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優れたゲーム音楽はなぜ “中毒性” があるのか? 『ペルソナ』シリーズで知られる目黒将司氏が語る「ベイベベイベベイベ~」曲の魅力とは

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ユニバーサル ミュージック合同会社パートナーシップビジネス部門のVMGは、11月20日に東京・渋谷にあるTRUNK(HOTEL) CAT STREETで「VMG 1st Meet-up」と題したイベントを開催した。

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イベント冒頭挨拶に立ったVMGマネージングディレクターの井口昌弥氏は、同社は「日本発コンテンツ・パートナーにとってのNo.1ミュージック・パートナーとなる」というこをビジョンに掲げているが、その思いを形にしたいということからこのイベントを企画したと今回の趣旨を説明。

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VMG マネージングディレクターの井口昌弥氏

同じくVMGの板橋健人氏から、同社の活動の紹介が行われた。VMGは、音楽・アニメ・ゲームといった日本のコンテンツを世界に繋ぐことに力を入れている。ユニバーサル ミュージックグループとしても、世界60以上に拠点を持ち、現地でのマーケティングやリサーチといったグローバルな展開もサポートしているのだ。

今回のイベントでは、その音楽・アニメ・ゲームといった3つの柱にちなんで、「グローバルIP時代のパートナーシップ」、「海外アーティストから見た日本音コンテンツの可能性」、「ゲームにおける音楽の可能性」の3つのパネルディスカッションが行われている。こちらの記事では、その模様を一部抜粋しながらご紹介していく。

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VMG Partner Development & Relations Strategic Partner Groupの板橋健人氏

文/高島おしゃむ
編集/柳本マリエ


国内と海外で情報発信の差を無くすことで多くのファンを獲得!

最初に行われたパネルディスカッションは、「グローバルIP時代のパートナーシップ」だ。こちらに登壇したのは、ブシロードミュージック 取締役 営業部長の小川信弘氏とVMG ゼネラルマネージャーの山下浩一郎氏である。

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写真左から、VMG ゼネラルマネージャー 山下浩一郎氏とブシロードミュージック 取締役 営業部長の小川信弘氏

ブシロードミュージックでは、ガールズバンドと音楽を軸にしたプロジェクトの『BanG Dream!(バンドリ!)』を展開している。同プロジェクトは今年で10周年を迎え、国内のみならず海外展開にも力を入れている。

特に東アジアに関しては日本から近く、日本のコンテンツに対する理解度と浸透度が圧倒的に高いことをみすえ精力的に展開を行い、絶大な支持を獲得

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こうした海外展開を行うときのポイントは、海外のファン、文化にどれだけ寄り添うことが出来るかであると小川氏はいう。

今回は国内と海外のユーザーで情報発信の差を極力無くすことを目指した。結果的に、それが多くの支持を得る形となったのだ。

『塊魂』で聴いた曲がよりクリエイティブな音楽にハマるきっかけに

続いて、モデレーターにジェイ・コウガミ氏、現在フランスから来日中でDJやプロデューサーなどで活躍しているマルチタレント・アーティストのMyd氏、VMG インターナショナルグループの浅香京子氏が登壇し、「海外アーティストから見た日本音コンテンツの可能性」と題したセッションが行われた。

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写真左からVMG インターナショナルグループの浅香京子氏、Myd氏、通訳を間に挟んでモデレーターのジェイ・コウガミ氏

最初のテーマにあげられたのは、日本のポップカルチャーへの関心だ。

Myd氏の目から見ると、日本とフランスは音楽業界の中ではそれほど大きな国ではないかもしれないが、多くの共通点があるという。どちらも独自の文化を築いてきた国で、それが世界の様々なところに影響を与えているからだ。

Myd氏は10代の頃は尖っており、メインストリームには興味がなく、サブカルやアンダーグランドなものに惹かれていた。そこで、日本のカルチャーやアートに興味を持つようになったという。その頃に衝撃を受けたのが、ダフト・パンクと松本零士氏とのコラボであった。

このコラボは、ダフト・パンクの2枚目のアルバムである「ディスカバリー」がきっかけだった。今なら「へぇ~」ぐらいの感覚だが、当時若いプロデューサーであったMyd氏にとっては、「こんなことができるんだ!」と衝撃を受けたのである。

ニッチなものを組み合わせることで、これだけ大きな作品を作ることができる。発想が豊かでクリエイティブな形の協業というところで、大きな影響を与えたのだという。

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ゲームやアニメなど日本のポップカルチャーとの出会いは、Myd氏の創作活動にどのような影響を与えたのだろうか?

