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Steamやitch.ioでの「成人ゲーム大量削除」の裏で何が起きているのか?「ゲームへの表現規制」に関する現状と問題点を有識者に聞いてみた。突然、一方的に対応を迫られた結果「疑わしいものは削除する」という対応を余儀なくされる──誰も責任を取ることのない「見えない」規制とは

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「フィクションの世界は別」表現規制に反対する立場としての意見

──栗下さんをはじめ、今回のような表現規制の動きに反発する声がある中で、具体的にどのような意見や主張がなされているのでしょうか?

栗下氏:
やっぱり「表現規制の是非」という本質的なところですね。

表現規制反対派の人たちは、Collective Shoutのような団体が主張する「性暴力をなくしたい」といった目的と、表現規制の有無は結びつかない、話が別だろうと思っています。

──あまりにも当然のことですが、女性が不当な性被害や性的搾取に遭うことは栗下さんも問題だと思っているわけですよね。

栗下氏:
はい、そこは明確に強調しておきたいですね。性暴力は撲滅されるべきです。表現規制反対派の人たちは、よくレッテル貼りをされますが、この点は一致しているかと思います。

ですが、手段が目的に適っているかどうかも、よく考えるべきなんです。フィクションに対する大規模かつ無差別な規制が、現実の性被害を防ぐのにどれほど効果があるのか。またそうした規制によって表現の自由が脅かされれば、クリエイターの創造性を阻害するだけではなく、何らかの権力に対する批評の余地を失うのではないか。……というのが私の懸念です。

もう一つ大きな問題としては、フィクションの表現に対する規制には際限がないんですよ。「あれがダメなら、これもダメ」と際限なく広がっていってしまう危険性が非常に高いんです。

性表現の他に、銃が登場するゲームによって銃犯罪が助長されるという批判がありましたが、その理屈でいえば警察や軍人が登場するゲームは作れなくなりますよね。

──表現規制に反対する動きと言えば、別の海外の大手ゲーム販売サイトであるGOGでは「Freedom to Buy Games」という、成人向け作品を無料配布するというキャンペーンも行われていました。

栗下氏:
「成人向けゲームを配布することで、表現規制反対を訴える」というキャンペーンですね。これには1日に100万件以上と、たくさんの支持が寄せられていました。告知のXポストにも応援のコメントが多く寄せられていましたね。

GOGも多分ユーザーから見えないところで規制圧力を受け続けてきて、今回の件を契機にユーザーに関心を持ってもらいたいという意図があったんだと思います。実際に彼らは強い口調で「規制と戦う」と明言していましたしね。

日本の立法や行政はどう動くべきなのか?

──栗下さん自身の考えについては概ねお聞きできたと思います。では、日本の行政や立法の立場からこの問題をどういう風にとらえる向きがあるのか、という点についてお伺いできますか?

栗下氏:
クレジットカード会社による表現やコンテンツへの介入という問題に関して言うと、私の知る限りでは総理のいる本会議で質問されたのは2024年の年末が最初です。

その時に総理は「そんなことが起こっているとは知らなかった。調べさせる」というような答弁をしています。つまり「政府としてすでに動いている」というような状態ではなかったですね。

大手新聞社がこの問題を取り上げたのもその頃ぐらいが初めてだったんですよ。最近はようやく一般的にも認知が広がりつつあると思います。

──そのような中で、今後国や行政はどのように動いていくべきとお考えですか?

栗下氏:
この問題は政治と民間企業の関係という話なので、確かに扱うのが難しくはある。その中で何ができるかというのが大事で、ひとつはやっぱり決済手段の多様化ですね。

国が「他のものを使いましょうと」言うべきかどうかは賛否あるでしょう。ただ、「決済ナショナリズム」──つまり、決済手段を自国で自給しようという観点は日本だけでなく世界各国にあります。

インドでもVisaなどの大手クレジットカード会社のシェアが高すぎて、彼らの一存で国に対して何かしらの損害や不利が生じかねない……という議論になったみたいですね。

──中国でも、そのようなインフラサービスに海外資本が入るのを嫌う考え方は強いですよね。

栗下氏:
このように国を上げて対策を考える動きは国際的にあります。やはり現代ではネットが世界中に普及しているので、クレジットカード会社の持つ力はものすごく強くなっていると思います。ですから、日本でも圧倒的なシェアをどうするかという議論は今後検討していくべきですね。

ネットで買い物をするときは、楽天にしろAmazonにしろ、あらゆる決済でクレジットカードを使うのが普通です。ですから、ここに対して絶大な権限を握られているのは、見た目以上に危機的なことなんです。食料自給率ならぬ「決済自給率」が低い、とでも言いましょうか。「決済の自由を海外の一企業に握られている」という状況ですよね。

やはりそこをなんとかする選択肢の問題がまずあります。くわえて、海外のVisaやMastercard等については独占禁止の文脈で何かしらの対処が必要だと思いますね。

たとえば電気や水道のようなインフラについては、それを守るための法律があるわけじゃないですか。かなりの大技ではあるので、長期的な話にはなるでしょうけれど、ネット上の決済手段も「インフラ」として日本国民のために守るべきです。

「この問題と心中する覚悟」栗下氏の決意

──栗下さんは様々な逆風もある中で表現規制の問題に取り組み続けていらっしゃいます。その動機は何だったのでしょうか?

