるかもしれませんが、本作はシステム的な部分を現代風に作り直してとても遊びやすくしています。また、忙しい人でもストレスなくプレイできる工夫をしていますので、多くの人に遊んでいただきたいなと思っています。

前廣氏:
28年前にオリジナル版が発売されて以来、長い間ファンの方がこのゲームを愛してくださっていて、本当に嬉しく思います。30年近く経っていることもあって、当然『ファイナルファンタジータクティクス』を知らない方や、名前だけは聞いたことあるけど遊んだことないという方も大勢いらっしゃると思います。

今回、特にそうした今の世代の新しいプレイヤーの方に向けてエンハンスド版を力を入れて作ってきました。いろんなプラットフォームでリリースされるので、ぜひ触って遊んでいただいて、『ファイナルファンタジータクティクス』というゲームの楽しさを味わっていただければなと思っています。

あと、以前電ファミさんにインタビューを受けた際に、それを見た国内外のオリジナル版のファンの皆さんのお声で、「源氏装備を盗みたい」というご要望を非常に多く頂戴しました。また、オリジナル版のディレクターである松野さんもそのように仰っていたので、エンハンスドにて盗むことができるように調整を行いました。発売日当日のパッチにて反映されますので、オンラインに繋いでいただいて、パッチを当てて遊んでいただければと思います。

ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

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