Myd氏がPS2を手に入れたときにハマったゲームが『塊魂』。特に記憶に残っているのが、このゲームを起動したときに流れてくる音楽であった。

聴いたことがないような音楽でいきなり始まるのだが、「ちょっと変わったビートボックスをこんな感じで作るんだ」というような事が、Myd氏の記憶に刻まれていったという。

ラジオから流れてくるのは親の世代の音楽であるため聴き流していた。だが、ゲームで聴いた曲はよりクリエイティブな音楽にハマるきっかけになった。人の心を打つ印象的な音楽を作るには、まっすぐなやり方ではなく別のやり方もあるのだと気付かされたという。

優れたゲーム音楽はなぜ “中毒性” があるのか?

この日、最後に行われたパネルディスカッションが「ゲームにおける音楽の可能性」だ。こちらはモデレーターに弊誌編集長の平信一と、作曲家でありMeguroWorks代表取締役の目黒将司氏が登壇した。目黒氏といえば、『ペルソナ』シリーズの音楽を手掛けていることでも、世界的に有名だ。

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左からMeguroWorks代表取締役の目黒将司氏、モデレーターを務めた弊誌編集長の平信一

Spotifyの「2025年上半期に海外で最も再生された国内アーティスト」ランキングでは、アトラスサウンドチームが2位にランキングされている。この2位の楽曲自体に自身は関わっていないそうだが、『ペルソナ』シリーズは楽曲の中にボーカルを取り入れるアプローチをしているため、そのあたりが受けている要素ではないかと目黒氏は分析する。

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アニメなどと比べてゲーム音楽の一番の特徴は、バトルの曲や、中心となる曲がゲームプレイ中に「何千回もループして聴くことになる」ところだ。何度も聴いていると中毒になるのである。

目黒氏は『ペルソナ3』で大きなヒットを生み出した。いわゆる、ゲーム音楽にボーカルを自然に取り入れた “走り” ともいえる存在だ。

当然のことながら、当時のゲーム音楽で歌を入れることはあまりなかった。だが、目黒氏はゲームの作曲家たちはわりと考えていたのではないかと推測する。とはいえ、ゲーム会社と音楽業界は繋がりがあまりなく、そもそもどうやってボーカルをブッキング・契約し、レコーディングまでできるのかまるでわかっていなかった。

社内にノウハウもないため、こうした壁を突破することができなかったのである。目黒氏自身、行動力はあまりないほうだといいつつも、それまでやったことのないスタジオに行ってディレクションをするなど、当時はかなり頑張ったという。

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ボーカル曲自体は、ハードウェア的にはPlayStationなどCDがゲームディアの主体になってきた頃から十分に可能であった。そうしたテクノロジーよりも、作曲家の行動力やノウハウがなかったとところが大きな要因だったそうだ。

それに加えて、ボーカルを入れること自体に対してディレクターやサウンド以外のスタッフが止めるケースがほとんどだったという。しかし、目黒氏の場合は幸いなことに止める人はあまりいなったそうだ。新しいことを生み出すには、ディレクターや他のスタッフが寛容であることが重要なのだ。

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ここで会場内に『ペルソナ3』の映像が流される。これまでの『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』などのRPGとは異なり、戦闘でいきなり「ベイベベイベベイベ~」と始まるところから度肝を抜かされるが、そこからさらにラップが始まるという斬新な楽曲だ。こうしたアイデアを実現することができる環境が、今から20年ほど前の2006年にあったのだ。

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ゲーム楽曲で日本のみならず世界で受け入れられるものを作るときに、目黒氏はどんなところに注目しているのだろうか?

じつは目黒氏自身、「海外に向けて」ということはあまり考えていなかったという。といっても『ペルソナ』シリーズでは、3~5までのタイトルのほとんどは英語の歌詞が採用されている。

これは海外展開を見据えてというよりも、どちらかというとゲーム中に流すときに日本語だと耳を持って行かれてしまうことから、「英語なら大丈夫だろう」と選ばれている。つまり、日本人向けの配慮で選ばれたものだったのだ。

ちなみに、目黒氏がアトラスに在籍していたころ、海外から来た同僚に「『ペルソナ』って当時どうだったの?」と聞いたことがあった。『ペルソナ4』を歌っていたアーティストはネイティブな英語ではなかったため、その同僚は「まさか英語を歌っていたとは思わなかった」と答えたというエピソードを披露。

20年ほど前は英語の発音チェックなどもなく、まだまだ牧歌的な時代でもあったそうだ。

つまり日本人も理解できない言語だったが、英語を話す海外の人も理解できない言語に聞こえていたことから、だれの耳の邪魔にならなかったのである。

その後、『ペルソナ5』からはネイティブな英語に近い発音ができるアーティストに歌ってもらったのだが、海外からネガティブな反応はなかったという。

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『ペルソナ3』では、ゲーム発売後しばらくしてからサウンドトラックが発売されることになった。