栗下氏:
きっかけは、東京都議会時代のことですね。議会の仕事って、皆さんの生活に関わってはいるんですけれど、基礎自治体ほど生活に密着しておらず、国政ほど報道されないという構造上の問題もあり、関心を持ってもらえることは非常に限られているんですよね。ですから意見が送られて来ることもほとんどありませんでした。

ですが、2010年の「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案」【※】の問題の時には、都議として8年働いた中で最も多くのお便りを頂いたんですよ。「表現規制はやめてほしい」という方々の熱意が明確に伝わってきました。

そして、そうした方々との集会なども重ねて、石原都政下で唯一の条例案否決に繋がった。予定調和の都議会を崩した。その時、自分の政治家人生の中で初めて「民意を政治に繋げることができた」、という感覚を抱きました。「民意によって政治を動かす。これこそが政治だ」という風に思えたんです。それが原体験になっています。

※東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案
18歳未満の青少年の健全な育成を目指した条例。2010年の改正においては「不健全図書」の定義が物議をかもし、いったん否決。最終的には修正された改正案が可決された。

──政治家として、いかに民意を反映できているかが大事ということですね。

栗下氏:
そうですね。それは15年経った今も変わっていません。

表現規制という話題は表立って言いづらいという側面もあって、何もしないでいると多くの人の無意識や無関心に押しつぶされてしまうと思うんです。

でも、そんな中でちゃんと声を上げている人たちがいて、ネット上で繋がるということになっています。彼らの声を最も響きづらい政治という場においてどう響かせていくかが、我々の腕の見せどころなんだと思います。

──栗下さんが無所属になったことにも、そうした理由はあるのでしょうか?

栗下氏:
国内外問わず、これらの問題について表立って取り組む政治家は極めて少ないようです。

「性的な表現も守る」というのはレッテル貼りの対象になりやすいし、誤解もされやすい。ただ、創作の場にあって表現規制に苦しむ方々がいるということと、日本のゲーム、アニメ、マンガ、をはじめとするコンテンツカルチャーを守っていくという役割は絶対に必要です。

僕ももうここまで突っ込んでしまったんだから、このテーマと心中する心構えです。(笑)

──大変心強いです。

栗下氏:
政治家は政党に所属して、党に合う政策は何かを考えるところから始めるケースも多いかと思いますが、僕の場合は逆です。このテーマをやるために、どの政党がいいのかを考えます。

ですから自分の信条は非常にはっきりとしているし、このテーマからは離れる気持ちはありません。

それでいいんだとも思っています。ゼネラリストになるよりかは皆さんから明確に、ああ、他の政治家は言えないことを代わりに言ってくれるんだ、やってくれるんだという存在になりたいと思っています。

──力強いお言葉ですね。本日はありがとうございました。(了)


今回の取材で、クレジットカード会社による表現規制の現状と問題点がある程度整理できたと思う。

直接ではなくアクワイアラや決済代行業者を通して「一方的」な要求で対処を迫るという姿勢、そしてそのプロセスが秘密にされ「見えなく」なっていたこと、さらに起きた結果について「責任を取らない」という態度。

それは確かに、クレジットカード会社が国際的な大企業であり、国と法を越えた存在であることが招いた弊害であるのかもしれない。

栗下氏はそんな大企業に対して国や行政からの取り組みが必要であると語るが、それは多大な労力と時間を要するものになるだろう。栗下氏ひとりの力だけで成しえないことは想像に難くない。

だからこそ「多くの人々に知っていただくこと」が必要だと栗下氏は語った。多くの人々が問題を知らなければ、考える機会もなく、世の中がより良い方向へと進んでいくこともできないからだ。

「この問題と心中する」そう語った栗下氏は本インタビューの後も、表現規制に関する情報発信を行い続けている。それが彼の「今できること」であるからだ。

では、我々のできることとは何だろうか。それはきっと先にも述べた通り、とことん考え、議論することなのではないだろうか。ゲームをはじめとする創作物と表現規制という問題は、根深く入り組んでいて決してすぐに答えが出るものではない。

しかし、賛成にしろ反対にしろ、1人ひとりが何を思うのか、どうすればよいのかを考え、話し合い続けることが、このような問題において大事なことだと思う。

本記事が、その議論のきっかけとなってくれれば幸いだ

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ライター
作家。noteにてビデオゲーム批評プロジェクト「ゲームゼミ」主筆。雑誌「SWITCH」の連載や、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」準レギュラー、東京藝術大学講師など。
編集・ライター
『The Elder Scrolls』や『Dragon Age』などの海外RPGをやり込むことで英語力を身に付ける。個人的ゲーム史上ナンバーワンヒロインは『Mass Effect』のタリゾラ。 面白そうなものには何でも興味を抱くやっかいな性分のため、日々重量を増す欲しいものリストの圧力に苦しんでいる。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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