多少手応えはあったものの、当時のサウンドトラック担当者からは「強気に2万本刷りましょうか?」と言われたとのこと。目黒氏は「5万枚はいけるでしょう」と答えたものの、結局2万枚で進行したという。しかし、いざ発売されるとまったく品数が足らず、目黒氏の予測が当たっていたということがあったのだ。

この「5万枚いける」と思った根拠は、ちょうど『ペルソナ3』が発売される少し前に、コマーシャルで「♪た~らこ、た~らこ」というキグルミが歌う「たらこ・たらこ・たらこ」がCD化され、めちゃくちゃ売れていたからであったという。

当時この曲を聴いた目黒氏はこういった中毒性のある “洗脳ソング” はつい買ってしまうと思ったそうだ。『ペルソナ3』の楽曲はそれに近い状態だと分析する。

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このように、ほかとは少し異なるアプローチが得意な目黒氏だが、こうしたアイデアはどこから生まれてくるものなのだろうか?

これに対して、目黒氏は「作曲家として並の能力しかないためアイデアで勝負するしかないと思っている」と謙遜する。

ゲーム会社に勤めている人は、「アイデアを実現したい」と思っていることが多い。目黒氏もゲームを作りたいというアイデアを出したほか、いくつか特許も取得している。

ゲーム会社では会社員として作曲するため、楽曲への向き合い方も特殊だという。そのため、ゲーム音楽を音楽業界の人に作ってもらうことが難しいそうだ。ゲーム作りに最初から参加していてゲームへの理解が高いアーティストであったり、あるいはもともとゲームへの愛が強かったり、ゲームを購入するユーザーに伝わっているかどうかが重要であると語る。

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また、ゲーム会社に勤める作曲家は、自分が作った楽曲が作曲家自身の権利にならず、アーティストとして扱いにくいという側面もある。目黒氏は会社に勤めていたとき、職務著作として自身に権利がないことはまったく問題ないと思っていたそうだ。

ただ、音楽業界の人がゲームを作っている作曲家に興味を持ち、コラボやアレンジなどの依頼があったときは、一緒に仕事をしてみたいと考えていた。

しかしそうしたケースはあることはあるが、ゲーム会社の中のビジネスの問題や権利の問題とうまく噛み合わないことがある。また、音楽ビジネスの権利の仕組みをわかっていない人がゲーム業界には多い。それを理解するだけでも、落としどころはあるという。

目黒氏のように分野を横断して活躍する際、どのようなところがネックになっているのだろうか?

まず音楽業界からゲーム会社にオファーするときに、窓口がないと目黒氏は語る。内作でプロデューサーやディレクターがゲームを作っていくことが常になっているため、音楽業界の人がどこに話を持っていけばいいのかわからないのだ。

ホームページのインフォに連絡しても、分からないところに行ってしまい、話がなくなっているということも多いのである。そのため、業界を橋渡しするものがあったり、権利の分配などのスキームなどが決まっていたりするといいと考えているそうだ。

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音楽とゲーム業界を繋ぐサービス「Game Music & Artists」も登場!

イベントの締めくくりとして、VMG ゼネラルマネージャーの山下浩一郎氏がふたたび登壇。11月17日に「Game Music & Artists」プロジェクトのプレスリリースを出したことを紹介した。先ほどの目黒氏の話ではないが、垣根を越えて繋いでいきたいという思いがこのサービスに込められているという。

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このサービス自体はノイジークロークと協力してやっているものだ。ここで、ノイジークローク代表取締役社長の坂本英城氏が登壇。自身は30年ほどゲーム業界で音楽を作っているが、隣のアニメ業界ではアーティストとの有益なコラボが行われており成功している。そうした事例があるのにも関わらず、なぜこれがゲーム業界でできないのかと考えていた。

その原因が、目黒氏も言っていた音楽の著作権の扱い方が異なるためだ。また、ゲームが動いた状態から音を当てるという順番になっている事に加えて、その時点では予算を使い切っているなどの課題もある。こうした状況を解消するために、「Game Music & Artists」というサービスを開始すると語り、今回のイベントを締めくくった。

業界同士を繋ぐ役割を果たすサービスも登場してきたことで、今後ゲーム音楽にもアニメのような様々なタイアップが入ってくるかもしれない。いずれにせよ、今後の動向にも注目していたいところだ。

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ノイジークローク代表取締役社長の坂本英城氏
ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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